Fate/Ovary Overwrite 作:M・タマゴスキー
藤丸立香が検査室へ入ると、検査台より先に目についたものがあった。
「……所長?」
「何よ」
壁際で腕を組んでいたのは、オルガマリー・アニムスフィアだった。その隣にはマシュもいる。室内では数人の医療スタッフが機器を起動し、検査の準備を進めていた。
「どうして所長までいるんですか?」
「あなたの検査結果を確認するためよ。それと、あとで私も同じ検査を受けるわ」
「所長も?」
「比較対象があった方がいいでしょう」
昨日のミーティングで、自分の羞恥について詳しく調べることになった。
それは覚えている。
覚えてはいるのだが。
「……本当にやるんだなって」
「検査でしょう? 医学的に必要なことなんだから、何も問題ないわ」
「……そうなんですよね」
立香自身、それを否定するつもりはなかった。
卵巣を見ることも、見せることも、必要なら触診や撮影を行うことも普通のことだ。子宮や卵管まで調べることにも医学的な必要性があるなら何の疑問もない。
ただ、自分がされるとなると恥ずかしい。
「先輩、大丈夫ですか?」
「まだ何も始まってないから大丈夫」
「では始めましょう」
「もう少し間をください!」
医療スタッフは立香の訴えを聞き流すように、淡々と端末を操作した。
◇
まず行われたのは通常の健康診断だった。
身体状態、血液、神経反射などを一通り確認し、それが終わると魔術回路や魔力循環、外部からの干渉、精神・記憶領域まで調べられる。
結果はどれも正常。
「現時点で異常は確認されません」
「……よかった」
立香が肩の力を抜く。
しかし、それも長くは続かなかった。
「では詳細検査へ移ります」
大型モニターの表示が切り替わる。
そこに並んだ文字を見て、立香は再び身体を強張らせた。
子宮・左右卵管・卵管采・左右卵巣 詳細検査。
「…………」
「立香?」
「大丈夫です」
一度深呼吸してから、検査台へ向かう。
「……お願いします」
◇
立香は検査台へ移った。
体外へ垂れた子宮から左右へ細い卵管が伸び、その先の卵管采を経て、左右の卵巣へ続いている。
卵巣はどちらもやや小ぶりな楕円形で、左右差は少ない。表面も滑らかで、傷や腫れなどの異常は見られなかった。
その表面には白濁半透明の保護粘液が薄く広がっている。
「通常状態を確認します」
「……はい」
スタッフが左右を観察し、端末へ記録していく。
「形状、表面状態ともに正常。保護粘液も性状に問題ありません。ただ、分泌量は多いですね」
「……人より少し多いかな、くらいです」
「かなり多い部類です」
「…………そうですか」
自覚はある。
だが医学的に改めて指摘されると、妙に恥ずかしい。
しかも、じっと観察されていることを意識した途端、卵巣の表面へ別の液体が浮かび始めた。
「あ……」
透明で、ほとんど粘りがない。
卵巣の丸みに沿って流れた液体が下端へ集まり、検査台へ一滴落ちる。
ぽたっ。
「緊張性分泌液を確認しました」
「…………」
「性状正常。分泌量は――」
「言わなくていいです」
「記録が必要です」
「……はい」
「多量です」
「やっぱり……」
立香は顔を伏せた。
「緊張に伴う自律性の反応です。異常ではありません」
「分かってます……」
説明されている間にも、透明な液体がまた一滴落ちる。
その様子を見ていたオルガマリーが呆れたように言った。
「あなた、本当に分かりやすいわね」
「言わないでください」
「これじゃ緊張してるのが丸分かりじゃない」
「それを言わないでください!」
◇
続いて触診が行われた。
スタッフが卵巣を下から支え、左右それぞれの形や硬さ、弾性を確認する。卵管と卵管采、子宮についても必要な範囲で検査が進められた。
結果はすべて正常だった。
ただ、触診が続くにつれ、立香の卵巣表面には保護粘液とは異なる、より白濁の強い液体が増えていった。
「刺激性分泌液を確認」
「…………」
「一定時間の物理刺激に対する保護反応です。こちらも性状に異常はありません」
「もう、正常ならそれでいいです……」
立香が天井を見ながら答える。
スタッフが手を離すと、粘度の高い白濁した液が手袋との間で短く伸びて切れた。
「通常より分泌量は多めですね」
「聞かなかったことにします」
「記録には残します」
「それはもう好きにしてください……」
触診のあとは神経反応の確認へ移った。
「微弱な電気刺激を行います」
「電気ですよね……」
「ごく弱いものです」
左卵巣へ電極が取り付けられる。
「開始します」
「……お願いします」
刺激が入った瞬間。
「ひぅっ!」
立香の身体が反射的に跳ねた。
「反射正常です」
「びっくりした……」
横からオルガマリーの声が飛ぶ。
「大げさね」
「所長!」
「そんなに跳ねる?」
「急なんですよ!」
「私はそんな反応しないわよ」
立香がじっとオルガマリーを見る。
「本当ですか?」
「当然でしょう」
「……覚えておきます」
「何よ、その顔」
右側でも同じ検査が行われ、結果は正常だった。
◇
画像記録では、左右の卵巣を個別に撮影し、左右比較と、子宮から卵管、卵管采、卵巣までを含めた全体像も記録された。
必要な角度を変えながら撮影が続くたび、立香の頬は少しずつ赤くなる。
「……かなり撮りますね」
「詳細検査ですから」
「そうですよね……」
医学的に必要な記録だと理解している。
それでも、自分の卵巣が一枚ずつ画像として保存されていくと思うと落ち着かない。
その緊張に身体も反応する。
ぽたっ。
「先輩……」
「マシュ」
「はい」
「何も言わないで」
「はい……」
やがて撮影も終わり、子宮や左右の卵管を含めた確認もすべて終了した。
「現時点で、身体構造上の異常は確認されません」
「……よかった」
身体にも魔術的にも問題はない。
立香はようやく安心しかけた。