独身男、古中洋平。

貯金を貯めてFIREし、田舎の一軒家を買ってのんびりと暮らす。そんな夢の第一歩として購入した家は、いわくつきの事故物件だった。

曰く、住んでいた老夫婦が死んだばかり。
曰く、子どもの足音がする。

そうして引っ越した次の日。

「洋平、さんっ……! あ、だめ、だめ、これ、手、とまらない、ですっ……」

俺はその座敷童が、俺の持ってきた同人誌でオナニーする姿を見ていた。

※ノクターンにも投稿しています

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田舎の事故物件、座敷童が憑き物でした ーFIREしたのでロリ座敷童とイチャラブ生活始めますー

 夏の田舎は日本人のノスタルジーの原点だと思う。

 

 畳を敷き詰めた和室、入道雲と青空を遠く望む木造廊下の縁側、夏風に揺れる青々とした山の木々。

 

「んっ……ふっ、ここ、触るとっ、気持ちいい……」

 

 そして蝉時雨に溶けゆく、和服少女の押し殺すような密かな嬌声。

 

 ……いや、最後は何やら違う。明らかに夏ではない。しかし今まさに俺が障子の隙間から覗いている光景は、そんな夏の最中(さなか)にある秘め事なのだった。

 

「えっちって、こういう……んっ! こんな、感じ、で……っ」

 

 赤い着物の少女が、畳に広げた本を食い入るように見つめている。その本は、俺が持ってきた純愛物のエロ同人誌だ。彼女が見ているのは、その導入……年下の女の子が、先輩を思って自らを慰めるシーン。

 

 夢中になるあまり、俺の存在にも気付いていないようだった。

 

「はっ、ん……! なん、でしょう、こんなの、初めて……身体が、変、に……!」

 

 ぺたんと女座りをしたその股座に、少女の両手は伸びていた。白くしなやかな太ももが露わになっている。時折ぴくりと縮まっては、畳に擦れる様が見える。影になっていてその奥は見えない。

 

 けれど細い指が密やかに動く度、微かな衣擦れの音がする。時折くちゅりと水音が混じる。息をすることすら憚られるような、見てはいけないものを見ているような、そんな気分にさせられる。

 

 密かに開花を迎えようとしている蕾のような、初々しさを持った淫らさ。そんなアンバランスな情事に、いつの間にか目を離すことが出来なくなっていた。

 

「はっ……ん……! くっ……ふ、ん、うっ……あ……ああー……!」

 

 しばらく眺めているうちに、衣擦れの音は大きくなっていった。少女の吐息も、小さく丸まった背中の跳ね方も、艶っぽい熱を帯びていく。

 

 うるさい蝉の声が気にならなくなるほど、少女の音に夢中になっていた。

 

「洋平、さんっ……! あ、だめ、だめ、これ、手、とまらない、ですっ……」

 

 名前を呼ばれて心臓が跳ねる。だがそれは彼女がこちらに気付いたのではなく、卑猥な妄想に俺を思い描いてのことだと気付いて胸が熱くなる。

 

 あの子は今、自らの手に俺の手を重ねているのだろう。俺の指先が、今彼女がしているように穢れを知らぬ蜜壺をなぞり、クリトリスをこね、ぐちゅぐちゅと浅ましい水音を立てる。そんな情景を思って、自らを慰めているのだろう。

 

 今すぐにでも、それを現実のものにしたい。そんな願望をぐっとこらえる。彼女は昨日出会ったばかりの同居人で……。

 

「やっ、ん~~……っ!!」

 

 そしてこの家に住む、座敷童なのだから。

 

 ——さちちゃん。

 

 絶頂に震える彼女の名前を生唾と共に呑み込みながら、俺はつい昨日のことを思い返していた。

 

 ■

 

 所々に昼の木漏れ日の差す、土を固めただけののどかな田舎道を軽トラでの(・)っ(・)た(・)り(・)と進む。山の懐に時折民家。都会では全く見かけることのない景色を眺めながら、俺は新居となる一軒家を目指していた。

 

「ああ、やっぱり都会は俺には合わなかったんだな」

 

 今日から始まる田舎生活に胸が高鳴る。いわゆるFIREというやつで、三十も後半を過ぎてようやく億とは言わずとも、株の配当と細々とした収入さえあれば慎ましやかに暮らせる程度に貯金が貯まったので、こんな名前も知らないような山奥の安い家を買ったわけだ。

 

 安い。そう、驚くほどに安かったのだ。聞けば前に住んでいた老夫婦が病没して、誰も管理する人が居ないらしい。それからどうも子どもの足音のような家鳴りがするとかで、不気味だから親族は早く手放してしまいたかったのだとか。

 

 とはいえ家の中を映した写真に何かが映り込んでいるわけでもない。古いわりに綺麗な家で、初期コストを抑えられるならと即断即決で買ってしまった。

 

「まあ好都合だよな。安いし、案外幽霊との同居も楽しいかもしれんし」

 

 家鳴りなど木造家屋あるあるだろう。それにブラック労働に耐え、月三桁に届こうかという残業生活の果てに掴んだ夢のスローライフの前には、そんなことは些細な問題だった。というより幽霊よりもそんな馬鹿げた労働を押し付けてきた上司や、それが平然と罷り通る現代日本のほうがよほど怖い。

 

 それに残業が積もりまくっていた時の俺の表情と幽霊、不気味さではきっといい勝負ができるに違いない。むしろ幽霊を驚かせてやろうという楽しみすらある。

 

 一つだけ感謝するとすれば、残業した分の給料はちゃんと出ていたことか。おかげでこうして田舎に引っ込むことができているのだから、まあ悪いことばかりではなかった。

 

「あとは頑丈な身体とメンタルだな。感謝するよ」

 

 既にいない両親にも感謝を捧ぐ。両親は既に他界済み、彼女もいない天涯孤独の身なればこその自由だ。

 

 寂しくはある。だが何かに縛られるのが嫌いな自分にはちょうどよいのだろうとも思う。

 

「ほんとどうして人間って、利己で他人の人生壊せるものかね」

 

 自分がすこしでも得をするために、簡単に他人を傷つける。そんなものは東京の街にはありふれていて、だから痛々しいほど空気が乾いていた。どうにもその空気で呼吸をするのが苦しかった。

 

 結局俺は敗者ではあるのかもしれない。自ら望んでの都落ち。うん、貴族みたいで悪くない。

 

 そんな風にセンチメンタルな考えを巡らせているうち、目的の家に辿り着いた。いかにも田舎によくある広めの日本家屋という出立ちで、背には山、正面には小さな畑があった。変えられたばかりの瓦屋根が鮮やかで、やはり古いという印象はあまり感じない。

 

 家の前に車を停めて降りると夏の大合唱が出迎えた。蝉の鳴き声は殴りつけるような大音量で、一瞬車の中に戻ろうかと思うほどだった。

 

「……これが全部メスを呼んでるっていうんだから、すごいな」

 

 人間に当てはめれば、俺と子作りしてくれー! と街中で全身全霊を以て叫び散らかしているようなものだろうか。間違いなく逮捕案件である。しかし別に叫んでいないだけで、そういう風に女を探し歩く男は街中に、あるいはネット上に溢れているのだから大差ないだろうか。

 

 つまり人もセミか? 流石に違うか。

 

 辺りを見渡す。山が八の青空が二。ぽつんと一軒家があるばかり! 本当にここは田舎だ。それも結構限界の。加えてこの家はご近所からも気味悪がられているらしく、近寄る人もいないと不動産会社の人間は言っていた。

 

「……ふむ」

 

 

 

 ……そうだ、俺も蝉になろう。

 

「セーックス! 大大セーックス!! 空前絶後ーっ! 前人未到のー……! どすけべセーックス!」

 

 

 

 セーックス……クス……くす……。やまびこは何度か反響して、やがて蝉の鳴き声に埋もれて聞こえなくなった。心なしか蝉が負けじとボルテージを上げた気もする。うん、実に盛んでいい。

 

「下ネタを特に意味もなく叫べるっていいな。すっきりする」

 

 ストレスを解消するには叫ぶのがいい。それが馬鹿げたものであるほどいい。街中でなら捕まるか職務質問待ったなしでも、ここなら何のお咎めもない。せいぜいご近所の噂になるくらいだろう。

 

 そのご近所も近寄らないのだから、実質ノーダメージだ。素晴らしい。

 

「そもそも幽霊屋敷に引っ越してきた時点で今更という話だよなあ」

 

 そんなものを気にするようなら、事故物件など買いはしない。

 

 そしてこの家だ。何かがあるのは間違いなかった。なんせ……。

 

「子どもの足音、ねえ」

 

 俺の叫び声に驚いたかのような転倒音と、それからとてとてと走り去る軽い足音が、やまびこの中に確かに紛れていたのだから。

 

 ■

 

 玄関を開けて家の中に入ると、少し線香の匂いが混ざった木の香りが肺府に染みる。祖母の家の匂いを彷彿とさせるどこか懐かしい匂いだ。古臭さのある誰かの営みの名残は、けれど不快ではなかった。

 

「意外とそのままでもいけるか……?」

 

 家の中を一通り確かめると、まず初めに出てきたのはそんな感想だった。もしかするといろいろ手を入れて修繕する必要があるかと思っていたのだが、そんな気配はない。人の手はしばらく入っていないはずなのに、存外埃も目立たない。誰かが住んでいて、今は少し留守にしているのだと言われても納得してしまえそうだ。

 

「幽霊よりも不審者が住み着いてる方がよほど怖いが……」

 

 決して冗談ではなくだ。こんな辺境に、違法に隠れ潜む人間など大抵ろくでもないものだろう。犯罪者に指名手配犯、俺など簡単に殺されてしまうに違いない。

 

 幽霊よりも生きている人間の方が怖いとはよく言うもの。ぞっと背筋に寒気が走る。

 

「とはいえ、か」

 

 恐れたところでどうにもならない。恐れれば恐れるだけ、恐怖はより大きな虚像を作るのだから。

 

 それに、なんというか……。

 

「視線が熱いな」

 

 家に入ってこの方、背後からずっと誰かの視線を感じている。悪意のあるものではない。どこかこちらを窺うような、人見知りする頃合いの子どもから向けられるような視線だ。それがじーっとこちらを見つめているようだった。

 

 時折振り返るとその感覚は無くなるのだが、しばらくすると戻ってくる。いるかいないか定かならぬものとのかくれんぼ。これはこれで面白いが、らちが明かない。

 

「ふむ」

 

 そこで一芝居打ってみることにした。

 

「ぐうっ!? じ、持病で胸が……!」

 

 突然心臓発作に襲われた風を装って畳に倒れ込む。そうして息を殺す。ただ殺す。吐息の音一つ立てず、自分は死体だと言い聞かせる。なかなか迫真の演技ではないだろうか。

 

 そう、もし誰かが居たら様子を確認したくなる程度には。

 

「……」

 

 それまでただ注がれるだけだった視線は慌てたように乱れて、そしてとっとっと、と軽い足音が駆け寄ってきた。

 

 畳に布が擦れる音。靴下だろうか。いや、複数あるから裾が長い服を着ているのか? とにかく俺の前で、その主は立ち止まったのだった。

 

「あ、え、あっ……!」

 

 可愛らしいほどに取り乱している可憐な声。思わず笑いだしたくなるほどに上手くいってしまった。

 

 多分この村に住む誰かさんの孫あたりが、勝手にこの家で遊んでいるのだろうと当たりをつけた。そうでないなら幽霊だが、まあそれはそれで面白かろう。どちらにせよもう少しこのまま泳がせて、ドッキリ大成功としてやろうではないか。

 

 さて、どうする? 他の村人を呼びに行くか、しばらく自力で起こそうとして見るか。

 

「……っ!」

 

 俺が身動きしないのを確かめて、正体不明の気配は声もなく俺の肩を揺さぶり始めた。身体に掛けられた手は小さく、力も弱い。そんな非力なのに初対面の男を起こそうとするなんて、本当に大丈夫なのかと心配になるほどだ。

 

 それでは俺は動かんぞ。

 

「……~っ! ……~っ!」

 

 とにかくうつぶせのままだとまずいと考えたのか、今度はお腹を持ち上げて仰向けにしようと頑張り始めたようだった。だが勿論成人男性をひっくり返せる力でもない。懸命に頑張っている様を想像すると、助けようとしてくれているのに申し訳ないのだが、微笑ましくて仕方がなかった。

 

「〜っ、っ! っ!」

 

 しかし五回も六回も試みられると、騙していることへの罪悪感も湧いて来る。このまま上手くいかないのをみて笑うのは、何とも大人げない話ではないだろうか。それで出来る限りさりげなく、その手が力を込めるのに合わせて身体を転がした。

 

「っ!」

 

 一瞬気配が張り詰めたのを感じる。もしかすると今のでばれたかもしれないが、それでも演技を継続することにした。

 

 さて、どう出てくる……と考えていたときのこと。それは突然に触れた。

 

「……ちゅ」

 

 唇に濡れたみずみずしい感触。不思議なことに熱はないけれど、柔らかくて、小さくて。

 

 思わず目を見開くと、綺麗な少女の顔が視界に広がっていた。心を吸い込まれてしまいそうな黒い満月が二つ、俺を覗き込んでいる。

 

 光はないけれど、優しい月だ。疲れ果てた夜に、足元を優しく照らしてくれるあの月。見上げればただ静かに見守ってくれているあの淡い宝石。

 

 対照的に肌の色は雪のように白く、その中に桜色の唇が艶やかに花開いていた。垂れた髪が額に触れてくすぐったい……。

 

「……え?」

 

「……〜っ!?」

 

 間抜けな声に、少女の動きもまた凍りついた。あっという間にその頬が朱に染まって、目の端に水滴が浮かぶ。それすらも綺麗なものだと見惚れているうちに、ぱっと彼女は身体を起こしてしまった。

 

「あっ」

 

 どうしたいのかわからないまま手を伸ばしたところで、彼女を止められるはずもなく。赤い着物の袖がはらりと揺れて、俺の手をすり抜けていく。そうして彼女は廊下の向こうに走り去ってしまった。

 

 途中に何度か、ばたんと転ぶさぞ痛そうな音を残しながら。

 

 ■

 

 その日はもうその少女……座敷童ちゃんを目にすることはなかった。というのもあの後すぐ引っ越し業者が到着したので、その対応に追われていたからだ。

 

 業者さんが運んできた荷物、家電の置き場を指定して、自分も荷物を運ぶ。ものぐさな一人暮らしに大した荷物はないけれど、それでも家電や本などはかさばるものだ。しばらく目を通していないラノベやらビジネス書やらも、これから先の生活ではなかなか買いに行くのも大変だと思うと捨てがたかった。

 

 忙しなく身体を動かして、業者のお兄さんを見送って荷物を解く。そうしているうちにあっという間に日が暮れていた。

 

「……」

 

 田舎の夜は都会と違って明かりがない。夕の暮れ沈む頃合いには本当に暗くなる。世界が暗闇に落ち込んでいく中にいると、さっきまで郷愁で心を癒してくれていたこの家が、急に人が踏み入るべきではない異世界に変わってしまったように感じられるから不思議だ。物悲しいヒグラシの鳴き声もそれに拍車を掛けている。

 

 そして、視線。引っ越し業者がいるうちはぱたりと途絶えていた視線が、またじっと俺を見つめている。彼女は結構人見知りするタイプなのかもしれない。

 

 ふっと振り返ってみると、廊下の奥から顔を半分だけ覗かせている彼女と目が合って、慌てて隠れられたりもする。……いや、可愛いには可愛いのだが、この暗さではホラーもいい所である。彼女が善性の存在であることを願うばかりだ。

 

 現状では倒れた男に何故かキスをする謎の少女、おそらく悪霊ではないと思うが。

 

「ふむ……」

 

 彼女と話してみたい。そんな思いがある。するとどうにかまっとうに誘い出したいのだが……。

 

 幸い、良策が思い浮かんでいた。

 

「久しぶりに手間暇かけてみるか」

 

 その良策とは、飯! 引っ越し祝いで買った高級牛肉にちょっとお高めな岩塩を掛けて焼き、玉ねぎと豆腐にネギを入れたシンプルな味噌汁。極めつけに炊き上げたばかりのホカホカの白米!

 

 これをさも多く作りすぎましたという顔をして二人分用意するのだ。実際にはまとめて作り置きするのが癖になっていたせいで多めに量を買っていただけなのだが、そんなことはおくびにも出さない。

 

 そして古民家を料理の匂いで満たし、言うのだ。

 

「いただきます。……うん、うまい、うまいぞ!」

 

 自分の手料理だし、いつもより高い肉を使っているからその分美味しいという程度の感動しかなくとも、美味そうに食べてみせる。うん、やはり自分の作ったそれなりの味だ。だがキンキンに冷えたビールを呷れば、いつだって身体に染みる最高の晩酌になるというもの。

 

 彼女からすれば今の俺はきっとあまりの美味しさに狂乱しているように見えるだろう……そこからふと、冷静になったように箸を置いた。夢から急に醒めてしまった、そんなふうに。

 

「ああ、でも一人だけのご飯は寂しいな……誰か、一緒に食べてくれる人はいないものか……」

 

 ぎし、と廊下の床板がきしむ音。動揺の気配は隠しきれておらず、この方向性で間違いはないと見た。

 

「ご飯も作りすぎてしまったしな……もう俺は一人だというのに。もう誰もいないものな。孤独、孤独か。ひとりぼっちはいやだなあ……」

 

 演技ではある。だが孤独が嫌だというのは紛れもない本心だ。天涯孤独の身の上で、このまま一人退屈な生を過ごして朽ちていくことへの恐怖がある。だというのにこんな田舎に一人隠居するほど、人と関わりあうことに疲れてもいる。

 

 我ながら矛盾しているものだ。しかし幽霊相手ならばあまり気にしなくていいかもしれない、というのは甘えだろうか。

 

「女の子とも縁のない人生だったな……ああ、可愛い女の子と二人きりでご飯を食べて、楽しく笑い合う。そんな一幕の欲しい人生だった……」

 

 アルコールが回って来たのか、どうにも愚につかないことを言っている。いつの間にか演技ではない本音を愚痴るようになってしまっていた。

 

「ちくしょう……どうしてこうも色のない……ああ、ほんとやんなるぜ。この家は、死に場所にちょうどよさそうだなあ」

 

「は、早まらないで……!」

 

「ぬおわ!?」

 

「きゃうん!?」

 

 にゅっ! と。

 

 突然、脇の下から女の子が生えてきた。件の座敷童ちゃんが何を思ってか急に抱き着いてきたのだ。もうタックルと言っていい勢いだった。体重は羽根のように軽く、押し倒されるようなことこそなかったが……あまりにも心臓に悪い。

 

「びっくりしすぎて死ぬかと思ったあ……」

 

「えっ、あっ、し、死なないで……! だめ……! えっと、えっとどうすれば……」

 

 軽口を真に受けておろおろと慌てる少女に何とも庇護欲をそそられる。今日出会ったばかりの男にひっしとしがみついて、小さな手で悪い所があるのかと確かめている。無論探したところでそんなものは見つからない。強いて言うなら、止めもせずにそれを見守る性格が悪い。

 

 しかしそれも仕方のないことだった。初めて彼女をしっかりと見て俺は息を呑んだ。時が止まったか、それとも驚いて心臓が止まったのかと思った。

 

「えっと、おじいさんはなんて言ってたかしら……く、くすり? でもおじいさんの薬はもうないし……」

 

 赤い。彼岸花を思わせる真っ赤な着物に、ぬばたまに艶めく髪が流れていた。俺の首元までしかない小さな体躯、その腰までを覆うその黒絹は、彼女が動く度にさらりと遅れて残り香を散らしていく。古池に落ちる水滴の音のように、心を澄ませる清らかな香りだ。

 

 どこまでもあどけない顔には、無垢という言葉が何よりも似合うだろう。穢れを知らぬ日本人形のような少女。それがこの座敷童ちゃんだった。

 

「……とりあえず他人の薬を飲ませるのはやめて欲しいかな」

 

「え、それじゃあ、その……」

 

 そこで座敷童ちゃんは急に言い淀んで、両の掌で口元を覆ってしまった。手が小さいものだから顔を隠しきれていない。上目遣いに見上げる目も、赤く恥じらいの差した頬も、ほとんど丸見えだった。

 

「ま、また、接吻を……?」

 

「一体どうしてそうなると?」

 

「眠っている人にはキスをして起こすものだと、おじいさんが……その、おばあさんに毎朝……」

 

「……おう」

 

 前に住んでいた老夫婦は、歳を食えどもロマンチックを忘れないでいたらしい。なんだ、童話ならぬ老話か? やかましい。

 

「おばあさんも、おじいさんが倒れたときに起こそうと何度もキスをしていました。そういうものではないのですか?」

 

「うーん、そうかあ……」

 

 こてんと首を傾げる少女は、それはもう随分と可愛らしかった。その勘違いも、同様に。

 

 おそらくこの子は、人工呼吸を目覚めのキスと勘違いしているらしい。いや目覚めさせようとする意味では大体合っているのだが、おじいさんがしていたものとおばあさんがしていたものは決して同じではない。

 

 しかしそれでようやく納得が行った。先程俺が芝居で倒れた時にも口づけをしたのはそういうことかと。あれは俺を起こそうとしてのことだったのだ。確かに不意打ちでこんな可愛い子にキスをされれば、誰だってばっちり目覚めてしまうに違いなかった。本当に死にかけていたら、驚きすぎて逆に死ぬかもしれないが。

 

「えっと、違うの、ですか……?」

 

「いいや、合っているよ。うん。また一つ先人に学んだ」

 

 俺はさも自信ありげに頷いた。

 

 この勘違い……このままにしておこうと思う。

 

 だってそうだろう。蘇生行為と愛情表現、そんな違いなど関係なくこの子にとってのキスは、誰かを起こす魔法なのだから。

 

 ふと俺は少女の頭に手を伸ばしていた。

 

「……て、あれ? お兄さんは元気、ですね?」

 

「ああ、あれ冗談だよ」

 

「ということは……死なない、ですよね」

 

「死なない死なない。当分はこの田舎暮らしを満喫しないとだからなあ」

 

「……よかったあ」

 

 ほっ、と彼女は息を吐いた。冗談に怒るでもなく、羞恥に隠れるでもなく。

 

 ただ緊張の解けた蕾が綻ぶように、そっと微笑んでいた。

 

「……というわけで」

 

「はい?」

 

「俺は古中洋平(ようへい)だ」

 

「……そうなのですね。それで、なんとお呼びすれば……?」

 

 どういう事だろう。頭にはてなが浮かぶ。好きなように名前を呼べばよいのでは……?

 

 俺の困惑を見てか、彼女はもじもじと恥ずかしがり始めた。

 

「あ、えっと……わたしが生きていたときの旦那様は、名前を呼ぶと酷く怒られたので……その……あなたも、旦那様とお呼びすればよいのでしょうか」

 

「いいや、洋平でいいよ。そう呼んでくれたほうが嬉しい」

 

 この子はどうやら幽霊らしい。それもなにか暗い過去がありそうだ。

 

 旦那様という響きには惹かれるものがあるが、きっとその呼び方にはあまり良い思い出はないと感じられた。

 

「洋平さん……はい。わかりました。洋平、さん……」

 

 胸に手を当て、噛み締めるように繰り返す。その様がなんとも愛らしい。

 

「君の名前は?」

 

「名前……」

 

 こてんと座敷童子ちゃんは首を傾げた。

 

「おじいさんとおばあさんからは、さちちゃんと呼ばれていました」

 

「じゃあ俺もそう呼ぼう。二人はさちちゃんの姿が見えていたの?」

 

「いえ。わたしを見たのは多分、洋平さんが初めてです。ただ、足音だとか、気配だとか……そういうもので、なんとなく誰かいるという風に感じておられたようです」

 

 座敷童が幸せを運ぶから、さちなのか、それとも二人が思い出の誰かにこの子を重ねてそう呼んだのかはわからない。

 

 ただ、さち。その言葉の響きは、この可愛らしい少女によく似合っていると感じた。

 

「さちちゃん、ご飯食べられる?」

 

「ご飯……」

 

 ほかほかの白米を差し出せば、さちちゃんの目はそこに釘付けになった。微かに立ち上る蒸気を目で追って、こくりと喉を鳴らす。

 

「どうなんでしょう……わたし、この身体になってから何かを口にしたことがなくて」

 

「試してごらん」

 

「……はい」

 

 遠慮がちに伸びてきた小さな手は、お椀の端っこについていた粒を一つ摘み上げた。

 

 触れることはできるらしい。では、口にすることはどうなのか。さちちゃんの動きには不思議な緊張感があって、俺もまたゆっくりと口元に運ばれていく米粒を、じっと見つめていた。

 

 桜色の唇に白米を乗せ、そっと食(は)む。

 

「〜〜〜〜っ!」

 

 その瞬間の彼女の喜びようといったらなかった。薄幸さを漂わせる目が大きく見開かれ、輝き、それから頬に両手を当ててぴょんぴょんと小さく飛び跳ねる。

 

 これほどまでにわかりやすく、微笑ましい美味しいの表現は滅多に見られるものではない。

 

「すごい、すごいです! お米って、こんなに美味しいんですね!」

 

「もっと食べていいよ。ほら」

 

「いいんですか!?」

 

 今度は箸に乗せて差し出したお米を、さちちゃんははむっと勢いよく頬張った。そうしてゆっくりと噛み締めて、幸せそうに微笑む。人生で初めて幸福を知ったのではと思えるほどに、純粋な喜びがそこにはあった。

 

 子どもにご飯を食べさせる親とはこのような気持ちになるのだろうか。いや、俺がこの子を産んだ気もする。きっとそうに違いない。

 

「これがパパになるということか……」

 

「おいひい、おいひいれす! んーっ!」

 

 この笑顔、なんとしてでも守らねば。

 

「お肉はどう?」

 

「お肉! 食べてみたいです!」

 

 小さく切り分けた肉を与えると、今度は悶えながらくるくると回り始めた。着物の裾がその動きにしたがってふわりと舞う。味気ないはずだった食卓に、目を惹く美しい赤が踊る。

 

 そうしてこれは、これはと餌付けしているうちに、夕飯は半分ほどにまで減ってしまっていた。けれどそんなことがどうでもよくなるくらいに、心は満たされていた。

 

「あ……すみません。洋平さんのご飯なのに、わたし、こんなに食べてしまって」

 

「いいよいいよ。一人で食べるより、隣で誰かが喜んで食べてくれる方が何倍も嬉しいから」

 

「一人で……そう、ですね。一人は、寂しいですもんね」

 

 これ以上は大丈夫です。とさちちゃんが遠慮するので、自分の分を手早く食べてしまう。彼女はそんな俺を、じっと真剣な目で見上げていた。

 

「ご馳走様でした。……どうしたの?」

 

「い、いえ! その……何でもないです! ご馳走様でした!」

 

 食器片付けてきますね! と慌てたように立ち上がる彼女に、ふと嫌な予感がして手を伸ばす。脳裏に過ぎるのは家に来た時の痛々しい転倒音。なんとなく漂うドジっ子の気配に、心配が先んじた。

 

「あっ……!」

 

 予想通りというべきか。長い着物の裾を踏みつけた足が縺れ、さちちゃんの身体が傾いていく。だが問題はない。あらかじめ動いていたおかげで、俺は彼女が倒れる前に頭を抱き留め、目一杯に胸元へ引き寄せることができた。

 

 余裕のあるセーフ。だが子どもとはこんな目が離せないものなのかと、心臓はバクバクと暴れていた。

 

「大丈夫?」

 

「あ、あうあう……! わ、わたし、男の人に抱きしめられて……!」

 

 真っ赤な顔にぐるぐるお目目。小さな手で俺のシャツを握りしめて、なにやらうわごとのように呟いている。

 

 もしかして男にあまり免疫がないのだろうか。そんな風に思っていると——。

 

「あ、あう、うう……きゅう」

 

「……あれ?」

 

 ばたんきゅー。さちちゃんは俺の腕の中で倒れてしまった。

 

「……とりあえず布団に寝かせてあげるか」

 

 想定外の同居人はどうやらドがつくほどに初心らしい。なかなかこれは大変そうだと、息を吐いた。

 

 しかし、布団に寝かせる、か……。

 

「まあ、許しておくれ」

 

 お姫様抱っこに抱え上げれば、その軽さに驚く。もはや霞ではないのかというほどだ。

 

 触れる髪の毛はさらさらで、つい指の間で弄んでしまう。

 

「……いっけね」

 

 女っ気がない生活を送っていたせいか、その純朴な感じが新鮮だった。とはいえ流石にこれはよろしくない。あまり勝手に触れるものではない。

 

 着物も髪も幕のように垂れるものだから、踏まないように気を付けながら運んでいく。

 

 そうして寝室に運んでふかふかのお布団を整え、さちちゃんをそこに横たえていたその時、不意に彼女が寝返りを打つ。

 

「あっ」

 

 別に悪意はなかった。

 

 折り悪くそれがちょうど襟元を整えている時のことで、疲れてぼんやりしていて反応も遅れてしまったせいで。

 

 引っかかった手が、胸元をめくり上げてしまった。

 

 ぺろりと。そしてその奥の膨らみが、見えてしまう。

 

「……何も見なかったことにしよう」

 

 そっと目を逸らして、服を直す。

 

 だがどれだけ振り払おうとしても、一度目に焼き付いたものは消えなかった。

 

 なだらかで小さく、だが揉めるくらいにはある膨らみ。ほのかに女に成長し始めたことを香らせるその頂点で、一点のしみもなく実った桜色の尖り。影に覆われていくなかでも眩しい雪の肌……。

 

 女の子だ。座敷童か幽霊かは判然としないが、この子は確かに女の子なのだ。

 

(いや待て、場合によってはこの子は俺より年上の可能性さえある。これは合法ロリなのでは? ん? そもそも他の人には見えないのだから、捕まらないのでは?)

 

 こんなことを考える時点で相当にテンパっている。だが瞼の裏にその光景が何度もフラッシュバックするうちに、心は誘惑されるようにそちらへ流れていってしまう。

 

 狂わされてしまう。

 

「……少しだけ、少しだけなら」

 

 ほんの出来心で、そっと手を着物の上から胸に乗せてみる。布越しならばセーフ……一体何がセーフなのかはわからないが、その考えは一瞬で間違いだったと知ることになる。

 

「ん、あ……」

 

「おお」

 

 ふにゅりと揉み込めば、喘ぐように漏れた微かな吐息。耳に心地よいその声音もさることながら、布が薄手だったことで想像以上に伝わってきた感触にたまらなくなる。

 

 柔らかい。思わず感嘆してしまうほどに。この世にこんな心地よい柔らかさがあっていいのかと思うほどに。

 

「んん、ふ……っ」

 

 その瞬間から右の手はもう止まることなく、さちちゃんの胸を夢中で味わい始めていた。起こさないよう静かに、それでいながら、丹念に乳肉の変化を味わう様に。

 

 そうして二分は揉んでいただろうか。さちちゃんの首元ににわかに桃色が差しはじめる。もう少し揉んでいると、ぴくり、ぴくりと小さな震えを見せ始める。

 

「は……ん……」

 

 脱力して肩の横に投げ出された両手、はだけだされた滑らかな肩と肩甲骨。まだあどけないふっくらとした頬から、艶めいた息が零れている。

 

 この着物を全て剥いで、赤い彼岸花の模様の中に横たえた彼女を思うがままにまさぐれたら……。

 

「……いや、流石にそれは駄目だろう」

 

 信頼を裏切るのは、駄目だ。ようやく働いた理性に手を引いて、タオルケットを掛けてあげる。

 

 そんなことがあったというのに、さちちゃんはすやすやと寝入っている。なんとまあ、罪悪感を感じさせることだろうか。

 

 俺はもういたたまれなくなって、とりあえずトイレで抜いた。かなり濃いのが出てもなおチンポはギンギンと元気なままで、それをあの子の顔に掛けて汚す想像でまた抜いた。

 

 同じ部屋で寝る気には流石にならなかった。落ち着いたとはいえ、今度こそは襲ってしまいそうだったから。

 

 ■

 

「洋平さん。朝ですよ……」

 

 声が聞こえる。

 

 朝、朝か。ご飯を食べて着替えて、出勤して……。あれ、もう出勤する必要はないんだったか。

 

 なら……まだ寝ていたいな。

 

「朝ですよ。起きてください……もしかして、結構ねぼすけさんなのでしょうか」

 

 うーん、と可愛らしい唸り声。それがぱたりと途絶える。

 

「……これは、何なのでしょうか。なにやら盛り上がっていますけれど……」

 

 こんな女の子の声を朝から聞く……きっと夢だな。ずいぶんと幸せな夢だ。いっそう起きる必要はない。まだ微睡んでいたい。

 

 ……そんなことを考えていると、肉棒に何かが触れた。

 

「あ、え……!? な、何かぴくりと動いて……!? でも、熱くてちょっと不思議な感じが……も、もう一度だけ……」

 

 流石に朝勃ちしたペニスを刺激されれば、目も覚めるというものだった。薄く開き始めた目に、赤と黒が飛び込んでくる。

 

 赤は彼岸花の着物の色。

 

 黒は……ああ、そうだ。さちちゃんという座敷童の、髪の毛の色だ。

 

 視線を股間へ向ければ、勃起で盛り上がった半パンにさちちゃんが手を置いて撫でている。正座から前かがみに顔を近づけ、垂れた髪の毛を小さな手で耳までかき上げる。袖が腕の半ばまで落ちている。

 

 ともすればこれからフェラをしようとしているようにも取れるその仕草に、血流が股間へ集中した。

 

「わ、またびくんって……これは、なんなの、で、しょう、か……」

 

 視線が合った。見間違えようもなかった。さちちゃんは俺を見つめたまま、ぱちぱちと瞬きをして、はくはくと口を動かした。

 

「あ、あの! すみません! これは違うんです! あの、その……!」

 

「一体何が、何と違うんだ……?」

 

「その、洋平さんを起こしに来たのですけれど、これが目に入ってしまって、つい、好奇心が……」

 

 これ、というのはもっこりと盛り上がった俺の股間なのだろう。恥じ入るように消え行く声でぽしょぽしょと呟きながら、その視線はしっかりとそこに固定されている。

 

 うーん、と唸る。寝ぼけた頭は重く、特段考えることはしなかった。

 

「見てみるか?」

 

 とんでもないセクハラ発言だ。ただ、この瞬間は彼女の好奇心を満たしてあげよう、くらいの気持ちでしかなかった。

 

 さちちゃんはずいぶん箱入りというか、知りたがりな子どもらしさというか。大人が失って久しい眩しさを持っていたから。

 

「……はい」

 

 やや間を置いて、さちちゃんはこくりと頷いた。パンツごと半パンを下ろせば、既にぎんぎんに勃っていたチンポは勢いよく空を切る。

 

「ひゃっ!? わ、わあ……」

 

「見るのは初めてか?」

 

「は、はい……その、殿方には、このようなご立派なものがついておられるのですね……」

 

「いつもはもうちょっと小さいんだけどな」

 

「そうなのですか?」

 

「そう。朝起きた時とか、刺激を受けた時とかに大きくなる」

 

「……触ってみてもよいですか?」

 

「どうぞ」

 

 愛玩人形じみた人差し指にそっと亀頭をつつかれ、びくん! と跳ねる。

 

「きゃッ!? え、ええ、すごい熱くて……なんだか、可愛い……」

 

「可愛いか……?」

 

「なんだかこう、ミミズさんみたいで……」

 

「ミミズ」

 

 つんつん、びくびく。興味津々、純粋な知的好奇心を宿した眼差しは何とも可愛らしい。

 

 そんなさちちゃんに、本人が望むならもっと教えてみたいと思う俺は悪い大人なのだろうか。

 

「さちちゃんはえっちなことに興味があるのか?」

 

「えっち……?」

 

 言いながら、またこてんと。誤魔化しているのではなく、本当に何かわからないようだった。

 

 ……果たして、どう説明したものか。

 

「えっちって言うのはね、男性と女性が愛を育むための行為だ」

 

「それは……素晴らしいことですね」

 

 おっと、何か間違えた気がする。

 

「そして、その二人の間だけの秘密にするべきものだ」

 

「二人だけの、秘密……!」

 

 余計にきらきら。なんて可愛いお目目だろうか。

 

 これはもう、このまま押し通すしかないかもしらんね。

 

「……さわりだけでもやってみる?」

 

「いいのですか!?」

 

「ああ。……その幹の部分を握って擦ってごらん」

 

「こう……でしょうか」

 

 ぎこちない動きで、温かくふにふにとした五指が竿を包み込む。そうして上下にゆっくりと動き始めた。

 

 技も何もない、慎重に動くだけの手技。恐る恐ると言った風情で、握る力も儚いものに触れているかのようだ。

 

「そう……そうだ。もう少し強く握ってもいい」

 

「はい……」

 

 ただその真剣な眼差しと、小さく、柔らかい穢れを知らない手。そんな彼女に己の逸物を握らせているという背徳感だけで、こみ上げてくるものがあった。

 

「……とても、熱くて固い、です。それに……この辺を触ると、びくびくして……」

 

「うおぉ……」

 

 ましてや自らカリ首のあたりを擦ると反応が良くなるなどと気付いてくるのだから、たまらない。

 

「さちちゃんが上手にするから、もう少しで、射精(しゃせい)しそうだ……!」

 

「しゃせい?」

 

「男が気持ちよくなるとね、その証に先端から白い液体を出すんだ。ほら、もう透明な先走りが出てるだろう?」

 

「このぷっくらとした雫のことですか?」

 

「そう」

 

「……洋平さんは今、気持ちいいということですか?」

 

「そうだ」

 

 さちちゃんは横目に俺を窺って俺の反応を、顔色を確かめているようだった。そして言葉に嘘がないとわかると、鼻を亀頭に近づけてすんすんと鳴らす。

 

「……なんだか、不思議な匂い……どんな味なんでしょうか」

 

「あ」

 

 好奇心とは恐ろしいものだ。知りたいというだけで、思いもよらぬ行動を導き出す。

 

 さちちゃんは竿を擦りながら、小さな舌でちろりと亀口をなぞり上げた。熱く、ざらりとした感触……それでもう、はちきれた。

 

「さちちゃん、射精(で)る!」

 

「きゃっ!?」

 

 か細くさちちゃんが悲鳴を上げる。彼女の眼前で噴き出した白濁は、白磁の肌を、濡羽色の髪の毛をぬめった白に染めていく。見開かれた丸い目は、ただただ驚愕していて……。

 

「あむっ」

 

「んっ!?」

 

 そして何を思ってか、迸りが収まらぬうちに彼女ははむりと亀頭を頬張った。先端を咥えるのがやっとに見える小さな口の、思いもよらぬ温かさ。そこにある唾液のぬらりとした感触。

 

「んっ、ふー……~っ!」

 

 脈打った肉棒から飛び出す熱を喉奥に受けとめてさちちゃんが呻く。だがこらえるように息を鼻から吐くと、こくりと喉を鳴らしてゆっくりと嚥下していく。

 

 その姿の、なんと淫靡なことか。

 

「さちちゃん、ごめん! 無理して飲まなくていいぞ!」

 

「ん、くっ……」

 

 そう制止しても、彼女は口を離すことはしなかった。射精が終わるまで、ずっと肉棒を咥えこんでいた。

 

「ぷあ……なんだか変な味、ですね……」

 

「大丈夫? 苦くないか? ぺってしてもいいんだぞ」

 

「いえ……それはなんだか、もったいない気がして……それに、温かくて、胸がぽかぽかします……」

 

 近くにあったタオルを手に取ってさちちゃんの顔を拭こうとして、一瞬手が止まる。

 

 とろりと精液がまばらに掛かった顔は火照り、うっとりと目尻を蕩けさせ、ぽうっと微かに口を開いている。その口の中に、まだ飲み切れていない精子の名残が覗いている。

 

 そして口の端に漏れていた液を、さちちゃんはちろりと舌で舐めとった。そうしてんっ、と艶めかしい声と共に呑み込んだ。

 

 これで、無知……? 冗談だろう……?

 

「はあ……ごちそうさまでした……」

 

 そう言って手を合わせるさちちゃんは、座敷童よりも淫魔と呼ぶほうが余程似合っているように見えた。

 

 ■

 

「というわけで、荷物開封の儀を始めますドンドンパフパフー!」

 

「えっと……ぱふぱふー」

 

 ぱちぱちとか弱いおててで拍手を合わせてくれたことに満足して頷く。引っ越した後に一番大変なのは、運んできた荷物の整理だ。一人暮らしで荷物はそれほど多くないとは言え、一人でやれば日が暮れる。

 

 だが二人でやれば二分の一! 昼までには終わるだろう!

 

「蝉もよう鳴いて応援してくれるわ……」

 

「蝉さんも元気いっぱい、わたしも元気いっぱいです!」

 

 袖をまくってふんすと気合を入れるさちちゃん。物に触れられるのは、もうそういうものだと思おう。

 

 世界は不思議に満ちている。

 

「……無理だったら言ってくれてもいいからな?」

 

「いえ、一人でやるより二人です! それに、眺めているだけだなんていやですから」

 

「そうか。じゃあ俺が出した荷物の整理と運搬を頼んでいいか?」

 

「はい!」

 

 そうして段ボールに手を付けていると、さちちゃんの視線を感じた。

 

「これ、気になるか?」

 

「えっと……はい。これは籠のようなもの、なのでしょうか」

 

「段ボールって言ってね、物を運ぶのに便利だよ」

 

「そうなんですね……」

 

「多分さちちゃんも入れて運べちゃうよ」

 

「それは……ちょっと……」

 

 引っ越し用の大きな段ボールならさちちゃんも入れそう。そう思っての冗談だったが、彼女の反応は思いの外強かった。

 

 きゅっと俺の袖を掴み、縋るように見上げてくる。その瞳は拒絶と、怯えで揺れているようだった。

 

 何かあるのだろうが……その理由まで、踏み込むのは早いだろう。

 

「ごめん」

 

「いえ……」

 

 ガムテープを切れば、中から食器が現われる。それを取り出しては、さちちゃんに食器棚へ並べてもらう。

 

 とはいえ客人用を含めても三人分くらいしかないから、大した量ではないが。

 

「そういえばさちちゃんは、あれだ。座敷童ってことでいいのか?」

 

「一応、そういうものだと思います。幸運を運ぶのかは、知らないですけれど……おじいさんたちはよく、そう言っていたような気もします」

 

「さちちゃんの思い出深いものって、何かあるか?」

 

「思い出……深い物……」

 

「俺はさちちゃんのことも知りたいんだ」

 

 彼女はしばらく首を傾げてから、そうですね、と語り始めた。

 

「あまり、思い出というのはないんです。ずっと、家に籠っていましたから」

 

 ですけれど、と大事なものを抱きしめるように手を組み合わせる。

 

「お姫様になりたかった。そればかり願っていたことは覚えています」

 

 それは言葉だけを見れば、見た目相応の可愛らしい願いに思える。だが俺にはどこか、切実な感情が籠っているように感じられた。

 

「うーん、よし!」

 

「ひゃっ」

 

 ふと思い立ち、お姫様抱っこでくるくると回り始めた。気分は高速メリーゴーラウンドだ!

 

「さち姫、これはいかがでしょうか!」

 

「きゃー! 目が回りますー!」

 

 さちちゃんがきゃらきゃらと貝殻を擦り合わせるような声で笑うものだから、つい楽しくなって二人ともふらふらになるまで回してしまう。

 

 それで畳に転げて、おかしくて笑って、次に本をしまった段ボールを開封して……そう、その途中にトイレに行ったんだ。

 

 

 

 そうして、さちちゃんが同人誌でオナニーしているところを見てしまったんだ。

 

 ■

 

 それから一週間の間、俺は何も見なかったふりをして過ごした。あいさつ回りや環境を整えるのに追われてあっという間に終わったけれど、その間に起きた変化は大きかった。

 

 さちちゃんが毎朝、フェラチオで起こしてくれたり。

 外出したりわざと目を離して一人にすると、彼女はこっそりとオナニーに耽るようになっていたり。

 初めは手探りにクリトリスと陰唇にしか触っていなかったのに、日が経つにつれ指を中に入れ、一本から二本に増やし、一回の絶頂では満足できなくなって二回連続でイクようになったり。イクときには噛み締めるように「イきます……洋平、さん……!」と宣言するようになったり。

 それをこっそりと眺めて、少し間を開けてから話しかける。そして頬を火照らせながら、慌てたように誤魔化すさちちゃんの様子を楽しんだり。

 

 親切なおじいさんが玄関に野菜を置いてくれるようになったり。さちちゃんが料理を手伝ってくれるようになったり。

 

 ……まあ大体はさちちゃんのことである。彼女とはずいぶんと仲良くなった。そしてエロくもなった。それでもまだ手を出していないのは、ひとえにタイミングを探っているからだ。

 

 急いてはことを仕損じるという。決して勇気がないわけでは……ない。

 

 さてそんな一週間で多くのことは片付いたけれど、後回しにしていた問題もある。

 

「離れの蔵……ですか」

 

「そう。親族の人が触れずに残してるらしいから、何があるかだけでも把握しておかないとな」

 

 この家から少し離れた所、山の袂(たもと)にひっそりと隠れるように土蔵が建てられている。四方の一辺はそのまま傾斜が続いて崖となっているが、他は山から続く木々の影に覆われているせいか、そこだけ世界から隔離されたようななんとも不思議な雰囲気を漂わせているものだ。

 

 家を相続した遺族は、気味悪がって近寄ることさえしなかったらしい。俺もさちちゃんの存在を知らなければ、あまり触れようとは思わなかっただろう。

 

「あそこは……その、結構色んなものが置いてあるので危ないですよ? あまり、入らないほうが……」

 

「そうか」

 

 気になってさちちゃんに聞いてみた時、彼女からは蔵に入って欲しくないという気配をありありと感じた。いかにも訳ありで、あそこに何かあると言っているようなものだ。

 

 だから俺は、さちちゃんがまた自慰を始めたのを見計らって、その蔵の中に入ることにしたのだ。

 

 あまり褒められた行いではないだろう。だがこの中に何か重要なことがある。そんな予感がしていた。

 

 ■

 

 ぎいっ、と軋む扉を開けて蔵の中に入ると、ひんやりとした空気が肌を包んだ。差し込んできた光に埃がちらちらと小雪のように舞っている。

 

 入った瞬間に蝉の声も夏の暑さも遠のいて、古めかしい壺や掛け軸、石油ストーブなどに囲まれる。匂いは思いのほか澄んでいるけれど……ここだけが過去に置き去られたようだ。

 

「さて、何かあるかな……」

 

 きちんと整理されてはいるものの、物が多く雑多な印象を感じる。八畳ほどの広さの中に色々と敷き詰めているのだから、それも当然だろうか。

 

 懐中電灯片手に漁っては見るものの、目につくのは生活の中で使われなくなったものばかり。十分ほど探って、はては期待外れだったかと思った時。

 

 それを見つけた。

 

「っ人形……? それに、水……」

 

 蔵の奥まった場所に、両の腕に抱えるほどの大きさの水がめがあった。ぼろぼろのござを敷いたその水がめの前に、女の子の日本人形と、湯呑みに入れられた水が、供えるように置かれている。

 

 突然暗闇の中に日本人形が現われるのは、心臓に悪いのでやめてほしい。普通に叫びそうになった。

 

「……これだけ綺麗なんだな」

 

 よくよく見てみれば、その人形の着物は他の物に比べて綺麗で、比較的新しいように見えた。水も同様に、それほど埃が浮いていない。

 

 おじいさんとおばあさんが、生前手入れをしていたのかもしれない。しかし気になるのは、では何故という話だ。

 

「……空か。なら、下は」

 

 水がめの中は空っぽだった。そしてござをめくってみれば……当たりだ。

 

 そこには取っ手の付いた石蓋が、後ろめたげに隠されていた。

 

「ぬ、おお……!? なんだこれ、おっもお……!」

 

 腰がやられそうな重さの水がめは、この下にあるものをよほど隠したいのだろう。なんとか引きずって石蓋を開けば、人一人通るのがやっとの階段が下に続いていた。

 

 奈落を覗き込んだようだった。ひゅおぉ……と身体の芯まで冷えつくような冷気が、暗い地の底からそよいできたような気がした。

 

 想像以上の恐ろしさに、流石に躊躇うというもの。だが、もう気付いてしまった。蓋を開いてしまったのだ。

 

「行くしか、ないか……」

 

 覚悟を決めようと深く息を吸って……咳き込む。舞っていた埃を思い切り吸ってしまった。阿呆だ。

 

 なんとなく締まらない気分になりながら、一歩を踏み出した。

 

 ■

 

 階段の段数は十ほど。それほど奥まで続いているわけではなかったが、しかし光源は一つもなく、懐中電灯が無ければ踏み入ることもできない暗闇だった。

 

 奥まで降りて辺りを見回したとき、俺は目に映ったものに息を呑んだ。

 

「これは……」

 

 階段と繋がる入口には戸が開いたままの竹の格子。その奥には八畳ほどの、無機質な土壁に覆われた部屋があった。いや、これを部屋と言っていいものだろうか。

 

 床は固められた土。冬にはきっと身を切るような冷たさに違いない。

 そこにまたござが敷かれている。擦り切れて、ボロボロで、ほとんど敷物としては使えないだろう。おそらくこれがこの部屋にいた人の寝床……だが、こんなものの上で寝ようものなら二日と経たず身体を壊すだろう。

 他に見えるのは、土に埋もれた十センチ四方の採光窓と、トイレがわりだろう壺。ここにはそれだけしかない。

 

 これは部屋ではない。不必要に広い、寒々しい牢屋だ。そう気付くのに対して時間は必要なかった。

 

「来て、しまわれたのですね……洋平さん」

 

「うおっ!? な、なんだ、さちちゃんか」

 

 背後から突然、抑揚のない声が聞こえた。びびるあまりに飛び跳ねるように振り向けば、そこにはさちちゃんがいた。

 

 先程までオナニーをしていたはずなのに……そう思ったが、ここに至るまでそれなりに時間を掛けてしまっていることに気付く。

 

「驚かれましたか?」

 

「ここまで雰囲気たっぷりで、いきなり後ろから声を掛けられたらそりゃもう、なあ」

 

「ふふ。ここを覗きに来た悪い洋平さんへの、悪戯です」

 

 懐中電灯で照らした顔は、微笑んでいるのに悲しげに見えた。それから彼女は部屋の真ん中に歩いていく。

 

「わたしは、忌み子だったんです。昼なのにお日様が影に食べられ、大地に夜が落ちる。不吉の時間に産まれてしまった不幸を招く子ども」

 

「……日食か」

 

「今はそう、名がつけられているのですね。……わたしが生まれた頃のこの村では、ただよくないものの象徴でしかありませんでした。殺しても不吉が起きると恐れられ、生かさず殺さずのまま……わたしと母はここに閉じ込められて、母はわたしが物心ついた頃には儚くなって……」

 

 淡々と紡がれる言葉が、氷のナイフのように心の表層を剥ぎ取っていく。

 

「ここはもともと、罪人や賊を捕らえておく牢屋だったそうです。広いのは、複数人をまとめて入れるため。この中でわずかな食料を奪い合って殺し合いすら起きたこともある……そんな血塗られた場所です。けれどわたしにとって、ここと、その窓から見える空だけが世界の全てでした」

 

 彼女はもう埋もれた窓に、そっと手を伸ばす。

 

「どうして? とずっと思っていました。ここから見えた空はあんなに高くて、青くて、どこまでも自由なのに……わたしはなにも悪いことをしていません。ただ、生まれただけ。なんで、どうして。わたしがお姫様だったら、こんな目には遭わなかったのですか?」

 

 振り返ったさちちゃんは、目から大粒の涙を静かに流していた。もうどうしようもない過去なのだと。長く共に過ごした諦念を慈しむように抱きしめながら、それでも理不尽を嘆いている。

 

 日食の時間に生まれたから不幸を招くだなんて、とんだ迷信だ。そう言うだけで救われるなら、どれだけよいか。

 

 その迷信に人生を狂わされた子を前に? なんと空虚な言葉だろう。

 

「お腹をずっと空かせていました。亡くなってからもずっと。美味しいものを食べたのは、洋平さんに頂いたお米が初めてでした。優しく声を掛けられたのも。色んなことを教えてくださったのも……でも、もう終わりなんですね」

 

 彼女はそっと目を伏せた。

 

「忌み子だと知った以上、洋平さんももうわたしのことなんて……きゃっ!?」

 

 それ以上もうなにも言わせるつもりはなかった。我慢できず、無理やりに抱きしめる。

 

「そうか、そうか。辛かったな」

 

「っ、あの、離れたほうが、いいです! わたし、忌み子ですから……洋平さんを、不幸にしてしまうかもしれないんです!」

 

「いいや、離さない。不幸にするって言うなら、今この瞬間に離れてみるがいいさ!」

 

 あえて悪役っぽく言い放てば、さちちゃんは必死に暴れ始めた。何度も蹴られる。頭突きもされる。激しい抵抗に懐中電灯が落ち、転がった先で俺とさちちゃんを丸く照らし出している。

 

 こうして抱きしめてみれば、なんと小さいことだろうか。こんな小さな命が、生きている間はこの牢屋の中で、亡くなってからは誰にも見られることなくこの屋敷で、ずっと孤独を味わっていただなんて。

 

 そして悪霊や怨念と化しても責められるものではないのに、こんな純粋なままでいただなんて。

 

 尊敬に値する偉大さだ。出会ってきた誰よりも立派だ。誰よりも……幸せにしてあげなければいけない。

 

「ぜんぜん痛くないぞ! 毛ほども! 蝉の鳴き声の方がもっと痛いぞ!」

 

「どういうことですかあ!?」

 

 日食の時間に生まれたから忌み子? 現代において日食はただの自然現象でしかない。吉兆も不吉も関係ない。

 

 それを彼女に言ったところで救いにはならないかもしれないが……俺は彼女が不幸を運ぶことなどないと理解出来る。

 

 それで十分だろう。

 

「離して! はーなーしーてーくーだーさーいー!」

 

「ふっはっは! この程度で不幸を運ぼうだなんて、非力! 無力! あまりにも儚い!」

 

 ……とはいえ、ここまで叫ばれると心が痛むのも事実だ。

 

 そういうわけで、塞ぐことにした。

 

「洋平さ、んむぅ……!?」

 

 口で。腕ごと抱え上げて動きを封じる、体格差を活かしたキスだ。

 

 唇が触れ合った瞬間、さちちゃんは信じられないとばかりに目を見開いた。丸い月が、あんまりにも綺麗なものだから吸い込まれてしまいそうになる。だが今回は見惚れているわけにはいかなかった。

 

「んむっ、ふっ、る、んぅ……!?」

 

 彼女が唇を閉ざしてしまう前に、ぬるりと舌をその歯列の内側にまで滑りこませる。びぐっ! と跳ねた身体を強く抱きしめて抑え込み、離すつもりなどないと言外に宣言する。

 

 さちちゃんの戸惑いが彼女の舌の動きに現れていた。慎ましやかでか細い柔肉が、どうしていいかわからずに縮こまっている。俺はそこに舌を絡ませて、思うが儘に求めていった。

 

 舌の表面を先端でなぞる。

 裏側を根元からゆっくりと舐めあげる。

 つんつんと舌先でつつき、それから歯列の裏側に舌を這わせる。

 

 溜め込むだけで使うことのなかった知識を思い出しながら、キスとはこうしてするのだと教え込んでいく。

 

「ん……ふ……あ……ふあ……」

 

 そうしているうちにさちちゃんは目を蕩けさせ、初めての深いキスに耽溺(たんでき)し始めたようだった。抵抗らしい動きがあったのは初めだけ。今では胸板に添えられた繊手(せんしゅ)が、形ばかりの抵抗を示しているだけだ。それも俺を押し返すのではなく、むしろ胸筋を確かめるように広げられている。

 

 慣れて来たのか、彼女も舌をぎこちなく動かし始めた。ちょんちょんと、俺の動きを窺うように舌でつつき返してくる。そのいじらしさと言ったら。

 

「んひゅぅっ……!? ぢゅ、る、んむっ、ふ、むぅー……!?」

 

 たまらず更に深く口づけて貪る。ケダモノと罵られてもおかしくない勢いだった。それでもさちちゃんはもう拒まず、吐息が次第に熱を帯びていく。

 

 そうして何分も、何分も。少女の内側を、これでもかと味わい続けていた。

 

「ぷ……は……これが、キス、なんですね……洋平、さん……」

 

 ようやく唇を離したとき、銀の糸がつう、と瑞々しい唇にかかった。懐中電灯の光で艶を放って、妖しい色を放つ。

 

 その少女らしからぬ艶美さの中で、彼女はほう、と情欲に満ちた息を漏らすものだから、いっそう胸の狂騒が掻き立てられるようだった。

 

「そうだ。これがキスだよ。中でもいっとう深い奴だ。よほど大事な人にだけするものだ」

 

 実際はそうとも限らないだろうが、しかしこと俺に限って言えば間違いない。

 

 なんせ俺もこれがファーストキスだ。そのうえ他の人とする予定もないのだから。

 

「……わたしは、忌み子なのに、どうして……」

 

「時代は変わったんだ。忌み子なんて、現代の知識だと存在しない」

 

 潤んだ目で見上げてくるさちちゃんに、何を伝えるかはもう決めていた。

 

「そして俺の知識だと、引っ越してきた家に現れた可愛らしい女の子はこう呼ぶんだ」

 

 座敷童だよ、と言うとさちちゃんは首を傾げる。

 

「おじいさんとおばあさんも、言っておられましたが……座敷童、とは……」

 

「住んでいる人に幸運を運んでくる子だ」

 

 さちちゃんは零れんばかりに目を見開いた。あ、ああ……と抑えきれない感情を溢れ出させていた。

 

「俺は今のキスで幸せになった。不幸なんて微塵もない。さちちゃんは?」

 

「……幸せ、すぎて……腰が、砕けてしまいました……」

 

「ならよかった」

 

 これで下手だったと言われたらあまりにも格好がつかないところだった。

 

「わた、わたし、は……洋平さんに、不幸を……与えない、のですか……?」

 

「もちろん」

 

「おじいさんやおばあさんは……わたしのせいで、死んだのでは、ないのですか……?」

 

「普通に寿命だろう。二人は不幸そうな暮らしをしていたように思うか?」

 

「い、いえ……」

 

 でなくては新しい人形も、水も供えはしないだろう。あるいは、二人はこの子のことが見えずとも、この場所の存在を知っていたのかもしれない。もしかしたら、ここの過去も。

 

 そしてこうも思う。

 

 入口に供えてあったあれらはもしかすると、自分達亡き後にここへ来た人に、この場所とさちちゃんの存在を教えるための物だったのかもしれないと。

 

 真実はもう、知りようがないが。

 

「うう、ああああ゛ー……!!」

 

 俺の胸の中で涙にくれる少女を、今度はそっと抱きしめる。満足するまで泣くといいさ。

 

「うう、ううう゛……!」

 

「よしよし」

 

 彼女が負った不幸の分……いや、その何倍も幸せにしてやろう。俺はきっとそのためにここへ来た。

 

 そうして、どれくらい抱きしめていたことだろうか。

 

「あの……もっと甘えても、よいですか?」

 

「もちろん。嫌と言うほど甘えてくれていい」

 

「では、その……このまま抱きしめていてもらってもいいですか? 腰が、砕けてしまって……」

 

 ……ふむ。キスだけでやられてしまったらしい。彼女は恥ずかしいのか胸に顔を押し当てて、表情を隠そうとしている。それで悪戯心が刺激されて、腰をつう、と撫でてしまった。

 

「ひあっ!? よ、洋平さん!?」

 

「何かな。ちゃんと抱きしめてるよ?」

 

「その、今はそこ、撫でられると、びりびりするので……んっ……!」

 

 声はひどく甘い。勃起したペニスもさちちゃんのお腹に当たっている。このまま押し倒してしまいたくなるが……ここではあまりにも雰囲気がない。

 

 この牢屋はさちちゃんにとって、嫌な思い出が詰まった場所だ。いくらなんでも……。

 

 いや、だ(・)か(・)ら(・)こ(・)そ(・)か(・)。

 

「さちちゃん、君をお姫様にしてみせよう」

 

「……え?」

 

 さて、気合を入れていくとしよう。

 

 ■

 

 それから二十日後のこと。

 

 俺はさちちゃんに目隠しをして、手を引きながらあの地下室へ再び向かっていた。

 

「あの……目隠しは本当に必要なんですか?」

 

「まあまあ見てなって」

 

「見えないのですけれど……それに、なんだかドキドキしてしまいますし……」

 

「いやだった?」

 

「大丈夫です。暗いのは……慣れていますから。それに、こうして手を握っていてくださるのなら……」

 

 にぎにぎ、きゅう。小さな手が、俺の存在を確かめるように手を繋ぎ合わせてくる。

 

「大丈夫、ちゃんと手は握ってるから」

 

「はい。うふふ、ですから、ドキドキするのはそのせいではなくて。なんだかこう……いえ、いいです」

 

 ふい、と顔を背けながらも、しっかりと俺の手を握っているのがなんともいじらしい。耳まで赤みの差した肌を見ると、いくらでも愛でたくなってしまう。

 

「その、そろそろ階段がありますよね?」

 

「そうだね」

 

「目隠ししたままだと、危ないので、あ、あの……」

 

「りょーかい」

 

 消え入るような言葉は、控えめなおねだりだと一緒に過ごすうちにわかってきた。期待に応えてお姫様抱っこでさちちゃんを持ち上げると、彼女はそっと口元を綻ばせる。そのまま何も言わずに胸に頭を預けてくるものだから、心臓は甘く跳ねた。

 

 これまでこうして何度無自覚に煽られ、何度我慢を重ねて来たことか。

 毎朝のおはようは、フェラの前に彼女が満足するまでキスをするようになった。

 その後の射精も、一度では足りずに二、三度が当たり前になった。

 

 これで襲わなかったのはもう奇跡だ。鋼の理性だ。俺はよくやった。

 

 わかっている。さちちゃんは俺のことを好いてくれているだろう。多分いつ襲っても、受け入れてくれただろう。

 

 それでもここまで我慢したのは、今日この日のため。最高の初めてをプレゼントしてあげるためだ。

 

「……あの日からずっと、この部屋で何かしておられたんですよね? わたしには絶対に入ってはいけない、とだけ言っておられましたが」

 

「ああ」

 

 階段を下りる。さちちゃんの手は微かに震えていた。

 

「大丈夫」

 

 見つけ、聞いてしまった以上。さちちゃんの涙を見てしまった以上、ここを辛い思い出の場所のままにはしない。そう俺は決めたのだから。

 

「さあ、ご覧ください……お姫様」

 

「……え?」

 

 気障(きざ)な台詞を吐きながら目隠しを取ると、さちちゃんは呆然と部屋を見渡していた。

 

 ——なんということでしょう。そこにはお姫様の寝室のような、きらびやかな部屋が広がっているではありませんか。

 ——暗かった室内を、部屋の中心に置かれたフロアランプの暖色光が温かく照らし出しています。

 ——無機質だった内装は薄い赤を基調とした壁紙で彩られ、床はふわふわのカーペットに。冷たい寝床は、白く清潔なダブルベッドに変わって極上の寝心地を予感させるようです。

 ——土に埋もれていた採光窓は土を取り除かれ、ガラスをはめ込んで外の光を薄く取り込む開放的になっています。

 ——そこに以前のような牢屋の面影は、欠片ほども残っていません。

 

 と、某劇的なアフターのBGMを脳内で流しながらすっかり変わった部屋を改めて確認する。

 

 要するに華やかなラブホの部屋だ。さちちゃんをお姫様にするために一番初めに思いついたのがこれだった。

 

 和風のお姫様……は、よくわからんので、洋風に。入り口が狭いので、ベッドは一度完全に分解して運んだりと中々大変だったが……初めてのDIYでここまで出来たのなら、上出来だろう。これからもっと可愛さを追求して色々追加していく予定である。

 

「あ、え……これ、は……」

 

「お姫様になりたいって言ってたから、海外のお姫様の部屋風にしてみたんだが……どう?」

 

「ああ、ああ……!」

 

 とめどなく溢れ始めた涙は流れるまま。さちちゃんは感極まって、俺の唇にちゅうっと口づけてきた。

 

「洋平、さん……! うれしい、です……! こんな、こんなことが、あるなんて……!」

 

 そのまま感情をぶつけるように首を抱きすくめて何度も、何度も啄(ついば)んでくる。なんと可愛らしい小鳥だろうか。俺はベッドに近づきながら、そのぷるりとした桃唇の感触をされるがままに味わっていた。

 

「ちゅ、ちゅっ……! 魔法みたいです。あんな、ずっと、ずっと、ずっと息苦しかった牢屋が、こんな綺麗で、素敵な部屋になるなんて……洋平さん……!」

 

「お姫様には魔法使いが付き物だからな」

 

「本当に魔法使いですね。すごい、すごいです……!」

 

 語彙を失っているのは、それだけ彼女の心にこのリフォームが刺さったということなのだろう。頑張った甲斐があるというものだ。

 

 さちちゃんをベッドに横たえれば、ぽう、と潤んだ瞳に見上げられる。柔らかな黒髪がしどけなく乱れてベッドの上に広がり、着物の赤と朱に染まった頬と相まって可憐な花が咲いたようだった。

 

 頬に手のひらを当てて涙を拭えば、嬉しそうに頬ずりされる。

 

「シンデレラは知ってるかい?」

 

「いいえ。どんなお話なのでしょうか」

 

「母を亡くして悪い姉や叔母に虐められていたシンデレラっていう女の子が、魔法使いの助けを借りて舞踏会に……皆で踊る祭りに出る。それから色々あって、王子様と結婚して幸せになるんだ」

 

「王子様と?」

 

「そう」

 

 がっつり端折ったが、まあよかろう。

 

「さちちゃんには、遅くなってしまったけれど……それでも、幸(さち)を上げたくて」

 

「……ふふ、洋平さん。とっても気取るんですね」

 

「あんまり慣れてないから、言わないでくれよ……」

 

「可愛らしいですから、いいえ、です。それに……」

 

 そっと彼女が俺の顔に手を添え、また口づけてくる。小さな水音の後、年不相応に色めいた微笑みに目を奪われる。

 

「わたしは、王子様とではなく魔法使いさんと、け、け、け……けっこん……した、い、でひゅ…………」

 

 もう真っ赤。赤過ぎて心配するほどに、さちちゃんは言葉の途中から顔を染めていた。

 

 大人顔負けの色気からの、致死量の可愛さのギャップ。反則的な組み合わせに、心臓が止まってしまいそうだった。

 

「……すごい噛んだ」

 

「初めてなので、慣れてないんですぅ…………。それに、その、わたしみたいな亡霊なんかが結婚なんて、申し訳な、んむっ……!?」

 

 言葉は唇で奪う。なんというか、そんな悩みは今更だろう。

 

 俺はさちちゃんにすっかり惚れている。見た目がなんとも犯罪的なので世間様からは聞くに堪えない罵倒が飛んでくるだろうが……まあ、合法である。それ以前に、誰がさちちゃんを見られるというのか。

 

 誰がこの子を幸せにできるというのか。

 

 この腕の中で幸せそうに目を細め、口をとがらせてもっと深いキスをねだるさちちゃんを見るがいい。彼女をもっと幸せにできるというならやってみればいいさ。

 

 ああ、見えないんだったか。ならやっぱり俺だけである。俺が全ての責任をとってこの子を幸せにするとしよう。

 

「ん、ちゅ……んむ、るっ、ふっ……」

 

 深く舌を絡め合わせながら、か細い肢体の輪郭を確かめるように右手を頬からあご、首筋、肩……とゆっくり滑らせていく。その合間合間に、さちちゃんは性感帯を触れられたかのように切なげに身を捩る。

 

 肩をそっとはだけさせれば、さちちゃんはうっとりと目を細めた。

 

「じゃあ、結婚しようか」

 

「……いいん、ですか?」

 

「もちろん」

 

「……生きている人と結婚しなくても、いいんですか?」

 

「そんなことはどうだっていいかなあ」

 

 年齢=童貞歴で、もう魔法が使えるようになってしまったものだ。結婚なんてとっくに諦めていたのだし。であれば、その魔法とも呼べないささやかな努力を一番喜んでくれた女の子と一緒に居たいというのは、自然なことではなかろうか。

 

「幸せを運んでくれる子に、幸せにしてもらう。うん、上等だ」

 

「~~っもう、嘘だった、なんてことはだめですよ?」

 

「当然」

 

「洋平さんがやっぱり生きている人と結婚したいなんて言ったら……諦め、はつくかもしれませんけど、ずうっと廊下の角から見つめる悪霊になるかもしれませんよ?」

 

「それはそれで可愛いからありか?」

 

「もう!」

 

 ぺちり、とはたかれる。

 

「……それでもいいなら、……えっち、してください」

 

「もう一回。よく聞こえなかったかも」

 

「……意地悪です」

 

 仕返しなのか、かぷりと耳たぶに噛みついてから、さちちゃんは言った。

 

「えっち……してください。愛し合う二人がするんですよね? なら……わたしと、えっち、してください」

 

 しとやかに、しかし犯罪的な熱と湿り気を帯びた言葉は、鼓膜を透けて脳に溶け落ちた。

 

「んひあっ!? あ、ああ……!」

 

 理性を飛ばされ、たまらず着物の帯に手を掛ける。無論女の子の着物の帯の解き方など知っているはずもなく、その固さに手間取り、途中からは荒々しい手つきになってしまった。

 

 だというのにさちちゃんは求められていることがわかって嬉しいのか、さりげなく脱がしやすいように身体をずらしながら、喜悦の声を零していた。

 

「洋平さんに、脱がされちゃいます……! 全部、見られちゃう……!」

 

「恥ずかしいか?」

 

「それは、もう……!」

 

 そう言いながら、隠す素振りは一つも見せない。帯が解け、身を守るものが襦袢(じゅばん)だけになってもそうだった。

 

 そして襦袢の結びもしゅるりとなくなり、勢いのままに身頃を暴いてしまえば、ようやくさちちゃんは恥じらう様に目線を横に流した。

 

「あ……」

 

 絶景。

 

 無垢さを思わせる乳白の肌が、白い薄布の向こうには広がっていた。下着はなかった。いや、襦袢が今でいう下着だと言えばそれも当然なのだが。

 

 ノーパンノーブラ……いや、よそう。

 

「……その、あんまりじっと見られると……顔から、火が出てしまいます……」

 

「綺麗だ」

 

「はう」

 

 触れれば折れてしまいそうなほどに華奢な肢体。滑らかな腹部がふっと波打つ。その上でいっとう目立つ桜色の蕾は、以前見た時と同じように未熟だ。

 

 だが小さく、ほんのわずかに小さく尖っている。

 

「乳首、膨らんでるね」

 

「んあっ……こりこり、されるとぉ……!」

 

「されると、どうなるの?」

 

「ん、ふ、くひゅ……っ! あ、びりびり、して、きもちいい、です……!」

 

「……そうか。じゃあ、もっと気持ちよくなろうか」

 

「んみゅ!?」

 

 口元を手の甲で隠し、内腿を切なげに擦り合わせながらそんなことを言われるものだから、つい摘まむ指先に力がこもる。その瞬間、弾かれたようにさちちゃんの身体が跳ねた。

 

「あ、ふあああっ!?」

 

「……乳首だけでイクのか」

 

「あ、あー……!? イ、ク……? これが、イク……あの本に、書いてあった……あ」

 

 しまった、とばかりにさちちゃんは俺を見上げる。口を滑らせてしまったことに気付いたらしい。

 

「そう。よく知ってるね」

 

「あ、あはは……そうなんです。わ、わたし、こう見えてもものしりなんですから」

 

「そうそう。熱心に本を読んでね。一番好きな部分はキスをしながら挿入をするところだっけ?」

 

「……もしかして」

 

 さちちゃんの口がわなないた。

 

「見てました、か?」

 

「初めの時から、ほとんど毎日」

 

「~~ッ! ッ! 洋平さんのすけべ! 変態! 覗き魔!」

 

「隠れて人のえっちな本を読むさちちゃんに全部跳ね返ってきてない?」

 

「あうっ」

 

 クリティカルにカウンターが入った。さちちゃんはぷるぷる震えながら、羞恥に染まった瞳で睨み付けてくる。

 

 可愛い。

 

「……あの、名前」

 

「ん?」

 

「さちって、呼んでください。そこまで見られてるのに、名前……よそよそしいのは、寂しいです」

 

「さちちゃん」

 

「ふん」

 

 ぷい、と。言うとおりにしないと返事をしてくれないらしい。

 

 流石に拗ねられたというわけだ。

 

「さち」

 

「ひん゛っ……! み、耳元でとは、言ってませんよぉ……!」

 

「でも好きだろう? さち」

 

「……はい」

 

 勝利である。そのままさち、さち、と囁きながら乳首をこねれば、さちは甘い声で啼きながらまた身体を震わせた。

 

「ひ、あ、あうう……!? ん、あ、ち、乳首、溶けちゃい、ます……!」

 

「大丈夫、溶けないよ。さち」

 

「ん、ああふうう……っ!」

 

 はあ、と熱い息を零す唇からはみ出た唾液を左手の人差し指に掬い、それを肌に塗りつけながら下へ、下へ。なめくじの辿ったような淫靡な跡を縦に残しながら、胸の谷間……谷というより、丘に挟まれた平野を通り過ぎて、更に下へ。

 

「あ……!」

 

 そうして辿り着いた先の、無毛のワレメ。そこは指を沈めればぐちょりと明瞭に水音が鳴るほど、しとどに濡れそぼっていた。

 

「こんなに濡れるのか……」

 

「ん、ひ、ああ…! や、ん、だ、だって……!」

 

「だって?」

 

「ず、ずっと洋平さんが、こんなふうに触れてくれるのを、想像してたんです。そこ、一人で弄るときも、ずっと……。でもいざこうなると、思ってたよりずっとずうっと、どきどきして、幸せで、頭、おかしくなっちゃいそうで……ああもう、死んじゃいそう……っ!」

 

 真っ赤に熟れて、このままのぼせてしまうのではないか。そんな風に染まった顔をとうとう両手で覆い隠してしまったさち。

 

 その姿も、言葉も、俺を更に虜にするには十分だった。

 

「さち」

 

「…………はい」

 

「いっぱい幸せにするから」

 

「………………はい。わたしも、負けないくらい洋平さんのこと、幸せにしたいです」

 

 亀頭を陰唇に宛がえば、さちちゃんは喉を鳴らしてこくりと小さく頷いた。

 

 そのまま腰を沈めていく。ゆっくり、ごくゆっくりと。

 

「ん、あ、くっ……!?」

 

 肉壺の中は霊体とは思えないほどに熱く、潤いに満ちていた。それでいて、襞(ひだ)という襞がぎゅうっと肉竿に抱き着いてくるかのようなきつさで締め付けてもきた。

 

 自らの指よりも太い異物を受け入れる痛みに、さちは固く目を瞑る。やはり痛いのかと、動きを止めようとしたところで、さちは俺の手を取って五指を絡め合わせてきた。

 

「大丈夫、です……! 痛みは、なれてますから……もっと……一気にお願いします……!」

 

 そう言われては、もう躊躇っている方が罪悪というものだ。そのまま一気に、さちをうがった。とちゅんと、浅い位置に降りてきていた子宮口を処女膜ごと打った。

 

「くひ、んいいいあああー……っ!?」

 

 白磁のおとがいが仰け反る。紅白の布地の上で、はしたなく広げられた細足がぴんとつま先まで伸びて、ぷしゅりと淫らな甘露が噴き出す。

 

 痛みよりも先に快楽が来て、さちを絶頂に導いたようだった。それはとても喜ばしいことなのだが、あまりに締め付けが強くなったものだから俺は射精感をこらえるので精いっぱいだった。

 

「あ、ああ……! 洋平さんが、なかに、はいって……! 熱くて、お腹、じんわり幸せで……あ、くふう……!」

 

「少し待つよ」

 

「は、い……」

 

 挿入れてすぐ動き出すよりも少し待った方が、膣肉が形に馴染んで女性は気持ちよくなれる……そんな知識だけは豊富だ。だがそれ以上に、すぐに動き出せば三擦り半ともたない予感があった。

 

 それくらいさちの膣内は気持ちいいのだ。ここに引っ越してからの三週間、毎日のように自慰を重ねただけでまだこなれていない膣が、これほどに気持ちよくペニスを受け入れるとは。

 

 もともとさちに素質があったのか。それともこの三週間、さちは見ていないところでも経験値を積み重ねていたのか……どうであれ、なんとも興奮することだ。

 

「あ、ん……!」

 

 動かずとも、きゅうっと締め付けられる。切なげに引き結ばれた淡い色の唇から湿った吐息が押し出され、首元をくすぐった。

 

 近い。心臓の鼓動が伝わるほどに。それでも彼女の拍動は感じられず、命ある存在ではないと改めて知ってしまう。

 

 ……それが、どうしたというのか。

 

「洋平さん……洋平、さん……ふふ」

 

「どうかした?」

 

「いいえ。なんだか……嬉しくて。わたしがこんな、誰かに抱きしめられる日が来るなんて、思ってもいませんでしたから」

 

 弾む声には、どこか寂し気な響きがあった。幸せだけれど、今までの長い過去に別れを惜しんでいるような、そんな哀切に思えた。

 

「洋平さん。わたし、今なら何も恨まず、消えてしまえそうです」

 

「消えられちゃ困るな。俺が喪失感のあまり死んでしまう」

 

「そんなに思われるなんて、幸せです。でしたら……」

 

 そう言って彼女は両手を差し伸ばして、微笑んだ。その頬に一筋、つうと涙が伝っていた。

 

「わたしが消えないように、もっともっと、抱きしめてください」

 

「ああ」

 

「ん……!」

 

 儚くて、今にも壊れてしまいそうなほどに細い身体を両の腕の中に抱きしめれば、さちは嬉しそうに声を漏らした。それでもまだ強く、もっと強く力を込めた。

 

「ふふ。そんな強くしたら、わたし、壊れちゃいますよ?」

 

「なら弱くした方が良いか?」

 

「いいえ。もっと強くても構いません。洋平さんの心臓の音が早いなあとか、筋肉がたくましくてずっと触ってたいなあとか、温かいなあとか……色々感じられて、満たされるので」

 

 そうして、耳たぶを甘く食(は)まれる。

 

「……動いて、ください。わたしを滅茶苦茶にして、洋平さんに触れられた証を、刻み込んでください」

 

 それが望みならば。

 

 ゆっくりと抽送を始めれば、膣は泣いて縋るかのように強烈に吸い付いてくる。その分さちの感じる快楽も大きいのか、腰が持ち上がってはびくびくと小刻みに震えている。

 

「はっ、あ、ん、ふう……! あ、あう、洋平さんの、ふ、とい、です……っ!」

 

「それは、嬉しいねっ……!」

 

「んああっ! はっ、く、ひうっ! 奥、ずんって、響いて、ぇっ……!」

 

 とちゅん、とちゅんと水音が響く。根元まで肉棒が埋まり切らないうちに、ポルチオが亀頭にキスをしてしまうほどに膣穴そのものは浅かった。けれどその生み出す快楽の大きさに腰は止まらず、さちの身体が水面に浮いた羽のように軽やかに揺れる。

 

「はっ、あっ、あっ、んっくぅ……! 洋平さん、洋平、さん……!」

 

 甘やかな声で名前を呼ばれると、心臓に溶けた鉄を流し込まれたような熱が生まれ、血と同化して全身に流れ出していく。この心が湧きたつような感覚をなんと表現したものだろうか。

 

 初めてだ。誰かの存在を感じて、こんなに嬉しいのは。

 

「ん、あっ、はっ、はう……気持ちいいところ、ごりごりって、削られてるみたい、です……! あの本に描いてあった、みたいに……!」

 

「エロ同人みたいに?」

 

「は……んっ、その、えろどうじん? というのはよくわかりませんが……でも、気持ちよくて、声っ、止まらない、です……っ!」

 

 あの本……そう言えば、あの同人誌は後半に行くにつれてプレイがかなり激しくなっていくのだが、もしかしてさちはそちらの方が好きだったりするのだろうか。

 

「……目隠し、する? あの本みたいに」

 

「は、う……!」

 

 さちの目がとろりと情欲の光を帯び、一瞬ばかり唇をわななかせて言い惑う。その可愛らしい姿に、嗜虐心がぞくぞくとくすぐられる。

 

「……その、いつかはしてみたいですけれど……今は、洋平さんの顔を見ながら、シたい、です……んあぁっ!?」

 

「その反応はずるすぎるなあっ!」

 

 とんでもないカウンター、あごから脳を撃ち抜くアッパーカットである。理性はノックダウンされ、もはやこのいじらしい少女を衝動のままに貪ることしか考えられない。

 

 これが天然だというのだからあっぱれだ。

 

「あっ、あ、あんんぅっ! 洋平さん、や、あっ、はげ、しっ、くぅ……! わたしのお腹、潰れちゃ、あ、だめ、イ、くぅ……っ!?」

 

「こんなに、誘ってっ! なんてえっちな子だ!」

 

「あ、ん……は、いっ! わたしは、えっち、ですから、もっといっぱい、えっち、してください……! ぎゅーって、びゅーって、してくださいっ! わたしの中に、いっぱい、洋平さん、ください……!」

 

 快楽に崩れながら、目を細めて微笑む顔のなんと艶やかなことか。完全に間違った性教育から飛び出してくる言葉の、なんと淫靡なことか。

 

 わからせてやらねばなるまい。幸せと、男を誘惑すれば何が起きるかを。

 

「あ……!」

 

 ピストンをいっそう速めながら、さちを身体で食らうかのように覆いかぶさる。男が全てを支配する種付けプレスの姿勢に、それでもさちは嬉しそうに声を漏らした。

 

 そして頬を妖艶に綻ばせた。

 

 我慢など、出来るはずがなかった。

 

「射精すぞ、さち!」

 

「はい! 来て、くださ、あ、あああはああぁぁーっ!?」

 

 びゅるるるる!

 

 人生最大の多幸感と共に白濁を解き放つ。さちのなよやか腹部がその奔流に弾かれたように跳ね上がり、そのまま絶頂の震えを見せつけてくる。

 

 甲高い悲鳴は喜悦に満ちたもの。細い喉が伸びやかに快楽を奏でている。

 

「あ、あああ゛ー…………っ!? どくどくって、おなか、あついぃ……!」

 

 精子を一滴と残さないよう繰り返し、繰り返し締め付けてくる幼膣は彼女の力無い言葉とは裏腹に、元気いっぱいに快楽を貪っていた。

 

「あ、はああ……っ、ようへいさんが、なかに、いっぱいきて……んっ! は、はっ、ふー……んぅっ、ひゅ……とけひゃい、ましゅ……」

 

 やがて反り返っていたお腹が、限界を迎えて襦袢の上に落ちる。それでもまだ、余韻が抜けきらないのかさざ波のように震えていた。

 

「あ、また、イく……」

 

 きゅう、と。もうとっくに精は撃ち切ったというのに、静かにイキながら締め付けてくる。あまりにもいやらしい。そんなことは教えていない。

 

 だがさちの目がうっとりと、幸せでたまらないと蕩けているものだから、何を言う気にもなれなかった。

 

「あ……」

 

 勃起したままのペニスを抜けば、膣内に収まりきらなかった精液がこぽりと滴り落ちて、白い生地を汚した。残念そうな声は、穴を埋めていたものがなくなったことに対してか。

 

「心配しなくていいよ。まだ終わったりなんてしないから」

 

 膝立ちになってさちの両腋に手を入れ、持ち上げる。そうして白濁を零すワレメに、まだいきりたったままの亀頭を宛がった。

 

「洋平さんの、落ちて、もったいないです……」

 

「まだまだ入れるから、問題ない」

 

「あ、は……! もっと、されるのですね……!」

 

 さちが目を見開く。そこには背筋がぞくりと痺れるほどの、被虐的な悦びが透けて見えていた。

 

 一体この子は、どこまで俺を煽るというのか。そんな顔をされたら、幸せにしてやりたいというのにどこまでも滅茶苦茶に、壊してしまいたくなるじゃないか。

 

 だから、俺は彼女を手放した。比喩ではない。物理的な話だ。そうすると当然、彼女は重力に引かれて落ちるわけで……。

 

「あっ」

 

 その先には、俺の肉槍が落とし穴のように待ち構えているわけで。

 

「ん゛っあああああああーーっ!!??」

 

 どちゅん!

 

 自らの体重を女の子の弱点で受けとめてしまったさちはあっさりと果ててしまう。潮をびしゃびしゃと噴き散らしながら、衝撃のあまりだらりと足の力を抜いて。

 

「あ゛、あ゛ー……!」

 

 ……首の力も抜けて、仰け反ったまま天井を仰いでいる。やりすぎてしまっただろうか。そう心配になってきた所で、ゆらりとさちは俺にもたれかかってきた。

 

「ひどい、です……いま、しんじゃうかと、おもいましたぁ……いしき、とんで……」

 

「なんとも反応しにくいな……」

 

「……ふふ。じょうだんです。それに……だいじょうぶです」

 

 それはどういうことか、と思ってさちを見る。彼女は力無いままで、頬を掠めるようなキスをして、言った。

 

「ようへいさんにこわされるっておもったら、むしろしあわせになってしまって……もうわたし、あなたにならなにをされても、いいみたいです……」

 

 そんなことを言われて、一体誰が我慢できるというのか。俺はとうとう、全てを忘れた。

 

 その後どれくらいの時間が経ったのかわからない。ただ気付いた時には、白濁に塗れ、それでも幸せそうに笑いながら横たわるさちが目の前にいた。

 

 ■

 

「洋平さん。朝ですよ」

 

「……うーん」

 

「……あーさーでーすーよー」

 

「あと五分……」

 

「もう。朝ごはんが冷めちゃいます……ふふ」

 

 悪戯っぽい笑い声が聞こえる。果たして今朝は何をされるのか。フェラか、キスか、はたまたいきなりの挿入か。

 

 そんな風に思考を巡らせていると、布の擦れる音と共にうんしょっ、と可愛らしい声が隣から聞こえてきた。

 

「あ、起きました」

 

「……おはよう」

 

「はい、おはようございます」

 

 隣に潜り込んでいるさち。裸ではないし、朝チュンとは少し違うだろうか。そんな益体もないことを考えていると、彼女は強引に俺の手を頭の下に持っていって、その頭の下に敷いてむふーと満足げに息を吐いた。

 

「……これは?」

 

「腕枕、です。起きてもらえないなら、たまにはそのまま一緒に寝てしまおうかなーと」

 

 ……肩透かしを食らったペニスが、出番はないようだと引っ込んでいく。さちちゃんが満足そうなら、別になんでもいいかという気分だ。

 

 長い髪先を指先に摘まんで、弄んでみる。さらさら、さらさらと。何でもない話をしながら、特に目的もなく。

 

 そうしているうちにさちが微睡み始めるものだから、俺も二度寝を決め込むことにした。

 

 穏やかな時間。

 

 田舎の事故物件。憑いていた座敷童が運んできた、幸福だ。


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