秋の気配が少しずつ濃くなってきた、休日の昼下がり。
都内の大型ショッピングモールは、休日を楽しむ家族連れやカップルで賑わっていた。
僕とさきは、新学期に必要な文房具や学校用品を買うという名目で両親から小遣いをもらい、2人でここまで出かけてきた。
高いガラス張りの天井から差し込む柔らかな光。通路の両側には色とりどりのショップが並び、どこからか焼きたてのパンやクレープの甘い香りが漂ってくる。
僕たちだけが抱えている秘密など、最初からこの世界には存在しないのではないか。
そう錯覚してしまいそうなほど、ここには明るく穏やかな日常が広がっていた。
文房具店でノートやペンを選び終えた僕たちは、目的を果たした解放感もあって、特に行き先を決めることもなく並んでフロアを歩いていた。
「はるにぃ、見て見て! このシャーペン、色すごく可愛くない?」
さきが買ったばかりの文房具の袋から新しいシャーペンを取り出し、嬉しそうに僕へ見せてくる。
「本当だ。綺麗なくすみピンクだね。さきに似合ってるよ」
「でしょ? 新学期からこれ使うんだ。あ、ねえ、あっちのクレープ屋さん、すごく並んでる」
さきが少し先を指差した。
「帰りに食べようよ」
「いいよ。まだお小遣い残ってるし」
「やった」
そんな他愛もない会話を交わしながら歩いていると、僕たちを取り巻く面倒なことも、今だけは全部遠くへ行ってしまったように思えた。
「あ……」
エスカレーターへ向かう途中、レディースファッションの並ぶ一角を通りかかった時だった。
僕の足が、ふいに止まった。
ショーウィンドウの向こうに、1着のワンピースが飾られていた。
淡い桜色を基調にした、少しクラシカルなデザイン。
白い丸襟には細かなフリルがあしらわれ、胸元には小さなリボン。控えめな小花模様の生地と、ふんわり広がるスカートが、上品なのにどこかお人形の服のような愛らしさを感じさせる。
僕は、その服から目を離せなくなった。
「……可愛い」
思わず、小さく声が漏れた。
胸の奥に、昔から消えずに残っている気持ちが蘇る。
僕も、女の子だったらよかったのに。
もしそうだったなら、あんな服を何の迷いもなく手に取ることができたのだろうか。
鏡の前で袖を通して、似合うかどうか悩んだり。
気に入った服を着て、嬉しい気持ちのまま街を歩いたり。
そんな当たり前のことを、僕もしてみたかった。
けれど、それは僕にはできない。
そう思った途端、さっきまで綺麗に見えていたワンピースが、急に遠いものに感じられた。
「はるにぃ……?」
隣にいたさきが足を止める。
「どうしたの?」
僕の視線を追ったさきも、ショーウィンドウの中を見た。
「あ……あの服?」
「……うん」
「やっぱり。はるにぃ、こういうの好きだもんね」
何気なく言われて、僕は慌てて視線を逸らした。
「いや……別に。行こう」
そのまま歩き出そうとすると、さきが僕の袖をそっと掴んだ。
「はるにぃ」
「なに?」
「別に、隠さなくていいじゃん」
思わず足を止める。
さきはもう1度ショーウィンドウを見て、それから僕の顔を見上げた。
「可愛いものが好きなの、私知ってるよ。それに、別に変だとも思ってないし」
「……でも」
「はるにぃが好きなものなんだから、好きでいいじゃん」
あまりにも当たり前のことのように言われて、返す言葉が見つからなかった。
「それにさ」
さきは少しだけ困ったように笑う。
「こういう服見てる時のはるにぃ、たまにすごく寂しそうな顔するから」
「……そんな顔してた?」
「してた」
即答された。
「だから、無理に『なんでもない』って言わなくていいよ。私しかいないんだし」
そう言って、さきは僕の袖から手を離した。
「もうちょっと見てく?」
「……うん」
僕はもう1度、ショーウィンドウへ目を向けた。
淡い桜色のワンピースは、さっきと変わらずそこに飾られている。
僕には着られない。
だけど――。
ふと、隣に立つさきを見た。
あの服を着たさきの姿なら、見てみたいと思った。
自分が憧れているものを、大好きな妹が嬉しそうに身につけてくれたなら。
それだけで、少しだけ救われるような気がした。
僕はポケットの中の財布を握りしめ、さきの方を見る。
「……さき」
「なに?」
「あの服、着てみない?」「え?」
「あれ……さきに似合うと思う」
さきは驚いたように、僕とワンピースを交互に見た。
「でも、見るからに高そうだよ?」
「文房具を買った残りと、貯めてたお小遣いを合わせれば大丈夫だと思う」
「でも、それ、はるにぃのお金でしょ?」
「いいんだ」
僕はもう1度、ショーウィンドウを見る。
「僕が、さきが着てるところを見てみたいから」
さきはしばらく僕の顔を見つめていた。
それから、少し照れたように笑う。
「……そんなに言うなら、着てみようかな」
「ほんと?」
「うん。でも、似合わなくても笑わないでね?」
「絶対似合うよ」
「まだ着てもないのに」
さきがくすっと笑った。
僕はさきと並んで、ショーウィンドウの隣にある店の入口へ向かった。
店内に足を踏み入れると、外の賑やかさが少し遠のいた。
落ち着いた音楽が流れる店内には、淡い色合いの服がゆったりと並べられている。
「いらっしゃいませ」
女性の店員さんが、柔らかな笑顔で声をかけてきた。
「あの……表に飾ってある、ピンクのワンピースなんですけど」
僕がショーウィンドウの方を指差す。
「妹に似合いそうだなと思って。見せてもらえますか?」
「もちろんです」
店員さんはさきを見てから、服が並ぶ棚へ向かった。
「こちらですね。サイズも合いそうですよ。よろしければ試着してみますか?」
「いいの?」
さきが僕を見る。
「もちろん。着てみてよ」
「うん!」
さきが嬉しそうに頷くと、店員さんも微笑んだ。
「では、こちらへどうぞ」
試着室へ向かう途中、店員さんがふと足を止めた。
「あ、このワンピースでしたら、こちらもよく合いますよ」
棚から取り出したのは、細身のカチューシャだった。
淡いピンクの小さな花飾りが並び、片側には白い小花と小さなリボンが添えられている。
「あ……可愛い」
さきが思わず手を伸ばす。
「服と一緒に合わせてみる?」
僕が聞くと、さきはカチューシャを見つめたまま頷いた。
「うん。これもつけてみたい」
「でしたら、髪を下ろして合わせると雰囲気が出ると思いますよ」
店員さんの言葉に、さきは後ろでまとめていた髪に手を伸ばした。
「じゃあ、そうしてみる」
「楽しみにしてる」
「ふふ。ちゃんと待っててね、はるにぃ」
ワンピースとカチューシャを抱えたさきは、少し弾んだ足取りで試着室へ入っていった。
カーテンが閉じる。
僕はその前に置かれた椅子に座り、静かに待った。
ほんの数分のはずなのに、妙に長く感じる。
やがて、カーテンの向こうからさきの声がした。
「……はるにぃ」
「なに?」
「笑わない?」
「笑うわけないだろ」
「絶対?」
「絶対」
少し間があった。
「……じゃあ、開けるね」
カーテンがゆっくりと開いた。
「……どうかな?」
さきが、少し恥ずかしそうに立っていた。
僕は言葉を失った。
淡い桜色のワンピース。
白い丸襟には細かなフリルが重なり、胸元には小さなリボン。小花模様の柔らかな生地から、ふんわりとしたスカートが広がっている。
髪はいつものようにまとめず、肩へ自然に下ろしていた。
そこに、さっき選んだ淡いピンクの花飾りのカチューシャが添えられている。
いつものさきなのに、まるで違って見えた。
可愛らしい服を着ているから、というだけではない。
僕が昔から思い描いていたものが、そのまま目の前に現れたような気がした。
自由に可愛い服を選んで。
鏡の前で似合うかどうかを気にして。
少し恥ずかしそうに、それでも嬉しそうに誰かの感想を待っている。
僕がずっと憧れていた、そんな女の子の姿。
それを今、さきが何の迷いもなくしている。
「……はるにぃ?」
黙ったままの僕を見て、さきが少し不安そうな顔をする。
「やっぱり変?」
「違う」
僕は慌てて首を振った。
「すごく似合ってる」
「ほんと?」
「うん。びっくりしただけ」
もう1度さきを見る。
「すごく可愛いよ、さき」
その言葉を聞いた途端、さきの表情がぱっと明るくなった。
「ほんとに?」
「ほんと」
さきは姿見の前でくるりと向きを変え、自分の姿を確かめる。
「私も、これ好きかも」
嬉しそうにスカートを眺め、それから鏡越しに僕を見た。
「はるにぃが選んでくれたからかな」
「僕は見つけただけだよ」
「でも、着てみようって言ってくれたのは、はるにぃでしょ?」
そう言って笑うさきの姿を見ていると、僕も自然と嬉しくなった。
けれど、そのすぐ隣。
大きな姿見には、さきと並んで僕の姿も映っていた。
可愛らしく着飾ったさきと、その隣にいる、いつもの格好の僕。
胸の奥が、わずかに痛んだ。
嬉しい。
さきが喜んでくれて、本当に嬉しい。
それなのに。
もし自分も、あちら側に立てたなら。
そんな思いが、どうしても消えてくれなかった。
「はるにぃ?」
また呼ばれて、僕は我に返った。
「なに?」
「これ、本当に買ってくれるの?」
「うん」
「カチューシャも?」
少し遠慮がちに聞かれて、思わず笑った。
「それも一緒に」
「ほんと!?」
さきの顔が一気にほころぶ。
「ありがとう、はるにぃ。大事にする」
その言葉に、胸の痛みが少しだけ和らいだ。
「うん。いっぱい着てよ」
「もちろん」
「それでさ……今度、その服着て一緒にお出かけしてくれる?」
さきは一瞬きょとんとして、それから嬉しそうに笑った。
「いいよ。はるにぃが選んでくれた服だもん」
「ほんと?」
「うん。どこ行く?」
「まだ決めてないけど……せっかくだから、ちょっと遠くまで行きたいな」
「じゃあ、クレープも食べたい」
「結局それなんだ」
「だって今日も食べるんでしょ?」
そう言って、さきは楽しそうに笑った。
その笑顔を見ていると、この服を選んでよかったと素直に思えた。
さきはもう1度、嬉しそうに鏡の中の自分を見つめた。
僕もその隣で、同じ鏡を見つめる。
そこには、同じものを見ながら、きっと全く違う気持ちを抱いている僕たちが並んでいた。
会計を済ませると、店員さんはワンピースとカチューシャを丁寧に包み、綺麗なショッパーに入れて差し出してくれた。
「ありがとうございます」
僕が受け取ろうとすると、店員さんが僕とさきを見比べて微笑んだ。
「お兄さんからプレゼントなんて、仲がいいんですね」
「はい。ありがとうございます」
「お2人とも雰囲気がよく似ているから、最初は兄妹だと思わなかったです」
「え?」
「仲のいいカップルなのかなって」
冗談めかしたその一言に、僕は一瞬、返事に詰まった。
「あ……兄妹です」
「あら、ごめんなさい」
店員さんが慌てて笑う。
「でも、本当に仲のいいご兄妹なんですね。妹さんも、とても嬉しそうでしたよ」
「ありがとうございます」
今度はなんとか笑って答え、僕はショッパーを受け取った。
店を出ると、隣を歩いていたさきが僕の顔を覗き込んできた。
「はるにぃ」
「なに?」
「カップルだって」
さきは少し照れくさそうに笑っている。
「間違えられただけだよ」
「分かってるよ。でも、はるにぃ固まりすぎ」
「急に言われたら驚くだろ」
「ふふ」
さきは楽しそうに笑うと、僕が持っていたショッパーの持ち手を一緒に握った。
「半分持つ」
「軽いからいいよ」
「私の服なんだから、私も持つの」
結局、僕たちは1つのショッパーを2人で持って歩くことになった。
休日のショッピングモール。
楽しそうに行き交う家族。
買ったばかりの服を嬉しそうに眺める妹と、その隣を歩く兄。
外から見れば、きっとそれだけだった。
仲のいい兄妹。
それ以上でも、それ以下でもない。
なのに僕の胸には、その言葉を素直に受け入れられない何かが残っていた。
僕とさきの間には、誰にも話せないことが増えすぎていた。
互いを大切に思う気持ちも。
離れたくないと思う気持ちも。
いつの間にか、どこまでが普通の兄妹としての感情なのか、自分でも分からなくなり始めている。
「はるにぃ、どうしたの?」
気づけば、さきが僕を見上げていた。
「いや。なんでもない」
「またそれ言ってる」
「え?」
「さっきも言ったじゃん。私の前では、無理になんでもないって言わなくていいって」
そう言って、さきは少しだけ僕の側へ寄った。
「……そっか」
「そうだよ」
僕は小さく笑った。
それから、2人で同じショッパーを持ったまま歩き出す。
ガラス張りの天井から差し込む明るい光の中を、僕たちはどこにでもいる兄妹のように歩いていた。
それが嘘だとは思わない。
きっと、これも本当の僕たちなのだ。
ただ、その奥にもう1つ、誰にも見せられない僕たちがいる。
その2つを、いつまで同じ自分の中に抱えていられるのだろう。
ふとそんなことを考えると、さっきまで心地よかった秋の風が、少しだけ冷たく感じられた。
ショッピングモールを出ると、街はもう夕暮れに染まり始めていた。
僕とさきは、買ったばかりの服が入ったショッパーを2人で持ちながら、駅へ向かって並んで歩いていた。
さっきまであれほど楽しかったはずなのに、僕の胸の中には、うまく言葉にできない感情が残っていた。
持ち手の向こうにある袋の中には、淡い桜色のワンピースと、花飾りのついたカチューシャが入っている。
僕がずっと憧れていたような服。
そして、それを着たさきは、驚くほどよく似合っていた。
鏡の前で少し恥ずかしそうに立ちながら、
『……どうかな?』
と僕を見た、あの姿。
思い出すだけで、今でも素直に可愛いと思う。
それなのに同時に、胸の奥が少しだけ苦しくなる。
「ねえ、はるにぃ」
「ん?」
「カチューシャも買ってくれてありがとう」
さきが嬉しそうに僕を見上げた。
「今度一緒に出かける時、ちゃんとあれもつけていくからね」
「うん。絶対似合うよ」
「またそれ言ってる。もう見たでしょ?」
「見たから言ってるんだよ」
「ふふっ」
さきが楽しそうに笑う。
「はるにぃが選んでくれた服だもん。私、大事にするね」
その言葉が嬉しかった。
本当に、嬉しかった。
自分が好きだと思ったものを、さきも好きになってくれた。
自分が選んだ服を着て、一緒に出かけることを楽しみにしてくれている。
それだけなら、何も苦しむ必要なんてないはずだった。
けれど――。
僕がさきに贈ったものは、同時に、僕自身がずっと欲しかったものでもある。
さきが嬉しそうであればあるほど、自分には叶えられなかった願いまで鮮明になっていく。
もし僕も、何の迷いもなくあの服を選べる側だったなら。
鏡の前で似合うかどうかを気にして。
誰かに「可愛い」と言ってもらって。
その言葉を、素直に喜ぶことができたなら。
そんなことを考えてしまう。
「……はるにぃ?」
「え?」
「また難しい顔してる」
さきが少し心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
「今日、楽しくなかった?」
「違うよ」
それだけはすぐに否定できた。
「すごく楽しかった」
「ほんと?」
「ほんと。さきがあんなに喜んでくれたし」
僕が笑うと、さきも安心したように笑った。
「じゃあ、今度のお出かけも楽しみにしててね」
「うん」
さきはそう言うと、また僕と一緒にショッパーの持ち手を握った。
夕暮れの街を歩く僕たちの影が、長く並んで伸びている。
さきが嬉しいと、僕も嬉しい。
それは嘘じゃない。
けれど、その嬉しさのすぐ隣には、どうしても消えてくれない寂しさがある。
同じ服を見て。
同じ「可愛い」という言葉に惹かれて。
それなのに、僕とさきでは、その先にあるものがあまりにも違う。
僕はその違いを、今日ほどはっきり意識したことはなかった。
隣では、さきが買ったばかりの服の話を楽しそうに続けている。
僕はそれに相槌を打ちながら、夕暮れの街を歩いた。
嬉しさと寂しさを、どちらも手放せないまま。
「ただいまー」
マンションの玄関を開けると、両親はまだ帰っておらず、静かな室内が僕たちを迎えた。
靴を脱ぐなり、さきは嬉しそうにショッパーを抱えて子供部屋へ向かう。
僕もその後を追った。
部屋に入ると、さきはさっそく袋の中からワンピースとカチューシャを取り出し、鏡の前で自分に重ねてみせた。
「ねえ、はるにぃ。やっぱりこれ、すごく可愛い」
「相当気に入ったんだね」
「うん!」
さきは満面の笑みで頷く。
「家でも、もう1回着てみていい?」
「もちろん」
「じゃあ、ちょっと待っててね」
さきはワンピースを抱えて着替えに向かい、しばらくして戻ってきた。
「はるにぃ、見て!」
声に振り向く。
淡い桜色のワンピースに、花飾りのついたカチューシャ。
髪もふんわりと下ろし、店で見た時と同じ格好になっている。
それなのに、不思議とさっきとは少し違って見えた。
華やかなショップの照明も、大きな姿見もない。
見慣れた勉強机と二段ベッドのある、いつもの子供部屋。
そんな日常の風景の中に、さきだけが突然、おとぎ話の中から抜け出してきたように立っている。
「どう?」
さきは鏡の前でくるりと向きを変え、スカートをふわりと揺らした。
「カチューシャもちゃんとつけたよ」
「うん」
「似合う?」
僕は思わず笑った。
「さっきも言っただろ。すごく似合ってるよ」
「家で見たら、また違うかなって思って」
「違うよ」
「え、変?」
「そうじゃなくて」
僕はもう1度、さきの姿を見る。
「なんか……こっちの方が、本当にさきがその服を着てるんだって感じがする」
「なにそれ」
さきがくすっと笑う。
「でも、分かるかも。お店だと借りてる感じだったけど、今はもう私の服だもんね」
そう言って、さきは嬉しそうに鏡の中の自分を見つめた。
「はるにぃが選んでくれた、私の服」
その言葉に、胸の奥が少しだけ温かくなる。
店で見た時には、眩しすぎるほど遠く感じたその服が、今は僕たちのいつもの部屋にある。
そして、それを着たさきが、僕の目の前で嬉しそうに笑っている。
「ねえ、はるにぃ」
「なに?」
「今度のお出かけ、本当にこれ着ていくからね」
「うん。楽しみにしてる」
「約束だよ?」
「約束」
僕が答えると、さきは満足そうに笑い、もう1度鏡の前でくるりと回った。
その姿を目にした瞬間、僕の胸の奥で、理想への愛おしさと「男としての暴走する性衝動」が限界を突破して弾けた。
自分がなりたかった完璧な女の子の姿をしたさきが、自分だけに無邪気な笑顔を向け、無防備に甘えてくるという現実。
僕のズボンの下では、抗いがたい熱量とともに男性器が激しく怒張し、生地を内側から押し上げて痛いほどの圧迫感を生じ始めた。
「ねえ、はるにぃ……? なんでそんなにじっと見てるの……?」
鏡の前で首を傾げたさきに、僕はもう耐えることができなかった。
歩み寄り、さきの華奢な肩を強く抱きしめる。
「わっ……!? はるにぃ……!?」
「さき……すごく綺麗だよ……すごく、可愛い……っ」
「ん……ふふ、ありがとう、はるにぃ。でも、そんなに強く抱きしめられたら、お洋服にシワができちゃうよ?」
さきは嬉しそうに微笑み、僕の背中に細い腕を回してきた。
けれど次の瞬間、密着した下腹部に、僕のズボンの下で固く怒張した熱い塊がダイレクトに押し当てられたことで、さきの動きがピタリと止まった。
「あ……」
さきが目を丸くして、僕の顔を見上げてくる。
「はるにぃ……また、すごく固くなってる……。ズボンの上からでもわかるよ……」
「っ……ごめん、さき……。さきが可愛すぎて……我慢できなくて……っ」
僕の荒い息遣いと熱気を感じ取り、さきは拒絶するどころか、熱を帯びた潤んだ瞳で僕を見つめ返してきた。
「ふふ……いいよ。はるにぃが私を可愛いと思って、そうなってくれたんだもんね。……じゃあ、今日も助け合おっか」
さきはそう言うと、自分からベッドの上にゆっくりと腰を下ろした。
これまでの触れ合いで、僕たちの間には「不快感の緩和」や「助け合い」を建前とした、濃密な共犯関係が定着していた。
「このお洋服は、はるにぃが買ってくれた大切な宝物だから、絶対に汚したくないな」
さきは悪戯っぽく微笑むと、ワンピースの裾をそっと捲り上げた。そして下着のゴム紐に指をかけると、それだけをすっと足首まで引き下ろす。
「でも、服はこのままの方が可愛がってくれるよね?」
「さき……っ」
ベッドの下へ脱ぎ捨てられた小さな布切れ。
可憐な桜色のワンピースのフリルから、不釣り合いなほど生々しく晒された真っ白な太ももと、その奥のデリケートな場所。
「理想の女の子の服」という無垢な表層と、背徳的な肉体の露出が同居するその光景、そしてさきから漂ってくる甘酸っぱく濃い匂いに、僕の理性の糸はぷつりと切れかけた。
「はるにぃ……いつもの、押し当てっこ……して?」
さきが太ももをそっと開き、僕を誘う。
けれど、捲り上げられた桜色のスカートの奥、剥き出しになったさきの割れ目から立ち上る、僕だけが知っているあの生々しい匂い。
その熱気を至近距離で浴びた瞬間、僕の中に渦巻く猛烈な愛おしさと欲望が弾けた。
「っ……さき……舐めたい……っ! さきのここを、直接舐めたい……この前みたいに」
「えっ……はるにぃ……!?」
さきの身体が一瞬、小さく緊張で強張り、割れ目にも力が入るのが分かった。
「……うん……私も、してほしい……。でも、汚いから、またウェットティッシュで拭いて…」
僕はベッド脇から引き抜いた湿ったティッシュを指に巻き、彼女の繊細な熱を確かめるように、丁寧に拭い取った。
「……ん……ひんやりする……」
掠れた声で呟くさきの傍らにそれを放り捨てると、彼女は潤んだ瞳で僕を見つめ、脚の力をそっと抜いた。
「……はるにぃ、いっぱい、お願い……っ」
僕は吸い寄せられるようにさきの股間へと顔をうずめ、湿り気を帯びた割れ目へと直接唇を押し当てた。
「ふぁ……はるにぃ……あたたかい……」
さきが身を跳ねさせ、僕の頭を両手で強く抱え込んでくる。
夢中で舌を滑らせ、さきから溢れ出る蜜と甘酸っぱい匂いを貪るように舐め上げた。
ひんやりとした舌の感触と執拗な愛撫に、さきは何度も脚を強張らせ、甲高いつややかな声を漏らす。
「……ん……すごく、幸せな感じがする……っ」
割れ目の上部に隠れた小さな突起を見つけ、舌先で慎重に触れた。
「……っ! そこダメ……っ! あ、んっ……はるにぃ、待って……そこ、変な感じする……っ」
さきの身体が大きく跳ね上がり、僕は一度口を離した。
「さき、もしかして痛かった?」
「ううん……おしっこが出そうになって、ちょっと苦しいかも……。そこよりも、さっきみたいにしてくれるのがいいな……あたたかくて、気持ちいいから……」
「こう……?」
再び顔を寄せ、突起の周りから割れ目全体を包み込むように、様々な角度から丁寧に舌を這わせた。
「……うん……それ、すごく好き……」
しばらくそれを続けていると、さきの太ももにぐっと力が入るのが分かった。
「……はるにぃ、いつもの……来そう……っ」
舌先で捉えている肉片が細かく打ち震え始めた。
荒い息を吐き出しながら、さきは蕩けた瞳で僕を見つめ、熱い吐息とともに僕の髪に指を深く絡めてきた。
「……はるにぃ……私、頭が真っ白になっちゃった……」
さきは、余韻に震えながら、愛おしそうに僕の頬を両手で包み込んできた。 その瞳は、とろけるような多幸感と、兄への深い依存に満ちあふれている。
「ねえ……はるにぃ」
さきが顔を近づけ、熱い吐息を僕の唇に吹きかけた。
「私ね……もっと、はるにぃとひとつになりたい。……『合体』してほしいの」
「えっ……!? さき……合体って……まさか、入れるってこと……!?」
僕が息を呑んで問い返すと、さきは逃げないように僕の目を見つめ、強く、小さく頷いた。
「うん。……痛くても我慢するから。はるにぃの、私の中に、ちゃんと入れてほしいの。私……はるにぃの全部、受け入れたいんだもん」
「でも……さき、痛いかもしれないし……それに、この可愛い服を着たままじゃ……っ」
僕が狼狽えながら服を案じると、さきは少しだけ困ったように、けれど決意を秘めた顔で首を横に振った。
「ううん、大丈夫、我慢する。服は一回、着替えてくるね」
さきは立ち上がると、着ていた可憐なワンピースとカチューシャを、まるで宝物に触れるような手つきで丁寧に脱ぎ、ハンガーに掛けた。 残ったのは、薄いキャミソール一枚の姿。
「はるにぃ、代わりの可愛い服、着てきたほうがいいよね? ……はるにぃが喜んでくれる服、あんまり持ってないけど……このワンピースなら、どうかな?」
着替えを終えたさきが、少し照れくさそうに、けれど覚悟を決めた澄んだ瞳で僕を見つめて、再びベッドに横たわる。
「……そんなに、着飾らなくていいよ。さきが大事なんだから……」
「でも……さっきみたいに、可愛い格好してると、いつもより、いーっぱい可愛がってくれるでしょ?」
さきはそう言って、いたずらっぽく、けれど熱い眼差しを僕に投げた。
「……いつでも、大事で可愛い妹だよ」
「えへへ」
さきはシンプルながら軽くフリルをあしらった可憐な水色で水玉のワンピースに袖を通した。
「痛くても我慢するから……入れて」
その願いは、あまりにも純粋で、残酷なほどに僕の理性を焼き切ろうとしていた。 僕の胸の中で、男としての本能と、彼女を壊してしまいそうなほどの愛おしさが混ざり合い、最高潮に達する。
僕たちは、もう後戻りできない、完全な結合の瞬間へと足を踏み出した。
「……うん。分かった……さき」
僕は震える手でズボンを脱ぎ、下着も膝まで引き下ろした。 新しく可憐なワンピースを着た、さきの姿。その真っ白で綺麗な太ももの間に、僕の膝を割り込ませる。 熱く、硬く張り詰めた僕のすべてを、愛液で潤んださきの入り口へと、慎重に、けれど逃げられないように宛がった。
「さき……本当に……いいの……?」
僕の問いに、さきは覚悟を決めた瞳で僕を見つめ、細い腕を僕の首元に回してきた。
「うん……はるにぃ。入ってきて……。私、逃げないから」
「痛くても我慢する」という、さきの小さくて、けれど痛々しいほどの決意。 その言葉が僕の胸を強く突き、僕は自分の中の震えを押し殺すようにして、静かに腰を押し進めた。
「んっ…………っ……あ……!」
ぬるりと、けれど、ひどく狭い熱が僕を迎え入れる。 ゆっくりと、けれど確実に、僕の先端がさきの奥へと沈み込んでいく。
その瞬間――僕の意識を、凄まじい感覚が突き抜けた。
進むにつれて、僕を覆っていた皮が、強い圧力によって根元まで滑り落ちていく。 隠されていた、一番敏感な部分が、さきの熱い内壁と、ダイレクトに触れ合った。
「あ……っ!」
それは、ただの熱さではなかった。 彼女の体温が、まるで僕の芯まで飲み込んでしまうかのような、圧倒的な熱量。 その熱が、僕の脳を、意識を、真っ白に塗りつぶしていく。
(あ……あ……っ!)
言葉にならない叫びが、頭の奥で爆発した。 身体の奥底から、自分でも制御できない、猛烈な衝動がせり上がってくる。 ここは、全部、出さなきゃいけない場所なんだ――。 そんな本能的な叫びが、僕の思考を完全に奪い去った。
「あ……っ! はるにぃ……っ! 入ってきた……っ!」
「っ……あ……さき……っ、これ……っ!」
僕の視界は、溢れ出す熱と、さきの熱い吐息で、もう何も見えなくなっていた。
剥き出しになった僕の先端に、さきの柔らかな内壁が、全方位から吸い付くように絡みついてくる。
皮という遮るものがなくなったことで、さきの熱いひだの感触が、まるで鋭い衝撃となって僕の脳を直接突き刺してくる。 わずかに動くだけで、意識が真っ白に弾け飛びそうになるほど、激しい刺激が腰を貫いた。
「んぁっ……! すごい……奥まで……ぐーってきた……っ!」
「っ……! さき……っ……あぐっ……!」
そして、とどめを刺すように僕を追い詰めたのは、皮が下がりきったことで、一番敏感な部分がピンと強く引き絞られる感覚だった。
ただ奥へと押し込んでいるだけなのに、動くたびに、そこが極限まで引き伸ばされ、強烈な刺激が絶え間なく押し寄せてくる。 下腹部に溜まった熱い塊が、今にも決壊して溢れ出しそうだった。
「……っ、あ……だめ、さき……っ」
さきの熱い体温、剥き出しの感覚を直撃する摩擦、そして、引き絞られるような痛みにも似た快感。 そのすべてが一度に襲いかかり、僕の理性を、簡単に、無残に壊していく。
「はるにぃ……! 私の中に、はるにぃのが……っ!」
さきが息を呑み、僕の背中に強くしがみついてきた。 確かに、僕のすべてが、彼女の奥深くまで、根元まで繋がっていた。
痛みで顔を歪めるかと思ったさきだったが、彼女の身体は、僕を受け入れるように、熱く、柔らかく、僕を包み込んでいた。
「痛くない……? さき……っ」
「うん……っ、痛くない……! すごく……お腹の奥が熱くて……いっぱい満たされてる……っ!」
さきは、とろけるような瞳で僕を見上げ、愛おしそうに僕の頭を抱きしめた。 けれど、結合した喜びとは裏腹に、僕の下半身は、限界を超えた刺激に悲鳴を上げていた。
自分の意思とは無関係に、跳ね上がりそうになる腰を必死に抑え込もうとする。 けれど、押し寄せる快感の波は、あまりにも巨大で、抗う術もなかった。
完全な結合を果たした瞬間、僕たちの世界は、音を立てて反転した。
「女の子になりたい」と願った僕の憧れと、「男の子になりたかった」という妹の願い。 そのすべてが、この熱い肉体の繋がりの中で、混ざり合って消えていく。
「はるにぃ……好きだよ……ずっと、一緒だよ……」
「さき……っ……僕も……っ」
剥き出しになったまま、逃げ場のない快感に震えながら、僕はさきの中に、深く、深く、自分を沈めていった。
押し寄せる絶頂の波が、もう、すぐそこまで来ている。 僕たちは、もう二度と引き返せない、境界線を越えて――。