一学期の期末試験がやってきた。あっという間に感じるが、実際に中間試験からは一か月ほどしか経っていない。
なかなか油断する隙を与えてもらえないが、ここを乗り切れば夏休みが待っている。
今回も、試験日程の最後に奴隷学の試験が組まれていた。内容はやはり知らされない。今回もセックスをさせられるのか、それともまた違う何かなのか。
僕ら生徒たちは、ドキドキしながら試験の開始を待つしかない。
一日目、二日目と順調に試験を消化し、ついに三日目。試験最終日がやってきた。
最初は英語など一般科目の試験からだが、全然身が入らない。それでも赤点を取るわけにはいかないので、ギリギリで集中力を保って乗り切った。
そして迎えた最終科目、問題の奴隷学である。
今回は、奴隷は教室においていけという指示だった。しかも、今回は五十音順ではなく、クラスの中でも最後まで待たされた。ようやく呼びに来た先生に連れられ、男子だけで試験会場の別棟へと移動する。
教室には、やはり五枚のマットが敷かれていた。そしてその横には、見知らぬ女子が各マットに一人ずつ。
混乱する僕たちに、試験官の先生は言った。
「これから、目の前の奴隷とセックスしてください」
……は?
何を言っているのか分からない。考えがまとまらない。
「前回と同様、制限時間は20分、途中退室ありです。では、始めてください」
僕たちを置いてけぼりで、先生は淡々と試験の開始を宣言する。
少しずつ冷静さを取り戻した僕の中に湧いてきたのは……怒りだった。
目の前にいる女子は、他のクラスの男子の奴隷で間違いないと思う。ということは、学校公認のスワッピングということになる。
それに当然、まなみも奴隷側としてこの試験に参加するということで。それはつまり、他の男子とまなみがセックスするということで……。
僕はとんでもなく嫌な気分になり、吐き気を催してきた。
目の前の先生の胸倉を掴んですりつぶしてやりたい衝動に駆られるが、何とか理性で自分自身を押しとどめる。
改めて自分に割り当てられた女子を見ると、不安げな表情でこちらを見ていた。
このまま立ち尽くしているわけにもいかない。僕はマットに座り込んで、その女子と向き合った。
「その……四組の小森です。えっと……」
「あ、その……ゆうか、です……」
ゆうかと名乗ったその女子には、見覚えがない。これまで三年間で同じクラスになったことはないはずだし、おそらく初対面だと思う。
「その、ゆうかのご主人は、誰?」
「一組の安藤君、です……」
聞いたことのない名前だった。その安藤という男子とも、これまで関わりはなかったと思う。
僕は改めてゆうかを見た。ゆうかは、眼鏡をかけた地味系の女子だった。先ほどからずっとビクビクしていて、僕のことを化け物とでも思っているかのような目だ。
そして、その胸は意外に大きい。こんなときにどうかとも思うが、セックスと言うワードを出されて、そういう部分に目を向けないというのは無理だ。
「えー、じゃあ、どうしようか……?」
僕はなるべく優しく問いかけたが、ゆうかはビクリと身体を震わせた。それを見て、気の毒な気分になる。
このゆうかを無理やり犯すなんて、できない。僕はそう思った。
なんといっても、僕の奴隷はまなみだけだ。ここでセックスをするのは、まなみに対する裏切りだと思う。
それに、他人の奴隷を勝手に犯すというのも気が進まない。
まなみは、僕じゃない誰かに押し倒されて、犯されているのかもしれないけど……その姿を想像すると、怒りでおかしくなりそうだけど……僕は、それでも指示には従えない。
僕は先生のもとへと向かった。
「先生」
「なんでしょうか」
先生は無表情だった。僕は深呼吸をしてから、勇気を出して言った。
「セックスはしたくありません。しなくてもいいですか?」
「なぜですか?」
即座に聞き返されて、戸惑う。僕はてっきり、「試験なので従ってください」と言われるものだとばかり思っていた。
僕はどう返すべきかを必死に考えて、結局素直に理由を話すことにした。
「自分の奴隷を裏切れません。それに、人の奴隷を勝手に犯すこともできません」
「……」
先生は黙って僕の話を聞いていた。僕はドキドキしながら先生の答えを待つ。先生は、やれやれと肩をすくめた。
「それなら、やらなくても構いません。時間までそこのマットで待っていてください」
「……いいんですか?」
僕は思わず聞き返してしまった。まさか、受け入れられるとは思っていなかった。
「問題ありません。ただし、行為に及ばなかったという前提で評価は行います」
僕はグッと唇を噛み締めた。
覚悟はしていたが、それはそうだ。ここでセックスをしないということは、実技試験は0点となる可能性が高い。
筆記試験の結果にもよるが、それはほとんどまなみが僕の手から離れることを意味する。
僕の気持ちは沈んだが、それでも不思議と後悔はなかった。ここでまなみを裏切ったら、まなみとの関係性にもひびが入るだろう。それなら、自分の信念を貫くほうがずっといい。
それに、これで成績が確定したわけでもない。僕は一縷の望みに賭けて、ゆうかに話しかけた。
「あのさ、ゆうか」
「は、はい」
「試験が終わるまで、少しおしゃべりしようよ」
「……え?」
わけもわからず目を丸くするゆうかの隣に、僕はそっと腰かけた。
試験が終わるまで、僕はゆうかといろいろな話をした。といっても、ほとんどは雑談だ。
ゆうかの主人である安藤君はかなり奥手な男子で、今までに一度も性的な命令をしたことがないらしい。
だからこそ、セックスを命じられて警戒心マックスだったようだが、僕にその気がないことが分かってからはいくらか安心したようだ。
「小森君のことは、知ってます」
「え」
「だって、学年中で話題になってますよ。中間試験のこと」
僕は赤面した。ゆうかは勉強会には出ていなかったはずだが、僕の知名度はもはやそんなレベルではないらしい。
ゆうかは物憂げに窓の外を見つめている。
「……安藤君も、本当は私とそういうことしたいのかな」
「それは、間違いないと思うよ」
僕は迷わず断言した。ゆうかは一見すると地味だが顔立ちは整っているし、ちゃんとかわいい。それに、その大きなお胸を使って迫られて、その気にならない男子はいないと思う。
「無理にとは言わないけど、安藤君とも一度ちゃんと話をしてみたら?」
「……そうだね。そうする」
ゆうかはそう言いながらフフッと笑う。少しは心を許してくれたようで、よかった。
僕としては、こういう細かい言動も評価対象になっている可能性を考えていた。甘い考えかもしれないが、出来ることはやっておきたい。
「試験終了です」
静かな教室に、先生の声が響く。他の生徒たちがぞろぞろと教室を出て行く中、僕は迷っていた。しかし、このまま何日も悶々としながら試験結果を待つのは無理だ。僕は先生に直談判しにいくことにした。
「あの、先生。この試験は、一体何なんですか?」
僕はなるべく冷静に話したつもりだったが、怒りのせいでどうしても語気が強くなってしまう。先生は僕の表情を見て苦笑する。
「そうですね……君たちが最後の組ですし、少しだけ評価基準の話をしますか」
「いいんですか?」
「はい。私としても、この試験はかなり悪趣味だと思いますし」
ダメもとで聞いてみてよかった。僕は先生の言葉に耳を傾けた。