裕樹が腕までたくし上げられた服を着直そうとした時、トートバッグを片手に車の外に回ったナツが助手席のドアを開けた。
「もう服は着なくて良いんじゃない?」
ナツは見透かしたような笑みを浮かべ、左手を差し出した。
「え、このまま外に出るってこと?」
「そう。誰も来ないし、いいでしょ?風も気持ちいいよ?」
「いや……そうは言っても……」
「いいから、来て。」
そう言ってナツは裕樹を引っ張り上げるように手を引いた。
(ああ……荷物が……。)
視界の端に映る、後部座席のボストンバッグとナツのカバン。
車から出る直前に、助手席脇のコンビニのレジ袋を咄嗟に掴む。
靴だけ履いた裕樹の身体は、ぬるい夜気に晒された。
服を身につけずに外にいると、風が少し当たるだけでひりつくような感覚になる。
「裸で歩くのはさすがにやばいって……!」
「大丈夫、ここ私たち以外の人は誰もいないから。」
ナツは裕樹の抵抗を聞き流すようにして、スマートフォンを耳に当てた。
静かな夜にプププという発信音が微かに響く。
「あ、もしもし?ごめん今着いた。」
手は繋いだまま。
けれどナツの意識は、既に電話の相手に向いていた。
裕樹をこの場に繋ぎ止めているのは、その指先だけだった。
やがてぼんやりと照らされたエントランスポーチに入ると、ナツの手は裕樹から離れていった。
「右の方にある?」
電話口の指示に従うように、ナツは裕樹から離れて隅へ歩いていく。
しばらくしてナツはしゃがみ込み、電話の向こうに何かを話している。
一人取り残された裕樹は、あたりを見渡した。
この場所はナツの言う通り、誰かが住んでいたり、人が来たりするような気配は一切なかった。
ナツがほんの少し離れただけなのに、裕樹の胸はそわそわしていた。
守ってくれる物陰もなければ、庇ってくれるナツも少し離れている。
身を隠さなければ、という思いに反して、裕樹の下腹部には熱がこもっていく。
「あ、見つけた。」
そう言って、ナツはおもむろに立ち上がった。
その右手には、小さな鍵が握られていた。
ナツは電話の相手に相槌を打ちながら、裕樹を見つめてくる。
頭から足のつま先まで、舐めるように視線が動く。
まるで心のざわつきを見透かしているようだった。
ナツが裕樹に背を向けて扉の前に立つが、後ろからでは鍵穴が見えない。
耳を澄ませると、電話越しに聞こえたのは男の声だった。
「え?分かってるよ、そんなの……。」
ナツの口調がムキになり、やがて小さく鍵の開く音がした。
ドアノブをひねれば開くはずの扉の前で、ナツは立ち止まったまま通話を続けている。
無防備に晒され続ける焦燥と、置いてけぼりにされたような気持ちに耐えきれず、裕樹はナツのウエストに後ろから腕を回した。
背中の体温に触れた瞬間、ナツの髪の香りが鼻を抜けていく。
ナツは裕樹を拒もうとせず、回された手の甲に重なるようにそっと撫でた。
同時に、ナツの声が僅かに上ずる。
「それじゃあ……鍵はまた戻せばいいのね。うん、ありがとう。また。」
ナツはそう言って、スマートフォンを耳から離した。
顔を僅かに後ろに向けたが、その表情は窺えない。
「甘えんぼ。」
ナツはひとこと呟き、ドアノブを回した。
扉の向こうは真っ暗に思えたが、月明かりのせいか家具や内装の輪郭はぼんやりと見えている。
踵を潰したスニーカーが音を鳴らしながら、裕樹はナツに抱きついたまま玄関に入る。
ナツが手探りにスイッチを押すと、パッと灯りが付いて廊下の先のリビングまで見える。
乱雑に脱ぎ捨てられた靴を整理する品性は必要もなく、二人はそのままリビングへ向かった。
入ってすぐの左手には、まだ新しいカウンターキッチンがあった。
家電は一通り揃っていて、今日から生活することもできそうなほど。
「そこは何か入ってるのかな?」
ナツは3つ口コンロの下の棚を指差し、裕樹が確認すると調理器具が入っていた。
「鍋とか、ヘラとか入ってる。ほとんど使われてないのかな。」
ナツに見せるように取り出した行平鍋には、焦げ付いた後もなかった。
鏡のように光るコンロを眺めている裕樹の背後で、カメラを起動する電子音が聞こえて振り返る。
「あ、そのままでお願い。」
ナツはまたしてもカメラを構えていて、シャッターに指をかける。
「え、何してるの?」
「何って、裕樹を撮ってる。」
「裸でキッチンにいる姿を撮るの?」
「そういう姿がいいの。ほら、そこに手を付いてみて。」
裕樹は持っていた行平鍋を置いて、ぎこちなくコンロの壁に手を付いて後ろを向いた。
「そうそう、いい感じ!」
(昔見たグラビア写真集の中にも、こういう構図のショットがあった気がする……。)
撮る側には、こういう姿がそそるのかもしれない。
ナツはカメラから顔を離し、部屋の奥へと視線を向ける。
「次はあっち。」
ナツが顎で示すその先を見ると、L字型の革張りの黒いソファが隅に置かれていた。
裕樹はキッチンから離れ、ソファへと歩き出す。
ナツはすれ違いざまに笑みを浮かべ、裕樹の後をついて行く。
裸の足裏に、床のひんやりとした感覚が伝わってくる。
ナツの視線が後ろ姿に浴びせられていることを意識すると、自然と肩が強張った。
「次はここに座ってみて。」
ナツは横目で裕樹を見ながら囁いた。
表情を見なくても、どんな貌をしているのかは想像がつく。
裕樹は言われるがままに、ソファに腰を落とす。
ソファの表面は思ったよりも冷たく、太腿の裏から背中にかけてその感触が伝わった。
ナツは一歩後ろに引いて、全体を捉えるようにカメラを構えた。
「うん、いい感じ。そのまま横になってみて。」
裕樹はゆっくりとソファに身体を預け、脚を投げ出すように仰向けになった。
片方の脚は膝を立て、もう一方はだらりと伸ばす。
右手の甲で顔を覆うようにして、左手は釣り糸のように力なく垂れていた。
どこかで見たことのある構図だと記憶を巡らせ、それがタイタニックのローズに似ていると裕樹はぼんやり思った。
「いいね、そのポーズ好き。」
ナツはカメラごと裕樹に近付くようにしてシャッターを切った。
「慣れてきたね。」
何のためにやっているのか、意味のないと思うポーズすら、ナツの思い描く構図として消費される。
そう思うと胸の奥が脈を打つ。
恥ずかしいと思う反面、逃げたいという気持ちはなかった。
むしろ、徐々に視線を向けられることを待ち望んでいるような──
裕樹はゆっくりと上体を起こした。
そのままソファに深く腰掛け、膝を手で抱えて観音開きのように脚を開く。
ナツの顔を見ることは出来ず、首から上に火がついたように熱くなった。
「ああ……溢れてるところが、くっきりと写ってる……。」
ナツは覗き込むように身を寄せ、脚の間を狙うようにシャッターを押す。
独り言のようなその指摘が、裕樹の意識を否応なくそこへ向けさせた。
カメラから逸らした視線の端に、じっとり満ちている先端──
僅かにひくついただけで、溢れ、滴り落ちていくのを止められず、どうしようもなく逃げ場がなかった。
ナツはカメラの画面を操作して、撮った画像を確認しているようだった。
裕樹はナツと視線を合わせられないまま、その様子を視界の端でぼんやりと捉えている。
脚を閉じても良いと思いつつも、再びレンズを向けられることを考えて、ただ待つしかできなかった。
撮る側の感覚──
裕樹はかつて経験している。
葵が制服を脱いだ時に、レンズ越しに手を伸ばして触れたくなるような衝動があったことも。
今、逆の立場なら、カメラを放り投げて、このソファの上で身体を重ねてしまう気がする。
「……何か真剣に考え事でもしてる?」
ナツの声に肩が揺れ、ぼやけていた視界のピントが合う。
「……撮る側と撮られる側が流れでソファでしちゃったりとかするのかな、なんて考えてた。」
「そういうことも確かにあるかもね……。」
ナツはカメラを向けていた場所を再確認するように、一度だけ視線を落とした。
「ここも悪くないけど……アキ先生が好きな場所は、他にもあるんじゃなくて?」
わざとらしくそう呼んだナツが、リビングの向こう側の襖を軽く顎で示す。
取材のような気分だなと思いながら、裕樹は立ち上がった。
襖をゆっくりと滑らせ、奥を覗き込む。
「すごい……雰囲気ある。」
「なんか……エロいな……。」
そこは畳の匂いがほのかに漂う、静寂の和室が広がっていた。
床の間の手前にある低い行灯が、灯を待つようにひっそりと影を落としている。
「この部屋、昔の旅館みたいで良いね。」
言葉にせずとも、ナツも同じことを思ったようだった。
ナツは畳の上にしゃがみ込み、行灯のスイッチを入れる。
柔らかな橙色の灯がふわっと広がり、ナツの足元を照らした。
裕樹も後を追うように和室に入り、畳の感触を確かめるようにゆっくり歩く。
「ここが旅館だったらさ」
部屋をぐるりと見回しながら、裕樹は続ける。
「ご飯を部屋で食べて、風呂に行って戻ってきたら、ここ布団を並べられてるやつだよね。」
「あはは、少し気まずいあの感じね。」
ナツはそう言って笑うと、部屋の隅にある押入れの襖へと視線を向けた。
襖を引くと、中には綺麗に畳まれた分厚い布団がいくつか重ねられていた。
ナツは顔を近づけて布団に手を触れる。
「清潔な匂い……。」
そう呟きながら、積み上がった一枚を引き出した。
畳の中央でふわりと布団を広げる。
裕樹もそれに続いてナツの敷いた布団の隣に並べる。
二人でシーツの隅を軽く整えて、立ち上がって眺めると、裕樹は思わず小さく息を吐いた。
さっきまでの落ち着いた和室が、枕元を淡く照らす灯の下で、どこか不埒な
そんな裕樹の様子を、ナツは横目でちらりと見る。
「布団敷いただけで、そんなに興奮してるの?」
「だってさ……。こんなの……。」
裕樹は言葉を続けようとして、口をつぐんだ。
何を言っても、ここはそういう場所としか思えなかった。
「こうしたら」
ナツはそう言って、壁のスイッチを指先でぱちんと弾くと、部屋の明かりはすべて消え失せて行灯の灯だけが取り残された。
「もっとそれっぽくなったでしょ?」
ナツはそう言うと、布団を一瞥してから畳の外へと出た。
「上も見てみよっか。」
頬に残る火照りを振り払うように、ナツの後を追うその刹那──
置き去りにされた行灯が、誰かを待っているようだった。
ナツは廊下の左手にある、二階へ続く階段へと進んでいく。
裕樹はキッチンを通り過ぎる寸前、置き去りのレジ袋を思い出し、手提げを指先にかけた。
ナツの背中を追って、薄暗い階段を上がると、なだらかな勾配の天井が広がっていた。
白樺を思わせる清潔な木材のカウンターがあり、椅子がいくつか置かれている。
その向こう側にはダブルサイズのベッドが二台、半ば隠れるように並んでいた。
ベッドの足元は壁一面のガラスになっていて、レースカーテン越しの外光が、室内全体を淡く満たしていた。
ハンドルにスカーフを結んだナツのトートバッグが置かれたカウンターに、裕樹は持っていたレジ袋を隣に並べた。
上質なベッドの寝心地を確かめるように、倒れるようにして体を投げると、絶妙な反発力で体が跳ねた。
「え、これってもしかして……」
うつ伏せになった裕樹の背後で、ナツがカーテンを開ける。
「ねえ、これすごくない?」
ナツの驚く声に引かれて、裕樹は寝返りを打ってその方向を見る。
その瞬間、裕樹は思わず息を呑んだ。
開け放たれたレースカーテンの向こうには、正方形の露天風呂と、その先にガラスの柵越しのオーシャンビュー。
ナツが窓を開けると、湿った夜の匂いと心地よい風が入り込み、カーテンを揺らす。
海面に煌めく月光と、ベランダの四隅に灯る街灯。
それらの光は、裕樹とナツに向けられたスポットライトのようで、言い知れぬ気恥ずかしさがあった。
(誰も見ていないはずなのに……。この場所でエッチしたらすごい興奮するんだろうなぁ……。)
しばらく海を眺めていたナツは、窓を閉めて、裕樹の座るベッドに腰を掛ける。
「さっき撮った写真……見る?」
「いや、俺はいいよ別に……。」
ナツは上機嫌な様子でカメラを操作していて、その柔らかな肩が触れる。
先ほど脚を広げてしまった時の自分の姿が、裕樹の脳裏に浮かび、再び火を灯したように顔が熱くなる。
「どうして?ほら、これとかすごいエロく撮れてるよ?」
そこには──
まさに今、思い出していたソファの上で無防備に脚を開く自分自身の姿があった。
興奮なのか生理現象なのか、自分でも分からないほどいきり勃った肉棒まで映り込んでいた。
ここに写っているのは赤の他人。
そう思いたくなるほど一目瞭然の弱みを突きつけられ、裕樹は思わず顔をしかめた。
裕樹の内に燻る羞恥などナツは露知らず、ディナーの写真を眺めるようにプレビューを見ている。
楽しそうなナツの横顔──
先ほどの玄関口での通話のように、またしても裕樹の羞恥は置き去りにされていた。
「ナツはさ……それをオカズにしたりするの?」
「うーん……。そこまで考えたことがなくて……。」
ナツは画面を見つめたまま、僅かに首を傾げている。
「どうだろう……。わかんない。」
「なら……ナツのも撮らせてよ。」
「え、私?」
ナツは裕樹の方を向いて、少し驚いたように眉を吊り上げる。
「俺ばっかり撮られてるの、ずるくない?」
「私は撮る方が好きだからいいの。」
ナツは液晶の中の裕樹を撫でるように指先で触れながら、口元を緩めた。
「俺はナツのこと思い出して、オカズにしたいけどね……。」
裕樹はそう言いながら、ナツの手とカメラを伏せるようにそっと下げた。
液晶画面に映る自分の姿を、隠すようにしてナツの顔を覗き込む。
「どうしたの……?」
裕樹が唇を重ねようと近づくと、ナツは瞳を閉じて抵抗せずに受け入れる。
音を立てて舌を絡ませながら、裕樹はナツの衣服をたくし上げた。
そのままナツの指先からそっとカメラを取り上げる。
使い方も分からないままボタンを押すと、指先に小さな振動が返ってきた。
レンズカバーが瞬きのように開き、裕樹はナツと一緒に映るようにカメラを向ける。
「あっ……ちょっと……」
ナツの言葉を遮るようにトップスを頭から通す。
トップスの下から、白地にピンクの花柄のブラジャーが姿を現した。
いつもの煽情的な刺繍やレースが一切ない、少女のようなデザインに、裕樹は少しだけ時間が止まる。
脱がせようとホックに手をかけるが、なぜか外すのが惜しく感じて、布地と乳肉の間に手を差し込む。
「っ……」
ナツの肩が僅かに強張る。
裕樹はしっとりとした重たい乳肉を、布地から引き抜くようにぼろんとこぼした。
付けたままのブラジャーの上に、大きくて柔らかな乳房が乗っている。
裕樹は、右手で指が食い込むほど乳肉を鷲掴みにしてシャッターを切る。
ピピッと鳴る軽快な電子音。
ナツはカメラから視線を逸らし、顔を背けたまま言葉はない。
乳肉に紅斑を付けて写真に収めようとしても、裕樹は相変わらず上手くできず、虫に刺されたような赤みが残るだけだった。
そのまま乳肉を大きく写したり、別のアングルで写真を撮っても、ナツは黙ったままだった。
「どうして今日は、そんなに可愛いブラジャーを付けてるの?」
「もう……撮っていいって言ってないのに。」
「その割には、嫌がってるようには見えないけど?」
少女のようなセットアップの理由も、否定の言葉もなく、ナツは口角を上げて流れに身を任せていた。
裕樹は露出した乳肉の柔らかさと、ブラ越しの乳房の張りを比べるように触れた。
その感触を楽しみながら、裕樹は不意にナツに問いかける。
「ねえ、聞いてもいい?」
「ん?なぁに?」
「さっきの電話の人って……誰?」
裕樹の問いかけにナツが答えるまでに、僅かな間があった。
乳肉の感触を楽しむ手が止まり、ナツの言葉を待つ僅かな緊張が走る。
「……ツアコンやってた時の同僚。今は飲み仲間としてたまに会ってる。」
ナツの言葉に後ろめたさなどは無く、さらりと言ってのけた。
「飲み仲間……なんだ。その人とはこういうことはしないの?」
裕樹は指先に少しだけ力を入れて、ナツの胸を揺らす。
「まさか。私、おじさんは嫌いだもん。裕樹のことを話したの。そしたらね、この場所が今度からメンテナンスになるから、その前なら使って良いよって教えてくれたの。」
「ツアコンの伝手ってすごいね……。」
裕樹はリゾートホテルのようだと改めて辺りを見回した。
「てか、俺のこと話したって、どういうこと?」
ナツはばつが悪そうに笑いながら、裕樹の手の甲に手を重ねる。
「最近どう?ってお互い聞かれた時に、若い子と知り合ったって言ったら、すごい食いついてきた。」
知り合った──
そのニュアンスはどこまでのことを話したのか、具体的な表現を避ける言い方だった。
中学生や高校生がヤッたかヤッてないか、と下世話な話を、下品にならない自然な言い方。
「どんなこと言ってたの……?」
「それは奇跡だって笑ってた。」
ナツは笑いながら、思い出すかのようにぽつりと語った。
「そんな若い子と知り合うなんて、普通は有り得ないよって。奇跡の時間を楽しめって言ってた。」
ナツはそう言って肩をすくめて笑い、裕樹の肌理を確かめるように、そっとその腕を撫でた。
奇跡の時間というその言葉に、裕樹の感情は複雑に絡まり合う。
この欲望を共有する関係は、ナツやその同僚の男にとっては刹那的なものであるらしかった。
砂時計の砂は落ち続けていて、裕樹はその底を見ないふりをしたかった。
いつか終わる関係という危うさすらも、この夜に燃やし尽くしてしまいたいと裕樹は思った。
裕樹はいつもより胸の鼓動が速く、頭で考えるよりも先にナツの身体を正面から抱きしめていた。
柔らかいナツの身体に受け止められ、そのまま深く唇を重ねる。
「……っ。なんでかは分からないけど……。今はナツに、たくさん気持ち良くなって欲しい。」
背中に手を伸ばしてホックを外す。
ナツのまつ毛は僅かに揺れていた。
釣鐘型の乳房を支えるように触れながら、ナツと確かめ合うように舌を絡める。
口元からナツの嬌声が漏れ、言葉の代わりに溜め息の会話が行き交った。
快楽を返すように、ナツの指先が裕樹の太ももに触れ、竿の表面へと手が伸びていく。
ほんの少しだけ触れた指先を、裕樹は手で阻んだ。
「んんっ……。」
思い通りにならない事への煩わしさを表すように、不満そうな喘ぎが唇から漏れた。
その声が裕樹には心地良く、乳肉に触れたまま、ナツの後ろへと回り込む。
もっと大胆になったら、ナツはどういう反応をするだろう──
いつしかの夜を思い出しながら、裕樹は脚を広げ、ナツを真ん中に招き入れるようにして身体を抱き寄せる。
密着する背中に硬くなった肉棒を押し付け、腕からこぼれ落ちるほどナツの柔らかな身体を抱きしめた。
「はぁっ……うぅっ」
自ら抱き寄せたにも関わらず、ナツの体温に浮かされて息が上がる。
熱がこもった布団の中で、まだ冷たい場所を探すように二人の体は擦れ合うが、それはもう意味を成さなかった。
ラグビーボールのような乳肉の先端部分を指先で摘むと、ナツは天を仰ぐようにのけぞり、ナツの髪が裕樹の頬をなぞった。
剥き出しで差し出されたような首筋を、後ろからなぞるように舌を這わせると、小刻みに身体が震えている。
「あっ……それだめっ……んっ゛」
ナツは無意識に内側に太腿を閉じようとして、痙攣する。
閉じようとする脚を、裕樹は自身の足の甲を使って、無理やりこじ開ける。
窓のスクリーン越しに誰かに見られていることを想像しながら、ナツの身体の自由をひとつひとつ奪うように演じた。
「あっっ……イッ……くぅ」
ぴんと張り詰めたナツの身体は、その内側でゼンマイが弾けたかのように震え出す。
オルゴールのシリンダーが
抱きしめる強さは、震えが弱まってくるのと比例して弱くなっていった。
ぐったりとしたナツの横顔を覗き込むように唇を重ねながら、下腹部に手を伸ばす。
ショーツの布地に手を差し込むと、中は蒸されたように熱い。
「んっ……んん」
裂け目の周囲を指でなぞると、餡のようなとろみが熱を帯びて指先に絡みつき、ナツの喉から声にならない悲鳴が漏れる。
裕樹は肌に刻むほど締め付けていた腕を、静かに解いた。
ナツの背に手を添えて、仰向けに横たえようとするが、ナツは肘をついて僅かに上体を起こした。
ショーツに手をかけ、ナツの身体から引き剥がしていく。
裕樹はナツの表情から目を離さず、逃げ場を塞ぐように見据えていたが、ナツに恥じらう様子や抵抗の言葉はない。
ナツの瞳の奥は僅かに揺れ、焦茶のビー玉に溶けたガラスを流し込んだように光っていた。
ナツが膝を擦り合わせ、内側に閉じようとするのを、裕樹は押し広げるように手で制した。
そのまま裕樹は大きく口を開いて、湿った長い舌を誇示するように見せつける。
ナツのまつ毛や唇が僅かに震え、浅い呼吸で胸が上下に動く。
裕樹はナツを上目で捉えながら、秘部から溢れた蜜を音を立てて啜り上げた。
「あっ……んんっ!」
高く細い鳥の
身体は骨を抜かれたように枕に伏せ、腰が僅かに浮く。
裕樹は唇に小さな硬さを感じ、その周辺を執拗に舐めとる。
「んんっ!あぁ……っ、うう」
獲物を更に追い込むように、熟れた柘榴の窄まりに、中指を挿し込む。
指は容易く中に引き込まれ、肉壁の感触を指の腹で探りながら、舌の表面でざりざりと
裕樹は中にめり込むほど鼻や顔を押し当て、左手でナツの蕾を摘んだ。
「あっ゛!いっ……く」
獣の咆哮のような声が跳ね上がって、すぐに喉を締め付けられたかのように言葉は消えた。
それと同時に中指は身動きが取れなくなり、ナツの身体はのけ反ったまま痙攣した。
開いていた脚が震えながら、裕樹の頭を逃さないように絡みつく。
ナツに頭を締め付けられたまま、裕樹はシーツの皺を辿り、その先で強く握られたナツの指先に掌を重ねた。
やがてナツの脚の締め付けは弱まって、裕樹は面を上げる。
快楽の残滓に身を震わせ、僅かに開いた口元。
ピントは合っているはずなのに、瞳の奥はどこか遠くを見つめている。
ナツはゆっくりと胸に手を当て、自身の心臓を確かめるように静かに息を吐いた。
裕樹はベッドから立ち上がり、すぐ隣のカウンターにある袋に手を伸ばす。
箱を破って中身を取り出しても、ナツは胸に手を当てたまま静かに裕樹を見守るだけだった。
いつもなら「そんなものは要らない」と裕樹が反応に困るのを楽しんでいるはずなのに。
硬くなった肉棒を突き出し、容易く帷が降りていくのを見せつけるように、根元まで覆う。
ベッドに上がって、カリの先を縦すじに押し付けたところで止めると、どちらのものか曖昧な息遣いの音だけが聞こえる。
言葉を発するのが煩わしく思えて、唇を近づけるとナツは目を閉じて口付けを受け入れた。
そのまま腰をゆっくりと動かし、ナツの中へと肉棒をねじ込んでいく。
「んっ……はぁ……」
ナツが深呼吸すると、奥が広がりあっという間にすべてを呑み込んでしまった。
しっとりとした脚の付け根が裕樹の太腿とぶつかり、剥がれるのを繰り返す。
ナツの切なく歪んだその表情を見て、裕樹はナツの肩を抱きしめた。
少しずつ、腰を上下に動かすとベッドが僅かに軋んでナツの息遣いが耳元をかすめた。
ナツに気持ちよくなって欲しい──
その一心が裕樹の限界を鈍らせていた。
自分自身でも驚きながら、慈しむようにナツの奥を揺らしている。
「はっ……、ん、んっ……あッ」
堪えるような表情で、ナツは枕の端を強く握っていた。
波打つ乳肉を手で寄せ集め、谷間の奥の黒子に紅斑を付ける。
地図を辿るように、身体に散った黒子を見つけては、唇で印をつけていった。
ナツは初めて会った時や、五反田のホテルの時のような楽しんだり、試すような笑みとは違う貌をしている。
大人の余裕はどこかに置いてきてしまって、崩れた表情と頼りなく鳴くような声が雨漏りのように裕樹の内側に沁み込んできた。
ナツが小さく腰を震わせた瞬間、先ほど唇に触れた陰核と同じようなコリっとした感触が裕樹の先端に当たる。
(……なんだ、これ……。)
更にそっちに意識を向けると、突くたびにこつん、こつん、と裕樹の身体の奥に響くように当たった。
「んん……、どうして、……ぁ……そんなに元気なのっ……?」
ナツは潤んだ瞳で指先を伸ばし、裕樹の頬に触れた。
「分かんないけど……今日は無性にナツのことを見ていたくて。」
頬に添えられたナツの手を、裕樹は受け取るように掌で包み込む。
二人の視線が交差する真ん中で、裕樹はナツに見せつけるように指を絡ませた。
(感じ方も声も、どうしてかな。すごく……。)
「ねえ、ナツ。」
(可愛い……幼い……あどけない……?どれなんだ?)
「なに……?」
「なんでかな……。こうやってエッチしてるとナツと同い年になった気がする……。」
独り言のように呟いて裕樹は笑うと、ナツの呼吸が一瞬止まった。
ナツの瞳の奥が濡れたように揺れ、二人を結んでいた指先はゆっくりと解ける。
そのまま裕樹へ縋るように腕を伸ばした瞬間、わざと揺さぶるように腰を動かした。
「あっあっ、……どうして……動かすのっ……!」
ナツが伸ばした腕は力なく枕元に落ちた。
それでも快楽に溺れるように、一度落ちた腕は裕樹を引き込むように強い力で背中に絡みついた。
裕樹の身体はナツへ覆い被さるように低くなって、柔らかな肌が密着した。
「だ、め……またいっ、っく……!」
ナツは全身が小刻みに震えて、指先が裕樹の背中に食い込んでいた。
浅くなったナツの呼吸が、密着した身体の隙間へ吹き込み、身体に汗がじわりと滴る。
どんな表情を浮かべているのか、裕樹は気になって覗き込むように身体を起こした。
眉根を寄せ、瞳を濡らしたやるせない表情。
それなのに、口元が嬉しそうに緩んでいた。
「こんな可愛い顔して……ずるいこと言うのね……。」
「……っ」
ナツに返す言葉は探しても見当たらなかった。
口元から溢れたものが、言葉になっただけで──
誤魔化すようにナツと唇を重ねた。
裕樹の肉棒は未だ硬く脈打っていて、ナツの舌の柔らかさに反応する。
ナツもそれに気付いたのか、薄目で視線を下に向ける。
「ねえ……ナツ。」
唇が触れ合うほど近い距離のままで、裕樹はにこりと笑う。
「……向き、変えてみてもいいかな?」
ナツは小さく息を吐いて、シーツの上でゆっくりと体を捩った。
裕樹は甲斐甲斐しく腰に手を添え、ナツは介助されるように背中を向ける。
長い髪が肩から流れ落ち、汗ばんだ背中の窪みが露わになった。
「両手をついて、脚は膝をついて……そう。」
柔らかな肉体が重力に引っ張られ、乳房は更にボリュームを増してシーツへ深く垂れた。
髪の先端が湿り気を帯びてカールしているのを手で纏めながら、ナツは裕樹に差し出すように尻を向けた。
人間らしさを捨てたナツの姿に、裕樹は息を呑む。
(ホルスタインちゃん……なんて言ったら怒られるかな?)
母乳など出るはずもないのに、乳肉の付け根から先端へと両手を使って搾り上げるように触れた。
「やっ……ん、これがしたかったの……?」
「ごめん、つい触りたくなっちゃって。」
裕樹は隣のベッドから枕を拝借しようと手を伸ばした際に、ヘッドボードから覗くナツの革のハンドバッグが視界に入る。
「ねえ……ナツ、これ使ってもいい?」
裕樹はハンドバッグをナツの目の前に持ち上げ、ハンドルに巻き付いているベージュのスカーフを指差す。
「使うって……何に?」
「目隠してみたい。」
「えっ……?目隠しなんて、したことないんだけど。」
「俺もない。」
「もう……なにそれ。」
子供の思いつきに付き合わされるような目で、ナツは笑う。
「やってみようよ。」
ナツは嫌がる素振りを見せず、それどころか期待を隠しきれないように小さく肩を震わせた。
丁寧に巻かれたダマスク柄のスカーフをハンドルから解いて、帯状になるように畳む。
ナツのしっとりとした髪をかき上げて、視界を覆い、後頭部で結び目を作る動作は、やけに落ち着いていた。
原始的な獣のようだったナツは、いつの間にか震える仔羊のような雰囲気を纏っていた。
結び目を作り終え、ナツの耳たぶに息を吹きかける。
「あっ!」
ナツの肩が大きくびくんと跳ねて、乳房がぶるんと揺れた。
「裕樹っ、これ、やばいかも……」
その反応だけで、裕樹の下腹部に一層熱が滾った。
ナツはシーツの生地を指先でスルスルとなぞる音にも、身構えるように硬直している。
ぶら下がった乳肉の先端を指先で掠めると、身体を支える腕の力が抜ける。
耳元でわざと唾液の絡む音を聞かせるように口を寄せてから、背中の窪みに舌を沿わせると今度は腰から力が抜けて、四つん這いの体勢が崩れ落ちた。
「ふーっ、ふーっ……おかしく、なる……」
穴の空いたゴムチューブから空気が漏れ出ているみたいに、ナツは普通の呼吸ができなくなっていた。
裕樹は堪えの利かない湿った腰に手を触れ、ナツが腰を持ち上げられるようになる手助けをする。
こんな時、サディストな人間だったら気の利いたことを口にできるのだろう、と思いつつナツにかける言葉が見つからなかった。
「はぁっ……あっ……」
硬くなった先端部分で、果実の熟れ具合を確かめるように数回ほど突く。
体勢が崩れぬように、ナツは腰の仰け反らせてなんとかやり過ごそうとするように見えた。
また四つん這いに戻す手伝いをするのも手間だと思い、裕樹は腰肉を掴む指先に力を込める。
暗闇の中で快楽に震えるナツを、泥濘を抜けた先の深淵に突き落とすように、肉棒をナツの奥まで突き刺した。
「ぅぐっ、あああっ!」
仔羊のようなナツは、喉の奥から獣じみた声を漏らして、髪を振り乱した。
身体を支えていた腕から力が抜けて、腰から水滴が背中を滑り落ちていく。
「あぁ……ナツ、気持ちいいね。」
裕樹はナツの下腹部へそっと手を添え、繋がっている感覚を噛み締めるようにゆっくりと撫でる。
「そのまま、腰を落として。ゆっくりでいいから。」
「……あっ……ぅ」
息を吐きながら声を震わせ、ゆっくりとナツはベッドに伏せるように身体を沈めていく。
裕樹も下腹部の奥を引き込まれ、ナツとの繋がりが途切れないように、合わせて腰を落とした。
やがて枕の厚みで僅かに持ち上がったナツの身体と裕樹の腰の位置は、裕樹が思い描いていた通りに重なった。
「寝バック、やってみたかったんだ……。っ……目隠しは思いつきだけど。」
「あ゛っ……寝バック、やば……ぃ」
ベッドの上で溺れているナツは、息継ぎをするみたいに途切れ途切れの声を漏らした。
背中を弓なりに反らせてナツの柔らかい尻肉に体重をかけると、先端へナツの熱の芯が僅かに伝わってくる。
裕樹はゼリーの中に肉棒を沈めたみたいに、自分の形を模られる感覚に夢中になった。
だが力を込め続けなければ、すぐにナツの柔肌に押し戻されてしまう。
「ん"っ!!あ"ぁっ!!」
快楽にも苦痛にも聞こえる喘ぎが、ベッドの中に消えていく。
ナツの手は逃げ場を探そうとシーツを掻き毟り、皺だらけになった布地の上で左右の手が別の生き物のようにちぐはぐに暴れていた。
ナツの身体の奥の熱に触れたい──
裕樹のエゴが、暴れるナツの手に被さるようにして、上から指を絡ませる。
更に腰を低く落とし、ナツの背中の水滴を拭き取るように身体を密着させた。
「んぐっ、あうっ……うっ」
泣き声にも似た喘ぎを気遣うように、裕樹はナツの耳たぶや首筋に唇を押し当てた。
「気持ち良い……?」
「うぅ……んんっ」
身動きが取れないなりに、ナツは声を上げて肯定しようとしているように思えた。
裕樹に押し潰されながらも、ナツの身体は呼吸で僅かに膨らんで押し返してくる。
二人の体温は同じ高さにまで馴染んで、滴り落ちる汗、呼吸、心臓の音もすべてひとつになって、このベッドにどこまでも沈んでいく。
唇を求めて何度もナツの頬へ口付けると、ナツは探るように小さく顔を動かし、裕樹へ唇を差し出した。
「ずっと……こうしていたい。」
確かめるように唇に触れると、ナツは裕樹の舌を引き摺り込むように吸う。
啜るように絡み付くその柔らかな舌先に圧倒され、裕樹の肉棒は否応なしに更に硬さを増して重く食い込んでいく。
だが、ナツの身体はすでに裕樹を受け入れる形を模り終えていて、腰を一突きするたびに、裕樹は自分自身が熱に溶かされて消えていくようだった。
(なに……これ、気持ち良すぎて……感覚が……)
不意に内側から込み上げてくる感覚に、裕樹は足の指先でナツの脹脛に爪を立てるようにして絡み付いた。
「ナツっ……やばい……出ちゃうかも」
「うぅっ……いいよ゛ぉ、だ……して……」
裕樹はナツの赦しを聞き終える前に、情欲の奔流を堪え切れずに吐き出した。
「イッ……」
「あっ、あっ、あ……」
その勢いはクッションのようなナツの柔肌をすべて押し潰しながら、裕樹の意思を一切無視して脈動を続けていた。
ナツは裕樹の指を強く握り、水面に顔を出したばかりのような、浅い呼吸を繰り返して震えていた。
裕樹は、いつまでも密着して体を預けてしまっている状況に、申し訳ないと思い早く退こうとするも、身体は思うように動かない。
それは、すべてを出しきったせいなのか、このまま一つに溶けていたいと思っているからなのか──
裕樹には分からなかった。