※この作品はR-18です。

退役軍人のヒーロー生活   作:山門門山

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11.感想会

第七話 講義のあと

 

 講義が終わってしばらくすると、不思議なことにヒーローたちは自然と近くの喫茶店へ集まっていた。

 

 誰かが誘ったわけでもない。

 

 ただ、みんな同じような顔をして、同じ方向へ歩いていた。

 

 店内に入ると、窓際の大きなテーブルを占領する。

 

「……疲れた」

 

 最初に口を開いたのは、筋骨隆々のヒーローだった。

 

「訓練でこんなに疲れたの初めてだ」

 

「俺も」

 

「というか、あのオッサン何なんだよ……」

 

 全員の頭に、あのやつれた顔が浮かぶ。

 

「ヴァンデスだろ?」

 

「そう。あのヴァンデス」

 

 注文したコーヒーが運ばれてくる。

 

 一口飲んで、誰かがため息を吐いた。

 

「最初は完全に頭のおかしい退役軍人だと思った」

 

「今もそう思ってる」

 

「俺も」

 

「でも……」

 

 言葉が止まる。

 

 ジェシカは黙って聞いていた。

 

「……実際、すごかったよな」

 

 別のヒーローがぽつりと言った。

 

「何が?」

 

「爆弾を解体する技術」

 

「あれは凄かった」

 

「時間が減るほど手が速くなってたぞ」

 

「しかも本人は全然焦ってない」

 

「俺なんか残り五分で手が震えてた」

 

 苦笑が起きる。

 

「それに、あの講義……」

 

 一人の女性ヒーローがカップを置く。

 

「嫌な話も多かったけど、妙に納得した」

 

「人質をパニックにさせるってやつ?」

 

「ああ」

 

「実際、俺たち全員そうなったしな」

 

 全員が黙った。

 

 あの講義室での光景が蘇る。

 

 タイマー。

 

 焦燥。

 

 怒鳴り声。

 

 震える手。

 

 そして、自分たちが能力を使うことすら忘れていたこと。

 

「……あの人、俺たちを実際に人質にした犯人みたいに扱ってたよな」

 

「そう考えるとムカつくけど」

 

「でも、一番分かりやすかった」

 

 ジェシカが初めて口を開いた。

 

「……私もそう思う」

 

 全員の視線が集まる。

 

「銀行強盗の時、私……何もできなかったから」

 

 ジェシカはカップを両手で包む。

 

「人質がいたから、攻撃できなくて……そのまま犯人に逃げられて」

 

 誰も茶化さなかった。

 

「だから今日の話……私にはすごく大事だったと思う」

 

「……」

 

「爆弾をどうするかだけじゃなくて、人質がどう感じるのかとか」

 

 ジェシカは少し考える。

 

「犯人が何を考えてるのかとか」

 

「そういうのを知らないと、本当に助けられないんだなって」

 

 向かいに座っていたヒーローが頷いた。

 

「それはそうだな」

 

「ただ……」

 

 別のヒーローが顔をしかめる。

 

「あいつ、性格悪すぎないか?」

 

「悪い」

 

「最悪」

 

「初対面で爆発音の真似する奴なんて初めて見たぞ」

 

 全員が思い出す。

 

『バァーン』

 

 そして何人かが椅子から転げ落ちたこと。

 

「……あれは本当に腹立った」

 

「俺はまだ許してない」

 

「俺も」

 

 ジェシカは苦笑する。

 

「でも、あれも講義だったんじゃない?」

 

「……」

 

「私たちがどれだけ簡単にパニックになるか、見せたかったんだと思う」

 

「それは分かる」

 

 少し間が空く。

 

「でもムカつく」

 

「それは同意」

 

 笑いが起きた。

 

 少しずつ店内の空気が軽くなる。

 

 だが、やがて一人がぽつりと言った。

 

「……なあ」

 

「ん?」

 

「あの人、本当に酒と薬だけで生きてるような奴なんだろ?」

 

「たぶん」

 

「なのに、なんであんなに詳しいんだ?」

 

「戦争でずっと爆発物扱ってたんだろ」

 

「それにしたって……」

 

 誰かがカップを見つめる。

 

「なんか、怖かったよな」

 

「何が?」

 

「あの話をしてる時だけ……」

 

 全員が黙る。

 

「別人みたいだった」

 

 ジェシカはその言葉に反応した。

 

 確かにそうだった。

 

 普段のヴァンデスは、疲れ切っている。

 

 歩き方もだるそうで、酒を飲み、何かにつけて面倒くさそうにしている。

 

 なのに爆発物の話になった瞬間だけ。

 

 目が変わる。

 

 声が変わる。

 

 何を聞かれても即答できる。

 

 そして何より――。

 

「……ヴァンデスさん、楽しそうだった」

 

 ジェシカが呟いた。

 

「え?」

 

「爆弾を解体してる時」

 

「……」

 

「すごく楽しそうだった」

 

 誰も否定しなかった。

 

 ただし、それは単純な「好き」というものではない。

 

 むしろ――。

 

「……あれは、慣れてるって感じだったな」

 

 誰かがそう言った。

 

 ジェシカは黙って頷いた。

 

 窓の外を眺める。

 

 夕暮れの街を、車が走っていく。

 

「……私」

 

 ジェシカが小さく呟く。

 

「やっぱり、あの人にバディになってほしい」

 

「…………」

 

 全員が沈黙した。

 

「まだ諦めてなかったのかよ」

 

「うん」

 

 ジェシカは笑った。

 

「だって、あの人なら私が知らないことをいっぱい知ってる」

 

「……まあ」

 

「それに」

 

 ジェシカは少しだけ胸を張る。

 

「私なら、あの人をちゃんとヒーローの世界に引っ張ってこれると思うから」

 

「いや、たぶん逆だと思うぞ」

 

「え?」

 

「お前があいつの世界に引きずり込まれるんじゃないか?」

 

「……」

 

 ジェシカは少し考え。

 

「それでもいいかも」

 

「おいおい……」

 

 テーブルを囲むヒーローたちが呆れた顔をする。

 

 しかしジェシカだけは、楽しそうに笑っていた。

 

 その頃。

 

 当のヴァンデスは――。

 

「……くしゅん」

 

 街角を歩きながら、くしゃみをした。

 

「誰か俺の悪口言ってんな」

 

 そう呟き、ポケットから煙草を取り出す。

 

 本人だけは、そんなことなど知る由もなかった。

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