海軍科学班へと拠点を移しても、シーザー・クラウンという男の本質は何一つ変わらなかった。むしろ、潤沢な予算と「海軍」という隠れ蓑を得たことで、彼の傲慢さと夜遊びの悪癖は、より一層拍車がかかっているようだった。
広大な研究室。ベガパンクさんや他の研究員たちが忙しなく議論を交わす喧騒の中、シーザーさんは退屈そうに私を呼びつける。
「……おい、この資料の整理はどうした。こっちへ来い」
私が隣に並び、手渡された書類に目を落とした瞬間。白衣の大きな袖の影で、紫の手袋をはめた大きな手が、迷いなく私の太ももを撫で上げた。
「っ……!」
声が出そうになるのを私は必死で飲み込む。隣で平然と「この理論は欠陥だらけだ」と毒づきながら、シーザーさんの指先は執拗に、私のスカートの裾を押し上げ、肌を乱暴に弄り回しはじめた。
(……外であんなに遊んでるくせに、なんで私に触るの?)
私は顔を伏せ耐える。シーザーさんにとって私は、いけ好かないベガパンクさんから奪い取った戦利品でしかない。
あの日、彼に指で暴かれた瞬間の私の顔を見て、彼は確かに、征服欲を満たして笑っていたのだ。
その日の深夜。研究室の控室で作業をしていた私の元へ、シーザーさんが戻ってきた。
隠そうともしない、女の甘い香り。夜の街で金と顔を武器に、自分を天才と持ち上げてくれる女たちを侍らせ、快楽を全力で謳歌してきた帰りなのだ。
「シュロロロ……! あー、やっぱり俺はどこへ行っても主役だなァ」
外で満たされた自尊心のまま、彼は私を壁に追い詰め、首筋に顔を埋める。キスもその先も与えないまま、彼は獲物に印を付けるように、私の肌を強く吸い上げた。
「……っ、痛……っ!」
「黙ってろ。……ほら、真っ赤だぜ。これで明日、あの聖者気取りのジジイの隣に立ってみろよ」
キスマーク。愛などという高尚なものではなく、ただ「自分にしかできない教育を施した」という優越感の証。
「お前を本当に肯定してやれるのは、世界で俺だけなんだよ。……そうだろ、〇〇?」
彼は満足げに笑うと、そのまま一度も振り返らず、自室へと消えていった。
数か月後。私は誕生日を迎え、16歳となった。
シーザーさんは相変わらずあからさまに別の香りを纏って深夜の資料室に現れる。そんな彼に対し、私は意地でもポーカーフェイスを貫いた。
私の態度が気に入らないのか、横を通り過ぎる際、わざとらしく鼻を鳴らした。
「おい、〇〇。なんだそのツラは。……俺が外で誰と何をしていようが、自分には関係ねェ……なんて、可愛げのねェことを考えてるんじゃねェだろうな?」
ニヤニヤと私の顔を覗き込む、その侮蔑を孕んだ余裕。
「……お好きにどうぞ。あなたの私生活に、私が口を出す権利はありませんから」
淡々と、突き放すように答える。その一言が、シーザーさんの自尊心を弾けさせた。
「シュロロロ! おもしれェ……。指先までガタガタ震わせて、よく言うぜ! お前のその嫉妬に狂った顔、見てるだけで飯がうめェよ!」
「……っ、最低です!!」
ついに限界を迎えた私の拳は、バサリと紫のガスに吸い込まれ、空を切った。
「……っ!」
「スカ振ってんじゃねェよ、クソガキが」
背後から聞こえる嘲笑。振り向くと、そこにはガス化を解き、ゆっくりと生身へと戻っていく男が立っていた。
シーザーさんは逃げようとする私の手首を掴み、自分の胸板へと無理やり押し当てる。
「そんなに俺に触れたいなら、そう言えよ」
手袋越しの指が、私の指に深く絡みつく。
「俺を、その手で捕まえてみろ」
◆◆◆
掴まれた手首から、実体化したシーザーさんの体温が伝わってくる。ガスで煙に巻いていた時とは違う、硬い胸板の圧迫感と、ドクドクと刻まれる心音。
私は彼を突き飛ばすこともできず、ただ縋るように、震える拳を彼の胸板にぎゅっと押し当てた。 逃げようのない至近距離で、彼の白衣の布地が私の指の間で引き絞られる。
「シュロロロ! お前、本当は……俺にこうされるのを、ずっと待ってたんだろ?」
私の沈黙を肯定と受け取った彼は、嘲笑を浮かべながら、空いた手で私の顎を強引に上向かせた。手袋の滑らかな感触が頬を掠め、そのまま親指が唇を割って割り込んでくる。
「あの日、指だけであんなに善がってたクソガキが…… 今日は、何をしてほしいって? 言わなきゃわかんねェよ」
わざと私の羞恥心を煽るような言い方。逃げ場を塞ぐように、シーザーさんの大きな体が私を壁に押し付ける。
「……〇〇」
見つめてくるシーザーさんの瞳から、余裕の色が少しだけ削げ落ちたような気がした。私が泣き出しそうなのを堪えて、けれど逃げずに彼を真っ直ぐに睨みつけたからか、それとも──
「……そんな目で見んじゃねェ」
低い、熱を帯びた声。直後、彼の唇が、奪うような勢いで私の口を塞いだ。
「…んっ、ふ……っ!」
酸素を奪われ、頭の中が点滅する。
壁に押し付けられた背中が痛い。けれど、それ以上に胸元を掴む彼の手が、私の逃げ道をすべて塞いでいた。
「シュロロロ……! その面だ、〇〇。……俺にめちゃくちゃにされて、悔しくてたまらねェって顔…… 最高にそそるぜ」
彼は唇を離すと、私の顎を強引に上向かせ、逃げようとする視線を真っ向から繋ぎ止めた。
「……っ、シーザー、さん、……やめて…っ!」
「やめて、だァ? ……お前、俺を掴むその手に、これっぽっちも力がこもってねェぞ」
彼は鼻で笑うと、私の震える手首を掴み、そのまま強引に横のソファへと私を引きずっていった。
「っ、あ……!」
よろめいた私の体は、抗う間もなく背中からソファへと乱暴に押し込まれる。
ギシッ、と古いスプリングが重苦しく鳴った。
見上げれば、シーザーさんが白衣を無造作に脱ぎ捨てながら、私を覆い隠すように圧し掛かってきた。
「……俺を捕まえたいなら、もっと近くに来いよ」
ソファが深く沈み込み、二人分の体温が狭い空間に閉じ込められる。
彼の手袋が、私の白衣のボタンを一つずつ、無慈悲に弾いていくたびに、私が守ってきた「ベガパンクの助手」としての理性が、音を立てて崩れていった。
「……〇〇。そんなに怯えてんじゃねェよ」
耳元で囁かれる低い声。
首筋を彼の熱い舌がなぞり、私はたまらず声を漏らして、彼の大きな肩に必死にしがみついた。
「……っ、シーザー、さん…っ……だめ、……誰か、来たら……」
「シュロロロ! 誰も来やしねェよ。……それとも何か? ベガパンクに助けでも求めてみるか?」
嫌な笑い方。彼は私の両手首を片手でまとめ上げ、頭上へ押しやった。自由を奪われた私の体に、シーザーさんの大きな体温がずっしりと圧し掛かる。
彼の手袋が、私の首元から胸元にかけて、皮膚の温度を確かめるように這った。
「……心臓がうるせェな。口ではあんな生意気なことを言って、体はこんなに俺を求めてんじゃねェか」
「……ちがっ……これは……っ」
「違わねェよ」
彼の指が、薄い下着越しに熱を伝えてくる。彼の指先が、私の胸の最も敏感な場所にわざとらしく、そして執拗に触れた。
「あ……っ! ん、ぁ……っ!」
「……もっと俺を見ろ。〇〇…!」
ソファに組み敷かれたまま、私は必死に身悶えた。
彼は、私の胸元を覆う布地に大きな手をかけると、「邪魔だ」と言わんばかりに、それを強引に上へとたくし上げた。
下着のアンダーが肌をきつく擦り、逃げ場のない圧迫感に息が詰まる。
露わになった柔らかな膨らみが、彼のぎらついた視線に晒される。ホックも外されず、中途半端に上に追いやられた布地が、かえって私の体の曲線を強調し、逃れられない支配を肌に直接刻みつけていた。
彼は私の抵抗など意に介さず、低く笑いながら、私の胸元へと顔を埋めた。
「……っ、はあ……ぁ、ああっ……っ……!!」
彼の口内の熱と、湿った舌の感触。
両手首を頭上で一つにまとめられ、ソファの沈み込みの中で私は自由を奪われていた。だが、私の肌を汚していたシーザーさんが不意に顔を上げる。
「……チッ、邪魔だな」
低く、焦れたような声。
彼は私を拘束した手はそのままに、もう片方の、私のスカートの中に潜り込もうとしていた方の手を自分の顔の前に持ってきた。
私が息を呑む間もなく、彼はその紫色の手袋の指先を、自らの唇で深く銜えた。
「……っ、シーザー、さん……?」
私を見下ろす彼の瞳が、細められ、獲物をじっくりと吟味するようにぎらつく。
彼は視線を外さないまま、前歯で手袋の端をしっかりと噛み締め、ゆっくりと、執拗な動作でそれを引き抜いていき──
ズルり、と音を立てて脱げていく手袋。
銜えられた指先から、シーザーさんの白く長い指が少しずつ露わになっていく光景は、どんな言葉よりも生々しく、これから起きる蹂躙の予感に私の心臓を激しく打ち鳴らさせた。
「シュロロロ……! 待たせたな、〇〇」
手袋を床へ吐き捨てると、剥き出しになった彼の大きな掌が、私の震える内腿を直接掴んだ。
◆◆◆
冷たい空気がスカートの中を通り抜け、震える内腿に彼の指先が触れた瞬間、私は逃げるように腰を浮かせた。
「……あ、っ……! シーザー、さん、そこ……っ、だめ……!」
「うるせェな。ダメかどうかは俺が決めるんだよ……
ほら、力抜け」
彼の長い指が躊躇なく侵入し、あの日のように私の弱いところを確実に撫でていく。
「……んっ、ぁ、……しー、ざ、……っ、……」
一本、そして二本。容赦なく内側を抉り、広げるような無慈悲な指の動き。
ソファの狭さも相まって、彼の指が動くたびに私の体は跳ね、頭上の拘束に空しく擦れる。けれど彼は、私の苦悶など楽しむようにさらに深く、執拗にその場所を掻き乱した。
「シュロロ……まだ足りねェか? ……〇〇」
嘲笑うような声。だが、その瞳もまた、私の熱に当てられたように一段と暗く、ぎらついた色を増していく。
やがて、彼は耐えきれなくなったかのように鼻を鳴らすと、指を抜く代わりに、自らの体をさらに深く沈めさせた。
「……指だけじゃ、もう満足できねェんだろ?」
「え……っ、あ……っ、嫌、……っ!!」
指が暴き出したばかりの熱く無防備なその場所に、今度はシーザーさんの舌が直接、暴力的なまでの密度で突き刺さった。
「っ、あ……あ、ぁあ……っ!!」
視界の端で、彼の紫色の髪が激しく揺れ、私の両腕を掴む彼の手が強く食い込むが、それはすぐに終わった。中を掻き乱していた指が抜き去られる。
「あ……っ、……?」
突然の喪失感に私が声を漏らしたのも束の間。彼は間髪入れずに、たった今中を汚していたその右手を、私の腰へと這わせた。
ぐい、と強引に、私の腰を自身の方へと引き寄せる大きな掌。
逃げ場を失い無防備になったその場所に、彼は指の代わりに自らを突き立てた。
「……っ!! ぁ、……あ、ぁあ……っ!!」
息が詰まる。ギリギリまで押し広げられる圧迫感と熱が、一気に最奥まで迫ってくる。
「シュロロロ! ほら、そんなに声を詰まらせるんじゃねェよ。……お前が欲しがってんだろ」
頭上で繋がれたままの私の手首が、彼の荒い動きに合わせてソファに擦れる。
「っ、あ、……しー、ざ、……さん、……っ!!」
耳元で響く荒い呼吸が、私と同じように彼も溺れていることを告げていた。
ソファを激しく軋ませながら、シーザーさんの動きが一際深く、強くなった。大きな手が私の腰を掴み、自身の方へと引き寄せる。
「シュロロロ……! 〇〇……! 逃げんじゃねェよ、しっかり受け止めろ……ッ!」
直後、私の中にある彼の芯が、はち切れんばかりに熱く、硬く膨れ上がった。
「っ、ぁ……! あ、ああ……っ、……っ!!」
逃げ場のない最奥。そこを無理やり抉じ開けるようにして、シーザーさんの「猛毒」が一気に、そして絶え間なく溢れ出した。
内臓を直接焼かれるような、あまりの熱量。ドクドクと拍動する彼の衝動が、私身体を内側から支配し、塗りつぶしていく。
私は頭上の拘束から解放されたばかりの両手で、必死に彼の大きな背中に爪を立て、絶頂の衝撃に視界を真っ白に染め上げた。
「……ハァ、……ハァ、……シュロロロ! 全部入ったぜ……。お前の中、俺のでパンパンだ……」
彼が重い体を預けてくるたびに、溢れそうになる熱い塊。
シーザーさんは私の頬を撫で、獲物を汚し尽くした充足感に満ちた、最高に醜悪で美しい笑みを浮かべた。
◆◆◆
私の中に注ぎ込まれたシーザーさんの熱は、いつまでも引くことなく、内側から私の身体を支配し続けていた。
ソファに力なく沈み込み、荒い呼吸を繰り返す私の横で、彼は意外なほどあっさりと身を起こす。
「……ハァ、……シュロロロ! 予想以上に愉しませてくれたじゃねェか、〇〇」
つい数秒前まで私を壊さんばかりに抱いていた男の声は、すでにどこか遠く、冷ややかな観察者の響きを取り戻していた。
彼は乱れた衣服を無造作に整えると、床に吐き捨てていた紫色の手袋を拾い上げ、再びその大きな手に嵌める。
「あ……、しー、ざ……さん……っ」
縋るような思いで手を伸ばしかけた私を、彼は一瞥もしない。
代わりに、彼は白衣のポケットを弄ると、一つの小さな小瓶を取り出した。
「おい、ボーッとしてんじゃねェよ。……おら、これ飲んどけ」
カラン、と乾いた音を立てて彼が放り投げた小瓶は、まだ震えの止まらない私の腹部へと無造作に落とされた。
「……これ、は……?」
「俺が特製で作った避妊薬だ。……シュロロロ! お前にガキなんてできちまったら、ベガパンクにどんな顔して会えばいいか分からねェからなァ」
その言葉に、体温が急速に奪われていくのを感じた。あんなに熱く私を求めていたのは愛などではなく、ただの略奪。
「避妊」という言葉をこれほどまで残酷に、事務的に放り投げられる屈辱に唇が震えた。
「……っ、ひどい……」
「ひどい? 科学者ならリスク管理は当然だろォ? ……まァ、そんな顔すんな」
彼はようやく私の方を向くと、手袋を嵌め直した指先で、私の涙に濡れた頬を乱暴に拭った。
「その薬を飲めば、お前の中の『俺の痕跡』は綺麗さっぱり消える。……明日にはまた、あのアホ面したジジイの隣で、澄ました顔の助手に戻れるぜ。シュロロロ!」
高笑いを残し、シーザーさんは一度も振り返ることなく扉へと歩き出す。その背中を見送りながら、私は震える指先で、腹部の上に転がされた冷たい小瓶を拾い上げた。
(……これで、終わりなんだ)
彼にとって私は、使い捨ての実験体か、あるいはベガパンクさんを出し抜くための道具に過ぎない。
虚脱感と屈辱に突き動かされるまま、私は彼に背を向けた状態で小瓶の蓋を開け、中の透明な液体を一気に喉へと流し込んだ。
焼け付くような苦みが喉を通り、胃の奥へと落ちていくその瞬間。
ガチャ、と扉のノブに手がかけられた音と共に、シーザーさんの足が止まる。彼は部屋を出るその刹那、わずかに首だけを動かし、肩越しに鋭い視線を私へと投げた。
私が薬を飲み干したのを見届けると、彼の口角が、ほんの一瞬だけ、獲物を完全に仕留めた獣のように深く吊り上がる。
「……シュロロロ! 良い子だ、〇〇」
今度こそ、扉が重い音を立てて閉まった。