澄み渡った秋空に舞い散る銀杏の葉は、まるで金砂を振り撒いたようだ。
幻想的な光景に目を奪われていた杳は、斗南がすっかり顔面蒼白になっている事に気付いた。
「斗南君!?」
「……結構血ィ流し過ぎたかも」
「だから言ったのに! しっかりして!」
斗南はぎゅっと杳を抱え込んだ。
「あー……ごめん、このまま落ちる」
「ちょ、え、ひゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
鴉羽色の翼が解け、真っ逆様に落下する。
あっという間に地表が目前に迫り、杳は咄嗟に目を瞑った。
「大丈夫」
斗南が呟いた瞬間、温水のような影の中にドボンッとダイブしていた。
二人を呑み込んだ影は巨大な鴉に転じ、滑空して丘の上の空き地に降り立った。
たちまち鴉が溶け崩れ、杳は呆然と落ち葉の絨毯にへたり込んだ。
傍らに片膝を突いた斗南は、苦痛をやり過ごすように息を吐き出した。
「無事かい、斗南」
ザクザクと落ち葉を踏んで一人の男性が歩み寄ってきた。
五十代半ばだろうか。斗南よりも上背と肩幅のある体躯に、
白髪混じりの鉄黒の癖毛は肩につくかつかないかという長さまで無造作に伸び、気怠げな笑みを浮かべた顔も無精髭に覆われている。
日向ぼっこをする老猫のような垂れ目から覗く瞳は明度の高い榛色で、一目で斗南の親族だと分かった。
「伯父貴」
斗南が安堵したように男性を呼ぶ。
――この人が、斗南君のお
ちらりと杳を一瞥した男性は、斗南の前で膝を折った。
「顔色が悪いね。怪我の程度は?」
「打撲と内臓損傷と……多分、肋骨が何本か折れてる。想定より出血量が多くて、回復速度が追いついてない」
「止血は……うん、上手に出来ているね。後で
斗南は途端に不味いものを口にしたような表情を浮かべた。
「げっ……漢羽
「本家からは他に
「治療なら行弥兄だっていいだろ。本職の医者じゃねぇか」
男性ははんなりと両目を眇めた。
「行弥の専門は小児科だろう? 漢羽だって看護師だし、病葉の薬を誰より上手く扱えるのはあの子だ。漢羽に診てもらった方が回復は早い」
「漢羽兄の口煩さ知ってるくせに……」
「はは、漢羽は真面目で心配性だからね。あの子なりに頑張り屋の従弟が可愛いんだろうさ。最後までお前を一人で異界へ送り込む事に反対していたし」
斗南は影で覆った左脇腹に手を当て、眉間に皺を刻んだ。
「今の病葉衆で、強い毒を持ってて小回りが利く天狗は俺だろ。だから婆ちゃんも伯父貴も俺を斥候に指名したんだ」
男性は苦笑を滲ませて斗南の頭を軽く撫でた。
「漢羽も分かっているさ。お前は期待以上に働いてくれたよ。流石は僕の
斗南はむず痒そうに口を引き結んで俯いた。
――斗南君、可愛い。
微笑ましさを覚えて恋人を見守っていると、「ところで」と男性の視線が杳を射抜いた。
「こちらのお嬢さんは?」
思わず背筋が伸びる。
斗南の手が杳の肩を優しく抱き寄せた。
「四人目の被害者になりかけた一般人……で、俺の彼女」
男性の垂れ目が丸くなった。
「お前、お付き合いしている女性がいたのかい?」
「俺が伯父貴に引き取られた頃、同じ病院に入院してた子だよ。昔の友達で、色々あって結婚を前提に交際する事になった」
「ちょっと待ちなさい。情報量が多くてだな……うん? 同じ病院に入院? ……ああ、成程」
男性は腑に落ちた様子で膝を打った。
「お前の
途端に男性の纏う空気が柔らかくなる。男性は微笑んで一礼した。
「これは失礼しました。僕は斗南の
「つ、都築杳です」
慌てて頭を下げると、保貴は労るように声を掛けた。
「さぞ大変な、恐ろしい目に遭ったでしょう。……貴女だけでも間に合って良かった」
救いの手が間に合わなかった被害者達の無念を思うと胸が軋む。
杳は首を横に振った。
「斗南君が助けてくれたから、私は大丈夫です。初めて出会った時と同じように、体を張って……守ってくれました」
肩を抱く斗南の手に力が籠もる。
保貴はふっと双眸を細めた。
「斗南の影を纏っているという事は、病葉についても理解して頂いている前提で宜しいかな?」
「はい」
恋人と同じ色彩を持つ目を真っ直ぐ見つめて頷くと、保貴は嬉しそうに破顔した。
「でしたら、僕から言う事は何もありません。どうか斗南を宜しくお願いします」
「こ、こちらこそ! お願いします!」
コメツキバッタのようにペコペコしていると、斗南がわざとらしく咳払いをした。
「挨拶はまた改めてしてくれよ。それで伯父貴……大銀杏は?」
ハッと息を呑む。
保貴はひやりとする笑みを口の端に上らせた。立ち上がって膝についた落ち葉を払う。
「お前の毒がよく効いたよ」
斗南がふらつきながら立とうとし、杳は右側から彼の体を支えた。
「ごめん」
「無理しないで」
二人揃って保貴の後方へ目を向けると、銀杏の巨木が地に倒れ伏していた。
眼裏で、黄昏に燃え上がる金色の火柱がちらつく。覚えのある寒心――間違いなく化け銀杏の本体だ。
杳は斗南のパーカーを握り締めた。斗南の右腕が庇うように彼女の身を抱え込む。
大銀杏の太い幹は根元で断ち切られ、ぐずぐずに腐敗して空洞化した内部を晒していた。
木枯らしが落ち葉を巻き上げ、丘の麓まで吹き抜けていく。
天に向かって助けを乞うように伸びた大銀杏の梢から、はらはらと葉が舞い散った。
不意に無常感が込み上げる。
――確かに、終わったのだ。
保貴と同じ黒装束の男性達が大銀杏を取り囲んでいる。恐らく彼らが病葉家の面々だろう。
黒ずくめの集団の中で、群を抜いて背の高い青年が目を引いた。彼だけ鮮やかなオレンジのジャケットとズボンを身に着けているのだ。
頑丈そうな作業服に、左手には――斧?
まるで水晶から削り出したように青く透き通った斧だった。晴天から
青年が軽く腕を振ると、斧はぱしゃんッと
「――斗南!」
こちらに気付いた青年が左手を上げる。
斗南がひらひらと手を振ってみせると、近くにいた黒装束の男性と一言二言交わして駆け寄ってきた。
「良かった、無事で」
「
凌と呼ばれた青年は二十代半ば、百八十センチメートルを優に超える長身の持ち主だった。保貴よりも大柄で、作業服の上からでも筋骨逞しい体つきだと見て取れる。
短く刈り込んだ黒髪、黒曜石のナイフを思わせる切れ長な双眸。肌が抜けるように白く、右頬を走る古い傷痕が余計に目立つ。
「無傷じゃなさそうだな」
斗南の左脇腹に目を留め、凌は眉を顰めた。
「顔色が悪いぞ。漢羽さんを呼ぶか?」
「大丈夫だってば! 漢羽兄の説教の所為で余計に具合悪くなるよ」
「お前なぁ……後でそよぐにもしっかり怒られとけ」
「何でそよぐ
保貴がうんうんと笑顔で頷いている。
「大銀杏を伐り倒す為に
「マジかよ……」
斗南は左手で顔を覆って呻いた。
ふと、凌の視線が杳へ向いた。一つ瞬き、怪訝そうに保貴へ尋ねる。
「保貴さん、彼女は?」
「私もまだ委細は聞いていないのだが、どうやら化け銀杏が三人目の被害者の次に異界へ攫った女性のようだ。被害に遭う前に斗南が助けて、こうして現世へ生還出来たそうだよ」
「なっ……」
保貴はにこにこと項垂れる斗南の頭を撫で回した。
「都築杳さんと言ってね、実は斗南の初恋のお相手で、今回の一件で正式にお付き合いする運びになったらしい。つまり僕の未来の義理の娘だよ」
「は……はぁ?」
驚いて振り向く凌へ、杳はぺこりと頭を下げた。
「杳さん。彼は
「あっ、はい! あの、大体の事は……」
マイペースに凌を紹介する保貴に、戸惑いながらも首肯する。
凌は片手で後頭部を掻くと、眉尻を垂らして苦笑した。
「缺月凌です。俺の嫁さんが斗南と
「初めまして、都築杳です。えっと……おめでとうございます?」
「ありがとう」
お祝いを述べると、凌は照れ臭そうに頬を染めた。
先程三人の間で出ていた『そよぐ』という名前の女性が斗南の従姉なのだろうか。斗南の無茶を心配して怒ってくれるのだから、家族仲は良好のようだ。
斗南が大事にされている事が嬉しくて口元を綻ばせると、むくれた顔の恋人に横目で睨まれた。
「何ニヤニヤしてんだよ」
「に、ニヤニヤなんてしてません! ……斗南君ってお
「山姫の巫女だぞ。上がる訳ねぇだろ」
斗南はぼそりと漏らし、前髪を掻き上げた。
「勿論それだけじゃないけど……そよぐ姉も育った環境が複雑で、ずっと妹だったり一人っ子だったりして『姉ちゃん』に憧れてたんだってさ。『あたしは斗南君のお姉ちゃんなんだからね』って、俺が二十歳超えてもまだ言ってる」
「仲良いんだね」
斗南はそっと息を吐いた。
「俺、いい兄ちゃんにはなれなかったけど、せめていい弟ではいたいんだ」
囁くような吐露に言葉を失う。
杳は考えあぐね、斗南の背中を躊躇いがちに撫でた。
「今度、お義姉さんも紹介してね。私の家族もちゃんと紹介するから」
「……うん」
斗南は儚く笑んだ。
風が立つ度に銀杏の葉が舞い、瞬く度に大銀杏がか細く小さくなっていく。
「あ――……」
杳は瞠目した。
千年を生きた巨木がじわじわと黒ずんで枯れていく。骨を砕くような乾いた音が上がり、枝がもげ、幹に亀裂が走る。
「呆気ないもんだな」
斗南の呟きに、凌が笑った。
「あの分じゃ塵も残さず消えそうだな。片付ける手間が省けた」
「……もしかして、哭女様効果?」
「さあな。まあ、化け銀杏に対してかなりご立腹みたいだったけど」
「リップサービスを頂いてしまったかな」
保貴は首を竦めた。
「しっかりお礼の品を差し上げないと罰が当たる。凌君、今は何がお好みなのか後でそよぐに訊いておいてもらえるかい?」
「いいですよ。
「分かったよ」
養父と義兄のやりとりを見て、斗南は「やっぱ山姫は怖ぇな」と言った。
杳は力が抜けるように笑み崩れた。
秋の青い光と風が悪夢の残滓を吹き飛ばし、掻き消していく。
木枯らしを追いかけて見上げた空は、果てしなく高かった。
*
都築杳。二十二歳。首都圏内の芸術系大学に通う四年生。CGクリエイター志望。
病葉家からの身元調査報告書を捲る手を止め、杳は窓の外に目を遣った。
冬曇りの空の下、すっかり葉を落とした桜の木の枝が寒そうに縮こまっている。
数年前に新しく建て直された総合病院の周囲には桜の木が植えられている。春には病室の窓から見える満開の桜が入院患者を慰めてくれるが、冬枯れの季節には寂しいばかりだ。
昔はどうだっただろうかと記憶を探っても、思い浮かぶものは殆どない。
化け銀杏の媚毒による記憶障害は完治せず、結局杳が思い出せたのは幼少期のごく一部、そして家族の事ぐらいだ。
両親と五歳下の弟。病葉家と縁深い病院(かつて斗南と出会ったあの病院だ)に入院という形で身を寄せている間、斗南や保貴があれこれと手を回して杳の身元を調べてくれた。
十一月に入って間もなく一人暮らしのアパートから忽然と姿を消し、家族から捜索願が出されていたらしい。『記憶喪失で身元不明の女性を病院で保護している』という形で警察に通報を入れ、暫くして家族と再会する事が出来た。
駆けつけた両親と弟に面会した時、はっきりと三人を認識する事が出来て心から安堵した。
――
弟の晄は、子供みたいに顔をくしゃくしゃにして泣いていた。
――姉ちゃん、何言ってんだよ。俺が好きだったのはキメラレッド。キメラブラックは姉ちゃんのお気に入りだろ。
――うん、うん……そうだったね。カラスのブラックよりライオンのレッドの方が格好良いって言ってたもんね……。
――そうだよ。もう、もう……忘れんなよ。
杳の膝に突っ伏して泣き崩れる弟の頭を、「ごめんね」と繰り返しながら撫でる事しか出来なかった。
記憶障害と同じく、媚毒によって変貌してしまった肉体も元に戻らずじまいだった。
化け銀杏の領域である異界で数日過ごし、体内に媚毒が定着してしまったのではないかというのが保貴の見立てだ。斗南の精気で上書きされたお陰で、今以上に悪化する可能性もほぼ皆無だという。
杳は病衣の上から薄い腹を撫でた。
入院直後に検査を行ったが、驚くべき事に妊娠の判定は陰性だった。
あれだけ避妊せず体を重ねたのに身籠っていないなんて、もしや自分は妊娠し辛い体質なのだろうかと逆に不安になってしまった。検査をしてくれた産婦人科の女性医師は「若くて健康で今のところ問題なし。勿論彼氏さんもね」と太鼓判を押しつつ、不用意のセックスは慎むように口を酸っぱくして忠告してきた。
これも保貴の見立てだが――化け銀杏の領域である異界だったから子供を授からなかったのでは? というのだ。
――あの異界は、化け銀杏が攫ってきた女性に自分の子種を孕ませる為の場だからね。化け銀杏以外の雄の子種は不要な存在……だから、化け銀杏の子種以外は実を結ばない法則があったのではないかな。
養父の見解を聞かされた斗南は、肩透かしを食らったような顔を顰めて「面白くねぇ」とぼやいていた。
もう消えてしまった永遠の黄昏の町での出来事を思い返すと、下腹部がずくずくと疼いて仕方ない。
熱の籠もった吐息を漏らし、杳は報告書を閉じると床頭台の上に放った。
現世に帰還して一ヶ月が経とうとしている。
病葉家の計らいで広々とした個室を用意してもらえたお陰で、入院生活は気楽なものだ。基本的に面会は病葉家の関係者か家族に限られているので、特に煩わしい思いもしていない。
実家からは新幹線で数時間の距離にある為、両親や弟は週末になると面会に訪れてくれる。何度か大学の友人という人物から見舞いの申し入れがあったそうだが、全て丁重に断ってもらった。
母から自分の物だというスマートフォンを渡されたが、電源を入れた途端に夥しい通知の山が表示されてうんざりしてしまい、すっかり放置している。そのうち今の番号を解約してもらい、新しい番号を取り直そうかと考え中だ。
報告書を読む限り、記憶を失う前の自分はあまり友人関係に恵まれなかったらしい。
中学校までは平穏に過ごしていたが、進学した普通高校で陰湿ないじめに遭った。一時期不登校に陥り、通信制の高校へ編入し何とか卒業した。
特撮の制作に携わるクリエイターになりたいという夢を抱いて入った大学でも、男女間のいざこざに巻き込まれてしまった。身に覚えがない理由で女子学生間で無視をされたり、一部の男子学生からセクハラやストーキング紛いの行為を受けていたという。
「子供っぽくって要領が悪いと言うか、立ち回りが下手な人間だったのかな……私って」
ぽすりと枕に凭れ掛かって天井を見上げると、病室のドアがノックされた。
「はぁい?」
「……俺だけど」
杳は微笑んで跳ね起きた。
「どうぞ」
ドアの開閉音、スニーカーの靴底がリノリウムの床と擦れ合う音。
ベッド周りを囲うカーテンに人影が浮かぶ。
シャッと音を立ててカーテンが引かれ、黒のライダースジャケットを着た斗南が入って来た。
「斗南君っ」
三日ぶりの恋人の来訪に声が弾む。両手を差し伸べると、斗南が口元を綻ばせて抱擁を受け入れた。
「体調は変わりねぇ?」
「うん」
ライダースジャケットを脱いで見舞い客用のパイプ椅子に引っ掛けると、ベッドの端に座った斗南は膝の上で杳を横抱きにした。
唇を啄まれながら肩や腰を撫でさすられる。唾液に混じる微かなコーヒーの苦味に、杳はキュッと眉根を寄せた。
「ふ……あ……また、撮影現場からバイク飛ばして来たの?」
普段甘党の彼がブラックコーヒーを口にするのは、愛車のバイクで長距離移動をする前の眠気覚ましで飲む時だけ。
斗南は緩く瞬くと、杳の唇を舐めながら笑った。
「うん。漸く撮影が終わったから、明日から休み。暫く毎日顔を出せるよ」
「嬉しい」
素直に伝えれば斗南の眼差しが熱く蕩ける。頬から首筋にかけてキスを落とされ、杳は上擦った声を漏らした。
「こ、今回は何の撮影だったの?」
「うーん? 民放のサスペンスドラマのスタント。犯人役の代わりに、バイクで崖から海に飛び込んできた」
「えっ」
ギョッとして斗南を凝視すると、彼はくすぐったそうな苦笑いを見せた。
「滅茶苦茶冷たかった。冬に海水浴はするもんじゃねぇな」
「け……怪我は?」
「ないよ? 心配なら確かめてみる?」
ぞくりとするほど艶っぽく問われ、思わず唾を飲み下す。
ライダースジャケットの下は、体のラインが明確なチャコールグレーのハイネックニットだった。細身なようでがっちりとした肩や体幹がよく分かってしまう。
斗南の左手が杳の右手を捕らえ、ニットの裾へと誘導する。
紅潮した杳の耳に、ブーッと無粋なバイブ音が届いた。
冷水を浴びせられたように熱が引く。
「杳、スマホ鳴ってるぞ?」
枕元でぶるぶると唸っているスマートフォンを一瞥し、斗南が囁いた。
杳は斗南の胸に身を寄せると、口をへの字に曲げた。
「出なくていいのか?」
「……出たくない。大学の知り合いっていう人。最近この時間帯に必ずかけて来るの」
「へぇ。学生サンは随分暇なんだな」
斗南は低く笑い、スマートフォンを拾い上げた。
通知欄に表示された名前を確かめ、冷ややかに目を眇める。
「ああ……こいつ、お前が行方不明になるまでストーキングしてやがった糞野郎か」
「斗南君、知ってるの?」
「お前に渡した報告書は一通り目を通してある。なあ杳、俺が通話に出てもいいか?」
にっこりと微笑む顔は冷や汗が滲むほど恐ろしい。
杳が答えるよりも早く、斗南が通話ボタンをタップしていた。
「――もしもし?」