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「いやあ、うーん……何といいますか……」
成田編集は苦笑いを浮かべてそんな事を言った。まあ言いたい事は分かる。そういう反応にもなるだろう。齢七十は過ぎようかという老女に卑猥な恰好をさせた写真集なんてもんを見れば、大抵はそういう反応になる。
「エロいというよりは、ドスケベって感じですねえ」
なるほど、言い得て妙だ。
そう、ドスケベだ。
私はこのドスケベという概念に脳を焼かれているのである。
私はコーヒーカップをソーサーに戻しながら、目の前の写真集のゲラを見下ろした。
七十を過ぎた女が蛍光ピンクのマイクロビキニを着て、恥丘の膨らみをこちらに突き出すように四つん這いになっている。皺の寄った太腿、重力に逆らえない乳房、そして局部を覆う布面積わずか三平方センチメートルの水着。若さとは無縁の肉体がしかし、異様な熱を帯びてそこに在った。
成田編集は眼鏡を外して額を揉んだ。「これ、うちから出していいものなんでしょうかね。というかよくモデルさんがOKしましたね。というかマイクロビキニですよ、マイクロビキニ。七十代ですよ」
「彼女は元女優でね。舞台を中心にやっていた人だ。引退して二十年になる」
「元女優がなぜマイクロビキニを……」
成田は改めて写真を見つめた。皺だらけの指先が自らの臀部の肉をぐっと掴んでいる。ビキニの紐がその皺に食い込んでいる。若い女の尻ではない。だが何かを主張するかのように突き出されたその仕草には、どうしようもない生々しさがあった。
「エロスってのはね、成田さん」
私は煙草を取り出しながら言った。
「若さや美しさだけにあるものじゃない。むしろ、終わりに向かって加速していく肉体にこそ純度の高いエロスが宿るんだ。マイクロビキニはそのための装置だよ」
「装置……」
「そうだ。老いはね人間を正直にする。取り繕う余裕がなくなるからだ。見てごらん、この局部を」
私は一枚の写真を指し示した。蛍光グリーンの極小ビキニが食い込んだ股間が印象的な美老女だ。陰毛は綺麗に剃り上げられ、皺の寄った大陰唇が布の横からはみ出している。その肌には年輪のような線が刻まれ恥骨のあたりには老人斑が浮かんでいる。媚びも恥じらいもない、何かを悟ったかの様な穏やかな笑みを浮かべている
「パイパンですよ、これ」
「ああ、そうだ」
「なんでまた剃らせたんです」
「彼女が自ら剃ったんだ。『どうせなら全部見せたい』ってね」
「うわあ……」
成田は黙ってページを繰った。今度は別の老女だ。こちらは剛毛だ。灰色の陰毛がマイクロビキニから縦横無尽にあふれ出しまるで銀の噴水のようになっている。彼女は仰向けに寝転び、両脚を大きく開いて皺だらけの太腿の奥にあるその剛毛地帯を惜しげもなく晒していた。
「これはまた……すごいですね」
「陰毛にも個性があるんだよ。剃り上げた潔さもあれば、生やし抜いた豪快さもある」
「個性って……」
成田はさらにページを進めた。浴衣姿の老女が縁側で煙草を吸っている写真……と思いきや、浴衣の前ははだけられ中には銀色のマイクロビキニが輝いている。その陰部には手が添えられ、皺くちゃの指が自らの恥丘をまさぐっている。
「これはまた直接的な……」
「そうでもないよ。彼女はただ、自分の体を確かめているんだ。まだここに自分がいるってね」
さらにページを進めると、四人の老女が勢揃いした集合写真があった。全員が色とりどりのマイクロビキニを着て思い思いのポーズをとっている。パイパンの者、剛毛の者、白髪交じりの者、まだ黒々としている者。七十代の四つの股間が並ぶ光景は圧巻としか言いようがなかった。
「これはもう、カオスですね」
「生命のカオスだよ。みんなそれぞれの歴史を股間に抱えて生きてきたんだ」
最後の一枚。鏡の前に立つ老女の後ろ姿。マイクロビキニの紐が皺だらけの背中と臀部に食い込んでいる。彼女は鏡越しにカメラを見つめそして自らの尻を両手で広げている。鏡に映ったその顔は、不思議な微笑みを浮かべていた。陰毛が皺の奥から白く光っている。
「この最後の一枚は……」
「決定的だろう」
成田は長い沈黙のあと、顔を上げた。
「タイトルは何にします?」
私は煙草の煙を天井に向けて吐き出した。
「『濡れる枯野』。どうかな」
成田は苦笑いとも感嘆ともつかない表情で、ゆっくりと頷いた。
「ドスケベですね」
ああ、と私は頷いた。
そうだ、ドスケベだ。
私はドスケベが大好きだから、ドスケベな写真を撮るのだ。