TS獣人の吟遊詩人お姉さんが主人公っぽい少年を襲ってしまった話。 作:ソイレント・グリーン
新TS転生者現るの巻。
※えっちまでが結構長い。
なんだか、ひどく無様な死に様だったと思う。
詳しくは覚えていない。ただ魂に焼き付いているのは、俺を裏切ったアバズレと、その原因となったクズ野郎の顔だけ。
復讐を果たすことすら叶わず、俺は無念の死を遂げた。
来世があるのなら、もっと幸せになりたい。あんなクソカスどもが幅を利かせるような、下らない価値観に縛られた世界ではない、もっとまともな世界に生まれたい──そう願いながら、下へ下へと落ちていった。
落ちて、落ちて、どこまでも落ち続けた。肉体だけではない。魂までも底の無い何処かへ落ち続ける。
川底へと沈んでいく小石のように、ゆっくりと、けれど確実に。激しい奔流に揉まれるたび、記憶が削れ落とされてゆく。それでもなお深みへと落ち続け──そして、再び光を感じた時には。
「おぎゃあ!おぎゃあ!」
新たに生を受けた。つまりは転生したのだ。
生まれ落ちたのは、狼の獣人たちが暮らす閉鎖的な集落だった。
前世とは異なり、女としての生を受け、頭部にはピンと尖った狼の耳が生え、尾てい骨あたりからは黒銀の尻尾が伸びている。
与えられた名は「カルヴァリア」
三歳になり、自我がはっきりし始めた頃、俺は前世の記憶を思い出した。ほとんどが曖昧だったが。
元の名も家族の顔も朧げで、男だったことや年齢…あと性格くらいしか思い出せない。だが、それら以上にこびりついて離れない感情があった。
煮え滾るような怒りと苛立ち。
時おり脳裏によぎる、靄のかかった男と女の顔。それを思い出すだけで、烈火の如き熱と、腐敗したヘドロの底に沈められるような、名状しがたい負の感情が溢れ出す。
まるで何か、記憶の壁に張り付いて離れない、不愉快な蟲がいるような……そんな、忌々しい記憶。
その記憶のせいもあり、俺はどうにも生まれ落ちた環境に馴染めなかった。
集落を支配していたのは、原始的で実に下らない掟だった。
強い者がすべてを奪い、女はより強いオスに媚びへつらう。弱い者はとことん虐げられ、尊厳すら搾取される。
野生の狼の群れのほうが、まだ秩序を重んじていただろう。
己を勝者だと信じて疑わない傲慢な奴らがいた。死ねばいい。
強者の顔色を窺い、媚びへつらう連中がいた。死ねばいい。
弱さを受け入れたふりをした、無気力な者がいた。死ねばいい。
この集落を構成する要素全部が大嫌いだった。
今世の父も、母も、兄弟も、隣人も、例外ではない。
それら全てが、俺の魂の奥底に眠る記憶を逆撫でし、苛立たせる。
全員死ねと本気で思っていた。
十六歳を迎え、俺の身体は女性的に成熟し始めた。
黒銀の長髪に、青紫の双眸。引き締まった肉体と、豊かに実った胸や尻。客観的に見ても、オスを惹きつけるには十分すぎる身体だったのだろう。
集落のオスどもが向けてくる視線が、目に見えて変わった。
肌にまとわりつくような、じっとりと湿った気色の悪い欲望の眼差し。
「なあ、カルヴァリア。お前も今夜うちに来いよ 他の女も来るんだ。何するかって? わかってんだろ?」
「お前、いい身体になったよなァ……強い子を産みそうだ……」
「俺ならお前を満足させられるぜ…? へへ、へ……」
黙れ。触るな声をかけるな。
俺を女扱いするな。殺すぞ。
メスどもの態度も変わった。
「〇〇の息子さん、もう四人も孕ませたらしいわよ…! 貴女もあの強い血を貰いたくない?」
「〇〇に色目使ってんじゃないわよ…! 少し見た目がいいからって調子に乗って…!!」
「生娘なんて面倒くさがられるだけよぉ? うちの人でちらしときましょうよぉ?」
凄まじい嫌悪感と不快感。こいつらと同じ身体を持っているなどと信じたくはなかった。
元々関わりなど作らなかった俺だが、尚更距離を取り、一人森の奥で鍛錬をして過ごしていた。
もうここの奴らの、誰の目にも映りたくない。誰の記憶にも残りたくない。こいつらの一員になってしまうような気がして、自分から拒絶の壁を張り続けた。俺自身の頭の中からも、奴らの存在を少しでも追い出せるように。
ある日、祭りが執り行われた。
年に一度、集落で最も強いオスを決める祭り。そして勝者に選ばれたオスは、好きなメスを選び、己の子を孕ませる権利を得る。
勝者のオスは、俺を指名した。
負けたオスも、選ばれなかったメスも、俺の逃げ場を無くし、前へ前へと押し進め、抵抗など許さない。
脳裏に声が響く。
己を絶対の勝利者だと信じ切ったクズ野郎の嗤い声。そして、媚びを売るアバズレの甘ったるい嬌声。
脳裏に、いや……魂にこびり付いた、拭えない“記憶”。
気に食わない。苛立つ。苛立つ。苛立つ。
一瞬にして、赤黒い烈火が思考を支配し、俺の理性を消し飛ばした。
我に返った時、俺は静かな血の海の中心で、膝をついていた。
思考が停止したまま、ゆっくり辺りを見る。呼吸すら忘れて。
ふと視線を落として手を見ると、大きく刃毀れし、肉片がこびりついた一振りの大剣を握っていた。祭りの参加者が持っていた、名もなき得物の成れ果てであろう。
一人残らず皆殺しにした。俺が。
火事場の馬鹿力と呼ぶべきか。この俺が、祭りの勝利者すらも殺し、一晩で集落を壊滅させた。
その事実に気がついても、俺の心は冷静だった。むしろ胸には、静かなる歓喜が沸き立っていた。
今の俺には、気に食わない世界をぶち壊すだけの力がある。無かったことにできる。全身に刻まれたこの傷が、血に塗れた大剣が、何よりの証拠だ。
俺は大剣を背に担ぎ、井戸から汲み上げた冷水を頭から一被りして血を洗い流すと、振り返ることなく歩み出した。
故郷を出てから、半ば賊と変わらない無法の傭兵として世界を渡り歩いてきた。
あれから早いもので四年が経ち、いつしか『骨砕きカルヴァ』などという名で呼ばれる、そこそこの有名人になっていた。
大剣は戦いの中で砕け散ったため、魔獣の骨や戦場で拾い集めた鉄塊を継ぎ接ぎした結果、今や身の丈をゆうに超える巨塊へと成り果てていた。持ち運ぶには面倒な代物だが、敵を叩き潰す感触はなかなかに気に入っている。
それとこの骨の兜。かなり強力な狼型魔獣の頭蓋骨で、耳も出せるし、ガッチガチに硬いしで、こちらもお気に入り。
武具もこんなんだから、はたから見たら傭兵というより狂戦士でしかないな…。
この世界はどこもかしこも戦争ばかりだ。おかげで仕事に困ることはない。
戦場には、欲望に憑りつかれた自称強者どもが蛆のように湧いていて、俺はそういう奴らを仕留め続けた。
だがそれでも、俺の魂を蝕み続けるこの忌々しい苛立ちだけは、決して消えることはなかった。
苛立ちに身を任せ、掻き消すように気に入らないものを殺し、ぶち壊し続けた。今となっては、かつて下らないと嫌悪した、原始的な行動原理で動いている連中と同類に成り果てているのだろう。
もう、半ばどうでも良かった。何をしても、何処にいても、この苛立ちは消えない。俺はこの濁った感情を抱えたまま、死ぬまで生き続けるだけだ。
「その生き方、大変美味ですね」
「あ?」
ふいに背後から掛けられた穏やかな声に、俺は瞼を開いた。
こんな森の深奥、真夜中に訪ねてくる奴なんざ、まともな人間であるはずがない。
俺は上体を起こすと、傍らの得物を肩へと担ぎ上げた。
「おっと。私、何も争いに来たわけではありません」
「てめぇの都合なんざ知らねぇ」
振り返りざま、相手を視界に捉えるよりも早く、巨塊を横に薙いだ。
一撃は相手の胴体を綺麗に消し飛ばし、肉体を上下に両断する。吹き飛んだ胴の隙間を埋めるように、残された頭部がだるま落としの要領で下半身の断面へすとんと落ちてくっついた。
「血の気が多いことで。さすが『骨砕きカルヴァ』」
「人間じゃねぇな? 何処のバケモンだよ」
そいつの頭部は、無数の翼と複数の眼球のみで構成されていた。胴体を吹っ飛ばしたせいで、頭部から足が生えているという、ちょっと面白い感じのマスコットっぽくなっている。
「貴女の中に永遠に燻り続ける負の感情、とても美味しいです。だから感謝の言葉を伝えに来ました」
何だそりゃ? こいつ感情を食ってんのか。悪魔か何かかよ。
「概ねそんなようなものです」
「頭ン中勝手に見てんじゃねぇ。殺すぞ」
二頭身の悪魔は、無数にある眼球をすべて細め、ニッコリと笑った。
「貴女の燻りは、その元凶となる者へ復讐を果たさない限り消えることはまず無いでしょう」
悪魔の断面から、もこもこと肉が泡立つように脈動し、失われた胴体を瞬く間に再構成してゆく。すげぇグロテスク、キショい……。
「だからこそ、この世界においてその燻ぶりは永遠のもの……そして、私にとってそれは尽きることの無い最高の食事なのですよ!」
「てめぇが何言ってんのかマジでわかんねぇわ」
「分からなくて良いのです。つまるところ私には貴女が必要、ということですよ」
悪魔に必要とされたところで、縁起の悪さしか感じない。
「それに……貴女は存在そのものが激しく揺れ動いていますね。身体と心、魂と記憶──そのすべてが繋がっているようで、決定的にズレている。実に不快で、実に素晴らしい……それもまた、極上……!」
何か喚いている奴の戯言なんぞ、もはや耳に入っちゃいなかった。
まともに殺せる相手なのか知らんが、やはりこいつは今のうちに殺しとくべきなんじゃなかろうか。
そう判断して再び武器を構え直した瞬間、再生し終えた奴の手がひらひらと制止のジェスチャーをした。そのまま、上着の内ポケットに手を突っ込み、何かを取り出す。
あれは……小瓶?
「本当は渡したくないのです。渡したくはないのですが…貴女には死んでほしくないのです。だからこれをお渡しします」
「あ゙ぁ゙? じゃ渡さなきゃいいだろうが」
奴は俺の言葉を微塵も気にせず、小瓶を無造作に放り投げてきた。反射的に叩き割ってやろうとしたが、巨塊を振り抜く直前、背筋にぞわりと冷たい悪寒が走り、俺はその瓶を素手でキャッチしていた。
「いい判断です」
掌の中の小瓶は、今まで感じたことがないレベルの禍々しい魔力を放っていた。とんでもない厄ネタなんじゃねぇか、コレ……。戦場でも流したことのない、嫌な冷や汗が頬を伝う。
「マジでヤバい! 死ぬ! って時だけそれを使ってください。死ぬほど痛いし苦しみますが、超越的な力を得られるはずです。生きて元に戻れるかは………ま、運ですかね」
「怖っ! 要らんわこんなもん!!」
「いやぁもう渡してしまったんで…それでは私はこの辺で…ほな……」
あ、おい!!消えんなクソカスコラ!! ってなんだこりゃ! 手にくっついて取れねぇ!!
小瓶はまるで沼に沈むように、じゅぶじゅぶと肉の奥深くへと吸い込まれて消え失せてしまった。やられた…! やべぇモンを押し付けられてしまった気がする。
どれだけ皮膚を掻きむしっても、何の意味も無し…。胸糞悪さに苛立ちながらも、どうすることもできずに俺はふて寝をした。これが後々、あんな事態を引き起こすとも知らずに──。
それからしばらくして、俺は普段受けるものとは毛色の違う依頼を引き受けていた。
戦場を荒らす傭兵としての仕事ではなく、世を乱す「邪教」とか言うテロリストを叩き潰す、言わば世直しの仕事だ。
何か意図があるわけでもなかった。そういう気分だった、としか理由はない。
集められた顔ぶれは、普段周りにいるような賊徒蛮族悪党ではない。冒険者だの探索者だの……陽の当たる場所を真っ当に歩いてきた手合いばかりだ。
そのどこか小綺麗な空気がどうにも居心地悪く、俺は広場の後方で腕を組み、長話を聞き流していた。
「───各隊の配置だが、本隊が正面を──」
依頼主側の指揮官が壇上であーだのこーだの喋っているが、右から左へと聞き流しながら欠伸を噛み殺す。早く終わらねぇかな、と壁に寄りかかっていたら、横から突然声をかけられた。
「あー…あんたも同じ班、だよな?」
「んぁ?」
視線だけを向けると、そこに立っていたのは少年だった。
灰色のツンツンと跳ねた短髪に、まだあどけなさの残る顔立ち。こんなガキまで頭数に入ってんのかよ、と毒づきたくなる。
「おお、同じ班であってると思うぜ(まともに話聞いてなかったけど)」
「よかった〜! 違ってたら恥かいてたぜ…」
俺の適当な返事に、ガキは緊張の糸が切れたようにへにゃりと破顔した。正直、その笑顔は今の俺には少し目障りだった。
「俺はクライ! あんたは?」
「カルヴァだ」
差し出された右手を無視し、俺はぶっきらぼうに名を告げる。どうせ今回限りのチームだ。馴れ合う必要などこれっぽっちもない。
依頼を受けたことを内心で後悔しかけたのだが……。
「あ、あのさ…その……」
「あ? んだよ」
クライは照れくさそうに頬を掻き、視線を泳がせている。何か言いたいことがあるならハッキリ言えってんだよ。
「あんたの、その武器なんだけど……」
「これか? なんか文句でもあんのかよ」
「めっっっちゃくちゃ!!カッコいいな!!!」
「………は?」
予想外の言葉に、間抜けな声が漏れた。
無駄に言いづらそうにしといて………それ??
クライの青い瞳は、数少ない前世の記憶の中でも、この血生臭い世界に転生してからも一度も見たことがないほど、キラキラしていた。
この巨塊が……カッコいい?
数え切れないほどの肉を叩き潰し、血を啜ってきた、この歪な鉄と骨の塊が……?
「ふ…ははっ………」
「?」
「お前、なかなかセンス良いじゃねぇか。持ってみるか?」
「いいのか!?」
ここまで真っ直ぐで純粋な感情をぶつけられてしまえば、全身に張り巡らせていた棘を立て続けることすら、なんだか馬鹿馬鹿しく思えてしまったのだ。
クライは移動中も、人懐っこく何度も話しかけてきた。
獣人の戦い方についてだとか、今までどんな魔獣とやり合ってきたのかだとか。
他愛のない雑談だ。だが、こんな会話を交わしたのは一体いつ以来だろう。裏も打算も含みもない、ただ真っ直ぐなだけの言葉のやり取り。
ふと見やると、少年の青い瞳が陽の光を反射してキラキラと輝いていた。
(こいつこんなんで、この世界生きてけんのかよ?)
まだ十三か…十四かそこらだと思う。何でこんな命がけの仕事を選んだのかは聞かなかった。それなりの理由があるのだろう。
それでも屈託なく笑うこの少年に、俺はある種の憧れを抱いていたのかもしれない。
邪教徒どもの掃討自体は、そう難しい仕事ではなかった。
いっちょ前に数だけは揃えていたので、こちらの人数も多くて助かったってくらいだ。それでも戦いとしての張り合いはない。テロリストだの邪教だのと大層に名乗る割には、この程度か。
「後方ォ!!引けぇ!!引けぇッ!!!」
前線で盾役を買って出ていた連中が、血相を変えて悲鳴を上げながら退却してくる。
目を凝らせば、重装兵が無残に引き千切られ、宙を舞って四散していた。なーんかいやがるなぁ? デケェ奴が…。
面白ぇ。
逃げ惑う人の濁流に逆らい、俺は一人、前へ向けて歩き出した。
「バケモンだ!とんでもねぇバケモンを呼びやがったあいつら!!」
「逃げろぉっ…! こんな事になるなんて聞いてねぇよ!!」
地を揺るがす大咆哮。
立ち込める紫煙の奥から現れたのは、異形の双頭。まるでまるで二人の大男を無理やり縫い合わせたようで、身体には悍ましくドロドロとした黒い粘体を纏っている巨人。
「■■■■■■■■───!!!!!!」
「おーおー、耳障りな声で喚くじゃねぇか……!」
怪物の足元では、満身創痍の邪教徒が血で描かれた魔法陣に縋り付いていた。
「おぉぉ……黒きゲオマグスよ……地に崩壊を…人に滅びを……」
俺は足元に転がっていた手頃な槍を拾い上げ、適当に投げ飛ばした。穂先が狂信者の頭蓋を破裂させる。魔法陣は消滅したが、巨人が消える気配はない。詠唱者を潰せば消えるかとも思ったが、どうやらそう都合よくは行かないらしい。まあ、簡単に消え去られても拍子抜けだ。
巨塊を構える。苛立ちがすうっと引いていくのが分かった。戦いの中にいる時だけが、俺の魂に安らぎを与えてくれる。
地を蹴り、間合いを詰めようとした瞬間──俺よりも早く、頭上から閃光のような人影が舞い降り、巨人の肉体へ斬撃を叩き込んだ。
空中で軽やかに一回転し、俺のすぐ隣に着地する。
「っ、無事か!?カルヴァ!!」
「お前…クライ…」
あの陽の化身みてぇなガキだった。大混乱のどさくさに紛れてとうに逃げ去ったと思っていたんだが、まだ残ってたのか。
「カルヴァ……死ぬ覚悟ってできてるか…?」
「あ?」
巨人の姿をしっかり見据えながら、クライは真剣な横顔でそんな問いを投げてくる。
何だそりゃ? 修羅場を潜り抜けてきた数を考えれば、俺がお前に聞くような台詞だろうが。
「ハッ……まだ女も抱いたことのねぇようなガキが偉そうに……」
「な…!? それ関係ないだろ!!?」
緊迫した戦場だというのに、空気が緩む。だが、不思議と悪くない心地だった。
「とにかく!あの化け物、たぶんめちゃくちゃ強いぞ…!特にあの黒いドロドロに気をつけろよ…!」
「言われなくても分かってんだよ」
何だか、死ぬ気が全くしねぇ。
「始めんぞ、クソガキ」
「おう!!」
結論から言うと、勝利した。
全身に無数の裂傷を負い、骨がきしむほどの満身創痍だったが、それでも最後まで立っていたのは俺たちの方だった。
クライの奴、調子こいた事言うだけあってかなりの使い手だ。
双剣を使った高速の戦闘。クライが敵を翻弄し、隙を作ったところへ、俺の巨塊が致命の一撃を与える。正直、驚くほどやりやすかった。獣人である俺の反応速度についてくるのだから、大したものだ。
傷口に包帯を固く巻いた身体で、俺はジョッキの酒を呷った。
討伐の成功を祝い、費用はすべて隊長持ちという太っ腹な勝利の宴が広場で開かれていた。
「作戦の成功と、最大の功労者へ!!」
壇上で祭り上げられているクライの姿が見える。居心地が悪そうに引きつった笑みを浮かべてやがる。まったくいい気味だ。
俺も壇上へと引っ張り出されそうになったが、話しかけるなオーラ全開にして面倒事は避けさせてもらった。大っぴらに賞賛されるなんざ、まっぴら御免だね。
聞けばクライの奴、俺の所へ駆けつける道中、取り残されていた兵士や参加者を何人も救い出していたらしい。広場を歩くたびに、見知らぬ連中から涙ながらに手を握られて感謝され、身動きが取れなくなっていた。
やっとこさ俺の隣に転がり込んできた頃には、すっかりやつれ果てて腹を鳴らしていた。
「ここまで持て囃されるとは思ってなかったぜ……」
「おつかれさん」
「あんたも功労者だろ! なんで俺だけなんだよ!」
「ははっ! ま、経験になってよかったじゃねぇか。なあ?」
誰かと無駄話に興じるつもりなど毛頭なかったのだが、酒が入るとどうにも口がまわる。
言葉を交わすうちに、クライが参加した理由も何となく察した。あいつ、邪教どもと何か因縁があるらしい。
どんな因縁があるのかとかは興味ねぇが、こいつ、思ったよりも穢れ無いタイプってわけじゃなさそうだ。
底抜けに明るい性格に嘘はない。だが、それだけではない。
荒削りだが、半端ではない強さ。
調子には乗るが、傲慢ではない。
それに何より──俺を女扱いせず、一人の戦友として見ている。
なるほど? うん…ちょっと気に入った。
話を聞いた感触からの推測でしかないが、旅の目的もどうやら復讐ときた。
「クライ! お前も飲めよ!」
「え? いや俺はまだ酒は早いかなって……ガボボボ!?」
なんつーか、クライの奴はまるで──。
そう、『主人公』みたいだったんだ。
それから、なぜか報奨金を出し渋った悪徳領主を二人でぶん殴りに行ったり、クライの荷物を盗んだコソ泥を屋根伝いに追いかけ回したりと、なんだかんだ俺とクライはその街に滞在している間、ずっと行動を共にしていた。
「災難すぎる……今回もありがとなカルヴァ……」
「お前マジで巻き込まれ体質だなぁ…おかげで退屈しねぇよ」
たった一ヶ月程度の付き合いだったが、この世界に転生してからの記憶の中で、最も楽しく充実感のある時間だった。
落ち着いてきた頃、クライは次の目的地へ向けて街を発つことにしたらしい。
俺も、折角ならと同じタイミングで街を出ることにした。
「じゃあな、元気でやれよカルヴァ! またいつか会おうぜ!」
「おう、次会ったときは敵同士かもな?」
「………無くはなさそうなのが嫌なんだが」
街道の分岐点で別れる際、今回限りのチームだ、なんて最初は思っていたはずの俺は、自然と再会を願う言葉を返していた。
「もし敵だったら、死ぬまで殺し合おうぜ」
「冗談に聞こえないからやめろって!」
カラカラと、喉の奥から笑いが零れる。
負の感情が一切混ざっていない、嘘偽りのない純粋な笑みだった。
「まァいいや……とにかくさ、俺のこと忘れんなよカルヴァ!」
「……………善処するぜ」
そうして俺はまた、血みどろの歪んだ戦場へと戻っていく。
だからこそ──このたった一ヶ月間の記憶だけは、胸の奥で錆びつかせることなく、大切に抱いて生きていこうと決めていたのだ。
そう思っていたというのに。
あれから、二年が経った。
あの時とは違い、俺は邪教側の傭兵として雇われていた。まあ、この稼業に身を置いていりゃそういう巡り合わせもある。
俺は邪教徒どもが占拠した村の砦に陣取っていた。あの討伐以来、依頼を受けても誰ともつるむことはなかった。
結局のところ、戦場にはクズばかり。たまに冒険者どもの受ける仕事に混ざることもあったが、どいつもこいつも人間性はたかが知れていた。
また荒んでいた。我ながら面倒なやつだと思う。
砦の物見台で夜風に当たりながら一眠りしようとしていた矢先、下から甲高い声が飛んできた。
「おい、傭兵!ちゃんと見張っていろ!愚民どもの宿営地がすぐそこにあるんだからな…!」
「へいへい…」
やかましいこったよ。
仕方なく単眼鏡を覗き込み、邪教討伐隊の陣営を見張る。
邪教徒どもは、数ヶ月前に古代都市にあった大拠点を潰されたとやらで、だいぶ気を張り詰めてやがる。そこから命からがら逃げ出してきた奴も、この村に合流しているんだとか。
古代都市の拠点、相当な規模だったらしいが……よく壊滅させられたもんだ。中々の手練れがいるらしい。
こいつらは殆どが戦闘もしたことのない雑魚ばかりだが、得体の知れない怪物を召喚したり、頭一つ抜けた魔導師を抱えていたりと、有象無象では太刀打ちできない戦力を持ってやがる。ま、ここにいる奴らは寄せ集めだから、そんな切り札も持ち合わせていないようだが。
ため息交じりにレンズのピントを合わせる。
この角度からでは敵陣営の全容までは拝めない。だが、大部分が静まり返っているのは見て取れた。まばらに起きてる奴らが、欠伸を噛み殺しながら警備に就いている程度だ。
俺一人で突っ込んでも十分引っ掻き回せそうだが、邪教徒の連中に止められている。余計なリスクは冒したくないんだとさ。
「ん? あー…あれは……」
暗がりの奥、テントの裏手の物陰に視線が留まった。ギリギリ見えたが……うん、あれは完全にヤッてんな……。
珍しくもない光景だ。宿営地にわざわざ娼婦を連れ込んでるのか、それとも戦場で攫った女を慰み者にしてるのか。後者の手口なら、敵だろうが味方だろうが虫唾が走るから即座に叩き潰すところだが。
それにしても、こんな夜更けにわざわざ野外に出てやるかね、普通……。
くだらねぇな、と苛立ちと呆れで、その光景を視界から外そうとした、その刹那だった。
「………あ゙ぁ゙?」
たまたまだ。たまたま捉えた、腰を動かしている男の方の顔から、どうしても目が離せなくなった。
「クライ」
忘れるはずがない。
この世界で唯一、打算もなしにまともに言葉を交わすことができた、あのガキ。
奥歯が軋む音が頭蓋に響いた。視界が急速に黒く濁っていく。握りしめた単眼鏡の筒が、ミシミシと嫌な音を立てて歪み始めた。
なんだこりゃ? なんだ?
クソほどにもイライラする。苛つく。苛つく。苛つく。
なんでだ? なんで俺が勝手に裏切られた気になってやがる?
勝手に期待して、勝手に気に入って、その結果がこれか?
結局アイツも、その辺に転がっている有象無象どもと何も変わらなかったってことか?
──いや、違うだろ。
俺が勝手に、アイツだけはあんな真似はしないと決めつけていただけだ。
そもそも、アイツがどこの誰とヤッてようが知ったこっちゃない。俺には何一つ関係のない話だ……。
だからこれは、まるで見当違いな八つ当たりだ。
その、はずだ。その……はず……なんだが……。
「ッ…!!!」
無意識に指先へ渾身の力を込めていた。
甲高い破砕音とともに、単眼鏡のレンズと金属筒が手のひらの中で粉微塵に弾け飛ぶ。
頭の中が赤黒く染まり始めている。
声が響く。記憶にこびり付いている、忌々しいあの声が…。
その晩は一睡もできなかった。
「駄目だ! 逃げるぞ! そしてマグスへ助けを乞うのだ!」
翌朝は、夜明け前から怒号とパニックで幕を開けた。
討伐隊の連中は見事な手際で村を完全包囲し、邪教徒どもを一網打尽に追い詰めていた。
俺は敵の動きを把握していたが、微動だにしなかった。昨晩は一睡もできず、見張り台から討伐隊の布陣を嫌というほど観察していたのだから当然だ。
砦から広場へと飛び降りる。村の中はすでに地獄絵図と化していた。
檻から放たれた魔獣が暴れ回り、邪教のローブを着せられた村人の捕虜が逃げ惑い、討伐隊も誰が敵か判別できずに混乱している。
その混沌のただ中、俺は中央の石段に腰を下ろした。
やがて、群を抜く速さでこちらへ突進してくる気配を察知した。
──来たな。
ザリッ、と足裏で石畳を削って急停止し、そいつ──クライが俺を見据えた。
「あ、あんた…! カルヴァ、か…!?」
「久しぶりだなあ、二年ぶりか?」
明らかに動揺している。そうそう、お前はそういう顔をする奴だった。
「俺言ったよなあ!? 次会ったら、死ぬまで闘ろうってよぉ!!」
「嘘だろ…!? マジで敵なのかよっ…!!」
脚部の筋肉を限界まで収縮させ、一気に爆発させる。バネ仕掛けのように間合いを詰め、渾身の力で巨塊を叩き下ろした。
双剣を交差させて間一髪で受け止められたが、その衝撃でクライの足元の石畳が円形に爆ぜ、すり鉢状のクレーターが穿たれる。
「お、重……!?」
「ちったぁ強くなったかあ!? あ゙ぁ゙!?」
「おま…何か…怒ってねぇか!?」
まともに押し返すのは不可能と悟ったのか、奴は刃を滑らせて横へと身を翻した。大地に深々と突き刺さった巨塊が、衝撃波でさらに地面を抉り飛ばす。
「女も勿論抱いたんだよなあ!? 昨晩みてぇによぉ!!」
巨塊の柄をガッチリと牙で咥え、地面すれすれまで上体を沈める。まさに四足の獣のように。
「な!?!? なんでそれっ…!!!??」
建物の壁を蹴り、縦横無尽に跳ね回る。奴の動体視力では追いきれていない。
すれ違いざまに放った巨塊の一撃を紙一重でかわされたとしても、二段目に振り抜く鉤爪の連撃で確実に肉を切り裂く。
クライの身体が、浅からぬ裂傷と返り血に染まり始めた。
「ぐっ……くそっ………!!」
着地し、手に持ち替えた巨塊を荒々しく引きずる。火花が散る。
「ありゃ娼婦か?」
「っ、ちげぇよっ…!!」
「ほう? んじゃ恋人か?」
「……いやっ……それも…違う…と、思う………」
その返答を聞いて、俺は巨塊を砲弾のようにぶん投げた。奴は双剣で受け止めたものの、勢いを殺しきれずに背後の民家へ激突し、家屋ごと轟音を立てて倒壊した。
「はっきりしねぇんなら死ね」
その時だった。
「クライっ…!! 大丈夫か!」
「あ゙ぁ゙…?」
屋根の上から聞き覚えのない声が降ってきた。
……獣人か。頭には尖った耳、尻からはしなやかに揺れる細い尾が生えている。
猫ってわけか。だが、それよりも俺の目を釘付けにしたものがあった。
「なるほどなあ…てめぇか……」
猫女が羽織っている薄黄緑色の外套。あれは昨晩、クライの足元に脱ぎ捨てられていたものだ。意味するところは一つしかない。
肺に深く息を吸い込み、再び脚力に全体重を乗せ──弾丸のように宙へと跳んだ。
だが、俺の鉤爪が猫女の喉笛を裂く直前、火花を散らして軌道を遮られた。
「やめろ…! カルヴァ…!!」
「その女が大事か?」
咄嗟に割り込んだクライの剣に弾かれ、勢い余った俺の身体は向かいの民家の壁を突き破っていた。
「クライ!? し、仕方ない…! ♪~~♪……♪♬~~!!!」
なんだ……この音は。耳障りな旋律だ。
立ち込める粉塵の向こう、瓦礫の中から燃え盛るような紅い魔力が噴き上がった。次の瞬間、攻城兵器にでも直撃されたかのような凄まじい衝撃が叩き込まれ、俺の身体は広場を越えて反対側の建物まで吹き飛ばされた。
「ぐ…くっ……強化って訳かよ………ははっ!」
あの喧しい歌声がバフだったのか。なるほど、便利な支援役を連れてやがる。あの猫女が一人いりゃあ、一騎当千の化け物にもなれるわけだ。
「クライ……もしかしなくても、彼女冷静じゃない感じかな…?」
「ああ…何か知らんけど、めちゃくちゃ怒ってんだよ……とにかく、殴って落ち着かせてみる…!!」
「殴ったらかえって逆上するのでは……???」
射出された矢のような猛スピードで突っ込んできたクライと、正面から刃を交え続ける。
火花が散るたびに大気が鳴動し、衝撃の余波で周囲の石畳が蜘蛛の巣状に割れていく。
「ひゃあぁぁ〜〜! これ僕は引いたほうが良さそうだね…!」
すげぇバフの効き目じゃねぇか。
痛手を負っているのは俺の方だけかよ!
「何でそんな怒ってんだ、よ…!!」
「知らねぇ!!!」
「は、はあ…!? 知らねえって…自分の事だろ…!?」
重い一撃を食らい、俺は両足で地面を深く削りながら後方へ吹き飛ばされた。
そんな事を言われても仕方がないのだ。自分でも言葉にできない苛立ちなんだから。
イライラする。イライラする。
その煮え滾る感情に呼応するように、掌の奥が焼け付くように痛み、気がつけば指の中に何かが握りしめられていた。
「これは……」
自然と唇が吊り上がり、笑みが漏れる。
手の中に現れたあの小瓶。あの異形頭は死ぬ寸前まで使うなとほざいていたが、そんな警告など知ったこっちゃねぇ。
「っおい……!! 待てよ……!!」
クライがその小瓶に目を留めた瞬間、血相を変えて顔を青ざめさせた。一級の戦士なら、それがどれほど禍々しい呪物であるか直感で理解できるのだろう。
「使うなよ…!! それ使ったら……!」
「どうなるか知ってんのか?」
「……俺の親父は…それで……」
クライは俯き、あのときには見せなかった曇った表情を浮かべた。
………………………は、そりゃ良い。そんな顔をお前がするんなら、俺は勿論使わせて貰おう。
制止の叫びなど届かない。俺は迷わず掌の中の小瓶を握り潰した。
ガラスが砕け散り、漆黒の粘体が溢れ出す。
俺の意識はぷつりと途切れた。
底のない漆黒の水底へと沈んでいく。
不思議なほど心地がよかった。魂のいちばん奥深くに刻まれた傷口を、温かな手で優しく撫でられているような……。
混ざり合っていく。境界線が溶けて、一つになっていく。
この澱みの中で、今の肉体も、前世の記憶も、魂も、俺を形作っていたすべてが溶け崩れて………。
あの異形頭野郎、俺に嘘つきやがったな。痛くもねぇし、苦しくもねぇじゃねぇか。むしろ、その逆だ……。
外の世界では、想像を絶する破壊が繰り広げられている。
今の俺の肉体は、あの黒い粘体で編み上げられた小山ほどの巨躯を誇る黒狼と化していた。
占拠されていた村を跡形もなく踏み潰し、討伐隊のキャンプを薙ぎ払い、森を焼き、山肌を削り崩しながら、近隣の都市へ向けて災厄のように進行している。
クライの叫び声が聞こえる。なんて言ってんのかはわかんねぇけど。
俺に話しかけてんのか? 嬉しいねぇ。ここまで必死になってくれるなんてさ。
信じてくれないかもしれないが、魂の底から嬉しかった。この世界に存在していいんだと、初めて居場所を許されたような気がして──ああ、いや、今の俺はただの歩く災厄なんだから、消えてなくなったほうが余程マシか。
このまま……このまま深い闇と一つに溶け合って、綺麗さっぱり消えちまうのも、悪くはねぇ…………。
「カルヴァアッッ…!!!!」
「っ……は!!?!?」
荒波が岩肌を打ち砕くような激しい水音とともに、闇の中から手首を力任せに掴まれ、強引に引き上げられた。
目を開けると、泥と血に塗れてボロ雑巾のようになったクライが、これまで見たこともないほど怒りを露わにした顔で俺を睨みつけていた。
「ざけんな…!! 何があったのかも話さないで、勝手にいなくなろうとしてんじゃねぇッ!!!」
「ぇ……ぁ…………」
「いきなり自暴自棄になりやがって…!!! 意味わかんねぇよ!!! あんたそんなめんどくさい奴だったか!?!?」
コアである俺を引っこ抜かれたことで、巨躯を誇っていた大狼は足元から崩壊を始め、黒い泥のようにボタボタと肉を零して体勢を崩した。
クライは俺を泥の中から引きずり出すと、乱暴に腕を振って地面へと放り出した。
「って……!!」
体力の大半を怪物の肉体に吸い取られてしまった。立ち上がることすらままならず、俺は這いつくばったまま頭上を見上げた。
大気を震わせる唸り声を上げ、崩れ落ちた泥を強引に蠢かせながら、大狼がこちらを睨み据えている。
──狙われている。失ったコアを取り戻そうと、再び俺を呑み込もうとしているのだ。
全身から力が抜け落ちて、指一本まともに動かない。
……なのに。どういうわけか、身体が信じられないほど軽くなっているような気がする。
いや、それだけじゃない。この軽さは、俺の魂そのものが──。
「おい……!!!」
「あ……?」
頭上から投げ落とされた巨塊が、地面に深々と突き刺さった。動かないはずの腕が、反射的にその柄をガッチリと掴み取っていた。
「あんたが元凶なんだぞ…!! 責任取れよ…!!」
……………責任、か。
何故かその言葉に、鼓動が激しく跳ね上がった。軋む筋肉に鞭を打ち、突き刺さった巨塊を杖代わりにしながら、震える足で立ち上がる。
「クライーー! 彼女、助けられたかーい!!」
「大丈夫だ!!」
少し離れた大木の高枝の上から、あの猫女が声を張り上げて状況を確認してきた。
クライの力強い怒号を合図に、歌声が戦場に響き渡る。
瞬く間に、クライの全身へ燃え盛るような紅い魔力が沸き立つ。それだけではない──大狼を取り囲んで必死に食い止めていた討伐隊の戦士たち全員の身体からも、同様の激しい魔力が立ち上り始めたのだ。
「これ…は………」
そして驚いたことに、俺もその例外ではなかった。
衰弱しきっていた身体の内側から、かつてないほどの濃密な熱量とエネルギーが奔流となって湧き上がってくる。
おい……今の状況の元凶で、敵なんだぞ…?
虚ろな目で、高枝の上の猫女をみると、奴もこちらに気づいたらしい。冷や汗をつー…と流しながら、なぜかサムズアップを向けてきやがった。
………はあ、くそ……あいつもクライと同じようなタイプかよ……。
「…………はぁぁぁぁ」
思わず、腹の底から深く長い溜息が漏れた。
けれど、その吐き出した息と一緒に──ずっと魂の奥底にこびりついて離れなかったヘドロのような澱みが、あまりにも呆気なく抜け出ていった気がした。
あの苛立ちも、忌まわしい記憶も、まるで目を閉じたかのように静まりかえっている。
なんだかスッキリして、頭の中がクリアだ。
「ケジメ………つけさせてもらうぜ……」
巨塊を一息に肩へと担ぎ上げ、先陣を切った。
「はあ………はあ…………」
すべての力を使い果たした俺は、荒れ果てた土の上に大の字で倒れ伏していた。
猫女のバフもとうに切れ、もはや指一本すら持ち上がらない。度重なる突撃に耐えかね、巨塊は柄の根元から粉々に砕け散って瓦礫の山と同化していた。
「殺せよ……クライ…………」
肩で息をしながら、ふらつく足取りで近づいてきたクライを見上げ、掠れた声でそう吐き捨てた。
「……………はぁ……?」
「元々無法者の傭兵だ………邪教にも協力した………どうせ死刑なら、お前に殺されたい」
ぶち、と何かが切れる音が聞こえたようだった。
バフは切れてるはずなのに、クライの背後にオーラが見える。
「お前なあぁ゙ぁ゙〜………!」
「あああ!! 待って待って! ストップだよクライ!」
俺とクライの間に、慌てた猫女が両手を広げて割り込んできた。……なんでお前が俺を庇うんだよ。
「こ、殺す前に、話くらい聞いてあげよう…!? ど、どうやら、彼女、村の占拠には関わってないみたいだよ!? 黒狼討伐でも、一番働いてたじゃないか!!」
「後者はマッチポンプでしかねぇけどな………」
「別に殺さねぇよ!!!」
俺の内にあった怒りや苛立ちは綺麗さっぱり消え去ったが、逆にクライの怒りはまったく収まる気配が無くなってしまった。まあ、当然といえば当然だが……。
「別に執行機関に突き出すつもりもない!! そんなの興味ないし……それにカルヴァが理由もなく、村人に手を出すような奴じゃないってことも、知ってる」
「………………」
「けどせめて怒ってる理由を話せよ!! こんだけの事しでかしておいて、殺せェ!?? 俺と別れたあとに腑抜けたのか!? そんなヤツじゃ無かったはずだろ!」
たった一ヶ月だぞ。二年前に、たった一ヶ月を共にした程度で、俺の何を知っているのか。
だが──だからこそ、胸の奥が痛いほど締め付けられた。
もっと話したい。もっと言葉を交わしたい。
どうにでもなれと投げやりになっていたはずなのに、そんな未練がましい感情がとめどなく溢れてくるのを止められなかった。
クライの言う通りだ。俺はいつの間にか、とんでもなく腑抜けてしまっていたらしい。
「えー…それで、ちゃんと謝ったのかい?」
「……………してねェ……」
あれから数日後。俺は何故か、あの猫女と酒場の片隅でサシで飲んでいた。
あの戦いの直後、大地に転がっていた俺たちの元へ、村の奪還を指揮していた討伐隊のリーダーが神経質そうな顔で詰め寄ってきた。
それに気づいた猫女が慌てて割って入って引き留め、そのわずかな隙を突いてクライが俺を担ぎ上げ、風のように戦場を離脱したのだ。
占拠されていた村の方は、クライの仲間たちの奮闘もあって捕虜の犠牲者はゼロで済んだらしい。残っていた邪教徒どもも烏合の衆ばかりだったため、全員が縛り首同然でお縄につき、執行機関へと連行されていった。
ミイラ男さながらに包帯でぐるぐる巻きにされて数日間ベッドへ縛り付けられていた。
その間、クライの仲間の赤髪のガキに尻尾を玩具にして弄ばれたり、聖女から七時間ぶっ続けで説教を食らったりもした。
そんなこんなで傷も粗方塞がったのだが、どこへ行くでもなく、俺はクライたちと同じ街にだらだと居座り続けているのだ。
「キミ……やっぱりちゃんと話したほうがいいよ? クライ、まだ怒ってるみたいだし」
「それは………」
尤もだ。ぐうの音も出ないほど正論なのだが……。
怒っている理由……言いたく無い……。
だって…しょうもない事なのだ。どこまでも下らない事なのだ。それに……恥ずかしい…。
あの戦いの最中は、自分でも何に対してこれほど怒っているのか分かっていなかった。
だが、あの黒い泥に呑まれた以来、俺の頭の中は決定的に変わってしまったのだ。
まるで、生まれてからずっと分厚い霧に覆われていた脳みそを丸洗いされたかのように、世界が異様なほどクリアに見えてしまっている。
そのせいで、今まで目を逸らしていた色んな感情の正体が、嫌でも理解できるようになってしまった。
自分のことも……そりゃあもう理解できるようになったわけだが………。
「ちっ………恥ずいんだよ……」
「はあ〜〜〜……それでも戦士なのかい? まあキャラのギャップとしてはアリだけどさあ……」
「ギャップってなんだコラ」
キザな物言いが鼻につく奴だが、この猫女は呆れるほどのお人好しで、気がつけば毒気を抜かれてしまっていた。
「今夜僕が部屋にクライを呼ぶからさ、そこでちゃんと謝って、理由を説明するんだよ?」
「ぐ、ぐぎぎ………」
背に腹は代えられず、俺は情けなくも猫女の仲裁に乗っかることにしたのだった。
その日の夜。意を決して重い木製ドアを押し開けると、絵に描いたように不貞腐れたクライが、ベッドの縁に腰掛けていた。
ドアの脇に控えていた猫女が、困ったような苦笑いを浮かべながら、クライの方へ顔を向けて、行けと合図を送ってくる。
「で、話って何だよ」
「ゔ………」
めちゃくちゃ不機嫌だ……。
さすがに居た堪れなくなり、俺はお気に入りの骨兜を外して、胸の前でぎゅっと抱え込んだ。
二年前には思ってもみなかった。まさかクライを前に、ここまで縮こまる羽目になるなんて。
「…その、えと……………いや、すまん……」
「何がだよ」
「………バカみたいに事態でかくしといて、自分勝手に死のうとしたり…………クソめんどくさかったよな…………ほんと、ごめん……」
「………ああ、うん……」
気まず………。
この世界で人に面と向かって謝罪したの、初めてかもしれない。
「で、なんで怒ってたんだよ、あんた」
!!
心臓が跳ね上がった。
「そ、それは………」
「?」
「言いたく、ねぇ………」
「はあ!?」
だって言いたくねぇんだよ!! あの猫女だっているんだぞ!?
静観を決め込んでいたはずの猫女も、えっ、言わないの!?と言わんばかりに目を丸くして慌てふためき始めた。
「ここまで来て言わねぇのか!!」
「ぅ゙、ゔゥ゙ゥ゙…!!」
「それを聞くために俺来たんだぞ!」
「ゔ〜〜〜………!」
クライが立ち上がり、声を荒らげる。
そりゃあ向こうからすりゃ納得いかないのも当然だ。理不尽極まりない理由で攻撃され、殺されかけたのだから。
ドアの脇では、猫女が必死な顔で、い・っ・て!!と口パクを繰り返している。
く、くそ……! 元はといえば、元はといえば……!!
「お!お前が…!! この猫女と交尾してたのが悪ぃんだぞっ…!!!」
大きな声で白状してしまった。
猫女はぶふっ!?と噴き出し、クライは真っ白になって完全にフリーズしている。
「お、お前!! またいつか会おうって…!! 俺のこと、忘れるなって…!! そう言ったのに…!!!」
「ちょ!ちょちょちょ! 待ってくれ! み、みてたのかい!?!?」
顔を真っ赤にした猫女が、宙を両手でわちゃわちゃと掻き毟りながら慌てふためいている。
「二年…! 二年の間、俺は忘れてなかったのに…!! それなのにお前……お前…!!」
「…………つ、つまり、その……カルヴァ…あんたは…」
気づかれてしまったのなら、もうどうでもいい。
「っそ! そうだよ! ぉお、お前が………す……す、すす…すきなんだよっ!!! 何か文句あるか!? あ゙ぁ゙!?!?」
黒い粘体に呑まれてから気がついた、自分自身の気持ち。
あの時、前世と今世が混ざり合い、ようやくこの肉体と魂の輪郭がカチリと噛み合っちまったのだ
この現象はあの異形頭でも想定外の出来事だっただろう。そのはず…たぶん。
今世の身体と記憶は、ずっと気がついていた。
けれど、自分が男だという前世の残滓と、魂にこびりついていたあの忌まわしい裏切りの記憶が、その感情に蓋をし続けていただけ。
魂が混ざり合ったからといって、完全に女になったわけじゃない。今だって自分の中に男としての自我はあるし、誰かに“女”扱いされたら普通に腹が立つ。
だがそれとは別に、明確にひとりの“女”として、クライのことを……その、す……好きになってしまった自分がいることも、嫌というほど自覚してしまっていた。
前のままなら自覚した時点で混乱していただろうな…。
あ、断っておくが、決して獣人の発情期だの本能だのに負けたわけじゃねぇからな! 元男が、そんな本能ごときに屈するわけが無い。そんな恥ずかしい事、あるわけない。うん。
あーだのこーだの頭の中で言い訳を並べ立てたところで、俺がブチギレて村を一つ更地にしかけた理由は、ただの嫉妬、だったのだ。
この猫女がクライと交尾していると言う事実に、脳が破壊されたのだ。
「あ、あー、えっと、その………」
クライは耳の先まで真っ赤に染め上げ、さっきまでの激しい怒りはどこへやら、視線を泳がせてしどろもどろになっている。
おい……!! 俺に白状させといて、なんだその反応は。
なんとか言えコラ…!!
「あ~…あはは……」
猫女ァ!! てめぇ何笑ってんだァ…!!てめぇのせいなんだよこうなったのはァ…!!
俺が先に好きだったのに!!
頭の奥底で、何か細い糸が、ぷつんと音を立てて弾け飛んだ。
俺はふらりと幽霊のように立ち上がり、クライの座るベッドへ向けて音もなく歩み寄る。
「あーー……なんか、もうどうでもいいか………」
「カ、カルヴァ…??」
どさ、と音を立てて、クライが倒れる。
「クライ…!? キ、君何して…!?!?」
うるせぇな猫女……押し倒しただけだろ…。
「お、おぃ…!」
「黙ってろ」
クライの両手首をガッチリと掴み、マットレスの上へ力任せに縫い止める。逃げ場を完全に塞いだまま、俺は顔を近づけ──。
「んむっ!?!?」
唇を奪った。
「へ!?!?!? えっ!? な!?」
猫女の頭が状況について行けず、ショートしている。
「ん……ぢゅる……♡ れゅ……♡ じゅる…んむ……んぇ…♡」
ああ、そうだ。上書きしちまえばいい。
この猫女が残した痕跡も、過去の忌まわしい記憶も、全部まとめて。
今度は──今度は俺が、奪う番だ。
「ん〜〜……♡ ぢゅぱっ…♡ ぇあ……♡♡ ぁむっ…♡」
「は、はわはわわ………」
この身体になってから、生まれて初めて交わすキス。
躊躇なく舌をねじ込み、口腔の隅々まで犯すように貪り尽くす。
熱を帯びたクライの舌を俺の舌で力任せに巻き込み、絡め取り、ぐちゃぐちゃに掻き乱す。
そこで指をくわえて見てろ、猫女。この男は俺のもんなんだ。
口をパクつかせ、ただ呆然と立ち尽くす猫女の姿に優越感が満ちて、抑えようとしても尻尾が勢いよく横に揺れる。
「ぢゅ〜〜………♡♡♡ ……っぱ…♡♡ はぁ……はぁ……♡♡」
唇を離すと、舌先から引き伸ばされた銀の糸が蝋燭の淡い灯火を反射して妖しく艶めいた。
はは…♡ クライの奴、のぼせたみてぇな顔してやがる…♡
そんな無防備な顔を向けられたら、このまま最後まで喰い尽くしてしまいたくなるだろ……♡♡
息を乱して抵抗も出来ていないクライのシャツへ爪を掛け、並んだボタンを一息に引き千切る。
露わになったのは、若く引き締まった熱い素肌。
「んぇ〜〜……♡」
引き締まった腹筋の窪みから胸元へ向け、じっくりと舌先を這わせて這い上がっていく。舌先を細かく動きながら、乳首を刺激した。
猫舌のようなざらつきのない、狼のしなやかで肉厚な舌。吸い付くように滑らかで、たまらなく気持ちがいいはずだ。
「ちゅ…♡ ちゅぱっ…♡ あ〜〜………♡♡ かぷ……♡」
「っ……!」
健康的な肌にこれ見よがしにキスマークを残し、最後に喉仏のすぐ脇を牙で甘噛みしてやる。
こいつは俺のもの…♡ 俺のものだから……♡
手をクライの下半身へと滑らせていく。
酸欠で喘いでいたクライも、流石にその手つきの意図に気づいたらしく、掠れた声で身をよじった。
「か、カるヴァ……待ってくれ…」
「ばーか、待たねぇよ…♡」
「待てぇぇい!!!」
ちっ…!!
思わずぴんと耳を尖らせて猫女を睨み返した。
「な、なに本番まで行こうとしてくれちゃってんのさ!!?」
「あぁ? てめぇさっきまで固まってただろうが。ずっとそうしとけよ」
「いーーや! そうはいかないよ!!」
「エ、エラ…たすけて……」
猫女は猫科特有のすばしっこい身のこなしで、瞬く間にベッドサイドへ割り込んできやがった。狭い場所に割り込んでくんじゃねぇよ、邪魔くせぇ……!
「だ、だって…だってクライは、ぼ、僕のオスだ…!!」
「はぁ?」
「エラさん?」
こいつ……! ふざけたこと抜かしやがって…!! クライがてめぇのものだと…?
「はっ…! んなこと言ってっけど、クライはてめぇと恋人じゃねぇって言ってたぜ?」
「う、うぐ……そ、それは僕も否定できない……けど! クライは僕としかさせないよ! 複数の女と関係があるより健全だろう!?」
な~にが健全だよ! 恋人じゃないのにセックスしまくってんのも十分不健全に決まってんだろ! それもこれも、俺が恋人になれば済む話だ…!!
「じゃあてめぇが引けよ…!!メス猫ォ…!!」
「な……!? メ、メス猫…!? い、いや……君が引き給えよ…! メ、メ、メス犬くん…!!」
「俺ぁ狼だからセーフ」
「じゃあメス狼!!!」
軋むスプリングの上で二頭の獣人が爪と牙を剥き出しに喚き立てるものだから、安物の木製ベッドが今にも圧し折れそうな悲鳴を上げている。
「あの………二人とも……?」
下敷きにされたままのクライがか細い声で何かを呟いていたが、頭に血が上りきった俺たちの耳には届かない。
ヒートアップした俺は、クライの腰の上にどっかりと跨がり直し、牙を剥き出しにして、乳首へ喰らいついた。
「あ!ちょっと!? ずるいぞ!」
「ぷあっ…♡ うっせ! 早いもん勝ちなんだよ…!」
「それじゃあやっぱり僕の勝ちじゃないか…!」
ドン、と横合いから体当たりしてきたメス猫は、強引に隙間へ身体を割り込ませるなり、もう片方の乳首をねぶり始めた。
「ぇあ…♡ 僕の舌のほうが、クライの身体は反応するみたいだねぇ! ふふ…!」
「めでたい頭してんじゃねぇぞメス猫…!気のせいに決まってんだろ…!! ちゅぱっ…♡」
もはやどちらがより深く刻みつけられるかの競い合いだ。左右の乳首をそれぞれ、各々で貪欲に舌を這わせ、吸い付く。
「ぁむ…♡ はむ……♡ ん~…♡ ちゅぱっ…♡ ん~…ちゅっぱっ…!♡」
「ぇあ〜…♡ ぇろ…れろ……♡ んぇ〜〜……♡ あ~〜……れろれろっれろっ…♡」
白金色の猫耳と、黒銀色の狼耳がひょこひょこ揺れ動く。
容赦なく浴びせられ続ける二重の快楽。二人の体重を一身に受けたクライは浅い呼気を漏らし、快感と困惑に耐えるように固く目を閉ざしていた。
だが、互いを叩き落とすことだけに熱中したメス二頭が、そんな様子に気がつくはずもない。お互い、煽られれば煽られるほど、その愛撫は苛烈さを増していった。
「っぱ……♡ はぁ…はぁ…♡ てめぇ…思ったよりやるじゃねぇか…!」
「ぇあっ……♡ ふ、ふふ…! クライの身体は知り尽くしてるもんね…! 君の方こそ、思ったより上手だね…!」
「なんで戦友みたいになってんのお前ら…」
掠れたクライのぼやきなど、部屋の熱気に呑まれて綺麗に霧散した。
「ふふ…! 経験者の余裕というやつだ…! 先を譲ってあげようじゃないか…!」
「けっ…! 調子に乗りやがって……俺でしか満足できなくなっても知らねぇからな?」
余裕ぶっているメス猫を睨みつけ、俺は体勢を変えた。
目の前で熱を帯び、張り詰めたクライの下半身へと、手を伸ばし──
「っぁ………!♡♡♡」
ちんこを露出させた。
若さに似合わぬ凶悪な逸物、びきびきと脈打ちながらそそり立っている。
この世界に生まれてから初めて直視する、前世の自分でしか知らなかったもの。
「はっ……はっ………♡♡」
でっか…♡ なっ…がぁ…♡♡
目が離せない。鼻腔を激しく突く匂いが、あまりにも刺激的すぎて、これがクライの匂いなんだと思うと、頭の中がパチパチと音を立てて火花を散らす。
「ちょ…! 尻尾揺れすぎだよ君ぃ…!!」
うるせぇな…♡♡ 今集中してんだよ、大人しくしとけ…♡ 上は譲ったんだからよ…♡
「すぅぅぅ〜〜〜……!っぎ♡♡ ……はっ……♡ あ〜……♡♡」
もう一度深く息を吸い込む。やば…♡ トリップしちまいそう…♡
口を開けて舌を伸ばし、顔を近づけてゆく。
ちんこっ…♡ クライのっ…♡♡
ぴと……♡
舌先が触れた。
「!!?!??!♡♡♡♡」
がっ…♡♡ ぐっ…!♡♡♡
何だこれ何だこれ何だこれ!!!♡♡
たまらなくなって、そのまま一気に咥え込んだ。
「はぶっ!♡♡♡ んふーっ♡ ふーっ!!♡」
獣人の肉体ってやつは、感覚が優れすぎている。
口腔いっぱいに広がったクライのちんこの匂いが、全身を駆け巡っていくようだ。舌からは、チンコ咥えて思うの頭おかしいかも知んねぇけど、なんか旨味?みたいなのを感じる。
いや…♡ 違う違う…♡ 俺のほうが良いっ…て、分からせんだろ…?♡♡
「じゅ……ぷっ…♡ ふーっ…♡ んっ…♡」
ああくそっ…♡ 大きすぎて思うように舌が回らねぇ…♡
「クライ…♡ こっち…♡ こっちに集中して…♡♡」
こんのメス猫…!♡ 俺が上手くできないことわかって、そんな事を言いながらキスしてやがる…!♡♡
こうなったら、意地でも気持ちよくしてやる…!♡♡
邪魔な長髪を耳にかき上げ、限界まで膨らんだ口元をさらにすぼめて吸い上げる。
「じゅぶっ!♡ じゅぽっ!♡ じゅぷっ!♡」
鼻息が荒い。喉の奥まで熱が届く。こんな必死なツラ、クライには絶対見せられねぇ……。今だけはあいつの視界を塞いでいるメス猫に感謝だな。
「ぁむ……♡ ちゅっ…♡♡ ちゅぱっ…♡ れぁ…♡♡」
クライの顔の方から聞こえる、濡れた水音が鼓膜を打つ。
くそっ♡ くそっくそっ♡♡ 絶対負けねぇ♡♡
「じゅるっ♡ ちゅぶっ!♡♡ ぇりゅ…♡ じゅぽっ!♡♡じゅっぽっ!♡ じゅっぽっ!♡♡ っぱ……♡ ぇあ~〜……れろ…♡ れろ♡」
お……♡♡ めっちゃビクビクしてきた…♡♡
ほら見ろ、俺の口だってちゃんと気持ちよくできるんだよ……♡
「れりゅっ…♡ ぇあっ…♡ クライ…? クーラーイ?♡ 僕の顔見て?♡♡ もっとこっち集中しよう?♡ あ~…もう、全然集中できてないじゃないか…♡」
「っぷはっ………はぁっ…はあっ……くそ………!」
舌と唇を総動員して、入念にフェラを続ける。
クライの意識は、すでに俺の口に集中して、その快楽に蕩けていた。
悔しげにこちらを睨みつけてくるエラへ、目元を歪めて勝ち誇った視線を返すと、奴はギリッと悔しそうに歯を鳴らした。ははっ、ざまぁ!
そうほくそ笑んだ瞬間、クライの腰が跳ねるように浮き上がった。
あ──これ、来るッ──。
亀頭から飛び出した大量の精液が、喉奥にびちびちっ♡ とすごい勢いで飛び込んでくる。
ぶりっぶり♡の、濃ーー…い精液…♡
何だよこの量と勢い…♡ 喉奥孕ませるつもりかコイツ…♡
「うっ……くっ……!」
どくん…どくん…と波打つ鼓動とともに、数秒間注ぎ込まれる精液を、目を瞑りながら全身で感じる。
鼻からもちょっと垂れちまった…♡
これ……一度じゃ飲みきれねぇ……♡
んく…んく…♡と一生懸命喉を鳴らすが、ぜんっぜん絡みついたままだ。
仕方ねぇ……。
「んぐ…♡ じゅろ…ずろろろぉぉ〜〜……♡♡ ちゅぽっ…♡」
一滴たりとも零すまいと吸い上げながら、ちんこから唇を離した。
もく…♡ もく…♡ ぐちゅ…ぐちゅ……♡
ごくん…♡
「っはぁ〜〜……♡♡」
やっ……ばかったぁ!♡♡
濃すぎて、息が詰まって死ぬかと思った…♡
あ〜…息くさすぎ…♡♡
「っどうだ!! 俺の勝ちだろっ!!」
「むむ……いやっ! 一回出させただけじゃまだ決まらないさ…!」
「てめぇ…! しょうがねぇ受けて立ってやんよ!」
「止まれ……バカ獣人ども………!」
◇
カリ…カリ…♡ カリ…カリ…♡
正面から鋭い爪先で乳首を小刻みに引っ掻きながら、クライの敏感な耳へと熱い息とともに舌を這わせる。
「れぇ〜…♡ れぁ…♡ れろぉっ♡ ほら、俺で頭んなかいっぱいにしろ…♡」
「はっ……う…………こ、これ以上は…」
「君は僕の手…大好きだもんねぇ?♡ ほら…しこ、しこ…って♡ この前みたいに沢山出してごらん?♡♡」
「はあっ…はあっ……エラ……!」
がぷ……。
「っ…!?」
右耳の軟骨に歯形がくっきりと残るほどの力で噛みついてやった。
「おい、俺を見ろよ…次よそ見したら別んとこ噛むから」
「嘘だろ………」
結局、その後も三回よそ見をしたので、首筋と乳首、それに左耳へもしっかり噛みついた。
それにメス猫の手の中で射精しやがったから、胸に浅く爪痕を刻み込み、首筋へ消えないほどの痕を沢山を増やしてやった。
◇
「れろっ♡ れろれろれろっ♡ ぢゅ〜っ!♡♡」
「はむ…♡ ちゅっちゅっ…♡♡ じゅるるっ♡」
俺がちんこを入念に舐めしゃぶり、メス猫は玉を愛おしそうに口の中で丁寧に転がしている。
このメス猫…無駄にデカい身体しやがって…。戦士の俺よりすこし小さいくらいなのに強化術師とか、体格活かせよ…! つーか邪魔!
考えてることは同じみたいで、視線を激しく火花散らして睨み合いながら、肩で押し合いへし合い、我先にとちんこを貪り続けた。
「や、ばい………ぐっ、出る…!!」
っお……♡♡
びゅるっ♡ と出始めた精液を、獣人特有の鋭い反射神経で即座に咥え込み、独り占めにする。
三回目でこの濃さとか…凄すぎ♡
「あ、あ〜!ずるいぞ! 僕にも譲ってくれよぉ…!」
強引に割り込んできたメス猫に押し出され、咥え込んでいたちんこが口元からぢゅぽっ♡と外れてしまった。
──びゅるびゅるっ!♡
残っていた精液が、俺とメス猫の頬や鼻先を白く汚す。それでも俺たちは拭うことすら忘れ、残された滴を奪い合うことに必死だった。
「おい…ぢゅるっ♡ てめぇ…♡ 全部飲めなかったじゃねぇか…れろっ♡♡ どけよ…!♡ ちゅっ…♡」
「ふんっ!♡ ひゃらね!……ぇあ〜〜っ…… ♡♡ ぷあっ…♡早いもの勝ちなんて君に有利すぎじゃないか!♡♡ ちゅっ…ちゅっ…♡」
舌を絡め、押し退け合いながら、左右から競うようにちんこへ吸い付き、淫らな音を立ててしゃぶり尽くす。
「もう無理………」
すぐにもう一度限界を迎え、クライは射精をした。
◇
「お~い、クライ〜?♡ まだできるだろ〜う?♡ しようよ〜?♡ これじゃ僕たちまだ収まんないよ〜…?♡」
「こんなんでへばってんじゃねぇぞ…♡ まだ7回しか出してねぇだろ…♡ 勃たせろよ…ほら…♡」
「ぐ、くそ…お前、ら……ほんっ…とに……!!」
シーツの上に仰向けになり、疲労困憊の顔でふにゃふにゃに萎えきったクライのちんこを覗き込んで催促する。
まだまだできるはずだ…だって、この俺が見込んだ男なんだからな♡
それに、勝負だってまだ決着がついていない。三対三で、あの一回は横入りで無効。このまま引き分けじゃ、どちらも納得できるはずがなかった。
顎に指を当てて考え込んでいたメス猫が、ふと思い立ったように艶めいた声を上げる。
「あれ、使ってしまおうかな…♡」
「あれ?あれってなんだよ」
「それって…………まさか!? や、やめとけ…! いや、やめてくれ!」
「狼くん…君、明日の朝まで出来る体力ある?♡♡」
なんだ、その質問……これから何をするってんだ?
問いを投げかけておきながら、こちらの返答も待たずにメス猫はリュートを構え、弦を爪弾いた。
「~~♪♡、~~♩♪……♬♡」
歌声が空気に溶け込むと同時、クライが呻き声を漏らし、胸元を掻きむしるように押さえ始めた。な、何をしやがった……?
「ちょっとした…いや、少し大きめの激励みたいなものだよ」
明らかにクライの魔力が変質している…? それと同時に、ふにゃふにゃだったクライのちんこが硬さと大きさを取り戻し、再びそそり勃った。
あ〜…♡ そう言う効果ね……?♡♡
「はァ゙ァ……はァ゙ァ………お前ら…!!」
ベッドの上に仁王立ちしたクライ。ちょうど俺たちの眼前に、バキバキ怒張したちんこが突きつけられ、威圧感に思わず息を呑んでしまう。
「お前らが悪いんだからなッ……!!! 覚悟しろよ……!!」
「は、ははっ…!♡♡ さ、させてみろよ…♡ 覚悟…!♡♡」
絶対やばいって分かってるのに、そんな煽るような言葉が口から漏れ出ていた。
クライの瞳が、いつものあいつからは想像もつかないほど冷徹に、鋭く細められた。
◇
「お゙……ぉ゙おぉ……♡ ほぉぉ゙……♡♡」
白目を剥いたメス猫が、シーツに突っ伏してぴくぴく不規則に痙攣している。口元から涎を垂らし、下品な嬌声を漏らし続けていた。
肉と肉がぶつかり合う、乾いた炸裂音が蒸れた部屋中に響き渡る。
「ゔっ…♡ お゙っ…♡♡ あ゙え゙っ…♡」
後ろ手に両腕を引っ張られ、ベッドへ押し潰された無防備な体勢のまま、ずんずんと無慈悲に腰を打ち付けられて、みっともない喘ぎ声が喉から出ていく。
純粋な腕力だけなら俺の方が上のはずなのに、このオスには絶対に逆らえない、逆らっちゃいけないと、本能が喚いている。
「ぅ゙お゙ぉ゙っ!♡♡ ぃぎっ…!♡ ぎゃゔっ…♡♡ がぅっ!♡♡」
初めてのセックスだというのに、とろっとろに蕩かされた俺の腟内は、クライの巨根を根元まであっけなく呑み込んでいた。
邪魔にならないよう尻尾はペタンと横へ倒れ、弱点である子宮口をより深く抉らせるように、腰が勝手に媚びるような角度を描く。
──パンッ、パンッ、パンッ、パンッ!♡♡♡
肌を打つ破裂音が、さらに速度を増していく。
自分を男だって思ってた頃には絶対想像もつかない感覚。
あっつくて…♡ 少し凹凸のある、かっ…たい長くて太い棒が、膣壁を、ぞりゅぞりゅ…♡ ぞりゅぞりゅっ…!♡ その度に背筋を通ってくる凄まじい快楽が脳にまで到達して、激しく幸せホルモンを溢れさせる。
頭の中で弾けた快感は、再び子宮にフィードバックしてくる。
ここまで自分の身体を感じた事なんて、戦っている最中でも無い。
あ……♡ 今子宮口にちんこがキスしてるんだ…とか♡ お腹を内側から、ぐっ…♡ と押し上げられている感覚とか…。
その感覚の全てが、自分が女の身体を受け入れたのだという事実を改めて直視させてきて、どうしようもない気持ちになってしまう。
あ~もう、ほんとに、やばすぎんだろっ…♡♡
獣人の本能なんかに絶対に屈するものかと思っていた。故郷のアバズレどもと同じ浅ましい獣に成り下がるのだけは、死んでも御免だとそう思ってたのに。
でも……でも……こんなの、抗えるわけがねぇ……♡♡
「ぎゃんっ♡ きゃぅっ♡♡ くぅっ♡ くりゃいっ♡♡ いちばんっ♡ おきゅっ!♡♡ こだねっ!こだねくりぇっ♡♡」
「言われなくてもっ…!!」
メス猫との勝ち負けなんざ、とうに頭の隅から消し飛んでいた。
って言うか……あいつをメス猫呼ばわりする資格なんて、今の俺にはもうねぇな♡ もはや俺も発情したメス狼……いや、ただの牝犬そのものだ……♡♡
「きゃんっ♡♡ ぎゃぅ♡ くぅんっ♡ きゃぅんっ♡♡」
盛りのついた犬みたいにきゃんきゃん鳴きながら、本物の獣のように背後から激しく犯し抜かれて……脳髄の芯まで甘い痺れでドロドロに融かされていく。
前世が男だったとか、女の身体になったとか、もはやそんな理屈はどうでもよかった。
今の俺は、ただつがいのオスを求める一匹の“メス”でしかねぇ……♡
「出すぞッ…カルヴァっ…! 全部受け止めろよ…!!」
はっ…!♡ はぁっ…!!♡
くるっ!♡ くるくるくるっ!♡♡
子宮のなかっ!!♡ 満たせっ!♡ みたせっ!♡ ぜぇ〜…ったい、一滴も零してやらねぇから…♡♡
「出……るッ…!!!」
───がぶッ!!♡♡
「み゙ゅ!?!?!♡♡♡♡」
あ…?♡ いまこれ…何されてる?♡♡
いや、わかってる。首筋を噛まれてる♡♡
「ぎひっ……♡♡♡♡」
視界が極彩色に弾け飛ぶ。頭の中で絶え間なく花火が炸裂する。
これ…!♡ こいつの…番としての刻印───。
耳と尻尾がピンと張り詰め。処理しきれない快楽と幸福感に、鼻血がツー…と伝う。
───どびゅっ!!♡♡
そんな音が幻聴として聞こえたような気がして、間髪入れずに途轍もなくどろっどろ♡ぶりっぶり♡の大量精液が、子宮の中に余すことなく注がれていく。
全身の体毛が総毛立つ。背骨を駆け抜ける痺れが止まらない。
気づけば足先までピーン♡と伸ばし、お尻を高く掲げた姿勢になっている。それでもクライは、俺をベッドに押さえつけるような体勢のまま首に噛みついている。
「ぉ゙……♡ っほぉ゙……ぉ゙…♡ が…、ぐ…♡ ふぅ゙〜……♡ ふゥ゙〜!!♡♡」
全然射精が途切れない。もう胎ん中ぱんぱんなのに…♡ それでもなお、どくどくと出続けている。
マジで俺のこと孕ませるつもりかよ…コイツ…♡♡
やっと射精が終わり、ちんこが引き抜かれ、首筋から唇が離された瞬間、俺は猫女と同じく、糸の切れた人形のようにシーツへ崩れ落ちた。純白の布地が、鼻から垂れた鮮血で赤く染まる。
さっきは俺がクライにつけたはずのマーキングが、今は俺の肌へと深く、消えない印として刻まれていた。
「はぁ……♡ はぁ………♡」
ぐい、と乱暴に腕を引かれ、強引身体を起こされる。
あぇ……?♡♡
「何寝てんだよ…まだ続けるからな…? お前らが言ったんだぞ…?」
あ……明日の朝まで、か……♡ は、はは……♡
俺は濡れた舌先を挑発するように覗かせ、蕩けきった瞳を細めてクライの瞳を見つめた。
傭兵生活を思い返しても──間違いなく、人生で一番刺激的な夜になった。
◇
「おはよう、クライ、エラ、カルヴァ。よく寝れましたか?」
疲労困憊といった顔のクライを食堂で出迎えたライオネル──エセ神父は、ニコニコとわざとらしい穏やかな笑みを浮かべていた。
思わずクライの背後に立っていた俺と猫女は、揃って明後日の方向へと顔を背けてしまう。
このエセ神父……全部気がついてやがるな……。
あの晩、俺たちはクライに朝方まで何度も抱かれ続け、胎も思考も全部ぼっこぼこ♡にされた後、結局どちらも力尽きて意識を手放してしまった。
次に目を覚ました時、部屋の隅で灰のように真っ白になって燃え尽きているクライの姿を見て、ようやくバフが切れたのだと悟ったのだ。
身体のあちこちに残された昨日の痕跡を誤魔化すため、髪を広げたり、外套の襟をきつく締めたり……極力怪しまれないよう取り繕って食堂へと急いだのだが…。すでにクライの仲間たち三人は、何食わぬ顔で優雅に朝食のテーブルを囲んでいた。
「クライ=ネコミミスキーだと思ってたけド、クライ=ケモミミスキーだっタ? 欲張りドスケベボーイじゃン」
「う、うるせぇよシュエン!!!」
赤髪のガキがクライを誂う。軽口を叩いてはいるものの、実際このガキは昨夜どんな事が繰り広げられたのか、ちゃんと理解できていないようだった。
聖女に至っては、周囲の空気なんざ毛ほども興味がないらしく、見ていてクソつまらなくなるような超効率食をもそもそと無表情で咀嚼している。
猫女がどこか気まずそうに頬をポリポリと掻きながら、俺へとおずおず声をかけてきた。
「あ~…えっと、色々あったけど、取り敢えず君も一緒に、どう…?」
「……お、おう……邪魔させて貰うわ……」
尻尾にじゃれついてくる赤髪のガキを適当にあしらいつつ、空いていた席に腰を下ろして朝食に手を伸ばした。
カチャカチャという食器の金属音だけが響く、妙に静かで、どことなく気まずい卓。食堂全体は朝の活気で、ガヤガヤ騒がしいくらいなんだが…。
……はぁ、この先どうしたもんかな……。
傭兵稼業を続ける気も起きないし、何かをしようという気もあまり起きない。取り合えず今は飯食お……。
少し後になって、猫女からパーティに誘われたのは、また別の話である。
なおパーティには参加しないもよう。
カルヴァリア→20代前半くらい。
無自覚のうちにBSSされて頭おかしくなったやつ。
こいつ思ったよりもじっとりしてんな……。
二年前クライはカルヴァの事を女として見ていなかった。クライの年齢的な理由と、カルヴァの顔が兜で見えず、体型を隠すような服を着ていたと言うのが大きな理由。
そもそも13、14歳を恋愛対象に見る20歳と言うのはヤバいのである。