【裏バイト】無を崇拝する新興宗教の教祖で反出生主義者の神の依代を「女」としての喜びに目覚めさせて子孫繁栄する幸福な世界を創らせてみた件 作:みゆ_ハーメルン
原作:裏バイト:逃亡禁止
タグ:R-18 裏バイト
深夜で、海峡に架かる大橋はほぼ交通がなかった。4車線の道路は閑散としている。高い照明が路面に投光するばかりだ。大橋の下で、黒い海面が轟然と波音を立てている。
本州と四国を連絡する瀬戸大橋だ。その中央分離帯にひとりの少女が立っていた。デニム地のジャケットにシャツ、チノパンにスニーカーというラフな服装だ。
電子音が鳴る。少女はチノパンから無線機を取りだした。
《教祖さま。来ました》
「そうか。残念だ」
少女が答えると、間もなく橋桁が震動した。
見通す先から戦車が列をなして向かってくる。陸上自衛隊の中部方面隊に配備された10式戦車だ。
少女は夜闇の宙空に手を掲げる。
次の瞬間、広大な幅員のある橋桁は球状に消滅した。くり抜かれたような橋桁から、黒い海面がじかに見える。
進路がなくなり、戦車の車列は徐行する。だが、やがて夜の
橋桁は橋脚に荷重を分散している。分断され、巨大な橋桁は自重に耐えられなくなっていた。くり抜かれたほうに傾斜していく。鉄筋と鉄骨が、その軋みでいなないていた。
戦車の車列は後退を始めたが、遅かった。先頭の数台は傾斜に抗えず、海に滑落していく。重量をもつ車両が海中に没し、巨大な水柱が立つ。
少女はその光景を無感動に眺めていたが、やがて
この日の正午、香川県庁舎の展望室は白衣の集団に占拠された。
ガラス張りの展望室は白い日光が差している。その室内の全体に白衣の集団は展開していた。観光客たちは、突如として現れた集団に動揺していた。
集団の中から、やはり白衣を着た少女が進みでる。外に跳ねた髪を肩口で切っている。童顔で大きな目をしている。
白衣の男が有線のマイクを手渡す。マイクは香川県庁の危機管理課を通じて、県の防災無線に繋がっていた。それだけでなく、近隣の3県、つまり四国4県すべての防災無線に繋がっていた。
少女、出水翠は言った。
「聞け。私は白明炁神論教教祖だ。我々は世界を無に帰す。始めに、9日後の日没をもって四国全土を無に帰す。
なぜ我々が世界を無に帰すのか、理解できないものもいるだろう。この世界を砂漠や孤島に築かれた王国として考えてみるがいい。ある宇宙では、砂漠や孤島に苦しむ人々がいる。砂漠が不毛地帯、孤島が無人島であり、これらの人々が存在しなければ、私たちは幸福を感じるだろう。別の宇宙では、砂漠や孤島に幸福な人々がいる。砂漠が不毛地帯、孤島が無人島であれば、これらの人々が存在しないことに、私たちは苦しみを感じるだろうか。
苦痛のない世界は存在しない。なら、私たちは何のために生きるのか。家族のため、友のため、あるいは、なにか崇高な理念のためか。だが、それらの理由も、理由としてもつに足る理由はない。無に勝るものは何もないのだ。
だが、我々はあえて生きることを止めはしない。だから猶予を設けた。生きることを願うものは、明日の日没までに四国を出ろ。我々が四国を端緒として選んだのは、境界が明確だからだ。我々に賛同するものはそのまま残るがいい。静寂と平安を約束する」
翠は息を切った。
「たんに我々の能力を信じられないものもいるだろう。今このときにおいて、すべてを無に帰せるということを実演しよう」
そのとき、香川県庁の上空を、閲兵のために航空自衛隊の戦闘機が編隊飛行していた。編隊は空に航跡を引いている。翠が展望室で手を振ると、その編隊は消滅した。空には途切れた航跡だけが残った。
放送を終えると、翠を先頭にして、白明炁神論教の信者たちは県庁舎の正面玄関から出ていった。すでに大通りには数台のパトカーが停車していた。だが、翠が近づくとパトカーは次々に消滅した。
翠と白明炁神論教の信者たちはフェリーの車両甲板で、車座になって腰を下ろしていた。コンクリート張りの床は照明を反射し、鈍い光を放っている。フェリーは揺れ、船外から波音が響いている。
信者たちは白衣ではなく、各々、自然な服装だ。翠もデニムジャケットとチノパンを着ている。信者たちは老若男女に分かれ、ひとつの集団には見えない。だが、集まっているさまは不穏で、他の乗客たちは避けていた。
翠は四国を更地にするとき、港湾だけは残していた。期限を過ぎても、港湾には避難民が
車座の中心の床に、テレビを放映するスマートフォンが置かれている。
《
信者の男が険しい表情で言う。
「まったく。白明炁神論と白明炁神論教は別物だというのに。今からすると、あのような邪教を信じていた自分が忌まわしい。白明炁神論の教義は楽になるために無になるというものだ。そのような無はまやかし、魔境だ」
「《偽預言者に心せよ。然るのち、真の預言者現れん》だ。それに、白明炁神論も役立っている。いきなり我々が現れたところで、教えを聞くものなどいないだろう」
翠が言うと、男は無言で頭を垂れた。
車座になった信者たちに囲まれ、翠は片膝を立てて座っている。
翠は育児放棄され、養護施設で育ったため、あまり教育がない。漢字も満足に読めないほどだ。だが、ジャンヌ・ダルクなどの聖女が神学者たちを論破したように、実践にもとづく言葉は学知に勝る説得力をもっていた。
《身元確認のされた犠牲者は約18万人。推定では200万人を上回ると見なされています》
「老人や病人など移動の困難な方たちには、選ぶ機会を与えられなかったことが残念です」
信者の若い男が言う。
「大事の前の小事だ。仕方ない」
翠は淡々と言う。そのとき、スマートフォンのテレビから警報音が鳴った。
《国民保護サイレン。国民保護サイレン。屋外にいる人は、ただちに屋内に避難してください。屋内にいる人は、窓のない部屋に部屋に移動するか、またはできるかぎり窓から離れてください。今から読みあげる地域にいる人は、けっして空を見ないでください。福岡県全域、佐賀県全域、長崎県松浦市、佐世保市、佐々町…》
信者の若い女が言う。声が怒気を含んでいる。
「また益荒鬼が現れたの。私たちが救済する前に、こうして
自分たちが虐殺を犯した直後であるにもかかわらず、若い女はそう言った。炁神の力による殺人は殺人だと思っていなかった。
翠が言う。
「これは好機だ。益荒鬼はしばらく北九州の上空を漂流するだろう。私たちも当面は九州に潜伏しよう」
フェリーは福岡県の新門司港に停泊した。
埠頭で翠は信者たちに呼びかけた。
「ここでバラけよう。三上、
信者たちはうなずくと、三々五々、散っていった。
*
信者の若い女とともに翠に選ばれた百目木は、鬱積していた。
(クソ。ズラかれると思ったのに)
百目木
警察の監視を避けるため、公共交通機関は使うことができない。タクシーやライドシェアも運転手の目がある。そのため、移動は徒歩だ。
徒歩による強行軍で、百目木は疲労困憊していた。若いためか、翠と信者の女は平然としている。
百目木は溜息をつき、夜空を見上げた。黒い空にビル群が浮いている。その中で高層マンションらしいビルはとくに高い。その外壁が揺らいでいることに百目木は気づいた。
怪訝に思い、外壁を凝視する。無数にある窓の群れから、各々、人が落ちていた。ほぼ間断がない。外壁が揺らいで見えるのはそのためだった。高層マンションの住人だろう。人々はみずから飛び降りているようだった。見ているだけで、数十人に上る。
凝然として歩みをとめた百目木を、翠がふり返る。高層マンションを一瞥し、すぐまた歩きはじめる。
「行くぞ。死の王が現れたんだろう。私たちには関係ない」
百目木は小走りになり、翠に追いつく。心臓が動悸を打っている。大量死を目撃したことだけでなく、それで翠が平然としていることにも戦慄していた。
翠は歩きつつ、独りごちるように言う。
「人を自殺させる怪異らしい。なかたりさんとも呼ばれているそうだ。私たちが与えるのは死じゃない。無だ。死は苦痛だが、無は何ものでもありえない。ああした怪異が死をもたらす前に、一刻も早く、この世を無に帰さなければ」
信者の女が敬虔にうなずく。
(イカれたやつらだ。でも、力があるのは確かだ。この状況なら、こういう力のあるやつらにすり寄ってたほうがまだマシか…)
百目木は白明炁神論教の信者ではない。じつのところ、翠と同様の超能力者だった。だが、能力は比較にならない。
催眠スマホと百目木が呼ぶところのスマートフォンの画面を見せれば、相手を自由に操ることができる。
能力だけでなく、行動原理も比較できない。翠が無私で崇高な理念のために行動しているのに対し、百目木はどこまでも利己的で、通俗的だった。
女子高校生の美少女を催眠で操り、陵辱。被害者はすでに10人以上に及んでいた。最近では百目木は自宅に帰ることもなく、女子高校生の一人娘のいる家族の戸建住宅に寄食。母娘ともに犯しつつ、無為徒食の日々を送っていた。仕事は早々に辞め、催眠で操った女子大学生や、新卒の女子会社員を風俗店で働かせ、給与を貢献させていた。
そうした百目木の自由気侭な生活も、大倉さんと呼ばれる、覆面の怪人の怪異が住宅街に出現するまでだった。覆面の怪人に襲われ、住民たちは次々に発狂して自殺していった。百目木は催眠で支配下の女性たちを防壁にして、そのあいだに住宅街から逃げだした。どこまでも卑怯なありようだった。
新生した白明炁神論教は布教活動を行っていた。百目木は暫時のつもりで、その集団生活に寄食した。他の信者たちを催眠で暗示し、自身の地位を上げていった。白明炁神論教が大量虐殺を行い、自身もそれに加担させられるなど、百目木には予想できなかった。
目前には翠と信者の女の
(クソ… 能力さえなけりゃ、こんな小娘とっくに犯してるってのに)
路地の向かいから2人組の警察官が歩いてくる。警察官たちは翠たちを
「すみません。どちらに行かれるんですか」
「えっと、家に帰るところですけど」
翠が答える。
「身分証を見せてもらってもいいですか」
「ごめんなさい。家に置いてあって。今はスマホしか持ってなくて」
「遠くに出かけるような格好に見えますが」
警察官のひとりがリュックサックに目を向ける。
「着替えです。銭湯に行ってきた帰りだから。ね、お父さん?」
翠が百目木にふり向く。百目木は咄嗟に答えられなかった。
「あ、ああ…」
警察官のひとりが帯革の無線機に手を伸ばす。
その瞬間、2人の警察官は消失した。
百目木は当惑した。だが、すぐに翠が消滅させたのだと理解した。アスファルトの路面に足跡のように、2人の警察官の靴底が張りついていた。1つには靴下らしい繊維と、血塗れの肉片が載っている。
翠が無感動に百目木を見る。
「これは拾っておけ。ゴミ箱を見つけたら捨てろ」
そう言うと、また歩を進める。何事もなかったかのように信者の女もついて行く。
百目木は地面に屈みこみ、涙を堪えつつ、警察官たちの靴底を拾った。
*
警察官を殺害したため、翠たちは避難が実施され、無人の地域に行った。長崎市の郊外だ。
無人の住宅街を歩く。通りから脇道に入る階段があり、そのさきに教会の尖塔が見える。階段の脇に大浦天主堂の看板がある。
「今日はここで夜を明かそう」
翠はデニムジャケットのポケットに両手を入れ、階段を上っていった。
すでに避難が終わっているらしく、教会の敷地に人気はない。
玄関の両開きの扉を開けると、そこは広大な身廊だった。正面の最奥に祭壇が見える。堂内の天井は高く、ステンドグラスの高窓が四囲している。
祭室のほうを見てきた信者の女が言う。
「教祖さま。こちらに横になれる場所がありました」
「お前はそこで休め。私はここで見張りをする」
翠は祭壇まで行くと、壇上に登った。説教壇から椅子を引きだし、十字架の前に据える。玄関の正面だ。翠は椅子に腰かけ、足を組んだ。
百目木が信者の女とともに祭室のほうに行こうとすると、翠が呼びとめた。
「お前は私とここに残れ」
「はい…」
百目木は小声で返事し、会衆席の長椅子に腰を下ろした。木製の座面は硬く、とても寝られそうにない。壇上の翠を恨めしく見上げる。翠は椅子に座ったまま、腕組みし、瞑目している。
翠は思考に沈んでいた。
(そういえば、私はまだヤったことがなかったな…)
地元の白明郷で翠は嫌忌されていて、他人と接することはなかった。
薄目で百目木を見る。脂ぎった中年男性である百目木に、翠は嫌悪感しか覚えない。だがそれ以上に、すべてを無に帰すことを教条としながら、未経験のことがあるということに、翠は欺瞞を感じた。世界を無に帰すものの責任として、なるべく多くの快苦を経験していることがせめてもの誠実さだと考えていた。
壇上から百目木に呼びかける。
「百目木。こっちに来い」
「な、なんでしょうか」
十字架とともに翠を見上げる。
「セックスしよう。それとも、私の体に興味はないか」
敬虔な信者なら恐懼するところだが、百目木は翠が自分を粛清するつもりだと誤解した。
(クソ。なんでバレたんだ。こうなったら自棄だ…!)
「こ、これを見ろ!」
自暴自棄になり、百目木は自殺行為のつもりで翠に催眠スマホを見せた。
*
東京都の気象庁本庁舎の小部屋で、藍川時子は書類の資料を読んでいた。襟の深いシャツにワイドパンツを着て、白衣を羽織っている。直毛の髪を肩まで伸ばし、前髪は目元にかかっている。小顔で顎が細く、端正な顔立ちだ。切長の目は瞼がなかば下り、思索的な表情をしている。
異常現象を調査研究する組織、Qの一員だ。ただ、公的な身分として、時子は気象庁情報基盤部数値予報課の技官に就いていた。複雑系の数値分析は高い知能が必要だ。その職に時子は公募の中途採用で就任していた。
気象庁の数値予報課はスーパーコンピューターを使用する。そのため、時子も白衣を着用していた。
電話がかかってきて、時子はスマートフォンを取りだす。
《資料は読んだかな。時子》
「ああ。出水翠。彼女の所在が掴めるとはね。けど、いまさら彼女を調査したところでどうにもならないだろう」
《逆だ。彼女の活動を支援したい》
「ふうん。どうしてそんなことを? べつに、放っておいても公安や情報本部が彼女を見つけだせるとは思えないけど」
《彼女は有力な〈裏〉だ。彼女が力を使うほど、破局は近づく。それだけ不確実性が減るということだ。ユメがどういう策を講じるのか、分からないからな…》
「なるほど。確実なのは、破局が訪れることだけだからね」
通話の相手は黒嶺弥生だ。正確には、時子の体にも弥生の人格が宿っていたが、弥生は内省より時子との対話を重用していた。
《支援の提案といっても、疑われては意味がない。ここは私自らが赴くべきだろう。時子、お前が行け》
「分かった」
黒嶺弥生のひとりとして時子は応じた。
*
時子は大浦天主堂の玄関の扉を開けた。
照明の落ちた堂内は暗い。肋骨穹窿の天井のほうから、ステンドグラスを通じ、月光が差している。
祭壇の十字架の下に椅子が置かれている。百目木は大股を開き、信者の若い女に口淫させている。翠は百目木の膝にまたがり、チノパンを太腿まで下ろしている。
百目木は翠の陰部に手淫している。翠は体を支えられないように、百目木の首に抱きついている。
「どうだ! 参ったか、小娘が!」
「あッ♥ ごッ、ごめんなさい!♥ もう許してェ!♥」
翠は嬌声をあげ、悩乱しているようだった。それでも、玄関の扉が開いたことに気づく。
「おやおや。これはだいぶ面白いことになっているようだね」
痴態を目前にしながら、時子は平然としていた。
百目木の首に抱きついたまま、翠が激声を飛ばす。
「誰!? 彼ピとのエッチを邪魔しないで!! 神さまの力で消しちゃうよ!?♥」
その瞬間、百目木が翠に平手打ちする。
「誰が彼氏だ? あァ?」
「ごめんなさい!♥ 御主人さまです!♥」
平手打ちされたにもかかわらず、翠はかえって嬉しそうにした。
「出水翠だね。Qのものだ」
名前を出すと、翠も表情を改めた。
「黒嶺ユメ… 覚えているかな。彼女に報酬を提示して、白明炁神論の内情を探らせたのがQだ。彼女から藍川時子という名前を聞いていれば、話は早いんだけど」
「どうしてここが分かったの?」
「きみの炁神の力は、ある範囲の存在を消すものだ。その範囲には電波も含まれる。きみが力を使うとき、若干の通信障害が起こるんだよ。遮蔽物や雑音によるものでない、瞬間的な信号の消失がね。Qでは通信障害の情報を収集、分析している。
警察官を抹消したことを翠は思いだした。
「それにしても来るのが早いけど」
「Qはすでに時空間転移の技術を確立している。私も今日、東京から来たんだ。ここに来る途中で長崎土産のカステラを買ってきたよ。食べるかい?」
時子は手に提げていた紙袋を持ちあげてみせる。
翠が黙殺すると、時子は片手を口元に当てた。
「それにしても、きみがそんな小物に引っかかっているとはね」
「ひとの目の前で、彼ピの悪口を言う気!?」
翠が激昂する。時子は苦笑した。
「いやいや。けど、きみもその彼に対する愛情が異常だということには気づいているだろう?」
時子の言葉に翠は沈黙した。
「百目木太。調査員が写真を送ってきて、Qの情報と照合したよ」
「ど、どうして俺のことを知ってんだ! そのQってのが!」
百目木は狼狽する。
「ああ。Qの目的はあくまで研究調査だからね。警察じゃない。しかも、性的搾取、奴隷労働と、行っていることも些事だ。調査報告が届いたあと、関心をもつ価値がないと没却したようだ」
「く、クソ…」
見逃されたにもかかわらず、軽視されたことに百目木は屈辱を感じた。
「名前も百目木か。どどめ色という色を知っているかな? 黒光りした赤色というか、青色というか、要するにゴキブリのような色だ」
「彼ピの悪口を言わないでって言ったでしょ!」
翠が叫ぶ。
「けど、きみは違う。出水翠。超常現象の効果はAよりB、かつ、BよりC、ならばAよりCという推移律が成立しない。だから順序関係が定義できなくて、いわゆる格付けはできない。けど、Qでも試案はあってね。ほら、若い子のあいだではSCPとかいうものが流行っているんだろう?」
時子は小首を傾げる。
「クラスI、クラスN、クラスP、クラスOに分類することが提案された。
翠は百目木の膝から下り、チノパンとショーツを腰まで引きあげた。
実際、炁神の神格を宿した翠は、意識しなくてもあらゆる呪詛や霊障を阻む。百目木の催眠スマホが効いたのは、たまたま翠が百目木の性欲を受けいれていたからでしかなかった。
自身の僥倖も知らず、百目木は靴裏で翠の背中を蹴る。
「ほら! その女をさっさとどうにかしろ!」
「はい!♥ 御主人さま!♥」
蹴りだされ、転びかかって踏みとどまったあと、翠は時子と向かいあう。
「それで、なんの用? なにか用事があって来たはずでしょ」
「うん。その前に、少しいいかな。私も自分の身を守らなければいけないからね」
そう言うと、時子は会衆席の長椅子にスマホを立てかけた。
「それは?」
翠が詰問する。
「ただのビデオ通話だよ。向こうで映像をテレビに映してもらっている。ただ、テレビとビデオカメラはQが入手したものでね。ある電器店のショーウィンドウに置かれていたんだ。分かるかな、ビデオカメラがテレビの正面を向いていて、鏡のように映像をうつしているあれだよ」
翠は無言で聞いた。
「ただし、そのテレビは特殊でね。10秒後の映像をうつしていたんだ。電器店のほうでも映像を録画するようにしていたんだけど… 最後には録画された映像はこんなものだったよ。通りかかったサラリーマンの男性が、映像が10秒ほど先行していることに気づく。不思議そうに身ぶり手ぶりをする。けど、テレビで何かを見たらしく、恐怖の表情で逃げだす。そのまま通りで車に轢かれる、というものだ。死者が出て、電器店はテレビとビデオカメラを倉庫にしまった。それをQが引きとったんだ。もし、10秒後の私に異状があるようなら、向こうから電話がかかってくる」
翠は不審そうに言う。
「それだと、あんたの死期を知ることしかできないんじゃないの?」
「そうかもね。けど、まだ電話はかかってこない」
時子は平然としていた。
「用件を言おう。Qで白明炁神論教の活動を支援する。資金、物資、人員。必要なものを言ってくれ」
「ああ。それ、やめたから」
翠はあっさりと言った。
時子は絶句した。ようやく「なんだって?」とだけ口にする。
「今は彼ピが大事だし。彼ピが喜んでくれることだけしたいんだ♥ 言うなら、白明炁神論教あらため、らぶマジ新婚教ってとこかな♥」
翠は陶酔しきっていて、冗談を言っているようではない。
時子は沈黙のあと、ようやく口を開いた。
「解せないな。きみたちの教義に賛同するかはともかく、その論理的一貫性は評価していたんだけど」
翠は小馬鹿にするようにクスッと笑った。
「えー?♥ もしかして時子ちゃんも、人間は生まれてこないほうが幸福だ、みたいな戯言を信じてるくち?♥ たしかに、人間は生まれてこないほうが幸せだよ。だって、幸せは女に生まれてくることなんだから♥ そのおかげで彼ピの恋奴隷にしてもらえたんだもん♥ あと、彼ピみたいな強オスもね♥ あ。もちろん、彼ピをゲットできなかった非モテ女や、彼ピみたいな強オスじゃない負けオスは生まれて不幸かもしれないけど♥ ていうか、生まれてこないほうが幸せだとか言うのは、そういう非モテ女や負けオスだけだよね♥ 私は生まれてからずっと辛い人生だったけど… それも全部、彼ピに恋奴隷にしてもらうためだった、って分かったんだ♥ もしかして、時子ちゃん処女?♥ だから思想なんか
「こ、この俗物が…」
時子は図星を指され、思わず子供向けアニメの悪の科学者のような台詞を口にする。口元を引いて歯噛みする。
強いて冷静さを心がけ、思案する。翠が世界に終末をもたらそうとしていることが計画の前提だ。その前提が破綻していた。
壇上から百目木が呼びかける。
「おい! その女もヤりたいから連れてこい!」
「はーい♥ 御主人さま♥」
翠は上機嫌に返事をする。
「時子ちゃんも一度、御主人さまのおチンポを入れてもらったら?♥ 処女を捨てたら、変な思想も直るかもよ♥」
「少し待ってくれ」
時子は置いていたスマートフォンを取りあげた。弥生と通話する。
《いいじゃないか。その雑魚、百目木とやらの洗脳を受けてみたら。クラスNの存在にどのように干渉したのか興味がある。仮にその効果が人格に作用するものなら、きみを切るだけだ。器質的に脳に作用するものでも、私のひとりを切るだけで済む。むしろ、実験結果が取れて幸いというものだ》
「分かった」
もとより時子は弥生に従うしかない。通話を終え、時子は壇上の百目木と向かいあった。
「百目木。きみの手口は分かっている。私を洗脳してみろ」
「言われなくてもそうしてやるよ。ほら!」
疑うこともなく、百目木はスマートフォンを時子に向けた。
時子に訪れた変容は、予想を上回るものだった。時子は自分の中の弥生に呼びかける。
(弥生… これはすごいぞ。試してみろ)
(そうか)
時子の中の弥生が主人格に代わる。百目木の催眠は脳に作用するものだった。そのため、主人格になったことで、弥生の人格も影響を受ける。予想外だったのは、人格の変容のありようだった。
ふたたび時子が主人格に代わり、壇上にのぼる。白衣と上下の着衣、下着を脱衣し、床にまとめる。全裸で百目木に土下座する。
「ごッ、御主人さま♥ どうかおチンポさまを下さい♥」
目元に前髪のかかった、超然とした美人の時子からは、想像のつかない表情だ。卑屈そうに媚びた笑みを浮かべている。
「いいぞ。ほら」
百目木は信者の女を追いやる。
股間には怒張した男根が
「はああ…♥」
時子は目を見開き、星空のような燦然とした輝きを瞳に映す。
唇を尖らせ、亀頭に接吻する。そのあと、時子は苦渋の表情を浮かべた。
「あの、御主人さま、申しあげなければいけないことが…♥」
「言ってみろ」
「あのッ、あなたを
「なんだと? 手間をかけさせやがって」
百目木は時子を足蹴にする。時子は蹴られたネコのような悲鳴をあげた。
「きゃんッ♥ ごめんなさいッ♥」
「他にもなにか隠してないか? そういや、お前はいくつだ?」
時子が年齢を告げると、百目木は声を荒げた。時子は美人で童顔のために20代後半に見えるが、実際は30代後半だ。
「なんだと!? ババアじゃねェか! 俺がヤるのは17歳から27歳までなんだよ!」
「ごめんなさいッ!♥ 中年処女の新古品でごめんなさい!♥ 不良在庫の処分をさせるような真似をさせてしまい、申しわけありませんッ!♥」
時子は卑屈に平身低頭する。百目木はその後頭部を踏みにじった。そう言う百目木は40代だが、無理を言っている自覚はない。
「まあいい。ツラは良いし、チンポも乾いてるしな。ほら、腰を上げろ」
「はい!♥」
時子は四つ這いになると、その場で半周し、尻を百目木に向けた。百目木が時子の腰を掴み、男根を挿入する。
「ああッ!♥ 中年処女の新古品を使っていただき、ありがとうございます!♥」
両手で体を支え、時子は卑屈に言う。百目木が時子の腰を突く。背後のステンドグラスから月光が差しこみ、十字架と磔刑像を逆光で浮かばせている。
「ふああッ!♥ あッ!♥ あッ!♥」
膣を突かれるたび、時子は嬌声をあげる。
翠が時子に尋ねる。
「分霊って、本体みたいなものがいるんじゃないの? それを潰しておきたいんだけど」
「そッ、それは違うな♥ シロアリやミツバチの巣は機能的だが、司令塔のような個体がいるわけじゃない…♥ すべての個体は対等だが、人間の建築と異なり、設計者が不在のまま巣を築きあげるんだ♥ それと同じようなものだ♥ 実際、シロアリやミツバチの女王の呼び名は不適当だ♥ 女王はただ出産する役割をもつだけなんだから…♥ 今の私みたいにね♥ ああッ♥」
翠は満足そうに時子を見る。
「歳のことはともかく、時子ちゃんが処女で良かったよ♥ 女の子は御主人さまみたいな強オスに処女を捧げて、そのひとに一生尽くすのが幸せなんだから♥ あッ。これ《婚前交渉の禁止》って白明炁神論教の教義に加えよう♥ 女の子はみんな御主人さまに処女を捧げること♥」
「あッ!♥ ああッ!♥」
膣内射精され、時子が全身を震わせる。
百目木は時子から男根を抜き、十字架の下の椅子に腰かけた。
「ほら、メスども。掃除だ」
「はい!♥」
「はいッ!♥」
時子と翠が元気よく返事をし、百目木の両足のあいだに飛びこむ。2人で精液と愛液、処女の血に塗れた、いまだ勃起したままの男根に舌を這わせる。男根はしとどに濡れ、根元の陰嚢にまで垂れている。2人は皺だらけの陰嚢まで舐めあげた。
時子は目前で猛々しく反りかえった男根を見上げる。
「翠ちゃんが御主人さまに従ったことも、よく分かったよ…♥ 女はみんな、このおチンポさまに仕えることが幸福なんだからね♥ クラスI、クラスN、クラスP、クラスO。御主人さまはその上を行く、クラスC。《超カッコいいオスさま》のCだ♥ テッペンのクラスCから降順に
「御主人さまが一番なのは当たりまえじゃん♥」
時子とともに怒張した男根を舐めつつ、翠が応じる。
「そういえば、どどめ色は何物でもない色…♥ 玉虫のような虹色だったんだ♥ きみこそが真の虹村だったんだね♥」
赤黒く照りはえる亀頭を仰ぎ、時子はそう言った。
*
雑居ビルの空室に時子は佇んでいた。かつて黒岩人材派遣事務所が入居していた部屋だ。夜だが照明はなく、明かりは窓だけだ。
やがて扉が開き、黒嶺ユメが入ってくる。白い丈長のコートを着ている。
「あなたは時子よね」
暗闇に時子を見定めると、ユメは尋ねた。
「ああ。弥生を前にすると、きみが冷静さを欠くかもしれないからね。私が代理に立つことになった。今日は交渉をしたいからね」
「交渉?」
ユメが眼差しを険しくする。
時子は「ああ」とうなずくと、床に屈みこんだ。不透明な収納袋が置かれている。時子はそのジッパーを下ろした。
ユメは静かに息を呑む。中からユメの親友である白浜和美の顔が覗いていた。
「おおいなるものという神格に祈願して作ってもらったんだ。はじめから生命活動はしていない。言ってしまえば死体だ」
「どういうつもり?」
ユメが尋ねる。語調は静かだが、怒気を孕んでいる。
「だから交渉だ。きみは救世主願望をもっているわけじゃないんだろう。世界より、身の回りのささやかな幸福を重んじる人間のはずだ。それを見込んで頼みがある。デザイナーに時間を戻させないでほしい。起きたことをなかったことにすべきじゃない」
「あなたは私が世界を気にかけていないようなことを言ったけど、あまりにも犠牲が大きすぎるわ」
「戦争、疫病、飢饉。人類は何度も絶滅の危機に瀕してきた。今回だけが例外じゃない」
ユメは返答に躊躇した。
「けど…」
「きみの目的は彼女の命を救うことだろう。だから、これが交渉材料だ。Qが時空間転移の技術をもっていることは知っているね。この死体と、きみが見た、殺される直前のハマちゃんを入れ替える。それで時空間の矛盾はなくなる。もちろん、じかに生きているハマちゃんを作ってもらうこともできたんだけど… きみはそれを喜ばないだろう」
「当たりまえよ!」
ユメが叫ぶ。時子は小さく笑った。
「どうやら、交渉成立したみたいだね。きみはもうその気みたいだ」
ユメは言葉に詰まった。難渋そうに言う。
「けど、黒嶺弥生のことがあるわ。あの女が生きているかぎり、人類は絶滅する。そうなったら、何があっても関係ないわ…」
「そのことなら心配しなくていい。弥生は自分で消滅することに決めたからね」
「なんですって?」
ユメが不審そうにする。
時子は小さな顎に手を当てた。
「そうだね。弥生も女だったということだよ。このハマちゃんの死体に魂が入っていないということは話したね」
「ええ」
「一部の心理学者や認知科学者は心なんてないと言う。ただの電気信号だとね。けど、霊魂は存在する。裏の存在を知らなくても、そのことは分かるはずだ。だから、霊魂は存在するけれど、それはかならず肉体から生まれるものなんだ」
「何が言いたいの」
「だから、弥生も女だったってことさ。そもそも、人間が霊長類から分岐する前… 動物は真核生物から分岐し、真核生物は原核生物から分岐した。そのとき、生命は自己複製をやめて、有性生殖を始めた。個体差が生まれ、ひとつの要因で絶滅することがなくなった。代わりに、孤独と死の概念が生まれた」
ユメは苛立った。
「だから、何の話」
「死は愛の代償だった、ってことさ。弥生は愛のために死ぬことを選んだんだ。自己複製で命を永らえたときに、弥生は人間であることをやめていた。無駄に長生きしてきたけど、これでようやく女の本懐を遂げられるってとこかな」
女の本懐が云々という下りは理解しがたかったが、ユメは納得した。
「いいわ。とにかく、あなたに敵意はないもの」
時子は白衣のポケットからメモ用紙を取りだした。
「明日あたり、この病院に行くといい。公的にはハマちゃんは死んだことになっているからね。Qのほうで後始末しておくよ」
釈然としない表情をしつつ、ユメは紙片を受けとった。
「あとひとつ。破局が回避されれば、また世界の不確実性が増していき、きみの予知能力も精度が下がっていくはずだ。もともと、きみの権能はデザイナーやスター・マンより下位のものだしね。最終的には、もとの危機察知能力くらいのものに戻るはずだ。でもかまわないだろう? 本来、人生は先が分からないものだ」
「ええ。それはべつにいいわ」
貸事務所を出ていこうとして、ユメは鼻柱に皺を寄せた。
「黙っていたけど… 時子、あなた臭いわよ。いえ、幻臭じゃなくて、なにかイカ臭いにおいがするのだけど。海鮮丼でも食べた?」
尋ねられると、時子は「ケプッ」と小さなゲップをした。
「すまない。今日は御主人さまの精液を2度も飲ませてもらってね…♥ ようやく朝フェラ当番の日が回ってきたんだ♥ それに、他の奴隷に中出しした精液を、口で掃除するついでに飲ませてもらったんだ♥ いつもは精液を吸いだすと叱られるから、今日は特別なんだよ♥ そうそう。ハマちゃんが目覚めたら、きみもハマちゃんとふたりで御主人さまのハーレムに入らないか?♥ 御主人さまの好みは20歳くらいだから、きみたちは少々
時子は
「ひッ…! 遠慮するわ…!」
ユメは顔を引きつらせ、逃げるように駆けだしていった。
*
県立病院の大部屋に病床が並ぶ。そのうちのひとつで、和美は入院着で上体を起こしていた。他の入院患者の女性は中高年で、和美だけが若い。
寝台の脇に鉄パイプの丸椅子を置き、ユメは和美と向きあっていた。
和美は包帯の巻かれた後頭部を擦る。
「あー… 痛た。黒岩さんのとこで頭を殴られてから記憶がないんだよな。半年以上寝てた、って言われても全然実感ないわ」
「入院費用はQが払ってくれたわ。それから見舞金も。その代わり、被害を訴えることはしないでほしいそうよ」
「何ィ? なんでもカネで片づくと思ったら…」
ユメから預金通帳を手渡され、その額面を見ると、和美は布団に置いて合掌した。
「ごちそうさまです」
預金通帳を病床の小型金庫にしまうと、和美はユメの顔を見上げた。
「入院費用は前払いなんでしょ? さっさと退院して、そのぶん返金してもらって快気祝いに焼肉に行こうよ。もう病院食は飽きたって」
「ダメよ。きちんと入院しないと…」
病床のひとつのテレビがニュースを放映している。老婆の入院患者が無関心そうに眺めている。
《本日、衆議院の3分の2以上の賛成多数で憲法改正が可決されました。改正案は政教分離原則を廃止するもので、これにより白明炁神論教が国教として公認される見通しです》
和美が溜息をつく。
「はァ。白明炁神論って新興宗教のあれでしょ? またロクでもないことになってんな」
「そうね…」
ユメが疲れた表情でうなずく。
「ま、政治のことなんか、私らが気にしてもどうしようもないか。それより退院したらどうすっかなァ」
思案する和美に、今度は笑顔でユメは相談に乗った。
*
超常現象で破壊された都庁舎は再建され、白明炁神論教の総本山になっている。
その最上層の展望室は教祖が生活する、禁足の聖域になっている。実際には、聖域とは名ばかりの百目木の
展望室の中央で、百目木は全裸で巨大なソファに腰かけていた。周囲には全裸同然の卑猥な衣装を着た女性たちがいる。
両腕に女性たちを抱いた百目木の前で、時子は全裸でひざまずいていた。隣には、やはり全裸の翠がいる。時子は資料を読みあげた。
「男子一系、子孫繁栄。行きすぎた男女平等の是正、正しい男尊女卑の復活。連立与党は白明炁神論教のこれらの教義を国策として公認するそうだ。もとより、今は復興期で人口増加は国是だからね」
「そうか。これでまた、俺が日本の王になるときが近づいたな。ゆくゆくは世界の教皇だ」
百目木は低声で笑った。
「御苦労。褒美にチンポをしゃぶってもいいぞ」
「はひッ!♥ ありがとうございますッ!♥」
時子は裏返った声で返事すると、四つ這いで百目木の股間に頭から突っこんだ。蕩けた目で、百目木の怒張した男根を舐めまわす。
百目木は足を組むように、時子の小さな頭に太い足を回した。
「時子。お前はいい歳だが、頭が良いからそばに置いてやってるんだ。出産適齢期を過ぎた年増の女なんて、若い女の子供を代わりに育てるくらいしか役に立たないんだからな。せいぜい励めよ」
「はいッ!♥ がんばります!♥」
口の周りを涎まみれにしたまま、時子が答える。
翠が羨望の目で見る。
「いいなー。私も御褒美が欲しい」
「お前はダメだ。白明炁神論教の顔の役目があるからな。腹ボテで説教できないだろ」
「はーい♥」
翠は素直に返事をする。
周りにいるほぼ全裸の女性たちの中には、アナウンサーやグラビアアイドル、インフルエンサーといった有名人もいる。その全員が催眠スマホによる洗脳でなく、白明炁神論教に帰依して、自由意志で百目木に従っていた。
百目木はさらに白明炁神論教の支配圏を広げ、さまざまな人種、国籍の女性を
時子は男根を吐きだすと、反転して、四つ這いで腰を浮かせた。ソファに座ったままの百目木の男根に、みずから挿入する。
「あッ♥」
短く嬌声をあげる。
「おおッ♥ おおおッ♥」
百目木の太い男根で貫かれ、時子は腹の奥底から嬌声をあげる。
翠は正座して、羨ましそうに時子を見ている。時子は見返した。
「翠ちゃん♥ 私はかつて、自分の頭の良さに意味があると思っていた…♥ それは半分だけ正しかったよ♥ 女は男の子供を産むために生まれてくるんだからね♥ 女が頭の良さを示すのは、サルの尻が赤くなったり、魚の体色が鮮やかになったりするのと同じ、母親としてふさわしいことを誇示するためなんだ♥ 本来なら、母乳を与えられる大きな胸や、子供を産みやすい広い腰、そうしたものでオスにアピールすべきなんだろうけど、私は体格に恵まれなかったからね♥ けど、こうして御主人さまに見初めていただくことができた♥ 努力の甲斐があったというものさ♥ おおッ!♥」
絶頂に達したらしく、時子は白目を剥き、俯せのまま全身を痙攣させる。
その様子を見つつ、翠は以前の教団幹部の男のことを思いだしていた。教団幹部の男もやはり権力欲に憑かれていた。だが、頭が良すぎた。白明炁神論を強大にするほど、組織運営と人心操作に長けていた。他人を操作するには、その人間を理解していなければならない。
対して、百目木は自分の意思を他人に押しつけるだけだ。これが本物の王なのだ、と翠は考えた。
翠の目前で、時子の膣から男根が抜け、巨塔のように聳える。正座したまま、翠はその精液に塗れた男根に口付けした。