終業式を終えた翌朝、僕たち家族は母さんの実家へ向かった。
両親の仕事の都合もあって、滞在できるのは3泊4日だけ。それでも、夏休みに入ってすぐの帰省というだけで、僕もさきも朝からどこか浮き足立っていた。
新幹線を降り、さらにローカル線へ乗り継ぐ。ガタゴトと小さく揺れる車内から外を眺めていると、窓の向こうから少しずつ高い建物が消えていった。代わりに広がっていくのは、真っ青な夏空と、強い日差しを浴びて鮮やかに輝く田んぼや畑だった。
「うわー、緑ばっかり」
窓に張りついたさきが呟く。
「去年も来たでしょ」
「去年より緑が多い気がする」
「そんなわけないじゃん」
そんな話をしているうちに、電車は小さな駅へ滑り込んだ。
駅まで迎えに来てくれた祖父の車に揺られること十数分。細い道を抜けた先に、瓦屋根の大きな日本家屋が見えてきた。母さんの実家だ。
古い木造の母屋を中心に、庭を挟んで離れや物置が並んでいる。毎年来ている場所なのに、玄関前に立つと、今年も夏休みが始まったんだという実感が急に湧いてきた。
「来たよー!」
母さんが玄関を開ける。すると、奥から賑やかな声が返ってきた。
「はるくん! さきちゃん!」
真っ先に玄関まで走ってきたのは、いとこの葵姉ちゃんと翔太だった。叔母さん一家は、僕たちより一足先に到着していたらしい。
「久しぶり!」
中学生になった葵姉ちゃんは、去年より少し大人びて見えた。けれど僕への接し方は昔から変わらない。僕を見るなり顔をほころばせ、そのまま近づいてくる。
「はるくん、また可愛くなってない?」
「え?」
「絶対なってる。なんか顔も小さくなったし」
そう言いながら、葵姉ちゃんは僕の頬を両手で軽く挟んだ。
「ちょ、葵姉ちゃん……」
「相変わらず肌も白いし。ほんと女の子みたい」
「そんなことないって」
僕が苦笑すると、葵姉ちゃんは楽しそうに笑った。昔からこうなのだ。葵姉ちゃんにとって僕は、年下のいとこというより、少し変わった可愛い弟のようなものらしい。
「ほら、こっち来て。おばあちゃんが麦茶出してくれてるよ」
「うん」
葵姉ちゃんに手を引かれ、そのまま居間へ向かおうとしたときだった。妙な視線を感じた。振り返る。さきが立っていた。さっきまで楽しそうだったはずなのに、なぜか口をへの字に曲げている。
「……さき?」
「なに」
「いや、なんか怒ってない?」
「怒ってない」
明らかに怒っている。
「じゃあ、その顔なに?」
「普通の顔」
そう言いながら、さきは僕と葵姉ちゃんが繋いでいる手をじっと見た。そして、さらに不機嫌そうに眉を寄せる。
「はるにぃ、葵姉ちゃんにデレデレしすぎ」
「してないよ」
「してる」
「してないって」
「してるもん」
さきはそれだけ言うと、ぷいっと顔を背け、翔太のいる方へ歩いていってしまった。僕は訳が分からず、その後ろ姿を見送った。
けれど、葵姉ちゃんは何かに気づいたようだった。
「ふーん」
隣で、小さく笑う。
「何?」
「別に?」
葵姉ちゃんは意味ありげに笑ったまま、僕の手を引いて居間へ向かった。その少し後ろを、さきがむすっとした顔でついてきた。僕とさきの間には、このところ、以前よりもずっと深い秘密が増えていた。
人には言えない悩みを打ち明け、弱いところまで知り合ったことで、僕たちの距離はいつの間にか以前とは少し違うものになっていた。だからなのかもしれない。
自分以外の誰かが僕に親しげに触れ、当たり前のように隣を歩いている。ただそれだけの光景が、さきにはどうにも面白くなかったらしい。もちろん、そのときの僕はまだ、そんなことにはまるで気づいていなかった。
昼間は、いとこの翔太や近所の子たちに連れられて、川遊びに出かけた。
山あいを流れる川は底まで透けて見えるほど澄んでいて、浅瀬には小さな魚が群れになって泳いでいた。
「翔太、そっち追い込んで!」
誰よりも先に川へ入ったさきが、網を片手に水の中を駆け回っている。
ハーフパンツの裾が濡れることなどまるで気にせず、魚を見つければ水しぶきを上げて追いかけ、岸に珍しい虫がいれば男子たちに混ざって真っ先に捕まえに行く。
「さき、それ俺が見つけたんだぞ!」
「捕まえた人の勝ちでしょ!」
そんなことを言いながら笑う姿は、普段のさきそのものだった。
服が汚れることも、日に焼けることも気にしない。男子相手でも遠慮せず張り合い、勝てば得意げに笑う。
こうして遊んでいると、学校で「可愛い」と騒がれていた女の子と同じ人物には見えないくらいだった。
翔太も相変わらずで、大人の目が届かなくなると、どこで覚えてきたのか怪しい知識を得意げに披露してくる。
僕が適当に聞き流していると、少し離れたところにいた葵姉ちゃんがこちらへやってきた。
「はるくん、水冷たくない?」
「最初は冷たかったけど、もう慣れたよ」
「ほんと? じゃあ向こう行ってみない? 岩の下に魚いそうじゃない?」
葵姉ちゃんが笑いながら僕の手を取ろうとした、そのときだった。
バシャッ!勢いよく水が跳ねた。
「はるにぃ!」
さきが網を抱えたまま、川の中をずかずか歩いてくる。
そして僕と葵姉ちゃんの間へ割り込んだ。
「はるにぃは私と魚探すの!」
「えー?」
葵姉ちゃんが面白そうに笑う。
「さきちゃん、さっきまで翔太たちと遊んでたじゃん」
「もう終わったの!」
「じゃあ、はるくんちょっと借りてもいいでしょ?」
「ダメ!」
ほとんど即答だった。
さきは僕の腕をぎゅっと掴むと、自分の方へ引き寄せる。
「はるにぃは私のなんだから!」
一瞬、僕も葵姉ちゃんも黙った。
言った本人も、少し遅れて自分の言葉に気づいたらしい。
「……その、兄妹なんだから!」
慌てて付け足す。
葵姉ちゃんはしばらくさきの顔を見つめ、それから堪えきれないように笑った。
「はいはい。じゃあ今日はさきちゃんに返してあげる」
「最初から私のだもん」
「物じゃないんだけど、僕……」
僕がそう言っても、さきは腕を離そうとしない。
むしろ葵姉ちゃんに見せつけるように、さらに僕の腕へ身体を寄せた。
僕には、どうしてさきがそこまで意地になっているのか分からなかった。
けれど葵姉ちゃんだけは、何か面白いものを見つけたような顔で、僕たちを眺めていた。
夕方、母屋の広い居間で親族みんなと賑やかに夕飯を囲んだあと、庭で花火をすることになった。日が沈んだ庭に、手持ち花火の光が次々と弾ける。パチパチという音とともに白や橙色の火花が散り、そのたびに子どもたちの声が上がった。
「はるくん、これ一緒にやろうよ」
葵姉ちゃんが少し大きめの花火を持って僕のところへ来ると、どこから見ていたのか、さきがすぐに割り込んできた。
「私もやる!」
そう言って、当然のように僕の隣を陣取る。
「さき、さっき翔太とやってたじゃん」
「もう終わったの」
昼間の川遊びのときとまったく同じだった。葵姉ちゃんはそんなさきを見て、また面白そうに笑っていた。やがて派手な花火を一通りやり終え、最後に残った線香花火をみんなで手にした。
昼間の熱気はすっかり消え、標高の高い田舎の夜には涼しい風が吹いていた。半袖の腕には少し肌寒いくらいだった。
「うぅ……寒い」
隣にいたさきが肩をすくめる。そして僕が何か言うより先に、ぴたりと身体を寄せてきた。
「はるにぃ、あったかい」
「ちょっと、さき。みんな見てるよ」
僕が小声で言うと、さきは気にした様子もなく、僕の腕を抱え込んだ。
「別にいいじゃん。兄妹なんだから」
昼間にも聞いたような言い訳だった。少し離れたところでは、葵姉ちゃんがこちらを見ている。目が合うと、にやりと笑われた。僕は何となく気まずくなって視線を逸らした。そのとき、さきの持っていた線香花火の先に、小さな火玉が灯った。細い火花が、暗闇の中へ静かにこぼれ落ちていく。その淡い橙色の光が、さきの横顔を照らした。昼間、川の中を走り回っていたときとはまるで違う。黙って火花を見つめる横顔は驚くほど静かで、いつもの活発なさきとは別人のように見えた。
(……さきって、こんな顔もするんだ)
僕は思わず見入ってしまった。
「はるにぃ?」
「え?」
「線香花火、見てないじゃん」
「あ……ほんとだ」
さきがくすっと笑う。その笑顔を見て、僕もつられて笑った。昼間からずっと機嫌を悪くしたり、僕の隣を取り合ったりしていたくせに、今は何事もなかったように僕の腕に寄りかかっている。面倒くさい妹だと思う。それなのに、不思議と嫌ではなかった。むしろ、こうして僕の隣を自分の居場所のように選んでくれることが、少しだけ嬉しかった。
花火を終えて母屋へ戻ると、居間では伯父さんたちがまだ酒を飲みながら話し込んでいた。僕たちも麦茶を飲みながらその輪の端に座っていると、やがて今夜の寝床の話になった。
「困ったわね。母屋の部屋、大人と小さい子たちの布団でいっぱいになっちゃったわ」
「あら、それなら離れがあるじゃない。あっちも掃除して、布団を敷いてあるわよ」
その言葉に、僕とさきは顔を見合わせた。自宅では同じ子供部屋で寝ているから、2人一緒ということ自体は珍しくない。けれど、親戚が大勢集まっているこの家で、母屋から離れた別棟を2人だけで使うことになるとは思ってもいなかった。
「はる、さき。2人で離れに行って寝てくれる?」
母さんにそう言われ、僕は少し間を置いて頷いた。
「うん。分かった」
さきも当然のように、
「いいよ」
と答える。
それだけのことなのに、なぜか少しだけ胸が騒いだ。離れは庭を挟んだ向こう側にある。母屋の明かりを背に、ランタンを片手に夜の庭を歩くと、昼間とはまるで違う場所に来たようだった。草むらからは虫の声が響き、遠くでは川の流れる音が絶えず聞こえている。古い引き戸を開けると、畳の匂いがふわりと漂った。8畳ほどの和室には、2組の布団が少し間を空けて並べられている。廊下の先には小さな洗面所とトイレもあり、今夜ここだけで過ごせるようになっていた。
「なんか、旅館みたい」
さきが楽しそうに言う。
「旅館にしては古すぎない?」
「こういうのがいいんじゃん」
僕たちは笑いながら布団へ入った。照明を消すと、古い木枠の窓から薄い月明かりだけが差し込んだ。母屋にいたときの賑やかさが嘘のように消え、聞こえるのは虫の声と川のせせらぎだけだった。
「静かだね」
「うん」
しばらくすると、さきが布団の中でもぞもぞと動く音がした。
「はるにぃ」
「なに?」
「ここ、思ったより冷える」
「窓、少し閉める?」
「それもあるけど……」
次の瞬間、隣の布団がふわりと持ち上がった。
「ちょ、さき?」
「こっちの方があったかい」
さきは当然のような顔で僕の布団へ潜り込んできた。
「自分の布団あるでしょ」
「あるけど寒いんだもん」
「同じ部屋なんだから温度一緒じゃない?」
「細かいこと言わないの」
そう言って、さきは僕の隣に収まった。
暗闇の向こうでは、母屋の明かりが庭越しに小さく見えている。
ほんの少し離れているだけなのに、ここだけ別の世界になったような、不思議な夜だった。
窓越しには母屋の廊下の明かりがかすかに届き、親たちが様子を見に来るかもしれない緊張感が漂っていた。
「さき……離れの窓、母屋から見えそうだし……親たちが様子見に来るかもしれないよ?」
僕が心配して囁くと、さきは僕の首元に両腕を回し、ぴたりと体を押し付けてきた。
「ううん……隠すんじゃなくて、ホントはいっぱい人に見せたいくらい。はるにぃが私に夢中になってるの、みんなに見せつけたいんだもん」
さきが口にしたのは、人目を気にする言葉などではなかった。それは、昼間の葵姉ちゃんへの嫉妬が形を変えた、どこか独占欲の強い言葉だった。
「さき……っ」
「ねえ……はるにぃ。今日もやってほしいな……あそこ、熱くて変な感じがするの」
さきはそう言って、僕のハーフパンツの上に手を伸ばしてきた。
けれど、ここはいとこや親戚の家の布団だ。万が一汚してしまったり、着ている服に跡が残ったら大変なことになる。
「服……脱がずにおこうね。親戚の家の布団だし、服脱いで汚したら大変だから……」
「えー……服脱がないの? 服の上からじゃ物足りないなー……」
さきは少しつまらなさそうに唇を尖らせたが、すぐに「じゃあ、下着の中に手を入れてやるならいいでしょ?」と提案してきた。
パジャマと下着のゴム紐の隙間から、そっと手を入れる。
直接肌と肌が触れ合い、下着の中でさきの過敏な部位と僕の熱量が直に重なり合った。
人目があるかもしれない緊張感と、さきの熱い体温。服の上からの物足りなさを埋めるように、僕たちの手は下着の中で滑らかに動かされ、擦り合わせが深まっていった。
離れの薄暗い布団の中。服やパジャマは脱がずに着たままで、お互いに下着のゴム紐から手を差し入れ、直接生の素肌を重ね合わせる触れ合いを行っていた。
さきの過敏な部位の温かい湿り気と、僕の怒張した男性器が、下着の中でダイレクトに密着し、擦れ合う。
さきは「ん……っ……はるにぃ……そこ……っ」と熱い吐息を僕の首元に吹きかけてくる。
服を脱いでいないという制約があるからこそ、下着の中で触れ合う肌の熱感はより一層濃密に感じられた。
さきの柔らかい皮膚と体液の感触に包まれ、僕の下半身には普段以上の血流と熱が集まっていた。
しかし、その擦り合わせがピークに差し掛かった時、僕の身体の奥深くに強い異変が起きた。
下腹部の奥、腸のあたりがギュッと激しく、暴力的なほどに収縮した。熱い塊が、抗う術もなく下半身へと猛烈に押し寄せてくる。それは、激しい尿意に似つつも、それを何十倍にも高めたような、抗うことのできない凶暴な衝動だった。
(な……なにこれ……!? トイレ……っ!? 出ちゃう……っ!)
身体の奥から溢れ出そうになる未知の激しい波に、僕は強い恐怖を覚えた。
「っ……ご、ごめん、さき……っ! トイレ……っ!」
僕は下着から弾かれたように手を抜き、さきの身体を押しのけて、離れの布団から跳ね起きた。
「えっ……? はるにぃ……? どうしたの……?」
呆然とするさきの声を背に受けながら、僕は洗面所の奥にあるトイレのドアへと飛び込み、内側から鍵をかけた。
暗いトイレの中で、壁に両手をつき、荒い息を吐きながら下半身を見下ろした。
ハーフパンツと下着を引き下げると、怒張した男性器の先端が、見たこともないほど赤く張り詰め、ドクンドクンと激しい脈打ちを繰り返している。
「はぁ……はぁ……なに……これっ……おしっこ……出ちゃう……っ!」
尿意だと思って排尿しようと下腹部に力むが、出てくるのは尿ではない。下腹部全体を突き上げるような熱い収縮が頂点に達した瞬間、僕の意志とは無関係に、身体が激しく跳ね上がった。
「っ……ぁ……っ! ぁ……っ!?」
喉から声にならない押し殺した悲鳴が漏れた。
ドクッ、ドクッという強い脈動とともに、男性器の先端から、熱くドロッとした白い液体が勢いよく噴き出してきた。
ビクンビクンと身体が収縮を繰り返すたび、白く濁った体液が何度も跳ね飛び、履いていたパジャマのハーフパンツや下着の内側に大量に撒き散らされた。
「はぁ……っ、はぁ……っ、なに……これ……っ」
激しい波が引き去った後、僕は壁に背中を預けたまま、へたり込むように床に座り込んだ。
手や服にベタリと付着した、白くドロッとした温かい体液。そして、狭いトイレの中に一瞬で充満した、塩素や栗の花のような独特の濃い匂い。
これが、男子の身体に訪れる「射精(精通)」という生理現象であることを知識としては知っていた。けれど、自分の肉体からこれほどの体液が噴き出した現実に、僕はガタガタと膝を震わせた。
トイレットペーパーで慌てて拭き取ろうとしたが、白い体液は既にパジャマと下着の布地深くまで染み込んでいた。
僕は意を決して洗面所へ出て、水道の水でパジャマのズボンとパンツを必死に洗い始めた。
その時、足音が聞こえ、離れの部屋からさきが洗面所へとやってきた。
「はるにぃ? トイレから全然戻ってこないから……って、なんでパンツ脱いで水洗いしてるの? おしっこ漏らしたの?」
「っ……! ち、ちがっ……漏らしてないよ……っ!」
クスクス笑いながら覗き込んできたさきだったが、ふと鼻をくんくんと鳴らし、首を傾げた。
「……ん? なんか変な匂いがする。プールみたいな、青くさい匂い……あ、もしかして『射精』ってやつ……?」
洗面所に漂う独特の精液臭から、さきにあっけなく見破られ、僕は顔から火が出るほどの恥ずかしさに襲われた。
「う、うん……急に出てきちゃって……服が汚れちゃったから、洗ってたんだ……」
僕が消え入りそうな声で白状すると、さきは驚きつつも、興味津々な様子を見せた。
「ふーん……男の子も色々な液が出るんだね。あ、でも着替えのパンツもパジャマも、母屋の親のカバンの中だよね? 今から取りに行くの無理じゃない?」
「う……うん……」
水洗いしてビショビショのため、僕は完全にノーパン状態になってしまった。
「じゃあさ、今日は二人ともノーパンで寝ればいいじゃん。服は乾くまで干しておいてさ」
さきはそう言うと、自分も履いていたハーフパンツと下着を脱ぎ捨てた。
「ほら、私もノーパンになるね。お揃いね」
さきは笑うと、濡れた服を干すのを手伝ってくれた後、僕の手を引っ張って布団へと戻ったのだった。
洗面所に濡れた服を干し終えると、僕とさきは静かに離れの八畳間へと戻った。
部屋の電気は消したまま、窓から射し込む月光を頼りに掛け布団の中へ潜り込む。お互いに下着を脱いだ状態の素肌同士が、密室の中でダイレクトに触れ合った。
さきは自分のパジャマのズボンと下着を脱ぎ捨てた開放感と、兄に起きた未知の出来事への興味から、布団の中で僕の首元に両腕を回し、ぴたりと身体を密着させてきた。
「ねえねえ、はるにぃ……。さっきの『射精』ってやつ……実際どうだったの? すっごく気持ちいいってホント?」
さきは暗がりの中で瞳を輝かせ、生々しい質問を投げかけてきた。
しかし、さきは僕が慌ててトイレに駆け込んで一人で射精してしまったことに対し、不満そうに唇を尖らせた。
「私、本当ははるにぃの射精するところ見たかったのに……。急にトイレに走っていっちゃうから、見られなかったじゃん。ちょっと不満だなー」
不満を漏らすさきに対し、僕は暗がりの中で苦笑いを浮かべながら、自分の身に起きた感覚を素直な言葉で整理して返した。
「ご、ごめん……自分でも何が起きてるのか分からなくて、パニックになっちゃってさ。でもね……痛くはなかったんだけど、身体の奥が急にキュッて強く締め付けられて、とにかく驚いた方が大きかったんだよ。正直、気持ちいいとかはよく分からなくて……」
「えっ、そうなの? マンガとかだとすごそうに書いてあるのに……」
「うん。だから……僕にとっては、いつもみたいにさきと服の上から押し当て合ったり、生の素肌で擦り合わせたりして不快感を消してる時の方が、ずっと安心できるし心地いいよ」
「ふーん……」
さきは少し拍子抜けしたように首を傾げたが、すぐに思い直したように嬉しそうな笑みを浮かべた。
「でもさ、はるにぃが射精したのって、私と触りっこしてたからだよね? 私との触れ合いでそうなったんだよね? ふふ、なんか嬉しいな」
さきは誇らしげに鼻を鳴らし、僕の胸元にぴったりと頬をすり寄せてきた。
「じゃあさ……もう射精が終わったんなら、いつもの押し当てっこ、やってみようよ。せっかく二人ともノーパンなんだし」
さきはそう言うと、ノーパンのまま自分の太ももをそっと開き、僕の股間に向かって自身の過敏な割れ目を直接ズリズリと押し当ててきた。
けれど、その瞬間に僕の身体にある明確な「変調」が露わになった。
いつもなら、さきの柔らかい肌や温もりが触れ合った瞬間に、僕の男性器は嫌応なしに熱を帯び、パンパンに硬く脈打ち始めるはずだった。
しかし今の僕の下半身は、力がすっかり抜け、柔らかく小さく萎縮したままだったのだ。
さきがどれだけ腰を動かし、自分の割れ目を僕の股間に押し当てても、僕の肉体は全く反応せず、硬さを取り戻してくれなかった。
「あれ……? はるにぃ、全然固くならないね……?」
さきが不思議そうに首を傾げ、指先で僕の小さくなった男性器をちょんと突いた。
(嘘だろ……なんで固くならないんだ……!?)
僕は強い焦りと困惑に包まれ、胸がキュッと締め付けられた。
普段の僕にとって、意図しない勃起はイライラと圧迫感をもたらす、忌々しい生理現象でしかない。けれど、さきを安心させ、この心地いい時間を守るためには、あの硬さが必要だったんだ。それが、今はどうしても戻ってくれない。
「う……うん。なんか……全然固くならないんだ……」
「ふーん……出ちゃった後は、固くならない仕組みなのかな」
さきはどこか物足りなそうに、僕の股間を見つめた。いつもの確かな圧迫感が得られないことが、彼女にとっても惜しいことのようだった。自分自身が嫌悪していたはずの男性器が、肝心な時に機能してくれないもどかしさと虚しさが僕を襲った。
さきはフニャフニャのまま固くならない僕の男性器に満足できない様子で、自分から積極的に動き始めた。
さきは僕の腰の上に少し乗っかるように体勢を変えると、自分のデリケートな割れ目をぐっと左右に押し開き、柔らかくなった僕の股間に直接ぐっと押し当ててきた。
「んっ……固くなくても……こうやって割れ目を広げて押し当てたら、どうかな……?」
さきが広げた過敏な粘膜の生々しい湿り気と体熱が、柔らかい僕の股間へ直接ぬめりをもって擦りつけられる。
(あ……いつもと全然違う……)
カチカチに怒張した男性器による固い圧力とは違い、柔らかいままの肌にさきの濡れた粘膜が直接ヌルりと滑る感触。それは不快感の緩和とは異なる、どこか生々しく温かい不思議な皮膚の触感だった。
さきは自ら腰を前後・左右に小刻みに揺らし、僕の股間を使って自分の過敏な部位を擦りつけ始めた。
「あ……っ……んふ……っ……はるにぃ……っ」
さきの息遣いが荒くなり、腰の動きが次第に熱を帯びていく。
「あ……おしっこが出そうな感じがくる…」
さきは僕のTシャツをギュッと掴み、過敏な粘膜が波打つ振動が僕の肌へと直接伝わってくる。そして、うっとりとした恍惚の表情で僕の胸元にへたり込んだ。さきは、僕の首元に顔を埋め、赤くなった頬をすり寄せてきた。
「はるにぃ……私……すごく安心した……。はるにぃとこうしてるの、だーい好き……」
身体が思うように反応してくれないもどかしさは、確かにあった。けれど、僕の体を使って愛おしそうに甘えてくるさきの姿を見ていると、そんな焦りさえも消えて、胸の中が爆発的な愛おしさで満たされていく。
自分を全面的に信頼して寄り添ってくれるさきを、僕は両腕で力強く抱きしめた。ノーパンのまま触れ合う、肌と肌の確かなぬくもり。僕たちは、静かな田舎の夜の中に、ゆっくりと溶け込んでいった。