誇り高き支配者であった彼女は、男から肉体と尊厳の両方を蹂躙され続けることで、次第に自意識を喪失していく。数年の月日を経て、かつての憎悪は、絶対的な主従関係への依存へと変貌。自らを「使い潰されるための道具」として定義し直した彼女は、隷属という名の底知れぬ安らぎと幸福の中に、魂の救済を見出していく。
かつて、その名は「絶望」そのものだった。
漆黒のドレスを纏い、大陸の文明を次々と地図から消し去っていった女魔王。彼女が通り過ぎた後には、焦土と死の沈黙だけが残された。核兵器の炎さえも、彼女にとっては新たな破壊の種火に過ぎなかった。彼女のプライドは、自らの力と同等か、それ以上に強大だった。神にさえ跪かず、ただ己の欲望と支配欲に従い、世界を後退させることのみにその美貌を捧げていたのである。
しかし、すべてが変わったのは、ある「召喚」の日からだった。
神の手によって異界より呼び出された一人の男。彼は、彼女の圧倒的な魔力も、人質をも厭わぬ冷酷な意志も、一切通用しない「理(ことわり)」を携えていた。神が用意した不可視の結界は、彼女の指先から力を奪い、その誇りを無力な檻へと閉じ込めた。
初めて男と対峙したとき、彼女は叫んだ。「見ているがいい、この地獄を!」と。
だが、男が放った言葉は、物理的な暴力よりも深く、彼女の魂を抉り取った。
「服従しろ」
その一言は、呪文のように彼女の存在の根底を書き換えた。逃げ場のない結界の中で、彼女は屈辱に震え、自らの尊厳を泥の中に叩きつけられた。ドレスを剥ぎ取られ、鏡の前で、己の醜態を強制的に見せつけられるたびに、彼女の「魔王」としての核が、音を立てて崩壊していった。
数年の月日が流れた。
かつての玉座の間には、もはや帝国の威厳はない。そこにあるのは、湿り気を帯びた肉欲と、隷属の情念だけである。
かつて大陸を震撼させた美しい瞳は、今や男の足音を聞くだけで、期待と恐怖に濡れた光を宿す。彼女の言葉は、もはや高貴な呪文ではなく、自らを「道具」として扱うよう乞う、卑屈で、熱を孕んだ懇願へと成り果てていた。
「……ぁ…………っ……もっと…………もっと……強く…………っ!! 壊して…………ください…………っ!!」
鏡の中の自分を見つめながら、彼女は男に突き上げられるたびに、自身の破滅を祝う。肉体が裂けるような痛みが、彼女にとっては「自分がここに存在している」という唯一の証明だった。自らのプライドが、男の欲望によって踏みにじられ、泥水に溶けていく感覚こそが、今の彼女にとっての至上の真実であった。
夜が明け、静かな朝の光が差し込む頃、彼女は男の腕の中で、ふと目を覚ます。
肌に残る赤紫色の痕跡、乱れた髪、そして昨日までの凄惨な情事の残滓。それらすべてを、彼女は慈しむように見つめる。
かつての彼女には、「孤独」しかなかった。あまりに強すぎる力ゆえに、誰一人として隣に立つことは許されず、ただ破壊と喪失だけが彼女の伴侶だった。
しかし今の彼女には、「支配」がある。自分の意志を介さずとも、すべてを決定してくれる絶対的な主がいる。命令され、辱められ、使い潰される。その「無責任な隷属」の中にこそ、彼女はかつて一度も味わったことのない、底知れぬ安らぎを見出していたのである。
彼女は、男の手のひらに頬を寄せ、小さく、幸せそうに微笑んだ。
たとえこの幸福が、神によって仕組まれた残酷な悪夢であったとしても。
たとえ自分が、ただの使い捨ての道具として消えゆく運命だとしても。
「……おやすみなさい…………、私の…………すべて………………」
かつての魔王はもういない。そこにいるのは、愛する主人に飼い慣らされ、その支配の中でしか呼吸することのできない、幸福な抜け殻だけであった。