放課後。西日が校舎の窓を橙色に染め上げる頃、僕とさきは駅の改札前で落ち合った。
学校の制服を着た生徒たちや仕事帰りの会社員、買い出し袋を下げた主婦たちで、夕方の駅構内は独特の熱気と混雑に包まれている。
「お待たせ、はるにぃ」
人混みをすり抜けるようにして駆け寄ってきたさきが、制服の鞄を軽く揺らしながら声をかけてきた。
「ううん、僕もいま着いたところだよ。……なんか今日、いつもより人が多くない?」
「あ、それね。改札横の掲示板に書いてあったけど、隣駅の催事場で大きなイベントがあったんだって。だから団体客と重なっちゃってるみたい」
「へえ、そうなんだ。じゃあ電車、混んでるかな」
「絶対混んでるよ。覚悟しときなよ、はるにぃ」
さきは不敵に笑うと、僕の制服の袖口をちょんと引っ張った。二人で並んで改札を抜け、ホームへと続くエスカレーターを下りていく。ホームの白線の内側には、既に長い列ができていた。
「ほら、やっぱりすごい人……。ちゃんと離れないように付いてきてね?」
「大丈夫だよ。さきの方こそ転ばないでね」
「もう!子ども扱いしないでよー」
やがて、遠くからレールを軋ませる低い重低音が響き、橙色の帯を纏った電車が滑り込んできた。プシューというエア音とともに開いたドアの向こうには、既にぎっしりと乗客が詰まった車内が広がっていた。
「わっ……すごい押し出される……!」
乗車口から足を踏み入れた瞬間、後ろからの人の波に背中を押され、僕たちは車内の中ほどへと押し流された。
次の駅に着くたび、開くドアからさらに多くの乗客が雪崩れ込んでくる。乗車率100%どころか、身動きを取ることすら困難な超満員電車へと変貌していく。吊り革や手すりを掴む余裕などどこにもなく、周囲の大人たちの体躯によって僕たちの距離は強制的に押し潰されていった。
「さき、大丈夫? 手すり掴める?」
「無理無理、手が届かないよっ……! キャっ」
「うわっ、気をつけて……!」
奥へ詰めようとする大きなビジネスバッグを持った男の人の動きに煽られ、さきの身体が僕の胸元へと激しく倒れ込んできた。
ドサリと互いの身体がぶつかり合い、正面から向き合う形でぴったりと固く密着してしまう。さきの小さくて柔らかい肩が僕の胸に押し付けられ、薄い制服の生地越しに互いの体温がダイレクトに伝わり合う。
「う……ごめん、さき。押されて動けなくて……」
「いいよ、はるにぃのせいじゃないし……でもこれ、身動き取れなさすぎて笑えるね」
さきは僕の胸元に鼻先を埋めるような体制のまま、苦笑いを浮かべて僕を見上げてきた。
「苦しくない? 大丈夫?」
「うん。ちょっと狭いけど……はるにぃがクッションになってるから平気」
さきの頭から漂う、リンゴのような甘いシャンプーの匂い。制服越しに伝わってくる、女の子特有の華奢で柔らかい体温。耳元で聞こえる、少し上がった呼吸音。
至近距離で妹の存在を全身で感じ取った瞬間、僕の脳裏に警報が鳴り響いた。
(ダメだ……意識しちゃダメだ……!)
心の中で懸命に念じ、壁の広告や乗客の頭頂部に視線を逸らそうとした。けれど、僕の意思や理性とは完全に無関係に、下半身の奥底で嫌な熱が萌芽し始めてしまった。
血流が一気に集中し、股間の奥がドクンドクンと脈打ち始める。太ももの間で、忌々しい器官がぐんぐんと角度を変え、硬く張り詰めて大きくなっていく。
(嘘だろ……こんな場所で……!?)
背中に嫌な汗が吹き出した。自分の意思とは裏腹に制御が効かなくなる体に、情けなさと焦りが募っていく。抗えない本能的な生体反応として容赦なく膨らんでいく。
逃げ場のない満員電車の密着の中で、僕の男性器は完全に怒張し、固く持ち上がってしまった。
ズボンとパンツの布地を内側から限界まで押し、押し広げた硬い先端が、密着したさきの下腹部——制服のスカートの上から直接、ぐっと押し当てられてしまう。
電車の揺れや、周囲の乗客が押し寄せてくる圧力のたびに、僕の下半身は意図せずさきの下腹部へと強く押し付けられた。
(どうしよう……こんなの、恥ずかしすぎる……! よりによってさきに当たるなんて……!)
頭の中が真っ白になり、申し訳なさと焦りで冷や汗が吹き出した。身動きが取れず、どうにか腰を引こうともがいていると、下腹部に当たる異物感に気づいたさきが、目を丸くして僕の顔をじっと見上げてきた。
情けなさと申し訳なさで身を縮こまらせる僕と、至近距離でバッチリと目が合ってしまう。
けれど、さきの瞳に浮かんでいたのは、恐怖や拒絶の色ではなかった。そこにあったのは、呆れたような、そしてどこか状況を悟った可笑しそうな静かな理解だった。
さきは僕の胸元に顔を寄せると、周囲の雑音に紛れさせるように、耳元で小さく囁いた。
「……はるにぃ。男の子の身体って、本当に大変だねー」
「っ……ご、ごめん……さき……! わざとじゃないんだ……っ」
「知ってるよ。こんな混んでたら逃げようもないもんね」
真っ赤になって顔を背ける僕の反応を見て、さきは可笑しそうにクスッと小さく肩を揺らした。
超満員の車内で、僕の男性器は硬く怒張したまま、さきの下腹部に制服越しに押し当てられ続けていた。
いつもなら、ズボンや下着による締め付けや皮膚の擦れによって、耐えがたい圧迫感と生理的な激しい苛立ちに苛まれるはずだった。
しかし、周囲の人波に押され、さきの小さく柔らかな下腹部に適度な力加減でぎゅっと押し当てられている間、僕の脳裏に不思議な違和感が芽生え始めた。
(……あれ? いつもみたいな、嫌な痛みが来ない……?)
服の上から均等に圧力がかかることで、下半身を締め付けていたあの尖ったイライラや痛みが、スッと和らいでいく。むしろ、さきの柔らかい体温と適度な圧迫が、暴走する肉体の不快感を和らげるクッションの役割を果たしていた。
「……はるにぃ? 顔、真っ赤だけど大丈夫? 苦しい?」
僕が驚きと困惑で目を見開いていると、胸元に収まったさきが首を傾げて覗き込んできた。
「あ、うん……大丈夫。ただ……その……ちょっとびっくりしてて」
「びっくり? なにに?」
「……ううん、なんでもない。ここじゃ話せないから、あとで話すよ」
「ふーん……? 変なはるにぃ」
僕は恥ずかしさに耐えながら、目的地に到着するまでの数分間、静かにその圧迫感の緩和を感じ取っていた。
駅を出て、二人で並んで自宅へと向かう通学路。夕暮れの涼しい風が、火照った僕の頬を撫でていく。
「今日の電車、本当にすごかったね。押し潰されるかと思ったよ」
「う、うん……本当だね。怪我なくてよかった」
「はるにぃ、さっきからなんかソワソワしてない?」
「えっ、そんなことないよ」
マンションに到着し、カチャリとドアノブを回して玄関に入る。両親はまだ仕事で帰っておらず、静まり返った室内に入ると、僕たちは吸い寄せられるように子供部屋へと向かった。
二段ベッドの下段に腰を下ろすと、さきが制服のスカートを軽く整えながら、先に口を開いた。
「ねえ、はるにぃ。さっき電車の中で話そうとしてたことってなに? 『あとで話す』って言ってたでしょ」
「あ……うん」
僕が言い淀んでいると、さきは自分の制服のスカートの上から、下腹部のあたりに手を当てながら言った。
「実はね、私の方もさっき電車で密着してたとき、ちょっと大変だったんだよ」
「えっ……さきも?」
「うん。男の子のちんちんほど分かりやすくは膨らまないと思うんだけどさ……女の子だって、エッチなこと考えたり、体に強い刺激を受けたりすると、あそこが熱くなって血が集まるんだよ。割れ目の上の方が膨らんだり、あそこ全体がすっごく違和感と不快感があるの。なんか、むず痒くてじっとしてられなくなる感じ」
「へえ……女の子も、膨らんだりしてイライラするんだ……」
「そうだよ。だからさっき電車でギュウギュウに押されてたとき、私のもちょっとあそこが熱くなって不快だったんだよね」
「そ、そうだったんだ……全然気づかなかった……」
「そりゃ言わなかったしね。でも、はるにぃのせいだけどね!(笑)」
「ご…ごめん…?」
さきの意外な告白を聞いて、僕は大きく頷いた。そして、先ほど電車内で気づいた決定的な発見を、さきに向かって打ち明けた。
「実はさ……僕も電車の中でさきにこれを押し付けちゃってたとき、不思議なことに気づいたんだ」
「なに? どんなこと?」
「いつもなら勃起すると、ズボンに擦れたり圧迫されてすごく痛くてイライラするんだけど……でもさっき、服の上からさきの下腹部の柔らかいところにぎゅーっと押し当てられてたとき、なぜかその不快感や痛みがすごく楽になったんだよ」
さきは目を丸くして、「へえー!」と声を上げた。
「えっ、押し当てると楽になるの? 痛くなくなるの?」
「うん。適度な圧力で固定されるからか、あの嫌な痛みがスッと引いていく感じがして……」
「へえ……じゃあさ、私の充血した不快感も、押し当てたら楽になるのかな?」
さきは興味津々といった様子で、二段ベッドのマットの上に身を乗り出してきた。
「試してみる? 服とパンツを着たままでいいから、お互いの股間同士を押し当ててさ」
「え……? ここで……? でも、それって……」
「大丈夫だよ。服もパンツも着たまんまだし、変なことするわけじゃないでしょ? 痛いのを治す実験なんだから」
「う、うん……服の上からなら……やってみる?」
互いの身体に生じる「充血と膨張による生理的な不快感」を解消するという明確な名目のもと、僕たちは自然な流れでベッドの上に横たわった。
服と下着を着たまま、対面する形で互いの股間の位置を合わせる。そして、ゆっくりと体重をかけ合い、下着越しに股間同士を強く押し当て合った。
「……あ、本当だ。なんか、ぎゅーっと押されると、あそこの変な熱さと違和感が落ち着いていく気がする……」
さきが感心したように息を漏らす。
「僕も……すごく楽になる。痛みが消えていくよ」
「不思議だね……ただ押してるだけなのに」
「うん、固定されて動きにくくなるからかな……」
互いの不快感を和らげるための「実験」として始まった行為。けれど、下着越しに伝わる互いの体温と適度な圧力は、不快感を消し去ると同時に、二人の間に背徳的で静かな熱をじわじわと広げ始めていた。
二段ベッドの下段。薄明るい子供部屋の中で、僕とさきは服と下着を着たまま横たわっていた。
互いの身体に腕を回して抱き合うような体勢をとり、足を軽く交差させながら、対面で股間同士を強く押し当て合う。
服の生地を何重にも挟んでいるはずなのに、下着の奥から伝わってくる互いの生々しい体温と固い圧力が、ダイレクトに下腹部へと染み込んんでくる。
「……ん……っ……」
さきが、ふっと吐息を漏らした。
「どう……? さき、苦しくない?」
「ううん……苦しくないよ、はるにぃ。むしろ……なんか変な感じ」
「変な感じ……?」
「うん……嫌な感じじゃないよ。なんというか、じんわり温かくて……」
さきは僕の胸元に顔を寄せたまま、下腹部にぐっと体重をかけ直した。
僕の怒張した男性器が、さきの制服のスカートの上から、充血して過敏になっている彼女の下腹部へと重くめり込んでいく。
ズボンの生地の中でパンパンに張り詰め、ピリピリとした痛みを放っていた僕の性器は、さきの柔らかく温かい肉体に包み込まれるように圧迫されることで、嘘のように痛みが引いていった。
「僕……すごく楽になってきた。いつもならズボンに擦れて痛くてイライラするのに、さきに押し当ててると、全然痛くないんだ……」
「私もだよ……。あそこが充血してむず痒かったのが、はるにぃの固いところでぎゅーっと押されると、落ち着いていく……。なんか、落ち着くね……」
「うん……ホッとするよ」
互いの生理的な不快感を打ち消し合うための、極めて実用的な実験。
けれど、押し当てる力を強めたり弱めたりするたびに、布地越しに伝わる擦れる感触と熱量が、僕たちの胸の奥に静かな火種を撒き散らしていた。
「ねえ、はるにぃ……」
さきが、熱を帯びた瞳で上目遣いに僕を見つめてきた。
「ん? どうしたの?」
「押し当てる位置、少し変えてみてもいい……? もっと……一番熱くなってるところに当たると、すごく……変な感じがして」
「え……あ、うん。いいよ。さきが一番楽になるなら」
さきは膝を少し折り曲げると、僕の太ももの間に自分の片足を割り込ませるようにして、腰の位置を微調整した。
僕の固くなった先端が、さきの割れ目の中心——過敏に充血した核の部分の真上に、ピンポイントで重なる。
「んぁ……っ! そこ……っ」
さきが背中を大きく跳ねさせ、僕の制服のシャツをギュッと指先で掴んできた。喉から漏れた吐息は、今まで聞いたこともないほど甘く震えている。
「さき……!? 大丈夫……? 痛かった?」
「ううん……痛くない……っ。痛くないんだけど……なんだか、ぞくぞくして……頭がぼーっとする……」
さきは顔を真っ赤に染め、うっとりと瞳を潤ませながら、自分の腰を僕の股間へともっと強く押し付けてきた。
「はるにぃの固いのがギュッて当たると……奥の方がきゅーって絞めつけられるみたいで……すっごく変な、甘い感じがするの……」
「甘い感じ……? 痛みが引くんじゃなくて……?」
「うん……不快感が消えるだけじゃなくて、なんだか体に力が入らなくなるような……不思議な感覚になって……もっと強く押し当ててほしい……」
さきは照れと戸惑いを交えながらも、自分からゆっくりと腰を数センチだけ上下に揺すり、一番強い刺激が走る場所を探り始めた。
服と下着越しという建前があるからこそ、さきも未知の感覚に素直になり、僕もその密着の心地よさに身を委ねることができていた。
「ねえ……これ、これからもやっていいかな……?」
さきが、熱い息を僕の首筋に吹きかけ、すがるように囁いてきた。
「えっ……これからも?」
「うん……学校の帰りとか、お家で二人きりのとき。はるにぃのイライラを鎮めるためでもあるけど……私、この感じ、すごく落ち着くし……好きかも。こうやって、助け合おうよ」
「うん……そうだね。僕たちだけの、秘密の助け合いだね」
さきの提案は、僕にとっても願ってもない救いだった。自分自身でさえ持て余していた男性器の暴走を鎮められるだけでなく、妹に特別な安らぎを与えられているという実感が、僕の心を静かに満たしていった。
「約束だよ、はるにぃ。誰にも言わない、二人だけの秘密だからね」
さきはそう言って、僕の制服の首元をギュッと握り締め、胸元にすっぽりと顔を埋めてきた。
「もちろん。親にも、学校の友達にも絶対言わない。僕とさきだけの、秘密の助け合いだからね」
僕もさきの華奢な背中にそっと腕を回し、その髪に鼻先を寄せながら力強く頷いた。
下着越しに重ね合わされた股間のぬくもりと、逃げ場のない適度な圧力。ズボンの中で僕の肉体を苛んでいた引き裂くような圧迫感と痛みは、さきの身体の柔らかさに受け止められ、跡形もなく消え去っていた。
自分自身でさえ不快で忌々しいと嫌悪していた僕の男性器。そして、かぶれや充血で不便さを感じていたさきの女性器。生まれ持った身体の抗えない生理現象に苦しむ僕たちは、こうして服を着たまま股間を押し当て合うことで、互いの痛みを埋め立てる術を見つけたのだ。
「はるにぃ、あったかいね……」
「さきも、すごく温かいよ」
薄暗い子供部屋の二段ベッドの上で、僕たちは服を整えることも忘れたまま、静かに抱き合い、お互いの体温と圧力を確かめ合い続けた。
ドアの向こうで夕飯の準備をする親の気配が戻ってくるまで、僕たちはこの濃密で優しい秘密の助け合いの安らぎに身を委ねていた。
ここから始まる長く歪んだ関係の、これが本当の最初の第一歩だった。