※この作品はR-18です。

結愛姐さん、ちょっと待ってください   作:晴矢会長

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俺を忘れてくれて、有難う御座います

翌日の昼休み。

俺は結愛姐さんと一緒に、本館一階の学院広報室へ向かった。

結愛が先頭に立ち、扉を開ける。

「失礼します」

俺も後に続き、小さく頭を下げた。

 

事務職員たちがデスクに座り、パソコンへ向かっている。

しかし、広報主任の鈴木先生の姿はなかった。

 

結愛は近くにいた職員へ尋ねた。

「鈴木先生はいますか?」

「鈴木先生なら、別館の応接室で来客の対応をしていますよ」

「ありがとうございます」

俺たちは広報室を出た。

結愛が俺に小さく言った。

「別館へ行こう」

「そうですね」

 

――仕方ないのだ。

俺は結愛姐さんと一緒に行動し、悪を裁く執行人みたいなことに付き合わされている。

結愛姐さんの傍にいられるだけで幸せ。

――とはならないんだよ。

危ないことばっかりですから。

 

俺たちは本館の端にある職員用通路を通り、別館へ向かった。

すると、応接室の扉が開いた。

鈴木先生と、背広を着た一人の男が出てきた。

結愛は足を止め、俺の袖を引っ張って通路の角へ身を寄せた。

……何で隠れるんですか。

男は職員用出口へ向かい、鈴木先生がその後ろを歩いている。

 

結愛が声を落とした。

「細川君、二人の後をつけるよ」

――やっぱり。

俺たちは少し距離を取り、二人の後を追った。

鈴木先生と男は、本館裏の職員用駐車場へ通じる通路の途中で立ち止まった。

俺たちは離れた柱の陰に身を隠した。

 

男が先に口を開いた。

「候補の変更は、予定通り進んでいますか」

鈴木先生は一瞬、周囲を確かめた。

「小倉美咲は辞退しました。次点の瀧村瑞穂さんで進めることになります」

男は薄い書類封筒を差し出した。

「瀧村様にも、そう報告しておきます。こちらは、今後の学院支援に関する書類です」

 

鈴木先生は封筒を見つめたまま、すぐには受け取らなかった。

だが、やがて手を伸ばした。

「では、これで」

男はそれだけ言い、職員用出口へ歩き出した。

結愛姐さんが俺を見た。

俺は渋々頷いた。

……まだ追うんですね。

 

男は校舎を出ると、三人の男と合流し、正門脇に止めてあった黒い車へ乗り込んだ。

車体の後部には、小さく『瀧村グループ』と記されていた。

 

結愛の目が鋭くなった。

「やっぱり、瀧村グループだったね。小倉ちゃんの辞退に、あいつらが関わってるのは間違いなさそう」

俺は小さく頷いた。

 

――瀧村グループはダーク企業ですから。

結愛姐さん、また怒ってます。

でも、怒った顔も素敵です。

今度も上手くいくのかな。

まあ、結愛姐さんが何とかしてくれるか……。

鈴木先生まで、瀧村グループに関わっていたんですね。

 

 

――翌日の放課後。

結愛姐さんは、鈴木先生から直接事情を聞くつもりだった。

俺たちは再び学院広報室へ向かった。

 

本館の廊下へ入ったとき、鈴木先生が広報室から出てきた。

両腕に、厚い資料の束を抱えている。

俺は咄嗟に呼び止めようとした。

「鈴木先生――」

結愛が俺へ顔を向け、人差し指を唇に当てた。

『静かに』という合図だった。

 

そのとき、廊下の先から昨日の男が現れた。

鈴木先生は俺たちの姿に気付いた。

そして、一瞬だけ足を止めた。

だが、何も言わず、男と並んで歩き出した。

――今、気付きましたよね。どうして、何も言わないんですか? 

 

二人が向かったのは、現在はほとんど使われていない旧講堂だった。

結愛が声を落とした。

「あの資料、気になる。確かめてみよう」

「はい」

俺はそう返した。

 

さすがに、もう慣れてきました。

十六回目ですから。

俺たちは少し距離を空け、二人の後を追った。

 

――旧講堂。

扉が半開きになっていた。

 

俺たちは、その隙間から中を覗いた。

昨日、黒い車の前で男と合流した三人が待っていた。

鈴木先生は抱えていた資料を、瀧村グループの男へ差し出した。

男は一番上の書類へ目を落とした。表紙には、『代表生徒選考資料 小倉美咲』と書かれている。

「これで、余計な資料は残らないな」

男は三人の部下へ資料を渡した。

「処分しておけ」

 

そのとき、結愛姐さんが扉を開けた。

……えっ? もう入るんですか? 

俺も慌てて後に続いた。

 

鈴木先生は目を見開いた。

「浜崎先生……と細川」

結愛は鋭く言った。

「その資料から手を離しな!」

結愛の表情が変わっていた。

瀧村グループの男が振り返り、小さく笑った。

「またか、浜崎結愛! 昨日から、こそこそ嗅ぎ回っていたな」

――えっ。気付いてたんですか?

 

結愛は男を睨んだ。

「小倉ちゃんを辞退させて、瀧村瑞穂を代表生徒にする。それが瀧村グループのやり方なの?」

男の表情から笑みが消えた。

「浜崎結愛、いつも首を突っ込みやがって。これ以上、瀧村グループに逆らうな!」

「脅せば黙ると思ってるの?」

結愛が強く言い返した。

 

男は結愛をじっと見据えた。

そして、三人の部下へ顎を動かした。

「資料を持っていけ。この女は外へ追い出せ」

男たちが結愛へ向かって動き出した。

 

――結愛姐さん、素敵です。

しかも、瀧村グループの連中は、結愛姐さんしか相手にしてない。

つまり、俺は関係ないことになってます。

瀧村グループの皆様。

私を忘れて下さって、有難う御座います。

 

――ちなみに。結愛姐さんは、高校までは空手をしていたそうです。

めちゃくちゃ強かったそうです。

無敗伝説、あります! 

 

ここまで来れば、もう大丈夫です。

結愛姐さん、後はよろしくお願いします。

俺の役目は終了しましたので。

俺は少しずつ、出口へ後退した。

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