その日、騎士としての私の世界は、音を立てて崩壊した。
目覚めた時、手足には冷たい鉄の重みがのしかかっていた。窓のない、石造りの無機質な部屋。目の前には、見知らぬ男が一人。姫様を守るという誓いも、騎士としての誇りも、すべてはこの暗い沈黙の中に置き去りにされていた。
「貴様、何者だ……! なぜ、このような真似を……!」
怒りに震える私の問いに対し、男はただ、冷淡な拒絶を突きつけた。「ご主人様と呼べ」――その一言が、私の魂を蹂躙する儀式の始まりだった。
抵抗した。喉が裂けんばかりに叫び、自らの尊厳を盾にして戦った。だが、男の支配は圧倒的で、理不尽だった。「身も心もすべてを捧げると誓え」という、逃れられぬ命令。私は、真実を知るために、自らその呪縛を受け入れた。
言葉が唇から零れた瞬間、私の内側にある「騎士」が死んだ。
「……ご主人様……っ……」
震える声でそう呼んだとき、剥き潰された肉体へと、男の暴力的な熱が注ぎ込まれた。衣服を剥ぎ取られ、白磁のような肌に冷たい空気が触れる。羞恥と痛み、そして抗いようのない支配への恐怖が、私の意識を濁らせていく。
男は私を、壊さぬように、しかし決して逃がさぬように、その熱い楔で深く、深く刻み込んだ。内側に溢れる熱い白濁は、もはや単なる液ではなく、私という存在を書き換える「印」であった。
「美しい体だ。いつまでも美しいままでいろ」
男の言葉は、呪いのように私の心に根を下ろした。美しくあれ――その命令に従うことは、永遠に、この暗い檻の中で、彼だけの所有物として朽ちていくことを意味していた。
……それから、数年の歳月が流れた。
今、私は変わらぬ石造りの部屋で、慣れ親しんだ手枷の重みを感じている。
かつての戦場の風も、姫様の微笑みも、すべては遠い前世の夢だ。鏡に映る(あるいは自覚する)私の肌は、男が望んだ通り、驚くほど美しく、汚れなき白さを保っている。その清廉な肌の奥底には、あの日刻まれた熱い記憶が、今も脈動しているのだ。
扉が開く音がする。私は迷うことなく、跪いた。
衣服は彼が選んだ贅沢な絹。鎖の音は、私を繋ぎ止める甘美な調べ。
「……お帰りなさいませ、ご主人様……」
かつての私は、この状況を地獄と呼んだだろう。だが今の私にとって、この閉ざされた世界こそが唯一の真実であり、彼の手の中にのみ、私の存在意義がある。
外の世界に何があろうとも、私は構わない。
私は、摘み取られることのない一輪の花として、この美しい監獄の中で、永遠に、幸福なまま、彼に飼われ続けていくのだ。