私が死んだのはつまらない事故だった。生前の私は、身長2メートルの巨躯を誇る中年童貞。性欲は人一倍強いのにそれを満たす術もなく、ただただ鬱屈した日々を送っていた。筋肉だけは無駄についていたが人生はまるで実らなかった。
だが、死後の世界は意外な展開を見せた。気がつくと白い空間で声が響く。
「お前のその肉体を若返らせ、特別な力を付与して異世界へ転生させてやる。ただし能力はランダムだ。受けるか?」
迷う余地はなかった。第二の人生だ。私は快諾した。
与えられた能力は「植物人間」。
その効果は驚くべきものだった。肉体は植物の特性を帯び周囲のあらゆる植物を自在に操れる。さらには、自分の身体から既知の植物を生やすことさえできる。転生した私はさっそく足の裏から根を地面に伸ばし、水分と養分を吸い上げた。背中や肩からは瑞々しい葉が芽吹き陽光を浴びればそれだけで空腹が満たされた。なんとも心地よい生き方だった。
自衛のため、私は身体から硬質な樹皮を生やし鎧のように身を包んだ。全身を覆うその姿は、まるで植物の巨人。誰にも邪魔されずただ森の奥で静かに暮らそうと思った。人間と話すのは面倒だし、性欲は相変わらず強かったがそれを処理するのはもっぱら手慰みで事足りた。
あれは転生から一年が経った頃か。森の中で薬草を摘んでいたらしい少女と遭遇した。私の姿を見た瞬間彼女は悲鳴を上げて逃げ去った。その時、初めて気づいたのだ。植物のゴーレムのような台座に立ち分厚い樹皮の鎧を纏った自分が、どれほど異形に見えるかを。少女からすれば森の化け物以外の何者でもなかったのだろう。
気にせず、私は再び引きこもった。だが一ヶ月後今度は武装した冒険者たちが森に踏み込んできた。曰く、樹木の巨人を討伐するという。どうやらあの少女の話を聞きつけたらしい。面倒だったが仕方なく応戦した。根で絡め取り、蔓で絞め上げ木槍で串刺しにした。皆殺しだ。その後も、変わらず静かに暮らした。
さらに二週間が経った朝、森の入り口に人が群れを成しているのを感じた。五つの村から集まった代表者たちだ。彼らは震えながら恭しく頭を下げ、こう告げた。
「偉大なる森の主よ、どうか私どもの娘たちの中から妻を選びお怒りをお鎮めください」
連れてこられたのはいずれも年頃でまだ純潔の少女たち。その中に、一際輝く美貌の娘がいた。村長の娘だという。豊かな栄養で育った恵まれた体躯は身長180センチほどもあろうか。形の良い巨乳と、安産型のたっぷりとした尻が目を引く。私は迷わず彼女を選んだ。
彼女を連れ帰り、私は植物の鎧の中で彼女を抱いた。久方ぶりの温かな人の肌そして初めて知る女体の感触。性欲は爆発し、私は飽くことなく彼女を求め続けた。彼女も最初こそ恐怖に震えていたがやがて私の子を宿すと、表情には母性が芽生えていった。
感謝の印に、私は彼女の生まれた村の裏手に果樹園を生み出した。地面から枝を伸ばし四季を問わず甘い果実を実らせる林を。近隣の村々の畑も、私の力で土壌を肥やし毎年の豊作を約束した。村人たちは狂喜し、私を「神樹様」と呼び始めた。
妻は毎年、私の子を産んだ。妊婦の間も絶えず交わり身ごもりながらもその身体は衰えを知らなかった。胎児が私の力をわずかに受け継いでいるため、妊娠中の母体は老化が止まるのだ。百年が過ぎ妻は百人以上の子を産み落としたが、その姿はまだ初々しい少女のままだった。
息子たちは自らの肉体から樹木の鎧を生やし、娘たちは周囲の植物を操った。どちらも確かに私の血を引く者たちだ。村人たちは妻を「神妃様」、我が子らを「神樹の子」、そして後に生まれた孫たちを「神樹の民」と呼ぶようになった。
私の子は、私の片足ほどの力を持ちその威光は絶大だった。孫になると、さらに力は薄まり私の片手の指一本分ほどにすぎない。それでも、人間よりは遥かに優れている。
森の奥から毎晩のように響く、私と妻の交わりの嬌声。それが微かに村々に届くようになるといつしか「あの声を聞いた女は丈夫な子を産む」と言われるようになった。真偽はともかく、それは信仰の一部となった。
転生から千年。世界は変わった。
私はいつしか「世界樹」そのものと呼ばれる存在となり、各地の森に根を張る巨大な意思となった。妻は「精霊の母にして女王」、我が子たちは「植物の精霊」として崇められる。孫たちは「ハイエルフ」と呼ばれ、森の国の王族としてエルフを統治している。そのさらに子孫たちすなわちエルフやハーフエルフは、もはや私の爪の先ほどの力しか持たないがそれでも人間の三倍の寿命と、生まれつきの美貌そして多少の頑丈さを誇る。
妻は九百回以上の妊娠と出産の途中で、ついに私の力がその身に定着した。もはや妊娠していなくとも、二十歳前後の姿を永遠に保つ。だがそれでも彼女は今もなお、毎年新たな命を宿している。老いぬ身体で絶え間なく交わり、子を産み続ける。それは彼女が自ら望んだ生き方でもあった。
私の子たちは九百人を超え今や各地の森に散って、各々の国を築いている。ハイエルフの王たちはエルフの民を守り導き、私はそのすべての根を見守っている。
今宵も森の奥から、女の甘い啼き声が響く。
それを聞きながら、私は千年の時を思う。
ただ性欲に忠実に生きた結果が、この伝説だ。
悪くない人生(?)だったと、私は根を伸ばしながら静かに笑った。