軍事演習から屋敷に戻った日の夜。
夕食を終え、自室のソファに腰掛けた俺は、今日見た光景を思い返していた。
目の前で繰り広げられた兵士たちの訓練は、想像していた以上に迫力のあるものだった。
女性兵士たちは驚くほど力強く、素早く動き、時には人間離れした跳躍まで見せていた。魔法を使った模擬戦では、火の玉が飛び交い、土が盛り上がり、目の前に壁が生み出される。
前世では映像作品の中でしか見られなかった光景が、当たり前のように目の前で繰り広げられていたのだ。
この世界には魔法がある。
転生してから何度も実感してきたことではあるが、今日の演習は改めてその事実を突きつけてくれた。
「……それにしても」
俺は膝の上に置いていた本を閉じ、天井を見上げた。
「なんか、違うんだよなぁ……」
兵士たちが使っていた魔法だった。
もちろん、俺が知っている魔法使いといえば、屋敷の侍女たちや、以前訪ねてきたマルティナくらいのものだ。しかも、彼女たちが魔法を使うところをじっくり観察する機会はほとんどなかった。
だから、今日の演習で初めて気づいたことも多い。
まず気になったのは、攻撃魔法の精度だ。
兵士たちは敵役に向かって火の玉を放っていたが、発射された火の玉は、狙った方向へ真っすぐ飛んでいるように見えて、実際にはかなり大雑把だった。
途中で軌道がぶれたり、狙いから外れたりすることも珍しくない。
もちろん、相手も動いている模擬戦なのだから、狙いが外れること自体はおかしくない。
しかし、それを差し引いても、魔法そのものの軌道制御があまり正確ではないように感じたのだ。
いや、そもそも制御してないのだろうか?
俺が普段使っている魔法なら、浮かせた物体をある程度自由に動かせる。速度を調整し、進行方向を変え、狙った場所で停止させることもできる。
練習を重ねた結果ではあるが、少なくとも、自分が動かす物体の軌道をある程度制御することは可能だった。
それなのに、兵士たちの攻撃魔法は、いったん放ってしまえば、あとは大まかな方向に飛んでいくだけのように見えた。
もっとも俺は魔法について誰かに教わったことがない。屋敷の本を読み、書かれている内容を試し、前世の知識を頼りに試行錯誤してきただけだ。
だからこそ、自分のやり方が一般的なのかどうかすら分からない。
他にも、気になる点があった。
兵士たちは魔法を使う際、決まって魔法の名前を叫んでいたのだ。
「ファイアボール!」
演習中、何度も耳にした言葉である。
最初は単なる掛け声だと思っていた。
しかし、よく観察してみると、兵士が魔法名を叫んでから、実際に火の玉が出現するまでに、わずかながら時間が空いていた。
短いものでも一瞬。長いものでは、明らかに数秒近い間があった。
模擬戦だから安全のために手順を踏んでいるのかとも思ったが、どうやらそういうわけでもないらしい。
構える。
魔法名を叫ぶ。
そして、魔法が発動する。
どうにも、その一連の動作が不自然に思えた。
俺の場合、物を浮かせようと思えば、魔素を操作してすぐに浮かせることができる。
ラグはほぼないといってもいいだろう
もちろん、複雑な魔法ならそれなりに時間がかかる。だが、それは魔法の構造を考えたり、細かい制御を行ったりするための時間だ。
そう考えると、もう一つ気になることが出てきた。
兵士たちが使っていた魔法は、どれも比較的単純なものばかりだったのだ。
火の玉を飛ばす。
魔法で防御壁を作る。
身体能力を強化する。
土を盛り上げたり、地面を変形させたりする。
どれも戦闘では役に立ちそうな魔法ばかりだったが、発想そのものは分かりやすい。
前世の漫画などでは、炎を矢の形にして高速で飛ばしたり、複数の氷の刃を同時に操ったり、風を細い刃のようにして敵を切り裂いたりする魔法が登場していた。
しかし、今日の演習では、そういった複雑そうな魔法は見かけなかった。
単純な火の玉でも十分な威力があるのだから、わざわざ複雑な形にする必要がないのかもしれない。
それに、戦場では確実性や扱いやすさが重要だろう。高度な魔法を使うより、誰でも使える魔法を素早く放つ方が実用的という考え方もできる。
だから、複雑な魔法が存在しないと決まったわけではない。
単に軍事演習では使われなかっただけかもしれないのだ。
「うーん……」
俺は腕を組んだ。
気になる点はいくつもある。
だが、今の段階では何も分からない。
そもそも、俺が普段使っている魔法だって、まだまだ発展途上だ。自分のやり方が正しいのか、もっと効率的な方法があるのか、それすら確かめられていない。
魔法の先生がいれば聞いてみたいところだが、そんな都合のいい相手がいつもそばにいるわけでもない。
……いや、以前来たマルティナなら、何か知っているかもしれない。
ただ、あの人に魔法のことを相談したら、なぜか大変なことになりそうな気がする。
俺の直感がそう告げている
「まあ、今はいいか」
結局、俺は考えるのをやめた。
魔法について疑問を持ったところで、答えを出せるだけの情報がない。今すぐ結論を出す必要もないだろう。
そのうち機会があれば、もっと詳しく調べればいい。
俺は本を開き直し、今度は別のことを考え始めた。
◇
現在、俺が特に力を入れて研究しているのは、透視魔法と盗聴魔法だ。
透視魔法は、目に魔素を流し込むことで、通常では見えないものを見られるようにする魔法である。
前世の知識を参考に、魔素を特定の性質を持つものへ変換し、それを目で捉えるという仕組みを考えた。
初めて成功したときは、白黒のぼんやりとした影しか見えなかった。
それが練習を重ねるうちに、対象の色や形まで分かるようになり、今では透視する深さや範囲もある程度調整できるようになっている。
服だけを透かして、その下の皮膚までは見ない。
あるいは、皮膚の下にある筋肉や骨まで見る。
さらに、壁の向こう側を確認する。
そんなことも可能になっていた。
盗聴魔法も似たようなもので、壁などに遮られた先の音を拾い、聞き取れるようにする魔法だ。
どちらも、使いこなせればかなり便利な魔法だと思う。
決してエロ目的だけでない
「……やっぱり、光るなぁ」
俺は鏡の前で小さくつぶやいた。
透視魔法を発動すると、目が淡く光ってしまうのである。
普通に生活しているときには目立たない程度の光だが、薄暗い部屋で使えば、それなりに分かる。
盗聴魔法の方は目が光るわけではないものの、まだ思いどおりに扱えるとは言い難かった。
どちらも便利な魔法なのに、使うところを誰かに見られれば、すぐに怪しまれてしまう。
特に透視魔法は、使い方を間違えれば大問題になる。
この世界の常識や倫理観を十分に理解できていない部分もあるため、誰かに見つかるような使い方は避けるべきだろう。
それでも、研究をやめる気はなかった。
前世で身につけた知識や考え方を、この世界でどこまで活かせるのか。
それを試すのは、純粋に楽しかった。
しかし透視魔法の練習をしていると、どうしても余計なことを考えてしまうのである。
この世界の女性たちは、前世の感覚からすると驚くほど魅力的な人が多い。母様も姉さまたちも、まだ幼い俺から見ても美人だと思うし、屋敷の侍女たちも綺麗な人ばかりだ。
そんな環境で、前世の記憶を持つ男が何も意識せずに過ごせるかといえば、そうでもない。
そして普段からこっそりのぞいている
グレーテはブラジャーではなくさらしのようなものをきつく巻いていた
さすが軍人だ
……いや、これは別に変なことをしているわけではない。
あくまでも魔法の研究だ。
研究の一環として、いろいろな見え方を確認する必要がある。
必要があるのだが。
そうだ、見えない誰かに言い訳を続けながら、俺は覗きライフを満喫している
あとは光らなくなり常時発動できれば完璧なのだ
「……うん。やっぱり、何も変わらない」
俺は魔法を解除し、ひとりで小さく息を吐いた。
ところで、魔法を発動させながらエロいことを考えていると、下腹部のあたりに魔素が集まっていくような感覚があったのだ。
つまりちんこに魔素が集まっている気がする
最初は気のせいだと思った。
しかし、同じようなことが何度か続いたので、さすがに気になっていた。
魔法を使うとき、魔素は体のあちこちを通って操作される。だから、特定の場所に魔素が集まること自体は、それほど不自然なことではない。
だが、どうしてそうなるのかは分からなかった。
やはり無意識にちんこを意識しているのだろうか
集まった魔素が何かに変化するわけでもない。
体調が悪くなるわけでも、魔法の精度が変わるわけでもない。
ただ、ちんこのあたりに魔素が集まるような感覚があるだけだ。
「まあ、今は気にしなくてもいいか」
俺はそう結論づけた。
魔素の操作には、まだ分からないことが多い。意識や感情によって動き方が変わる可能性もあるし、単なる自分の思い込みかもしれない。
何か変化が起きるなら、そのときに調べればいい。
今は透視魔法の発光をどうにかする方が先だ。
そう自分に言い聞かせ、俺は再び魔法の練習を始めた。
目に流す魔素の量を少しずつ変え、発光の強さを確かめる。
量を減らせば光は弱まるが、その分、見える範囲が狭くなる。
逆に増やせば、今度は光が強くなりすぎる。
なかなか思い通りにはいかない。
それでも、少しずつ条件を変えて試す。
何度も失敗し、原因を考え、もう一度試す。
前世でも、こうやって実験を繰り返してきた。
世界が変わっても、やることはそれほど変わらないらしい。
「よし、もう少しだけ頑張るか」
俺は気を取り直して、研究を続けた。
そして、数年後自分の体の中でちんこが一番の成長を遂げるということを
今の俺には知る由もなかった。