※この作品はR-18です。

柔肌に泥濘んで、僕は裏返る   作:秋野リヒト

15 / 21
15話 快楽のトリガー②

ほんのわずか距離を詰め、楓の唇にまたついばむようなキスをする。

 

楓のまつ毛は微かに揺れ、何度でも受け入れられるような気配を纏う。

 

身体が前へ倒れそうになるのを支えるように手をついて、空いた手で楓のデコルテに触れ、慎重に輪郭をなぞっていく。

 

視界のほとんどを占拠するような、大きくて柔らかい膨らみは、指先が触れるだけで沈みこむ。

 

服の上から分かるその感触は、豊満というよりも経験が多く刻まれた肉体。

 

腹部や腰回りの柔らかさにも年季があって、いくつもの手の跡を知りながら、それでも今は裕樹だけを受け入れているようだった。

 

裕樹が服の境目を探していることに気付いたのか、楓は唇を離さずにその指の甲に触れ、正しい場所へと導いた。

 

見られることに躊躇いのなさ、あるいは信頼、あるいは成熟した余裕か。

 

その曖昧さがスパイスとなって裕樹の頭の奥で火花が散る。

 

楓の素肌の温もりが掌に伝わって、シールを剥がすようにゆっくりと服を持ち上げた。

 

布地が大きな丘を越え、視界に飛び込んできたのは、濃い黒のシアー素材とレースのブラジャー。

 

その下では、今にも溢れ落ちそうな柔肉が、窮屈そうに押し込められている。

 

長くて深い谷間には、薄い影が差し、淡く青い血管が浮いて見える。

 

カラオケで夢中になって触れた時の痕跡で、乳肉の上部がはだけ、肌より濃い色が露出していた。

 

(やばっ、デカすぎ……それにこの色気……。)

 

視覚の情報だけで、裕樹は呼吸の仕方を忘れる。

 

腰が勝手に前へ押し出され、指先が触れる前から、手のひらが痺れるように熱くなる。

 

そして気づいた時には、もう手が動いていた。

 

下から掬い上げるように触れると、今にも溢れ落ちそうに形が変わって、柔らかさよりも先に、重さが手を押し返してくる。

 

「んっ、……っ」

 

楓から溢れた吐息を逃さぬように、裕樹は唇で塞ぎ、舌をねじ込むように深く絡めた。

 

裕樹が背中へと手を回し、ブラジャーの金属に手が触れると、楓の身体は小さく震え、浅い息が溢れた。

 

裕樹に身体を預けていた楓も、それと同時に膨張した裕樹の下腹部の形を指先でなぞる。

 

初めて触れられたことと、他人の手に反応している自分の硬さを意識した途端、裕樹の背中に熱い電撃が走る。

 

指でホックを摘み、力任せに引き外すと、僅かな衣擦れの音のみで、窮屈に閉じ込められていた釣鐘形の乳肉が、ばるん、と露わになった。

 

「楓さん……すごっ……」

 

楓の肉体は、葵のようなハリや均整もない。

 

けれど目が離せない魔力が確かに在った。

 

その瘴気のようなフェロモンで、裕樹は理性より先に、下腹部が反応する。

 

触れられるために育った肉は、片手で到底収まらないほどの質量。

 

形は崩れているはずなのに、そこに在るのは劣化という表現は相応しくなく、経験を纏って完成された色欲。

 

吸い寄せられるように深い谷間に顔を埋め、両手で横から抱え込むように触れる。

 

「あっ……んっ……」

 

くすぐったさと甘さが混ざった声を発し、裕樹の脈打つ先端を服の上から撫でる。

 

「楓さんのおっぱいずっと触っていたい……」

 

鼻先や頬に触れる柔らかな温もりの中で、蒸発した理性から欲望の言葉を押し出す。

 

その瞬間、楓が裕樹の頭をそっと撫でる。

 

「ナツ……って呼んで……。」

 

「ナツ……?」

 

顔を谷間に埋めたまま、裕樹は目線だけ上げる。

 

「本当の名前。奈津子。だからナツ……。名前、呼ばれながら触られるの……好きなの。」

 

「奈津子……ナツ……。」

 

裕樹はその名前を確かめるように口にしながら、ナツの柔らかな乳肉を鷲掴みにした。

 

今まで楓と呼んできた偽りの名前を上書きするように。

 

「んっ……あ……」

 

ナツから零れ落ちる嬌声が、先ほどとは違う響きで裕樹の耳を撫でてくる。

 

名前が明かされた瞬間、二人の間にあった匿名という膜が剥がれ、雰囲気が変わった。

 

ナツの露出は増えていないのにも関わらず、丸裸になった関係がその色艶をさらに濃くした。

 

裕樹の息は荒くなる一方で、その訳を理解するのに思考が追いついていない。

 

楓ではなくナツ──

 

その事実が身も心も距離を近づけていく。

 

裕樹はナツの身体を包み込むように抱き寄せた。

 

「僕は……裕樹。僕の本当の名前。」

 

裕樹が自身の名前を口にした瞬間、静寂が訪れる。

 

一度きりのだけだったはずの関係が、ここから先、何度も混ざり合う未来を示すような抱擁。

 

呼吸で膨らむ裕樹の胸を、ナツの柔らかい身体がすべて受け止めていた。

 

「裕樹……小説と同じ名前……?」

 

「そう、裕樹は僕なんだ……。」

 

ナツも裕樹の名を味わうように、繰り返し口にする。

 

指先の触れ方も求めるような手の動きから、受け入れる前に形を知ろうとする触れ方に変わる。

 

その手つきはまるで、裕樹の下腹部を宝物のように崇めるように。

 

抱擁の余韻のまま唇が重なり、裕樹は両手で右の乳肉を持ち上げるように触れた。

 

触るたびに形が変わる柔らかさに裕樹の目は奪われた。

 

変化するその形を目で追っていた時に、谷間の奥に黒い点に目が止まる。

 

(ホクロ……?)

 

名前に加えて見つけてしまった、ナツの身体の秘密。

 

それは始まりに過ぎず、この身体にはまだ知らない秘密がきっと無数にある。

 

そう思うと、裕樹の中で片栗粉を火にかけたような、どろりとした何かが溶けていく。

 

(乳首、すごく硬くなってそう……。)

 

確かめたいと思った時には、すでに裕樹の指先は動いていた。

 

両手を使って乳肉の先端を中央に押し集め──

 

その動きは、考えるより先に身体が覚えていたものだった。

 

指の間で形が変わる感触に、忘れかけていた夜の匂いが混じる。

 

硬い蕾のコリコリした感触を、舌の表面で弾くようになぞった。

 

「ああ……上手……っ、気持ちいい、っんんっ!」

 

快楽に喘ぐ声の端に、震えが混じり始める。

 

耐えているのか、求めているのか、その境界は曖昧だった。

 

ナツの息遣いが耳に触れて、裕樹はさらに追い込みたい衝動に駆られた。

 

置き去りにされていた左の蕾を指先で揺らすように摘み、舌先で軽くなぞる動きから、甘噛みへと変わっていく。

 

「それっ……ダメッ!」

 

拒むようにも、縋るようにも聞こえる声。

 

声の震えが深くなり、限界が近いことが裕樹にもわかった。

 

抑えきれない快感に耐えるように、ナツは裕樹の後頭部を掴み、髪をくしゃくしゃにしながら激しく身体が痙攣した。

 

「あっ……イ、ク……ッ!!」

 

髪が揺れ、痺れた魚のように身体が跳ねた。

 

痙攣はゆっくりと長く続いて、その度に声にならない声がナツの口から零れる。

 

息を吸うたび胸がゆっくりと上下し、肩の力が抜けていくのが腕越しに伝わった。

 

二人の間に言葉はなく、ナツの呼吸だけがゆっくりと落ち着いていく。

 

呼吸を整えたナツがゆっくりと瞼を開ける。

 

またしても呆気なく果ててしまったナツの姿を前に、裕樹は興奮を通り越して、言葉を失っていた。

 

突然手に入れた力を持て余しているような、自分ではない何かになった感覚。

 

次はどうやってナツに触れようか──

 

裕樹がそんなことを考えていた矢先、ナツの腕が裕樹をそっと抱き寄せた。

 

「……んーっ。本当はこのまま最後までしたいのに。よりによって今日できないなんて……ん。」

 

ナツの声には悔しさが滲んでいて、裕樹の胸元に顔を埋める。

 

(その理由ってもしかして……。いや、これを口にするのは野暮だ。)

 

できない理由は、おそらく一つだろうと裕樹はその訳を聞くのをやめた。

 

ナツは軽く息を吐いて、裕樹の背をポンと叩く。

 

「最後までするのは出来ないけど……。私に出来る範囲の全部で、裕樹を気持ちよくしてあげる。」

 

ナツのその言葉には、大人の女の本気の熱が篭っていた。

 

「横になって。」と指を差して指示をされるままに裕樹はベッドに横たわる。

 

これから何が起きるのか、裕樹の思考は置き去りのままで、ナツが影を重ねるように覆い被さった。

 

柔らかい唇が触れて、舌が深く絡んでくる。

 

裕樹はこれがナツにとっての、気持ちを高める儀式なのだと心で理解し、目を瞑って受け入れた。

 

絡まる舌がやがて、頬、耳、首筋とそれぞれ温度の違うキスが下りていく。

 

裾を探る指先が弧を描くように動き、ナツの手の熱は裕樹の腹部に伝わった。

 

抵抗する隙を与えない滑らかな動きで、裕樹のシャツは捲り上げられ、露わになった胸に、ナツの視線がそっと落ちる。

 

ナツがふわりと微笑んだ後、舌の柔らかな湿り気が、裕樹の蕾をかすめた。

 

「あぁ……気持ちいい……。」

 

裕樹から漏れた本音に満足そうな表情を浮かべながら、右から左の蕾に舌が移動する。

 

そのまま鳩尾へと、一本の線を描くように降りていき、臍に触れる直前のナツの体温だけで、裕樹の身体は反応するようになっていた。

 

(この舐められ方……小説で書いた──)

 

ナツは裕樹が葵にしたことをなぞっていくようで、その続きを思い浮かべる最中、ナツがベルトのバックルに触れていた。

 

カチャリ。

 

ブラのホックとは違う、硬くて無機質な音。

 

ナツがそのままボトムのホックを外し、ゆっくりとジッパーを下ろしていく。

 

衣服に押し留められていた肉棒が、微かに圧力から解放される。

 

布越しにナツの指先が触れ、嬉しそうな声で囁いた。

 

「ここ。もう我慢できなくなってるよ?」

 

ナツは躊躇いもなく下着の縁に指先をかけ、持ち上げるようにゆっくりと引き下ろした。

 

外気に触れる感覚と共に、張り詰めた肉棒がぼろん、と露わになった。

 

ナツは指先でそっと触れ、浮き出た血管をなぞる。

 

「すっごい。カチカチだね。」

 

慈しむような声には、驚きや感動も混ざっていて、どこか楽しんでいるように見えた。

 

「やっぱり若いってすごいのね……。」

 

裕樹は、ただ触れられているだけなのに、自身の身体を評価されているような気分になる。

 

若い身体という事実、その硬さも、ナツには豊富に経験があると思うと、心の奥がざわついた。

 

その心情すらも見透かしているかのように、ナツは微笑んで裕樹の肉棒に顔を近づける。

 

嚢袋(のうたい)にナツの唇が触れて、薄い皮を引っ張るように音を立てて吸い付いた。

 

「あっ……ダメだって……!」

 

触れられた瞬間に思わず声が漏れる。

 

「ん…?…どうして?」

 

「汚いから……そんなところ舐めちゃ──」

 

裕樹の言葉を待たずして、ナツがそれを遮った。

 

ハーモニカを吹くような動きに、裕樹は思わず息が詰まった。

 

ナツを制止しようと伸ばした裕樹の腕は、次第に力を無くしてベッドに落ちる。

 

やがてナツの唇は、嚢袋から少しずつ登頂するように先端へと動いていく。

 

「待っ……て、それ、咥えられたら……絶対にいっちゃう……」

 

ナツは一瞬だけ動きを止め、裕樹と視線を合わせた。

 

口角の上がった口元は、裕樹を堕落させることに躊躇いなど微塵も感じられない。

 

「ふーん……?」

 

ナツはそのまま唇を開き、傘の先から根元までゆっくりと肉棒を包み込んだ。

 

人肌よりも僅かに高い温度の柔らかさと、絡みつく唾液に、裕樹の感覚は次第に追いつかなくなっていく。

 

「あっ……、ああっ……!!」

 

その感覚は、またしてもあの夜と同じ──

 

止まっても、動き続けても絶頂を免れない感覚。

 

本能が危険を感じ、腰を引こうとしても仰向けに沈み込んだ身体には、逃げ場などなかった。

 

カリに触れるナツの舌のくすぐったさと、なるべく耐えなければならないという意識。

 

ナツを制止しようと力無く落ちた指先は、ベッドのシーツを強く掴んだ。

 

「ナツっ……!イクっ!イッちゃう……」

 

今にも溢れ出しそうな感覚に、裕樹の身体は反射的に強張った。

 

お願いだから離れてくれ──

 

嘆願するような声をあげても、ナツには届かない。

 

ぐぽっぐぽっ、と淫靡な音と裕樹の限界の息遣いが重なる。

 

「本当に出ちゃうっ!!ダメだって!!」

 

その瞬間、シーツを強く掴む指先をナツが掬い上げるように、指が絡まった。

 

指先から伝わるナツの体温が、堕落の免罪符となり、全身の緊張がゆっくりと抜けていく。

 

「あっ……あぁ……」

 

声にならない声が漏れ出し、裕樹は何度も下半身が跳ねて絶頂した。

 

いつ終わるのか分からないほどの、強く長い快感は制御不能で、ナツを苦しめていないだろうかという不安が、ふと胸をよぎる。

 

だがナツは、その不安を気に留める様子もなく、目を瞑ったまま裕樹を受け止めていた。

 

脈打つように跳ねた腰が、次第に動きを緩めていった。

 

裕樹の身体は、糸が切れた人形のようにベッドに沈み込む。

 

ナツは慌てることなく、ゆっくりと口を窄める。

 

口から零さないように気を配る仕草は、どこまでも落ち着いていた。

 

裕樹の頭上にあったティッシュを数枚取り出し、ナツは口を開け、白濁液を静かに吐き出す。

 

ぼんやりとその様子を眺めていた裕樹は、全てを終えたナツと目が合った。

 

「たくさん出たね。」

 

ナツは嫌な顔ひとつ見せずに、穏やかに微笑む。

 

一息つくように肩の力を抜き、ナツは裕樹の隣へと身を滑らせるように横になった。

 

同じ目線の高さで二人は横たわり、再び視線が重なる。

 

先程までの妖艶さは影を潜め、落ち着きと柔らかさには母性すら含まれているようだった。

 

初めて女性に身を委ねたことの満足感と、今さら込み上げてくる、僅かな恥じらい。

 

その両方が裕樹の中で渦を巻き、それを落ち着かせるようにナツの柔肌に顔を埋めた。

 

「あら、甘えん坊なのね。」

 

ナツはそう言って、一定のリズムで裕樹の頭をポンポンと撫でた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。