俺は浜崎結愛姐さんと一緒に、瀧村グループの計画を幾度も阻んできた。
――まあ、阻んだのは結愛姐さんですが。
俺は、その……いつも結愛姐さんの後ろに付いていくだけ。
何か役に立った記憶もありませんね。
それなのに、結愛姐さんは俺を頼りにしてくれる。
「細川君ってさ、真面目だし、いい人じゃん。だから信用できるんだよね」
以前、そう言われたことがある。
……結愛姐さん、俺を信用してくださるなんて、本当に有難う御座います。
でも、できれば危ないことは、あんまりしたくないんですけどね。
――国府学院高等部の朝。
俺は結愛姐さんと一緒に、二年一組の教室へ入った。
生徒たちは、いつも通り楽しそうに話していた。
「ねえ、小倉さん。今年の代表生徒の第一候補なんでしょ」「うん。でも、私でいいのかなって」
小倉美咲が少し照れくさそうに答えた。
「小倉さんなら、学校の顔って感じがするよ」
「私もそう思う」
周囲の生徒たちが頷いた。
代表生徒に選ばれれば、学校案内の表紙を飾り、学校説明会では在校生を代表して挨拶する。
国府学院では、大きな名誉とされていた。
美咲は恥ずかしそうに目を伏せた。
「そう言ってもらえると嬉しい」
そのとき、少し離れた席で、一人の女子が美咲を鋭く睨んでいた。
――瀧村瑞穂。
瀧村グループ代表・瀧村美鈴の三女だった。
結愛が教壇へ向かった。
「はいはい! みんな静かに!」
生徒たちは慌てて席に戻った。
結愛姐さんは、今日も金髪にチューブトップ姿だった。
色は毎日違う。
何着持っているんだろう。
……相変わらず美しい。
それに、近くにいると、結愛姐さん特有の匂いがする。
「小倉ちゃん! 代表生徒の第一候補なんだって? 頑張りなよ! 私も応援してるから」
美咲は顔を赤くした。
「ありがとうございます」
生徒たちから拍手が起こった。
朝のホームルームが終わった。
俺は結愛と廊下に出た。
すれ違う男子生徒たちの視線が結愛に集まる。
「中野君、頑張ってる?」
「まあ、それなりに」
「それなりって、この前のテスト、凄かったじゃん。この調子で!」
結愛が男子生徒の肩を軽く叩いた。
男子生徒は照れくさそうに笑った。
男子たちは結愛に目を奪われ、女子たちは自然と憧れを抱いた。
けれど、結愛は、誰に対しても明るく接する。
俺は結愛姐さんのお供。いや、番犬……いや、金魚のフン。
――それは卑下しすぎだな。
結愛姐さんの応援団長ってとこか。
数日後。朝のホームルームが始まる前、二年一組の教室で妙な話が広がっていた。
「小倉さん、なんで代表生徒を辞退したの?」
「えっ、辞退したの?」
「小倉さん、向いてるのに」
生徒たちが次々に美咲へ尋ねた。
美咲は無理に笑顔を作った。
「うん。私、思っていたより人前に出るのが苦手みたい。だから、やっぱり向いてないかなって」
俺には、無理に笑っているように見えた。
生徒たちも、それ以上は尋ねなかった。
そのとき、瀧村瑞穂が大げさに声を上げた。
「うそー。小倉さん、辞退しちゃったの?」
驚いた口調とは裏腹に、瑞穂の口元はわずかに歪んでいた。
朝のホームルームが終わると、俺は結愛姐さんに腕を引かれ、階段の踊り場まで連れていかれた。
結愛は周囲を見渡し、声を落とした。
「小倉ちゃん、代表生徒を辞退したでしょ。本人は自分から辞退したって言ってるけど」
そこで一度、言葉を切った。
「でも、辞退届を学校へ持ってきたのは、小倉ちゃん本人じゃない。学院広報主任の鈴木先生」
「……はい」
「辞退する前日まで、美咲は学校説明会で読む原稿を直していたのよ。私も一度、原稿を見た」
俺は真剣に尋ねた。
「誰かに辞退させられたということですか?」
結愛が首を振った。
「そこまでは分からない。分からないけど……」
俺は思わず顔を曇らせた。
次の言葉は聞くまでもなかった。
結愛は少し強い口調で言った。
「真相を調べる」
――やっぱり。
もう、十五回目くらいか。
今回も瀧村グループが絡んでいるんだろうな。
瀧村グループって、表向きはホワイトな大企業だけど、実態はブラック企業――じゃなくて、デビル企業じゃないか。
俺は、どこまでも結愛姐さんに付いていきます。
……後からひっそりと。