夕暮れの空はセピア色に染まっていた。
薄墨色の夕闇に沈んだ町。ひしめき合う家々も、傾いた電信柱も、遠くに垣間見える小高い丘も、影絵のように黒くのっぺりとして見える。
手を繋いで隣を歩いていた人が立ち止まり、丘の方を指し示した。
――杳ちゃん、杳ちゃん。ご覧、夕日に照らされて
木々の影にギザギザと縁取られた丘の上で、金色の火柱が立っていた。
異様な光景に立ち竦んでいると、年経てざらついた女の声が穏やかに笑う。
――まるで金色の炎の柱のようだろう? 杳ちゃんが生まれた日も、ああしてもっけさまが燃え盛っていたんだ。
――もっけさまの根元に夕日が沈む頃に産声を上げたから、お前の名前は『杳』と付けたんだよ。
皺の浮いた骨張った手がギリギリと手を握り締める。痛みのあまり涙が浮かんだが、手を振り払ったら凄まじい剣幕で怒鳴り散らされると分かっているから口を引き結んで堪えた。
その人の顔もまた半分以上影に塗り潰され、貼りつけたような笑みを描く口元だけ西日が照らし出していた。
――お前の両親は中々子供を授かれなかった。だからあたしがもっけさまにお百度参りをして子宝祈願をしたんだ。
――もっけさまのお陰で杳ちゃんは生まれてこられたんだよ。そのご恩を忘れずに、信心深く生きなさい。
思い出した――幼い杳の手を握り潰さんばかりに離さないこの人は、かつて一緒に暮らしていた母方の祖母だ。
杳は四歳まで両親と共に母の実家で暮らしていた。祖父は既に亡く、祖母が同居していた。
信心深いと言うよりも迷信深い人で、少しでも否定的な態度を取ると物心が着くか着かないかという年頃の孫に罵詈雑言を浴びせるヒステリックな女性だった。何度もスピリチュアル詐欺に引っ掛かっては、尻拭いをさせられる母と衝突を繰り返していた。
最終的に絶縁を選んだ両親は、杳を連れて母の実家から逃げ出した。以来、祖母とは音信不通だ。
ザ、ザ、ザ、ザザザ……と、ノイズのような木枯らしが黄昏の路地を吹き抜ける。
何処からか流れてきた銀杏の葉がザワザワと視界を暗黄色で埋め尽くし、杳は夢の外へ弾き出された。
……全身が泥の如く重い。
瞼を持ち上げる事すら億劫で、何とか薄目を開いた。
倦怠感がずっしりとのしかかり、左側を向く姿勢で床に押しつけられているようだ。
電灯の光がぼんやりと橙色に滲んでいる。身動ぐと、裸身を覆い隠す毛布が滑り落ちた。
目元をこすりながら起き上がる。
黒橡色のロングヘアだけを纏った女體はメリハリのあるシルエットを描き、特にたわわに実ったHカップの乳房は美しい椀形に張り上げていた。
白い柔肌のあちこちに刻まれた吸い痕や噛み痕、手指の形の痣が目に入り、杳は思わず顔を赤らめた。一際胸元と両腿の間の痕跡が夥しく、空っぽの下腹部が熱く疼く。
ピンク味の強い鴇唐茶色に染まった乳頭部がぷっくりと腫れて乳汁を滲ませている。硬く凝った乳首が空気に触れるだけで切ない。
杳は頭を振って邪念を打ち消すと、毛布を拾って羽織り直した。
室内を見回すと、どうやら奥の和室から手前の六畳間へ移動したらしかった。
奥の和室と同タイプの電灯、テレビ台を兼ねた茶箪笥の上の小型テレビ、壁際に寄せられた飴色の卓袱台、砂壁に貼られて色褪せた平成後期のポスターカレンダー。
路地に面した側に木枠の窓があり、古めかしい型板ガラスにブランセピアの夕影が浮かんでいる。
杳が寝ていたのは、使い込まれた座布団を並べただけの即席の敷物だった。煎餅布団が延べられたままだった奥の六畳間は寝室で、こちらは居間として使われていたようだ。
窓の左側にある襖戸の外から、ギ、ギ、と階段の踏み板が軋む音が上がってきた。
襖戸が滑り悪く開き、ボトムを穿いただけの斗南が現れた。
毛布にくるまって座り込んでいる杳を見つけると、目元を和ませる。
「起きたか」
「……うん」
「体、辛くないか。何か食える?」
斗南は首にタオルを巻いていた。目の前に膝を突いた彼は石鹸の香りを纏い、赤毛がしっとりと湿っている。
シャワーを浴びたのだろうか。よく考えれば、自分の体も汗や母乳や諸々の体液でドロドロだったのに湯上がりのようにさっぱりしている。
気絶している間に丁寧に全身を洗われた事を察し、杳は赤面した。斗南の顔を直視出来ず俯くと、きゅるる……と腹の虫が鳴った。
斗南が小さく笑った。
「握り飯でいいか?」
斗南の膝元から液状の影がトプンと溢れたかと思うと、伸び上がった影がぽんぽんと立て続けに何かを放り出した。
飛来物を器用にキャッチした斗南は、卓袱台の上にそれらを並べた。コンビニで売られているような包装されたおにぎりと二百五十ミリリットルのペットボトル入りの緑茶、それぞれ一個ずつ。
「……四次元ポケット?」
杳の感想に、斗南はペットボトルの蓋を開けながら肩を竦めた。
「生憎、無限に収納出来る訳じゃねぇんだ。精々押し入れ半間分の容量だよ」
影の内部にごく小規模な亜空間(つまり超ミニマムな異界だ)を作り出し、自由に物を出し入れ出来るそうだ。今回の潜入調査に必要な食糧や物品を詰め込めるだけ詰め込んでいるらしい。
「いただきます」
杳は鮭の具のおにぎりを選ぶと、ペリペリと包装を剥がして一口かじった。塩辛い米粒を噛み締めると、今更のように空腹を実感した。
おにぎりを平らげた後、緑茶をゴクゴクと飲み干してしまった。よくよく考えてみれば、体内の水分を大量に消費したのだから喉が渇いて当然だ。
空になったペットボトルを手にぼんやりしていると、左頬に斗南の右手が触れた。
「杳?」
怪訝そうな表情に我に返る。指に力が入り、薄いペットボトルがべこりと凹んだ。
「斗南君、あのね……」
杳は先程まで見ていた夢の内容を説明した。斗南の眉間に深々と皺が寄る。
「もっけさま……漢字表記するならこうか?」
斗南は卓袱台に指で『物怪様』と書いた。
「これは『もののけ』って読むんじゃないの?」
「『もっけ』とも読むんだ。不思議な現象や、物の怪と同じく化生を意味する場合もある」
斗南の指がトントンと卓袱台を叩いた。
「丘の上の金色の火柱は、幼少期に見た大銀杏の断片的なイメージだろうな。大銀杏のある町の生まれなら、化け銀杏に狙われるに十分な縁を持ってたって訳だ」
斗南は苦い溜め息を吐くと、空のペットボトルをボコリと握り潰した。
「お前の前に犠牲者が三人出たって話したよな?」
「うん」
「三人とも出身地も年齢も、職業も家庭環境もバラバラなんだよ。共通しているのは身体的に問題がなく生殖が可能、それから性交渉の経験なしって点だ」
「ああ……だから、私が処女だって分かったんだね」
毛布の下で下腹部を撫でさする。斗南は間の悪い表情を浮かべた。
犠牲者のうち、一人目は十代後半の大学生、二人目は三十代半ばの会社員、三人目は二十代後半のフリーター。
全員心身を弄ばれた上に陵辱の限りを尽くされ、遺体は原形を留めていない――肉塊とも言い難い有り様だそうだ。
喉の奥まで胃液の味が込み上げ、咄嗟に口を引き結ぶ。
斗南は潰れたペットボトルを卓上に転がすと、ガシガシと頭を掻いた。
「更に謎なのは、三人の犠牲者はお前と違って
「え?」
「本人も親類縁者も、大銀杏のある町とは縁もゆかりもないんだよ。家系図を遡ってみても、手掛かりの一つも見つからねぇ」
被害者達が生前に大銀杏のある町を訪れた事実もない。では、化け銀杏は如何にして彼女らを見初めたのか?
「もっけさまは、昔から乳根信仰で有名だったんだよね」
「ああ。乳の出が良くなるって以外にも、子宝や安産祈願をする人か多かったみたいだぞ。杳の婆さんもそれにあやかったんだろうな」
病葉家に化け銀杏退治を依頼した土地の所有者は乳根信仰に対して否定的だが、先代の頃までは小さいながらも社が存在していた。
しかし、権利者の代替わりを契機に管理が杜撰になり、数年前に老朽化を理由に解体されたという。
確かに、丘の頂上の入り口に鳥居が見えたが、社は何処にも見当たらなった。現実世界では、あそこに大銀杏が金色の火柱の如く今も聳えているのだろう。
神として崇め続けられてきた怪異が信仰を失い、存在そのものが危ぶまれる事態に直面した時――人間に何を求めるのか。
「
ぽつりと呟くと、斗南が眉を跳ね上げた。
「なんだと?」
「祖母が言っていたの。私はもっけさまのお陰で生まれてこられたんだから、その恩を忘れるなって……」
杳は斗南へ振り向いた。
目が合うと、彼は息を呑んだ。
「化け銀杏も同じ事を考えてたって言うのか?
「それなら被害者やその家族がもっけさまと直接関わりがない事も説明がつくと思う。私の祖母が独断でお百度参りなんてしたように、例えば単なる知り合いが良かれと思ってこっそり子宝祈願をしたとか……そういう
斗南は表情を歪めると、俯いて片手で顔を覆った。
「糞っ垂れ」
卓袱台の上に置かれた拳が震えている。杳はそっと両手を重ね、頬を寄せた。
動いた拍子に毛布がずり落ちて胸元まで露わになった。
斗南の視線が豊満な双乳の、自分が刻んだ情欲の名残をなぞる。胡座をかいた膝の上に抱き寄せられた。
斗南は黒橡色の髪を払い、生白い首筋に吸いついた。右手が毛布から零れ落ちそうな乳房を押し包み、ふにふにと揉みしだく。
杳が微かに声を漏らすと、一層腰を引き寄せられる。
逞しい上腕に手を添えると、喉笛に噛みつかれた。
「いっ……痛いよ、斗南君。歯、立てたら……」
「杳の肌ってさ、桃みてぇな甘い匂いがするんだよ。凄ぇ美味そう」
鎖骨の周辺に口づけながら斗南が囁く。左手は腰を抱え込みつつ、毛布を剥こうとする素振りはない。
「はぁ……散々抱いたのに、またムラムラしてきた」
「あの……」
「触るだけだから安心しろ。気ぃ失うまで抱き潰した後に、更に無体強いるほど鬼畜じゃねぇよ」
毛布越しに柔々と乳房を揉まれ、胸元にキスマークを追加された。
顎の下を錆色の髪がくすぐってこそばゆい。両手を伸ばして頭を抱き寄せると、斗南が上目遣いで胸の膨らみを甘噛みした。
「ん……やぁッ」
「杳の匂いに乳臭さが混じって……堪んねぇ」
鉄を溶かしたような熱が下腹部に溜まると、愛液になって垂れ落ちる。思わず太腿を擦り合わせると、斗南のボトムを押し上げる一物にゴリッとぶつかった。
先走りの臭いが鼻先を掠めたような気がして、杳は頬を赤らめた。
「斗南君! 折角綺麗になったのに、また汚れちゃうよ」
「……うん」
むすりとした声が頷く。妙な可愛さに口元を緩め、毛布を腰の辺りまで滑り落とした。
仄かに薄紅色を帯びた爆乳が青年の眼前でぷるんと揺れる。唖然とする斗南の後頭部を撫で、杳は小首を傾げた。
「おっぱい飲むぐらいなら、汚さずに済むかな?」
「……やっぱ抱いていいか?」
「へっ、な、駄目だよ!?」
斗南は盛大な顰めっ面を浮かべた。
「好きな女の乳吸って、ハイ終わりって済む筈ねぇだろ」
直球の好意に体温が跳ね上がる。強請るような眼差しにうっかり陥落しそうになるが、杳は頭を振った。
「おっぱい飲むのはナシ!」
「見せつけといて生殺しかよ」
「う、うぐ……じゃあ……どうすればいい?」
斗南は緩慢に瞬くと、うっすらと笑んだ。
「何でもしてくれんの?」
「斗南君、私の体も綺麗にしてくれたでしょ。恥ずかしかったけど、嬉しかったの。だから、なるべく汚れないで……斗南君が気持ち良くなってくれる事」
榛色の双眸が熱情にぶわりと蕩ける。
斗南は堪えるように低く喉を鳴らし、杳の口端に接吻した。
「何でそんな可愛いこと言うの、お前」
彼の声に触れた皮膚がビリビリと震える。無意識に腰が跳ね、杳は眼前の男が開いた女體を酔芙蓉のように染め上げた。
斗南は杳の背中に両手を回し、胸板で豊乳が潰れるほど密着した。引き寄せられるように唇が重なり、ぬるんと舌が口腔へ潜り込んでくる。
「ンッ、あ……う、はふ」
ぬろぬろと粘膜を舐め回され、奥深くの軟口蓋まで舌先でつつかれる。
クリクリと硬口蓋を外に向かってなぞられると、女悦を覚えたばかりの体は従順に絶頂へ達した。
「ひィ、あぁ――お、ふぁあッ!」
くぐもった嬌声を漏らし、杳は痙攣して潮を噴いた。
斗南が愉しそうに両目を眇め、「あーあ」と呟いた。
「早速汚してるじゃねぇか」
「は……う、ぁあ、だってぇ」
泣きべそをかくと、斗南が首に巻いていたタオルで太腿を拭われた。
「これで大丈夫だよ。……キスだけでイクなんて、可愛過ぎてどうにかなっちまいそう」
耳の穴に吐息を吹き込まれ、肩が跳ねた。
斗南の右手が腰のくびれからヒップラインを撫で回し、割れ目を広げるように尻たぶを摑んで揉捻する。
やんわりと耳殻を食まれ、凹凸を舌でなぞるように舐られた。
「やァ、んっ、斗南、く……!」
「杳、可愛い、全部食いてぇ。お前の全部平らげて、死ぬまで俺のものにしたい」
杳はすっかり茹で上がると、両手を斗南の頬に添えた。
誘われるまま振り向いた顔を引き寄せて唇を奪う。
「あげる」
斗南が瞠目して固まった。毛布がずり落ちて裸体が晒され、電灯を浴びて白めく。
「よ……ぅ」
「全部あげるよ、斗南君に。私も斗南君がいい。貴方じゃなきゃ、イヤ」
斗南は、喜びと戸惑いが綯い交ぜになったような表情を滲ませた。
「今のお前は、俺しか知らねぇから」
杳はムッとして半眼になった。
斗南の唇に噛みついて舌を彼の口内へ押し込むと、青年の腕が力む。
すぐに舌が絡み合い、奥へと引き込まれる。舌の表面をザリザリと舐めたり、ぢゅッぢゅッと吸われたりするうちに震えるような快感が沸き起こる。
「は、ぁ――ンぅ……ッ!」
ビクビクと体が跳ね打ち、斗南に縋りついた。下腹部が痛いくらいに収縮する。
精悍な両腕に巻き締められる。斗南は恍惚と絶頂に悶える杳を見つめ、脱力した彼女を大事そうに抱え直した。
杳はぐったりと斗南に体重を預けた。
眼裏で、まだ光が明滅している。斗南の胸板に圧着されている乳頭部がむず痒くて堪らない。
「潮噴き、我慢出来て偉いな」
いい子、と耳元で囁かれるだけで目眩した。斗南の首に腕を巻きつけ、蕩け切った顔でキスをせがむ。
斗南は唇を触れ合わせつつ苦笑を零した。
「またイッちまうぞ」
「ん、だって……だって、気持ち良いんだもん」
「凄ぇ淫乱な発言」
酷い言われようである。思わず睨むと、何故か斗南は殊更嬉しそうに下瞼を持ち上げた。
「やらしくて、滅茶苦茶そそる。お前、こんなに可愛くてよく今まで処女でいられたな。周りの野郎共の目が節穴で良かった」
「……私、たぶん、そんなに美人じゃないと思うよ?」
「そうか? 杳は昔から可愛かったよ。いい匂いがして、名前呼ばれるだけでドキドキした。今はもっとヤバい。俺に興奮して、もっと可愛くなってエロくなるとかさ……俺、いつかお前に殺されそう」
ちう、と唇を吸われ、杳は真っ赤になって倒れそうになった。
すっかりドロドロに蕩けた陰部を押しつけると、デニムの硬い布地越しに陰茎とこすれ合う。斗南が片眉を持ち上げた。
「よーう?」
「ふ、うぇ……だってぇ、んぅ、斗南君のおちんちんが……恋しい、の」
斗南は一瞬押し黙ると、ボッと勢い良く赤面した。
「おっ……前、な……俺の我慢を無駄にする気かよ」
「ごめんなさ……でも、気持ち良くなると……お腹が寂しくなって、もっともっと欲しくなるの」
半泣きで訴えると、斗南は天を仰いで呻いた。すぐに杳の唇を塞ぎ、絡みついてきた舌に浅く歯を立てる。
「ん、ふっ……!」
ゾクゾクと快感が腰骨を走り、桃尻が小刻みに震える。
浮き上がった拍子に斗南の両手が下へ滑り込み、左右の尻たぶを揉みしだかれた。
「ひゃあン!?」
高く啼くと、キスを疎かにするなとばかりに口内を貪られる。軟口蓋をちゅぷちゅぷと舐られ、舌で硬口蓋の筋を撫でるように往復されると、杳は呆気なく絶頂を駆け上がった。
「は、ぁ、ひ……と、にゃみ、くっ、んぁッ、イッてるよ……イッてるのにぃ!」
絶頂から下りる隙を与えられず喉奥まで犯され、尻たぶを揉みくちゃにされる。
堪える間もなく二度、三度と立て続けに絶頂を味わい、杳の爪先がクッと丸まった。
すかさず斗南の影が落ちていたタオルを拾い、杳の股間に押し込んだ。同時に噴き出した潮と、快楽に緩んだ膀胱から溢れた小水がパイル地に吸い取られていく。
杳は連続絶頂の余韻と失禁したショックに、恥ずかしいやら情けないやらで啜り泣いた。
丁寧に陰部を拭われた後、タオルが引き抜かれる。顔を隠す前に顎を優しく掴まれ、目元を舐められた。
「お前を泣かすの、クセになりそうで困る」
劣情ではちきれそうな声に子宮が打ち震えた。
ひぐ、としゃくり上げると、目尻や頬に何度もキスされる。
「俺に惚れてくれるって言ってたけどさ……お前に好きになってもらえたら、マジで死ぬかも」
「や、やだ……死んじゃ嫌ぁ」
「死なねぇよ。こんな可愛いお前置いて、くたばれる訳ないだろ」
斗南はうっとりと嘆息し、目を伏せて杳の額に口づけた。
わななきっ放しの腰を抱かれ、新しい指痕を残される。斗南の唇が鼻筋を辿って、甘く色づいた女の唇に吸いついた。
杳の体が悦びの予感に緊張する。涙に烟る視界が蜂蜜色に染まり、暗いブランセピアに翳る。
――遠くから、微かな鉦の音が聞こえた。