※この作品はR-18です。

続・淫獣聖戦~聖魔偽伝~   作:Black water

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肆   ~粘蛹~

芋虫は、鈍かった。ぬめった体を揺らしながらのそりと頭部を持ち上げる。

その動きは、あまりにも遅い。

 

(いける)

 

亜衣が矢を番え、放つ。矢は、芋虫の額に吸い込まれた。だが次の瞬間だった。

鞭が、来た。

 

亜衣の動体視力でやっと捉える速さ、それは、空を切る。

 

いつの間にか、芋虫の口元から数本の触指が伸びていた。それらは、ゴムのように弾力があるが、鞭のように鋭く動いた。しかも、あまりにも長く伸びる。

 

――これでは間合いが取れない!

 

そう思った時には既に遅かった。

 

「ぉご――……ぉ!」

 

亜衣は腹にそれを喰らった。

 

息が、止まった。内臓を掴まれたような衝撃。

亜衣は膝をつく。

 

「お姉ちゃん!」

 

麻衣が薙刀を振り上げ駆け出す。芋虫の鞭が彼女を迎え撃った。長い赤裳裾が靡き、下半身が露わになるのも憚らず曲芸のように躱す麻衣。

 

しかし、二投目が来ることは予想できなかった。

 

(速い!)

 

薙刀が弾かれ、麻衣の体が宙を舞う。麻衣の戦意を打ち砕く圧倒的な鞭打。

背中が岩に叩きつけられ悲鳴が渓谷に木霊した。

 

芋虫は、口を開けた。辺りに唾を吐くように何かを吐きつけていた。

 

――粘液、蜘蛛の糸のような、しかし、糸よりもずっと粘つく何かが、麻衣目がけて吐き出される。

 

立ち上がろうとしていた麻衣は動けなかった。

 

「麻衣!」

 

亜衣が、割って入った。麻衣を突き飛ばし自分がその粘液の網に絡まる。とりもちのようにねっとりと、全身に絡みつく。亜衣の体は岩肌に押し付けられ、身動きが取れなくなった。

 

「う…うっ…な…何…これ…」

 

それだけでは無かった。とりもちのような糸は猛烈な淫臭を放っていた。そして、シュワシュワと亜衣の羽衣を溶かし始めて既に裳裾の半分は焼けて消えている。

 

「お姉ちゃん!」

 

麻衣が叫ぶ。薙刀を握る手が白くなっている。

 

「駄目よ、麻衣!うかつに近づいたら——」

 

やっと顔を麻衣に向けることができた亜衣が叫ぶ。

 

「そんなこと言ったって!」

 

麻衣が、我武者羅に駆け出した。

 

「もう、こうするしかないの!」

 

薙刀を振り上げ、芋虫の胴に叩きつける。だが斬れない。刃は手ごたえも無く沈んでいった。ぬめった体が刃を受け流し、そのまま芋虫はその図太い胴体を曲げて麻衣に巻き付いた。

 

「くっ……う…動けない……?」

 

ただの巨大な芋虫ではなかった。牝を狩る淫獣であることは間違いなかった。

 

「いやぁ!気持ち悪いぃ!」

 

女性がもっとも毛嫌いするやり方で、無数の足が麻衣の女体を抱きしめる。寒天のようにぬめって軟らかくなった表皮に麻衣の体が沈んでいく。芋虫の表皮が透け始めた。

 

(なんで……!?)

 

亜衣の目に、信じられない光景が映る。芋虫の体が蛞蝓のように半透明になり、その内側に呑まれていく麻衣の姿が外から見えるのだ。粘液に沈む麻衣の輪郭が、白い影のように揺れる。芋虫は、麻衣を胎内へ取り込んでいた。

 

「あぅっ!…だめ…入っていく…」

 

麻衣の体が芋虫の内側へと沈んでいく。透けた表皮を通して、麻衣の四肢が粘液に絡め取られるのが見える。薙刀が手から離れ、外へと弾き出されて地面に落ちた。

 

そして、――麻衣の羽衣が、溶け始めていた。

 

「麻衣ー!」

 

亜衣の叫び声はもう届かない。

 

芋虫の粘液は、まるで消化液のように霊布を融かしていた。透き通った胎内で、白い神絹がみるみるうちに色を失っていく。二重に折り重なる衿が解け、白い肩が露わになる。甲冑胴衣すら穴が開き、背中のラインが露わになる。

 

神絹は意志を持たない淫汁に弱かった。天神の御加護で織られたはずの羽衣が、淫獣の粘液の前ではただの布切れよりも脆くなっている。

 

粘液は肩から背へ、背から腰へと喰い進んだ。と同時に、麻衣の体自体も蝕んだ。麻衣の背骨に沿って、きめの細かい肌が粘液に照らされてぬらぬらと光る。うなじの下、肩甲骨の間、背中の窪み、次々と露わになっていく。透けた表皮ごしに、羽衣が腰のあたりまでしか残っていないのが見えた。絹の下に乳房の輪郭が浮かぶ。粘液が頂にも触れ、麻衣の乳首は硬く尖ってしまう。

 

「あ……ぁ…!」

 

麻衣の声が、芋虫の体内でくぐもる。

 

粘液は麻衣の腰の括れから、尻へと進む。長裳の残骸が最後に腰のあたりで千切れた。白い尻の丸みが晒され、下へすらっと伸びる腿の内側が露わになる。臍の下の柔らかな窪みまでもが露わになっていく。

 

「うぅう……ぁあ……!」

――ダメ…体が動かない…!

 

麻衣は両腕を前に回して胸を隠そうとした。だが、芋虫の絨毛がそれを許さない。一本一本が小さな触手のような無数の柔毛でできている内壁の粘膜が腕を絡め取る。既に桃色の腕貫が融けて消失していた。肘が、脇腹が、腿が、次々と繊毛状の触手粘膜に吸い付いていく。腕と腕の隙間から、乳房の下のふくらみが無数に蠢く触手に押されて、むにゅりと歪む。

 

そして、麻衣のスラリとした美脚が、ゆっくりと左右に開かされていく。羽衣を失くした下半身を、粘つく触手のような何かが舐めるように通った。片脚を吊り上げられ、強制的に内ももの付け根が露わにされる。

 

「ひ……ぁ……!」

 

麻衣の腰が、びくりと跳ねる。弾力がある細かな触手は、恥丘を擦って窪みの秘裂にまで達していた。綺麗に陰毛が剃られた盛り上がりが、ゆっくりと左右に押し広げられる。閉じていた割れ目が分かれてしまう。触手の粘膜が内側から少しはみ出た花びらに沿ってゆっくりと滑った。そのたびに麻衣の白い腹がひくつく。

 

やがて、麻衣の呼吸が止まった。芋虫の体内に、完全に呑まれてしまった。

麻衣の烏皮履が二足とも体内から排出され、地面に落ちた。

 

「麻…衣………ッ…」

 

亜衣は叫んだ。しかし声にならなかった。自分の羽衣も、とりもちの粘液に喰われている。短い裳裾が殆ど消え、蒼い絹が膝の上まで焼け落ちていた。眩しい腿が露わになっている。とりもちの粘液はさらに上へと喰い進み、蒼の羽衣の裾が腿の付け根に達していた。

 

(早く……助けないと……麻衣が……)

 

亜衣は左手だけがまだ自由なのに気付いた。とりもちの網は右半身を固く縛っていた。だが、左手は襟の内側に届く。

 

――とりもちの粘液は、なおも喰い進んでいた。

 

上の羽衣は右半分が溶け落ち、右の乳房が露わになっている。シュワシュワと、絹の溶ける音が絶え間なく聞こえていた。だが濃い茶色の甲冑胴衣だけは頑丈で、腰回りは辛うじて残っていた。溶けかけた上着の下から、小枝が覗いている。

 

(ある!)

 

いざという時のためにと、懐に隠してあった梅の小枝。

亡き祖母の幻舟がかつて幾度も使い、姉妹がピンチのたびにこの飛梅に救われた――道真公の飛梅伝説にちなんだ技。

 

亜衣は、左手で小枝を握りしめた。とりもちの粘液が、甲冑の隙間から侵入してお腹に近いところでしゅわしゅわと音を立てている。その甲冑の内側に、左手を滑り込ませた。渾身の霊力を一点に神通力を込める。

 

――天神様…

 

小枝が、光を帯びた。蕾から梅の花びらが一つ咲いた。亜衣は、それを放った。

飛梅は、渓谷の空気を切り裂き芋虫の額へと一直線に向かう。そして、額に突き刺さった。

 

「きぇええ!」

 

芋虫型の淫獣は怪奇な声で叫んだ。聞いたこともない声で。体が波打つように蠢き粘液の網を四方にまき散らかした。

 

麻衣の体が吐き出された。

 

「うぅう……うぐ……ハァ……ハァ……」

 

羽衣は、領巾を残してもうほとんど残っていなかった。裸同然の体を麻衣は両腕で抱く。だが、立とうとする。立たねばと思っている。しかし、それどころではなくなっていた。息を吸うのも吐くのもやっとだった。

 

「ま…麻衣!……ンっ…」

 

亜衣の体も、とりもちの糸が消えて自由になっていた。しかし、膝がガクンと折れる。鼻腔に淫臭を吸い込んでしまった体では、立つこともままならない。蒼の羽衣は、上の右半分が溶けて右の乳房が露わになっていた。下の短裳も溶け落ちて、腿の付け根まで露わになり、太ももの内側の素肌が冷たい風に晒されている。辛うじて残っていた甲冑胴衣も帯の部分だけ残り、腰の括れから下のラインが露わになっていた。それでも

 

――まだ終わってない

 

亜衣は芋虫を見た。

 

額に梅の小枝を突き立てられ、まだのた打ち回っている。

 

そして、亜衣は気づいた。芋虫の背後、岩肌に何かがある。あの女陰の形をした亀裂。その真上に小さな護摩が突き立てられていた。

 

――護摩……

 

「あれが、結界の源。そして芋虫を操っているわ!」

 

弓を拾った亜衣は最後の力を振り絞って跳んだ。

 

とりもちの粘液にやられた蒼の羽衣はボロボロになって亜衣の裸を隠す役目を果たしていない。しかし、いまそんなことを気にしている場合では無かった。

 

護摩の真上に飛び移り、天神の和弓を一振りの太刀に変える。すかさず刃を護摩に叩きつけた。

 

護摩が真っ二つに割れる。

 

その瞬間、空気が変わった。芋虫が悲鳴を上げる。

そして泡のように、溶けて消えた。

 

亜衣の膝が、崩れる。

 

「麻衣……」

 

それでも、姉天女は、妹の隣に舞い降りた。

倒れていた麻衣の上に、重なるように倒れた。

 

二人の羽衣は光の粒になって完全に消え、羽ばたいていた領巾も地面に落ちる。

 

「……お姉ちゃん」

「……麻衣」

 

変身は解除され、天女の領巾は元の霊布、髪結いのリボンとミサンガに戻っていた。

 

裸身を晒した姉妹の肌に、渓谷の冷たい風が吹きつける。

だが二人はそれでもしばらく、動けなかった。

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