いつもは騒がしいこの教室も、放課後になれば静けさが訪れる。聞こえてくるのは運動部のかけ声や楽器の音、そして鳥の鳴き声や自動車の走行音くらいだ。
そんな人のはけた教室で、佐藤悠斗は独りですることもなく、借りた文庫本に目を通していた。悠斗はこの時間が好きだった。公共の空間でありながら誰にも邪魔されず、しかし世界とはゆるくつながったような、哀愁に満ちたこの空間を独り占めできるからだ。
(今日も誰かと話すことはなかったな……)
一日の出来事を振り返る悠斗。正確には、筆記用具を忘れた隣の席のやつにシャーペンと消しゴムを貸し、その際に言葉を交わしたのだが、雑談や世間話といった会話は一切なかった。もっとも悠斗にとってはそれが日常であり、何の感情も抱くことはなかった。
高校に入学した当初は、大多数の高校生がそうであるように、悠斗も周りに話しかけたり、友達を作ろうと努めたりした。だが帰宅部なのもあいまって、どれもこれも芳しくない結果に終わり、少なくとも今のクラスには、悠斗にとって友人と呼べる存在はいなかった。
ふいに震えるような音が静寂を切り裂いた。悠斗は文庫本を閉じ、ポケットから取り出したスマートフォンに目をやる。
「響香:今日部活ないから、今から帰るね」
光る画面には、メッセージアプリからの通知が、妹の名前とともに表示されている。
悠斗の家には共働きの両親のほかに、同じ高校に通う一つ年下の妹がいる。昔は仲よく一緒に遊ぶこともあったが、今では必要最低限度の会話しか交わさない仲だ。だから悠斗には、親しい間柄の人物がいないも同然だった。
だが今は、すこし状況が違う。悠斗は通知を見るや否や、口許に笑みを浮かべた。短い返信をし、ゆっくりと席を立ち、自転車置き場へ向かう。先ほどまでの鬱屈した風貌とは打って変わって、その表情は明るくなっていた。最初はいつものように猫背だった姿勢もしだいに伸び、存在感のあるものになっていき、弱々しい足取りはだんだんと自信に満ちていく。すれ違う運動部の男子や吹奏楽部の女子たちも、いつもは気にかかるが、今は視界から外れていた。悠斗の目はまっすぐ、帰るべき家の方向を見つめていた。
自転車をこぎ、家にたどり着くと、玄関の前に見慣れた人影が見えた。響香だ。
ブラウスの上にブレザーを着用した制服。肩までかかる長さの髪を一つ結びにした、シンプルな髪形。表情を隠すような、細く鋭い目。身長は、悠斗より一回り低いくらいだろうか。学生カバンのほかにもう一つ、同じくらいの大きさの木箱を抱えている。
響香は自転車の音に気づき、無言で兄のほうを振り向く。お世辞にも美人とはいえない顔立ちは、無表情を貫いていたが、悠斗は胸がどきりと高鳴り、反射的に目をそらしてしまった。
「ただいま。……今、帰ってきたとこか」
自転車を置いた悠斗は、視線を妹に向けられないまま、低く曇った声で響香に話しかけた。
「お兄ちゃんこそ」
響香のほうも、か細い声で答えた。
「……中、入るぞ」
悠斗は今にもほつれてしまいそうな表情を崩さぬまま、かばんから鍵を取り出し、ドアのカギ穴に挿した。無機質な音とともに、白を基調とした冷たい室内が静かに姿を表す。悠斗が先に入り、ドアを抑えながら響香に入るよう促す。
重く鈍い音とともにドアが閉じた。と同時に、悠斗は妹の華奢な体躯をドアに押し付け、壁ドンの姿勢をとった。響香は何か言いたげに口を開いたが、間髪入れず、悠斗の唇が塞ぐ。
家に入ってから1秒もしない間に、貪るようなキスが始まった。お互い目を閉じ、唇と舌を押し付けるように絡ませあう。
「ぷちゅ……ぷはぁっ……」
皮膚と皮膚、粘液と粘液がこすれあういやらしい音と、混ざり合う吐息、そして圧力に軋むドアの悲鳴だけが、静寂に満ちた室内にこだまする。
冷え切っていたふたつの唇が熱を帯びていく。温かい吐息が絡み合う。ふたつの身体が密着し、体温が重なっていくのを感じる。息が奪われ、頭が真っ白になる。響香の肩を掴む右手に、悠斗はさらに強く力を込めた。響香も兄の腰に手をまわし、学ランの裾をやさしく握った。
愛を確かめ合う行為のはずだったそれは、学校での波一つない水面のような日常の面影もなく、ただ渇きを潤すかのように激しく求めあうものだった。まるで餓えた獣のように、ただただ欲望と衝動に身を任せただけの喰らいつくような接吻。閉ざされた二人の世界には言葉も親愛もなく、ただ熱情のみがそこにあった。
妹の髪の香りが、かすかな汗の匂いが、悠斗の鼻腔をつく。呼応するかのように、悠斗の下半身が激情していく。
悠斗が勢いよく顔を離した。見つめあう二人の唇の間に唾液の糸がかかり、ドアのすりガラスから零れる秋の陽光に輝いている。
「もう我慢できねえ……」
悠斗がささやくように言うと、響香もすべてを察したかのように無言でうなずいた。放り出すように靴を脱ぎ、2階への階段を上る。興奮とは裏腹に交わす言葉もなく、あるのはただ小刻みに叩くような足音だけだった。
響香の部屋に2人入ると、悠斗は勢いよく扉を閉めた。
悠斗はズボンを脱ごうとして、歩きながらベルトに手をかけたが、勢いあまって足がつまづきそうになった。だが転げることなく立ち回り、流れるように1人用のベッドに体を横たえた。仰向けの体勢で、今度はゆっくりとベルトの金具をはずす。ズボンとパンツ、そして学ランが取り払われ、悠斗のペニスがあらわになった。これから起きることを予期させるように、呼吸に沿って脈打ちながら大きくそそり立つソレに、響香は息を呑む。
「今日はどうする?」
「私、上になりたい」
「わかった」
淫らな行為を前にしながらも、そっけないやり取りを交わす。いつもと変わらない二人の姿だが、わずかに感情の載った声色は情人同士のそれだった。
響香は勉強机の引き出しを開けた。中には筆記用具や小物が所狭しと入っている。細く小さい手は整然と詰められたそれらを丁寧に避け、奥底にしまわれた小箱の中から、掌に収まる大きさの黒く四角い袋を、慣れた手つきで取り出した。あまりにも迷いなく、手際のよい動きだった。流れるように外装を破り、中に入ったゴムをつまむ。ベッドの上で天を向く兄の亀頭にゴムを載せ、一物をゆっくりと包み込んでいく。一連の動きに無駄はなく、洗練された手つきでこなしてゆく。
局部に感じるゆるい締め付けと、妹の柔和な微笑み。鼻腔をつくかすかなシャンプーの香りに、悠斗の心臓がどきりと高鳴る。
(あれ、響香ってこんなに可愛かったっけ……?)
悠斗の心に、淡くやわらかな風が吹く。いつもは空気のような妹が、この時だけは鮮やかな花のように見えた。
響香はブレザーを床に放り捨てると、ベッドに膝立ちになり、悠斗の腰上にまたがった。プリーツスカートをたくし上げ、パンツを下ろす。白い無地のそれは色気とはおおよそ無縁のものにしか見えない。だが響香の姿勢も相まって、悠斗の目にはこのうえなく煽情的に見えた。
ベッドの端にパンツを脱ぎ捨てた響香は、自身のブラウスのボタンを2、3か所外した。小さな衣服に無理やり押し込められていた、パンツと柄の揃えられたブラジャーが、勢いよくはじけ飛ぶ。色気のないデザインに反して、溢れんばかりの乳房はかかえきれないほど大きく、深い谷間を作り出している。悠斗は息を呑んだ。見慣れているとはいえ、何度見ても壮観だ。怒張した下腹部にさらに力がこもる。
響香が微笑みを浮かべながら、手を後ろに回し、ブラのホックをはずす。ぱちんという小気味いい音とともにブラが取り払われると、乳房があらわになった。二つ並んだメロンのような球体は、まさに一双の凶器。暴力的なまでに豊かなそれは白みがかった薄桃色をしており、その中心では桜色に染まるつぼみが、兄の肉棒に負けじと張り詰め、男の愛撫をいまかいまかと待ちうけていた。
「じゃあ、入れるね」
ブラをベッドに置きながら、かすかな期待が混じる声で響香がささやく。ゆっくりと腰を下ろし、まずは陰唇を兄の鈴口と接吻させる。薄い膜ごしでも、妹の肉感的な割れ目が蜜液にまみれ、陰茎を迎え入れようとしているのが、悠斗にもはっきりとわかった。
刹那、響香が腰をまっすぐ落とし、兄の素肌に密着させた。
「あ……っ、ふ、あぁ……っ!」
響香が嬌声をあげた。悠斗の淫棒が響香の膣内に滑り込み、兄妹はひとつになった。生々しくグロテスクな肉棒が0.02mmの極薄を隔て、少女の肉壺に隙間なく収まる。
余韻に浸っている暇もなく、響香はぎこちなく腰を前後させた。二人分の身体が揺れる微妙な音と、荒い呼吸だけが、部屋に響く。
「あっ、ひゃっ、ん、だめっ、お兄ちゃ、そこっ……」
兄の怒張しきったペニスが、妹の膣内で前後し、子宮口にノックしては離れてを繰り返す。鋭い雁首が恥肉を引っかくたび、響香の口許からは甲高くリズミカルな喘ぎが漏れる。いつもは小さい声の妹からは想像もつかない、大きく自己主張するような声音。兄に身を任せきったがゆえの、蕩けた表情。普段は感情を出さない妹が絶対に見せることのない、裏の顔。
可憐な妹が上げる愛らしいヨガリ声に、悠斗は安堵すら覚えていたが、その一方では、ぴったりくっつき精を搾り取ろうとしてくる妹の肉壁の快感に耐えることで頭がいっぱいだった。一瞬でも気を抜いてしまったら、タガが外れたようにすべてが吐き出されてしまう。それがどんなに気持ちいいことか、悠斗の脳細胞は深く記憶していたが、今はまだその時ではないと、理性が必死に耐える。
「お兄ちゃんっ、聞、いてっ……んぁっ」
ふいに響香が口を開いた。
「今日ね、クラスの男子が、あっ……私のこときっと処女だって言ってるの、んっ……聞いちゃったのっ」
細い瞼で兄を見下ろし、喘ぎ声を交えながらゆっくりと言葉を絞り出す。快楽に溺れながらも張りつめた表情は、響香もギリギリのところで、実の兄と繋がっているという快感の波に、必死に抗おうとしていることを物語っていた。その表情と言葉で、悠斗の心の奥底がさらに燃え上がる。
同時に、悠斗の心の中で、何かどろりとしたものが輪郭を描き始める。自分の妹が、兄である悠斗自身のあずかり知らぬ場所で、どこの馬の骨ともわからない誰かから一方的に品定めされ、あまつさえ値踏みをされているという事実が、悠斗の心を突き刺す。首の根をつかまれるような感触におそわれる。どこからか焦燥感が湧き上がってくる。
「そうかっ、でもお前、とっくに処女じゃないだろ?」
悠斗も気を抜かないよう、一言一言しっかり伝えるように、言葉を絞り出す。妹を勇気づけるように、口を真一文字に結び、自信に満ちた表情をみせる。
響香を遠くから値踏みしているだけの奴らは、何もわかっちゃいない。響香の、妹の本当の価値を知っているのは、実の兄である悠斗だけなのだ。
「そうだね……ありがとう……あぁぁっ!」
感謝の言葉に嬌声を交えながら、響香はやさしくほほ笑んだかと思えば、突き上げるような嬌声をあげた。兄に身体で愛される快感と、心で愛される喜びが入り混じった、天使のような声に、悠斗の心の奥で何かが弾けた。
「ああ…お前のかわいくてエロい身体は、俺だけのものだ」
悠斗はその場にいる妹だけでなく、まるで世界全体に宣誓するかのように、強く言った。
(「きっと処女」ねぇ……今そいつらがこれを見たら、どんな顔をするんだろう)
そんなことを考えると、悠斗の猛りは一段と怒張するのであった。
同時に、響香の腰を掴んでいた両の手を離し、豊かな胸の前まで持ち上げる。そのまま、つんと勃つ妹の突起に触れ、やさしく撫でるように摘まんだ。
「あぁっ……いや、それダメ、いいっ」
呼応するかのように響香の喜悦が加速する。体全体に電流が走ったかのように、響香の胎内が収縮し、密着した兄の身体を強く愛撫する。鈍器で打たれたかのように上を向いた頭と、強く見開かれた目が、舞い降りてきた快楽を受けとめきれていないことを物語っていた。
それを見た悠斗は、口元をにやりと曲げ、さらに畳みかけるように言葉を続けた。
「お前の
幾度となく繰り返されてきた営みによって、互いの輪郭を深く記憶していった、二人の肉体。つい最近まで男を知らなかった響香の、柔らかくも引き締まった肉壺が、兄のペニスを寸分の狂いもなくとらえ、容赦なく圧迫する。
「んっ、あぁっ……、うん……私は、お兄ちゃんだけのものだもん」
響香はとろけるような女の笑みで兄を見下ろし、全世界に宣言するように、甘く、しかし狂おしい響きでやさしく言い放った。
響香の腰使いが流れるように変わった。ただでさえ激しかった前後運動は、肉欲をむさぼるように力強く快感を押し付け合う上下運動になっていた。響香の控えめに肉付いた太ももが、深くぶつかる乾いた音と、一瞬の別離さえも惜しむような、湿った局部が激しく擦れあう水音が、静まり返った部屋に響き渡る。
結合部からは、響香の愛液がとめどなく溢れ、悠斗の局部と上腿を濡らしていく。兄妹は、愛液と我慢汁と汗にまみれ卑猥な音を奏でていく。すべてを忘れたように、二人はただただ互いを貪りあっている。
「あぁぁっ、はっ……これ、いい! イっちゃう!」
響香のしなやかな肢体が波打つ。ブラウスの間から、不釣り合いなほどにまで大きな乳房が暴れ、その質量を強調する。
射精を前に、悠斗も妹に負けまいと腰を突き上げる。腰に集中する意識が、骨と骨のぶつかり合う衝撃と、下腹部の筋肉の痛みを主張するが、今はその痛みさえもが、脳髄まで支配する快楽の前座でしかなかった。
「うおっ、やべ……俺もっ、締め付け……キツくてイキそう」
兄妹の細くいびつな肉体が奏でる、艶めかしい二重奏は、静まり返った空気をつんざくような、暴力的な音色へと変わっていた。
「あっ、そこいぃ……もっとぉ……早く、お兄ちゃんのおちんぽミルク、ちょうだい……っ!」
普段のおとなしく冷めたような姿はどこへやら。息も絶え絶えになりながら、色のついた声で赤裸々にねだる響香の顔は、こころなしか紅潮している。
悠斗は目を見張った。
可愛い妹に、そんな顔で、そんな声でおねだりされて、正気を保つほうが無理な相談だ。最後まで残っていた悠斗の理性のタガが、弾けるように吹き飛んでいく。
「ああ、イクぞっ……響香っ……!」
悠斗の視界が白く染まっていく。
脳を焼き切るような、限界を超えた快楽の奔流の中。まるで悪あがきのように、踏み込むような突きを入れた瞬間、悠斗は勢い余って、響香の小さな腰まわりに這わせていた手を伸ばし、快楽に身をよじらせる敏感な頂をつねり上げた。
「あっ、そこダメぇっ、いく、いっちゃう! あぁぁぁっっ!!」
「うぁっ、ぐぁぁぁ……っ、響香ぁっ!」
手の動きに呼応して妹の細い胴体が弓なりに反りあがり、地味に結われた髪が舞う。豊かな胸部は重力に逆らい、天に向かって突っ張ろうとするが、兄の伸ばされた手に阻まれてしまい、行き場を失った快感は喘ぎとなって落ちていく。悠斗も負けじと、指先に力を籠める。
その刹那、悠斗の野太い猛り声と響香の艶を帯びた叫びが一つに混ざり合い、世界の底へと落ちていく。悠斗のペニスは小刻みに震えながら、すべてを出し切るかのような勢いで白濁を放出していく。
「あぐっ、いく、いくっっ!!」
響香は声を抑えるのも忘れ、獣のように叫びをあげて、快楽に身を投げる。兄の熱量を迎え入れようと、蜜に溢れた肉壁が激しく脈打ち、狂おしくうねり、やさしく、だがしっかりと抱きこむように、肉棒を掴んで離さない。
ただ種を受け入れるために、兄の男根を力いっぱいに締め上げる、響香の胎内。その手加減を知らない荒々しさに、悠斗の中でこわばっていたものがほぐされていく。
「はぁっ、だめ……だめこれ……すごい、やば……」
「あ、あぁ……響香……っ」
やがて、嵐のような絶頂も終わりを告げる。悠斗の目は焦点を失い、瞬きをするのも、息をするのも忘れ、ただただ天井だけを見つめていた。視界の端で、響香が跳ねたように首を上げている。きっと彼女も、同じような表情をしているような気がした。
しばらくそうしていると、悠斗の視界に移る響香の輪郭が、形を取り戻しはじめた。悠斗はぎゅっと目を瞑ると、深く息をついた。
そのままゆっくりと、響香の肢体が悠斗に覆いかぶさってくる。二人の顔が近づき、唇が重なりあう。唇の隙間から舌を絡め、ゆったりとお互いを味わい合うキス。
口許から零れる水音と、時々漏れる呼吸音はどこか淫靡で、しかし先ほどまでの暴力的なほどに激しい行為とは違い、和やかな優しさに満ち溢れていた。
悠斗の心臓は、未だに強い鼓動を響かせていた。薄い胸板を圧迫する響香の豊満な胸からも、落ち着きながらも荒さの残る心音が伝わってくる。
ワイシャツ越しに体温も伝わってきて、悠斗はどこかけだるい解放感に包まれる。何もかも投げ出して、このままずっと不徳な甘美の海に耽溺してしまいたい。そう思えるほどの安穏。
今この瞬間だけが、本当の自分だった。二人の自意識が溶けあい、形を失っていく。どちらからともなく、指を絡め合う。
その時だった。がちゃり、と玄関ドアの開く乾いた音が響いた。
二人は背中に電流が走ったかのように跳ね上がり、身を離した。結合が外れ、零れた愛液がシーツを汚す。
息が詰まる。血流が全身を駆け巡る音だけが耳に上ってくる。
だが、その後に続く音はなかった。
「隣の家だったね」
響香がぽつりとつぶやいた。可憐な顔からは血の気が引き、細い目はわずかに見開かれ、かすかに震えていた。引っ張られる感触を覚え、悠斗は目をやった。妹の小さな手がシーツをぎゅっと掴んでいる。
悠斗は何も言わず、苦い顔をしながら、響香の頭に手を置いた。乱れた髪を、頬へと撫でるようにさする。すると響香の瞳の震えは収まり、目つきは柔和なものに変わっていった。
ふいにスマホの通知音がなった。響香が無造作に置かれたバッグからスマホを取り出して確認する。
「今日も仕事で遅くなるから先夕飯食べててって、お母さんから」
抑揚のない声で淡々と言いながら、悠斗のコンドームを外して口を縛り、ティッシュにくるんで机の隅に置いた。
「……夕飯、どうする?」
未だひくつく秘所を覆うようにべっとりとついた蜜を、スカートの中に手を入れるようにして、ティッシュで何度も拭いながら、無表情で響香が聞いてくる。
「あー……冷凍の餃子あったし、それでいいんじゃね?」
脱力してベッドにあおむけになった悠斗が、興味なさげに返す。
「うん、じゃあそれとサラダに味噌汁ね」
響香は悠斗には目もくれず、今度は太ももにへばりつく二人分の熱を拭きとっていた。
悠斗は瞼を閉じ、体を強く伸ばした。大きなあくびが漏れ出、入れ替わるかのように疲労が降りてくる。
目を開けると、響香はすでに身だしなみを整えている最中だった。
ブラはベッドの上に残したまま、はちきれんばかりに大きい乳房を覆うように、外されていたブラウスのボタンを留めていく。薄手の生地があふれんばかりの双丘をはっきりと形どり、まだ火照りの冷めきっていない乳首がぽつりと居場所を主張していた。
たくし上げていた制服のスカートも元に戻し、手で軽くシワを伸ばす。
スカートの裾から覗く、膝上から太ももにかけての滑らかなライン。ついさっきまで濡れそぼっていたはずの場所が、何事もなかったかのように清楚な布地の下へと隠されていく。
悠斗の脳裏を、ついさっきまで感じていた熱が駆け巡る。精気の抜けかけていたペニスが再び鎌首をもたげ始めるのを、悠斗はただ感じ取ることしかできなかった。
それを知ってか知らずか、響香は制服を整え終えると、振り返りもせずに黙って部屋を出て行ってしまった。
その瞬間、響香の口許が一瞬だけ緩んだように見えた気がしたが、悠斗は気のせいだと思った。
再びの静寂が訪れた。悠斗は何も身に着けないまま、ぼーっと部屋の中を見つめていた。
窓の外は日も暮れ、部屋は暗くなりつつあった。
その窓に面した勉強机には、教科書や参考書、そして黒縁メガネ。小棚には、部活らしき集合写真やアニメキャラのアクリルスタンド、動物のグッズが置かれている。
壁に目をやると、響香が美術部で描いたであろう絵が掲げられていた。黒い背景の中で、赤い服を着たポニーテールの少女が、体育座りをして顔を伏せている。悠斗の心が、どうしようもなくざわつき始める。
ふいに、さきほど鼻をついた響香の汗の匂いを、肌に残る太ももの感触を思い出す。下腹部にはまだ、煮え切らない熱がくすぶっていた。
悠斗は腕を上げ、手のひらを見つめた。さっきまで妹を抱き、愛撫し、悦ばせていた手。
(いつまで、この関係は続くのだろう)
予期せぬ形で始まり、続いてしまっている禁断の関係。肌を重ねるたび、心は満たされるどころか、渇きを増していく一方だ。
いつか終わる日が、いや、終わらせなければならない日が来る。だが、そんな日が来るなど、まだ高校生の悠斗には想像もつかない。
いつか響香に男ができるのか、自分が家を出て行くのか、それとも……両親にこの関係が露見するのか。
いや、そんなこと考えたくもない。両親の顔を思い浮かべただけで、泣き出しそうなほど強烈な悪寒が、背筋を走る。
悠斗にできるのは、この隠匿された悦楽に陶酔し、肉親との許されぬ関係に溺れていくことだけだった。
(考えても仕方ないか)
悠斗はため息を吐くと、身体を起こした。パンツとスラックスを着なおすと、机の隅に置かれたコンドーム入りティッシュを拾い、響香の部屋を後にした。
1階に降りてキッチンに入ると、エプロンをつけた響香が夕飯の支度をしていた。コンロに載せられたフライパンから、香ばしい匂いがたちこめている。
響香は悠斗には目もくれず、野菜を切っている。小気味いい音が、一定間隔で聞こえてくる。
「あ、あー……」
二人の間に、重苦しい空気が立ち込めていた。どうしていいかわからず、悠斗が口ごもってしまう。
言葉をかけられた響香は、悠斗に振り向いて、無言で兄を見つめる。その乾いた目つきは、どこかを見ているようでどこも見ていないようだった。
「……なんか手伝うことある?」
絞り出すように、悠斗が言った。
「今はないかな。あとでお皿出して」
「あ、ああ」
芯のない声で答えながら、悠斗はキッチンを後にする。
味噌汁の具は何だろうな、なんてことを思いながら、悠斗はキッチンを出て、居間のソファに腰を下ろした。
何も考えずにテレビの電源をつけたテレビの画面を、悠斗はただぼんやりと見つめていた。