※この作品はR-18です。

退役軍人のヒーロー生活   作:山門門山

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1.後半空飛ぶヒーロー

第一話後半 空飛ぶヒーロー

 

 逃走車は高速道路へ入り、街の外へ向かっていた。

 

「待ちなさい!」

 

 その後方。

 

 ジェシカが空を飛んで追っていた。

 

「絶対逃がさないんだから!」

 

 車との距離が少しずつ縮まっていく。

 

 ジェシカはさらに速度を上げた。

 

「追いついた!」

 

 車の真横まで並ぶ。

 

 運転席の男が窓から顔を出した。

 

「な、なんだこいつ!?」

 

「ヒーローよ!」

 

「知るか!」

 

 男がアクセルを踏み込む。

 

 しかしジェシカはさらに加速する。

 

 そして――。

 

「よっ!」

 

 車体に手をかけた。

 

「うおおおおっ!?」

 

 そのまま車を持ち上げる。

 

「な、なんだとォ!?」

 

 車体が道路から浮いた。

 

 ジェシカは車を掴んだまま、そのまま上空へ飛び上がっていく。

 

「ちょっと暴れないで!」

 

 車内から悲鳴が響く。

 

 ジェシカは高度を上げる。

 

 そして――。

 

「……よし」

 

 車を手放した。

 

「うわあああああああっ!?」

 

 車が落下する。

 

 犯人たちが一斉にパニックになる。

 

 その混乱に乗じ、ジェシカは車内へ飛び込んだ。

 

「人質の皆さん! 大丈夫!?」

 

 ジェシカは人質たちの拘束を素早く外す。

 

「今助けるから!」

 

 そして人質を抱えて車外へ飛び出した。

 

 落下する車よりも速く下降する。

 

「大丈夫、大丈夫!」

 

 地面が近づく。

 

 ジェシカは速度を落とし、地面すれすれで人質を抱えたまま着地した。

 

「……ふぅ!」

 

 人質を安全な場所へ降ろす。

 

「ここで待ってて!」

 

 そのまま再び空へ飛び上がった。

 

 ジェシカは落下していく車へ向かって一直線に飛んでいく。

 

「間に合って!」

 

 車が地面に激突する寸前。

 

 ジェシカが車体を掴んだ。

 

「――っ!」

 

 全身に力を込め、落下速度を殺していく。

 

 ドン。

 

 車体が地面へ着いた。

 

「……よし!」

 

 ジェシカが息を吐く。

 

 車内では――。

 

「……」

 

「…………」

 

 犯人たちは全員、ぐったりしていた。

 

「……大丈夫?」

 

 ジェシカが車内を覗き込む。

 

 犯人の一人が青い顔を上げる。

 

「お、お前……」

 

「うん?」

 

「気持ち……悪……」

 

「え?」

 

「オロロロロロ……!」

 

「うわっ!?」

 

 別の犯人も続く。

 

「オロロロロ……!」

 

 犯人たちは全員、車内で盛大に吐き始めた。

 

「……」

 

 ジェシカはしばらく無言で見つめる。

 

「……ごめん」

 

 少し申し訳なさそうに呟いた。

 

 その後、駆けつけた警察によって犯人たちは全員逮捕された。

 

 ジェシカは警察官から簡単な事情聴取を受けていた。

 

「人質は全員無事です」

 

「よかった……」

 

 ジェシカは胸を撫で下ろす。

 

 そして、ふと思い出した。

 

「あの!」

 

「はい?」

 

「銀行にいた人質の中に、ヴァンデスっていう人がいたんです」

 

「ヴァンデス?」

 

「35歳くらいで、すごく痩せてて……」

 

 ジェシカは両手で自分の顔の横を示す。

 

「顔が痩せてて、目がすごく窪んでて……なんというか……」

 

 少し考える。

 

「幽霊みたいな人!」

 

「……」

 

 警察官が固まった。

 

「もしかして……ヴァンデスか?」

 

 隣の警察官が顔を上げる。

 

「ああ。あいつもついてねぇな」

 

「知ってる人?」

 

 ジェシカが尋ねる。

 

「まあな。退役軍人だよ」

 

「そうなんだ……」

 

 警察官は書類を手に取った。

 

「ヴァンデス……ヴァンデス……」

 

 人質名簿をめくっていく。

 

「…………いないな」

 

「え?」

 

「おかしい」

 

 もう一度、最初から名簿を確認する。

 

 銀行にいた人質の名前は全員記録されている。

 

 しかし、そこにヴァンデスの名前だけがない。

 

「確かにいたんです」

 

 ジェシカが言う。

 

「爆弾を全部解除してくれたんですよ」

 

「爆弾を?」

 

「うん。すごく詳しかった」

 

 警察官は眉をひそめる。

 

「……あいつなら納得だが」

 

「?」

 

「まあいい。本人に聞けば分かるだろ」

 

 警察官は書類を閉じた。

 

「それより、ヴァンデスは?」

 

「分からない……」

 

 ジェシカは少し不安そうに答える。

 

「私が追っている間に、どこかへ行っちゃったみたい」

 

「そうか」

 

 警察官はため息をつく。

 

「あいつも本当に、ついてないな」

 

 ジェシカは首を傾げた。

 

 ――その頃。

 

 当のヴァンデスは、銀行から少し離れた路地を歩いていた。

 

 いつものように、だるそうに。

 

 ポケットから財布を取り出す。

 

 開く。

 

「…………」

 

 空っぽ。

 

「……酒」

 

 ヴァンデスは小さく呟き、再び歩き始めた。

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