本作品は変身忍者嵐の二次創作小説ですけど、他の作品である『変身忍者嵐より 千恵(毒蛾くノ一)の異なる未来』とは別の世界観の作品です。

時代劇らしく人が死にます。

その事を意識してR18設定とさせていただきます。

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くノ一千里、ハヤテに捕らえられる

 

「お江戸参りに川辺の茶屋であったとさ

 

かわいい太郎衛門さん、岩田帯閉めたとさ

 

えっささの、えっささの、えっさっさのさ」

 

チャン、チャカ、チャン、チャン、チャカ、チャン

 

編笠を被った美しい女性が旅の女性一座と共に朗らかな声で長唄を披露していた。

 

「いよ、お姉さん!、綺麗だねえ」

 

通行人たちは、美しい長唄の歌い手と、美女揃いの旅の一座に心を奪われていた。

 

まあ、中には

 

「いってえっーーー!!!!」

 

美人揃いの旅の一座を見て、鼻の下を伸ばして、でれーっと見とれている自分の恋人の足を踏んづけた町娘もいたのだが…

 

とにかく旅の一座が多くの観衆の注目の的になっていたのは確かである。

 

「みなーさーまー、本日は私ども地車座の公演にお集まりいただきまして、ほーんとーうにー、ありがとうーございますー」

 

先ほどまで三味線を弾きながら、長唄を披露していた美しい女性が、自分たちの公演を見るために集まってきていた観衆に大きな声で挨拶すると、そこで深々と頭を下げた。

 

「つきましてはー!、みなさまのー、ご厚意を、ぜひせひー、いただきたくー、思いまあすー!」

 

美人座長の一言に観衆は

 

「いようっ、お姐さん!」

 

「いいねえっ!」

 

「また、頼むわっ!」

 

一斉に投げ銭を入れる。

 

「ありがとうーーー、ございますーーー」

 

美人座長は投げ銭を入れてくれた観衆に向かって丁寧にお辞儀をする。

 

この美人座長の人としての名は仙、通称はお仙といった。

 

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「お前たち、抜かるなよ!」

 

旅の一座である地車座の美人座長ことお仙、いや、その正体である血車党の化身忍者女郎トゲアリは、もはや旅の一座としての姿ではなく

 

そして黒の忍び装束に一斉に着替えていた自らの配下であるくノ一たちに向かって号令する。

 

 

「はっ!」

 

彼女の配下である血車党くノ一たちは一斉に返事をする。

 

その様子を見て、お仙、いや女郎トゲアリはニヤリと笑う。

 

化身忍者女郎トゲアリは、その手にした三味線の旋律により分身である多数の蟻たちを自由自在に操り

 

そしてその蟻たちの毒牙に噛まれた者たちを、自分の意のままに動く『蟻人間』に変えてしまう能力を持っていた。

 

彼女が江戸に来てから、まだ三、四日しかたたないのに

 

既に彼女が操る蟻たちによって噛まれ、それによって女郎トゲアリの操り人形として動かされる蟻人間に変えられてしまった者の数は、ねずみ算的に増える一方であり、その影響力は広く江戸の街全域にまで及んでいた。

 

彼女たちが江戸に来た初日に女郎トゲアリの使令である蟻たちに噛まれて蟻人間と化したのは三人ほど

 

だが、その三人は翌日には六人、そして十二人と少しずつ増えていき

 

既に江戸の城下には百人以上の蟻人間がいたのだ。

 

たが、女郎トゲアリにとっては、まだまだ不足てあった。

 

この江戸全体を乗っ取るには、蟻人間の数が足りないし

 

それにだ…

 

「既に我らの行動に不審をいだいた徳川の手の者たちが内偵しているという。その上であの裏切者のハヤテが動き出したとの情報を骸骨丸様からいただいたばかり。だとすると我らはそれにも備えなければならぬ」

 

そこまで言うとお仙は配下であるくノ一の一人に視線を向けた。

 

「千里、お前はまず、伊賀忍タツマキの一家を見張れ。仮にハヤテが動くにしろ、まず奴らと連絡を取るはずだ」

 

「女郎トゲアリ様、分かりました!」

 

千里と呼ばれたくノ一は自らの主(あるじ)に向かって片膝をつき、そして一礼する。

 

「行けっ、奴らが我らの行動の邪魔をする動きがあれば、直ぐに報告せよ!」

 

「はっ!」

 

千里は直ぐに外へ出ると、そのまま江戸・四ッ谷にあるタツマキ一家の屋敷へと向かう。

 

それを確認したお仙・女郎トゲアリは残った血車党くノ一たちにあらためて号令する。

 

「お前たちも一日も早く我が血車党の江戸・蟻人間計画実現のため尽力せよ!」

 

この場に残った血車党くノ一の全員が自分たちの主(あるじ)に向かって一礼する。

 

「ははっ!」

 

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ここは江戸・四ッ谷にあるタツマキ一家の屋敷である。

 

今宵は、公儀隠密伊賀組の客将であるハヤテが来客として訪れてきており

 

伊賀忍者のリーダー的存在であるタツマキのみならず、その娘であるカスミ、息子であるツムジも同席の上、部屋の中で最近の江戸で起こっている異変についての相談をしていた。

 

「じやあ、やっぱりハヤテさんも、あの旅の一座が怪しいと思っているの?」

 

この屋敷の主(あるじ)であるタツマキの娘カスミが客人であるハヤテに向かって問い返す。

 

「ああ、あの一座は不審な動きが多すぎる。何事かを企んでいるのは間違いない。だが…」

 

ハヤテはそこまで言うと、目の前のタツマキに向かって瞬きで合図をした。

 

天井裏に誰かが忍び込んでいる

 

タツマキは承知したと言わんばかりにハヤテに向かって目で合図をする。

 

恐らく今宵あたりに血車党の手の者がこちらの動静を探りに来ることはハヤテ、そしてタツマキも折り込み済みだったのだ。

 

その事はカスミもツムジもそれは承知しており、その上で気づかない振りをしている。

 

いわば四人とも天井裏に侵入者がいるのを承知の上で、あえて知らぬ顔を装い、そして

 

油断を誘った上でその者を取り押さえ、そして血車党の企みと、その隠れ家を吐かせるつもりだったのだ。

 

なおもハヤテとタツマキ、カスミとツムジたちは

 

今後の事を(盗み聞きされても差し支えないような範囲で)話し合った。

 

そして

 

「タツマキ、それにカスミ、ツムジ、私はこの後、江戸の街を見回ろうと思う。お前たちは明日に備えて早く休んでくれ!」

 

そのように言ったハヤテがゆっくりと立ち上がる。

 

「ハヤテ殿、夜の江戸の街で何が起こるか分かりませぬ故、用心されるがよい」

 

タツマキはそう答えると、ゆっくりとハヤテを玄関口まで送り出す。

 

ハヤテの奴、行ったな…

 

天井裏に潜んでいた血車党くノ一千里はそれを確認すると、この屋敷に長居は無用とばかりにハヤテの尾行をする事にした。

 

江戸でのハヤテの隠れ家を見つけ出すことは血車党にとっても大きなメリットがある。

 

私一人では無理でも、女郎トゲアリ様と仲間たちと共に大挙してハヤテの隠れ家を襲えば…

 

千里は心の中で、そんな青写真を描いていたのだ。

 

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今宵のハヤテは何故かハヤプサオーに乗っておらず、徒歩でゆっくりと家路に向かって歩いている。

 

血車党くノ一千里は家々の屋根づたいに気配を隠しながら、そんなハヤテを尾行していたのだが

 

「悪いが、つけてきているのは分かっているんだ!」

 

ふいに振り返ったハヤテはそう言うと

 

屋根の上に身を隠していた千里に向かって手裏剣を投げつけてきた。

 

が、千里は俊敏な動きでその手裏剣から身をかわすと、そのまま

 

スタリッ!

 

まるで軽業師のようにハヤテの目の前へと華麗に着地し、そして背中の剣を抜き、それを構えた。

 

「流石は血車忍者でも腕利きと言われたハヤテ、お見通しだったようね!」

 

が、ハヤテはそんな千里に対して、むしろ諌めるように声をかけた。

 

「無理をするな、お前の力では私に勝つことは出来ない」

 

だが、これは逆に千里の血車忍者としての自尊心を傷つけることになった。

 

「うるさいっ、黙れっ!!」

 

彼女はそう叫びと

 

「やああーーーっ!」

 

必死の形相で叫びながらハヤテに向かって斬りかかった。

 

だが、ハヤテは背中の速風を抜くと、そんなくノ一千里の剣を、手にした速風で容易く払い除ける。

 

パシイッ!!

 

その剣を弾き飛ばされたくノ一千里の顔面は蒼白となった。

 

そんな彼女に

 

「無駄な抵抗は止めるんだ!」

 

諭すように言うハヤテ

 

しかもハヤテは、あえて手に持っていた速風を鞘にしまったのだ。

 

カチリッ

 

これは相手に向かって斬る意思はないという意思を伝えるためである。

 

だが千里は覚悟を決めると、今度は懐に忍ばせてあった苦無(くない)を右手に持った。

 

「どのみち任務を果たせぬときは死ぬときだ、私はどうあってもお前を倒す!!」

 

そう叫ぶと、死に物狂いで彼女はハヤテに襲いかかる。

 

「きえええーっ!」

 

だが素手であるはずのハヤテは、その苦無を持つ彼女の右手を両手で掴み、そして千里をいったんは羽交い締めにすると、なおも抵抗する彼女の首を、その右腕でぐいっ、と締め上げたのだ。

 

「ぐうっ、く、苦しい!」

 

苦しみのあまりに右手に持った苦無を下に落としてしまう千里。

 

彼女はハヤテによって、その首を締め上げられた苦しみに悲鳴をあげ、自らの両手で自分の首を締め上げる腕を引き離そうと必死に抵抗しながらも、呼吸が出来ない苦しさで顔を真っ赤にし、その体をブルブル震わせる。

 

「がっ、げえっ、う、うう……」

 

だがハヤテからみれば、これでも、かなり手加減して彼女の首を締め上げているのだ。 

 

もしハヤテが本気を出せば千里の首の骨をへし折るなど、それこそすぐにでも出来る。

 

だが、彼の真意は別のところにあった.。

 

うっ、うう…

 

もはや千里の両足はガクガクと痙攣し、その意識は朦朧として悲鳴をあげることさえ出来なくなっていた。

 

が、それを確認したハヤテは、ふいに彼女を締め上げていた腕の力を抜き、そしてゆっくりと放す。

 

千里は、ふいに入ってきた酸素をいきなり吸い込み、そして、大きく咳き込む。

 

ごほっ、ごほっ、ごほっ、ごほっ!!!

 

だが、その場に崩れ落ちた千里に向かって、ハヤテは逆に謝罪したのだ。

 

「手荒なことをしてすまなかった」

 

その言葉に驚いた千里は

 

けほっ、ごほっ!!

 

苦しそうに咳き込みながらも思わず背後のハヤテの方を振り返る。

 

「君には舌を噛むなどして自害などしてほしくなかった。それは勿論、今回の血車党の企てを君の口から聞きたいということもあるのだが…」

 

「・・・・・・・・」

 

千里は呆然としていた。

 

この人は一体、何を言っているのだろう…

 

「私は貴女を殺したくはなかった。それは私の勝手な思い込みかもしれないが、そうなんだ」

 

けほっ、けほっ

 

咳き込みながらも

 

そんなハヤテの言葉を聞いて、千里の心は動揺していた。

 

「いずれにしても、それだけ咳き込んでいれば、いきなり舌を噛んだりして自決するなどということは出来ないだろう」

 

ハヤテはそう言うと、千里に向かって右手を差しのべた。

 

「行こう。これから伊賀組屋敷まで行って、その上で血車党の今回の企みについていろいろ話してもらいたい。大丈夫だ。これからは手荒なことはしない」

 

迷った末に、千里はハヤテの手を取ることを受け入れ、そして立ち上がった。

 

一度、死にたくないと思ってしまうと、自決の決心など容易にはつかない。

 

それに

 

いったんは伊賀組屋敷なる場所に行き、その上で奴らの情報を盗み出し、それから機会を見て脱走し、女郎トゲアリ様に報告するという手もある…

 

そこまで考えた千里はハヤテに向かって言う。

 

「分かった、お前と一緒に行けばいいんだな…」

 

だが、そこまでだった。

 

ヒュッ!!

 

次の瞬間、千里の左の胸には素早く飛んできた苦無が突き刺さっていたのだ。

 

ドスッ!!

 

「あ、あううっ!!!!」

 

千里は左の胸から血を流しながら、その場に倒れる。

 

「しまったあっ!」

 

その苦無が飛んできた方向からは、確かに人の気配

 

明らかに血車党の手の者が仲間の口を封じるためにやったことだ。

 

ハヤテはそれを理解し、直ぐにその気配の主を追おうとしたのだが

 

「うっ、うう…」

 

また絶命することなく、息も絶え絶えながら苦しんでいる千里を放置する事は出来なかった。

 

「おい、しっかりしろ!、しっかりするんだ!!」

 

懸命に千里を介抱するハヤテ

 

その間に彼女の口をふさぐために苦無を投げつけたであろう気配は、いつの間にか消えていた。

 

にもかかわらず、何とか千里を助けようと彼女の応急手当てをするハヤテ

 

だが、ハヤテの懸命な介抱にも関わらず

 

千里は目を閉じて脱力すると、そのままガックリと首を横に倒した。

 

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うっ、うっ、うーんっ…

 

千里は目を覚まし、そして自分が白い布団の中で寝かされていることを知った。

 

「ここはっ!」

 

起き上がろうとしたが、物凄い痛みが体全体にあり、ほんの少しさえも動くことさえ出来ない。

 

気がつくと自分は忍び装束ではなく、白い寝巻きに着替えさせられている。

 

そして左の胸を中心に布が何重にも巻かれている。

 

どうやら失血はおさまっているようだ。

 

「無理しちゃダメよ。あなた本当に死ぬところだったのよ!」

 

千里に向かって、少し怒ったように言ったのは、恐らくはまだ元服前の、数えで15、6歳くらい、赤色に白い模様の入った着物を着て、黄色い帯をしている少女だった。

 

起きあがろうとして身体中に痛みが走り、苦痛に顔を歪ませる千里だったが、忍者として多少の苦痛を堪えることなら出来る。

 

それに、意識はこれ以上ないくらいハッキリとしていた。

 

取りあえず、今、自分が置かれている状況を知る必要がある。

 

千里は目の前の赤い着物を着た少女に

 

「あなたは一体?」

 

まずは問いかけてみる。

 

「私はカスミ。あなたも血車党の忍者なら、私の名前聞いたことがあるでしょう?」

 

カスミは千里に向かって、そう答えた。

 

千里は痛みに耐えながらも、そのカスミに向かって問いかける。

 

「あなたが、敵であるはずの、私の手当てをしてくれたの?」

 

「ええ、あなたの左胸に刺さっていた苦無は、ほんのわずかに急所から逸れていたから何とか助かったけど、あなた、運が良かったわよ」

 

「そう…」

 

千里は複雑な感情にとらわれていた。

 

それでは自分は

 

既に党からは任務に失敗したと見なされ、もはや処分の対象になってしまったということなのだろうか?

 

そう思うと悔しくて涙が止まらなくなる。

 

うっ、うっ!

 

だが、その溢れる涙を手で拭うことさえ、今の自分には叶わないのだ。

 

手が動かない…

 

「泣かないで」

 

言いながらカスミは千里の涙を布でそっと優しく拭った。

 

「あなたのお名前を教えて。その名前で貴女(あなた)のことを呼びたいの」

 

えっ?

 

血車忍者であるはずの、この私に、何故、この女の子(ひと)は優しく接してくれるの?

 

少し考えた末に

 

「千里…、と申します」

 

彼女は自分の名前をカスミに向かって言う。

 

「そう、千里さんね。取りあえず気持ちを楽にして」

 

カスミは穏やかな口調で、千里の緊張を和らげようとする。

 

この女性(ひと)、私よりも年下なのに大人びている…

 

千里はカスミに対して好感を持った。

 

「何故、あなたたちは死ぬはすだった私をこうして助けてくれたんですか?、そんなに今回の血車党の動きを知りたいんですか?」

 

千里の疑問に、だが、カスミはキッパリと答えた。

 

「私は忍者であると同時に医者です。医者が傷ついた人を助けようとするのは当然です!」

 

そのカスミの言葉に千里は大きな驚きに打たれた。

 

「えっ?、だって、あなただって私たちの仲間を何人も斬ってきたはず…」

 

カスミは間髪入れずに答える。

 

「貴女はもう、血車党にとって仲間じゃないの!」

 

「・・・・・・・・」

 

「命を賭けて戦っている時、手を緩めれば自分が死ぬ!。そうよ、綺麗事じゃなくて、私も何人もの血車忍者を斬ってきました。そうしなければ私の方が死ぬから。でも、血車党から切り捨てられた今の千里さんはそうじゃない!」

 

熱っぽく語るカスミに対して、千里は何も言えなかった。

 

「今まで敵だった私たちの事を信用してくれなんて言わない。けれども、よく考えて。もう、これからは血車党は千里さんの命を狙う敵なのよ。まず、自分がこれから生きていくことを考えて!」

 

正直、千里の頭の中は混乱していた。

 

が、そんな彼女から見ても、この目の前にいるカスミという医術者にしてくノ一という女性(ひと)は信頼がおけるように思える…

 

「分かりました。任務に失敗した上に、今から裏切り行為を働くこの私は、いずれ血車党によって殺されるでしょう。でも、そうなる前に貴女には今回の血車党の計画などについてお話をしたいと思います」

 

千里はカスミに対して、今回の血車党の『蟻人間計画』についてと、その隠れ家について語り始めた。

 

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「千里さん、ありがとう」

 

カスミは布団の中で横になったままの千里に向かって、礼儀正しくペコリと頭を下げた。

 

そして彼女に向かって

 

「いずれ血車党に殺される、なんてこと言わないで。千里さんのこれからの人生のためにも」

 

そう付け加えるのを忘れない。

 

千里さんのこれからの人生…

 

それを聞いた千里の心は揺らいでいた。

 

血車党のために敵と戦い、血車党のために死ぬ

 

それ以上のことを自分は考えたことはなかった。

 

「あの……、カスミさん??」

 

混乱した千里はカスミに向かって、その言葉の真意を確かめようとするのだが

 

「千里さん、待ってて。今、お父さん、ツムジと少しだけ話をしてきます。そうしたらすぐに戻るから」

 

気が急いているのか、カスミは口早に言う。

 

恐らく、今、自分が話した血車党の計画と隠れ家について報告に行きたいのだろう、と千里には見当はついたのだが

 

それにしては??

 

「あの…、カスミさん?、ハヤテ…さんは??」

 

ついハヤテと呼び捨てにしそうになった千里だが、さすがにそれはよろしくないだろうと思い直した。

 

自分は、その党の裏切者ハヤテに命を救われ、今、目の前にいるカスミの治療で死の危険も免れたのだ。

 

「ハヤテさんは、もう、千里さんもいた、あの地車座という旅の一座を調べるために、その隠れ家に向かっています」

 

えっ?

 

じゃあ、私が決心して隠れ家を教えなくても???

 

その千里の戸惑いを察したカスミは

 

「ても千里さんが教えてくれた『大江戸蟻人間作戦』の事は私たちも把握していなかったし、それが分かれば対策も立てられます。そして、私はお父さんとツムジにそれを伝え、更にお父さんを通じてウチ(伊賀・百地組)の組頭てある源太夫様にもご相談の上、今後の指示を仰ぐ必要があります。だから少しだけ待ってて」

 

カスミはそのように千里に説明すると、そのまま障子を開く。

 

「本当にすぐ戻ってくるから」

 

そう言うとカスミは部屋から飛び出すように退出する。

 

後には寝たきりの千里だけが部屋に残された。

 

その状態で全身の痛みを堪えながらも、千里はぼんやりと考えていた。

 

今後の私の人生か

 

想像さえ出来ない…

 

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パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラ

 

ハヤブサオーに乗ったハヤテは、地車座なる旅の一座がいる旅籠の前に到着すると、そこで馬上から降りる。

 

しかし大きな旅籠だな…

 

ハヤテはそう思わずにはいられない。

 

その間口は五間(約9m)以上あり、しかるぺき大名などが宿泊する本陣と比べても構えが小さいようには見えず、旅の一座が泊まる宿には不釣り合いにさえ見える。

 

その事が不自然さを感じさせた。

 

が、いずれにせよ…

 

ハヤテはその旅籠の門前に立つと

 

「私はハヤテという者。御公儀の依頼により確認したき儀があり参った。門を開けられたし」

 

大声で叫ぶ。

 

するとギイッという音と共に門が開いた。

 

そして中からは、この旅籠の者と思われる二十代後半くらいと思われる女性が姿を現すと

 

「失礼します。御公儀の使者の方との事ですけど、身分を証する物はお持ちでしょうか?」

 

正式な武士とも思われぬハヤテの青い忍び装束姿をジロジロと見ながら、その女性は疑わしそうに彼に向かって尋ねてくる。

 

「失礼した。あらためて見てもらいたい」

 

ハヤテは、懐からさっと書状を取り出すと、徳川家の花押と征夷大将軍徳川秀忠直筆の署名入りの、その書面を見せる。

 

次の瞬間、その女性の表情はサッと変わった。

 

「なるほど、貴方様が御公儀の使者であることは分かりました。して、私どもの旅籠にはどういったご用件でしょうか?」

 

女性の問いに対してハヤテは

 

「此方に宿泊しているという地車座という旅の一座に不審な点があるとの情報があり、事を荒立てる前に確認のため私が参った次第。問題がなければ、それだけで済む話。先ずは案内してもらいたい」

 

淀みなく答える。

 

「分かりました」

 

女性の方もハヤテに対してそのように答えると

 

「早速、案内させてもらいます。ささっ、先ずは此方へ」

 

そう言ってハヤテを門の中に入れると、そのまま案内するように歩いていく。

 

ハヤテもそれに続くと、まずは玄関から入っていく。

 

板の間になっている入口から入ると、建物の通路は土間になっており、ハヤテは女性に案内されながら歩いていく。

 

そして

 

「地車座の方々をご案内してきますので、ひとまずはこのお座敷でお待ち下さいませ」

 

女性は丁寧に言うと襖を開け、ハヤテをそこへと招き入れる。

 

そこは六畳ほどの畳の間だった。

 

「ありがとう」

 

ハヤテは部屋に入った。

 

が、その途端、女性は部屋からいきなり飛び出すと、そのままハヤテを閉じ込めるかのように襖をパタンッと強引に閉める。

 

「おい、これはどういう事なんだ!」

 

思わず叫んだハヤテだが、次の瞬間

 

足元の畳がいきなり消え失せると、そのまま地下の空洞へと落とされてしまったのだ。

 

「うわあっ!」

 

次の瞬間、ハヤテは地下牢のような場所に転落していた。

 

ドスン!

 

不意打ちで下に落とされ、思わず尻餅をついてしまうハヤテだが、すぐ立ち上がると上の方へと向かって

 

「やはり罠だったんだな!」

 

大声で叫ぶ。

 

すると、先ほどハヤテをここまで案内してきた女性が再び姿を現すと、ハヤテがいる地下牢の方を覗き込んだ。

 

そして、そこに転落したハヤテを上から見下ろし

 

「ハハハ、裏切者のハヤテ、まんまと罠にかかったね!」

 

勝ち誇るように哄笑した。

 

その様子に怒りを感じたハヤテは上に向かって叫ぶ。

 

「貴様、ではお前は血車党だったんだな!」

 

それに対して女性は

 

「その通りさ!」

 

毅然として答えると、その両手を一旦交差させた。

 

そして

 

「化身っ!」

 

そう掛け声を発すると、今度はその両手を大きく上に回して、再び交差する。

 

みるみるうちに女性の人だった姿は異形のものに変貌していった。

 

「ピヨピヨピヨピヨピヨピヨ!」

 

完全に化身忍者としての姿に変身し終わった「彼女」は、下の地下牢にいるハヤテに向かって名乗りをあげる。

 

「私こそ、血車党化身忍者女郎トゲアリ。党の裏切者のハヤテ、血車党の血の掟により、今からお前を処刑する」

 

そのように宣言した化身忍者女郎トゲアリの手にはいつの間にか三味線があった。

 

彼女はそれを弾きはじめる。

 

チャン、チャカ、チャン、チャン、チャカ、チャン

 

すると驚くべき事に

 

地下牢にいるハヤテの周囲には物凄い数の蟻の大群が現れ、それは一斉に彼に向かって襲いかかるように集ってきたのだ。

 

「く、くそっ!!」

 

思わぬ蟻たちの集団攻撃に戸惑うハヤテ。

 

「はっはっはっ!」

 

女郎トゲアリは自らの使令である蟻たちがハヤテの体へと集ってくるのを楽しそうに見ている。

 

「どうだいハヤテ。これから人食い蟻に自分の体が食われるのを見る気持ちは!!」

 

地下牢のハヤテは片っ端から蟻を踏み潰しながら抵抗するのだが、蟻の数が多すぎて対処しきれず苦戦していた。

 

正直、余裕がない。

 

「いいことを教えてやるよハヤテ。任務をしくじり、お前たちの捕虜になった役立たずのくノ一を処刑するため、既に四谷のタツマキたちの屋敷に刺客が向かっている。我が血車党に失敗や裏切りは許さない。あいつも何れ、お前の後を追うのさ」

 

その女郎トゲアリの非情な言葉にもハヤテは

 

「そんなことはさせないぞ!」

 

強気の言葉を返す。

 

だが女郎トゲアリが操る蟻たちはハヤテの身体中に集り、彼の体を食わんとしていた。

 

身体中が痒い、痛い、チクチクする!!

 

ハヤテはこの窮地を脱するための方法を考えながらも、蟻たちに蝕まれる苦痛に喘いでいたのだ。

 

 

「お父さん、今回の血車党の企みについて、あの女性(ひと)、千里さんから…」

 

カスミは父であり、忍者としての上司でもあるタツマキに報告をするため、屋敷の勝手口に向かい、そして直ぐに異様な殺気に気づいた。

 

そして彼女が障子を開けると、勝手口にはこの家の主人であるタツマキと、その息子ツムジが、それぞれの忍び装束に着替え、そして剣を構えた状態で玄関に向かって立っているのが見える。

 

そう、この家の玄関口には男女を問わない二十人以上の江戸の町の人々が押しかけていたのだ。

 

だが、その人々の表情は青白く、目は虚ろで、何者かの意思に操られているかのように無表情のまま、じりっ、じりっ、と、この屋敷に集団で上がり込もうと、勝手口に立つタツマキ、ツムジを取り囲まんと、少しずつ接近してきたのだ。

 

そして、その少し後ろには

 

黒い忍び装束を着た血車党のくノ一が三人立っている。

 

どうやら、この三人のくノ一たちが、この生気のない何者かに操られているであろう人々を指揮しているようだ。

 

これは千里さんのいう、血車党によって毒アリに噛まれて『アリ人間』に変えられた人たちに違いない!

 

カスミは直ぐにそう確信すると

 

「お父さん、この人たちは!」

 

父、タツマキに向かってそう叫ぶ。

 

そんな様子を見た血車党くノ一のうちの一人が背世羅笑うかのようにタツマキ、カスミ、ツムジに向かって

 

「はははは、我が血車党に敵対する伊賀忍タツマキ、カスミ、ツムジの三名、ここに集まった者共は、皆、女郎トゲアリ様の術によって操られる普通の人間たち。今は私たちの指揮により動いているが、貴様らにこやつらを斬ることは出来まい。そして自分の家屋敷に追い詰められた状態のお前らに、もう逃げ場はない!」

 

もはや勝ち誇ったかのようにして言う。

 

恐らくは彼女が、この三人の中ではリーダー格になるのだろう。

 

その彼女が術によって操られた人々に合図するかのように右手を挙げる。

 

「がーっ…」

 

「うううっー…」

 

「おおおーーー」

 

群衆は一斉に屋敷の中にいる三人に向かって襲いかかるべく前に進み出す。

 

「ツムジ、いくぞっ!」

 

タツマキは覚悟を決めたように剣を大きく振り上げる。

 

「うんっ!」

 

ツムジもまた、大きく剣を構え直した。

 

だが、カスミは

 

「お父さん、ツムジ、待って!!」

 

そう叫ぶなり、涼風を手に持つと、それを無心に吹き始めた。

 

涼風、それはハヤテがカスミに身の危険があった時のために役に立てるようにと渡した横笛てある。

 

この横笛はカスミが吹くと特殊な音波を発し、ハヤテの刀と共鳴してハヤテに危険を知らせるという役割を持っているが、実はもう一つ隠された能力を持っていた。

 

カスミは最初にハヤテから涼風を貰った時の事を思い出していた。

 

「涼風は催眠を解く曲を流すこともできる、カスミなら、それを吹けるはずだ!」

 

そう言ってハヤテから涼風で吹くことが出来るいくつかの曲をカスミに教えていたのだ。

 

そのうちのあれだろうか?

 

そのカスミをタツマキ、ツムジの二人は押し寄せる群衆から庇うようにして、前に立つ。

 

父と弟の二人に守られながら、カスミは無心に、自分の思う曲を涼風で吹いた。

 

緊張していたこの場に、涼風から心が不思議な安心感に包まれる音色が流れる。

 

すると、みるみるうちに『アリ人間』と化したはずの人々が、まるで力を失ったかのように、次々とその場に崩れ落ちるように倒れていき、そして眠ったのだ。

 

あっという間に『アリ人間』と化したはずの群衆は、その場に眠る人たちに早変わりし、その場に立っているのは三人の血車党くノ一だけとなった。

 

「お、おのれえっ!」

 

三人のうちのリーダー格に当たるくノ一が悔しさのあまりの歯噛みする。

 

「操られているだけで『心』を失っていない人たちを術から解放する、そんな力にも涼風にはあるんです!」

 

カスミはそんな血車党くノ一たちに向かってキッパリと断言する。

 

が、その言葉を聞いたことで逆に踏ん切りがついたのか、三人の血車党くノ一が一斉に背中の剣を抜刀し、そして構える。

 

「こうなれば私たちでお前らを斬るまで!、いくぞっ!」

 

その叫び声を合図に

 

「きえっー!!!」

 

「たあっーーー!!!」

 

「ええいっーーー!!!」

 

三人の血車党くノ一は一斉に屋敷の中のタツマキ、カスミ、ツムジに向かって斬りかかる。

 

「カスミ、ツムジ、お主らは中にいる娘御を見てやってくれ。この三人だけなら、わし一人で十分!」

 

タツマキはそう言うと

 

「でやあっー」

 

襲いかかる三人の血車党くノ一に向かって、これと戦うべく剣を振り上げた。

 

カスミはその父の言葉に頷くと

 

「ツムジ、行くわよ!」

 

弟に声をかけるなり、奥の部屋で絶対安静のまま横になっている千里の元へ戻る。

 

「姉ちゃん、分かった!」

 

ツムジもそれに続く。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

カスミが退出した部屋の中で、重症で身動きも出来ない状態のまま、一人で横になっていたくノ一千里だったが

 

ふいに天井からの気配を感じる。

 

「だれっ?」

 

その声に反応したかのように天井の板がすっと外されると、そこから一人の血車党くノ一が姿を現す。

 

「あんたは茜。そう、党はやっぱり私を殺すことにしたのね!」

 

横になり身動き出来ない状態の千里だったが、それでも天井裏から姿を現した血車党くノ一に向かって言った。

 

「ふふっ、そんなの当たり前じゃないの!」

 

茜という血車党くノ一は軽く微笑むと

 

「任務を果たせぬ者は死、それが血車党の血の掟。あなただって知っているでしよう」

 

下で横になっている千里に向かってそう言いながら、背中の剣を抜き、それを持つ。

 

「待ってて、今すぐにあなたを楽にしてあげる」

 

そして彼女は天井裏からとひおりる。

 

「やあっーーー!!!」

 

彼女の剣は下で横になっている千里の心臓を正確に狙っていた。

 

だが、そこへ

 

ビュンッ!

 

ビュンッ!

 

手裏剣が二つ、続けて投げ込まれる。

 

その手裏剣の一つは血車党くノ一茜の手にしていた剣を弾き飛ばし、もう一つの手裏剣は彼女の左足に当たって、その体勢を崩す。

 

ドスンっ!

 

大きく体勢を崩した血車党くノ一茜は、そのまま畳の上に倒れる。

 

手裏剣を投げた者、それは

 

既に愛用の桃色の忍び装束に着替えたカスミと、緑色の忍び装束を着用したツムジであった。

 

「やあっ!」

 

「えいっ!」

 

カスミとツムジはそのまま倒れている血車党くノ一茜に向かって飛びかかると、そのまま二人がかりで彼女を取り押さえる。

 

「大人しくして、無駄な抵抗はしないで!」

 

カスミは弟と二人がかりで取り押さえた血車党くノ一茜の胸ぐらを掴むと、彼女に向かって言う。

 

だが、カスミによって胸ぐらを掴まれた血車党くノ一茜は、もはやこれまでと観念したのか、強く目を閉じると

 

グッ!

 

とその口の中を強く噛み締める。

 

舌を噛み切ったのだ!

 

忍者の子であるカスミとツムジには、すぐにそれがわかった。

 

血車党くノ一茜の口の中からは、みるみるうちに赤い血液が溢れ出てくる。

 

そして彼女の頭はガックリと前に傾くと、その体が力を失い、そして自分を取り押さえていたカスミ、ツムジの方へと崩れ落ちるようにしてその場に倒れ込んだ。

 

彼女は自決したのだ。

 

「姉ちゃん…」

 

ツムジが残念そうに首を横に振る。

 

「なぜなの、なぜ、こんなに自分の命を粗末に出来るの?」

 

カスミも声を震わせながら言い、そして、気になって、そのすぐそばで横になったままの千里の方を見る。

 

千里はその目に悲しみの涙を溢れませていた。

 

そんな千里を見たカスミは思わず

 

「千里さん、ごめんなさい。あなたの仲間を…」

 

そう言わずにはいられなかった。

 

だが千里は目に涙を浮かべながらも

 

「いえ、カスミさん、ツムジさん、ありがとうございました。私は…、もう、血車党にとって仲間じゃない…、そのことが本当に分かりました」

 

毅然として、そう答えたのだ。

 

そして、そんな千里に

 

「お姉さん、涙を拭こうよ」

 

ツムジはそう言うと、その手に布を持ち、それで千里の目から溢れる涙をそっと、優しく、拭う。

 

千里はそんなツムジに向かって

 

「ありがとう、ツムジさん。あなたはお姉さんのカスミさんと、やっぱり似てますね」

 

思わず、そう呟く。

 

それを聞いたツムジは、思わず

 

「てへへ」

 

照れ笑いをしてしまった。

 

一方で、その様子を確認したカスミは

 

「ツムジ、あなたはここで千里さんを見てあげて。私はお父さんの様子を見てくる。まあ、お父さんが、あの三人に負けることはないと思うけど」

 

そうツムジに声をかける。

 

そんな姉に対してツムジは

 

「うん。姉ちゃん、こっちは大丈夫だから」

 

快活に、そう答えた。

 

カスミはそれを確認すると、すっと部屋から出る。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

カスミが玄関口に戻ると、もう決着はついており、父のタツマキは多少肩で息していながらも、そのまま立っていた。

 

「お父さん!」

 

「おう、カスミか。決着はついた。三人とも刀背打ちで倒した。だがの…」

 

刀背打ち、後世でいう峰打ち

 

相手を斬らずに強打する技のことである。

 

そしてタツマキの刀背打ちによって倒された血車党くノ一たちは三人ともその場に倒れていた。

 

たが…

 

カスミは直ぐに倒れている血車党くノ一の三人がことごとく舌を噛みきって自決していることに気づいた。

 

失敗した者は死、それが血車党…

 

カスミはあらためて怒りと悲しみ、憤りがこみ上げてくるのを抑えることが出来なかった。

 

「なぜ、なぜなの?、伊賀だったら、こんなことまで強要されないのに…」

 

そんな悲しみに体を震わせる自分の娘に、だが、タツマキは言った。

 

「カスミ、それよりもこれから後の事を考えねばならぬぞ。ここで意識を失って倒れている多くの町の者たちの事も何とかせねばならぬし、先に奴らの隠れ家に向かったはずのハヤテ殿の事も気になるでの」

 

その父親の言葉に、カスミはこくりと頷いた。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

化身忍者女郎トゲアリが操る人食いアリの大群による攻撃に苦しんでいたハヤテだったが

 

チャン、チャカ、チャン、チャン、チャカ、チャン

 

彼女が弾く三味線の音が人食いアリたちを操っている

 

ならば…

 

人食いアリに食われて苦吟しながらも、ハヤテは羽根手裏剣を女郎トゲアリが弾く三味線に向かって投げつける。

 

シュッ!

 

羽根手裏剣は正確に三味線の弦を貫き、そして、その音を止めた!

 

「ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ!!」

 

羽根手裏剣の一撃を受け、思わず三味線を落としてしまう女郎トゲアリ。

 

そして、次の瞬間にはハヤテに食らいついていたはずの人食いアリたちの攻撃がパッタリと止んだのだ。

 

「今だ!」

 

ハヤテはその機を逃さず、すぐさま両手をクロスさせ、右手を上に挙げる。

 

「吹けよ、嵐!、嵐!、あ、ら、し!!」

 

言いながらハヤテは右手をおろして、再度両手をクロスさせる、そして抜刀しながら、背中の刀の鍔をカチッと鳴らした。

 

愛刀「速風」のその時の特殊な振動が、ハヤテの脳神経の活動を促進し、その体の細胞配列を変えて「変身忍者嵐」に変身するのだ。

 

たちまちハヤテの周囲が大量の羽毛に囲まれたかと思うと、次の瞬間には『荒鷲の変身忍者である嵐』が、その場に出現した。

 

「嵐、見参!!」

 

そして変身忍者嵐は大きく跳躍する。

 

「といやああああっーーー!!」

 

地下牢に落とされていた変身忍者嵐は一挙にそこから脱出すると、女郎トゲアリの目の前に降り立った。

 

「女郎トゲアリ!、尋常に勝負せよ!」

 

「くそっ、かかれ!」

 

三人の黒覆面を被った男性の血車党下忍が姿を現し、剣を抜いて変身忍者嵐に向かって斬りかかるが

 

「たああっ!」

 

嵐はあっという間に三人を斬り伏せる。

 

「ピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨピヨ、くそっ、ならは!」

 

ハヤテが投げつけた羽根手裏剣によって三味線を破壊された女郎トゲアリは、いつの間にかその手に鎖鎌を持っていた。

 

 

「ピヨピヨピヨピヨピヨピヨ」

 

その鎖鎌の分銅部分を嵐に向かって投げつける女郎トゲアリ

 

「とうっ!」

 

嵐は思わず飛び退いて、女郎トゲアリが投げつけた鎖鎌の分銅をかわそうとする。

 

だが、その右足を鎖によってからめとられてしまった。

 

「うわあっ!」

 

思わず転倒してしまう嵐。

 

「バカめ!」

 

次の瞬間、自らの触覚から蟻酸を放つ女郎トゲアリ

 

プシュッーーーーー!!

 

化身忍者女郎トゲアリの触覚から放たれる蟻酸は相手を焼き尽くす恐るべき攻撃能力を持っている。

 

その直撃を食らえば嵐といえどもひとたまりもないところだが…

 

嵐は右足を高々と上げると、自らの足をからめとっていた鎖を振り回す。

 

そして、逆に蟻酸の力で鎖を焼き切ってしまったのだ。

 

その反動は鎖鎌を持っていた女郎トゲアリの体勢を崩す。

 

「ピヨピヨピヨピヨピヨピヨ!」

 

今だ!

 

次の瞬間、嵐は愛刀速風を構え直す。

 

「秘剣影うつし!」

 

影うつしは言わずと知れた嵐の必殺技であり、愛刀「速風」の刀身に敵の影を映し、間合いをはかって敵に光を浴びせ、タイミングを狂わせて斬る技である。

 

嵐の構えた刀身に女郎トゲアリの影が写り、そして、それは光と共に反射した。 その光を浴びせられた女郎トゲアリの目が眩惑される。

 

「ピヨピヨピヨピヨーッ!!」

 

影うつしに眩惑され、動けなくなる女郎トゲアリ。

 

そして、嵐は思いきり跳躍する。

 

「どいやあああっーーー!!」

 

そして飛び上がってから急降下し、一気に女郎トゲアリを斬りつけたのだ。

 

「ピヨピヨピヨピヨピヨピヨーッ!」

 

嵐に頭上から斬られた女郎トゲアリは悲鳴をあげる。

 

そして、その斬られた触覚から蟻酸が溢れ、その蟻酸はたちまち女郎トゲアリの全身を炎に包んだ。

 

そして

 

ズカアアーーーンッ!!

 

絶命した女郎トゲアリは自爆したのだ。

 

こうして化身忍者との戦いに勝利した変身忍者嵐だが、その気持ちは、むしろ焦っていた。

 

奴は

 

任務をしくじり、お前たちの捕虜になった役立たずのくノ一を処刑するため、既に四谷のタツマキたちの屋敷に刺客が向かっている

 

そう言いきっていた。

 

ならば自分は急ぎ、四谷のタツマキの家に向かわなくては!

 

「ハヤブサオー!!」

 

変身忍者嵐は自らの愛馬に急いで跨がった。

 

そして

 

変身忍者嵐を乗せた忍馬ハヤブサオーは地車座のいた旅籠を装った隠れ家から、四谷のタツマキの家に向かって急ぎ足で戻るため、江戸の街をを勢いよく走っていた。

 

急がなければ・・・・・・

 

結果的に嵐の心配は杞憂だったわけだか…

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

「孫太夫殿、黒丸殿、では千里殿のこと、よろしくお頼み申し上げまする!」

 

伊賀忍者タツマキの言葉に応えたのは

 

伊賀百地組では名人とうたわれた野村孫太夫、それに柘植の里を本貫(ほんがん)とする柘植黒丸の両名だった。

 

そのタツマキの側にはハヤテ、後ろにはカスミとツムジが立っており、自分たちが助けたくノ一千里のこれからの門出を見守っている。

 

そして孫太夫、黒丸の二人はタツマキの言葉に頷くと

 

あらためて旅装束姿に着替えた千里の方へと視線を向ける。

 

元血車党くノ一千里は、今後の人生を公儀隠密として再出発する事を自らの意思で決め、その為に伊賀であらためての修行につくことにしたのだ。

 

血車党について自分が知っている事は全部、タツマキ、そして伊賀組の組頭である百地源太夫などにも話し、そこで心のケジメはつけた。

 

自分と共に、血車党『大江戸アリ人間作戦』を実行するはずだった者たちは全員死んだのだ。

 

そして本来なら自分も死ぬはずだったところを、今、目の前にいるハヤテ、タツマキ、カスミ、ツムジの四人に助けられた事で、こうして新たな人生を踏み出すことが出来る。

 

その事への感謝を千里は考えずにはいられない。

 

御恩返し、そして自分のこれからの人生のためにも伊賀忍者として再出発する

 

無事、伊賀忍者、公儀隠密としての免状が貰えれば

 

これからは血車党とも戦うつもり…

 

どのみち血車党から見れば、自分はもうハヤテさんと同じく裏切者として命を狙われる立場なのだ。

 

千里はこれから伊賀までの長い道中を共に旅することになる野村孫太夫と柘植黒丸に向かって、あらためて深々と頭を下げる。

 

「孫太夫さま、黒丸さま、元血車党の千里と申します。これから何卒よろしくお願いいたします」

 

その千里の殊勝な姿を見て、孫太夫と黒丸は思わず微笑みを浮かべた。

 

まず孫太夫が

 

「千里殿、固くならずとも良い。これからの道中、まずは気を楽にさせるとよい」

 

千里に向かってそのように言う。

 

続いて黒丸も

 

「血車党の事はもう忘れなされ。千里殿はまだ若い。これからの人生を大切になされよ。我らに遠慮せずともよい」

 

彼女に向かって気を楽にするようにすすめた。

 

「はい、ありがとうございます」

 

千里はあらためて深々と両人に向かって頭を下げる。

 

本当に血車党と何と言う違いなんだろう…

 

そしてハヤテが

 

「千里さん、達者でな」

 

カスミが

 

「千里さん、頑張ってね」

 

ツムジが

 

「千里さん、また会おうね」

 

それぞれに声をかける。

 

三人それぞれの言葉に千里は嬉しそうに破顔した。

 

「はいっ!、本当にお世話になりました」

 

その様子を確認した孫太夫は伊賀に向けての出発のため、千里を促した。

 

「千里殿、では参ろうかな」

 

(了)

 

 


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