ほんのわずか距離を詰め、楓の唇にまたついばむようなキスをする。
楓のまつ毛は微かに揺れ、何度でも受け入れられるような気配を纏う。
身体が前へ倒れそうになるのを支えるように手をついて、空いた手で楓のデコルテに触れ、慎重に輪郭をなぞっていく。
視界のほとんどを占拠するような、大きくて柔らかい膨らみは、指先が触れるだけで沈みこむ。
服の上から分かるその感触は、豊満というよりも経験が多く刻まれた肉体。
腹部や腰回りの柔らかさにも年季があって、いくつもの手の跡を知りながら、それでも今は裕樹だけを受け入れているようだった。
裕樹が服の境目を探していることに気付いたのか、楓は唇を離さずにその指の甲に触れ、正しい場所へと導いた。
見られることに躊躇いのなさ、あるいは信頼、あるいは成熟した余裕か。
その曖昧さがスパイスとなって裕樹の頭の奥で火花が散る。
楓の素肌の温もりが掌に伝わって、シールを剥がすようにゆっくりと服を持ち上げた。
布地が大きな丘を越え、視界に飛び込んできたのは、濃い黒のシアー素材とレースのブラジャー。
その下では、今にも溢れ落ちそうな柔肉が、窮屈そうに押し込められている。
長くて深い谷間には、薄い影が差し、淡く青い血管が浮いて見える。
カラオケで夢中になって触れた時の痕跡で、乳肉の上部がはだけ、肌より濃い色が露出していた。
(やばっ、デカすぎ……それにこの色気……。)
視覚の情報だけで、裕樹は呼吸の仕方を忘れる。
腰が勝手に前へ押し出され、指先が触れる前から、手のひらが痺れるように熱くなる。
そして気づいた時には、もう手が動いていた。
下から掬い上げるように触れると、今にも溢れ落ちそうに形が変わって、柔らかさよりも先に、重さが手を押し返してくる。
「んっ、……っ」
楓から溢れた吐息を逃さぬように、裕樹は唇で塞ぎ、舌をねじ込むように深く絡めた。
裕樹が背中へと手を回し、ブラジャーの金属に手が触れると、楓の身体は小さく震え、浅い息が溢れた。
裕樹に身体を預けていた楓も、それと同時に膨張した裕樹の下腹部の形を指先でなぞる。
初めて触れられたことと、他人の手に反応している自分の硬さを意識した途端、裕樹の背中に熱い電撃が走る。
指でホックを摘み、力任せに引き外すと、僅かな衣擦れの音のみで、窮屈に閉じ込められていた釣鐘形の乳肉が、ばるん、と露わになった。
「楓さん……すごっ……」
楓の肉体は、葵のようなハリや均整もない。
けれど目が離せない魔力が確かに在った。
その瘴気のようなフェロモンで、裕樹は理性より先に、下腹部が反応する。
触れられるために育った肉は、片手で到底収まらないほどの質量。
形は崩れているはずなのに、そこに在るのは劣化という表現は相応しくなく、経験を纏って完成された色欲。
吸い寄せられるように深い谷間に顔を埋め、両手で横から抱え込むように触れる。
「あっ……んっ……」
くすぐったさと甘さが混ざった声を発し、裕樹の脈打つ先端を服の上から撫でる。
「楓さんのおっぱいずっと触っていたい……」
鼻先や頬に触れる柔らかな温もりの中で、蒸発した理性から欲望の言葉を押し出す。
その瞬間、楓が裕樹の頭をそっと撫でる。
「ナツ……って呼んで……。」
「ナツ……?」
顔を谷間に埋めたまま、裕樹は目線だけ上げる。
「本当の名前。奈津子。だからナツ……。名前、呼ばれながら触られるの……好きなの。」
「奈津子……ナツ……。」
裕樹はその名前を確かめるように口にしながら、ナツの柔らかな乳肉を鷲掴みにした。
今まで楓と呼んできた偽りの名前を上書きするように。
「んっ……あ……」
ナツから零れ落ちる嬌声が、先ほどとは違う響きで裕樹の耳を撫でてくる。
名前が明かされた瞬間、二人の間にあった匿名という膜が剥がれ、雰囲気が変わった。
ナツの露出は増えていないのにも関わらず、丸裸になった関係がその色艶をさらに濃くした。
裕樹の息は荒くなる一方で、その訳を理解するのに思考が追いついていない。
楓ではなくナツ──
その事実が身も心も距離を近づけていく。
裕樹はナツの身体を包み込むように抱き寄せた。
「僕は……裕樹。僕の本当の名前。」
裕樹が自身の名前を口にした瞬間、静寂が訪れる。
一度きりのだけだったはずの関係が、ここから先、何度も混ざり合う未来を示すような抱擁。
呼吸で膨らむ裕樹の胸を、ナツの柔らかい身体がすべて受け止めていた。
「裕樹……小説と同じ名前……?」
「そう、裕樹は僕なんだ……。」
ナツも裕樹の名を味わうように、繰り返し口にする。
指先の触れ方も求めるような手の動きから、受け入れる前に形を知ろうとする触れ方に変わる。
その手つきはまるで、裕樹の下腹部を宝物のように崇めるように。
抱擁の余韻のまま唇が重なり、裕樹は両手で右の乳肉を持ち上げるように触れた。
触るたびに形が変わる柔らかさに裕樹の目は奪われた。
変化するその形を目で追っていた時に、谷間の奥に黒い点に目が止まる。
(ホクロ……?)
名前に加えて見つけてしまった、ナツの身体の秘密。
それは始まりに過ぎず、この身体にはまだ知らない秘密がきっと無数にある。
そう思うと、裕樹の中で片栗粉を火にかけたような、どろりとした何かが溶けていく。
(乳首、すごく硬くなってそう……。)
確かめたいと思った時には、すでに裕樹の指先は動いていた。
両手を使って乳肉の先端を中央に押し集め──
その動きは、考えるより先に身体が覚えていたものだった。
指の間で形が変わる感触に、忘れかけていた夜の匂いが混じる。
硬い蕾のコリコリした感触を、舌の表面で弾くようになぞった。
「ああ……上手……っ、気持ちいい、っんんっ!」
快楽に喘ぐ声の端に、震えが混じり始める。
耐えているのか、求めているのか、その境界は曖昧だった。
ナツの息遣いが耳に触れて、裕樹はさらに追い込みたい衝動に駆られた。
置き去りにされていた左の蕾を指先で揺らすように摘み、舌先で軽くなぞる動きから、甘噛みへと変わっていく。
「それっ……ダメッ!」
拒むようにも、縋るようにも聞こえる声。
声の震えが深くなり、限界が近いことが裕樹にもわかった。
抑えきれない快感に耐えるように、ナツは裕樹の後頭部を掴み、髪をくしゃくしゃにしながら激しく身体が痙攣した。
「あっ……イ、ク……ッ!!」
髪が揺れ、痺れた魚のように身体が跳ねた。
痙攣はゆっくりと長く続いて、その度に声にならない声がナツの口から零れる。
息を吸うたび胸がゆっくりと上下し、肩の力が抜けていくのが腕越しに伝わった。
二人の間に言葉はなく、ナツの呼吸だけがゆっくりと落ち着いていく。
呼吸を整えたナツがゆっくりと瞼を開ける。
またしても呆気なく果ててしまったナツの姿を前に、裕樹は興奮を通り越して、言葉を失っていた。
突然手に入れた力を持て余しているような、自分ではない何かになった感覚。
次はどうやってナツに触れようか──
裕樹がそんなことを考えていた矢先、ナツの腕が裕樹をそっと抱き寄せた。
「……んーっ。本当はこのまま最後までしたいのに。よりによって今日できないなんて……ん。」
ナツの声には悔しさが滲んでいて、裕樹の胸元に顔を埋める。
(その理由ってもしかして……。いや、これを口にするのは野暮だ。)
できない理由は、おそらく一つだろうと裕樹はその訳を聞くのをやめた。
ナツは軽く息を吐いて、裕樹の背をポンと叩く。
「最後までするのは出来ないけど……。私に出来る範囲の全部で、裕樹を気持ちよくしてあげる。」
ナツのその言葉には、大人の女の本気の熱が篭っていた。
「横になって。」と指を差して指示をされるままに裕樹はベッドに横たわる。
これから何が起きるのか、裕樹の思考は置き去りのままで、ナツが影を重ねるように覆い被さった。
柔らかい唇が触れて、舌が深く絡んでくる。
裕樹はこれがナツにとっての、気持ちを高める儀式なのだと心で理解し、目を瞑って受け入れた。
絡まる舌がやがて、頬、耳、首筋とそれぞれ温度の違うキスが下りていく。
裾を探る指先が弧を描くように動き、ナツの手の熱は裕樹の腹部に伝わった。
抵抗する隙を与えない滑らかな動きで、裕樹のシャツは捲り上げられ、露わになった胸に、ナツの視線がそっと落ちる。
ナツがふわりと微笑んだ後、舌の柔らかな湿り気が、裕樹の蕾をかすめた。
「あぁ……気持ちいい……。」
裕樹から漏れた本音に満足そうな表情を浮かべながら、右から左の蕾に舌が移動する。
そのまま鳩尾へと、一本の線を描くように降りていき、臍に触れる直前のナツの体温だけで、裕樹の身体は反応するようになっていた。
(この舐められ方……小説で書いた──)
ナツは裕樹が葵にしたことをなぞっていくようで、その続きを思い浮かべる最中、ナツがベルトのバックルに触れていた。
カチャリ。
ブラのホックとは違う、硬くて無機質な音。
ナツがそのままボトムのホックを外し、ゆっくりとジッパーを下ろしていく。
衣服に押し留められていた肉棒が、微かに圧力から解放される。
布越しにナツの指先が触れ、嬉しそうな声で囁いた。
「ここ。もう我慢できなくなってるよ?」
ナツは躊躇いもなく下着の縁に指先をかけ、持ち上げるようにゆっくりと引き下ろした。
外気に触れる感覚と共に、張り詰めた肉棒がぼろん、と露わになった。
ナツは指先でそっと触れ、浮き出た血管をなぞる。
「すっごい。カチカチだね。」
慈しむような声には、驚きや感動も混ざっていて、どこか楽しんでいるように見えた。
「やっぱり若いってすごいのね……。」
裕樹は、ただ触れられているだけなのに、自身の身体を評価されているような気分になる。
若い身体という事実、その硬さも、ナツには豊富に経験があると思うと、心の奥がざわついた。
その心情すらも見透かしているかのように、ナツは微笑んで裕樹の肉棒に顔を近づける。
「あっ……ダメだって……!」
触れられた瞬間に思わず声が漏れる。
「ん…?…どうして?」
「汚いから……そんなところ舐めちゃ──」
裕樹の言葉を待たずして、ナツがそれを遮った。
ハーモニカを吹くような動きに、裕樹は思わず息が詰まった。
ナツを制止しようと伸ばした裕樹の腕は、次第に力を無くしてベッドに落ちる。
やがてナツの唇は、嚢袋から少しずつ登頂するように先端へと動いていく。
「待っ……て、それ、咥えられたら……絶対にいっちゃう……」
ナツは一瞬だけ動きを止め、裕樹と視線を合わせた。
口角の上がった口元は、裕樹を堕落させることに躊躇いなど微塵も感じられない。
「ふーん……?」
ナツはそのまま唇を開き、傘の先から根元までゆっくりと肉棒を包み込んだ。
人肌よりも僅かに高い温度の柔らかさと、絡みつく唾液に、裕樹の感覚は次第に追いつかなくなっていく。
「あっ……、ああっ……!!」
その感覚は、またしてもあの夜と同じ──
止まっても、動き続けても絶頂を免れない感覚。
本能が危険を感じ、腰を引こうとしても仰向けに沈み込んだ身体には、逃げ場などなかった。
カリに触れるナツの舌のくすぐったさと、なるべく耐えなければならないという意識。
ナツを制止しようと力無く落ちた指先は、ベッドのシーツを強く掴んだ。
「ナツっ……!イクっ!イッちゃう……」
今にも溢れ出しそうな感覚に、裕樹の身体は反射的に強張った。
お願いだから離れてくれ──
嘆願するような声をあげても、ナツには届かない。
ぐぽっぐぽっ、と淫靡な音と裕樹の限界の息遣いが重なる。
「本当に出ちゃうっ!!ダメだって!!」
その瞬間、シーツを強く掴む指先をナツが掬い上げるように、指が絡まった。
指先から伝わるナツの体温が、堕落の免罪符となり、全身の緊張がゆっくりと抜けていく。
「あっ……あぁ……」
声にならない声が漏れ出し、裕樹は何度も下半身が跳ねて絶頂した。
いつ終わるのか分からないほどの、強く長い快感は制御不能で、ナツを苦しめていないだろうかという不安が、ふと胸をよぎる。
だがナツは、その不安を気に留める様子もなく、目を瞑ったまま裕樹を受け止めていた。
脈打つように跳ねた腰が、次第に動きを緩めていった。
裕樹の身体は、糸が切れた人形のようにベッドに沈み込む。
ナツは慌てることなく、ゆっくりと口を窄める。
口から零さないように気を配る仕草は、どこまでも落ち着いていた。
裕樹の頭上にあったティッシュを数枚取り出し、ナツは口を開け、白濁液を静かに吐き出す。
ぼんやりとその様子を眺めていた裕樹は、全てを終えたナツと目が合った。
「たくさん出たね。」
ナツは嫌な顔ひとつ見せずに、穏やかに微笑む。
一息つくように肩の力を抜き、ナツは裕樹の隣へと身を滑らせるように横になった。
同じ目線の高さで二人は横たわり、再び視線が重なる。
先程までの妖艶さは影を潜め、落ち着きと柔らかさには母性すら含まれているようだった。
初めて女性に身を委ねたことの満足感と、今さら込み上げてくる、僅かな恥じらい。
その両方が裕樹の中で渦を巻き、それを落ち着かせるようにナツの柔肌に顔を埋めた。
「あら、甘えん坊なのね。」
ナツはそう言って、一定のリズムで裕樹の頭をポンポンと撫でた。