異能「三大欲求を満たせ」を獲得したTS転生者が、異能を完全な状態にする為に結婚して妊娠する話。

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第1話

加賀岬という私の人生はまるで荒唐無稽な脚本を神様が気まぐれに書いたものだった。三十代の無職童貞男として幕を閉じた前世が、産声を上げた瞬間にフラッシュバックした時は文字通り臍で茶を沸かすどころか、産湯で溺れかけた。だが母親の温かな胸に抱かれ、甘い母乳を飲みながら前世の記憶があるというこの異常事態に、奇妙な納得感を抱いたのも事実だ。これが転生ってやつかと。幸い、母親に対して劣情を抱くことは一切なかった。それだけがせめてもの救いだった。そうでなければ、俺は……いや、私は、自分の精神が壊れてしまいそうだったから。

 

異能「三大欲求を満たせ」は、この現実離れした状況をさらに加速させた。食欲、睡眠欲、そして性欲。文字通り生きるための根源的な欲求を満たすほど、私の身体は磨かれ美しくなり、あらゆる能力が向上するという破格のチート能力だ。赤ん坊の頃は食欲と睡眠欲しか満たせなかったがそれだけでも成長は著しく、幼い私の美貌と大人の知性を隠し持つ「聞き分けの良さ」は、すぐに芸能界で「天才子役」として持て囃される理由になった。

 

子役から女優へ、そして大学生へ。全てが計算通りいや、計算以上の成功を収めた。二十歳になった私は、身長180センチ腰まで届く艶やかな黒髪のポニーテール、凛々しく整った顔立ちそして出産に適した安産型の豊かな尻を持つ、誰もが振り返る美女になっていた。しかし、これまでの二十年間「三大欲求」のうち、性欲だけは常に不完全燃焼だった。自慰行為でお茶を濁してはきたがそれは空腹をガムでごまかすようなものだ。異能の真価を発揮し、完全な美と不老を手に入れるためには誰かと深く結ばれ、心身ともに満たされる必要があると本能で理解していた。

 

とはいえ、前世の記憶を持つ私がその辺の男と安易に体の関係を持つなど、これまで積み上げてきたキャリアと人生を汚す愚行以外の何物でもない。私は合理的な判断として結婚相談所の門を叩いた。担当の女性カウンセラーに、私の望む結婚相手の条件を包み隠さず伝えた時の彼女の驚いた顔は忘れられない。

 

「ええと……性欲が旺盛で、スタミナがありその……男性器が硬く、かつ平均より長く……逞しい体格で、二十歳前後の方ということでしょうか。顔立ちは気にされず、借金がなくご一緒に過ごせる時間が多く、家事をしてくださるなら無職でも可と。そして、浮気は絶対にしないこと……と」

 

カウンセラーは条件を復唱しながら途中で何度も言葉を詰まらせた。彼女の驚きは、私の容姿と年齢からすればあまりにも現実的でかつ生々しい欲望に根差したリストへの面食らいだったのだろう。普通はもっと年収や家柄といった「高望み」をするものらしい。だが、私にとって重要なのは異能を完全覚醒させるためのパートナーとしてのスペックだ。高望みも何も、これが私にとっての「必要十分条件」だった。

 

そして運命の悪戯か、その条件に完璧に合致する男が現れた。馬場雄、二十歳。職業はジムのインストラクター。二メートルの大柄な体は分厚い筋肉に覆われ顔は十人並みだが、誠実そうな瞳が印象的だった。聞けば性欲は強く体力も有り余っており、大学進学を機に遠距離恋愛を嫌がって別れた元彼女がいるという潔い一面も持っている。そして何より……男性器のスペックは、問診票と彼の名誉のためにここでは伏せるが私の望みを遥かに超えるものだった。貯金は少なくとも借金はない。条件は完全にクリアしていた。

 

「はじめまして、加賀です」

「あ、ど、どうも馬場です……えっと、本当に俺でいいんですか? 加賀さんテレビで見るよりずっと綺麗で……」

 

初対面で真っ赤になってしどろもどろになる雄に私は逆に好感を抱いた。計算や駆け引きのない、純粋な反応。私が求めていたのはまさにこういう実直さだった。

 

一ヶ月の交際期間。彼と過ごす時間は驚くほど心地よく価値観も合った。そして迎えた初めての夜、私は二十年近い童貞人生(精神的には前世含め五十余年)にようやく終止符を打った。痛みと、そして圧倒的な充足感。異能が全身の細胞を書き換えていくのが分かった。自慰とは比べ物にならない深淵を満たすような悦び。彼の一晩中衰えを知らない精力は、私の貪欲な渇望を完全に癒した。

 

マスコミに嗅ぎつけられ私たちは結婚記者会見を開いた。フラッシュの嵐の中、私は臆することなく言い放った。

 

「お相手は一般男性です。私は恋愛禁止の契約は結んでおりませんので、ファンの皆様を裏切ったとは考えておりません。婚活で出会い一ヶ月の交際を経て結婚いたしました。若いうちに結婚し子を成すのは、生物として極めて自然なことです。私が不幸ではないかとご心配される声もあるようですがそれは私の選択と幸福に対する侮辱です」

 

この言葉に、会場は静まり返った。誰もが私のあまりにも強い意志と言葉に反論の余地を失ったのだろう。

 

それからの人生は奔流のようだった。大学在学中に長男を出産。卒業式の時には、すでに第二子を妊娠していた。女優業は妊娠期間を緻密に計算しドラマや映画の撮影中に腹部が目立つことがないよう、スケジュールを完璧に管理した。周囲からは「仕事が疎かになる」と心配されたが、異能で向上した集中力と身体能力をもってすればなんということはなかった。

 

雄との夜は、いつまでも新鮮だった。彼の巨躯と無尽蔵のスタミナが私の完全なる覚醒を促す。そして私は、妊娠し、出産するたびに母としての深みと、信じられないほどの若々しさを同時に手に入れた。四十歳を迎えた時私は十五人の子供の母親になっていた。十五人だ。普通なら体型が崩れ、老け込んでいてもおかしくない。しかし鏡に映る私は二十歳の頃よりも蠱惑的で、完成された美を放っていた。これが「三大欲求を満たせ」の真の力。性欲を愛する夫と満たし、子を産み育てることで異能はついに完全なものとなったのだ。

 

夫の雄は、今日も仕事から帰るとトレーニングウェアを脱ぎ捨てて私をベッドに誘う。

 

「岬、今日も綺麗だ。もう四十なのになんでどんどん綺麗になるんだよ。不公平だ」

「ふふ、ありがとう。でも私がこうしていられるのは、あなたがいるからよ雄」

 

彼が少し照れたように笑い、私を抱き寄せる。窓の外では大学生になった長男と、それに続く子供たちの賑やかな声が聞こえる。私は彼の太い首に腕を回し心からの充足感に浸る。ああ、これが私の求めていた人生だ。誰がなんと言おうと私は幸福だ。この異能と、前世の記憶と、そして夫への愛があれば私は永遠に輝き続けられる。


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