まだまだ昼の日差しは厳しいものの朝夕の風は凍るように冷たくなり始めた長月の頃。
娘が一人、石ころの積み上がった河原に粗末な筵のみを布いたところに座っている。さらに彼女の周囲10間(約18m)四方は竹矢来で囲まれている。そして、検分と思しき侍が6人、彼女のはるか後ろに控えている。
娘の着ている服は真っ白。死装束だ。そして、胸から二の腕にかけて荒縄できつく縛られている。
娘は合掌しながら瞑目し、ただ「南無阿弥陀仏」の六字名号を唱える。
この女子の名は椿。関白・
そして、小春日和の陽気と些か冷ややかな風とが交じりあう今。関白の姫が斬首されるのだ。
公開処刑というものは一種の娯楽である。したがって、観客たちは妙な熱気を帯びるのが常である。事実、随分前に都を騒がせ、あろうことか太閤の暗殺までもくろんだ盗賊の
特に処刑されるのが美女や若い女であれば下世話な男たちでごった返し、卑猥な声をかける者が多い。だが、この日の処刑には一切の熱気がなく、語ってはならないのに語らねばならないときのようなひそひそ声しか聞こえない。観客の顔、一つ一つも悪人を誅して正義を取り戻すことへの愉しみではなく、何か恐ろしいものに圧迫されているかのような沈鬱さが滲んでいる。刑場に来た女たちの中には、これから斬首される姫と同じように手を合わせて念仏しているものさえいる。
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念仏する椿の前に、秋の日に照らされて妖しく輝く銀髪の巫女が立ち、一礼した。
「本日、姫様のお命を縮める役目を仰せつかった楓と申します」
姫は念仏を止め、目の前の処刑人の顔に向かって微笑みかけた。
「お役目ご苦労様です。是非とも一刀のうちに、この細首を刎ねてくださいませ。痛いのは嫌でございます」
「私は首切りの巫女。痛みを感じる間もなく、お送りできるかと存じます」
「まぁ。それは心強いですわ」
秋風よりも冷え冷えとした固い声で挨拶する巫女はあらゆる感情を殺したかのように、これから首を刎ねる姫君に挨拶する。
一方の椿はこれから斬首されるというのに、あたかもこれから吉野山の満開の桜の下、花見の宴にでも行くかのように鈴が鳴るかのように軽やかで可憐で朗らかな声で応じる。
あまりにちぐはぐな末期の挨拶が済むと、「首切りの巫女」こと楓は姫の後ろに立った。愛刀を抜き、柄杓に汲んだ清水を刃にかける。そして、刀を大上段に構えた。
「姫様、言い残すことはございませんか」
相も変わらず感情を察することができない無機質な声の巫女。
「いいえ。もう、何も」
姫の言葉に、楓の刀の切っ先がわずかに震える。
実のところ、この2人は初対面ではない。むしろ、前日に心と体を通わせ合っていた。