※この作品はR-18です。

ANOTHER WORLD『レイヤー・ゼロ』   作:坂本太郎

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 浅葱 百合(あさぎ ゆり)(2027年)
 カタガキ ナオミ/先生(せんせい)(2027年)


第四話:偽像の解像度(2027年)

(――この世界に生きる人々は誰も知らない。自分たちが『アルタラ』という巨大な量子記憶装置の中に記録されたデータに過ぎないということを。そして、その歴史のレイヤーの裏側で、ある「ひとりの幽霊」が暗躍しているということも。

 

彼の名前はカタガキ・ナオミ。

2037年のリアルな未来から、脳死状態に陥った最愛の一行瑠璃をサルベージするために精神データ単体でこの2027年の京都(アルタラ)へ潜入してきた、10年後の堅書直実その人である。彼は実体を持たない純粋な観測者として、まだ何も知らない「高校生の自分」を陰からハッキングし、瑠璃との仲を進展させるための指示を送り続けていた。

 

しかし、その日。直実の視覚同調(シンクロ)のログを弄っていたナオミは、世界のバグとしか思えない奇妙なノイズ――「正史」の記録には存在しないはずの、異様なデータを検出したのだった)

 

一行瑠璃に、あまりにも瓜二つの少女。

彼女の名は浅葱百合。正史の裏側のレイヤーで絶大な人気を誇るグラビアアイドルだったが、その年格好はまさに、ナオミが10年間病院で守り続けてきた「現在のルリ」そのものの瑞々しさと大人の色香をまとっていた。

 

(あいつ(直実)に写真集を買わせようとしたが……まさか、本人と同期(リンク)できるラインが見つかるとはな)

 

ナオミは自らの量子精神をアルタラの未バッファ領域へと埋め込み、浅葱百合のプライベートな空間――ホテルの楽屋のデータをハッキングした。未来の技術を用いてアルタラのプロトコルを強制的に書き換える。百合が一人で鏡の前に座り、過激なグラビア衣装である「極小のマイクロビキニ」へと着替えているその瞬間、部屋の照明が怪しく明滅した。

 

「……あれ? 停電?」

 

百合が首を傾げたその時、彼女の背後の空間が歪み、電子の粒子が寄り集まって、一人の大人の男の輪郭――カタガキ・ナオミの姿を形成していった。アルタラのバグを局所的に実体化させた、この部屋だけの「仮初めの肉体」だ。

 

「誰……!? スタッフさん……じゃ、ないよね」

 

百合は驚き、細い腕で露出した胸元を隠そうとする。しかし、ナオミの姿を見た瞬間、彼女は息を呑んだ。

 

ナオミは目の前の少女の姿に、激しい衝撃を受けていた。そこにいるのは、高校生の幼さを残した瑠璃ではない。10年という歳月を重ね、大人の女性へと成長した、彼がずっと狂おしいほどに焦がれ続けた「あの病室のルリ」の姿そのものだったからだ。瞳の奥にある狂おしいほどの執着と渇望の炎が、楽屋の重苦しい空気を支配していく。

 

「ルリ……。本物の、ルリ……なんだな……っ?」

 

あまりの生き写しぶりに脳の回路が焼き切れそうになったナオミは、低く掠れた大人の声でその名を呼んだ。しかし、百合の耳にはそれが「ユリ(百合)」と響いていた。自分を特別に呼ぶその熱い声に、百合の喉が鳴る。

 

「っ……そう、ユリだよ。あなた……一般人? プロデューサーとかじゃなく……? 待って、あなた、名前は……?」

 

困惑と恐怖のなかで、百合は本能的にその男の正体を知りたがり、縋るように問いかけた。ナオミは自分の崩壊しかけた意識を繋ぎ止めるように、ただ一言、自らの名を吐き出した。

 

「……ナオミ。カタガキ・ナオミだ」

 

その名を聞いた瞬間、百合のなかに不思議な甘さが広がる。ナオミの言葉すらまともに鼓膜に届かないほど、彼の理性のシステムはすでに崩壊していた。彼はゆっくりと近づき、実体化した大きな手で、百合の顎をクイと持ち上げた。得体の知れない男に触れられたというのに、百合は本能的な恐怖とともに、胸の奥が疼くような昂ぶりを覚えていた。

 

「悪いな、少し世界のシステムをハックさせてもらった。……ずっと、君に触れたかった……」

 

ナオミの鋭い視線に見つめられ、百合はグラビアアイドルとしてのプライドを抱きながらも、おへそや太ももが丸出しの衣装のまま、鏡の前へと押し付けられた。

 

ナオミの手が百合の背中を撫でる。布地がずれ落ち、白い肌が露わになった。鏡越しに見える自分の姿に百合は息を呑む。彼の大きな手が乳房を包み込み、ゆっくりと揉みしだくと、強い刺激に百合の身体が跳ねた。

 

「んっ……やっ……激しい……」

 

冷徹なほどに強引な手つきでありながら、愛おしさを確かめるようなその掌は、百合の腹筋をなぞり、おへその周りを円を描くように優しく愛撫していく。百合の呼吸が急速に荒くなっていく。

 

「ねぇ……もっと……触って……」

 

百合が催促すると同時に、ナオミの指が股間の極小の布地を押し上げて、濡れた秘部へと侵入していった。直接的な快感に百合が甲高い声を上げる。

 

「あっ……ダメ……ッ!」

 

ナオミは溢れ出る愛液に指を絡ませ、彼女の内部を丹念に探索するように深く指を押し込んだ。鋭い快感に百合の視界が白くなる。

 

「んんっ……ああっ……!」

 

百合の膝が折れそうになるのを、ナオミが彼女の腰を強く抱き支える。絶頂寸前で指を引き抜くと、虚ろな目で見上げる百合をソファへと導いた。座面に座ったナオミの上に、百合は恐る恐る跨る。下着を完全に脱ぎ捨てると、透明な糸が引いた。

 

「綺麗だ……ルリ……」

 

ナオミの手が百合の腰を掴み、一気に自身の熱い質量を沈み込ませた。

 

「あああっ……!」

 

久しぶりの、およびあまりにも圧倒的な感覚に百合は大きく息を吸い込んだ。ナオミはそのまま激しく腰を突き上げ、百合の肉体を狂おしく貪り始めた。

 

「ルリ……ルリ……っ! 10年だ……。君が倒れてから、僕がどれだけ孤独だったか……どれだけ君の温もりに触れたかったか……っ!」

 

激しく打ち付けながら、ナオミは堰を切ったように10年間の痛切な想いを語り、子供のように涙をポロポロと流し続けた。

 

「ああっ……! ナオミさん……激しい……っ、でも、そんなに私のことを……っ?」

 

ナオミから浴びせられる、狂気的なまでの愛の告白と、彼が流す本気の涙。鏡に映る自分の、撮影では決して見せない淫らな表情。百合の胸は、激しい快感とともに、これまで経験したことのない激しい感動で満たされていった。自分をこれほどまでに求めてくれる大人の男――ナオミのことが、百合は狂おしいほど好きになっていく。

 

「ナオミさん……! 私、ここにいるよ……っ! ナオミさんの全部、私にちょうだい……っ!」

 

百合は涙を流しながらナオミの首にしがみつき、激しく腰を振り上げた。二人の肉体は完全に同期し、ナオミは「ルリィッ!」と絶叫しながら、百合の最奥へと大人の濃厚な熱を何度もブチ撒けた。

 

「待って……イってるのに……!」

「もっと……もっと僕を感じてくれ……!」

 

容赦なく続く律動に、百合は何度も連続して昇りつめ、涙を流しながら彼にしがみついた。

 

激しい結合が終わり、二人はソファの上で重なり合って息を整えていた。

ナオミの「仮初めの肉体」は、アルタラの負荷(ロード)限界を迎え、輪郭が徐々に電子の光の粒子(緑色のキューブ)へと崩壊し始めていた。ナオミは愛おしそうに、腕の中の少女の顔を見つめた。その時、彼の視線が、彼女の左目の下でピタリと止まる。

 

「……あ、れ……?」

 

そこに、あるはずのものがなかった。彼が10年間、毎日病室で見つめ続け、指先でなぞり続けた、あの愛おしい『泣きぼくろ』が、彼女の左目元には存在しなかった。

 

脳内に冷徹なデータが走る。ナオミはハッと我に返り、直実に買わせようとした写真集のグラビアアイドル――「浅葱百合」のデータを思い出した。

 

「……違う。君は、ルリじゃない……。すまない……僕は、とんでもない間違いを……っ」

 

大切な思い出を汚してしまったような凄まじい罪悪感と絶望に、ナオミの顔が歪む。消えゆく光の中で必死に謝るナオミに対し、百合は寂しそうに、けれど心から愛おしそうに微笑んだ。

 

「いいよ、ナオミさん。誰の身代わりでも構わない……私、ナオミさんに抱かれて、本当に幸せだったから。……消えないで、ナオミさん……っ」

 

百合は消えゆくナオミの身体に縋り付き、再び涙を溢れさせた。ナオミは最後に百合の濡れた唇を優しく奪うと、完全に光の粒子となって空間へと溶けて消えた。

 

部屋の照明がパッと元に戻り、いつもの静かな楽屋が戻ってくる。

 

浅葱百合は、自分の手のひらに残る大人の男の温もりと、自身のなかにたっぷりと満たされた、データ世界で最も熱い「ナオミ」の残滓を確かめながら、完全に彼に心を奪われたトんじまった頭で、妖しくクスクスと微笑むのだった。

 

(第四話・完)

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