※この作品はR-18です。

柔肌に泥濘んで、僕は裏返る   作:秋野リヒト

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16話 抗えない誘い

ホテルの出来事からしばらく経った日のこと。

 

金曜日に仕事を終えた裕樹は、新作のゲームを家電量販店で購入し、帰宅しようとしていた。

 

週末は家に籠って遊び尽くそうと、あれこれと思考を巡らす最中、携帯電話のバイブが震える。

 

スマートフォンに映るナツの名前。

 

前回のカラオケとホテルでの出来事が頭の中でフラッシュバックする。

 

裕樹にとって、あの日の出来事は毒を食らったような刺激の強さがあった。

 

まさか自分が40代の女性と関係を持つとは、夢にも思っていなかった。

 

だが、それ以上に胸に焼き付いたのは、裕樹が圧されるほどのナツの剥き出しの本能。

 

成熟した包容力に懐柔され、居心地の良さすらあった堕落と後悔。

 

ナツという女性に対して、男としての尊厳を保たなければと思いつつ、容易く崩壊する理性。

 

身を任せてしまうとどうなるのだろうと考えると、胸の奥がぶるっと震えた。

 

いろんな想いが頭を駆け巡っているうちに、着信は鳴り止んだ。

 

タイミングが悪かった。

 

一週間の仕事で疲れていて、明日はどこにも行かないと週初めから決めていた。

 

ナツは自分と二回り近い年齢差がある。

 

葵のような同世代の女性がいるにも関わらず、わざわざ深入りするような関係を築く必要はない。

 

だが、どれだけ行かない理由を頭の中で並べても、あの焼きつくような出来事に、裕樹の心は引っ張られてしまう。

 

そして、気づいた時にはナツの不在着信の表示をタップして、折り返しの電話をかけていた。

 

このまま出ないでくれれば、この葛藤は杞憂に終わる。

 

そんな僅かな願望とは裏腹に、ナツは2コールで電話に出た。

 

「あ、もしもし?忙しかった?」

 

「ううん、今仕事終わったところ。どうしたの…?」

 

「あら、お疲れ様。今日予定あるかな?なかったらこれから五反田駅で会わない?」

 

案の定誘いの電話だった。

 

前回のホテルでは、お互い終電があるので解散し、その際に連絡先を交換した。

 

別れ際に『今度会う時は、最後までしようね。また連絡する。』と言い残して。

 

これがあの時の約束を果たす電話だと、裕樹は理解した。

 

──今日は予定があって。

 

裕樹はゲームの入った手提袋に視線を落とし、目を瞑って考える。

 

あの日の続き──

 

行きたくないが、行きたい。

 

社会人になって、誰も甘やかしてはくれないし、簡単に甘えることもできない。

 

だが、ナツの前だけは違う。

 

断るために理由を積み重ねるほど、裕樹の心はクローブヒッチの結び目のように、きつく、逃げ場を失っていく。

 

いつの間にかナツの誘いに抗えなくなり、気付けば五反田へ向かう電車に乗っていた。

 

電車の窓に流れていく景色を見ながら、裕樹は6年前の公園の夜のことを思い出していた。

 

プレーパークに行く前の待ち合わせの際、葵は何も口にはしなかった。

 

重たい足取りで、指定した待ち合わせ場所に来て、裕樹とあの小屋へ入って行った。

 

ナツが言うように、拒む理由がなかったのだとしたら──

 

ココを助けたお礼や、断りづらい状態というのを口実に、抗えない誘いに乗ったのなら。

 

(あの時の葵も…こんな感情だったのか?)

 

そんなことを思いながら、五反田駅に降り立ち、ナツが待つ場所へと向かう。

 

多くの人が行き交う駅前を通り過ぎ、線路沿いに歩いて行く。

 

人の通りが少なくなっていき、青いコンビニの下にナツは立っていた。

 

「こんばんは。急に呼び出しちゃったのに、きてくれて嬉しい。」

 

ナツと挨拶を交わした瞬間、裕樹の頭の中であの日の出来事がフラッシュバックした。

 

何日も日が空いたはずなのに、昨日の出来事のように、ぐいっと首根っこを掴まれて引き戻される感覚があった。

 

ナツの服装は、肌の露出もなければ、身体の輪郭がはっきりするようなものでもなかった。

 

ただ、その中身を知っている裕樹は、見えないはずの身体を、頭の中でいとも簡単になぞってしまう。

 

外で会っただけのはずなのに、それだけで身体が反応し、僅かに前のめりになった。

 

そのままコンビニで買い物をし、ナツが指定したホテルへと入る。

 

前回のお城のようなホテルとは異なる見た目で、綺麗なタワーマンションのような佇まいだった。

 

エントランスに入ってから、部屋に入るまでの記憶は、所々曖昧で──

 

確かなことは、ナツの気分を昂める儀式に、裕樹は抗う暇すら与えられなかった。

 

乱雑に脱ぎ捨てられた衣服の先に、脱衣所で湿った音が絡み合っていた。

 

鏡に映る二人は、既に下着姿になっている。

 

ナツの指先は裕樹の下腹部の形をなぞるように触れていた。

 

柔らかい舌先を絡め合いながら、ナツの背中に手を回して、ブラのホックを外す。

 

舌先が解けて、ナツは視線を外さぬまま、屈んで裕樹のボクサーパンツをゆっくりと下ろしていく。

 

その表情は、裕樹がブラジャーをスムーズに外せるようになったことを、感心しているように見えた。

 

「キスしてるだけなのに、もうこんなに?」

 

「ナツの身体がエロいせいだよ…」

 

ナツはにこりと微笑んで、優しく裕樹の手を取ってバスルームへと入っていく。

 

「おっぱい洗ってくれる?」

 

ナツがそう言って、裕樹は備え付けのボディソープを二回プッシュする。

 

泡立てた手で、ナツの乳肉を下から持ち上げるように触れると、ずしっとした重量感が指先に伝わった。

 

楕円を描くように泡を広げると、柔肌がシャワーの水滴と混ざり、表面が淡く反射する。

 

指の腹で真ん中の突起を押すと、ナツの声が漏れ出て、身体がビクンと跳ねる。

 

「あんっ…触り方やらしっ…」

 

味わいながら、記憶に焼き付けるように撫で回すと、ナツは裕樹の腕を抱え込む。

 

「おっぱいで洗ってあげる…。」

 

手首を掴まれ、ナツの胸は形を変えながら、裕樹の右腕を深い谷間に挟み込む。

 

ボディソープが潤滑油となって、ナツの胸が包み込むように往復する。

 

ナツの先端の蕾は硬くなっていて、腕に擦り付けられる感覚がコリコリと硬く心地よい。

 

硬い芯に触れるたびに、ナツは僅かに息が漏れる。

 

手のひらを掴まれて、乳肉を「触って?」とナツが誘う。

 

手に収まりきらない膨らみは、強く押すと、ナツの奥へと沈み込んだ。

 

普段、身体に手を触れるのとは、明らかに違った感覚だった。

 

濡れた肌と泡を含んだ柔らかさと弾力。

 

「ね……こっちにも泡をつけて?」

 

そう言われて手を取られた瞬間、どこに誘われるのか裕樹は理解した。

 

前回は触れられなかった場所へ、脱力した手が向かっていくのはスローモーションのようにゆっくりだった。

 

柔らかくて人肌よりも僅かに熱を帯びていて、水に濡れているわけではない──

 

柘榴に指を触れたような、その感触に裕樹は思わず息を呑む。

 

指先にまとわりついて、中指がヒダに包まれて逃げ場を失った。

 

「んっ…、あっ」

 

ナツは瞳を閉じて、噛み締めるような表情を浮かべていて、指先に微かな震えが伝わってくる。

 

裕樹は呼吸することを忘れ、ナツの反応に神経を集中させているようだった。

 

泡の感触とは異なる、過剰な柔らかさが、意思を持つようひとりでに動く。

 

まるで、ナツの形を確かめるように。

 

好奇心、あるいは悪戯心か──

 

(指入れたら、どんな反応するんだろ…)

 

指の関節を少しだけ内側に曲げると、いとも容易くナツの中に吸い込まれてしまう。

 

「あんっ…だめ…。」

 

その反応に気を取られた瞬間、ナツに短く遮られ、手首を取られる。

 

裕樹の腕を制するように、一度引き寄せた。

 

そのまま身体を預けるようにして、ナツは裕樹の腕に跨る。

 

濡れた肌の重みが腕にかかり、ナツはその体勢のまま、肘から手首、指先へと腰を滑らせていった。

 

洗うだけの動作の中に、確かな誘惑が混じっている。

 

身体を洗われる側のはずなのに──

 

ナツは裕樹の身体を使って愉しんでいるように見えて、行き来する腰遣いに、どちらが触れているのか境界がなくなっていく。

 

裕樹の腕は、柔らかさに包まれながら、好き勝手に行き来され、どちらが触れているのかが曖昧になっていった。

 

ひととおり腕をなぞり終えると、ナツはゆっくりと身体を離す。

 

次の瞬間、背後に回り込む気配がして、柔らかな重みが背中にのしかかった。

 

包まれるように抱き寄せられ、指先は裕樹の蕾を掠める。

 

やがて、血の巡りを否応なく意識させる場所へと向かっていくのを感じ、裕樹は自然に背筋が伸びる。

 

「はぁっ…んっ…」

 

凝り固まった肉棒に柔らかな手が触れ、裕樹は思わず声を漏らす。

 

「どうしたの…?」

 

ナツの唇が裕樹の耳に触れ、囁くように問いかけられる。

 

足元が小刻みに揺れて、身体の重心が定まらない。

 

「子鹿みたいに震えて、腰引いちゃってるじゃない…。」

 

ナツの指先から、無意識に逃れようと身体が反応してしまう。

 

裕樹は慎重に息を整えて、少しずつ腰を戻そうとする。

 

(まだイキたくない…今日はエッチするのに…)

 

耐えようと決心した束の間、次の瞬間にはまた無意識に身体が逃げていることに、裕樹は気付く。

 

「ほら、また。」

 

指先を窄めるような動きで、ナツは裕樹の傘に触れた。

 

裕樹自身が気付かないほどの、繊細な動きにも関わらず、ナツは見逃さなかった。

 

「椅子に浅く腰掛けて。足、いっぱい広げて?」

 

裕樹は息を吐くことを気付かれないよう、ゆっくりと吐いた。

 

足を開きながら体勢を整え、下腹部を突き出すように腰を下ろす。

 

ナツが正面に回り込んで、ゆっくりと距離を詰めてきた。

 

その表情は微笑みを湛えながらも、瞳の奥には獲物を目の前にした獣のような鋭さが潜んでいる。

 

裕樹に唇を押し当てるようにキスをして、続けて正面から大きな乳肉を押し付けられた。

 

二人の蕾が擦れ合い、コリコリとした感触に、お互いが思わず息を漏らす。

 

「…っ、こうやって擦り合わせるの気持ち良いよね。」

 

「……これ、っ…気持ち……」

 

擦り合わせたナツの蕾が、そのまま下へと移っていくのを、裕樹は思考を置き去りにされたような虚ろさで見ていることしかできなかった。

 

ナツは裕樹の広げた太ももに唇を寄せ、体温を確かめるように軽く触れてから、指先でなぞる。

 

太ももの輪郭を唇でなぞりながら、嚢袋を吸い取るようにして、ナツは裕樹の脚を撫でる。

 

「あっ…急に…」

 

咄嗟に浮かぶ戸惑いの表情に、ナツが気付く。

 

「な~に?じっと見て、どうしたの?」

 

ナツはくすりと笑った。

 

「…その…」

 

言葉を探す裕樹を待つように、ナツは動きを止めた。

 

「何して欲しいか、言ってごらん?」

 

「この前みたいに…舐めて欲しいです…」

 

ナツは裕樹の答えを聞くと、ふふっと笑う。

 

裕樹を見上げたまま、咥えようと大きく口を開ける。

 

けれど、触れようとはせずに、裕樹の反応を楽しむようにそのまま視線を絡めてくる。

 

そして、ナツは裕樹の希望をあっさり無視して、柔らかい乳肉で裕樹の肉棒を覆い隠してしまった。

 

「だーめ。今はこっち。」

 

逃げ場を塞ぐように、ナツは自身の胸を腕で抱え込み、しっかりとロックする。

 

(やばっ…ここでパイズリ…。)

 

柔らかく重い感触に、ボディソープと水滴、そして滲み出たカウパーが混ざり合って、ぐちゅ、ぐちゅ、と音を立てて擦れ合った。

 

「あっ…こんなに…気持ちいいのダメ…」

 

裕樹は堪えるように自身の太ももを押さえる。

 

ナツの胸の中で出し入れされる様子と、挑発的な視線に、裕樹は限界を感じていた。

 

これ以上は耐えられないと、裕樹は視界を遮った。

 

その仕草は、かえってナツの目には欲を煽るきっかけになったようだった。

 

「すっごくいやらしい顔。我慢できる~?」

 

「こんなの…無理っ…」

 

次の瞬間、ナツの動きがふっと途切れ、水滴の音だけが浴室に残る。

 

裕樹は息を詰めたまま、その静けさに身を委ねた。

 

(……止まった?)

 

張り詰めていた肩の力が、僅かに抜けたが、下腹の奥にはまだ踏ん張るような緊張が残っていた。

 

「これでどう?」

 

そう言われて初めて、裕樹は自分がどれほど必死だったのかを自覚する。

 

大丈夫だ、と言い聞かせるように、ゆっくりと息を吐いた。

 

(危なかった……)

 

そう、思った瞬間だった。

 

動きが止まっていたはずなのに──

 

挟まれたままの圧の中から、身体の奥を突き上げるような感覚が走る。

 

裕樹の意思とは無関係に、反射のように全身が強張った。

 

「……あ」

 

小さく、楽しげな笑い。

 

「今…油断しちゃったでしょ。」

 

「ごめん…っ!出ちゃ…あっ…」

 

ナツの身体を汚してしまう──

 

裕樹はその罪悪感から、腰を僅かに引こうとする。

 

だが、ナツに阻まれ、柔肌の中で暴れるように吐き出す精液を、裕樹は止められなかった。

 

「すごい…。ドクドクしながら出てる。」

 

ナツの柔肌がすべてを覆っていて、何も確かめることができず、裕樹は早く止まることを願うしかなかった。

 

どれほど震えや脈動が伝わっても、ナツは包み込むような乳肉で、迸るエキスを溢さないようにじっとしているように見えた。

 

やがて裕樹がすべてを出し切って、包み込む力が解かれ、ナツの柔らかな温もりが離れていく。

 

床にペタッと座り込んだナツは、自身の胸元を見下ろした。

 

そこには、深い谷間の奥にドロッとこびりついた白濁液が、僅かに糸を引いて身体の真ん中を伝っていく。

 

「熱くて、すごい匂い。ドロドロしてて…なんだか…マーキングされちゃったみたい。」

 

ナツはそう言って目を細め、鋭く微笑んだ。

 

「ごめん、我慢できなくて…汚しちゃって。」

 

裕樹はナツの胸元を見られず、視線を落とす。

 

「汚いなんて、思ってないよ。裕樹が……私で興奮した証だもの。」

 

ナツはそう言って、腹部に伝った白濁液を、人差し指で触れ、その感触を確かめているようだった。

 

「今度は私の番。キスマーク、付けてもいい?」

 

ナツは裕樹の太ももの付け根に指を触れながら、上目遣いで視線を合わせる。

 

「いいけど……、キスマークってどうやって付けるの?」

 

裕樹の問いに、ナツは僅かに目を細め、その視線のまま、ゆっくりと太ももに顔を近づける。

 

近づくにつれて、ナツの息遣いと体温を感じて、少しだけ身体に力がこもる。

 

これから何が始まるのか分からない、その曖昧さが胸をざわつかせる。

 

柔らかな唇が最初に触れて、くすぐったさとじわっと広がる熱が同時に伝わってくる。

 

舐められているような、吸われているような曖昧な気持ち良さに、裕樹は思わず息が漏れた。

 

やがてナツが顔を上げると、赤く滲んだ楕円形の痣が残っていた。

 

「こうやって残すの。」

 

赤くなったその場所は、僅かに熱を帯びていて、裕樹は自身の身体に刻まれたのだと、はっきり感じ取った。

 

熱が引いても、焼印のようにナツの体温を思い出せるような──

 

(これがキスマーク…。前にもどこかで…?)

 

そんなことを考えていると、ナツに手を引かれ、シャワーで身体を洗い直すことになった。

 

シャワーの下で身体を洗おうと、手のひらにボディソープを付けた時だった。

 

裕樹の指先が痣に触れた刹那、ナツの唇の柔らかさや、先程までの熱が、皮膚の奥からにじみ出るように蘇った。

 

記憶ではなく、リアルな感触。

 

頭で思い出すよりも先に、身体が勝手に反応してしまう。

 

六年前、背中に残された葵の爪痕を、鏡で見た時も同じだった。

 

あの夜の息遣いも、嬌声も、温もりも、緊張も、爪痕が消えるまで鮮明に呼び戻されてしまう。

 

(キスマークも同じだ…。)

 

この痣も残り続ける限り、その瞬間、その出来事を、リフレインさせる。

 

裕樹にとってはどの記憶も、薄れていくのが名残惜しいほど生々しくて、身体の奥にしまっておきたいものだった。

 

爪痕や痣のことを考えているうちに、シャワーは気づけば終わっていた。

 

ナツの声も、水音もそこにあったはずなのに、その記憶は水彩絵の具のようにぼやけている。

 

気がつくと二人は、ベッドの前で抱き合っていた。

 

シャワーの名残のせいか、ナツの肌はまだしっとりと温かい。

 

その柔らかな感触を確かめるように、裕樹は頬でそっと肌を撫でた。

 

ナツの身体からボディソープの良い匂いがして、さっきの出来事が無かったことのように、身体は"きれい"になっていた。

 

消えてしまった自分の痕跡を、ナツと同じようにキスマークで残せば良いのだろうか──

 

そんなことを考えていると、ナツが口を開く。

 

「裕樹は、復活するのにちょっと時間がかかりそうね。」

 

ナツは一瞬だけ、裕樹の下半身に視線を落とす。

 

その眼差しは確かめるというより、楽しむような色を帯びていた。

 

「あはは…。多分そのうち復活すると思う。」

 

裕樹は申し訳なさそうに笑って、その視線に応える。

 

ナツは微笑みながら、裕樹から身体を離した。

 

取り残されるような気がして、裕樹は思わずナツの手を掴む。

 

ナツは名残惜しそうにその手を見つめ、最後まで指先を触れ合わせたまま、後退りしてベッドに向かう。

 

結び目が解けたように指が離れて、ナツはベッドの縁に手をついて腰を下ろした。

 

見上げてくる瞳の奥には、「そこで待っていて」と宥めるような視線が宿っている気がして、裕樹はその場に立ち尽くしたまま、静かにナツを見つめる。

 

ナツの視線は裕樹をその場所に縫い留めているようで、そのままベッドに身体を預け、仰向けになった。

 

何をしようとしているかは、今の仕草からは窺い知れない。

 

それでも裕樹の心臓の鼓動は大きくなり、無意識に唾をごくりと飲み込む。

 

ナツは一度だけ、どこか遠くを見つめるように視線をぼやかし、ゆっくりと瞬きをした。

 

力が抜け、シーツの擦れる音とともに、脚が大きく開かれていく。

 

左手の指先が唇に運ばれ、舌で関節に唾液を含ませる。

 

孔雀が羽を広げるようなその仕草に、裕樹は瞬きすることを忘れて、瞳が乾いてひりつくのを感じた。

 

「ちゃんと見ててね……。」

 

いつもよりワントーン低い、甘い声が静かに響き渡る。

 

それは命令と言うよりも、許可に近かった。

 

湿った指先は、ゆっくりと身体の真ん中へと移っていく。

 

それは、触れるというより、そこに在ることを確かめるような動きだった。

 

(これって…)

 

裕樹は、伸ばしかけた手を引っ込める。

 

所在なさそうな右手が、ナツの身体のラインをなぞるように乳肉に触れた。

 

弧を描くように何度も撫でるたび、腰が小さく震えて、浮き上がる。

 

エンジンが温まるように、ナツの瞳にも熱が宿っていく。

 

裕樹を見つめる眼差しの中で、眉を寄せ、快楽に歪む表情が次第に色濃くなっていった。

 

「はっ……ぁ……」

 

裕樹はその様子をただ立ち尽くして眺めるだけなのに、息が詰まる。

 

この部屋の酸素が薄くなったかのような緊張感。

 

赤裸々にその姿を晒すナツを前に、胸の奥が押しつぶされるような感覚と、目を逸らせない欲望がないまぜになる。

 

「ナツ……」

 

ジリジリと視線を押し除けるように、裕樹は一歩、前へ出た。

 

快楽に歪むナツの表情に、いつもの笑みが混ざり込む。

 

「裕樹に……んっ……私の身体を……あげる…っ。好きなことして……あんっ…」

 

喘ぎに途切れ、舌足らずになった声。

 

視界いっぱいに、仰向けになったナツの身体が広がる。

 

乳肉は支えを失い、形を保つことなく崩れていた。

 

その無防備さに目を逸らせず、下腹部に再び熱が帯びてくるのを、裕樹ははっきりと感じていた。

 

裕樹はナツの顔の前で、無意識に肉棒を誇示するように前へ突き出す。

 

それに応えるように、ナツの右腕が腰へと伸びてきた。

 

誘う仕草に引き寄せられて、嚢袋に鼻筋が当たる。

 

「舐めて」と言葉にするよりも先に、半ば押し付けるように、先端がナツの唇に触れる。

 

それはいとも容易くナツの口の中へと運ばれ、裕樹の身体に電撃が走り、僅かにのけぞる。

 

(ああ……こんな"モノ"みたいに…。)

 

そこに、愛と呼べるものは見当たらない。

 

肉人形に欲望をぶつけているだけのようなこの状況は、本来の自分の美学からは、明らかに逸脱している。

 

それでも──

 

ナツの身体を乱暴に扱っているという実感が、理性よりも先に、興奮となって身体を支配していく。

 

「んっ…うぅっ…」

 

ナツは裕樹の肉棒を咥えたまま、抑えきれない喘ぎ声を、喉の奥から漏らしていた。

 

その声で「優しくしなければ」と一瞬だけ理性が顔を出す。

 

だが次の瞬間には、乳肉を雑に鷲掴みにするその手を、止めることができなかった。

 

女の肉体を、自分が所有しているかのような錯覚。

 

ナツの身体は自分だけのモノ──

 

そんな考えが、先ほどの記憶を鮮明に呼び起こす。

 

精液に塗れたナツの身体。

 

それを、ナツに植え付けたい。

 

そう思った裕樹は、ナツに咥えさせたまま、前屈みになる。

 

乳肉を両手で寄せ集め、唇をつけようとした瞬間、動きが止まる。

 

どうすればいいのか、分からない。

 

(多分、吸うはず…)

 

けれど、どのくらいの力加減なのか、どこまでやればいいのかは、曖昧なままだった。

 

ナツはさっきどんなふうに──

 

考えている時間が、やけに長く感じられる。

 

裕樹はやがて、やり方を探すことを諦め、唇を肌に当てた。

 

そしてそのまま、ナツの柔肌の正面を、強く吸いあげた。

 

「んんっ……、あっ」

 

ナツの左腕が小刻みに動いて、脚とシーツが擦れる音が一層大きくなった。

 

裕樹はゆっくりと唇を離すと、そこは淡く爛れているだけだった。

 

──違う。

 

ナツの唇が残したものとは、何かが決定的に足りない。

 

同じように、くっきりと形が刻まれるまで。

 

そう思った瞬間、裕樹の手に余計な力がこもる。

 

乳肉は何度も形を変えて、崩れ、揉みしだかれる。

 

そのたびに甘い声と湿った音が重なっていった。

 

薄く赤い筋や、ぼやけて滲むような痕が、ナツの胸に一つずつ、刻まれていく。

 

時折、ナツの巧妙な舌遣いに感覚が引き戻され、裕樹は腰が引けてしまう。

 

前のめりになりながらも、吸い上げようとしたその拍子に、肉棒はナツの口から外れてしまった。

 

ナツの手が、離れてしまった裕樹の腰に触れる。

 

「たくさん付けたかったのね…。見えるところだったら…危なかった…。」

 

火照りを隠しきれないまま、ナツはどこか楽しそうに視線を絡める。

 

ナツと目が合って、裕樹は現実に引き戻された。

 

少し視線を落とすと、ベッドに身を預けたナツが、胸元を無防備に晒している。

 

気がつけば、その白い肌には紅斑がいくつも散らばっていた。

 

太ももに付けられたものと見比べると、形の揃わない痕が、いくつも刻まれている。

 

「あんまり上手にできなかった…」

 

そう呟いた裕樹の視線の先で、ナツは身体を起こし、自身の乳房を持ち上げて付けられた痣を確かめていた。

 

紅斑を指先でなぞり、無言で物思いに耽っているようだった。

 

その沈黙が、裕樹の胸を静かに締め付ける。

 

「…あぁ」

 

ナツは小さく息を吐き、満足げに視線だけで裕樹を捉えたまま口元を緩めた。

 

「こんなに赤くなってる。裕樹って…見かけによらず、結構大胆なのね。」

 

からかうようでいて、拒む気配はない。

 

むしろ、その痣を"受け取った"目をしていた。

 

その表情を見て、裕樹はようやく胸の奥に残っていた感情の正体に気づく。

 

それは、達成感に似た、歪な幸福だった。

 

ナツはそのまま視線を逸らさず、ベッドの端へと身体を寄せる。

 

シーツに手をつき、ほんの少し顎を上げて、静かに指先で中央を示した。

 

「こっちにきて…。」

 

命令ではないが、ここから引き返すという選択肢も、残されていなかった。

 

シーツの皺が、先ほどまでナツがいたことを記憶しているようで、そこへ重なるように裕樹も仰向けに身を預ける。

 

まだ残るナツの体温が、シーツ越しにじんわりと伝わってきて、そこに身体を沈めるだけで、嫌でも身体が反応してしまう。

 

ナツは視線を逸らさないまま、ゆっくりと裕樹の上へと重なってくる。

 

一つになる距離まで身体を寄せて、肉棒に手が触れ、そのまま受け入れそうになった瞬間──

 

裕樹の動きが止まる。

 

「あ……付けるから少し待って…。」

 

そう言いながら、視線を外して枕元に手を伸ばした。

 

その様子を、止めるでも、急かすでもなく、成り行きを面白がるようにナツは見ていた。

 

「ちゃんとするんだ…。」

 

咎める気配はなく、独り言のように零れたその声に、裕樹の指先が一瞬だけ迷う。

 

その隙を待っていたかのように、ナツは身体を前に寄せ、唇を重ねる。

 

深くて長い接吻は、確かめるようでいて、時間を与えるつもりはないと、告げているようだった。

 

「中に出しちゃっても良いのよ……。」

 

耳元で囁く声は軽やかで、けれども冗談には聞こえない熱を帯びていた。

 

裕樹には、それが本気なのか確かめる余裕もなく、息を整える。

 

その静けさを合図に、ナツは裕樹の上で位置を定めるように身体を預け、ゆっくりと腰を下ろしていく。

 

「あっ……すっごく…硬い…」

 

生暖かい肉壁に押し包まれていく感覚が、裕樹の身体を内側から満たしていった。

 

心地良い重みが加わって、しっとりとした感触に飲み込まれていく。

 

(ああ…久々の感覚……温かい…)

 

その刹那、ナツの愉しむような表情が、はっきりと快楽に歪んでいく。

 

根元まで受け入れたナツは、そのまま裕樹の胸に倒れ込んだ。

 

背中に回した腕に力が入り、指の痕が残るほど強く抱き寄せる。

 

舌も深く絡まり、二人の身体は楕円の形に重なっていた。

 

ナツはその間も、小刻みに腰を前後に揺らしていた。

 

ナツが身体を起こすと、裕樹の視界には、痣だらけになった胸元が上から覆いかぶさるように映った。

 

「……すご。エロい…。」

 

あちこちに刻まれた痣を確かめるように、裕樹は下からそっと乳肉を支えた。

 

その言葉に、ナツは静かに笑う。

 

瞼は重たそうに伏せられ、視線はとろりと揺れている。

 

裕樹の上に身を預けるその動きには、力みはなく、余裕だけがあった。

 

「気持ちっ…い…」

 

惜しげもなく身体を揺らし、そのたびに肌が触れ合う音が重なる。

 

ナツが主導する形で始まったものの、裕樹は思わず腰を突き上げるように動かしていた。

 

「あ゛っ…!おっ……」

 

裕樹は揺れる腰肉に手を触れ、ナツを引き寄せるように指先に力が入る。

 

奥に押しつけたまま動きを止めると、ナツは思わず、自分の頬に手を当てて口を開いた。

 

「今の……」

 

唇の端を舌先でなぞり、ナツは細長く息を吐く。

 

「腰…砕けそうになった……。」

 

裕樹は氷と炎が同居するような視線を浴びて、部屋全体の空気が切り替わったのを感じた。

 

次の瞬間、ナツは裕樹に挑むように、ゆっくりと腰を動かし始めた。

 

「ここから先は…あんまり綺麗に乱れることはできないかも…。」

 

ナツは腰を支える裕樹の手を取って、指先を絡めた。

 

先端は奥で行き場を失い、擦れたまま──

 

受け止めざるを得なかった。

 

(やばっ…それエロすぎ…)

 

「ああ…これ…」

 

ナツは唇を噛みしめ、眉をわずかに寄せた。

 

「久々に…きちゃうかも…。」

 

そのまま腰を震わせ、脚を大きく開いたまま、ゆっくりと低く落としていく。

 

裕樹の肉棒が、下へ引き込まれるように締め付けられた。

 

ナツは身体を前に倒し、裕樹の胸に手をついて、その豊かな重みを預ける。

 

「う…はぁ…これやばいって…」

 

裕樹は、今のナツが経験も、余裕も、そのすべてにおいて何枚も上手であることを、身体で理解させられていた。

 

ぐちゅぐちゅ、と湿った粘膜の摩擦音が、静かなベッドルームにこだまする。

 

容赦ないナツの腰遣いは、もはや快感の域を超えた剥き出しの衝動だった。

 

先ほどまでナツの肉体を蹂躙して、消費していたはずの裕樹が──

 

皮肉にも鏡合わせのように、自身が快楽の道具へと成り果てていく入れ子構造の中にいた。

 

やがて快感に抗えなくなった裕樹の腰は、緩やかにベッドへと沈み、すべてを委ねていた。

 

「あ…ナツ……イキそうっ…」

 

ナツはさらに重心を落とし、細かく、執拗に腰を震わせる。

 

絡まった指先に、自身の不甲斐なさや恥じらいをすべて託すように熱がこもっていく。

 

「いいよ……。出して…?」

 

だが、限界を超えて溢れ出そうとする熱い塊が、裕樹の理性を一気に焼き切った。

 

気づけば、裕樹はナツの腰にしがみつくように力が入った。

 

引き寄せられるように、ナツの奥へと深く沈み込んでいく。

 

「んっ…!こん……な…」

 

制御不能な脈動が、ナツの身体の内側に伝播していった。

 

「あ゛っ……ダメッ…!私も……」

 

裕樹の後を追うように。

 

あるいは、共鳴するように──

 

余裕を湛えていたはずのナツは、裕樹の胸に崩れ落ちた。

 

裕樹がまだすべてを出し切っていないにもかかわらず、ナツは限界を超えて溢れる熱に耐えかねたように、脚を激しく震わせていた。

 

魂を削り合った後のように、二人は抱き合ったまま何もできない時間が過ぎた。

 

熱がゆっくりと引いていくにつれて、ベッドのシーツの、しっとりと濡れた感触が身体にはっきりと伝わってくる。

 

やがて、ナツが小さく吐息を漏らし、重なっていた身体を僅かに解いた。

 

上体を起こしたナツは呼吸を整えながら、横たわる裕樹へと視線を向ける。

 

その瞳はすべてを出し切った者特有の、満足げな光が宿っていた。

 

「……ありがとう」

 

零れたその声は僅かに掠れていた。

 

ナツは小さく頷いて、深さも勢いもない確かめるようなくちづけで応える。

 

「しちゃったね……」

 

ナツはそう言ってバツが悪そうに笑いながら、裕樹の頬に触れる。

 

「なんだか、裕樹のお母さんに申し訳ないなぁって気持ち。」

 

裕樹はナツの腕にそっと触れ返して、一拍置いて言葉を探した。

 

「……そう言われたら…いけない関係みたいで、ちょっと興奮するかも。」

 

そう言って、自嘲するように小さく笑った。

 

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