一行 瑠璃(いちぎょう るり)(2027年)
古本市は大成功だった。
数えきれないほどの苦難を乗り越え、堅書直実と一行瑠璃が力を合わせて守り抜いたイベントは、夕暮れの京都に温かい余韻を残して幕を閉じた。
片付けを終えた放課後の図書準備室。夕日が差し込む静かな部屋の中で、2人きりの時間が流れていた。
「……堅書くん、本当にありがとう。君がいなかったら、私……」
「ううん、一行さんが諦めなかったからだよ」
そう言うと、瑠璃は少し照れくさそうに、けれど胸を張って、彼女らしい小さなガッツポーズを作ってみせた。
「はい。……やってやりました!」
その誇らしげで、どこか悪戯っぽく弾けた笑顔に、直実の胸はトクンと大きく跳ね上がる。
達成感と、お互いへの愛おしさが最高潮に達した瞬間、どちらからともなく顔が近づいた。
触れ合うだけの、初めてのキス。
図書室の古い紙の匂いの中に、お互いの若く甘い体温が、確かに混ざり合う。それは、アルタラという仮想世界の中で、2人の関係が完全に「恋人」へと書き換わった合図だった。
その日を境に、2人の距離は加速していく。
放課後の図書館、閉館間際の薄暗い書架の影。並んで本の整理をしていた時、直実は抑えきれない衝動に駆られて、瑠璃の華奢な身体を制服のまま後ろから強く抱きしめた。
「あっ……堅書くん……っ、誰か来ちゃうよ……」
「誰も来ないよ、もう閉館だから……」
セーラー服越しに伝わる、瑠璃の小さな背中の温もりと、トクトクと速まる心臓の鼓動。直実は彼女の首筋に顔を埋め、その柔らかな髪の香りを深く吸い込んだ。瑠璃もまた、拒むことなく直実の腕に身を委ね、小さく吐息を漏らす。
しかし、一度火がついた10代の情動は、抱擁とキスだけではもう収まらなかった。
「……ねぇ、堅書くん。誰もいない場所、行こう?」
瑠璃が潤んだ瞳で直実を見上げ、彼の制服の袖をそっと引いた。向かったのは、図書室のさらに奥にある、普段は使われていない古い資料保管庫だった。重い木製の扉を閉め、内側から鍵をかける。
薄暗い室内には、埃を被った古い本棚と、大きな革張りのソファがひとつだけ置かれていた。
「一行さん、本当に……いいの?」
緊張で声を震わせる直実に、瑠璃は何も言わず、自らセーラー服のリボンに手をかけた。
「……古本市をがんばった、ご褒美。堅書くんのぜんぶ、私に頂戴……っ」
しゅるりと布が擦れる音が、静寂を破る。瑠璃の指が、白いブラウスのボタンをひとつ、またひとつとゆっくり外していく。夕闇が迫る密室のなか、ボタンが外されるたびに、彼女の滑らかな鎖骨と恥ずかしそうに震える素肌が露わになっていき、直実の喉仏が大きく上下した。
「見すぎ……」
「ごめん……でも、本当に綺麗だよ」
ブラジャーのカップの上部に透ける桜色の尖りに、直実の指先が震えながら触れた。
「んっ……」
瑠璃の声が途切れる。その表情を見つめながら、直実は自分の心拍が痛いほど速まっているのを感じた。古本市で一緒だった彼女が、いまや自分の腕の中にある。現実離れした幸福が、背徳感と混ざり合い、理性を曇らせる。
直実は生唾を呑み込み、目の前の愛しい少女を、この世界の何よりも深く貪るべく、ゆっくりと彼女の身体をソファへと押し倒した――。
「僕も……脱いでいい?」
「……うん」
直実が制服のシャツを勢いよく脱ぎ捨てると、程よく筋肉のついた若い身体が現れた。瑠璃はその胸板に手を這わせ、少しずつ顔を寄せる。
「堅書くんの汗……体育のあとみたい」
彼女の唇が、鎖骨から胸へと降りていく。初めて感じる生々しい刺激に、直実の下半身が熱を帯びる。気づけば彼女のスカートのプリーツを手で押し上げ、白い下着に指が触れていた。
「ひゃっ……待って、焦らないで……」
瑠璃の声に戸惑いが滲む。直実も自分で驚いて手を引っ込めようとするが、瑠璃がその手を掴み返した。
「私だって、ちゃんと……したいから」
そう言って自ら下着をずり下げた。細い太腿の間に覗く薄い茂みと、まだ誰も知らない秘部。直実の理性は一瞬で崩壊した。
「痛かったら言って」
直実は膝をつき、瑠璃の脚を開かせる。未熟な花弁を指先で探ると、緊張からか湿り気は少ない。舌先でそっと舐めると、彼女が跳ねた。
「っ!? だめ……汚いよ……」
「瑠璃の匂い、好きだよ」
その言葉に、彼女の抵抗が緩む。次第に甘酸っぱい蜜が溢れ始め、ソファに淡い染みを作った。直実はベルトを外し、隆起した欲望を露わにする。彼女が息を呑むのがわかる。
「……僕で、本当にいいの?」
「堅書くんじゃなきゃ……いやだよ」
瑠璃の手がそっとそれに触れ、誘導する。直実の先端が入り口に当たると、彼女の肩が強張った。
「ゆっくり……いくね」
直実が腰を進めようとした瞬間、異物感に瑠璃の口から悲鳴が漏れる。
「っ……痛い……!」
慌てて腰を引こうとした直実の腕を、彼女が必死に掴んだ。
「だめ……止めないで……っ」
涙目で訴える表情に、直実は決意を固める。古本市で諦めなかった瑠璃の強さを思い出し、少しずつ腰を押し込んだ。ミリ単位で奥へ進むたび、彼女の苦悶が増す。
「まだ痛い……?」
「すごく……でも……っ」
最奥まで達したとき、瑠璃の身体が弓なりに反った。
「堅書くんのが……全部入ってる……」
涙を浮かべながら微笑む彼女に、直実は唇を重ねた。互いの体温と痛みが融合し、やがて馴染んでいく。抽送が始まると、痛みの奥から未知の熱が芽吹き始めた。
「ん……あっ……なんか、変な感じ……っ」
「痛い?気持ちいい?」
「わかんない……けど、もっと……っ」
瑠璃が初めて快感を訴える。直実も限界が近づき、彼女の腰を掴んで動きを早めた。古紙の匂いと汗の香りが混ざり、脳が蕩ける。
「瑠璃……出ちゃう……っ」
「うん……っ、出して……私のなかに……」
絶頂に達した瞬間、二人の視界が白く弾けた。直実の熱が瑠璃の内側に放たれ、ソファに染みる。お互いの呼吸が重なり、やがて落ち着いた頃、瑠璃が直実の胸に顔を埋めた。
「……すごい体験しちゃったね」
「うん。でも……幸せだよ」
汗ばんだ額を寄せ合い、二人は互いの鼓動を確認した。古い資料の山の中で、新しい記録が刻まれた夜だった。
「……はぁ、はぁ、っ……。堅書、くん……っ」
「一行さん……っ」
資料保管庫の古いソファの上で、2人はお互いの汗ばんだ身体を重ね合わせ、途切れない余韻に浸っていた。
床には、脱ぎ捨てられた2人の制服が乱雑に散らばっている。
初めて知る、異性の肉体の熱さと、脳を真っ白にするような快感の濁流。直実のなかで果てた瑠璃の太ももは、まだ愛液と混ざり合った熱いお汁で濡れそぼり、ソファの革を小さく汚していた。
瑠璃は直実の胸に顔を埋め、彼の肌にそっと指先で触れながら、微かに肩を震わせている。
「痛く、なかった……? 堅書くんが、私のなかで、すっごく大きくなるの、分かったよ……」
「僕も……一行さんのなかが、あんなに熱くて、優しくて……もう、頭がおかしくなりそうだった」
直実は、愛おしさが限界を超え、彼女の涙で濡れた目元に何度も優しいキスを繰り返した。
この世界がたとえどのようなデータで構成されていようとも、今、自分たちが交わしたこの熱と、痛いほどの快感だけは、絶対に改ざんできない本物の現実(リアル)だ。
ゆっくりと服を着直し、鍵を開けて外に出ると、京都の街はすっかり夜の闇に包まれていた。
学校の校門の前で、2人は名残惜しそうに足を止める。
「……また明日ね、堅書くん」
「うん。また明日、図書室で」
瑠璃は少しだけはにかみ、直実の手をぎゅっと一度だけ強く握ってから、夜の街へと歩き出した。その背中を見送りながら、直実は自分の手のひらに残る、彼女の素肌の柔らかさと温もりを、いつまでも確かめ続けるのだった。
(第二話・完)