担任が教室に戻ってきたのを見て、僕はとっさに立ち上がった。連れられてきた女子が、僕のところに来る二人目の奴隷なのだろう。
その女子には、おそらく見覚えがない。同じクラスになったことはないし、部活や委員会などでも関わりはないと思う。
「紹介します。今回小森君に預けるのはこの奴隷です。あきな、と言います」
担任の言葉に、あきなと呼ばれた女子は軽く頭を下げた。僕も釣られて頭を下げる。
「こちらが、今日からあなたの主人となる、小森君です。ほら、挨拶しなさい」
担任に言われて、あきなは再び頭を下げた。
「えっと……あきなです。よろしくお願い、します」
「こ、こちらこそ……」
僕は照れ笑いを浮かべながら、あきなのことを観察した。
あきなは正直……かなり、かわいいと思う。黒髪ショートカットで、不安げに僕の様子をうかがっているその目は、クリンと大きい。
そして目を引くのはその身長で、僕と目線がほぼ同じだ。僕は165センチのチビだが、女子でそれならかなり大きい。
それも、自信なさげに背中を丸めていてそれなのだ。悔しいが、僕より背は高いと思う。
短いスカートの奥の太ももと二の腕は、ムッチリとしていて肉付きがよい。しかし、決して太っているわけではない。背が高いこともあって、健康的でスタイルがいい。何かスポーツでもやっているのだろうか。
「後の細かいことは、小森君に任せますね」
担任の言葉に、僕は現実に引き戻された。主人たるもの、いつまでも呆けているわけにはいかない。
「あ、はい」
「では、よい夏休みを」
担任は相変わらずのあっさりとした態度で、僕たちを置いて教室を出て行ってしまった。
「……」
教室にあきなと二人で残された。何と言うべきか迷って、沈黙が続いてしまう。
しかし、僕とあきなの立場の差を考えれば、僕から行動を起こさないことには話が進まない。
「とりあえず、家まで案内するね」
「……はい」
あきなは素直に従ってくれた。どうやら、全然命令を聞かない問題児というわけではなさそうだ。僕は少しだけホッとしつつ、あきなを連れて自宅へと向かった。
家につくと、リビングの方から声が聞こえてきた。
「おかえりー」
「ただいま」
僕はいつも通り声を返してから、靴を脱いで家に上がった。ふと見ると、あきなが玄関で固まっている。
「上がっていいよ」
「あ、は、はい」
僕の声に、あきなは慌てたように靴を脱いだ。どうしたのかと思ったが、考えてみればあきなとまなみは初対面だ。それは、緊張もするか。
僕は一人納得して、あきなを連れてリビングに入ろうとして……そこで足が止まった。
このドアの先には、まなみがいるんだよな? ということは、つまり。
僕はあきなを振り返ったが、あきなは何事かと困惑するばかりだ。
ええい、どうにでもなれ。
僕は勢いよく、リビングへと続くドアを開けた。
リビングではまなみが僕たちのことを待っていた。そして、ここは家の中だから……まなみは、当然全裸である。
僕に続いてリビングに足を踏み入れたあきなは、まなみのその姿を見て硬直した。
僕は少し後悔したが、それでも仕方がなかった。緊張するあきなに、帰り道で「家の中では全裸で過ごすルールがあって〜」なんて話は、さすがにできない。
まなみは表情一つ変えずにあきなのことを見つめている。さすがは一人目の奴隷の余裕といったところだろうか。
あきなは、僕を見て震える声で言った。
「あ、あの……私も脱がないと、ダメなやつですか……?」
言われて、僕は思案した。いきなりここで脱いでもらうのも、確かに悪くはない。
しかし、それはあきなにとってかなり負担の大きなことだと思う。まなみだって、最初は段階を踏んだのだ。
「いや、今はいいよ。まずは少し話をしよう」
「は、はい」
緊張でガチガチのあきなを、ひとまずダイニングテーブルへと促した。手前の席に座らせ、僕はその対面に座る。
まなみが紅茶を入れてきて、三人分をテーブルに並べた。そして、まなみも僕の隣に座る。
なんだか二人であきなを面接するかのようだ。となれば、ここで話し始めるのは僕の役目だ。
「じゃあ、軽く自己紹介から。僕は三年四組の小森大樹です。今日から君の主人となります。いろいろ言いたいことはあると思うけど……ひとまず、よろしくね」
「よ、よろしくお願いします……」
僕の挨拶に、あきなは小さく頷いた。うーん、まだまだ表情が硬い。僕は続いてまなみに振ることにした。
「ほら、まなみも」
僕が言うと、まなみは即座に口を開いた。
「ご主人様の奴隷の、まなみです。よろしく」
まなみはこの場で一人裸だというのに、恥ずかしさを微塵も感じさせない、堂々としたものだ。
あきなはそんなまなみに圧倒されて、言葉が出ない様子だ。
僕は、小声でまなみに聞いてみた。
「知ってる?」
「うん。
「へぇ……」
やっぱり、運動部だった。僕は続けて尋ねた。
「仲良いの?」
「そんなに。知り合いって感じ」
「そっか……」
まなみと仲が良いならそこをきっかけにしようと思ったが、当てが外れた。となれば、僕が話を広げるしかない。
「えーと、今日からこの家で一緒に暮らしていくから、少しずつ慣れていってもらえればいいかなって」
「は、はい」
「だから、今日はゆっくり休むといいよ」
僕がそう言うと、あきなはホッとした様子だった。僕がいきなり無茶を言わないか心配だったのだろう。家に入っていきなり、自分の主人が奴隷を裸にさせているのを見たら、不安にもなる。
「分からないことはいつでも聞いてくれていいけど、今の時点で聞いておきたいこと、何かある?」
僕がなるべく優しい口調で尋ねると、あきなは遠慮がちに聞いてきた。
「なんで、まなみさんは裸なんですか?」
「うっ……」
いきなりの核心を突く問いに、僕は胸を押さえずにはいられなかった。