コミュ障陰キャの私が学園のアイドルを買っちゃいます! 作:空空空空
「……」
「……」
き、気まずい……。
私は現在、舞園さんと夕食を囲んでいる。けれど、食卓にはあり得ないほど重苦しい沈黙が漂っていた。聞こえてくるのは、時折響く食器の触れ合う音だけ。それがかえって、リビングの静けさを際立たせている。
せっかく舞園さんが作ってくれた夕食なのに、私は先ほどの出来事が頭から離れず、味わう余裕すらなかった。
ただ口に運び、飲み込む。まるで栄養を摂取するためだけの作業だ。何を食べているのかさえ、よくわからない。
舞園さんが心を込めて、一生懸命に味付けをしてくれたであろう料理を、私はあろうことか、味わうこともなく胃の中へと流し込んでいた。
今日だけでも、朝食と昼食の二度、舞園さんの手料理を口にしている。そのどちらも文句のつけようがないほど美味しくて、ひと口食べるたびに、丁寧に作ってくれたことが伝わってくるようだった。
舞園さんが受けた恩をきっちりと返そうとする人柄なのは、あの条件を課したときに、骨の髄まで理解している。だからこそ、今回の料理だって、きっと何度も味を確かめながら、一生懸命に作ったのだろうと思う。
学園のアイドルである舞園さんの手料理を食べられる機会なんて、滅多にない。学校のみんなだって、お金を払ってでも食べたいと思うに違いないのに。それなのに、私はそんな貴重な機会を、台無しにしてしまっている。
なんて罪深いことをしているのだろう。そんな自覚はあった。痛いほどに。けれど、今の私には、料理の味を楽しむために意識を割く余裕など、どこにもなかった。
そして、そんな舞園さんはというと、頬をほんのりと赤く染めながら、ちらちらとこちらを盗み見ていた。
私がふと顔を上げて目を合わせると、途端に視線を逸らし、慌てた様子で料理を口へ運ぶ。けれど、しばらくすると、またこちらをちらり。目が合えば、慌てて逸らす。
そんな動作を、舞園さんは何度も何度も繰り返していた。
私が想像していたのは、もっと露骨で、隠しようもないほどのはっきりくっきりとした侮蔑を含んだ、心を抉るような眼差しだった。そう思えば、今の舞園さんの視線は、まだ幾分かマシなのかもしれない。
それでも、居心地が悪いのは変わらないけど。
この気まずい空気を今のうちにどうにかしなければ、明日以降もずっと引きずることになる。そうして毎日、こんな息苦しい生活を送る羽目になるのだと思うと、胃がキリキリと痛んだ。
とはいえ、そこは極度のコミュ障で陰キャな私。自分から話しかける勇気など、あるはずもない。
結局、私は自分の失態を悔やみ、ひたすら自分を責めることしかできなかった。
……だめだ。今日はもう諦めよう。
明日。明日になったら、ちゃんと舞園さんと話そう。うん。そうしよう!
舞園さんだって、まだ頭の中が混乱しているに違いない。そんな状態で無理に話しかけたところで、余計に混乱させてしまうだけだ。
うん、そうだ。決して自分から話しかける勇気がないからではない。相手を気遣っての判断なのだ。
そう自分に言い聞かせることで幾分が心は軽くなったので、私はやっとこさ、料理を味わおうと箸を動かす――、
……あれ?
私の目の前にあったはずの料理は、いつの間にかすっかりなくなっていた。
ぐ、ぐぬぬ……。はあ……ま、まあ、ないものねだりをしても仕方がない。とりあえず部屋に戻って、漫画の続きを描こう。
そう決めた私は、手を合わせて「ごちそうさま」と口にしようとした。
「ご――」
「ご、ご主人様!」
「!?」
突然、真正面から舞園さんの声が飛んできた。
あまりにも不意打ちだったせいで、私は驚きのあまり声を詰まらせてしまう。代わりに、肩がびくりと大きく跳ねた。
私は反射的に舞園さんへと視線を向ける。
けれど、当の舞園さんは何かを言いかけては唇を固く結び、また口をもごもごと動かしていた。視線はずっと足元に落とされたまま。両腕も小刻みに震えている。おそらく、両手でメイド服の裾をぎゅっと握りしめているのだろう。
私は、いったい何を言われるのだろうかと胸をどきどきさせながらも、舞園さんが言葉を紡ぐのを急かすことなく、じっと待った。
ただ、あまりにも思いつめたような表情を浮かべているものだから、私までつい身構えてしまう。
一体、どんな言葉を告げられるのだろう。
そんな不安に駆られながら、私は頭の中であれこれと想像を巡らせ、舞園さんが口を開くのを今か今かと待った。
そして――。
「あ、あの!」
「ひゃっ、ひゃい!」
「……あ、う。えっと、その……」
舞園さんは何とか覚悟を決めたようだった。けれど、いざ言葉にしようとすると、まだためらいが残っているのか、指先同士を落ち着かなさそうにすり合わせながら、口をもごもごと動かしている。
学校での舞園さんは、いつだって堂々としていて、言葉遣いもはきはきとしている。授業中に先生から指名されても、迷うことなく明瞭な口調で答えるし、教科書を音読するときだって、よどみなくすらすらと読み上げる。
今の目の前にいるような、自分の気持ちをうまく言葉にできずに、言葉を詰まらせる舞園さんを初めて見た。
そんなことを考えながら様子をうかがっていると、やがて舞園さんは、ついに覚悟を決めたのか、勢いよく私へと顔を上げると、名一杯に空気を肺に取り込んだ。
「わ、私を……私を! 縄で縛って、弄んでくれませんか!」
「……………………………………へ?」
……え?
あ、うん? へ?
今の、空耳? それとも幻聴?
あ、あはは、そうだ。きっとそうに違いない。
まさか、学園のアイドルである舞園さんが、拘束プレイを望むわけがない。そんなドMみたいな発言、舞園さんがするわけがない。きっと私の聞き間違いだ。そうに決まっている……はずなのに。
舞園さんの言葉は、私の耳に嫌というほど鮮明に残っていた。試しに自分の右手の甲をつねってみても、痛みが現実であることを容赦なく教えてくる。
つまり、紛れもない現実だ。
……いや、待って。
そうか! そういうことか!
これは舞園さんなりのジョークなんだ。この気まずい空気をなんとか振り払おうとして、とっさに出た冗談なんだ。それ以外にありえない。
「へへ……え、ええっと。ま、舞園さん。じょ、冗談が、う、上手いな~。は、はは……」
「冗談ではなく、わ、私は本気です! 本気で言ってます!」
「…………………………………へ?」
私は高速すぎる瞬きを繰り返した後―—。
「ええええええええええええええええええええええ!!!」
私の絶叫はリビングに轟いた。
「へ? は、ええ……? は、へ、な……え? ま、ちょ、あ、え?」
今世紀最大級に頭が混乱していた。
言葉を紡ごうにも、頭の中がごちゃごちゃすぎて、まともな文章が組み立てられない。口から飛び出すのは意味不明な音ばかり。もはや会話どころか、解読不能な暗号が出来上がっていた。
あの舞園さんが? 冗談ではなくて、本気で? 何がどうなってこうなった? なになになに? 意味が分からない!
私の想像の遙か上を行く事態に私の頭も心もごちゃごちゃのぐちゃぐちゃ。ごちゃごちゃの頭で心ももぐちゃぐちゃにかき回されても、私は舞園さんを見つめた。
心臓のドキドキが収まらないのか、右手は心臓部分を抑え、まるで激しい運動をした後のように荒い呼吸を繰り返している。頬は夕食前よりもいっそう赤く染まり、額にはうっすらと汗が浮かんでいた。
その瞳は不安げに揺れ、目尻には今にもこぼれ落ちそうなほど涙がたまっていた。
その表情が、すべてを物語っていた。
――本気なんだ、と。
そんな舞園さんの様相に私は、私は心なしか昂っていた。
もし本当に舞園さんと、そういうプレイをしたら……今目の前にいる、この状態の彼女を、もっと見られるはずだ。そんな表情のまま、縄で縛られている舞園さんはそれはきっと、美しいに違いない。
そして実際にその状況を体験できたら、私の漫画のクオリティは何倍にも跳ね上がるに違いない。
舞園さんが「何でもする」と言ってくれたとき、正直、そんなエッチなプレイのことも頭をよぎっていた。
でも、さすがに口には出せなかった。言えるわけがなかった。
だって、相手は学園のアイドルたるお方だぞ。
容姿端麗で成績優秀、運動神経抜群。誰に対しても分け隔てなく接し、男子からの告白が絶えない。可憐で清楚で、純粋無垢。皆から愛され、皆から憧れられる――あの学園のアイドルこと舞園吹雪さんだぞ。
そんなエッチなプレイしましょうなんて言った暁には、私は殺されてしまう。
しかし、それがなんとことか。自分からそう言ったプレイを望んでいる。場を和ます冗談ではなく、本気で。
だったらそんなの、本人が望むならそんなの――断る理由なんてない!
「……い、いいよ。舞園さんがの、望むなら」
「……! あ、ありがとうございます! ご主人様!」
舞園さんは、ぱっと顔を輝かせた。
先ほどまでの緊張が嘘のように、その表情は清々しい。ようやく胸につかえていたものが取れたのもあるが、でも、それ以上に、私とのプレイにワクワクを馳せている気がした。
*
約束を終えるなり、舞園さんは手際よく夕食の食器を洗い始め、私は麻縄と撮影用の三脚をそそくさと準備した。
実を言うと、漫画の資料用として、これまでにぬいぐるみ相手で色々な縛り方を嗜んではいた。だから技法や手順なら頭に入っている。だが、相手が生身の人間となると話は別だ。
強く締めすぎればただの苦痛になり、甘すぎれば肉体の食い込みが生まれず、艶めかしさに欠けてしまう。
私は漫画の資料に撮影していい? と聞くと舞園さんはと快く頷いてくれたので、ぜひとも資料となる美しさと色気を兼ね備えた「完璧な一縄」を施したい。
舞園さんの洗い物が片付くまで、私は縄の縛り方を手を動かしたりして、一個一個の手順をしっかりと復讐する。
――そして。ついに時は来た。
こんこん。
「ご主人様。入ってもよろしいでしょうか?」
「あ、う、うん。いい、よ」
そう言うと舞園さんはゆっくりと扉を開け、私の部屋へと入室する。いよいよ舞園さんと拘束プレイをするのだと思うと、気持ちが昂るのと同時に、緊張が迸る。
それは舞園さんも同じようで、緊張した面もちでいるものの、ベッドの上にある麻縄を見た瞬間、その瞳にはどことなく期待に満ちていた。
私が入室した舞園さんを私の座るベッドの横をぽんぽんと叩き、そこに座るように促す。舞園さんは今から始まるプレイに、緊張からかそわそわしていた。
「ご、ご主人様。よ、よろしくお願いします」
「あ、う、うん。こ、こちらこそ。えっと、よ、よろしくお願いします」
お互いに頭を下げて、まるでお見合いみたいに言葉を零す私たちはぎこちない。私は一度、ベッドから降りて、スマホの録画ボタンを押す。
舞園さんは今から自分があられもない姿を取られることを実感して、恥ずかしさのあまり、メイドの服の裾をぎゅっと掴んでいた。
私はベッドに戻ると、履いていたスリッパを脱いで、ベッドの上を移動し、舞園さんの背後へと回る。
「え、えっと、今からし、縛るから、両手を後ろにして、上下に重ねるような、か、格好にし、してくれる?」
「わかりました……」
舞園さんはゆっくりと両手を後ろに回し、両手首が重ねるような形で待機する。緊張からか手先が小さく痙攣していた。
「え、えっと。い、痛かったらちゃ、ちゃんと言ってね?」
「は、はい。ご主人様……」
舞園さんから返事を聞いた私は、いざ、舞薗さんに手を掛けていく。
最初に組んでる手首と背中の間に縄を通していく。ゆっくりと慎重に、本当に割れ物を扱うかのように丁寧に、でも手際よく縄を施していく。
あまり時間をかけすぎると、舞園さんに負担がかかる。手際よく丁寧にそれを意識して縄を縛っていく。
「んぅ……♡」
私が少しきゅっと縄を縛ると舞園さんの艶めかしい吐息が漏れる。
部屋は静けさが充満しているので、そのちょっとの吐息でも私の耳に鮮明に届く。その吐息を聞き、私は縄から舞園さんを見る。後ろ姿でしか確認できないが、耳も頬っぺたも熟れたりんごのように赤く染まってき、呼吸も荒くなっていた。
この反応……まだ断定はできてないが縄酔いをしているのではなかろうか。
身体を縄で縛ったときに、時として、強い興奮を覚え、脳内麻薬が分泌されてまるでお酒に酔ったような酩酊状態や陶酔状態に陥ることがあるそうだ。
もし、舞園さんのその吐息が縄酔いからくるものだとしたら、舞園さんは生粋のM体質となる。そう考えると、なんだろう、身体の奥底からゾクゾクとするものがある。
そんな想いを抱えながらも、私は最後の仕上げに入る。ちゃんと手首を動かしても解けないように、もう一回結んだ。
「は~完成……」
私が施したのは、ごく一般的な後手縛りだ。
本当ならここからさらに縄を足して、いくつもの複雑な縛り方へ派生させることもできる。けれど、今日は初日。
私自身、人に縄をかけるのは初めての経験で、相手の反応を伺いながら加減を探る作業は思いのほか神経をすり減らし、手元がもたついてしまったこともあって、私はすっかり緊張と疲れでへとへとになっていた。
少し時間がかかったせいで、これ以上の縛り方を施してしまうと、舞園さんの体に無用な負担をかけてしまう。長時間同じ体勢で固定されるのは、思いのほか筋肉や関節に苦痛を強いるものだ。
今の私の熟練度と、舞園さんの体調を考えれば、このくらいがちょうどいい。
「お疲れ様です。ご主人様……」
後ろ手で縛れたまま、私を労う舞園さん。客観的に見れば中々にシュールな絵面だろう。
今の彼女は頬を紅潮させ、目尻にはほんのりと涙すら浮かべている。羞恥と緊張が生み出したその表情は、普段の彼女にはない艶やかさを醸し出し、言葉を失うほどに美しかった。
「あ、ありがとう……。そ、それでま、舞園さんは、そ、そのぉ、大丈夫? ど、どこかきつかったり、い、痛かったりし、して、ない?」
「は、はい……。な、なんかへ、変な感じですね。縛られてるのに、でも、不思議と嫌な感じがしなくて……身体の奥が熱くて、高揚感があって……え、えへへ。わ、私って変態だったんですね」
自らの内に眠っていた未知の感情に気づいた舞園さんは、気恥ずかしさを隠すように乾いた笑いを零す。
けれど、その笑顔にはどこか開き直ったような晴れやかさも混じっていた。自分が「変態」であることを自認してしまったことで、かえって吹っ切れたのかもしれない。
目の前の光景を眺めながら、私は未だに現実感を得られずにいた。もはやファンタジーの世界の話と言われた方が納得がいく。
みんなの憧れである学園のアイドルが、私の部屋で、私が施した手縄によって後ろ手で縛られているのだ。客観的に考えれば意味が分からない状況だが、しかし、私の胸の奥では、抑えきれないほどの興奮と高揚感が渦巻いていた。
――でも、本当の勝負はここから。
「ご、ご主人様……! ご主人様の漫画のように、このままわ、私の身体をも、弄んでください……!」
縛られた状態のまま、意を決したように懇願してくる舞園さん。やはり、舞園さんに私の漫画を読まれていたらしい。
だが、今の状況を思えば、それは怪我の功名以外の何物でもなかった。あの漫画があったからこそ、今こうして彼女とこのような夢のようなプレイに興じることができている。いや、漫画そのものというよりは、あの時途中で寝落ちしてしまった過去の自分のおかげと言うべきだろう。
あの時の自分には散々落ち込んだり自己嫌悪に陥ったりもしたが、今となっては感謝しか浮かばない。
あの時の私、恨みつらみ罵詈雑言を浴びせてごめんね。そして……よくやった! あの時の私、よくぞあそこで寝落ちしてくれた。ありがとう!
「え、ええっと。ほ、本当にい、いいの……?」
「だ、だ大丈夫です! ぜ、ぜひご主人様の漫画の資料が手に入ると思って、やって下さい!」
舞園さんは言葉こそどもりぎみだったものの、その瞳にははっきりと覚悟の光が宿っていた。彼女自身がここまで望んでいるのだから、期待に応えるのが筋というものだろう。
舞園さんの言う通り、最高の作画資料が手に入って漫画のクオリティが跳ね上がる上、学園のアイドルとこんな特別な時間を共有できるなんて、一石二鳥でしかない。
……でしかないのだが、それでもやっぱり恐れ多いと言うかなんというか。
「ご主人様。さあ、私の身体を……」
舞園さんは後ろ手のままベッドの上に仰向けに倒れ込み、仄かに赤く染まった頬を帯びながら潤んだ瞳を上目遣いで私を見つめてくる。
ゴクリ……。
私はついぞ唾を飲みこむ。
もはや意識は理性を離れ、足が勝手に動き、気づけば私はベッドに寝転がる舞園さんの傍へと引き寄せられていた。
舞園さんは熱を帯びた瞳で私を見つめ、じっと動向を伺っている。その潤んだ双眸には羞恥や不安の色も揺れていたが、しかしその一番の根底にあるのは、隠しきれない強い「期待」だった。
舞園さんは期待している。私にその身体を弄ばれることを。いや、それ以上に望んでいる。
あれほど恐れ多くてためらっていたはずの私の心は、今や「舞園さんのその望みを叶えてあげたい」という強い衝動だけに満たされていた。
「まい、ぞのさん……」
「ごしゅじんさまぁ……」
蕩けるような、甘い甘い声に導かれるまま、私の思考は心地よい熱に溶かされていく。その甘美な誘惑に抗うことなどできず、私はそっと右手を持ち上げた。
震える人差し指を、メイド服の布越しに彼女の鎖骨へと当て、そのままお腹のラインへと、つーっと滑らせていく。
「ん、あ……♡」
舞園さんはくすぐったいのか、小さく身をよじらせる。けれど、両手を後ろにしっかりと拘束されている彼女にできるのは、ただそれだけだった。
その姿はあまりにも無防備で、少しばかり惨めで、滑稽で、可哀想で――でも、それ以上に愛おしく、綺麗で、そして息をのむほどに美しかった。
「あ……♡ ん、はっ……♡ ひゃぅ……♡」
私は何度も繰り返し同じ軌道上をなぞる。寸分の狂いもなく。それなのに、舞園さんは撫でられるたび、まったく違う甘い反応を返してくる。
私にされるがままの彼女の抵抗は、ただただ芋虫のように身体をくねらせるだけ。
舞園さんは運動神経抜群で、対する私は運動神経皆無。身長だって私より約十センチも高く、もし万が一、本気で戦うことになれば、私なんて一捻りだろう。
けれど――今、この瞬間は違う。
縄に縛られた彼女には、私をどうすることもできない。ただベッドの上に無力に横たわり、私の指先の赴くままにされるがままになっている。
ただただ喘ぎ、顔を真っ赤に染め、目尻には涙を溜めながら、それでも逃げ出すことすら許されない。そんな無力な姿を見れば見るほど、私の胸の奥からは、言葉にしがたい熱い感情がふつふつと湧き上がってきた。
――私は今、この人を支配している。
学園の誰もが憧れるアイドルを、私の手で、私の部屋で、完全に無力化しているという強烈な事実。背徳の甘さと、それに比例するように膨れ上がる、言い知れぬ優越感と高揚感が、全身の血液を沸騰させていくようだった。
「ご、ごしゅ、じん……さまあ……♡。どうぞ、私の胸をもみもみしてくだしゃあい……♡」
とろんと蕩けた瞳で私を見つめながら、舞園さんは甘く甘くおねだりする。縄酔いの効果もあって彼女の呂律は既にがおぼつかない。
普段の彼女からは想像もつかない、まるで甘える猫のような撫で声。その可愛らしさに胸を撃ち抜かれた私は、吸い寄せられるように小さく頷き、そして、黒いジャンパースカートと白いブラウスに包まれた、豊かな膨らみへとゆっくり右手を近づけていく。
普段の私なら、こんな過激なお願いをされたら理性がブレーキをかけ、一歩引いて躊躇してしまっていたはずだ。
けれど今や、私も舞園さんと同じように感情が極限まで昂り、思考は心地よくふわふわと漂っていた。
――この胸に触れたら……舞園さんは、一体どんな顔をするんだろう?
私の頭の中は、もはやその好奇心と情動だけで満たされていた。
躊躇いを捨てた私の指先が、白いブラウス越しに柔らかく膨らむ彼女の胸へとそっと触れ――、
「ん、あ……!」
触れるか触れないかの瀬戸際。その微かな接触だけで、舞園さんはまるで電撃を受けたかのように身体を跳ねさせ、上体を大きく逸らす。
「まな板」である私にとって、生身の胸の感触を味わうのはこれが人生で初めて。まさかその初体験の相手が、あの学園のアイドルだなんて想像もしてなかったが。
初めて触れたその感触は、水をいっぱいに満たした風船のような重みと、吸い付くような弾力に満ちていた。硬さや骨っぽさは一切なく、こちらの掌の形に合わせてしなやかに形を変える、あまりにも心地よいフィット感。
「は……♡ んはっ……♡ あん……♡ んにゃ……♡ あん……♡」
揉みしだかれるたびに、舞園さんは壊れたおもちゃのように甘い嬌声を零していく。その愛らしい声を耳にするたび、私の胸の内でうず巻いていた高揚感のボルテージは、音を立てて急上昇していく。その昂ぶりのままに、初めは恐る恐るだった手つきは、次第に熱を帯び、激しさを増していった。
「はあんっ! んにゃっ! はっ! んああっ!」
私が手を動かすたびに、舞園さんの切なげな声量が一層高まっていた。身体の跳ね上がりも凄まじいことになっており、まるで、釣り上げられた魚のように、ぴちぴちと跳ねる。
乱れた黒髪が揺れ、額や目元に浮かんだ汗と涙が照明に照らされて煌めく。息も絶え絶えになりながらも、刺激が伝わるたびに彼女の唇からは意図しない声が零れ落ちてしまう。
背中に回された両腕は無意識に縄の拘束から逃れようと小さく動き、自由なはずの足もまた、全身を駆け巡る感覚を逃がそうと曲げ伸ばしを繰り返している。
全身で抗うような反応を見せているというのに、私は一切の手をやめない。。むしろ、刺激を与えるたびに大きな反応を返す舞園さんの無防備で艶めかしい姿を、乱らな姿を、卑猥な姿を、エッチな姿を、もっと見たい。もっと目に焼き付けたい。という欲望が、胸の奥で一層強く叫び声を上げていた。
高まりすぎた感情はもはや制御が利かず、理性の
私は吸い寄せられるように舞園さんの胸元へと手を伸ばすと、結ばれていたリボンを解き、白いブラウスのボタンへと指を掛けた。
「は、はあ、ごしゅ、ごしゅじん、さま……んは……。やめ……恥ずかしい……」
舞園さんの控えめな抗議の声にも、耳を貸さず、ただ一心にブラウスのボタンを一つ一つ外し、胸元の生地を左右へと開いていく。
「あ……やめ。ご主人様……そ、それ以上は……!」
制止しようとする声さえも背景の音のように遠のき、ただ眼前の光景と自身の衝動だけに意識が塗りつぶされていく。覆っていた布地が緩められ、これまで衣装の下に隠されていた輪郭が徐々に露わになっていった。
胸元のブラウスがはだけると、可愛いらしいピンクのブラジャがー顔を出した。私はそれをも手に掛け、その奥に隠されたロマンを触りたい一心に、そのブラジャーを強引に下ろしていく。
全貌は開示できてないまでも、それでも、ほぼほぼの部分は剥き出しになっていた。
「あうぅ……み、見ないで……。ご、ご主人様……そんなに胸をみ、見ないでください……」
舞園さんはメイド服に隠されていた二つのおっぱいを曝け出されて、羞恥に染まる。目を逸らし、目尻からは煌めく涙が輪郭に沿って零れ落ちる。
「まい、ぞのさん。そ、その表情……か、可愛いよ」
「ふ、ぇ……?」
「だ、だからね。もっと、もっと、舞園さんの、か、可愛い所見せて、ね?」
「ご、ご主人さ――あ、あうん!」
舞園さんが言葉を紡ぎきる前に、私は露わになった胸へ直接手を伸ばし、揉みしだいた。衣服越しでは味わえなかった人肌の温もりが、ダイレクトに掌へと伝わってくる。
「はあ、はあ、はあ。ご、ごしゅ、じんさま……や、やめてくだ、さい。も、もう。こ、これ以上は――」
――かりっ。
「あ゛あ゛っ!?」
舞園さんは聞いたことのない小汚い声を出しながら、びくんと大きく跳ねた。
そうなった原因はもちろん私にある。私がしたのは、ただ舞園さんの右乳首を、右の人差し指で、かりっと引っ掻いただけだ。
たった、それだけ。赤ちゃんでもできること。にもかかわらず、舞園さんは驚くほどにびくんっ!! とエビ反る勢いで大きく身体を跳ねさせた。
舞園さんはその脳天を貫くような感覚に、先ほどまでの羞恥に満ちた表情は一瞬で吹き飛び、何が起きたのか理解が追いつかないといった様子で、彼女は大きく目を見開いている。
混乱と驚愕に固まる舞園さんを余所に、私の左指は舞園さんの左乳首を狙っていた。
「ご、ごご、ご主人様……! ま、まま、待って……! おおお願い、まま、待ってくだ、さい……!」
舞園さんの懇願を受け、一旦その突起に直接触れるのを止める。先ほどの強い刺激への恐怖からか、彼女の瞳には怯えの色が浮かんでいた。
しかし、乳首は触らないまでも、私はその周りを孤を描くように滑らせる。たま~に乳首に触れるか触れないかの境目を行ったり来たりさせて緩急をつけてもどかしさを与えながら。
「はあ……ん、は♡ ご、ごしゅ、じん、さま……♡ はあ、はあ、はあ、はあ……♡」
舞園さんはもどかしさからかどんどんと発情期の犬のように呼吸を荒くする。心なしか乳首もぴんと立っていた。舞園さんは早くそのもどかしいさから解き放たれたいのであろう、私の左指の動きを食い入るように見ていた。
しかし、私は、その彼女の気持ちを知っていたとて、あえて焦らしの動作を崩さない。
舞園さんはその耐えがたい焦らしに我慢の限界なのか、必死に背中の縄を解こうと力いっぱい身をもがく。しかし、これまでの緊張と体力の消耗が重なり、それもむなしく徒労に終わり、脱力したようにベッドの上でぐったりとする。
逃れられない拘束と焦らしの焦躁感に打ちひしがれる舞園さんを私は見下ろしながら、
「ま、舞園さん。触ってほしい……?」
その言葉に、舞園さんは大きく反応する。度重なる刺激と焦らしによって頬は真っ赤に染まり、目元から溢れた涙がそのまま頬を伝ってシーツを濡らしていた。
「さ、さわって、んは……♡ 触ってほしいです……♡」
「ど、どこを触ってほしいの、かな?」
どこを触ってほしいなんて明白の理なのに、私はつい意地悪で舞園さんの口からその場所を言わせようとする。
「は、はうぅ……♡ はあ……はあ……そ、それは……」
残された理性が抗うのか、舞園さんは苦々しく奥歯を噛み締め、言葉を詰まらせて躊躇を見せる。
「……」
私は言いよどむ彼女の様子を見ながら、指先をゆっくりと動かした。優しく胸に触れつつ、ぴくぴくと触られることを期待して硬くする乳首へとじわじわと指先を近づけていく。
「はっ……! はっ……! ん、は……!」
舞園さんは触れられるのを今か今かと待ちきれないと言わんばかりに、荒々しい呼吸に期待を滲ませる。
私の指がついに、彼女の乳首へとまさに今触れようとして――私は指を止めた。
「ああっ……! あ、あとしゅこし……しゅこし……だったのに、はあ……♡」
寸前で焦らされた舞園さんは、もどかしさと切なさの混ざった息を漏らし、さらに身をよじらせる。彼女の限界点はもうそろそろ突破しようとしていた。
「ま、舞園さん。も、もう一度、聞くよ? ど、どこを触ってほしいの?」
「あう……そ、それ、は……」
「……」
中々口を裂かない舞園さんに私は乳首まで近づけた人差し指をゆっくりと遠ざけていく。
「は……! ご、ごしゅじんしゃま、ま、待ってくだしゃい……!」
私は舞園さんの待ったに耳を貸し、動かしていた人差し指を止めて、視線を彼女へと向ける。彼女は、半開きになった唇からはあはあ、と何度か熱い呼吸を繰り返すと、おもむろに口を堅く閉ざす。
そして、震える唇をゆっくりと動かした。
「……ち、ちく……び……を」
「?」
私が聞き返すように首をかしげると、一瞬だけ唇を噛み締め、やがて意を決したように固く目を瞑りながら、ついにその場所を答えた。
「わ、私の乳首を、触ってください! ご主人様!」
舞園さんが、あの舞園さんが乳首などという卑猥な言葉を放ったことに私はついぞ、口元を緩ませてしまう。
「ん。わ、分かった……よ」
私は言えたご褒美といわんばかりに、彼女のぴんぴんに勃った左乳首をかりっと引っ掻く――のではなく、きゅっとつまんだ。
「っ!? あ゛あ゛あ゛あ゛ああああああ!!」
今まで極限まで焦らされていた分、一気に押し寄せた激しい刺激に、舞園さんは叫び声を上げた。普段の透き通るような美しい声とは一変し、本能を剥き出しにしたかのような激しい声が部屋中に轟かせる
その刺激はあまりにも強すぎたのだろう。
――ぷしゃっ!
スカートの隙間から何かが少しだけ飛び散った。それは、紛れもなく。”潮吹き”だった。
その刺激の強さゆえか、全身を駆け巡った衝撃に耐えきれなくなった舞園さんは、やがて糸が切れたようにすとんとベッドの上に身体を沈ませた。
荒い息遣いだけを残し、彼女は静かに目を瞑っている。呼吸は繰り返しているものの、指先ひとつ動かす気配はなく、過度な緊張と疲労の限界を迎えて意識を手放してしまったようだった。
嵐が過ぎ去ったあとのような静寂が室内を包み込む。
私はその場で動かなくなった舞園さんの姿を、ただ呆然と見つめ続けていて……見続けていて……見続けていて……見続けて、いて……いて……い、て?
……。
……………………………………………………………………………………。
……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………っ!?。
「わ、私は……何を!?」
頭に上っていた熱が急速に引いていき、私は突如として強烈な現実に引き戻された。そして、先ほどまで自分が没頭していた行為の全容を思い返し、一気に顔から血の気が引いていく。
現実から目を背けたいと願いながらも、目の前に広がる惨劇と部屋に漂うかすかなつんとした匂いが、これが紛れもない事実であることを容赦なく突きつけてくる。
青ざめた頭で「まずはこの状況をどうにかしなければ」という焦りだけが空回りし、私はまるで罪を隠そうとする犯人のように、あわただしく室内を右往左往するのだった。
――こうして、舞園さんとの初めての拘束プレイは、幕を閉じたのであった。