「ユーリィ、今日の畑仕事は終わっていいから、井戸で顔を洗ってから屋敷に来なさい」
「えっ……あ、はい」
僕と同じように小作人として働きに来ている同年代の友人達が「ユーリィだけずーりぃ」と茶化すような不満を漏らし、僕を呼びに来た地主のアストンさんが、ギロリ、とひと睨みをすると、それからは黙々と作業を再開していた。
……なんだろう、契約の話かな。
井戸端でどっかりと座り込んで雑談をしているお喋りなおばさん達にアストンさんの名前を出して井戸を借り、土のついた腕や足、顔をサァッと洗い流してアストンさんの屋敷に向かった。
「ユーリィです。いま戻りました」
「戻ったか、こっちに来なさい」
玄関から入ったところからは人の姿が見えず、呼びかけると壁を一枚隔てた向こうからアストンさんの張りのある声が聞こえてきて、言われた通りにそちらへ向かう。
廊下から、うっすら紅茶の香りがする。きっとお客さんもいるのだろうと、手早く身なりを整えた。
コンコン、「失礼します。……はじめまして、ダストンさんから土地を借りて農業をしているユーリィです」と、部屋の扉を開いてから展開を先回りして考えておいた挨拶をして、頭を下げる。
「はじめまして、私はアナスタシア・ローレルといいます。……十二歳だと聞いていましたが、落ち着きがあって利発そうな子ですね」
「ええ、そうなんです。ユーリィ、こちらの御仁は王都でも上澄みな冒険者ギルド【ホノテラス】の元メンバーで、私がまだかけだし商人だった頃に何度もお世話になっている凄い人なんだよ!」
「冒険者をやっていたのも、ずいぶんと昔の話だよ。そう言われると、少し恥ずかしいね」
威厳のある立派な髭を蓄えているダストンさんの、若返ったような屈託のない笑顔を初めて見て、面食らってしまった。
「そろそろ、本題に入ろうか」
照れ笑いから、スン、と気配が変わったアナスタシアさんの目力に、現役時代の片鱗を感じる。微笑みをたたえていた口元はそのままなのに、今は牙を隠す獅子のような印象に変化していた。
「【ホノテラス】のメンバーを長年スカウトしてきた自負から率直に言うと、君には才能がある。現役を離れて久しいが、この大器を育てたいという欲求がムクムクと湧いてきてね。将来的に私と結婚してほしい」
・・・・・はい?
「弟子入りではなく?」
アナスタシアさんは若々しく見えるが、それはギリギリ二十代後半ぐらいで、ダストンさんの話から推測すればアラフォーぐらいのはず……なのに、育てたいという話から飛躍して『結婚』というワードに僕の思考がエラーを繰り返し、うっすらと実体の無い恐怖が背後から忍び寄ってくるのを感じた。
「ああ、説明を省いて誤解させてしまったね。これは税金の問題で、師弟関係で財産を譲渡するのも今の時代は簡単じゃないから、節税を考えると便宜上結婚するのがベストな選択なんだよ。だから、これは一種のビジネス結婚というヤツだね。君にはまだ、少し難しい話だったかな」
「なるほど?いや、ええっ……そんなことが、許されるんですか。ちょっと考える時間をください」
せっかく僕の分まで淹れてくれていたので、遠慮せず紅茶を口に含み、胃に流し込んだ香りの爆弾が鼻を抜けていくのが慣れていなくて、頭がクラクラしそうだった。
「重い決断になるだろう。それでも、こんなにもいい話は滅多にない、挑戦してみる価値はあると、人生の先輩としてアドバイスしておくよ」
ダストンさんがとても優しい声で、励ますように俺の背中を押す。不労所得と村での磐石な地位と妻子がいて、自身の手で築いた穏やかな幸せを享受している男の目は、泳いでいた。
「僕のことを、騙そうとしていませんか」
「……そんなこと、とんでもないっ!」
ダストンさんと目が合うが、揺れる瞳に説得力がなかった。
「警戒しているね、その態度は好ましいよ。旅立つ前に、この五枚の白金貨を君の両親に渡そう。税金のことを考えれば、大した額じゃないしね。それでも、誠意のある親孝行には十分な金額だろう」
「……疑っていたワケではないですけど、僕なんかに五枚の白金貨を出せるなんて、本当に凄い人なんですね」
アナスタシアさんが重そうな袋を取り出し、その袋の口から摘まんでテーブルの上に積み上がった白金貨の絶対的な価値が、これだけあれば何が出来るのかを、つい、考えてしまう。
「僕には五歳の妹がいるんです。白金貨七枚で、真面目に取り組むと約束します」
「なっ!?」
「フフッ、強かだね。……分かった、白金貨七枚で交渉成立だね」
ダストンさんが僕の釣り上げに顔を赤くして怒り、それを手で制止したアナスタシアさんがその手で握手を求めてきたので、僕は力強く握り返した。
翌日、別れの挨拶は昨夜のうちに全て済ませて、肌寒い空気と空が白みだした青い村を見納めると、生まれてからずっと育てられてきた故郷を離れるのだった。
◆
「ユーリィ。どこにいるの。ユーリィ?」
スラリと伸びた長い手足、もはや年齢詐欺レベルなくすみの無い白い肌、白いのに健康的で太く艶のある長い髪、猛禽類のような黄金の瞳は知性からくる好奇心を爛々と輝かせ、うっすらと紅の乗った唇は大人の女性らしさを香らせている都会的で洗練された美しい人──それが、アナスタシアさんと初めて会ったときの俺の印象だった。
「えっ、ユーリィ。いないの?……なんだぁ、いるじゃないの。ちゃんと返事をしなさい」
「……つい、考え事をしていて」
最初は、褒めて伸ばす方針なのだろうと思った。実際に、アナスタシアさんの「よくやったわね!」を聞くことがモチベーションになって成長したという実感はある。疑問や誤りを教えてくれることはいつも的確だし、すぐに手本を実演してくれるような環境に恵まれていたのは間違いのない事実だ。
けれど、あるとき、頭でっかちな知識を修正するのに、モンスターとの実戦で経験を積んでみたいと提案したとき、気づかないうちに地雷を踏み抜いてしまったかのようにアナスタシアさんがヒステリックに泣き喚いてモンスターとの実戦を泣き落とすように止められたときの反応が、何かがおかしいと、自分との認識のズレにうっすら気づき始めた瞬間だった。
「本当に、心配しましたよ」
髪を耳にかける仕草をして、最近はすっかり隠さなくなった尖ったエルフの耳を露出させてから、少し不安そうな声音で俺の手を握り込む。
あれから俺は十七歳になり、三日後には十八歳となってエルフ達の基準でも結婚が認められる年齢となる。
それが関係しているのか、アナスタシアさんの様子が半年前あたりからおかしい。あまり飲まないお酒を飲んで酔っ払ったと俺のベッドに侵入してきたり、バスローブ一枚でさまよったり、暑いからと水着で一日中を過ごしたり、スキンシップのラインが日増しに際どくなったり……ここまでくると、どんな朴念仁でも気づくだろう。実際に、一回だけ一線を踏み越えて、アナスタシアさんのお腹の上に寝ぼけたフリをして精子をぶちまけてしまったことがある。その気まずさが長く尾を引いて、アナスタシアさんもこちらを探り探りなのが現状だ。
「それでは、今日も“特別訓練”を始めますよ。前回の続きからです」
「はい、師匠。妊活あまあま子作りセックスですね!」
アナスタシアさんの口から“特別訓練”と聞いた瞬間、集中出来なくて浮わついていた気持ちが抜け落ちて、スイッチを押したように頭が修行モードへと切り替わる。
この訓練はアナスタシアさんが俺の子を妊娠するまで終わらないという過酷な内容だが、突き合ってくれるアナスタシアさんとの二人三脚で必ず成し遂げてみせる!と俺は股間を滾らせた。
◆
「師匠とかどうよ。アナスタシアさんとか、お前に気がありそうじゃん」
「ギャハハハハ!!やめろーーっ!誰があんな、デカ貧乳万年婚活おばさんエルフなんかと──」
心が砕けた音がした。
流れるマナから大器を見抜くこの眼からすれば一目瞭然で、才能があるのに環境のせいで伸び悩んでいる人間に声をかけ、手塩にかけて育てるうちに母性のような愛情が湧いていた──可愛いかった弟子が、手入れのされていない髭面になり、酒場で下品な笑い声で仲間と飲み騒いでいる。
楽しそうでよかったね。と、他人事のように笑みを浮かべて、ガタガタと鳴る歯の音で指先が酷く冷えていることに気がついた。
「なんだこりゃ!?……柱が凍ってやがる」
騒がしい背後から逃げるように酒場を離れ、これが自分の生きる意味だと信じていた冒険者ギルドの【ホノテラス】への尽力が急に馬鹿馬鹿しくなって離脱し、故郷のエルフの郷に戻ってみたが昔もここでの生活の息苦しさが嫌いで飛び出したことを再認識して旅立ち、放浪の旅をしているときに、ずっと昔に護衛依頼を引き受けて冒険者崩れの盗賊に襲われて死線を潜り抜けたことのある仲のアストンと再開した。彼は商人をやめてすっかり老けていたが、話してみると刹那に生きる都会の男にはない落ち着きがあって、随分といい男になっていた。だから、当然のように妻子がいて、それを残念に思っている自分に気づいて驚いた。
『デカ貧乳万年婚活おばさんエルフ』
ここ数年で落ち着いてきていたトラウマを思い出して、せっかくの夕食を吐いてしまった。焼けるように胸が痛んで、悔しくて涙が滲む。
「……お姉さん、大丈夫ですか?」
水の入ったコップを持った少年が、私の背中を擦ってくれた。
「可哀想……全部吐いた方が楽になるよ」
「ありがとう、ありがとう」
決壊したダムのように、感情が溢れて奥底から愛が込み上げてくる。
「師匠のおまんこと、繋がってるよ。う゛っ……締めつけ凄っ。ヤバい、気持ちよすぎて挿入しただけで射ちゃいそうだ」
「ユーリィ♡」
愛おしい人の前で、自ら股を開いて曝け出す女の喜びを噛み締めて、それを受け入れてくれた紳士な態度のユーリィのオチンポが挿入されて、子宮がキュンキュンして追加の愛液がドバドバと溢れてくる。お腹に力を込めるとピクンとオチンポが反応するのがとても可愛くて、料理人になった気分でユーリィには私の体を味わい尽くしてほしくてたまらなくなっていた。
「動くよ」
「うんっ」
たぁん、たぁん、たぁん。
キュン♡キュン♡キュン♡
「……苦しくない?」
「うん、もう大丈夫だよ」
少年は、ニッコリと笑った。「お姉さんが、元気になってくれてよかった」
ぶちゅーーーっ。ジュゾゾ……むふっ♡純粋な少年の唾液うまっ♡
出来心でつい、少年に催眠をかけてしまい、貪るようなキスをしてしまった。それを遅いから様子を見にきたアストンに見られてしまい、事情の説明と謝り倒してなんとか口封じは出来たのだが、一週間が経ってもあのときの成功体験が忘れられなくて、かつてないほどに個人へ執着している自分に気がついた。
「もっと……ユーリィが欲しい」
「俺も、アナスタシアさんが欲しい」
あの日、路地裏に消えた独り言は、今は目の前のユーリィに届いて返事をしてくれる。けど、私の思いの重さはまだまだ伝えきれていないから、何度でも何度でも繰り返すね。
「あっあん♡私はユーリィが好き、大好きよ。ユーリィ……私だけのユーリィ。愛おしそうに、たくさん私の名前を呼んでちょうだい」
「……アナスタシア、好きだよ」
パン、パン、パン、パン。
「はぁい♡」
「アナスタシアっ愛してるっ」
パンパンパンパンっ!
「は゛ぁ゛イ゛ク゛ぅ゛~♡」
「ぐぅっ……もうっ。いいよな、中に射して。実はもう、少し先走って精子が出ちゃってるんだ。グチュグチュと奥に押し込んで……」
「思いだして、これは“特別訓練”よ。何も躊躇しなくていいの。たくさんビューーッ!って射精して、ユーリィと私の赤ちゃんを授かるまでが妊活だからね」
……あ、孕ませてやる!って顔。カッコイイ♡
私の頭の後ろに手を回して、一番深いところを探ってる……きゃっ♡
「ユーリィのオチンポに私の子宮口見つかっちゃ──オ゛ホオ゛ぉぉ!?オ゛ッ゛ぉぉ♡♡」
ドピュルルルルルルル!!
プシャァーーッ♡
ビュルルル……。ヌプッ、コポォッ……♡
幸せがとまらにゃい……♡
優しい笑顔でなでなでされるの嬉しい♡
「お疲れ様、頑張ったね。休んでていいよ」
「うん、抱きしめてて」
・・・・・。
記憶にない、これはおそらく夢だろう。
否、アナスタシアさんとノリノリでセックスをしていた生々しい記憶が残っていたが、明晰夢だとか悪夢の類いだ。そうに違いない。
俺が十八歳になる、二日前の朝は現実逃避から始まった。咽返るような臭いに目が覚めると、お互いに裸のアナスタシアさんと同衾していて、冷たくなるほど痺れている右腕を枕にしている寝顔がすぐ目の前にあった。
「アナスタシアさん、起きてください」
「……くぅーー、すぅーー」
口の端がニヤけながら、狸寝入りをしているのは明らかだった。
「最後に、弁明はありますか?」
「……満足して、記憶を弄るのを忘れちゃった。てへっ☆」
裁判の判決、懲役刑三百年執行猶予無し。師匠との別れは、唐突だった。
──というのは冗談で、詰問するとアナスタシアさんの暴走で一月前から催眠妊活を開始していたようで、遡れば故郷を旅立った日からフェラ抜きでの射精管理が始まっていて、封印されていた記憶が雪解けのように蘇ると、拗らせたアナスタシアさんの性欲の赴くままに、俺が赤面するほどの変態プレイの数々を思い出して、呆れを通り越してしまった。
「王都でモテなかったからって、染まっていない少年をグルーミングして結婚出来るまで待とう。って発想は、ヤバすぎですよ」
「……ぁ、ハイ……オッシャルトオリデ……」
ベッコベコに凹んだアナスタシアさんは師匠としての威厳は消え去り、静かに涙を流して全てが終わったかのような絶望顔をしていた。
「……別に、アナスタシアさんのことは嫌いじゃないですよ。たくさんの恩があるのは本当ですし。十分に反省したら、たくさん笑ってください。こんなストレスで、その……俺とアナスタシアさんの赤ちゃんに悪影響があったら、嫌ですから。落ち着いたら、これからの話をしましょう」
「ゆ、ユーリィ……!」
「な、なんですか」
「ユーーリィーーッ!!!!」
「ちょっ、来るなって……うわっ!?」
俺の胸に飛び込んできた残念美女エルフのアナスタシアさんが、鼻水や涙や涎でぐちゃぐちゃな顔を擦りつけて謝罪し、その背中に片手を回して頭を撫でて、きっとこれは二人の関係が正しく前進するのに必要な儀式なのだろうと、一つ一つを許していった。……調子に乗って、キスをしようとしてくるのを手のひらで防ぐと、今度は手のひらを舐めてきたのにはゾワゾワとした。
「……はぁ、最低なリゼロでしたね」
「?どういうこと」
「また、ゼロからヤり直すってことです」
これまでに何百回何千回とアナスタシアさんの口で磨かれたオチンポを美味しそうにしゃぶる頬に触れ、歪んだ性欲がムクリと起き上がった。
あばら骨の浮いた水着姿の食い込んだお尻とマンチラに、何度腰を掴んでパンパンしたいと思ったことか。悶々として我慢したのに、言えばヤれたという後悔が、時計の振り子のように戻ってきた。
あのとき触れなかったアナスタシアの肌の脂肪に指が沈んで、さくらんぼのような乳首を摘まんで引っ張ると痛そうにしていたので謝り、突き出したお尻から水着をずらして、小ぶりで可愛いお尻に手を置いた瞬間、心臓が、ドッ、と血液を強くポンプし始める。
ビュルルルルル……。
挿入してすぐの自分の早漏っぷりに小パニックになるが、嬉ションをするアナスタシアさんに脱力して、抜かずの二発目はたくさん喘ぎ声を出してくれたアナスタシアさんのおかげで満足のいくセックスが出来た。
「やば、その顔めっちゃ可愛い」
「~~ッ♡らいしゅきぃ♡」
おまんこからたっぷりの精子を垂らすお腹にキスをして、頬擦りをしてから「今、蹴ったよ!」と冗談を言うと、「もうっ!」と怒ったポーズをするアナスタシアさんの顔を見て、守りたいと静かに心に誓うのだった。