※この作品はR-18です。

多幸感   作:吸引機

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※作中に未成年に対する過激な描写が含まれます。苦手な方はご注意ください。


第3話 溺れる

 

 あの夜から数か月。

 シーザーさんは私を拒絶するどころか、事あるごとに自分の個人研究室へ呼びつけるようになった。

 あの時「13歳」という事実に怯んだのは、どうやらほんの一瞬だったらしい。

 

 昼間はいつも通り、私はベガパンクさんの助手として、ラボの眩い光の中にいる。

 

 ベガパンクさんは、私から飛び出す発想を「科学の平和的利用を目的とする、全く新しい視点だ」と手放しで賞賛し、慈しむように私の頭を撫でた。

 

「君の見ている未来は、なんて優しくて美しいんだ」

 

 その言葉を、私は曖昧な微笑みで受け流す。

 

 彼が「救済」と呼ぶ私の新理論が、ほんの数行、定数を書き換えるだけで「絶滅」の計算式に変わることを、私は知っている。そして、その書き換えられた後の数式にこそ、私は言いようのない美しさを感じていた。

 

 

 

 夜に訪れるこの部屋の、逃げ場のない薬品の匂いだけが私を正気に戻してくれる。

 

「おい、そこを端折るな。……ったく、テメェは効率ばっかり優先して、加減を知らねェな」

 

 背後から覆いかぶさるような、あの夜と同じ体勢。シーザーさんは私の手元を覗き込みながら、大きな手で私の指先を包み込み、回路を弄る手元を矯正してくる。

 

 けれど、彼は知っている。私がベガパンクさんに見せている「新しい視点」が、そのまま裏返せば最凶の兵器になり得ることを。

 

 指導という名目で重なる彼の手は、次第に回路から離れ、執拗に私の手の甲をなぞり、指の間を割り込ませるように絡めてくる。

 

「……シーザーさん、危ないですよ。」

 

「シュロロロ! 俺が見てるんだからンなことあるわけねェだろ。俺が納得するまでそうしてろ。」

 

 耳元で響く低い声。彼の手は私の白衣の袖を捲り上げ、露わになった腕を逃がさないとでも言うかのように這い上がらせた。

 

 ゼロから世界を救う光を夢見るベガパンクさんとは違う。あの人が考える理論を、いかに自分たちの色に染め変え、歪ませるか。その一点において、私たちは間違いなく「共犯者」だった。

 

「昼間はあいつの隣で、お利口に『未来』の話をしてたんだろ? ……反吐が出るぜ。その澄ました顔の下で、俺のことばっかり考えてた癖によォ」

 

 回路をいじる手を止めた私を、彼は自分の体に引き寄せ、首筋に顔を埋めた。彼は私の体温を確かめるように、執拗にその鼻先で肌をなぞり、荒い吐息を吹きかける。

 

「……っ、シーザーさん」

 

 身を捩り、彼の胸元を押し返そうとしたその時、抑え込まれた私の視界に、彼の指先が映った。整った長い指。その爪には、毒々しい紫色のネイルが塗られている。

 

 けれど、連日の実験と研究の激しさのせいか、その端々は剥げ、ところどころ爪の地の色が覗いていた。

 

 ベガパンクさんの隣にいる時は、あんなに傲慢で完璧に見えるこの男の、隠しきれない生活の綻び。それを見つけた瞬間、胸の奥がチリりと焼けるような愛おしさに襲われた。

 

「シーザーさん。爪、剥げてますよ。」

 

「あァ? ……チッ、最近はあいつの無謀な理論の実装に追われて、手入れする暇もありゃしねェ」

 

 彼は不機嫌そうに言うと、デスクの引き出しから見慣れた小瓶を取り出した。彼が自ら調合した、揮発性が高く一瞬で定着する特殊なネイルカラー。

 

「……私に塗らせてください」

 

 私は彼の大きな手を手繰り寄せ、剥げかけた古い色を拭い去り、一本ずつ丁寧に新しい紫を乗せていく。

塗り終えた指先を眺め、彼は口角を上げた。

 

「シュロロロ!お前にも塗ってやるよ」

 

「え……」

 

「俺と同じ色に染めてやる。……拒否権なんてねェぞ?」

 

 彼は私から小瓶を奪い取ると、私の指を固定し、慣れた手つきで紫に塗り潰していく。シーザーさんの指先から伝わる熱と、鼻を突く薬品の匂い。

 

 数秒もしないうちに、私の爪は彼と同じ、毒々しくも美しい紫に染まりきった。

 

「……シュロロロ! 見ろ、お揃いだぜ」

 

 彼は紫に染まった私の手を取り、わざとらしく光にかざして眺めた。

 

「ベガパンクのやつは、人の指先の色なんて興味ねェだろうが……他の連中はどうかなァ? 言い訳を考えておくんだな、シュロロロ!」

 

 彼は私の指先に唇を寄せ、吸い付くような感触を残して笑った。

 

 翌朝、私はベガパンクさんのラボへ向かう前に白い手袋を嵌める。

 

「どうしたんだい、〇〇。怪我でもしたのかね?」

 

 ベガパンクさんは不思議そうに首を傾げたけれど、私が「少し、薬品で手が荒れてしまって」と微笑むと、「おや、それは大変だ。無理をしないようにね」と、それ以上は何も疑わなかった。

 

 手袋の中で、シーザーさんと同じ色が熱を持っている。

 

◆◆◆

 

(シュロロロ……。全く、俺は一体何をやってるんだァ?)

 

 隣で、丁寧に俺の爪に色を乗せているガキ── 〇〇の頭頂部を見下ろし、心の中で悪態をつく。

 

 俺様は忙しい。ベガパンクが次々と叩き出す非現実的な理想論を、兵器として「使える」形に落とし込むための計算で、脳味噌はいつだってパンク寸前だ。

 

 なのに、この数か月、気がつけばこのガキを部屋に呼びつけている。

 

 理由は分かっている。

 あいつ(ベガパンク)が「新しい視点だ」と絶賛したこのガキの理論を、一読して気づいてしまったからだ。

 

 このガキの思考回路は、あいつのような「救済」ではなく、俺と同じ「効率的な破壊」の形をしている。

 

(ベガパンクの野郎は、毒蛇を聖母だと思い込んで育ててやがる……)

 

 それが愉快でたまらなかった。

 あいつが大切にしている「最高傑作」の正体が、実は俺と同類の、救いようのない合理主義者だと知っているのは俺だけだ。

 

「……シーザーさん、終わりましたよ」

 

 顔を上げた〇〇の瞳に、あいつの前では決して見せない、濁った熱が宿っている。

 

 俺はその小さな指先に、同じ色を塗りつけてやった。

 

『俺と同じ色に染めてやる』

 

 それは、ただの戯れじゃない。俺の色を刻み、俺の地獄へ引きずり込むための儀式だ。

 

 手袋で隠そうが何をしようが、一度染まった魂は元には戻らねェ。

 

 ベガパンクがこのガキの正体に気づき、絶望する顔を想像するだけで、腹の底から笑いが込み上げてくる。

 

「……早く大きくなれよ、〇〇。シュロロロ!!」

 

◆◆◆

 

 ベガパンクさんが「血統因子」という生命の設計図の扉を叩き始めた頃、MADSの熱狂は頂点に達していた。

 

 私は14歳になり、ベガパンクさんの助手として、彼の生み出す膨大な理論の枝葉を整理する役割を担っている。

 

「……〇〇、この回路のバイパス理論、君の新しい視点は素晴らしい!だが、このままだと出力が一点に集中しすぎて、少し危うい。私ならこう繋いで、エネルギーを分散させるよ」

 

「……はい。勉強になります、ベガパンクさん」

 

 昼間、彼は私の持っていった「未完成の理論」を優しく添削し、平和な未来へと導いてくれる。

 

 彼は、私がその危うい一点集中の形こそが、最も効率的に対象を焼き切れる美しさを持っていると確信して、あえてその形で彼に見せたことなど、微塵も疑っていない。

 

 恩義はある。彼に拾われなければ、私は今頃どこで死んでいたか分からない。彼の期待に応えたいという気持ちは、嘘じゃない。

 

 けれど、私の本質が疼くのは夜、この部屋だった。

 

「シュロロロ! さっきのバイパス、あいつには『未完成』として見せたんだろ? 実際これは、冷却系をカットすればそのまま高熱線放射器に転用できるぜ。……お前、本当に性格が悪いなァ」

 

 シーザーさんは私のノートを奪い取り、ベガパンクさんが修正した箇所をあざ笑うように塗り潰して、元の数式を強調してみせる。

 

「……ベガパンクさんには、綺麗なものだけを見ていてほしいんです。その方が、私も、彼も、幸せでしょう?」

 

「シュロロロ……お前は、あいつの隣にいる時より、俺とこうして考えている時の方が、いい面構えをしてるぜ」

 

 シーザーさんは私の頬を乱暴に掴んで上を向かせる。

 

 その瞳にあるのは、慈しみではなく、自分だけが見つけた最高に質の良い玩具を眺めるような歪な征服欲だ。

 

「いいか。あいつの光に当てられすぎて、自分が善人だと勘違いしそうになったら、いつでもここへ来い。お前の本当の居場所がどっち側にあるのか……俺が思い出させてやるよ」

 

「……」

 

「返事はどうした、クソガキ」

 

「……わかってます。私はあなたのところが一番、心地いいんです」

 

 私の言葉に、シーザーさんは口角を上げた。ベガパンクさんの期待に応えたい理性と、シーザーさんの悪意に安らぎを感じる本能。

 

 その矛盾した境界線で立ち尽くす私を、彼は逃がさないように強く抱き寄せた。

 

「だったら、忘れられねェようにしてやるよ」

 

 響く低い笑い。逃げ場を塞ぐように、その唇が私の唇に重なった。

 

 それは愛なんて生ぬるいものではなく、一方的な所有権の主張。

 

「……ん、……っ」

 

 短い、けれど深いキス。

 彼が唇を離すと、私は肩で息をしながら彼を見上げた。シーザーさんは満足げに、私の唇を親指で乱暴に拭う。

 

「……明日もあいつの隣で、お利口に未来とやらを語ってこい。……お前に誰が触れたか、忘れるんじゃねェぞ」

 

「言われなくても、忘れるわけないでしょう。……薬品臭いんです、あなたは」

 

「シュロロロ!最高の褒め言葉だぜ、クソガキ」

 

 突き放すようなやり取り。けれど、そう口にする私の心臓は、まだ痛いほどに脈打っていた。

 

 翌朝、ベガパンクさんに声をかけられるたび、私は無意識に自分の唇を指でなぞりそうになる。

 

 彼が語る輝かしい人類の夜明けは眩しすぎて、時々ひどく息苦しい。

 

 そのたびに、指先に残る薬品の匂いと、唇の熱だけが、私をこの場所に繋ぎ止める錨のように感じられた。

 

 翌年── 私が15歳を迎えた春。

 

 ベガパンクさんが血統因子という禁忌の領域に指をかけた瞬間、私たちの楽園は呆気なく崩壊した。MADSは解散。けれど、私とシーザーさんの関係は終わらなかった。

 

 世界政府の監視付きで、私たちは海軍の研究施設という、より閉鎖的で、より巨大な檻へと場所を移しただけのことだった。

 

◆◆◆

 

 パンクハザードの冷たい空気は、MADSの頃の熱狂とは質の違う、刺すような無機質さに満ちていた。

 15歳になった私はベガパンクさんの公式な助手として、海軍科学班の紋章が入った白衣に袖を通している。

 

「……あ、〇〇ちゃん。また囚人棟の備品チェック? 本当に感心だねェ、君は」

 

 廊下ですれ違った海兵が、親しげに声をかけてくる。私は「はい、データの精度に関わりますから」と、お決まりの優等生らしい微笑みを返した。

 

 海軍内での私の評価は、一貫して『善良で有能な助手』だ。

 

 横暴なシーザーさんに振り回されながらも、黙々と任務をこなす健気な少女。……それが、この白い檻で私が手に入れた護身術だった。

 

 実際、私が囚人棟へ足を運ぶのは、シーザーさんの過酷な実験でボロボロになった彼らの「生存率」を、独断で上げるためだ。

 

 シーザーさんが「次の実験で使い潰す」と記した囚人の点滴。そこに、私は懐から取り出した小さな瓶の液体── ベガパンクさんのラボから持ち出した中和剤を、慎重に数滴落とす。

 

(……これで、あと数日は持つはず。その間にベガパンクさんが別のプロジェクトに彼らを回してくれれば……)

 

 祈るような心地で、私は点滴の滴下速度を調整した。

 

 震える指先を隠すように白衣のポケットに突っ込むと、そこには先刻まで弄っていた、新型ガスの起爆回路の設計図が収まっている。

 

 あの時、効率よく爆発を連鎖させるための数式を組み上げながら、私の心臓は確かに高鳴り、完成した「完璧な破壊の形」を想像して、頬が上気するのを感じていた。

 

(兵器の回路を弄っている時はあんなに楽しいのに、彼らの悲鳴を聞くのは耐えられない。……私はなんて、都合のいい頭をしてるんだろう)

 

 彼らの命を救いたいという思いも、より美しい破壊を求める知的好奇心も、どちらも私の本質だ。

 この矛盾した二つの心が、いつか私を真っ二つに引き裂いてしまうのではないか── そんな逃げ場のない恐怖を、私はただ一人噛み締めていた。

 

「……こんなところで何してやがる、〇〇」

 

 心臓が跳ねた。背後から漂う、鼻を突くガスと薬品の匂い。振り返ると、派手なコートを翻したシーザーさんが、不機嫌そうに壁に寄りかかっていた。

 

「……囚人の生存確認です。」

 

「ンなゴミ、死んだら次を補充させりゃいいんだよ。……それより、俺の部屋に来い。新しいガスの配合を記録させる」

 

 海軍研究班ナンバー2という地位に溺れ、軍の予算を私物化し、周囲を完全に見下している今の彼は、危ういほどに傲慢だった。

 

 逆らえば何をされるか分からない。私は無言で彼の後を追った。

 

 廊下の向こうから、大きな斧を引きずった金太郎のような少年が歩いてくる。ベガパンクさんがどこからか拾ってきた、自称・ボディーガードの少年── 戦桃丸だ。

 

「おい、あまり無茶な実験で死人を出すなよ、オッサン。ベガパンクが困ってる。」

 

 まだ声変わりもしていない、けれど妙に落ち着いた声が廊下に響く。

 

「……あァ!? 誰がオッサンだ、このクソガキ!」

 

 シーザーさんが足を止め、子供相手に本気で血管を浮き上がらせる。戦桃丸は鼻を鳴らし、私をチラリと見た。

 

「〇〇、お前も大変だな。こんな中身が子供のオッサンの世話係なんてよ。」

 

「誰の中身が子供だ! 俺は世界一の科学者だぞ!!」

 

「世界一の科学者はベガパンクだろ」

 

 ギャーギャーと喚き散らすシーザーさんと、それを冷めた目で見下ろす少年。どちらが大人か分からない光景に、私は溜息を隠せなかった。

 

 シーザーさんは「あんのクソガキ!」と喚きながら、私の腕を乱暴に引いてその場を立ち去る。

 

 背中に突き刺さる戦桃丸の視線が、私の内側の矛盾── さっき救ったはずの命と、これからシーザーさんと共犯する罪を暴き出しているようで、ひどく胸が痛んだ。

 

◆◆◆

 

 シーザーさんの自室に放り込まれるなり、扉が乱暴に閉められる。

 

「……っ、シーザーさん、痛いです」

 

「黙ってろ。……どいつもこいつも、ベガパンク、ベガパンクと……」

 

 戦桃丸に「中身が子供」と図星を突かれた苛立ちが、逃げ場を失って私へと向けられる。

 

 彼は私の肩を掴んで壁に押し付けると、奪うような、そして縋るような重い口づけを落とした。

 

 白衣の下で成長し始めた私の身体のラインをなぞるように、彼の手が這う。

 

「……あ、……や、」

 

「逃げんじゃねェよ、クソガキ。……お前は俺のモノだろうが……!」

 

 怒気を含んだ吐息が耳元を掠める。

 彼は私の反応を確かめるように、わざとゆっくりと、白衣のボタンを一つずつ弾き、服を捲る。

 

 あらわになった胸元を冷たい空気が撫でるが、それ以上に彼の手のひらが触れている場所が、焼けるように熱い。

 

「あのクソガキの言葉を聞いて、俺を見下したか? 俺を笑ったか?」

 

「……っ、そんなこと、思ってな……、ん、」

 

 否定の言葉は、首筋に落とされた深い吸い口に遮られた。

 

 彼は私の自尊心を削り取るように、けれど執拗に、私が一番弱っている場所を正確に突いてくる。

 

 そのまま、彼は私を机に座らせると、強引に膝を割らせた。

 

 恥ずかしさに顔を覆おうとした両手は、彼の長い指に絡め取られ、頭上へ固定される。

 

「……見せろよ、〇〇。……外じゃいい子で通ってるお前が、今からどんな顔をするのかをな」

 

 眼鏡の奥の瞳が、獲物を狙う蛇のように細められる。やがて、彼の器用な指先が、私の境界線を容赦なく越えて侵入してきた。

 

「……あ、……ぁ、……っ!!」

 

 それは、今まで感じたことのないような、暴力的で、けれど甘い異物感。脳の奥を直接かき回されるような感覚に、私は彼の服を掴む。

 

「……シーザー、さん、……だめ、……こわい、」

 

「……何が怖いんだ? 気持ちいいんだろ。……ほら、こんなに濡れてやがる」

 

 一度引き抜かれた指には蜜液が絡みついていた。それをわざわざ目の前に突きつけられ、生理的な涙が溢れる。

 

「……っ、……ひどい、です……」

 

 シーザーさんは満足げに笑いながら、再び私の脚の間に指を沈めた。神経が集中している「嫌なところ」だけを、逃げ場を塞ぐようにして執拗に、ゆっくりと抉る。

 

「……あ、……ぅ、ん、……っ!?」

 

「ほら、ここか? ここを突かれるのが一番弱いんだろ?」

 

「……あ、……ぁ、……や、だ、……っ!!」

 

 身体の構造を知り尽くした指先の動きは、もはや暴力に近い快感だった。

 

 私が嫌がる角度をわざと選び、なぞり続ける。

 

 熱に浮かされ、快楽の波に飲み込まれながら、ふと彼の腰元に目が止まる。

 

 派手な私服のズボンの上からでも、彼が自身でも制御しきれないほどに昂ぶっているのがはっきりと分かった。

 

「……シーザーさん、……それ、……苦しくない、ですか……?」

 

 私は潤んだ瞳で彼を見上げ、縋るようにその膨らみに手を伸ばしかけた。

 

 従順な、けれど彼への隠しきれない情愛が籠もった問いかけ。

 

「……ッ、シュロロロ……! 黙れクソガキ! これは……生理現象だ!」

 

 図星を突かれ、シーザーさんの顔が一気に赤く染まる。

 

 私の手を弾くように再度掴み上げると、彼は荒い吐息を吐き捨てた。

 

 限界まで張り詰めた熱を私に押し付けながらも、彼は決定的なことはしなかった。15歳の私に流されて最後の境界線を越えることだけは、彼のなけなしのプライドが絶対に許さないのだろう。

 

 余裕を気取っていた仮面が剥がれ、焦燥と独占欲が剥き出しにした顔で、彼はさらに深く指を沈め直した。

 

「ガキが分かったような口を利くんじゃねェ! そんなこと考える暇もなくしてやるよ!」

 

 残酷なほどに的確な愛撫。

 一番触れられたくない、けれど欲しくてたまらない場所だけを、彼は長く鋭い指先で弾き、なぶり、執拗に追い詰めていく。

 

「……っ、ん、……ぁ、……っ!!」

 

 逃げ場のない快楽と、耳元で繰り返される彼の荒い吐息。

 

 戦桃丸に「中身が子供」と図星を突かれた男が、今、私という従順な一人の女を凌駕することで、必死に自分の輪郭を保とうとしている。

 

(ああ、この人は……なんて可哀想で、可愛い人なんだろう)

 

 私に「俺の方が上だ」と分からせようと躍起になっているその姿が、あまりにも不格好な執着で──

 

「……っ、あ、……しーざー、さん……だい、すき……っ」

 

 快感に震える声で、呪いのように愛を囁く。

 支配されているのは私なのに、その実、この惨めな天才科学者の逃げ場になっているのは私なのだという確信。

 

 私はその夜、彼に刻まれる快楽を、まるで宝物のように抱きしめた。

 この人の弱さごと、すべて飲み込んでしまいたかった。

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