綾乃先輩が手取り足取り教えてくださるそうですよ?――金利・貨幣・政策をめぐって 作:アジの塩焼き
午前一時を回り、窓の外の暴風雨はさらにその激しさを増していた。
叩きつける雨音は重い地鳴りのような轟音と化し、経済学部棟の古い鉄製フレームの窓が時折ガタガタと軋んだ音を立てる。
外界の嵐とは対照的に、密室の研究室には二人の体温とホワイトリリーの甘い香りが濃密に漂っていた。
机の上での交歓を終えた綾乃は、乱れたラベンダー色のサマーニットを胸元までたくし上げたまま、本棚の並ぶ壁際へとゆっくり歩み寄っていた。
床に脱ぎ捨てられたタイトスカートの代わりに、司が貸した薄手のブランケットを腰に緩く巻いている。
歩くたびに、すべすべとした太腿の内側を、先ほどの情事の熱い名残がひと筋、光を浴びてつうと伝い落ちていった。
背の高いスチール製の本棚が二列並ぶ、薄暗い通路。
天井の蛍光灯は落とされ、机上のアームライトから漏れる琥珀色の斜光が、整然と並ぶ洋書や論文誌の背表紙を微かに照らし出している。
並んだ専門書の間から、綾乃の細い指先が一冊の分厚い報告書を抜き取った。
日本銀行やFRBの金融市場調節、決済システムに関する実務リポートだ。
「司くん、さっきの続きよ。……中央銀行が金利を操作する仕組み、本当に理解できているかしら?」
綾乃は本棚に片手をあずけ、背中越しに司を振り返った。
しなやかな背中から覗く細いウエストと、ブランケットの隙間から覗く露わな太腿。
上気した頬と潤んだ瞳には、まだ先ほどの絶頂の余韻が色濃く残っている。
だが、その眼差しには年上の研究者としての知性がしっかりと宿っていた。
「世間のニュースや解説ではね……『日銀がお金を刷って市場にばら撒いた』とか『中央銀行がマネーの蛇口を締めた』なんて表現が当たり前のように使われているわ。でも、そんなの完全な俗説よ」
「ええ。中央銀行の地下に巨大な輪転機があって、そこからお札の束をトラックで市中に配っているわけじゃないですからね」
司は静かに歩み寄り、本棚の狭い通路で綾乃の背後に身体を重ねた。
薄いブランケット越しに伝わる、柔らかな臀部の熱と弾力。
司がそっと手を伸ばしてブランケットの結び目を解くと、先ほどの愛液でじっとりと濡れた秘所が、冷たい外気に触れてひくりと小さく収縮した。
「あっ……司くん……っ。後ろから、そんなに押し当てられたら……っ」
「さっきの続きを聞かせてください、先輩。中央銀行が本当に操作しているのは何なんですか?」
司は綾乃の細い腰を後ろから抱き寄せ、耳元へ静かに息を落とした。
背中越しに伝わる綾乃の心拍が、わずかに速くなるのが分かる。
◇
「んっ……耳元で喋らないで……っ。……いいわ、わたしの考えを聞かせてあげる」
綾乃は本棚の棚板に両手をつき、腰をわずかに突き出す姿勢を取りながら、息を整えて言葉を紡ぎ始めた。
「中央銀行が直接操作しているのは……マネーの『量』なんかじゃないわ。銀行同士がお金を貸し借りする超短期の市場――政策金利という『価格』そのものよ」
「短期金利の誘導ですね。無担保コール翌日物金利や、米国のFFレートだ」
司は背後から手を回し、太腿の内側から濡れそぼった秘唇の合わせ目を指先でそっとなぞった。
ぐちゅ、と粘っこい蜜の音が静まり返った本棚の間に小さく響く。
充分に潤っているのを確かめると、自身の固く猛り立った熱塊の先端を、ひくつく割れ目へとあてがった。
「そうよ……っ。市中銀行はね、毎日の資金決済のために中央銀行に当座預金口座を持っているの。その当座預金の過不足を銀行同士で貸し借りするのが、コール市場……。中央銀行はその市場金利を、二つの壁で挟み込んで誘導するのよ」
「上限と下限ですね。金利コリドーシステムだ」
「ふふ、そうよ……っ。上限が中央銀行からの貸出金利(公定歩合/ロンバート・ファシリティ)で、下限が当座預金への付利金利(IOER)……。市場金利が上限を超えそうになれば、銀行は中銀から直接借りればいいし、下限を下回りそうになれば、市場に貸さずに中銀の口座に預けて利息をもらえばいい……」
綾乃は肩で息をしながら、濡れた瞳で背後を振り返った。
「だから市場金利は、その二つの壁の狭い通路の中に完全に閉じ込められるの……。中銀は量を無理やり押し込まなくても、価格の枠組みを作るだけで金利を自在に支配できる……っ。あ、んっ……早く、入れて……っ!」
司は綾乃の細い腰を両手でしっかりと掴み、逃げ場をなくすように引き寄せた。
そのまま、濡れそぼった膣口へと先端をゆっくりと割り込ませていく。
くちゅ、と肉を割く重い音が、静まり返った本棚の通路に落ちる。
綾乃の内壁が、侵入してきた熱塊を包み込むようにきつく張り詰めた。
「あぁっ……! う、後ろから……深く入ってきて……っ!」
司が奥深くへと根元まで沈めきると、綾乃の膣内が熱く波打ち、先端を逃すまいときつく締め上げた。
本棚に置かれた分厚い専門書が、二人の体重でわずかにカタと揺れる。
「……先輩、締めつけが凄いです。本棚と僕の腰で前後に挟まれて、まさにコリドーの中に閉じ込められた状態ですね」
「なっ……! 理論をそんな風に……身体で例えるなんて……っ、ひゃぅっ!」
「しかも通路の幅が狭すぎて、金利が一切動けそうにありません」
「司くん……からかわないで……っ! でも……っ、中央銀行が短期金利を誘導して……さらに将来もこの金利を維持するというフォワードガイダンスを出せば……市場の期待を通じて、長期金利も企業の借入金利もコントロールできるのよ……っ!」
「それは主流派の美しい物語ですよ、先輩」
司は綾乃の腰を掴み、ゆっくりと引き抜いては、勢いよく最奥へと打ち付けた。
◇
ずちゅっ、ぱんっ、と激しい結合音と肉のぶつかる音が本棚の狭い空間に反響する。
「ああっ……! んぁっ、そんなに……っ、深く突かれたら……っ!」
「中央銀行が『量を外生的に操作して金利を決めている』なんて、実務を知らない学者の机上の空論です。現場の銀行決済を見てください」
司は腰を動かしながら、淡々と問いを重ねた。
「毎日、何百万件もの企業間の振込や送金が、日本銀行金融ネットワーク――日銀ネットの当座預金を通じて決済されています。その額は一日数百兆円にも及ぶ。もし中央銀行が『今日はマネーサプライを引き締めたいから準備預金を供給しない』なんて勝手な制限を行ったらどうなりますか?」
「そ、それは……っ、どこかの銀行で決済が落ちて……連鎖破綻が起きるわ……っ! あぅっ、んんっ!」
「そうです。日銀当座預金の決済は即時グロス決済(RTGS)で行われていて、一瞬の資金ショートも許されない。決済システムを絶対に止めないために、中央銀行は市中銀行が求める準備預金をオンデマンドで受動的に供給せざるを得ないんです」
司は腰のストロークを一度止め、最深部に先端を押し当てたまま、綾乃の耳元へ囁いた。
「中央銀行が操作できるのは金利という『価格』だけであって、準備預金の『量』は決済需要に従属して勝手に決まる。中銀は最初から、決済の安定という制度の前に手足を縛られているんですよ」
「はぁっ、く……っ! 準備預金の受動性……決済実務の現実ね……っ! でも……っ、中銀が金利を操作できるなら、結果として投資の量をコントロールできてるじゃない……っ! ああっ、そこ……奥の深いところ、擦れてるぅっ!」
綾乃は本棚の背表紙に額を押し当て、腰をくねらせて快感に耐えていた。
ラベンダー色のニットは汗で背中に張り付き、小柄な身体が司の腰のストロークに合わせて激しく前後に揺れている。
「受動的に供給しているからこそ、中銀は全能の神ではないんです。中銀ができるのは、銀行が決済のために差し出してくる国債を担保に、求められるがまま当座預金を供給することだけだ」
「受動的に供給しているからこそ、中銀は全能の神じゃないんですよ。中銀ができるのは、銀行が決済のために差し出してくる国債を担保に、求められるがまま当座預金を供給することだけだ」
司は綾乃の豊かな胸を後ろから両手で包み込み、指先で尖った乳頭を転がした。
びくん、と綾乃の全身が小さく跳ね、膣奥が司の先端をきつく締め上げる。
「……ほら、先輩の身体と同じです。僕がこうして奥を突くたびに、先輩のここ、求められるがまま愛液を供給して受け入れているじゃないですか」
「ひゃうんっ……! な、なんて言い草……っ! わたしが……っ、司くんに求めてるみたいに……言わないで……っ!」
「求めてないんですか? こんなに熱く締めつけて、奥へ奥へと誘い込んでいるのに」
司は腰を深く落とし、下から抉るような角度で最深部へと力強く腰を打ち付けた。
じゅぷ、ぬち、と泡立つ蜜の音が激しさを増す。
「ああっ……! だ、め……っ、そこ……っ、声が出ちゃう……っ! でも……っ、中銀がただの受け身なら……なぜフォワードガイダンスだけで世界中の市場が動くのよ……っ!? 将来の期待を動かす力こそが……中央銀行の本当の力じゃない……っ! あぁっ、んんっ、ひゃぅっ!」
「ええ。中銀が持っている力は、量ではなく人々の期待を誘導するシグナルです。全能の蛇口ではなく、市場に価格の目安を示す存在に過ぎない」
「そうよ……っ! 将来の金利経路を明示して……市場の期待に働きかけることで……経済を誘導するの……っ! 司くん……っ、もう、わたし……限界……っ!」
綾乃の内壁が司の熱塊を強く締めつけ、熱い波となって震え始めた。
司は綾乃の骨盤をしっかりと引き寄せ、最後の一撃を最奥へと突き入れた。
「先輩……っ!」
「あぁぁぁぁっ――!!」
本棚を揺らすような、高く甘い絶頂の叫び。
綾乃の膣奥から熱い蜜が溢れ出し、司の先端を包み込む。司もまた、熱い白濁を幾度も勢いよく奥底へと注ぎ込んだ。
◇
本棚の通路に、二人の重い吐息だけが静かに漂っていた。
綾乃は司の腕の中に身を預け、背中を司の胸に預けたまま、小さく息を繰り返している。
汗ばんだ背中には玉のような汗が浮かび、二人の肌が離れるたびに、ペトリと素肌が密着していた名残の音がした。
「……ふぅ。……相変わらず、身体を重ねているときの司くんの反論は鋭いわね」
綾乃は後ろを振り返り、甘く蕩けた瞳で司の頬にそっと手を添えた。
「先輩がどんなときでも精緻な論理を組み立ててくるからですよ。おかげでよく分かりました。中央銀行が操作しているのはマネーの量ではなく、短期金利と将来への期待であり、準備預金は決済システムのために受動的に供給されている」
「ふふ……及第点よ。中銀は全能でも無力でもない。決済を止めないように支えながら、金利と期待を誘導していく存在なの」
司は落ちていたブランケットを拾い上げ、汗ばんだ綾乃の身体を優しく包み込んだ。
本棚の通路を出て、研究室の中央へ戻る。
「さて、中央銀行のオペレーションが分かったところで……次は根本的な疑問ですね。そもそも市中銀行が作り出している『貨幣』の正体は何なのか」
床には、司が持ってきた毛布とクッションが広げられている。
綾乃はブランケットにくるまりながら毛布の上に腰を下ろし、艶やかに微笑んだ。
「信用創造論争ね。……いいわ、深夜二時の議論は、床の毛布の上でじっくり続きをしましょうか」
研究室の外では、台風の風雨が依然として唸りを上げていた。
二人は床に敷かれた毛布へと身体を寄せ合い、温もりを分け合いながら静かに息を整えていた。