※この作品はR-18です。

体格貞操逆転世界のパラレル平成を生きてみた。   作:貞操院逆転子

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歴史の歪み。携帯電話。

 

***

 

 

俺は、これまで自分が狂っているのかと思っていた。

 

でも、実はもう、全然そんなことはないことなんてわかっていて。

多分、狂っていた方がマシだった気がする。

 

 

日々、少しずつ、この世界のことを知っていく、勉強している。

 

以前調べた通り、大きな歴史の流れは全く違わない。

日本史だけではない、世界史ですらそうだ、産業革命が起きた時代やアメリカ合衆国の成立など、俺の知識にある諸々の現実の歴史と、この世界の大筋の歴史は一致している。

 

大筋は。

 

 

だが、やはり男女の役割が逆転しているというのは、元の世界とは決定的かつ致命的な違いである。

 

日本で天下統一・天下布武を目指したあの有名武将の活躍は、見覚えのない名前の女性武将のものとして置き換わっているし。

初めて飛行機を開発した兄弟も、やはり全然知らない名前の姉妹の活躍ということになっているし。

世界一危険な優生選民思想で最悪の戦争を主導した伝説的チョビヒゲ独裁者も、名前が違う女性が代わりにその位置についている。

 

この世界で、元の世界の彼らが存在していたのかもわからない。

もしくは、その女性達こそが、元の世界の彼らなのかもしれない。よくわからなくなってきた。

 

ともかく、歴史の大筋だけが、同じなのだ。

そしてその登場人物のことごとくが、まったく違っている。

 

…それは、まあ良い。

困惑するが、しかし歴史の大筋が違わないなら、その程度の差異は些細なものだと受け止めて良いだろう。

 

問題は、男女の役割が逆転してしまった原因と、その後の不自然な歴史の歪みの部分である。

 

 

原因はハッキリとはわからない。

ただ、少なくとも日本では平安時代頃から、謎の奇病か呪いなどという扱いで、急激に男性の病死が相次いだという。

 

世界的にも…全てを調べ尽くしたというわけではないので、調べられた限りの範囲ということにはなるが、ほぼ同時期・ほど近い年代で、同じ現象が発生しているようである。

 

これによって、人類絶滅にまでは至らなかったようだが、体格が立派だったり健康で丈夫な男性であるほど、まるで昆虫のカゲロウのようにほんの短い期間に…長くても数年ほど耐えた程度で、パタパタと大量に死んでいったのだという。…実に、不気味な話だ。

結果、男女の人口比は極端な女性過多に傾き、これ以降に男性の歴史的活躍というものは激減する。

 

その後の日本では、大量死してしまった男性達になり変わるようにして女性達が社会の中心に躍り出て、社会構造が急激に変質していった。

それと並行する形で、生き残ったか弱い男を守り、次代へと繋ぐための資源として扱われるようになっていった。らしい。

 

それから平安時代末期・鎌倉時代の幕開け頃までは、人口低迷と男女比のバランスが完全に崩壊していた時代となり、極めて苦しい時代となった様子だったが、なぜかそれでも歴史の大きな流れは狂っていない様子であり、ちゃんと鎌倉時代が到来している。はあ…?

 

俺は真っ先に「男性の大量死だけの問題ではなく、例えば女性が社会の中心になっていったというなら、戦争とかで女性が兵士として戦いバタバタ死んでいった時代とかもあるだろうし、そのあとどうやって人口回復できたんだ…?」と疑問に思った。

 

だが、そういう人類学とでもいうべき学問に明るくないので、疑問には思うが具体的な理屈は思い浮かばない。ただなんとなく疑問に感じて、モヤっとするだけである。むぅん。

 

 

さて、そのまま大筋は俺の知る通りに時代は流れていき、戦国時代あたりでひとまず・すっかり男女比率や必要人口の維持には問題がなくなっていたようだ。

 

しかし、一度逆転してしまった社会構造はもう元には戻らず、相変わらず女性が社会の中心になっていて、男性は完全にお姫様扱い…この世界では平安の頃に男が超希少になったので、男性に女性の服装で十重二十重と厚着させて性別をわからないようにして、世間の目から隠しながら育てられたのだという。

 

その名残で、戦国の世でも男性の方が姫扱いだし、女性の方がお殿様や旦那(僧から見た施主、檀家)の扱いである。

ただ、それに対して男性を妻とは呼ばず、そこは夫という扱いになるらしい。ややこしいな。

 

 

ともかくだ。

同じなのは大筋だけで、細部や経緯は元の世界と全く違う。

 

むしろ、こんなあべこべ状態なのに、よくもまあ大筋だけは同じ歴史を辿ったなんて都合のいいことが起きたもんだと思うし、改めて自分の精神が狂っている可能性を考え直さなきゃいけないんじゃないかと訝しんでしまうくらいだ。

 

 

***

 

 

今回、大雑把に調べてわかったのはこんなところだ。

 

調べた限りで思ったことは、相変わらず、ここが本当に現実なのかどうかは疑わしいものである。

しかし、これが現実だったと考えた場合について、今回調べられた内容のおかげで、うっすらと疑問に思っていたことはなんとなく解消された。

 

疑問というのは、当然ながら「男女の役割が逆転している」ということそのものだ。

疑問に思ったところで何が進展するというわけでもないが、俺がこの世界を生きるにあたって、この点の理解に乏しいのは、どうにも認識の齟齬を深める要因になるのではないかと思い、ここのところ真面目に勉強している次第である。

 

 

そもそも、何でそんなことを疑問に思ったのかと言えば、かの爆乳弁護士こと最上真咲さんの、俺に対するコミュニケーションの取り方に違和感を抱いたからである。

 

社会が女性主体であることは、なんとなくわかった。

それはいい。そういうものなんだなとぼんやり理解した。

 

だが、俺の勘違いでないというなら、なんだか異様なほど俺に対して…こう、チヤホヤとしてくれている気がして、なんだか変だなと気づいたのだ。

 

 

これが、俺がイメージしていた通りに女性が社会の主体になっていただけだとして…だからといって、それで俺をチヤホヤとする理由というものは見つからない、理解できなかった。

 

調べてみてわかったが、別に男性が珍しいわけではない。

いや、見た目がみんな女の子みたいに見えるせいで、逆に俺みたいなむさ苦しいデカ男は珍しいのかもしれないが、じゃあそれが俺をチヤホヤする理由なのか?というと、それも違和感がある。

 

仮に、真咲さんからみて俺がイケメンのように見えるのだとしたら、彼女たちや他の男性たちは逆に凄まじいブサイクになるのか?

いいや、そんなことはない。先日に家電量販店で見た広告に載っているタレントの顔立ちは、俺もカッコイイと感じる顔立ちの人が写っていた。

 

つまり、別に俺と周囲の人たちで美醜の価値観に違いはない気がするのだ。いや、あくまで俺の主観でしかないが。

で、そうだとするなら、真咲さんが俺をチヤホヤする理由は何か?…全然わからない。

 

その答えが、この世界の歴史を紐解くことで何かわかるんじゃないかと期待したが、そんな俺の疑問について、今のところは「結局、よくわからない」ということがわかっただけだ。

 

 

まあ、それも一つの前進と言える。

 

極論、わからないことはわからないままでも、案外問題ないことは多い。

一つだけ、多分それがチヤホヤされる原因の一つだろうなと思ったのは、この世界の昔の日本では、男の方がお姫様扱いだったという点だろう。

 

意識しないと忘れがちだが、真咲さんはあの若々しい見た目で実は35歳…いわゆる、団塊の世代ジュニアと呼ばれる層であり、古い日本のしきたりとかがまだ教育に根付いていた世代の可能性がある。

その名残で、こんなむさ苦しい顔立ちの俺に対しても、お姫様扱い?してるってことなのかもな。

 

 

***

 

 

9月初週。

夏の暑さがまだ残る頃…。と言っても、30度も超えない程度の気温なので、意外とエアコン要らずで過ごせてしまう。

 

日々の生活の合間に、ちょこちょこと趣味と実益?を兼ねた歴史の勉強を挟みつつ、毎週の真咲さんとの面談や、精液提供や基礎学習や内職など…戸籍が無いなりに忙しい日々を送っていた、そんなある日。

 

 

いつもの如く。

そう言えてしまうほど、もういつの間にかに、またしても勝手に、真咲さんが俺の外出許可を得ていたことを教えてくれた。

 

相変わらず、ちょっと強引すぎて怖いと思う部分もある。

だが、真咲さんのこれまでの行動を鑑みても、真咲さんの行動は基本的に善意かつ必要なことばかりなので、俺としては嫌悪よりありがたみの方が比重が大きい。

 

さて、今回はどんな要件なのかと思えば、「今のうちに、携帯電話を持っておこう」という話になった。

 

俺が保護された時、カメラなどの電子機器は持っていたが、携帯電話の類がなく、身元確認できる連絡先の一切が不明という状態だった。

そうだ、俺が持っているスマホは、携帯電話として扱われず、なんか珍しい高性能カメラという扱いになっていた。

 

そもそもこのスマホは、2026年の異物である。2000年だというこの時代の基地局に、このスマホで電話が繋がるはずがないので、そういう意味でも携帯電話を持っていないということで間違いない。

 

 

では、なぜ急に携帯電話を持っておこうなどという話になったのかというと、それこそ俺が行きたいとねだった「馬券を買いに行くため」である。

 

今のところ、実際に目的のレースが開催される競馬場に行くのか、それとも馬券を買うことができるという販売所?だかに行くのかは未定だが、どちらにせよこれまでのお出かけとは比べ物にならない遠出になる。

 

なんせ、その販売所だとかいう場所に行くだけでも、車で片道2〜3時間、電車でも2時間弱かかる。らしい。

競馬場だとさらに遠い。もはや前日からの宿泊プランを組まねば、当日に馬券を買うことすら無理だろう。

そして実は、そういう競馬目的の旅行者は結構いるらしいので、早めにプランを決めて宿泊先の予約をとっておかないと、宿泊旅行は厳しいのだそうな。

 

…そんな、この保護施設から遠く離れた地で迷子になったら、そして連絡を取り合う手段を持っていなかったら、「迷子になりました~」では済まない。

運良くどこかで一泊できればいいが、それは難しいという話を聞いたばかり、つまり望み薄である。

 

そうなると、身元不明者の俺が路頭に迷ったら、あとは選べる選択肢など野宿くらいのものである。

つい10日ほど前に、うっかり耳にしてしまったテレビからの情報で「ホームレスを狙った悪質な強盗殺人事件」のニュースを聞いたばかりである。ちなみに、その犯人は見つかっていないらしい。

そんな話を聞いた後で、野宿なんてしたく無い。死ぬなら痛みのない方法で死にたい。

 

いや、もう一度警察に保護されるのが一番かもしれないが、そこまでご厄介になっていいものなのか迷う。

警察からキツく注意されて、今後の自由を失うかもしれないという不安もある。つまり、下手なことはしたく無い。

 

そんな風に悩むなら、そもそも遠出するなという話にもなってくるのだが、それはそれ、これはこれである。

馬券を買うことにはチャレンジしたい。今後の人生設計のためである。

 

で、そんな不安を真咲さんに伝えた結果、その答えがこれ。

こうして、携帯電話を買いに行くという話になったわけだ。

 

 

真咲さんに優しく手を引かれながら、携帯ショップに足を運ぶ。

 

気恥ずかしい気持ちがあるが、この携帯ショップも保護施設から地味に遠く、真咲さんなりに俺と逸れないようにしてくれている配慮というものなのだろう。

親子ほどの歳の差があるようだし、ガタイは俺のほうが大きいが、それでも息子のようなものとでも思ってくれているのかもしれない…。

 

親子。その関係について、俺の思考はうっすらと曇り、眩む。

 

家族が嫌いなわけではない。

ただ、嫌いなわけではないというだけの人たちになってしまった。そんな人たちのことを思い出し、すぐに忘れようと努めた。

 

もう会うこともない。そう思うと、案外悲しいと思うこともなかったが、せいせいするという気持ちもなかった。

ただ、何に対してかはっきりとわからないが、何かに対し申し訳ないという悔悟が渦巻き、胃をキュッと締め付けてきただけだ。

 

 

「一郎くん、大丈夫?やっぱり、車酔いかしら」

 

「ああ、いいえ…ちょっとぼんやりしちゃっただけです、すみません」

 

 

真咲さんの声に引き揚げられるようにして、意識が現実に戻ってくる。

 

帰ったら、最近飲むのをケチっていた、抗鬱剤を飲まなきゃな。と、そんなことを考えながらショップに入った。

 

 

***

 

 

店内はなかなか賑やかだった。

 

この携帯ショップはどこかのメーカーの専門店というわけではなく、複数のメーカーの機器を見比べられる形の複合型店舗のようなものらしい。

各社ごとの制服を着た販売員たちが、自社のメーカーの機種を選んで貰おうと元気良く声を張り上げて、聞いてもいないのに機種の説明を耳に届けてくれている。

 

 

2000年は、「docomo」が権勢を制している様子だったが、「au」という携帯会社が登場・新規参入していきなり鎬を削りあっている様子だ。

まあ、真咲さんが言うにはそのauの人気は今のところ低いらしく、折りたたみ式のデザインや高音質音楽の導入、そして(この時代では比較的に)高速なインターネットを楽しめるといった斬新な機能を持つ超高性能機種と呼べるものを用意しているようだが、売れ行きは伸びていないそうな。

 

ところで、「SoftBank」が見当たらなかったが、代わりに「J-PHONE」というメーカー?の機種が存在し、そちらは「世界初、カメラ付きケータイ(*PHS)登場」と大々的にアピールしている。

真咲さん的にはこちらがオススメというか、どうせなら自身もこれに買い換えるつもりであると言っている。はぇ〜。

 

なるほど、そもそもカメラ付き携帯電話というものが初めて登場したのがこの年だったのか。

俺のスマホを、本当にただの高性能カメラと言って誤魔化せてしまったのは、そもそも携帯電話とカメラが合体しているという発想がなかったからなのかもしれない。

 

 

で、これがその世界初のカメラ付きケータイらしい。

当然、値段は目を見張るほど高く、値札を一目見て目玉が飛び出るのではないかというほどにギョッと驚いてしまった。

 

俺は、「カメラ付きでなくていいから、とりあえず電話だけできるものが欲しい」と、一応訴えてみる。

対して真咲さんは、「もしも迷子になった時や、危ない人にストーカーみたいなことをされた時、写真を撮って送ってくれたほうが状況がわかって安心できる」という弁で、どうしても俺にカメラ付きケータイを持って欲しいという意思を示した。

 

流石に、甘え過ぎは良くないと、俺も俺なりの理屈で抗議はした。

したが、ここは真咲さんが頑なに譲らなかった。

 

真咲さんいわく、「一郎くんは、ちょっと浮世離れしているというか、意外と常識がないから、これを持ち歩いてくれないなら流石に出歩かせるのは無理です」という。

 

加えて、そもそも、俺のこの世界での出自が、凄まじく不審である点も指摘された。

手入れがほとんどされてないような林道擬きに、一人彷徨っていた…ということになっているのが、俺が保護された理由だ。

そりゃあ、一人になった時に何をしでかすかわからない怖さを抱かれても、仕方がないと思う。

 

それを言われてしまうと、俺ももう反論の余地がない…というより、下手なことを言って何か変なボロとかが出てしまうのも嫌だったので、渋々受け入れることにした。

 

いいや、これもあくまで真咲さんの好意なのだから、素直に受け取っておけばいいだけだという話なのだが…最近、抗鬱剤を飲むのをケチっていたせいか、今日は妙に思考が後ろ暗い気がする。

意識して、前向きに取り繕わねば。そう思い、それから先は、比較的、言われるがままにしたがって契約を進めていった。

 

携帯電話本体の支払いや、通信料の支払いも、全部真咲さんが支払ってくれるらしい。

苦しい。だが、今の俺には金がないのは事実だし、馬券を買いたいというのも諦めきれない。

…お金が貯まったら、なるべく早く自分で支払えるように切り替えたい、今はそれだけ決心して、全てを受け入れた。

 

 

携帯電話の購入と契約が無事に完了し、俺の分は大体1週間後に電話番号が使用可能になる(それまでは通話に使用できないらしい)という話になった。

ついでに同じ機種の色違いに買い替えた…というより、プライベート用で買い足したという形なのか?ともかく真咲さんの分も電話としてはまだ使えないらしいが、どちらもカメラは問題なく使えるそうだ。

 

そこで真咲さんが、「動作確認してみましょう」と言って、俺とのツーショット写真を撮ってもらえるように店員さんに頼んでいた。

妙に離れた位置から撮影されたその写真は、確かに俺と真咲さんが写っているというのはわかるが、どうにも画質が足りず結構ボケボケして見えてしまう。

 

それを見た真咲さんも、なんとなく微妙そうな表情を浮かべながら「ま、まあ…こんなものよねぇ…」と苦々しい様子で言葉を溢している。

 

 

…いやあ、まあ、この画質でそんなに離れて撮ったら、そりゃあこうなるだろうなとしか思えない。

そこで、俺はふとした思い付きで…自分の携帯電話のカメラ機能の動作確認も兼ねて、真咲さんとのツーショットを、今度は自撮りの形式で撮ってみることにした。

 

カメラが携帯の背面に付いているせいでクッソ撮りづらいし、カメラの撮影可能範囲もそもそもかなり狭く、自撮りしようとするとかなり顔を近づける必要があり、しかも手振れ補正が無いらしく、3回も撮影に失敗した。

だが、どうにか良い感じの写真が1枚だけ撮れた。これなら、真咲さんも納得できる質感なんじゃなかろうか?

 

その後、俺は近くで見ていた店員さんに…言っても意味ないとは思いつつ、「今度出す機種は、自分たちのことを撮りやすいやつだと嬉しいです」と言って、真咲さんには、「ほら、これなら結構しっかり写ってるし、良くないですか?」と言って見せてみる。

 

 

「ほほ、おほほほほ!」

 

「…あの、真咲さん?」

 

 

その後しばらく、真咲さんは壊れたオモチャのように変な笑い声を出し続けた。怖い。

 

何を言っても反応がなく、そろそろ移動しようと言っても動かない・動いてくれない。

俺が困り果てていると、先ほどの店員さんが「あの、ちょっと良いですか?」と声をかけてくる。

 

何かと思えば、先ほどの撮影の仕方について思うことがあるらしく、忌憚のない意見を聞かせて欲しいということだった。

俺は一瞬、何をどう話すべきか迷ったが、まあ思ったことをそのまま言うだけにして…おそらくこの時代にはまだないと思われる自撮り文化については、言葉を濁すことにした。

 

誰でもカメラを持ち歩けるなら、自分に向けての撮影もできた方が、自分の様子を伝えられるメール機能とも親和性があるんじゃないか。とか。

カメラを自分に向ける時、どう写ってるか確認したいから携帯に画面にそれを映しつつ、ならレンズも画面がある側に付いていると良さそうだよね。とか。

高画質にこだわりすぎるとファイルサイズが大きくなりすぎてメールの送信に苦労するだろうから、低画質モードと高画質モードに切り替えられるか、もしくは高画質画像を低画質に切り替えてくれるプログラムがあると良いよね。とか。

この機種にはないみたいだけど、絶対に容量不足になるだろうから、邪魔にならない程度の小型のメモリーカードみたいな外部記憶媒体を装着できたほうがいいよね。とか。

撮影の時にブレることがあるから、難しいかもしれないけど手ぶれ補正とか欲しい。とか。

 

…とにかく、気付いたこと、思ったことを、ポロポロと順序の整理もなく伝えてみた。

 

 

店員さんは、フンフンと鼻息荒めにみっちりとメモを取っていた。

というか、いつのまにか他のメーカーの店員さん?たちも俺の話を聞きに参加していたようで、メモを取る人数が5人に増えていた。

 

いつのまにか人数が増えていたことも含めて、なんだか店員さん達の雰囲気がおかしいことに気づき、思わず口が止まってしまう。

その瞬間、5人の店員さん達に「他には?!」「うちのも使ってみてくれませんか!」「広告モデルになってくれたら無料でご契約いたします!」などと、今度は俺を置いてけぼりにするように5人の店員さん達が口々に言葉を投げかけ、その内容があらぬ方向にヒートアップしていった。

 

俺は、目の前で繰り広げられる急展開にプチパニックを起こし、「あの、いや、その…」としどろもどろになることしかできなかった。

困り果てた俺は、「へ、へへへ…すいやせぇん…へへ…」と気味の悪いであろう半笑いを浮かべながら、全ての返事を曖昧にして真咲さんの方に逃げるように身を寄せた。

 

そんな様子もお構いなしに、店員さん達は俺と真咲さんを囲むように集い、質問やら提案やらを投げつけてくる。

俺は、どうしてかまったく反応してくれない真咲さんに心の中で必死に助けを求めつつ、答えられそうな質問にだけ答えて、あとはほとぼりが冷めるまでひたすら曖昧に誤魔化す返事をしまくった。

 

 

***

 

 

「ご、ごめんなさいね、一郎くぅん…」

 

「い、いや…俺の方こそ、なんだかすみません…」

 

 

店員さん達の包囲網から解放されたあと、やっと意識が戻ってきたらしい真咲さんに事の顛末を説明し、さっさとこの店を出たいと強く願い出て、今は真咲さんの運転する車の中である。

 

真咲さんがどんなつもりで俺を放置したのか…いや、言い方が悪いな。

真咲さんのこれまでの行動やらを思えば、そもそも放置するつもりはなかっただろうけど、ちょっと考え事か何かで意識が現実から飛んでいってしまい、結果として俺を放置する形になったのか。

真実はわからない。だが、悪意はなかったはずだ。

 

わからないが、結果として俺はあの携帯ショップに2度と行きたくないと思うほど苦手意識を抱いてしまったし、若干パニックになっていた俺の様子を見た真咲さんが、俺に対して強く罪悪感を抱いているらしい。というのが、今の状況である。

 

つまり、気まずい。

気まずい空気が、二人の間を漂っている。

 

 

真咲さんが運転中、赤信号で車が止まったタイミングで、ふと謝罪の言葉を述べてきた。

 

なんのことかという主語はないが、主語をつける必要もないだろう、この空気で謝られる理由など一つしかない。

しかし、そのことに関しては、そのような状況を生んだのは俺自身が原因である可能性が極めて高かったので、謝るならこちらの方だという意識が働いてしまい、俺も謝罪の言葉を述べた。

 

二人で謝りあった。

だが、だというのに、空気は気まずいままだ。

 

 

空気を変えたい。

その一心で、何か明るくなれるかもしれない話題を探す。

 

ふと、ツーショット写真のことを思い出す。

こんな事のために撮ったわけではないし、こんな事がなくても送るつもりだったが、ここは空気を変えるために利用させてもらうことにした。

 

 

「あの、今日撮った写真…今度送りますので…お礼、とかではないんですけど…その、要ります?」

 

 

送ります。と言いながら、要ります?と聞き直すのは、我ながら意味不明だなと思う。

大学に入学してから、いっさい友達を作らずにサボり続けた代償が、こんな所でのしかかってくる。つまり、今の俺はすっかりなかなかのコミュ障だった。

 

そんな下手くそな話題しかパスできない自分のコミュ力を恨みつつ、そのまま真咲さんの反応を待ってみる。

 

 

「…う、うん。いる、いります、欲しいです!…ありがとうね、一郎くん…!」

 

「そ、そうですか。…あの、今日はありがとうございます。携帯電話…大事にしますので」

 

「う、うん…せっかくのお出かけだったのに、怖い思いさせちゃって、ごめんなさいね…」

 

「いや、それは…わ、忘れましょう!真咲さんがその調子だと、俺もなんか、調子が狂うというか…とにかく、ありがとうございます!」

 

 

またしても真咲さんが謝罪の言葉を述べてきて、俺もつられて謝りそうになる。

だが、ここで俺も謝り返しては、また空気が重いままになる気がして、無理矢理に雰囲気を明るくしようと、感謝の言葉に繋げ直した。

 

それが功を奏したのか…はわからないが、どうにか、真咲さんも意識を切り替えてくれた様子である。

 

 

「そういうわけには……いいえ、うん、わかったわ。ともかく、これで旅行計画の話が進められるわね!うん!」

 

「そうそう!…いや、旅行計画っていうか、馬券を買いに行くんですけどもね」

 

「あはは、一郎くんたら、相変わらずそればっかりねぇ」

 

 

二人とも、少しギクシャクしながらだが、どうにか空気の入れ替えができた…気がする。

 

…それを言葉にするのは卑屈すぎるだろうと思ってわざわざ口には出さないが、そもそもお世話になりっぱなしの身なのだ。

俺が真咲さんに感謝することはあれど、謝られるようなことはほとんどない。そのはずである。というか、謝られると、居心地が悪い。

 

 

早く、俺自身が安心して使える、まとまった資金と収入源が欲しい。

俺は、居心地の悪さに軋む心をどうにか鎮めながら、帰ったら内職にこれまでよりもう少し精を出そうと決心した。

 

そんなことするより、もっと精液を出したほうが稼げるというのはその通りだが、それは俺の羞恥心的に無理である。

 

 

***

 





*爆乳弁護士・最上真咲
(オホホ!今日も一郎くんと、おデェートよぉ~!♫)
(うふふ…今日はついに、お揃いのケータイまで買い揃えちゃって、周りからはどうみてもアベック…いいえ、内縁の夫と言っても過言ではない…!)
(一郎くんも、もうすっかり名前を呼んでも嫌がらない…っていうか名前で呼び合うくらい仲良くなっちゃって!これはもう、実質恋人よね!オホホホホ!)
(…そ、そして…むふ♡こ、恋人同士なのだから、二人で写真を撮るのも自然なことよね…むふふ♡)
(……なんか、思っていたより、パッとしない写真というか…ま、まあ、ケータイのカメラなんだし、こんなものかしらね…くっ、今度ちゃんとしたカメラで撮り直すための口実を考え直さなきゃ…)
(…んぇ?あ、え、ちょ、…ち、ちか…おふぅ♡ふ、触れ…ムチって♡あっ、あっ、に、匂いが♡ひっ、ひぃっ♡)
(あっ!?!?♡て、手が!!!!♡私の手が、一郎くんのデカケツに!?!?♡アッッッ♡)
※その後、二人でホテルに雪崩れ込む妄想の世界に浸ってしまう。15分休み。

*爆乳J-PHONE店員/新規モデル販売のためたまたま現場応援に来ていた本社社員
(この異常ドスケベボディほぼ公然猥褻男…素人っぽい雰囲気出してたくせに、ケータイの扱い方や発想がどう見ても素人じゃないわよね?)
(…最近はネットワーク事業を推し進めてるdocomoが大きく伸び始めてて、auとかいう新規参入のメーカーも今は弱小とはいえ無視できない…ここでもう一歩引き離す事ができそうなチャンスを、みすみす逃す手は無いわ)
(ククク…幸い、この男の個人情報は、携帯電話の契約のためにうちが握っている(*)はず…この男から使えそうなアイデアを引っ張り出して、本当に有用そうなら直接ヘッドハンティングしに行きましょう…クーックックック!)
 *大木一郎はまだ戸籍がないため、名義などの諸々の契約者が最上真咲であることを知らない

*爆乳au店員、爆乳docomo店員/競合他社の新規モデル販売に自社の新規モデル販売も被せていたのでこちらも各社の本社社員
(あのカメラの使い方、斬新だけど間違いなく需要があるわ…!)
(カメラ内蔵ってだけで注目を掻っ攫われたばかりだっていうのに、これ以上先を行かれたら…たまったもんじゃないわ…!)
(ケケケケケ…抜け駆けは許さないわよ、J-PHONEめ…!ここから先、間違いなく訪れるであろう携帯電話戦国時代、勝つのは弊社よ…!!)
(…っていうかなんかこの男、スッッッッゴ♡いわね…この人を広告モデルに使うだけでも、相当インパクトがあるんじゃないかしら…ダメ元でお願いしてみよう…)
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