※この作品はR-18です。

Muv-Luv The frayed memory/Carved memory   作:REDALERT

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性描写有り


Missing In Action

 

「んっ……ぁっ……あっ、あっ……んっ」

 

 

薄暗い部屋の中、古ぼけたベッドの上に一組の男女がいた。白いシーツに互いの半身を隠し、両手の指を絡ませ合いながら口付けを交している。男は女の上になり、その股座にある猛々しくもそそり立つ自身の分身を女性の秘部へと何度も打ち付けていた。その度に女性の口からは嬌声が漏れ、肌と肌がぶつかり合う音に掻き消されていく。頬を上気させ呆けた目をする女性は、ただ自身の身体に己の身体を打ち付ける男の顔を見ていた。何度目かの口付けを交わすと、男の腰の動きが一層強く、激しくなる。古ぼけたベッドがギシギシと軋みを発し、肌同士のぶつかり合う音を掻き消していた。

 

 

「はっ、はっ、はっ……っ、く……うっ」

 

 

「ん……ぁ……」

 

 

グッと男が動くのを止めて身体を強張らせると、女もまたその握り合った手に力をギュッと込めた。やがて永遠にも思えるかのような時間が過ぎると、肩で息をしていた男はゆっくりと薄いピンク色のゴムに包まれていたそ(・)れ(・)を秘部から引き抜いた。窓からの月光を受けて銀色に輝く愛液のアーチを引きながら、男は内側を白濁に染められたゴムを外す。そして掴んだティッシュで諸々を拭き取ると、腕で目元を隠して荒い呼吸を繰返していた女性の隣に寝転んだ。ベッド脇に置かれたゴミ箱の中には、赤色に染まった白いティッシュも幾つか混じっている。

 

 

男は黙って女性の身体を抱き寄せると、その長く艶やかな黒髪を指で優しく梳いた。女性もまた男の鍛え上げられている肉体にその細くしなやかな指を這わせ、厚い胸板に額を寄せる。腰の辺りまでしか覆っていなかったシーツを男は引き上げ、二人の身体を白いベールで包み込んだ。

 

 

「……ずっとこうしたかった」

 

 

「ああ、俺もだ」

 

 

そうやって短い言葉を交すと、二人はそのまま深い眠りに落ちて行くのだった。

 

 

 

 

 

 

「------っ!」

 

 

薄暗い戦術機の管制ユニットの中で、京介は全身に冷汗を掻きながら意識を取り戻した。耳元ではけたたましい警報が鳴り響き、網膜投影によって映し出される映像にはハンガー内で慌しく雪風の発進準備を急ぐヴィンセント達の姿があった。激しく鼓動する心臓を強化装備越しに感じながら、京介は足元に散らばるケースと飲料パックを見て記憶の混濁を落ち着かせる。全ては、ほんの数十分前に崩壊し始めたばかりなのだという事を。

 

 

 

 

国連北極海方面第6軍、ソビエト連邦・カムチャツカ州ペトロパブロフスク・カムチャツキー基地。ユーコン基地にいた一部の試験小隊は、ここでBETAを相手にした実戦による評価試験を行う事になっていた。その中で、アルゴス小隊は不知火弐型の試験に試製99型電磁投射砲の実射試験を組み込んだ。これはハイヴ攻略、特に突入戦の切り札として、突撃級等強力な装甲と高い機動力を持ったBETAに対抗する為に日本帝国国防省が発注、帝国軍技術廠によって試作された電磁投射式速射機関砲(レールガン)だ。驚異的な速射性がもたらす飽和攻撃力と極高初速による貫通力により、旅団・師団規模のBETA群を短期制圧することが可能とされているこの兵器は、事実アルゴス小隊、しいて言えばユウヤ・ブリッジスの初陣の際に3,000を超えるBETAを一瞬の内に葬って見せた。

 

 

無論その事に前線基地中が沸いたのは言うまでもないし、ユウヤが初めての実戦を生き残った事に喜ばない仲間達もいなかった。だがそれは、本来不知火弐型に必要な近接戦闘が全く行えない無駄な事をしたとも言える事だった。電磁投射砲の使用を強行させた唯依と本来の試験を全うしたいユウヤとの間で一度論争が起き掛けたが、彼らは結成して初めて自分の心の内を曝け出した。互いの信念、心情、国が違う事から来る認識の違い、その全てを漸く理解しようと歩み寄れた。そうして唯依はユウヤに生き残って欲しい事、ユウヤは不知火弐型を完成させたいという唯依の想いに応えたい事をそれぞれ受け入れた。そうして生まれたのが3,000を越すBETAの消滅だった。

 

 

そしてまた、初陣の夜の小さなパーティのような催しの中で、京介は唯依に今までの事を全て話す切っ掛けを掴みかけた。ヴァレリオ達の手回しで二人きりになった時、彼は唯依に全てを話そうとしたのだ。自分の心の中にある葛藤も、苦しみも、何もかも。全て打ち明けて、そして理解してもらおうとした。だがそれはタイミング悪く現れたドーゥルと、クリスカ達イーダル小隊によって妨げられる。結果としてその日の晩二人は同じベッドで眠ったのだが、その時の彼はイーダル小隊を率いていたイェジー・サンダーク中尉の言葉によって頭の中を占拠されていた。京介がまるで自分の行う事が誰かに操作されているかのような感覚に陥ったのは、その言葉を聞いてからだった。

 

 

 

------君は自分の行動が、全て自分の意志によって行われていると信じているかね?

 

 

 

何の意味も無いような言葉、聞き流せば良いだけの単語の羅列、だがそれを聞き流せない自分がいることに、京介自身が酷い違和感を覚えていた。何故初めて言葉を交したはずの男の言葉が耳に残るのか、それが分からなかった。寝床を共有する事を唯依が許可してくれた時も、彼は言えなかった事をその時に言おうとしていた。だが実際その時になってみても何も言えず、ただ初の実戦を終えたことによる安堵から来る疲れによって唯依が眠るまで、その頭を優しく撫でてやることしか出来なかった。何かがおかしい、だがそれが何かが分からない。本当は何もおかしくはないのではないか、自分一人だけが何かに取り憑かれているのではないか、そんな疑念まで浮かび上がる。グアドループでの一件から、京介の中で何かが変わったのは確かだった。唯依の顔を見ても、ゆいの顔がチラつく事が何時の間にか減っている。暗闇の中に一人いても、今までのように恐怖で押しつぶされることも無くなっていた。

 

 

だからこそ、京介は何も分からない事が怖かった。実戦を終えたユウヤ達と言葉を交しても、偶然遭遇したリコやクリスカ、イーニァと出会っても、何も分からなかった。ただ一つ違和感を上げるとすれば、それはイーニァに対して然程恐怖を感じなかったこと。寧ろ、イーニァが京介に対して何時の間にか懐いていた事だった。「綺麗になった」というイーニァの言葉に首を傾げるしかなかったものの、屈託の無い笑みを向けられた事に対しては悪い気はしなかった。

 

 

そうして僅かな休息の時間が過ぎていった時、その事件は起きた。

 

 

再び全小隊がBETAとの戦闘に出撃した後、前線基地から13km程離れたポイントに地下から侵攻していたBETA群が突如現れたのだ。基地に残っている戦術機で残っているのは修理を終えた雪風------蒼色が疎らになり雪風の文字も無くなったただの不知火------一機のみ。必要な機材と人員の避難を完了させるには、些か時間が足りない。だから京介は、少し前にロバート・ギリアム・イェーガーという謎の男から渡されたケースを開いた。その中身は、大量の精神刺激剤のカプセル。一人強化装備に着替えた京介はまだ自由に動かせない右腕を庇いながら、ハンガーで必要な機材を確保していたヴィンセントに無理を言って出撃準備を整えさせたのだった。自分が時間稼ぎをすると言って。

 

 

 

 

《------少尉! 少尉! 一旦出て来てくれ!》

 

 

そのヴィンセントの声が耳朶を打って、京介の意識は管制ユニット内に引き摺り戻された。摂取した精神刺激剤(劇薬)による影響か、右腕を初めとする全身には十二分に力が篭っている。頭の中が凄まじい勢いでクリアになっていく感覚に包まれながら、京介は一度機体から管制ユニットを出した。ハッチが開くと、淵に手を掛けたヴィンセントが中を覗いてきている。その彼にケースと空の飲料パックを押し付けながら京介が外に出ると、彼の隣に息を切らした唯依が膝に手をついて立っていた。

 

 

「中尉がアンタに話があるって……。最終調整まであと三分は掛るから、今のうちに話しておいた方が良いぜ」

 

 

「……ああ、ありがとう」

 

 

そう言ってヴィンセントが管制ユニットの中に消えて行くと、唯依は顔を上げてそのまま京介に飛びついた。ギュッと背中に腕を回され、京介は身体を震わせている彼女の肩に手を置いて引き剥がす。目を赤くした唯依の顔が、彼の顔を見上げていた。そんな彼女の心配を解消させるべく、京介はわざとらしく笑みを浮かべて見せる。

 

 

「どうしたよ、こんな所まで来て。お前もやらなきゃいけない事があるだろ?」

 

 

「ド、ドーゥル中尉から京介が出撃すると聞いて……はぁ、急いで来たのだ。っ、正気なのか!?」

 

 

正気なのかという唯依の問いに、京介はわざと首を傾げてみせた。何でも無い事のように。

 

 

「正気も何も、全部一人でBETAを全滅させるって訳じゃない。前線にいる小隊がこっちに来れない以上、このまま撤収騒ぎで大騒ぎの基地(ここ)にBETAをそのまま迎え入れる訳にはいかないだろ?」

 

「けど!」

 

「大丈夫だよ、心配すんな。お前らが無事に脱出出来る時間を稼ぎに行くだけだから」

 

 

そう言って肩を竦めて見せた京介に、唯依は一瞬違和感を覚えた。そしてすぐ、彼の右腕が動いている事に気付く。

 

 

「その右腕……まさか、あの薬を?」

 

 

唯依もまた、ロバートという謎の男から京介が受け取った薬の事を知っていた。精神的問題で脳が身体の一部を動かす事を恐れている京介から、その恐怖心を強制的に取り除くもの。バッドトリップやオーバードーズの危険性もあるそれを飲んだのかという唯依の視線に、京介は静かに頷いた。

 

 

「馬鹿者! 今は動いていても、また動かなくなったらどうする!? BETAの数は多い、その中にそんな状態で単機で突っ込むなどと……」

 

 

京介はその右腕を動かして彼女の頭に手を乗せると、そのままグシャグシャと頭を撫でた。表情から、笑みは消えていない。

 

 

「だから心配要らないって。俺が誰だか知ってるだろ? 恐れ多くも日本帝国が誇るエースの一人、浦城デストロイヤーだぜ? そう簡単にくたばるかよ、防衛戦も、明星作戦も、あのグアドループの戦いでも生き残ったんだ。今更こんなところで死ねるか。それに、ユウヤ達があれだけ頑張ってるのに、俺一人だけ潰れてる事なんで出来ねえよ」

 

「けど……!」

 

「今回のユウヤと同じだって。お前の為にって思ってやってるんだ、心配するな。それに、まだお前に言ってない事が沢山ある。それすら言えてないのに、こんな所で死んでたまるかよ」

 

「それは……一体何なのだ?」

 

「ここで言っちまったら、それこそ帰って来れなくなっちまうよ。だからさ------」

 

 

京介は一度言葉を止めると、両手を唯依の頬に添えた。そうして自分から彼女に口付けを交すと、その身体を抱き締めて耳元で囁く。それは唯依が今まで聞いた事が無い、京介の真剣な想いのカタチだった。

 

 

「戻ったら、今まで話せなかった事を沢山話そう。まだ唯依に言ってない事、知らない事、全部教えてやる。だから唯依も、考えといてくれ。俺に話す事をさ」

 

 

「……っ」

 

 

腕の中で彼女が頷くのを感じると、京介の背後からヴィンセントが声を掛けた。雪風の発進準備が完了したのだ。京介は唯依から離れると、そのまま背を向けて再び管制ユニットに足を掛けた。そして背後で待機しているヴィンセントに、ある事を頼む。

 

 

「唯依の事、宜しく頼む。ちゃんと逃がしてくれよ」

 

「ああ、少尉も絶対帰って来い。アンタとユウヤの喧嘩が見られなくなるのはつまらないからさ」

 

「ハッ、楽しみにしとけ。次はもっと派手にやってやるさ」

 

 

ヴィンセントの言葉に手を上げて応えた京介は、管制ユニットと共に雪風の中へと消えた。宜しく頼む、その言葉に本当はどんな意味が込められていたのか、ヴィンセントには分かっていた。けどそれを分からないフリをして、彼は京介に帰って来いと言ったのだ。だがそれは叶わないかもしれないと、ヴィンセントは去って行く雪風の背を見ながら独りごちた。

 

 

何故彼がそう思ったか、それはS-11SD-SYSTEM------SELF-DESTRUCTION-SYSTEM------ 戦術核に匹敵する破壊力を持つ高性能爆弾、反応炉破壊を名目として戦術機に搭載される自決兵器に掛けられていたロックを解除してくれと京介本人から頼まれていたからだった。高価な自決装置、それの意味する事は------ヴィンセントが思わず取っていたのは、敬礼の姿勢。そうして京介を見送った後、彼は残された仕事を完遂させる為に己の戦いの場へと戻って行った。唯依の姿は、何時の間にか見えなくなっていた。

 

 

 

CPとの通信回線もまともに繋がらない中、京介はレーダーに映る赤い光点を正面に据えて匍匐飛行で突っ込んでいた。BETAの数は決して多くは無い、だが光線級が確認されている以上不用意に飛び上がる訳にはいかなかった。操縦桿を握る手に力が篭る、ギリギリと軋むような音を立てて歯を喰いしばる、全身に力が漲っていく感覚の中で、京介はギリギリ自己を保っていた。摂取した薬物の影響か、今までに無いくらい頭の中がスッキリしている。感覚が研ぎ澄まされ、目も、耳も、全てがありとあらゆる情報を取り入れようと躍起になっていた。

 

 

(接触まで後600------500------400------)

 

 

下手をすればそのままBETA群に突撃してしまいそうな怒り、全身の血液が沸騰して身体が内側から弾け飛んでしまいそうな恐怖、守りたい人達への親愛、敵を屠り尽くしたいという殺意、闘争本能に飲み込まれながらも、京介は目の前に見えた突撃級の集団を前に覚悟を決めた。

 

 

「行くぞ京介……腹括れや」

 

 

地響きを起こしながら進軍する突撃級の集団の横に回り込むと、京介は両手に持った突撃砲の弾丸をばら撒いた。甲殻に守られていない柔らかい部分をグチャグチャにされた突撃級は活動を停止し、進軍していたBETAは新たな目標を見つけたのか一部がその進路を京介と雪風へと向ける。かつて何度も対峙し退(・)治(・)してきた敵の姿を目の前に、京介は身体を震わせた。怖いのか、武者震いか、後者だと思う事にした京介はグッと構え、ウジャウジャと押し寄せる要撃級を前に突撃砲を構える。

 

 

「そうだ、来いよ。手前ら全員掛かって来い。まとめて俺が相手してやるからよぉ!」

 

 

弾丸に蹂躙され血飛沫を噴き上げるBETAを前に、京介は吼えた。

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

「------ここから先は、一歩も通さねえッ!!!」

 

 

 

 

 

 

数十分か、或いは数時間か、前線基地に近づいていたBETAの殆どは、最早原型を留めていない肉塊になっていた。周囲にはBETAから撒き散らされた血痕が広がり、今も尚飛び散る新しい血液によって上塗りされている。足を失った突撃級の後部には突撃砲が突き刺さった状態で放置されていて、その隣には要撃級の腕によって砲身を潰されたもう一挺の突撃砲が転がっていた。そうして広がる地獄絵図のど真ん中に、その紅い戦術機は存在した。

 

 

両手に握った74式近接戦闘長刀は既に刃こぼれを起こし、表面は返り血によって光を鈍く反射している。飛び掛る戦車級を一刀の下に斬り捨て、その戦術機------雪風------は夥しい量の血を頭上から降りかけられた。その管制ユニットの中で、京介は肩で息をしながら血走った目で周囲を睨みつけていた。

 

 

「ハァッ……ハァッ、ハァッ……ハァッ……」

 

 

荒い呼吸を繰返す京介は、摂取した薬物の影響で完全に覚醒していた。周囲に存在しているBETAは既に数十体まで減少し、その内の半数以上は既に手傷を与えて動くこともままならない。誰の声も聞こえない孤独の中で戦い続けていた彼の精神は、自分でも判らぬ程に消耗してしまっている。

 

 

(左……戦車級、上……距離は------)

 

 

背後から飛び掛った戦車級を振り向き様に斬り殺し、京介は続けざまに右腕の長刀を振り回して足元に広がっていた小型種を屠った。守るはずだった前線基地にBETAは侵入したのか、撤退命令が出ていた前線の仲間達は無事に生き延びているのか。それすらも分からない中、京介は戦い続けている。実際、京介が出撃した基地は既に放棄されBETAによって占領されていた。前線に居た味方部隊も一部を残して撤退しており、状況で言えば京介は完全に孤立していた。

 

 

「あと、少し……で、俺は……」

 

《それが君の限界か?》

 

「っ!?」

 

 

突如自分の耳朶を打った男の声に、京介は思わず空を見上げた。直後、雪風の周囲にいたBETAが一斉に上空からの弾丸の雨に飲み込まれる。そして京介の頭上を、十一機のF-15Eが通り過ぎていった。そして後からやって来た十二機目が、京介の目の前に着地する。その黒いF-15Eは跳躍ユニットが大型化され、背中に長刀を背負っていた。肩部には赤いメビウスの輪が描かれている。息も絶え絶えの京介の視界に、一人の男のバストアップ映像が表示された。それは正しく、数日前に京介と接触したロバート・ギリアム・イェーガーのものであった。サングラスを外している為か、黒い眼球が剥き出しになっている。

 

 

《見せてもらったよ、君の本(・)気(・)の(・)つ(・)も(・)り(・)を。どうやらあの薬を飲んでもらえたようだね、良い目をしている。戦いに全力を注げる男の目だ》

 

「何を……」

 

《だがまだ足りない。それは君の本気ではない》

 

 

両手に持っていた突撃砲を捨てると、ロバートのF-15Eはブレードマウントから二本の長刀を取り外した。それを構えたロバートは、一気に京介へと斬り掛かる。京介は突然の攻撃に一瞬反応が遅れるも、それを何とか受け流した。

 

 

「どういうつもりだ!」

 

 

《既に近辺の異星種(BETA)は駆逐された。私の部下は前線で殿を務めている部隊の援護に行き、ここには私と君の二人しかいない。だから見せてくれ、君の本気を。決着をつけよう------君の心と!》

 

 

再び斬り掛かるロバートの刃は、京介が今まで戦ってきた誰よりも苛烈で、繊細で、隙が無かった。受け流すのが精一杯という中で、雪風が右手で持っていた長刀が弾き飛ばされる。残った長刀を両手で握り締めた京介は、挑発するロバートに向かって果敢に斬り掛った。だがそれらの全てを軽くいなされ、逆に繰り出される斬撃に雪風はどんどんその血塗れの装甲を傷つけていく。

 

 

《死を恐れるな! 心を開放しろ! 怒れ! もっと怒れ! そうだ、戦いの中で本当の自分を見つけるんだ! 心が擦り切れそうになるまで! もっと! もっとだ! 戦いの中で自らの生きる実感を得てみせろ!》

 

 

「うおおおおおおおおおッッ!!!!」

 

 

矢継ぎ早に繰り出される斬撃と怒声に、京介は雄たけびを上げながら長刀を突き出した。だがそれは簡単に防がれ、逆に雪風の右腕が宙を舞う結果となる。全身を貫く激しい衝撃に耐えながらも、京介は残った左腕に全ての力を込めた。

 

 

「アンタは! 何の為に戦っている!? 人間同士が戦う事に、何の意味があるって言うんだ!」

 

《意味なんてないさ、ただ私は私自身がそうしたいと強く思っているからこうしているだけ。見つけたいんだよ、私は。この世の理から外れた例外を!》

 

「それがどうしたぁ!」

 

《可能性を感じたのさ! 君に! 君が例外であってくれるのならば、私が! だから確かめてやる!》

 

 

長刀の一本を自ら捨てたロバートは、隻腕の雪風に受け止め続けられるような攻撃を何度も繰返した。ロバートは叫ぶ、自らの悲願を達成する為に。それは最早、懇願に近かった。

 

 

《一つ良い事を教えてあげよう! もし私の部下が帰って来るまでに我々の決着がついていなければ、そのまま私の部下達が君の仲間を殺(・)し(・)尽(・)く(・)す(・)!》

 

「何を!?」

 

《このまま大人しく私に殺されるか、それとも私を倒すか! 迷っている暇は無いぞ! さあ、タガを外せ! 大切な存在を再びその手から失いたくなければ!》

 

「ふざけんじゃ------ねえぞッ! 手前ェ!」

 

 

ロバートの言葉に激昂した京介は、その場で跳躍ユニットの片側を噴かして回転するとロバートのF-15Eの背後を取った。そのまま突き出された長刀は彼のブレードマウントを破壊し、跳躍ユニットの一部を両断する。バランスを崩したロバート機は地面を抉りながらも回避運動を行うと、片膝をついた状態で京介に向き直った。その足元には、最初に投げ捨てた突撃砲が転がっている。

 

 

「死にたいんなら望み通りに------してやる!」

 

 

長刀を構えた京介が突っ込む。ロバートは突撃砲を拾い上げ、その銃口を雪風に向ける。彼我の距離は百も無く、先に刃を突き出すか、引き金を引くか、それで勝敗が決する距離だった。残っていた推進剤の全てを消費する勢いで加速した雪風から突き出された長刀は、相対するF-15Eの胴体に深々と突き刺さる。確かな手応えに、京介は快哉を上げた。

 

 

「勝った!」

 

 

《いや、負(・)け(・)だ(・)》

 

 

京介の耳朶を掠れた声が打った時、彼の目の前で構えられていた突撃砲から36mm弾がばら撒かれた。それは雪風の胴体をズタボロに引き裂き、管制ユニット内に居た京介の肉体をも傷つける。ユニット内で弾けた破片が容赦無く京介の全身を襲い、その中でも一際大きく鋭利な破片がその腹部を貫いた。

 

 

「っ……ぐ……お……」

 

 

全身の傷口や口の端から鮮血が流れていく中、京介は腹部に刺さる破片を左手で握りながら、右手で強化装備のレスキューパッチを押し込んだ。だがグアドループの時のように、周囲には彼を助ける存在は誰もいない。出血は酷く、融解する皮膜での止血を行っていても呼吸をするだけで全身が激しい痛みを発する。視界が朧気になっていく中、京介の視界には雪風のカメラ・アイに映る胴体に長刀が突き刺さったF-15Eが映り込んでいた。片膝をついた状態で沈黙していたその機体から、ノイズ混じりの通信が京介の耳朶を打つ。

 

 

《……も……君が……だと……ら、それ……》

 

 

耳元で鳴っているはずなのに何処か遠くで喋っているかのような言葉に、京介は自嘲気味に口の端を吊り上げた。だが京介の意識が朦朧としていく中、最後に彼の耳朶を打った声は、今まで聞いたどんな言葉よりも深く、重く彼の意識の奥へと刻み込まれたのだった。

 

 

《------もし君が再び目を覚ました時、その身体が白いシーツに包まれていれば、君の仲間達が君に笑顔を向けていたとしたら、君は間違い無く例(・)外(・)だ。あの男とは違う、本物の例外。私(・)の(・)代(・)わ(・)り(・)を相打ちとは言え仕留めたその実力、何時か然るべき場所で戦ってみたいものだ。さようなら浦城京介君、また別の機会に会えるのを楽しみにしているよ》

 

 

その言葉を最後に、京介の破片を掴む手がダラリと垂れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

混乱を極めたその日の夜、カムチャツキー基地に撤退していたアルゴス小隊に伝えられたのは、浦城京介の不知火がS-11を発動させてBETA諸共自爆したという報せだった。ソ連側から提出された証拠写真にはS-11によって地面に生じたのであろう巨大な穴と、胴体から外れた不知火の右腕が写されている。脱出した可能性もあったが周囲にBETAが存在していた事と、管制ユニットらしき物が発見されなかった事からソ連側は彼をMIAと判断したとの事だった。その報せを受けたユウヤ達は酷くショックを受けたものの、唯依だけは気丈に振舞ってソ連側の調査に礼を言った。発見した不知火の右腕については既に確保しているらしく、近いうちに返還されるようだった。だがアルゴス小隊のメンバーからすれば、本当に帰って来て欲しいのは不知火の腕ではない事は当然だった。

 

 

無論全ての整理が終わってカムチャツカから撤退する時まで、唯依がその張り詰めた表情を変える事は無かった。常に何処か遠くを見つめているようで、京介は衛士としての本分を全うしたと言う彼女に、ユウヤ達は誰も何も言う事は出来ない。そしてソ連の地で様々な出会いと別れを一辺に経験したユウヤもまた、戦場で仲間が死ぬのはどう言う事かを改めて思い知らされていた。一人の手間が掛かる男がいなくなった、冗談めかしてヴァレリオ達がそう言ったとしても、その言葉に応える人間は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

「……ああ、私だ」

 

 

薄暗い部屋の中、その男は突如鳴り響いた電話の受話器を取ると何の感情も無い声で答えた。その受話器の向こう側からも、同じような声が返って来る。

 

 

《よくもやってくれたな、と言いたいところだが所詮我々の想定の範囲内だ。貴様は彼を制御下に置けると思っているようだが、過ぎた自信は身を滅ぼすぞ》

 

「御心配なく、我々の計画に問題はありません。彼は二人にとって貴重な触媒となってくれるでしょう、П3計画の為に」

 

《……貴様らが何をしようとしているかは興味無いが、自分で理解出来ない領域に足を踏み込むべきでは無いと忠告しておこう。もし貴様らがその身を滅ぼす時が来るとすれば、原因はたった一つだ》

 

「原因?」

 

 

電話の向こうの男は少し間を空けると、重苦しい雰囲気を纏いながら短く答えた。それは電話を受けた男の背筋が僅かに凍る程で、その目を自身の目の前にあるベッドへと向けさせる。

 

 

《------奴を敵に回した事だ》

 

 

そうして電話が切れると、男は受話器もそのままにベッドの上で眠る一人の青年を見つめた。全身をチューブで繋がれ、肌の殆どを包帯で隠されているその青年がまだ生きている事を示しているかのように、心電図モニターは定期的に電子音を奏で、呼吸器からは酸素を取り込んでいる音がしている。目を堅く閉じ微動だにしないその青年の名は、浦城京介。

 

 

------彼はこの日、蘇生した。

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