これは男が彩りを取り戻す物語。
日常に擦り切れ、モノクロの毎日になった男。
しかしある夜、彼の前に思っても見なかった人物が現れる。
素敵な夜は男に彩りを与えていた。

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第1話

 築二十年の木造アパート。

 他の住人が寝静まった深夜、男は帰宅した。

 年の頃は二十代の半ば。精力に溢れる時期のはずが、草臥れた顔をしている。

 消臭剤で凌いできた皺だらけのスーツを乱暴に脱ぎ捨て、疲労が溜まった重い身体をソファに沈める。

 木造の薄い壁でも住人の音が響かない深夜の静寂。

 自分だけが労働の檻の中。孤独が男の背に重くのし掛かる。

 

 コンビニで買ってきた食事をテーブルに広げる。

 ただ、機械的に流し込む。

 店売りの濃い味付けなのに、鼻は匂いを拾わず、舌には何も響かない。

 心が擦り切れるブラック労働の日々、身体にも深刻な影響を及ぼしていた。

 区切りをつけようと辞表は用意してある。

 しかし押し寄せるタスクに思考能力は麻痺、いつ踏ん切りをつけるか決められない。

 機械的に生きているだけの現状に嫌気が差していた。

 

 形だけの就寝の準備を整え、ベッドに飛び込む。

 枕元のタブレットを起動させる。

 ここから寝入るまでの15分が、男にとって自由になる時間だった。

 

 中東を思わせるエキゾチックな曲がゆったりとしたリズムで流れてくる。

 画面の中央で女性が踊っている。

 彼女の名前は、Vtuberアキ・ローゼンタール。

 実在の人物ではない、ネットアイドル。

 彼女の歌声と踊りを子守歌代わりにするのが日々のルーチンだった。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 聞いたことがない曲に、男の意識がほんの少しだけ覚醒した。

 今日はアキの新曲の日だ。

 告知はあったが、多忙に押しつぶされ失念していた。

 緩やかな曲に身を委ね、艶やかな踊りを披露するアキ。

 甘い歌声と魅惑のダンス。彼女の世界に入り込むのは、過酷な日常を忘れられる心地良い一時だ。

 

 新曲はアキが得意とするベリーダンスを中心とした振り付け。

 優雅と妖艶を併せ持つアキの魅力を存分に見せつける。

 

 ベリーダンスを象徴する特徴的な腰の揺らめき、大きく円を描くヒップサークル。

 肩から指先までがしなやかなくねりを描く、スネークハンド。

 流水の上を歩くような、幻想的なステップ。

 ベリーダンスを基礎からこなせるが故に、洗練された風格も備えていた。ただ腰を振って煽るだけのイメージとは無縁だ。

 

 この後にトークの時間があり、甘い歌声に相応しい優しい声色を聞くことはできるのだが、男の意識はそこまで持たない。

 恋慕に対する女性の熱情を謳った今回の曲は、子守歌代わりに聞くのも心地良い。

 微睡みが男の意識に忍び入り始める。

  

 しかし、違和感があった。

 まるでアキが自分を見ているような擽ったさ。

 振り付けの一つ一つがカメラを意識するのは当たり前だ。

 疲労が極限に達した自分を、苦笑で受け流す。

 刹那――

 

 男の意識が覚醒した。

 画面の向こうのアキと目線が絡んだ。

 奇妙な確信があった。

 アキ・ローゼンタールが、画面越しに自分を見つめていたのだ。

 

 

 ――――――――

 

 

――……てる?

 

 誰かが呼んでいる、ような気がした。

 男は意識の覚醒を感じた。

 アキと目が合った瞬間から記憶がない。

 

――……る?……てる? 

 

 まだ体に力が戻らない。とりあえず動いた瞼を開け、視線で辺りを探った。

 溜まった疲労はそのままなのか、男の意識は靄がかかったままだ。

 女の声だ。だが目覚ましに仕掛けた覚えはない。

 

「……ふぅ♪」

 

 耳元に生暖かい吐息が吹きかけられた。

 瞬間、男の意識が完全に覚醒した。

 

「アローナ!見えてる?聞こえてる?」

 

 鼻腔に爽やかな柑橘の香りが飛び込む。

 耳は優しい声色を拾っている。

 更に意識が覚醒すれば目が機能を取り戻し、視界にはこちらを覗き込む端正な顔立ちの女性が映っていた。

 

「お待た千手観音!」

 

 にこやかに女性は続けた。

 

「癒し系ハーフエルフ、アキロゼことアキ・ローゼンタールです!」

 

 男は瞠目したまま、二の句が継げない。

 タブレットで見ていた女性が、そのまま目の前にいたからだ。

 Vtuberとは架空の存在で、顔を突き合せられるのか?

 固まる男を前にアキはにこやかに応対した。

 

「疲れた顔しているね。ちゃんと寝てる?」

 

 ひんやりとした指先が額に添えられる感触が心地良い。

 やつれた男の様子を見てアキが憂いを浮かべていた。

 男の困惑は更に深まり、改めて目の前の女性を見やる。

 

 まず目を引くのが、夜の闇にも輝くブロンド。

 一見ではショートヘアに見えるが、隙間があり、その下に二房の流れがある。間に輪状の器具が挟まっており、そこから髪の毛が再開する不思議な髪型。

 肩まで露出する大胆なノースリーブのトップス、白を基調として鮮やかなブルーがあしらわれた腿までの丈のスカート、黒とブルーのアシンメトリーのロングソックス。

 モノクロの部屋にアイドル衣装で現れ、キラキラとした輝きを振りまいていた。

 

 状況が理解出来ず、男は改めて周囲を見回した。

 ベッドはいつものまま。本棚や机などもいつも通りだが、向こう側の壁が「なくなっていた」。

 その先は霧のような物で遮られている。日常の部屋を模した異空間となっていた。

 当惑を露わにしている男を他所にアキはペースを崩さない。

 

「ずっと見ていたの。疲れた顔しているなって」

 

 アキと目が合ったのは偶然ではなかった。

 男のやつれきった様子を見て、ネットの向こうから飛んできたとのことだった。

 それでも男には飲み込めない。荒唐無稽に過ぎた。

 

「夢だって思ってる?違いないけど……ほら」

 

 揃えた指先が男の顎のラインを撫でる。

 ほのかに香る柑橘の心地良い香りと、指先の柔らかな触感。

 夢ではないと信じさせる、確かな感触を覚えていた。

 では幽霊かと、足下を見やる。

 スカートの下に覗く足は、しっかりと床に届いている。

 腿は成熟した女性の艶めかしい肉付きをしている。そこから足首までのすっきりとした無駄のないラインが目を引いた。

 男の本能を鷲掴みにする曲線美、まじまじと眺めてしまえばくすくすと笑う声が聞こえてくる。

 アキは男の反応に気を悪くする様子もなく、面白そうに眺めているだけだった。

 

「いきなりすぎるよね?信じてって言う方が難しいけれど……」

 

 しかし男の心中に困惑以外の感触が生まれていた。

 アキの存在こそ、現実味があるように思えていた。

 モノクロの視界の中、アキだけがカラフルだ。

 優しい声を聞いていれば心が不思議と安らぐ。

 纏う香水が心地良い。柑橘の爽やかさが頭の中までスッキリさせるようだ。

 そして、触れられた感覚。

 確かな存在感を伝えてきていた。アキ・ローゼンタールが目の前にいると納得させられる。

 

 それに比べて、日常はどうか。

 流し込む味のない食事。人の顔も覚えられない窮屈な満員電車。機械的な表示が羅列されるだけのPCは白黒になって見えている。

 休みの日に何をしたのか覚えていない。ただ生きているだけのモノクロの日常。自分の存在すら分からなくなる、薄っぺらな日々。

 目の前にいるアキの瑞々しさに比べれば、男の日常はどこまでも渇いていた。

 奇妙な現実感の倒錯が、男を魅入らせていた。 

 

 ベッドの上の男に対して、アキが少し屈む。

 青みがかった紫の瞳は吸い込むような魅力を示している。

 男は完全に目が離せなくなっていた。先ほどまでの濁った瞳が、アキの存在一つで輝きを取り戻したようだった。

 

 部屋の壁の向こう側、霧がかった場所にアキが向かう。

 靄の中心にアキが立つと、そこが明るくなる。

 スポットライトが当てられているようだ。そこが即席のステージになっている。

 自分の部屋が異空間になった恐怖はあるが、それ以上にアキに惹き付けられて男の困惑は消し飛んでいた。

 これから彼女が何を見せるのか、ただ見入るばかりであった。

 

「今夜はキミだけの時間。アキロゼの特別ステージ」

 

 アキが天を仰ぎ見る。

 両手が目線を追って掲げあげられる。

 手は射し込む光を掬い取るように、緩やかに指が広がる。

 アキの周りをさらに眩い光が覆う。

 それが、合図だった――

 

 

 ――――――――

 

 

 どこからともなく聞こえる中東風の曲。

 部屋の天井から響いているのか。アキの存在に飲まれた男はその不自然さすら察知できない。

 音色が煌めきと共に降ってきて、アキの周りを輝きで囲んでいるようだ。

 

 アキは男に背を向けている。

 リズムに合わせ、静かに腰が揺らめく。

 

 ただ、それだけ。

 むしろ、それだけ。

 

 体のパーツで腰だけが動いている。頭や手は微動だにしない。

 とても細くて強靱な軸に中心を預け、それ以外の全てがフラットになっている、洗練された表現だ。

 女体の美しさを見せるパフォーマンスはグラマラスなアキのシルエットと重なり、男の胸の奥を煽り立てる。

 

 曲の盛り上がりと共に、振り付けがダイナミックになる。

 川の流れに揺蕩う一枚の羽のように、緩やかで幻想的なステップ、ステージの上に緩やかな曲線を描く。

 流れに身を委ねているかのように、腰のくねりと共に両の手を揺らめかせる。

 手を始めとした全身で、柔らかさと流れを見せる。ベリーダンスは腰だけではない。

 

 手は蛇を思わせる柔らかさで波を描き出す、スネークハンド。

 軽やかなステップは精緻なバランスを保っており、流れる足取りに澱みがない。

 腰の揺らめきは更に滑らかになり、アキの曲線美を魅力的に演出している。

 

 何よりも、目線。

 どれだけ動こうとも男との目線がぶれない。

 振り付けの都合で向きが変わることはあっても、外れることはない。

 手足から腰がバラバラの動きをしているようで、全体は一つにまとまっている。

 体軸が安定しているからこそ、目線も安定しており、アキの表情がよく見える。それが見る者を踊りの世界に没頭させる。

 日常から隔絶された幻想的な空間に男は酔いしれた。

 

 両の手が頭上から腰まで、大きな円を描く。

 ステップが描く軌跡も大きくなる。要所にターンが入り、アキのシルエットを存分に堪能させる。

 流れに合わせて大きな腰の揺らめきが入れば、本能を鷲掴みにされる。

 アキという存在の虜となっていた。

 

 最初の曲がフェードアウトする。曲が替わる。

 雰囲気は同じく中東風だが、リズミカルな曲に変わった。

 先程までの曲が「静」ならば、今度は「動」だ。

 

 曲に合わせ、腰を小刻みに揺さぶる。

 スカートの揺らめきが、振動を強調する。

 全身が生み出す微風がジャスミンの香りを届ける。

 アキの体温で香水が揮発して、香りの成分が変わったのだ。

 熱気を共有し合う、一人の為のステージ。

 

 リズミカルな曲と共に、アキの熱気で満たされた。

 足を蹴り出す勢いで腰を前後に大きく揺する。

 両手は柔らかに掲げられ、腰と足の動きに集中する。

 ベリーダンスの根幹の魅力を見せていた。

 

 躍動の美は、次の瞬間に消える。

 瞬きを忘れ、呼吸も後回しだ。

 見入った分だけ、熱気に当てられた。

 早まる鼓動が、全身の隅まで熱い血潮を届ける。

 

 アキを包む光の中に、煌めきの粒を見いだす。

 ダンスのリズムと共に飛び散った汗の玉だ。

 香水は熱気で完全に揮発した。艶やかなフェロモンが流れる。

 鼻腔がそれを受け止め、本能を煽り立てる。

 かつては食べ物の匂いも感じなかったのに、微細な汗を嗅ぎ取っていた。

 活力が全身を駆け巡り、血潮まで熱くなる。

 

 情欲の熱が瞳の濁りを溶かす。

 一息ごとに、更にアキが鮮明に見える。

 視覚が色を取り戻しているのだ。

 

 ダンスの揺らめきが微風を生み出す。

 些細なそれを、肌が感知している。

 かさついた肌が潤っていた。

 情欲の熱に煽られてしっとりと汗が浮かんでいたのだ。

 

 曲以外の微かな音が聞こえてきた。

 脚が床を踏む微かな音。

 スカートの衣擦れ。

 アキの吐息すら、飛び込んでくる。

 聴覚が蘇ったような、音の洪水だ。

 

 優美に、そして、妖艶に。

 ダンスは、瞬間の芸術だ。

 すぐに移ろう。ただ、追うしかない。 

 動きの中に垣間見る女の艶を目に焼き付ける。

 そして、追うほどに感覚が蘇る。

 アキの煌めきと熱気が、男に癒しをもたらしていた。

 

 曲が締めを迎える。

 優雅にターンを重ね、フィニッシュポーズ。

 静止の美と、消えゆく余韻が、男の胸に刻まれた。  

 

 ◆ ◆ ◆

 

「どうだった?」

 

 空間に静寂が戻り、アキが声をかける。

 男は瞬きも呼吸も忘れたままだ。

 生唾を飲み下した音が響く。

 

 ステージを下りたアキが男の元に歩み寄る。

 微動だにしない男に表情が曇る。

 

「本当に大丈夫?――きゃっ」

 

 顔を覗き込んだ瞬間、衝動でアキを抱き寄せた。

 強く、強く、抱きしめて柔らかさを味わう。

 

 男は、受け止めきれなかった。

 熱気と煌めきが自身の身体にもたらした変化を。

 故に理性が痺れ、本能のままに行動してしまう。

 

 勢いのまま、アキと唇を重ねた。

 五感の最後の一つ、味覚を求めて。

 人生において感じたことがない甘さが広がる。

 更なる甘さを求め、顎の角度を変えて、斜(はす)に交し合う。

 アキはそれを拒まなかった。

 

「キミだけのステージ、まだ終わっていないね……」

 

 甘い囁きを残し、アキからも唇を重ね直す。

 しなやかな指先が男の身体にパフォーマンスを刻む。

 優美に躍動していた足が絡め合わされる。

 曲線美を見せていた胸や腰が、押し当てられる。

 本能と官能。第二幕の開始だ――

 

 

 ――――――――

 

 

 ベッドの上で唇を貪り合う。

 男の唇はアキを離さない。

 蘇った味覚を存分に楽しんでいる。

 極上の身体を前に、味わう以外の選択肢などなかった。

 

 アキは諸肌を見せていた。

 グラマラスでも締まりのあるボディライン。

 優しい声に相応しい母性を強く感じさせる肢体。

 ダンスで鍛えられた裏打ちがあり、張りと柔らかさのバランスは極上だった。

 

 柔らかな乳房が押し当てられ、男の情欲を煽り立てる。

 乱暴に突き立てた指で揉みしだく。

 指先を受け止めるように乳房は形を変え、男は更に夢中になった。

 

「あまり慣れていないようだけど……もしかして?」

 

 アキが慈愛の笑みを浮かべた。

 男の手つきは女性の性感を揺さぶるには辿々しく、どこか覚束ない。

 好奇心に任せ、まさぐっているような状態だ。

 そこを見抜いた様子で優しく囁きかけていた。

 

 男の手が止る。

 図星だったのだ。

 新卒からずっと働き続けたブラック企業、女性と付き合う時間は無かった。

 学生時代など勉強漬け。恋人は参考書だ。

 見抜かれて黙り込む。優しく語りかけられれば却って刺さる。

 

 答えに窮して固まった男に優しく微笑みかけた。

 アキの手が伸び、男の身体を包み込むように抱いた。

 

 人体の構造を無視したような柔らかさが、男に絡みつく。

 先のダンスのスネークハンドを彷彿とさせた身体使いだ。

 赤子を優しく抱きしめるような温かさを感じ、男の緊張が解けた。

 曲線美が妖艶から、母性へと変わっていた。

 

 男は更に唇を貪る。

 斜(はす)の口付けを重ね、アキの甘さを隅々まで味わっていた。

 アキは男を強く抱きしめ、背筋に指を這わせた。

 擽ったさが肌に染みれば、徐々に性感へと変わってゆく。

 優しい指使いが、男の心を裸にしていくようだった。

 

 酸素を求め、ようやく唇が離れる。

 二人の表情が対照的だ。

 男には、どこか緊迫感がある。

 知識はアダルト動画が精々で、肌に触れれば行為の続きが思い浮かばない。

 対照的にアキが余裕の表情を浮かべているから、一層追い詰められる。

 男性がリードしなくては、等と考えて困惑を深めていた。

 

「気にしないで。任せて、ね」

 

 両手を男の頬に添え、アキがじっと見つめる。

 声だけでも身を委ねたくなる甘さがあった。

 小さく囁かれた言葉を聞き取る余裕は、男には無かった。

 

「筆下ろし、いただきます――」

 

 

 ――――――――

 

 

「ちょっと反応が早すぎるよ。持たないんじゃない……ほら♪」

 

 男がベッドに腰掛け、大きく足を開く。

 アキがその間に跪いて乳房でペニスを挟み込む。

 いわゆる、パイズリの体勢だ。

 

 アキが左右から圧を加えるだけで男が呻き声を上げる。

 童貞というのは嘘ではなく、むしろ初々しさにアキが煽られている。

 豊かで張りのある乳房は男の若さを受け止め、優しくコントロールしていた。

 最初は乳房の形が変わるほどに強く挟み込む。

 反応に気を良くすれば、その手が交互のテンポで円を描く。

 アキのように美しい女性がペニスに奉仕しているだけでも男性としては強く性感を刺激される。

 しかも、豊かな乳房を用いてであれば尚更だ。

 男の背が仰け反り、呼吸が速くなる。

 死にかかっていた五感が復活した直後では、刺激が強すぎたのか。

 早すぎる絶頂の気配を感じたアキは、奉仕の手を緩めた。

 

「そんなに急いでも楽しくないよ。もっと、むぎゅむぎゅしてあげるから♪」

 

 艶然と微笑むアキ、乳房を挟み込むとゆったりとした動きを始めた。

 手だけではなく背筋を反らせ、腰を浮かせる動きも入る。

 乳房の圧で押さえ込んだまま、ペニスの根元から先端に向かって扱くような奉仕だ。上半身全体を柔らかに使い、乳房のダイナミックな動きを可能にしていた。

 妖艶を越えて淫らですらある姿に男の理性が千々に乱れる。

 ここでもダンサーの素養が生かされ、動きに淀みがない。

 乳房が更に強い奉仕を行えば、男に再びの絶頂の気配。

 

 瞬間。男が強い呻き声を上げた。

 乳房の谷間から突き出たペニスの先端を、アキが唇で受け止めたのだ。

 鈴口に窄めた舌先を突っ込み、射精を強引に押さえ込む体勢。

 この程度で収まりが効くはずもないが、ペニスに異性の舌を感じたことがない男は混乱の極みにいた。

 

「可愛い♪アキロゼが初めてを貰っちゃうから♪」

 

 痴態を前に笑みを濃くするアキ。

 その表情には好色がありありと出ており、性に躊躇しない淫靡を感じさせた。

 対する男は、蛇に睨まれた蛙。

 押し寄せる快感の大波に、為す術は無かった。

 

「ちゅっ、ちゅっ、ちゅぅ、――!!」

 

 部屋に淫らな音が響く。

 パイズリをしつつ、アキが唇で奏でたのだ。

 たっぷりと唾液を乗せた唇でペニスを咥え込み、吸い込むときの音を強調する。

 バキュームフェラは刺激が強すぎたようで男の呻き声も大きくなる。

 まだアキは本気を出していない。男を更に快楽の虜にする腹づもりだ。

 

 窄めた舌で鈴口を押さえる。

 固くなり、ビクビクと震える亀頭に強引に突き立てる。

 歯が、触れる程度に亀頭を刺激する。

 これだけでも男は弾ける寸前だ。

 

 合わせて乳房が下から上に円を描く。

 アキの内側に宿った熱気が白い肌を桜色に染めてゆく。

 汗が噴き出す。肌を滴り、長い髪を張り付ける。

 強烈な女のフェロモンが醸し出され、男の鼻腔から脳を支配する。

 ここが非日常の空間であることも拍車をかけた。

 男の身体はアキを更に求め、小さくながらも自ら腰を揺らし始めていた。

 

「ふむぅっ♪ふぅ、ん、んっ♪」

 

 フィニッシュは間近だがアキは更に引き延ばしにかかる。

 これが初めてになるならば、とびきりをプレゼントする。

 乳房の圧に若干の加減を加え、唇も緩めの奉仕にチェンジ。

 煽られるがままの男のペニスが口内で暴れ回る感触も心地良い。

 アキの股からの更に濃厚な女の匂いが醸し出され、二人の汗に混ざって情事の匂いへと変わってゆく。

 しかし、男は性感をコントロール出来る状況にはなかった。

 ようやく復活した五感は、アキの全てを過剰なほどに感じ取っていたからである。

 

「――ふむぅっ!?んむぅぅぅぅ……!!」

 

 どぴゅっ、どくん、びゅるるるっ……。

 

 口の中で熱の固まりが爆ぜた。

 呼吸すら遮るほどに濃く、その匂いが鼻腔を支配する。

 無論、アキはこれの正体を知っていた。

 

「……キミの筆下ろし♪ごちそうさま♪」

 

 自分の身体をコントロール出来ずに呆然とする男。

 対して、アキは満面の笑みで応じていた。

 

 思っていた以上の物が口に止まっている。

 筆下ろしの濃さではないほどのを感じ、アキの女が煽り立てられる。

 疲労困憊から一気に引き戻された男の奥に生まれた性欲は、並大抵のレベルではなかったのだ。

 それを直に感じ取ったからこそ、アキの女が限界を目指して燃え上がった。

 

「まだ、だぁめ♪アキロゼ、終わっていないから♪」

 

 発射の態勢のまま、男が仰向けにベッドに背中を預ける。

 パイズリの格好を解いたアキが男に覆い被さる。

 再び柔肌が密着すれば、男のペニスが勢いを取り戻す。

 スタミナが切れかかっているに関わらず、だ。

 

 童貞故のとても濃く、粘りのある精液。

 それを受け止めてアキは淫靡の笑みを濃くした。

 お腹の奥がキュンと疼く。

 この若さを受け止めたいと、身体が暑く火照っていた。

 

「アキロゼが、忘れられない夜にしちゃうから♪うふふ♪」

 

 男は答えないが、直後、全身を大きく震わせた。 

 覆い被さったアキが男の陰嚢に手を伸ばしたからだ。

 手の平で直に感じる子種の鼓動、生産基地でもある陰嚢はとても敏感で、アキの指先が這いまわれば勃起を強制させられてしまう。

 呻き声を上げる男に対し、淫靡に微笑み返すアキ。

 男にインターバルの時間は用意されない。

 アキの心が赴くままの、次のラウンドとなった――

 

 

 ――――――――

 

 

 ベッドに仰向けになった男、その腰にアキが跨がる。

 騎乗位、と言われる格好だ。

 しかしすぐには挿入へと行かない。

 M字開脚に足を開き、しゃがみ込む格好でアキが腰を揺すっていたからだ。

 

「はぁい、バックします♪しばしお待ちくださいね♪」

 

 蜜を纏い、滑りでテカる秘裂。

 仰向けのまま勢いよく屹立するペニスを掠めるように前後に腰を揺らめかせ、挿入に至るギリギリで焦らし続けていた。

 時折、ペニスが卑劣を滑り、クリトリスを刺激すればアキが仰け反ってしまう。

 

 ベリーダンスで見せた魅惑の腰使い。

 それをベッドの上で再現していた。

 戯ける台詞とは裏腹に、桜色に上気した身体は剥き出しの雌を見ていた。

 

 膝を折り、更に強調された太股の肉付き。

 ふっくらと柔らかな肉付きを見せる鼠径部から土手周り。

 蜜を纏わせ潤む秘裂は、成熟した女の様相を見せている。

 勃起したペニスを弄ぶように腰が前後に揺らめき、秘裂に擦りつけるだけだ。

 蜜が亀頭に塗され、挿入の用意は出来上がっている。

 溢れる先走りとも混ざり合って濃厚な匂いへとも変化していた。

 それでも、アキは焦らしを止めない。

 

「もう少し。焦らないで……ふふふ♪」

 

 足はそのまま、上体を反らせて後ろに手をつく。

 リンボーダンスを思わせる格好、上下に腰を振って秘裂をペニスに擦りつける。

 特に腰を強調した卑猥な格好だ。

 ぬちゃぬちゃ、と、淫靡な水音が響く。

 ダンスで鍛えられた裏打ちがある臀部、肉付きは豊かでも張りもしっかりとしており、どんな体勢でも型崩れしない弾力を見せつけていた。

 

 男もいよいよ堪えきれなくなる。

 アキの膝に手をかけ、腰を突き上げ、強引にでも挿入を求めた。

 見下ろすアキの目にほんの少しだけの嗜虐が宿る。

 見透かしているかのように、男とはタイミングをずらす。

 しばしの間、ペニスと秘裂の追いかけっことなっていた。

 

「ごめんなさい。そんな目をしないで、ね?」

 

 しかし完全に弄ぶだけでもない。

 少し煽るためのインターバルに過ぎず、アキは拒むつもりがない。

 上体を起こして腰を浮かせる。

 ペニスに手を添え、秘裂が当たるようにゆっくりと腰を下ろす。

 初めてを極上の肢体に受け取って貰える興奮で男が生唾を飲む。

 雌の興奮を露わにし、アキが慈愛の笑みを浮かべた。

 

「キミの始めて、貰っちゃいまぁす♪」

 

 アキが腰を下ろす。

 足はそのままで、上体を前に倒して腰を下ろす体勢だ。

 「スパイダー騎乗位」などと呼称される、柔軟性が要求される体位もアキは軽々とこなした。

 途端にペニスには強烈な締め付けが加えられ、男の口から呻きが零れる。

 絞りが強くなる体位だが、がっちりとした締め付けも快感を刻みつけている。

 ダンスで鍛えられた体幹を、余すところなく発揮していたのだ。

 

「おちんちん硬いねぇ♪その調子♪」

 

 至福の表情を浮かべるアキ、意識が乱れるほどの快感が跳ね返っていた。

 会ったときは年格好に似合わぬ枯れた雰囲気を醸し出していた男が、打って変わって瑞々しい若さを見せつけている。

 その象徴が膣内で暴れ狂う快感が抑えられなくなっていたのだ。

 

 アキがゆっくりと腰を動かす。

 初めは、上下に。

 精液を貪りに行くような淫らな格好で全身を揺さぶる。

 垂れ下がる豊かな胸が揺れる光景は、圧巻だ。

 弾力のある尻肉が打ち付けられる音が響き、結合部が奏でる淫らな水音が更に強くなってゆく。

 

 次は円運動だ。

 密着するまで腰を下ろした後に、腰が楕円のラインを描く。

 前後運動を強めに、横方向の絞りもペニスに加わる。

 この時点で男は人事不省になりかかっている。

 しかし、アキは止めない。

 童貞だった男がどこまで化け、雄としての顔を見せるのか楽しみなのだ。

 

「見える?聞こえる?全身でアキロゼを感じて、ね♪」

 

 男は復活した五感を総動員してアキを感じ取っていた。

 アキからの煽りとも取れる台詞に意識が僅かながらに戻り、残った力を振り絞って突き上げを開始した。

 全精力を掻き集めた一点突破にアキも声を抑えられない。

 駆け引きなど考えない力強さに子宮まで揺さぶられていたからだ。

 

「ふっ、あっ、っ、あ、ああぁっ♪その調子、頑張って……あんっ♪」

 

 アキが上体を起こした。

 両手を頭の上でくみ、揺れる乳房と交わる腰を見せつけた。

 そこから、ゆっくりと腰を引き上げる。

 男のペニスから逃れるように、タイミングをずらしにかかる。

 

 瞬間、男の口から呻きが零れ、腰が砕け掛かった。

 アキは単純に腰を引き上げたのではない。

 横に、前後に、くねらせながら引き上げたのだ。

 ベリーダンスの時の腰使いをセックスの上でも再現している。

 

 求めているようで、逃れるようでもある、不思議な動き。

 横のベクトルの締め付けと焦らしの快楽が男に襲いかかる。

 完全にコントロールの下。若さに任せた突き上げしか出来ない。

 嘲笑うように、アキの腰使いは激しくなる。

 一方的な駆け引きに男は翻弄されるばかりだ。

 

 抜け掛かるところまで腰を引き上げれば、いきなり自重を掛ける。

 奥まで咥え込まれ、締め付けられる快感に男の視界が乱れる。

 突き上げた瞬間を狙われたので、奥の奥まで入り込んだのだ。

 

 そこからはアキの腰使いも単調になる。

 男のペースに任せ、少しだけ引き上げ、揺らめかせるだけ。

 はち切れんばかりの若さを最高潮で受け止める瞬間を狙うのみ。

 

「あっ、っ、あっ、ああっ、あん♪そこ、ああっ、良い、っ、ああぁん♪」

 

 甘い歌声を紡ぎ出す唇が、女の歌を奏でている。

 若さに任せた精力がペニスに固さをもたらしている。

 それがアキに極上の快楽をもたらしており、暴走する雌の本能を抑えられない。ただ、貪るように腰を揺らめかせるのみ。

 男は揺れる乳房に手を伸ばし、鷲掴みにしている。

 愛撫の意図もなく指先を食い込ませるだけだが、腰の揺れに従って荒々しく揉み込まれる乳房の快楽もアキには跳ね返っている。

 

 幾度ものやりとりの後、男の腰使いが荒くなるとアキは腰を下ろした。

 いよいよフィニッシュだ。

 余すところなく受け止めるため、男に全てを委ねる。

 

「来ちゃう、くる……ああぁぁぁぁっ♪」

 

 ――どくん、ビュルルルッ……。

 

「――んっ、おおぉぉ……♪」

 

 力任せの突き上げが子宮を揺さぶる。

 直後、子宮口に密着したまま精子が放たれる。

 子宮への衝撃で達し、精子の熱さが加速をつけた。

 強烈に過ぎた絶頂の衝撃がアキの意識を乱す。 

 甘い歌声とは打って変わった、あられも無い声を響かせていた。

 

「はぁっ、はぁっ、っ……はぁ、はぁ、あ、っ、ああ……♪」

 

 男の胸板に手を添え、崩れかかる体を支えるアキ。

 先程までの余裕は無く、快楽に打ちのめされる雌の姿だ。

 男もまた動けない、が。

 未だ抜かれないペニスはアキの膣内で固さを取り戻しつつある。

 若さはまだまだ女の身体を求めており、感じ取ったアキに淫靡の笑みが蘇った。

 

「アキロゼのソロステージ。まだまだ続くよ。見てね――」

 

 回復しきらない男を無視して、腰使いを再開するアキ。

 性欲のままに踊り狂うつもりのようだ。

 淫欲の檻となった異空間、男が出られたのはいつのことか。

 それでもアキに反応してしまう男、彼の生涯における極上の夜となった。

  

 

 ――――――――

 

 

 無機質のアラームに、男は叩き起こされた。

 ベッドには男一人だけだ。

 壁の向こう側のステージなどない。いつもの通りの部屋。

 しかし、確かに誰かがいた温もりだけは残されていた。

 

 あれは夢だったのか。

 電子のアイドルが目の前にいるなどあり得ない。

 まして、交わったなどとは。

 

 また、モノクロの日常が始まる。

 食パンをトースターに放り込み、コーヒーを小さな食卓に並べた。

 機械的に腹を満たした後に出社だ。

 今日もタスクは山積みだった。

 

「――?」

 

 妙な感覚があった。

 

 朝日が、いつもより眩しく感じる。

 トーストの香ばしさが舌に沁みた。ただの食パンが、抜群に美味かった

 深呼吸をする。

 肺を満たす空気が、美味しく感じた。

 部屋に彩りが溢れていた。

 昨夜まではモノクロだったのに、こんなにも色が存在していたのか。

 

 小さな感動を覚え、一口ごとの確かな味わいを噛みしめる。

 男の五感は完全に戻っていたのだ。

 

 アキとの一時は何だったのか。

 鮮烈な夢を見ていたのか。

 それでも、モノクロの日常が終わった。

 夢は夢でも、とても幸せな時間だった。

 

 ヨレヨレになったスーツを見て、考える。

 自分もあんな人間だったのかと。

 しかし、今は「次」を考えられた。

 

 大きく伸びをして、食器を片付ける。

 つまらない一日が始まるが、今日からは違う。

 もう、終わりにしよう。失われた彩りを、二度と手放さないために。

 足取りは軽く、確かに未来へ向かっていた。

 

 


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