「先生。ジャップカサイをご存知ですか?」
恋人の鷲見セリナの言葉に思考が固まった。
「なにそれ?」
聞きなれないワードに思わず、聞き返した。えっ? 何? 日本人差別された?
「簡単に言えば、男性の睾丸を揉みほぐしてマッサージするんです。これによって男性機能の向上や改善にも繋がるらしいんです」
「そんなものがあるんだ。でも」
私は咄嗟に己の股に手を添えた。他人にこれを握られる。これは男の弱点を晒すようなものだ。
「抵抗があるのは分かります。でも」
彼女がそう言って私の胸元に体を寄せた。彼女の温もりと甘い匂いが漂ってくる。
「私は先生との間に未来を見ています」
彼女が上目遣いで私の目に訴えかけて来た。ああ、そうか。彼女は私が思っていた以上に私に真摯に向き合ってくれているんだ。ならばこの想いに報いないわけにはいかない。
「いいよ」
私が承諾すると、彼女が嬉しそうに笑顔を作った。そして、瞬く間に私の衣類を剥ぎ取って、ベッドの上に運ばれた。
デスクライトに照らされた暗い部屋の中、施術は行われた。正直、痛い。そりゃそうだ。何せ玉を握っているわけだからな。痛いに決まっている。
だけど彼女の器用なおかげで今の感度を保てている。これがミカなら終わっていた。それに彼女との将来。子供の事やそれらを考えれば、こんな痛み大したものではない。
「それで、先生一つ聞きたい事あるんですが」
「何だい?」
「昨日の夜。ハナエちゃんと何していたんですか?」
時が止まった。彼女の手も固まった。しかも力が入った状態だ。神経が過敏になっているせいか。徐々に空気が冷たくなっていくのを感じる。
「あれ? 聞こえませんでしたか? ハナエちゃんですよ。朝顔ハナエちゃん。私の後輩の」
「わ、分かるよ」
まずい。文字通りタマを握られている状況だ。心なしかさっきより力が加わっている気がする。まずい。本当にまずい。返答次第で子孫が途絶える。ご先祖様、本当にごめんなさい。
そんな事よりまずは弁明だ。セリナが光のない瞳でずっとこちらを見ている。彼女の言う通り、僕はハナエと二人で出かけた。でも決してやましいことがあったわけじゃない。
「じ、実は相談に乗ってもらっていたんだ!!」
「相談?」
抑揚のない声で彼女が首を傾けた。私は震える手である一点を指差した。
「そ、そこのショーケースを」
彼女が色のない瞳でじっとこちらを見ながら、指を離していく。緊張感で息が詰まりそうだ。彼女がショーケースを開けると彼女の動きが止まった。
「これは」
一言呟いて、ショーケースから何かを取り出した。手の平サイズの箱だった。
「開けて見て」
私の言葉に導かれるように彼女は箱を開けた。彼女は目を見開いていた。そこには指輪があった。小さな羽根の形が刻まれた銀色の指輪だ。
「これを君に渡したかったんだ。不安にさせてごめんね」
「先生。嬉しいです」
彼女が目尻に涙を浮かべて、微笑んだ。こんな形で知られてしまったのは、私の理想に反しているがそれでも彼女が喜んでくれるなら、何よりだ。
「それはそれとして、ハナエちゃんとの事しっかり聞かせてくださいね?」
どうやらまだ、終わっていないらしい。