体育祭当日の朝は、いつもより少し早く目が覚めた。
カーテンの隙間から差し込む光が、部屋を淡く照らしている。階下から食器の音が微かに聞こえてくる。両親はもう起きているらしい。
私はベッドから起き上がり、体操服に着替えた。白いシャツに、濃い青色のハーフパンツ。いつもの部活のときとほぼ同じ格好だけれど、今日は学校全体がこの姿だと思うと、少しだけ気恥ずかしい。シャツの生地が肌に直接触れる感触を、いつもより意識してしまう。
二階の廊下で悠貴と顔を合わせた。彼も同じ体操服姿で、髪を適当にまとめている。胸元が少し開いていて、鎖骨が覗いていた。
「おはよう。調子はどう?」
「まあ、普通。お姉ちゃんこそ、睡眠足りてる?」
「ええ。あなたこそ、徒競走あるんでしょう? 無理しないでね」
「うん。大丈夫。むしろ調子いい感じ」
いつもの何気ない会話。キッチンで簡単な朝食を済ませ、二人で家を出る。秋の朝の空気が肌に気持ちよかった。体操服の裾が風に軽く揺れる。
校門をくぐる少し前、悠貴が突然口を開いた。
「ねえ、お姉ちゃん。ちょっと賭けしない?」
「賭け? 何の」
「俺の徒競走。1位取れるかどうか、予想してみない?」
思わず足を止めて、彼の顔を見た。真面目な顔で言っているのに、目の奥が少し光っている。
「面白そうね。いいわよ。やりましょう。」
「で、どっに賭けるの!」
私は少し考えてから、口元を緩めた。悠貴の足が特別速いわけではないことは、よく知っている。陸上部の私から見ても、平均より少し遅いくらいだ。練習を一緒に見たこともある。
「じゃあ、1位は無理、って予想するわ。あなたが1位になるとは思えないもの」
「なるほど。自信満々だね」
「事実を言っただけよ。で、当たったら何がもらえるの?」
「マック、奢る。何でも好きなの注文していい。シェイクでもパフェでも」
「へえ、いいわね。じゃあ外れた場合は?」
悠貴がにやっと笑った。その笑みが、妙に悪戯っぽい。朝の光の中で、どこか色気を帯びて見えた。
「ハズレた場合は……お姉ちゃん、今日一日ノーパンで過ごして」
「……は? 何それ」
思わず声が大きくなりそうになるのを、慌てて抑えた。周囲に生徒が何人か歩いている。体操服姿の女子が、向こうで話している。
「ふざけるならやめるわよ」
「ふざけてないよ。俺が負けたらマック奢る。お姉ちゃんが負けたらノーパン。公平でしょ」
「公平じゃないわよ。私だけ恥ずかしい目に遭うじゃない。あなたはただ走るだけで」
「だって、お姉ちゃんは俺が1位取れないって自信持ってるんだろ? なら大丈夫じゃん。当たったらマック食べ放題だよ。外れたら、一日だけ我慢して」
上手いことを言う。確かに、悠貴が1位になる確率は低い。ほぼないと言っていい。だからこそ、この賭けは「当たって当然」だと思っていた。私は少しだけ考えてから、小さく息を吐いた。
「……わかったわ。ただし、本当に1位取れなかったら、ちゃんと奢ること。途中で逃げないでよ」
「もちろん。約束。お姉ちゃんも、負けたらちゃんと守ってね」
「……守るわよ。どうせ私が勝つんだから」
そうして、奇妙な賭けが成立した。校舎に入るまで、私は「どうせ私が勝つ」と高を括っていた。ハーフパンツの中で、普通にパンツを履いている感触が、いつもより意識された。
開会式が終わり、各競技が始まっていく。私は陸上部の手伝いで少し動き回りながらも、悠貴の徒競走の時間を気にしていた。午前の中盤、男子の徒競走がアナウンスされる。
スタートラインに並ぶ悠貴の姿が、遠くに見える。号砲が鳴り、一斉に走り出す。最初は中位だった。それでも、中盤で少しずつ順位を上げていく。最終コーナーで二位に並び、直線に入った瞬間、前の選手がバランスを崩した。悠貴がその隙を突いて一気に抜け出し、トップでゴールテープを切った。
……1位。
私はスタンドで、ぼうっとその光景を見ていた。周囲がどよめき、拍手が起きる。悠貴が息を弾ませながら、こちらを見て小さく手を振った。その表情が、明らかに「勝った」と言っていた。胸の奥が、嫌な予感でざわついた。
休憩時間になって、悠貴が校舎裏へ私を誘った。人通りの少ない、物置の陰。体育祭の喧騒が遠くに聞こえ、ここだけが妙に静かだった。
「予想、外れたね」
「……まさか、本当に1位になるなんて。運がよすぎるわよ」
「運もあったけどね。実力もちょっとあったし。で、ペナルティ。守ってくれる?」
彼の目が、逃げ場のない熱を帯びている。私は周囲を確認してから、小さく息を吐いた。誰もいない。それでも、声を潜める。
「……わかったわ。ハーフパンツは、すぐに履き直させてよね。」
「一日だよ。約束。お姉ちゃんが自分で決めたことだろ」
「知ってるわ……」
体操服のハーフパンツの中に手を入れ、パンツの端を掴む。指先が生地に触れた瞬間、すでに心臓が早かった。ゆっくりと下ろすと、涼しい風が直接肌に触れた。恥ずかしい。誰かに見られていないか、何度も周囲を確認しながら、パンツを完全に脱いだ。白い生地を、悠貴の手に渡す。
「……はい。これでいいでしょう」
「受け取った。お姉ちゃん、もうノーパンだね」
悠貴がパンツを顔の近くまで持っていき、軽く匂いを嗅ぐ仕草をした。目を細めて、満足そうに息を吸う。私は顔から火が出そうになって、彼の胸を押す。
「変なことしないの。返して。今すぐ」
「返さないよ。一日預かる。ちゃんと守ってね。このまま持ってる」
「……変態。そんなもの持って歩かないでよ」
「大丈夫。ポケットに入れておくから。お姉ちゃんの匂い、逃げないように」
ハーフパンツを履き直す。生地が直接、敏感な部分に触れる。布の感触が生々しくて、立っているだけでも意識してしまう。縫い目が割れ目に当たる位置が、微妙にずれている。風が吹くたびに、隙間から冷たい空気が入り込み、無防備な部分を撫でるようだった。パンツを履いていたときには感じなかった、生地の擦れ方が、過剰に神経に触れる。
「……もう行って。次の競技があるんでしょう」
「うん。頑張ってね、お姉ちゃん。ノーパンで。風、気持ちいい?」
「聞かないで。早く行って」
悠貴が笑いながら先に行ってしまう。その後ろ姿を見送りながら、私はしばらく壁に寄りかかった。下半身が無防備な感覚。歩くたびに、ハーフパンツの生地が擦れて、変な感触がする。太腿の内側を、布が直接撫でる。恥ずかしいのに、どこかで小さな興奮が芽生えている自分がいた。
その興奮は、すぐに形になった。
次の競技の準備でグラウンドを歩いていると、下腹部が熱を持つ。愛液がじわりと渗んで、ハーフパンツの内側を濡らし始めた。歩くたびに、濡れた感触が広がる。生地が肌に張り付き、離れるたびにぬるぬるした感触が残る。誰かに匂いがしないか、染みができないかと、落ち着かなくなる。風が吹くたびに、冷たい空気が濡れた部分を撫でて、余計に意識が集中した。
「……トイレ、行かなきゃ」
校舎のトイレに逃げ込んだ。個室に入り、ハーフパンツを下ろすと、太腿の内側がすでにぬるぬるしていた。愛液が糸を引いて、白いティッシュに染みる。丁寧に拭く。敏感な部分に触れるたび、小さく震える。クリトリスが布擦れで少し充血しているのがわかった。拭いても、すぐにまた滲んでくる気がした。鏡に映った自分の顔が、妙に赤い。
再びグラウンドに戻っても、同じだった。座るたびに生地が密着し、立つたびに空気が触れる。競技の合間に地面にしゃがむと、ハーフパンツの裾から直接風が入り込み、無防備な部分を冷たく撫でる。そのたびに、また愛液が分泌される。恥ずかしい。なのに、体は正直に反応してしまう。生地の内側が、徐々に湿った感触で重くなっていく。
午前の残りで、私は四度トイレに通った。毎回、個室でハーフパンツを下ろし、ティッシュで丁寧に拭く。拭く行為自体が、余計に意識を集中させてしまう。指が触れる感触、ぬるぬるした愛液の量、自分の体がこんなにも湿っているという事実。誰にも言えない秘密を、体操服の下に隠して、私は体育祭を続けていた。トイレを出るたびに、廊下で誰かと目が合わないかと心臓が騒いだ。
昼休み近く、悠貴と廊下で鉢合わせた。彼は私の顔を見て、すぐに気づいたらしい。近づいてきて、声を潜める。
「どう? 感じてる?」
「……うるさいわね。あなたのせいよ」
「パンツ、大切に持ってるよ。ポケットの中で温めてる。後で返してあげる」
「返さなくていいわ。捨てなさい。変なこと考えてるでしょう」
「考えてないよ。ただ、お姉ちゃんがノーパンで歩いてるって思うと、嬉しくなるだけ。今、濡れてるでしょ?」
「……知らないわよ」
「嘘。顔、赤いし。歩き方、ちょっと気にしてる」
指摘されて、私は思わず足を止めた。確かに、歩くたびに生地の感触を確認するようになっていた。悠貴が小さく笑って、さらに近づく。
「トイレ、何回行った? 結構通ってたよね」
「数えてないわ。……三回か、四回よ」
「やっぱり。お姉ちゃんのそこ、敏感なんだ。布が直接当たるだけで、こんなに」
「もう、いいわ。話しかけるのやめて。誰かに聞かれたらどうするの」
「大丈夫。誰も来ないよ、今」
悠貴が私の腰に、さりげなく手を添える。体操服の上からなのに、その手が下半身の無防備さを意識させてくる。私は彼の手を振り払って、先に歩き出した。
「午後も、頑張れよ。ノーパンで」
「……覚えてなさいよ」
言いながらも、声に力はなかった。悠貴が嬉しそうに笑って、反対方向へ行ってしまう。その後ろ姿を見送りながら、私はまた下腹部の熱を自覚した。ハーフパンツの内側が、再びじんわりと湿っていく。生地が肌に張り付き、歩くたびにぬるぬると滑る感触。風が吹くたびに、冷たい空気が直接触れて、羞恥と興奮が混ざった変な感情が湧いてくる。
体育祭はまだ終わらない。午後の競技も控えている。この無防備な状態で、あと何時間過ごすのか。考えるだけで顔が熱くなり、同時に、隠しようのない興奮が体の奥でくすぶっていた。トイレの個室で拭いたばかりなのに、もうまた滲み始めている。自分の体が、こんなにも正直に反応してしまうことが、少しだけ恐ろしくて、でもどこかで期待してしまっている。
校舎の影で、私は小さく息を吐いた。ハーフパンツの裾を、無意識に抑えるように手を添える。まだ、一日は続く。