※この作品はR-18です。

退役軍人のヒーロー生活   作:山門門山

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23.後日談

第十九話 講義の成果

 

 それから一ヶ月ほどが経った。

 

 ヴァンデスによる、あの奇妙な爆発物講義。

 

 ヒーローたちにとっては、悪夢のような数日間だった。

 

 爆弾を見せられれば怯え。

 

 タイマーが動けば焦り。

 

 何度も騙され。

 

 何度も恥をかき。

 

 最後には「お前らは無防備に突っ込んだから全滅、零点だ」とまで言われた。

 

 それでも――。

 

 あの講義を受けたヒーローたちは、以前とは明らかに変わっていた。

 

 最初に変化が現れたのは、爆発物事件だった。

 

 ある日の市内。

 

 商業施設で爆発物が発見されたという通報が入り、警察とヒーローが現場へ急行した。

 

「爆弾がある!」

 

「全員避難させろ!」

 

「待って!」

 

 現場に到着したヒーローが、周囲を見渡す。

 

「……犯人から連絡は?」

 

「まだない」

 

「だったら、まず周辺を調べる」

 

「爆弾を見つけたら?」

 

「触らない」

 

「それから?」

 

「犯人が何をさせたいのか考える」

 

 以前なら、爆弾を見つけた瞬間に能力を使って何とかしようとしていただろう。

 

 しかし今は違う。

 

 爆弾そのものだけではなく、その周囲を見る。

 

 なぜここなのか。

 

 なぜこの時間なのか。

 

 なぜ犯人は、この爆弾を発見させたのか。

 

 そして――。

 

「……これ、囮じゃない?」

 

 ヒーローが呟いた。

 

「囮?」

 

「もし俺が犯人なら、ここに爆弾を置いて警察を集める」

 

「その間に別の場所で何かする」

 

 捜査員が顔を上げた。

 

「……別の場所?」

 

「人が集まる場所」

 

 すぐに捜査が切り替えられた。

 

 そして市内の別の場所から、もう一つの不審物が発見された。

 

 さらにその周辺から、犯人へ繋がる証拠が見つかる。

 

 最終的に犯人は逮捕された。

 

 爆発物はすべて処理された。

 

 死傷者は――ゼロ。

 

 ニュースでは、そのヒーローの冷静な判断が大きく報道された。

 

 しかし本人はインタビューで、こう答えた。

 

「……先生に教わったんです」

 

「先生?」

 

「爆弾を作った奴の頭の中を考えろって」

 

 その言葉に、隣にいた警察官が苦笑する。

 

「最近、あいつらみんなそれ言うんですよ」

 

 別の場所でも、変化は起きていた。

 

 誘拐事件。

 

 犯人は人質を連れて立てこもり、警察に要求を突きつけていた。

 

 以前なら、ヒーローは自分の能力を使って強引に突入していたかもしれない。

 

 だが、そのヒーローは動かなかった。

 

「犯人は?」

 

「興奮してる」

 

「人質は?」

 

「三人。全員無事」

 

「要求は?」

 

「金と逃走用の車」

 

 ヒーローはしばらく考えた。

 

「……妙だな」

 

「何が?」

 

「本当に逃げたいなら、もっと具体的な要求をするはずだ」

 

「どういうことだ?」

 

「こいつは時間を稼いでる」

 

「……」

 

「別の目的がある」

 

 捜査員が慌てて無線を取る。

 

 調べてみると、事件現場の近くで別の仲間が動いていることが判明した。

 

 ヒーローは犯人との交渉を続けながら、警察に別方向からの捜索を指示。

 

 結果として第二の犯行を防ぐことに成功した。

 

 そして人質も全員無事。

 

 死傷者ゼロ。

 

 そのニュースを見たヒーローたちは、互いに顔を見合わせた。

 

「……まただ」

 

「何が?」

 

「ヴァンデス先生の教えが役に立った」

 

「……あの人、性格は最悪なのにな」

 

「でも教えることは一流なんだよな」

 

「そこが腹立つ」

 

 そして一ヶ月の間に、最も大きな事件も起きた。

 

 市内に複数の爆弾が仕掛けられた、大規模テロ事件。

 

 警察は一斉に市内を封鎖。

 

 爆発物処理班が各所へ向かい、ヒーローも現場へ投入された。

 

 普通なら、大混乱になるはずだった。

 

 しかし。

 

「全員、落ち着いて!」

 

 一人のヒーローが叫ぶ。

 

「犯人の目的を考える!」

 

「爆弾を全部爆発させたいなら、こんな配置にはしない!」

 

「これは俺たちを動かすための配置だ!」

 

 その言葉で、他のヒーローたちも冷静になる。

 

 爆弾を見つける。

 

 解除する。

 

 だが、それだけでは終わらない。

 

 犯人が何を狙っているのか。

 

 なぜ複数なのか。

 

 なぜ特定の場所に置いたのか。

 

 その一つ一つを繋ぎ合わせていく。

 

 そして――。

 

「見つけた!」

 

 犯人の潜伏場所が特定された。

 

 突入。

 

 逮捕。

 

 爆弾もすべて無力化された。

 

 この事件も、死傷者は出なかった。

 

 ニュースでは大々的に報じられた。

 

 ――「新世代ヒーロー、複数爆弾テロを阻止!」

 

 ――「冷静な判断で市民を救う!」

 

 ――「新たなヒーロー像!」

 

 街では、彼らを称賛する声が増えていった。

 

 そして、そのニュースを。

 

 薄暗い部屋で眺めている男がいた。

 

「……」

 

 ヴァンデスだった。

 

 テレビでは、事件を解決したヒーローがインタビューを受けている。

 

 ヴァンデスはソファに沈み込み、煙草を咥えていた。

 

「……まあ」

 

 テレビの音を聞きながら、少しだけ口元を緩める。

 

「悪くない」

 

 テーブルの上には、一冊の本。

 

 彼が書いた爆発物の教本だった。

 

 その横には、ジェシカから送られてきたメッセージ。

 

 ――『先生! また事件を解決しました!』

 

 ――『この前教えてもらったことが役に立ちました!』

 

 ヴァンデスはそれを読んで、しばらく黙っていた。

 

「……うるせぇな」

 

 そう言いながらも、口元はわずかに笑っている。

 

 そしてテレビでは、ジェシカたちが所属する新世代ヒーローについての特集が始まっていた。

 

「最近、若手ヒーローたちの活躍が目覚ましいですね」

 

「特に人質事件や爆発物事件への対応では、以前とは明らかに違う冷静さを見せています」

 

「専門家は、ヒーロー教育そのものに変化が起きているのではないかと――」

 

 ヴァンデスは煙草の灰を落とす。

 

「……教育ねぇ」

 

 少しだけ考える。

 

「俺が教えたのは、爆弾の扱いだけじゃないんだがな」

 

 テレビの中で、ジェシカが笑っている。

 

 明るく。

 

 元気に。

 

 以前よりもずっと自信を持った顔で。

 

「……」

 

 ヴァンデスはテレビを消した。

 

 部屋が静かになる。

 

「さて……」

 

 灰皿に煙草を押し付ける。

 

「次は何を教えるかねぇ」

 

 その目には、以前のような疲労だけではない。

 

 ほんの少しだけ――。

 

 生きている人間らしい光が戻っていた。

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