立ち込める煙と、血と、泥の臭い。
中央大陸の南部に位置する紛争地帯は、かつてギレーヌ・デドルディアが『黒狼の牙』の戦士として浴びるほどに馴染んできた、死の匂いに満ちていた。
あの忌まわしき光――フィットア領を襲った転移事件によって、ギレーヌはこの地獄のような戦場へと直接放り出された。
何の準備もなく突如として見知らぬ戦地に飛ばされたギレーヌだったが、彼女は『剣王』である。
迫り来る兵士や野盗を圧倒的な武力でねじ伏せ、まずは故郷であるフィットア領、そして主たちのいるロアの街へと戻るため、徒歩での過酷な移動を開始した。
だが、その帰還の道中、立ち寄った小規模な集落で、ギレーヌの獣耳が奇妙な噂話を捉えた。
「おい、知ってるか? 数ヶ月前、この先の砦を根城にしてる傭兵団のところに、空から妙に身なりのいい男女が降ってきたらしいぜ」
「へえ、いいカモだな。剥ぎ取られたか?」
「ああ。だが異様だったのはその後だ。捕まったっていうのに、男の方は少しも怯まずに『私はアスラ王国のグレイラットの名を持つ者だ。命を保障すれば、お前たちに望むだけの富をやる』って、不敵な笑みで交渉を持ちかけたらしい。結局、相手にされなかったみたいだがな。で、女の方は見事な赤髪の美人で、獅子みたいに激しく喚いて捕まえようとした傭兵の頬を張り飛ばしたそうだ。大層な上級貴族様だったんだろうが、今頃は……」
――ガタッ、とギレーヌの座っていた丸太が揺れた。
聞き間違うはずがない。
極限状態にあってもなお、泥臭い傭兵相手に傲然とグレイラットを名乗り、交渉のハッタリをかまそうとする不遜な男。
そして、燃えるような赤髪と激しい気性の女。
「フィリップ様……ヒルダ様……!」
心当たりは、あのお二人しかいない。
何の武術の心得もない主夫妻が、自分と同じくこの暴力の支配する地に放り出され、悪党どもの手に落ちている。
ギレーヌはアスラへと向かう足を止め、腰の愛刀の柄に強く手をかけた。
右目の魔眼が、怒りと共に戦場の澱んだ魔力を捉える。
(待っていてください……私が必ず、お救いします)
獣の耳をピリリと震わせ、ギレーヌはアスラへと向かう道を捨て、噂の源流である、半ば崩壊した砦へと全速力で引き返した。
*
そこは地元の小悪党や傭兵崩れたちがねぐらにしている地下室だった。
――ガァン!!!
鉄錆びた扉をギレーヌが闘気まかせに蹴り破ると、松明の明かりの中に数人の傭兵が浮かび上がった。
「な、なんだァ、こいつは……ッ!?」
「フィリップ様とヒルダ様は、どこだ」
低く、地響きのような声。右目の魔眼が爛々と輝き、圧倒的な殺気が部屋を満たす。
最前列の男が武器を抜こうとした瞬間、ギレーヌの「光の太刀」が奔(はし)った。
閃光一閃、男の首が宙を舞う。
「ひっ……!? ま、待て! あの見慣れない服の男女のことか!?」
「訊いている。どこにいる」
「奥だ! 奥の部屋に寝かせてある! 俺たちはただ、捕まえて金目のもんを剥ぎ取っただけだ! 直接手を下しちゃいねえ! あいつらが勝手に……!」
ギレーヌは男を突き飛ばし、地下のさらに奥の部屋へと駆け込んだ。
冷たい石床の上。
そこに、粗末な布切れだけをかけられた二つの影が、離されて壁の鎖に繋がれていた。
かつてアスラ王国の上級貴族として優雅に生きていたはずの二人は、重い鉄の枷(かせ)で別々の壁へと縛り付けられていた。
互いの距離は、手を伸ばしても、指先さえ決して届かない。
ギレーヌは息を呑み、震える手で二人の手首に触れた。
どちらも冷たかった。生命の灯火は完全に消え失せている。
「フィリップ様……ヒルダ様……っ」
男たちの言う通り、致命傷となるような傷はなかった。
しかし、衣服を剥ぎ取られ、この極寒の地下に放置されたことが決定打になったのは明白だった。
最期の瞬間、どれほどの絶望と恐怖があったか。
どれほど互いの名前を呼び合い、手を握りしめたいと願いながら、その距離を阻む鎖を呪ったことか。
それだけではない。
ヒルダの体からは異臭が匂った。
男の精の匂いだった。
届かない距離で鎖に繋がれ、抵抗する術を持たない夫の目の前で、何が行われたのか。
尊厳を奪われ、どんな絶望と屈辱の中で二人が息を引き切ったのか。
凄惨な現実が、冷酷にギレーヌの鼻腔を突き刺した。
(文字も読めず、獣のようだった私に、人の営みを教えてくれた恩人たちなのに……。私は、また、守れなかった。こんな、こんな睦まじかったお二人を……!)
かつて冒険者パーティ『黒狼の牙』が崩壊した時と同じだ。
自分はただ剣が強いだけで、本当に大切な人を、その尊厳すら、何ひとつ守れない。
脳裏を真っ黒な衝動が埋め尽くし、やり場のない激昂がギレーヌの全身の血を沸騰させた。
ギレーヌはゆっくりと振り返った。
その右目の魔眼が、血のような赤色に燃え上がっている。
獣の耳が怒りで完全に伏せられ、全身から放たれる圧倒的な闘気が、地下室の空気を物理的に震わせた。
「お前たち……フィリップ様の前で、ヒルダ様に何をした」
絞り出すような、だが恐ろしく低い地響きのような声が、地下室の隅々にまで染み渡る。
「ひ、ひっ……!? お、俺たちは、ただ……! 」
「き、切れ! 囲んで殺せ――!!」
生き残った傭兵たちが一斉に襲いかかる。剣神流の荒々しい一撃、北神流の奇襲、初級の攻撃魔術。
しかし、今のギレーヌにはそれらがすべて止まって見えた。
――相手が武器を振り下ろすより早く、斬る。それが剣神流の極意。
ただ圧倒的な速度で、敵の存在そのものを先んじて断ち切るのみだ。
凄まじい踏み込みの風圧だけで、放たれた初級魔術の炎が消し飛ぶ。
次の一瞬、ギレーヌの姿がかき消えた。
「がはっ!?」
すれ違いざまに放たれた一撃は、襲いかかった傭兵二人の胴体をまとめて一刀両断にしていた。
闘気をまとった斬撃は、骨も鎧も紙切れのように引き裂く。
「化け物め……ッ!」
背後から奇襲を仕掛けようとした男。
だが、野生の勘と魔眼を持つギレーヌの死角を突くことなど不可能だ。
振り返りざまの、神速の抜刀。
刃の軌道すら見えぬまま、男の上半身が虚空を舞った。
最後に残ったリーダー格の男が、腰を抜かして後ずさった。
部屋を埋め尽くし、壁を伝い落ちる肉塊と血の海。
わずか数秒。文字通りの瞬殺だった。
「ひ、ひぃぃぃっ!! 悪かった! 悪かったから命だけは――」
「興味ない」
ギレーヌの声には、怒りすら入っていなかった。
ただ、絶対的な「排除」の意志だけがある。
男が命乞いの叫びをあげるより早く、最速の「光の太刀」が男の胴体を一刀両断にした。
静寂が、地下室に戻ってくる。
残されたのは、肉塊と化した悪党どもと、冷たくなった主夫妻の亡骸だけ。
ギレーヌは剣の血を静かに払い、鞘に収めた。
そして二人の前に膝をつく。
彼女は愛刀を再び抜き放つと、二人を繋いでいた忌まわしい鉄の鎖を、一太刀のもとに断ち切った。
自由になった二人の遺体を、ギレーヌはそっと隣り合わせに並べる。
せめて最期くらいは、望んだ通りに手が届くようにと、二人の冷たい手をそっと重ね合わせた。
「……フィリップ様、ヒルダ様。お嬢様は、エリスお嬢様は、私が必ず見つけます。この命に代えても」
冷たい地下室で、ギレーヌは静かに誓った。
涙は流さない。
その代わりに、彼女の心には「エリスを守る」という、これまで以上に強固な覚悟が刻まれていた。
主夫妻の遺体を背負い、ギレーヌは再びフィットア領へと向かって歩き出す。
この凄惨な事実を胸に秘めたまま、まだ見ぬ愛弟子が世界のどこかで生きていると信じて、彼女の過酷な帰郷の旅は続くのだった。
**********
ただの幸運だと思っていた。
いや、今思えばあれは、俺たちの命を刈り取るために世界が仕掛けた最悪の罠だったのだ。
数ヶ月前、小競り合いと死体の山しか生み出さないこの紛争地帯のど真ん中に、突如として天から眩い光が降り注いだ。
光が収まった後に転がっていたのは、一組の男女。
泥を被ってなお隠しきれない、見たこともない極上の絹で仕立てられた衣服。
指や首元で妖しく輝く意匠の凝らされた魔力付与(マジックアイテム)の宝飾品。
それらを力任せに剥ぎ取り、地元の闇商人に売り叩くだけで、俺たちのような戦場にしがみつくしか能のない底辺の傭兵崩れが、数年は酒と女に溺れて遊んで暮らせるだけの大金になった。
捕らえるまでに運の悪い奴が数人くたばったがな。
「私はアスラ王国のグレイラットの名を持つ者だ。命を保障すれば、お前たちに望むだけの富をやる」
剥ぎ取られて下着姿同然になり、周囲を抜き身の剣で囲まれているというのに、男の方は驚くほどに堂々としていた。
俺たちの顔を見回し、大層なハッタリをかましながら、傲然たる不敵な笑みを浮かべやがった。
俺たちを、まるで品定めするかのようなその視線が、酷く癪に障ったのを覚えている。 一方、女の方は文字通りの狂犬だった。
見事な、燃えるような赤髪を振り乱し、値踏みするために近づいた仲間の頬をはたきやがった。
だから、分からせてやることにした。
ここがアスラの安全な領地ではなく、暴力だけが全能の地獄であることを。
俺たちは二人をぶちのめし、重い鉄の枷をはめて太い鎖で繋いでやった。
互いに手を伸ばしても、あと少しというところで鎖が激しく軋み、指先さえ絶対に届かない。
そんな絶妙で、残酷な距離にな。
いくら国で威張り散らしていようが、まともな武器も持たず、闘気もまとえない上級貴族様なんて、この戦場じゃただの言葉の通じない生ゴミに過ぎない。
そこからの日々は、退屈な戦場におけるこれ以上ない極上の娯楽となった。
残った衣服を乱暴に引き裂かれ、泥塗れの床に圧し折られてなお、女は激しく抵抗を続けた。
俺たちの顔に呪詛の言葉と共に唾を吐きかけ、貴族としての気高さを一切崩そうとはしなかった。
だが、多勢に無勢の暴力の前には、そんなプライドなど何の役にも立たない。
女のあそこに俺のモノをぶち込んでやった時、女は獣のような悲鳴をあげた。
奴らは本当に、まぎれもない上級貴族様だったのだろう。
この戦場で抱けるそこら辺の薄汚い娼婦どもとは根本から違っていた。
どれほど手荒に扱われ、地下室の埃にまみれてなお、剥き出しになった肌は驚くほど白くきめ細かかった。
過酷な地獄を生きる俺たちとは違い、いかにも豊かな領地で良い物を喰らい、何不自由なく慈しまれて育ってきたことが一目でわかる肉体。そして中も上物だった。
そのお高く留まった外見通りに女の城門も固く閉ざされていたが、なに俺の破城槌を叩きつければ問題ではなかった。
濡れていなくてもたやすくこじ開け、女の城内に侵入してやったのだ。
その瞬間、踏みにじられた気高さが悲鳴をあげて崩れ去る感覚が、俺をさらに狂わせた。
その悲鳴に応じるように、背後からこれまでに聞いたこともないような絶掛け声が上がった。
鎖に繋がれた男が、引きちぎれんばかりに身をよじり、狂ったように叫び始めたのだ。
「やめろ! 頼む、妻を、ヒルダを放してくれ!!」
男の執念は恐怖を通り越して狂気へと変わっていった。
一歩でも妻の元へ近づこうと這い回り、手首が重い鉄枷で削れていく。
肉が裂け、血が流れているというのに、男はそれすら気づかない様子で鎖を引っ張り続けた。
それでも距離を阻む鎖が届かないと分かると、男は己の無力さに絶望したのか、今度は額を冷たい石壁に何度も何度も叩きつけ始めた。
鈍い骨の音が地下室に響き、男の顔面は瞬く間に自身の血で真っ赤に染まっていく。
俺はその無惨な姿をせせら笑いながら、目の前の快楽に没頭し続けた。
入り口を破られてなお、女の通路は侵入してきた俺を押し返そうとするかのように、きつく狭かった。
外見からすると子供を産んでいてもおかしくない歳頃なのにそんなところまで下々の女とは違うのかと思った。
全く濡れていなかったため、俺の力任せの侵入は、そのヒルダという女には激痛を与えていたはずであった。
しかし初めて侵入を受けた時に悲鳴を上げた後は、歯を食いしばって声を殺し、俺から顔を背け、視線は壁に繋がれた夫に向けられていた。
そんな無駄な抵抗をせせら笑いながら、俺のモノは根元までヒルダの中に埋まり、尖端がヒルダの奥底へと届いた。
もちろんそれで終わりではない。侵入させたモノを一度ぎりぎりまで引き抜き、そしてまた勢いをつけて押し込む。
調子を付けて腰を振る。周りの連中は囃子立てる。
一度俺の形に道をつけられたヒルダの中は2度目の侵入以降は、最初ほどの抵抗を見せなかった。
本人の意思に関わりなく、ヒルダの体は摩擦による痛みを軽減すべく湿り始めていた。
俺から目を背けていたヒルダが、突如としてキッと俺の目を正面から見据えてきた。
「夫と私の身の安全を保障しなさい。さすればあなたの思い通りになりましょう」
その声には、衣服を剥ぎ取られカラダを奪われてなお、上級貴族としての確固たる意志と威厳が籠もっていた。
絶望的な状況下にあっても、己の肉体を交渉材料として差し出し、少しでも夫の命を繋ぎ止めようという必死のハッタリ。
「……いいぜ、約束しよう」
俺はニヤリと下劣な笑みを浮かべ、二つ返事で頷いてやった。
この地獄のような紛争地帯において、言葉だけの約束ほど軽いものはないというのに。
この期に及んで、まだ自分の体が交渉の対価に値すると思っている甘っちょろさを心の中で嘲笑いながら、最初から守るつもりのない約束を口にする。
その言葉を聞いた瞬間、壁の向こうの男が、より一層狂ったような絶叫を上げた。
言葉の意味を、そして俺たちがどれほど下劣な悪党であるかを誰よりも理解している男は、妻が投げ打った覚悟の重さに激昂し、血を吐きながら鎖をかき鳴らす。
「ヒルダ! 駄目だ! 交渉など応じるな! 頼む、やめてくれ――ッ!」
男の喉はついに限界を迎え、潰れた叫びが地下室に木霊した。
ヒルダはそんな夫の声に一瞬だけ悲痛そうに目を伏せたが、すぐにまた俺を冷徹に睨みつける。
彼女は己の誇りを最後の盾とし、この蹂躙を受け入れることで夫を守れると信じようとしていた。
ヒルダの両脚からは完全に力が抜けて、だらんと垂れ、俺の動きに合わせて揺れている。
あれほど俺を拒絶し、逃れようと暴れていた彼女の肉体は、今や驚くほど静かで、冷え切った塊のようになって冷たい石の床に横たわっている。
さっきまで床を蹴り、俺の体を押し返そうとしていたあの強い意志の力は、今の彼女からはひとかけらも感じられない。
俺もそろそろ限界に来ていた。
下腹部を焼くような熱が、ドクドクと出番を待って脈打っている。
息が荒くなり、視界の端が赤く染まっていく。
だが、この極上の獲物を前に、動きを緩めるつもりなど毛頭ない。
とりあえず自分が終わらせることだけ考えて、腰を振る。
ヒルダの両脚の付け根の穴は俺の動きに合わせてグチュグチュと音を立てている。
慈悲などという高尚なものは、戦場に転がる死体よりも価値がない。
俺は彼女の細い腰を骨が軋むほどに強く掴み、その白く、神聖な領域へと容赦なく肉薄した。
彼女の耳元へ顔を寄せ、周りに聞こえるように濁った声を叩きつける。
「貴族様の奥方の腹の中に下賤な傭兵の種を出してやるぞ」
俺の宣言に野郎どもが歓声を上がる。
その言葉が呪いのように響いた瞬間、ヒルダの身体がビクンと大きく跳ね上がった。
絶望に染まった瞳が、俺を真っ向から見据える。
しかし唇をキュッと噛みしめて、無言を貫いた。
次の瞬間、俺の内で堰を切ったように熱い塊が爆発した。
容赦なく、そして深く、彼女の奥底へ泥臭い傭兵の証を刻みつけていく。
ビクビクと震える彼女の身体を組み伏せたまま、俺の野卑な笑い声が地下室の天井に響き渡る。
高貴な血筋も、格式高い家柄も、いまや俺の吐き出した熱液の中にドロドロに溶けて、台無しになっていく。
出し尽くしたあとも、俺はあえて繋がったまま、彼女の耳元でさらに低く笑った。
すべてを奪われ、屈辱の涙を流す奥方の顔を、この目でじっくりと拝むために。
ヒルダの体から身を起こすと、俺は周囲で順番を待っている仲間たちに向けて、下劣な笑みを浮かべながら声を掛けた。
「おい、お前たちも、上級貴族様の慈悲に存分に与(あずか)るがいい」
その言葉を合図に、地下室に群がっていた男たちが一斉に卑俗な歓声をあげると、そそくさと自分のズボンを下ろしていく。
夫の安全と引き換えに、己の身を差し出す覚悟を決めたはずのヒルダだったが、周囲の悪党どもがぎらついた目を向けて距離を詰めてくる異様な光景に、その顔に一瞬の動揺と戸惑いが走る。
俺は、そんな彼女のわずかな動揺すらも見逃さず、さらに追い詰めるように冷酷な要求を突きつけた。
「勘違いするなよ、奥方様。あんたがすべきことは、俺相手にただ横たわっているだけじゃない。ここにいる全員を満足させてもらう。それがあんたの言う『思い通りになる』ってことだろう? できない、あるいは拒むと言うなら、さっきの約束は今ここで白紙だ」
そこからの数日間で、俺たち傭兵崩れが代わる代わるその身体を貪るたびに、地下室を満たす臭いは明確に変わり始めた。
俺たちの流した下劣な汁と泥、そして夫の手首から飛び散った血でドロドロに汚れ、耐え難い異臭を放ち始めていた。
ようやく俺に騙されたことに気付いたヒルダは罵り、再び抵抗を始めたが、一通り俺達皆に輪姦され尽くし、取引価値も無くなった女の戯れ事に耳を貸す者などおらず、殴りつけて黙らせてやった。
やがて、最高の娯楽の終わりは静かに訪れた。
あれほど激しく抵抗していたヒルダの瞳から、ついに一切の生気が消え失せたのだ。
涙すら流さず、焦点の合わない目で、ただ冷たい地下室の天井を見つめ続けるだけの、完全に壊れた人形。
何をしても、どんな屈辱を与えても、もはや彼女の口から言葉が漏れることはなかった。
妻が壊れたのを見届けたかのように、向こうの壁の男の叫び声も完全に絶えた。
男の喉は完全に潰れ、血を吐きながらガタガタと震えるだけで、ただかすれた、弱々しい嗚咽だけが時折部屋に響くようになる。
額から流れた血で泥人形のようになった男は、もう鎖をかき鳴らす力すら残っていなかった。
尊厳を根こそぎ叩き割り、精神を完全に破壊し尽くした二人の姿。
耳障りな鉄の擦れる音さえ消え失せた地下室で、俺たちは「やっぱりヤワな貴族様だ、案外早く壊れたな」と鼻で笑い、急速に興奮を失っていった。
それですべてが終わるはずだった。
俺たちは奪ったあの大金で、これからもこの地獄を何食わぬ顔でのうのうと生き延びられるはずだったのだ。
――あいつが、この鉄錆びた扉の前に現れるまでは。