「放課後に見る時間を作るって、どういうこと…?」
(まさか脱いでくれるってことなのか?)
予想しなかった提案をされ、裕樹は嬉しさと困惑が入り混じる。
「放課後にここの部屋とか、別の部屋とかで私が座ってるところをジロジロ観察すれば良いんじゃない?」
裕樹は不機嫌な表情の葵と、大きく膨らんだニットベストを交互に見る。
「服は…脱がないよね?」
「はぁ…当たり前でしょ。」
どうやら隣の席で授業中に見るのを止める代わりに、放課後であれば本人公認の元、いくらでも見て良いということだった。
さて、話は終わったと納得したような表情で葵は立ち去ろうとする。
裕樹の表情がえ、今日は?というような顔していたのに耐えかねたのか口を開く。
「今日は散々授業中に見てたでしょ。だから明日から。バイバイムッツリ兎谷くん。」
裕樹の方を見ずに手を振り、葵は部屋を後にした。
翌日。
裕樹はいつもより授業が長く感じていた。
楽しみだった葵の肉体観察は授業中にできなくなって、放課後に。
好きなものを先に食べるか最後まで残しておくかの違いのようなものだが、ぽっかり空いた時間を持て余していた。
学生の本文は勉強のはずだが、それを取り戻すのには時間がかかりそうだった。
時は流れる。
気が遠くなるような授業は全て終わり、放課後。
「移動しようか。」
葵と裕樹はクラスメイトが教室からはけていくのを見計らって、空き教室を探す。
カウンセラーの部屋はいつもは大体カウンセラーがいるため、使えない。
葵は美術室の物置になっている教室があり、そこへ入っていく。
「三原さんって、美術部なの?」
「私一人しか部員はいないし、ほぼ部活として活動してないんだけどね。」
乱雑に置かれている椅子と机を並べ、二人のクラスでの席の配置を再現する。
葵は椅子に腰掛けて、机に身を預けながら伏した。
顔はいつも氷の表情で裕樹を見つめる。
葵の大きすぎる双丘は、机に少しだけ押しつぶされて空気が抜け始めているボールが形を変えて歪んでいるかのようだった。
改めてその抜群のプロポーションに圧倒されて、裕樹は息を飲む。
「座らないの?」
女神のような神々しさすら感じるその肉体に、圧倒されていた裕樹はその言葉で時間を取り戻す。
「あ、いや…デカすぎて見惚れてた。」
「いつも見てるのに、飽きないね。」
少し咎めるような口調で葵はそう言った。
机に押し付けられた胸を見て、触れなくても柔らかさが伝わってくる。
黒の絹糸のような髪の毛、大きなアーモンドのような瞳、記号のような曲線を描くボディライン、陶器のようにスベスベな脚。
男の視線を集める為に生まれてきたような人だと裕樹は思った。
「人混みでもずっとおっぱいを観察してるでしょ。」
この間否定した問答がまた葵から投げられる。
「三原さんのおっぱいは確かに見ていたけど、どうして人混みを歩く人のおっぱいも見てるって分かるの?」
初めて葵に声をかけられた時、咄嗟の事で否定するしかなかった裕樹だが、言われてみるとなぜそれが分かるのか。それが疑問だった。
「兎谷くんの目の動きを見ていれば分かるし、鏡のようなガラスに映っていたおっぱいの大きい女の人を見てた時に、兎谷くんと目が合ったから。」
直接見ていなくても、視線は感じ取られる…なるほどな、と裕樹は思わず納得してしまう。
「でも三原さんは女子だけど、女の人のおっぱいも見るの?」
「見るよ。兎谷くんみたいに興奮したりしないけど。おっきいな〜って見ちゃう。」
豊満な胸の持ち主が、同性の同じ身体の部位に興味を持つことがあるのか、と更なる驚きがあった。
「三原さんより大きい人、見たことないけどな……。」
高校生だけじゃなく、大学生や社会人ですら、葵に匹敵する凶器を備えている人はいない。
最近多くなってきた外国人観光客にはいるかもしれないな、と裕樹は思った。
葵の肉体を凝視する時間は、授業と比べ物にならないスピードで溶けていった。
「そろそろ帰ろうかな。」
葵はそう言って体をゆっくりと起こす。
潰されていた二つ大きなボールが、圧迫から解放される様を観察していた。
「それじゃまた、来週。」
葵はそう言って立ち去ろうとする。
今日は金曜日で、せっかく始まったこの時間も二日間空いてしまうと思うと、休みがあるのが憎らしいとすら裕樹は思った。
土日の会えない時間は、妄想の海で葵を貪り尽くす。
妄想にリアルが混ざると、それは興奮のスパイスになると思った裕樹は口を開く。
葵の胸を見た人なら、誰しもが思う疑問。
「三原さんは…何カップなの?」
その質問に葵は立ち止まる。
軽蔑した言葉や拒絶されて、この時間が終わってしまうリスクもあったが、それでも知りたかった葵のこと。
「当ててみなよ。」
葵はこちらを見ずにそう言った。
葵の胸は、普段見ている成人向け動画の女優に匹敵するものを持っていると裕樹は思った。
「I…いや、Hカップある…?」
裕樹の答えに対して葵はわずかに身体の向きを変えた。
細身のシルエットから不意に現れる豊かな曲線。
葵は西陽の逆光にさらされ、その表情を窺うことはできない。
「服の上から見ただけなのに、近いところまで行ってる。Hよりあるよ。」
「まさか…Iカップ…?」
今週はもうおしまい、と背中で語るかのようにして教室のドアを開放する。
「また来週。おっぱい星人の兎谷くん。」
無言の肯定ということで良いのだろうか。
表情が読み取れないまま、葵は去って行った。
(Iカップってデカすぎるだろ…)
裕樹はその日帰ってから、Iカップをスマートフォンで夜更けまで調べた。
月曜日を迎えた朝。
いつも憂鬱なはずの学校生活は、希望や期待に満ち溢れており、余裕を持って登校する。
教室に一番最初について、葵が来るのを裕樹は待った。
早朝の静寂な教室に、ぽつりぽつりと生徒が登校してくる。
裕樹のその目に映るのは、全部で30人いるクラスメイトも、葵以外の無関心な生徒はモノクロだった。
葵は授業開始の15分前に登校してきた。
眠そうな目をして歩く葵の胸元と髪は微かに揺れて、そのシルエットを中心に教室が色彩を取り戻していくようなそんな感覚。
裕樹は葵に視線を釘付けにされて、着席するまでの所作に目を逸らすことができなかった。
「おはよ。」
裕樹から思いがけぬ挨拶に、葵の時間はわずかに停止する。
「ん、おはよ。」
葵は裕樹の目を僅かに覗き込むようにして、挨拶を返した。
(毎日登校したら放課後になればいいのに。)
まるで授業を受けた後のご褒美だな、と裕樹は思った。
放課後になって葵と裕樹は特に会話も交わさず、金曜日と同じ美術部の備品室に入る。
葵は前回と同じように、机に伏すような体制で胸をそこに押し付けた。
葵の夏服にニットベストを纏う姿は、お馴染みのシルエットとして定着していた。
葵がどんなブラジャーを身に付けているかは、ニットベストによって徹底的に守られていて、男子は誰もそのニットの鎧の下がどうなっているのかを知ることは不可能だった。
裕樹は更なる妄想のリアリティを求めるべく、一つの提案を葵に問いかける。
「ニット、暑くないの?脱げば…?」
建前は葵への暑さを気遣って。
本音は白シャツから透けるブラジャーの色を確かめるため。
ニットベストを取っ払うことで、Iの曲線美の解像度を上げるためだ。
裕樹からの提案が意外だったのか、そのアーモンドの瞳が一瞬見開いた。
その瞳を細めるようにゆっくりと瞬きをする。
「本当にそう思ってる?」
「……半分本当。」
葵は少しだけ眉を上げて、すぐに戻した。
口元が少しだけ動き、呼吸で胸がゆっくり膨らむのが分かった。
葵は否定も肯定もせず、伏していた机からスローモーションのようにゆっくりと体を起こす。
元より葵と裕樹しかいないこの空間は、空調の音だけしか存在していなかった。
葵は座ったままゆっくりとニットベストに手をかける。
肩から少しずつずらしていく。
ニットベストが白いシャツと擦れる衣擦れ音だけが、最大音量にしたかのようにこだまする。
シャツの上からも分かる細身のウエストがベストの裾をすり抜ける。
けれど葵が持つ豊潤な果実が布地がわずかに引っかけた。
その刹那、葵は動きを止めて息を殺す。
ニットベストが身体の起伏をなぞるように、ゆっくりと持ち上がる。
純白のシャツが雪山のように膨らんでいて、シャツを止めるボタンが服にかかる圧力を紙一重で堰き止めているようだった。
葵は脱いだニットベストを綺麗に畳んで、机の上に置いた。
「すごい…でかすぎる…やば…」
圧倒的な存在感を目の前にした裕樹から、おおよそ高校生男子と呼べるような語彙力は消失した。
「おっぱい見てアホになってるよ。」
葵の口角が少し上がったかのように見えた。
大きすぎるその雪山の中身は、ブラジャーをシャツに強く押し付けて、レースの形が少し浮かび上がるかのように圧迫されていて、それは薄いピンク色をしていた。
「さっき私の暑さを気遣ったのは半分当たりって言ってたけど…。もう半分はなに?」
裕樹はそれを追求してくるか、と言わんばかりに一瞬顔を顰めて
「ブラジャー、何色か透けてるところ見たかった…。」
と小さな声で言った。
葵は鼻で小さく息を吐く。
言葉は何も発しなかったが、やっぱりね、と言わんばかりにこちらを見つめて深く椅子に腰掛ける。
肉体観察をする裕樹を観察するように葵は裕樹の瞳を覗き込む。
裕樹は葵としばらく目が合ったが、さながら引力のように胸元へと視線は惹きつけられてしまった。
「…で、何色が好みなの?」
質問をしている葵自身が一番興味がなさそうに裕樹にそれを問いかける。
「黒とか濃い青色とか紫が好きかな…今日みたいな淡いピンクも好きだけどね。」
「ふぅ〜ん?」
家のタンスの中身をどこか思い浮かべているかのような、そんな表情を葵はしていた。
「そういうブラジャーは持ってる?」
持っているなら着てきて欲しいという願望を含んで裕樹は葵に問いかける。
「さあね。」
裕樹の願望をいち早くへし折るような速さで答えた。
キラキラしていた裕樹の目が、おやつを取り上げられた子犬のように曇ってしまったのと見兼ねたのか
「それは観察していけば分かるんじゃない?」
と一言付け加えた。
その一言には今後もこの可能性を続ける意思があるという、葵の感情と捉えて裕樹の瞳はまた輝きを取り戻した。