Muv-Luv The frayed memory/Carved memory 作:REDALERT
賓客用として与えられたそれなりに大きな部屋の中で、香月夕呼はソファーに身を沈ませながら手の中にある草臥れた書類に目を通していた。肩辺りまで伸びている長い髪はシャワーを浴びた後ということもあってやや湿り気を帯びており、目元に張り付いたそれを指先で軽く払うとやや隈のある目元を押さえてくたびれた声を洩らす。
「白銀のやつ、私一人こんなところに置いて一体何処に行ったっていうのかしら……。不知火・弐型と
一人愚痴を零しながらも彼女がずっと読み込んでいたものは、アラスカへとやってくる前に技術廠から態々下手に出てまで手に入れた不知火・弐型に関するレポートだ。フェイズ1の段階でのカムチャツカにおける電磁投射砲を使用した戦闘データを初め、フェイズ2一号機二号機それぞれの詳細な運用データ、更には少ないながらもフェイズ3とSu-47Eによる戦闘から得られた改善点等々。電磁投射砲について一枚噛んでいたものの全くもって興味の無かった夕呼は、勿論当初XFJ計画を初めとする諸々についても一切の興味を持ち合わせていなかった。それはその時点での彼女にとって必要のないものであり、それよりも彼女が主導して進めているオルタネイティヴ4の核となる研究を進めることが第一だったのである。だがある男が彼女の目の前に現れた事によって、夕呼が行き詰っていた研究は大きく飛躍することとなった。
(私がどうしても必要としていた
夕呼は一番後ろに入っていた書類を一番前に持ってくると、そこに書いてある内容を心の中で読み返す。それは白銀武の要請を受けた彼女が許可した、ある戦術機中隊の詳細だった。
(第13中隊ディパーテッド……招かれざる客、冥界の者。アイツが言うからこそ似合っているとは思うけど……この選ばれた13人がアイツにとってどういう存在なのか。他国の衛士を無理矢理引っ張ってくるような真似をしてまで揃えたがるのはどうしてか。それを確かめるつもりだったけど、先行き不安ね)
書類の一番上に書かれた白銀武の文字の下、連なって書かれている12人分の名前を一人ずつ見つめながら、夕呼はゆっくりと開かれた自室のドアを一瞥した。
「ここでアンタが何をするつもりなのか------そろそろ教えてもらえるかしら? 白銀」
ドアの向こうから現れた人物にそう夕呼が声を掛けると、血や埃で袖を汚したC型軍装に身を包んだ男・白銀武は右側のレンズにヒビが入ったサングラスを外しながらゆっくりと口を開いた。その表情は硬く、だが夕呼に彼への追求を止める程の効果は無い。
「予想よりも事が大きくなりそうです、夕呼さん。多分……血が流れます、数え切れない程に」
「答えになってないわ。それにここに来る前に聞いていた話とは違うわよ」
「既にロバートに手を回されていました。DIAがXFJ計画を狙っています。恐らくソ連側でもKGBかGRUか、或いは両方かの手が伸び始めているはずでしょう。……ここまで来ると、もう事が起きるまでこちらには待つ以外の手はありません。だが後一度だけ、俺はあの人と会わなくちゃならない」
ロバート、その名を聞いた段階で夕呼は既にアラスカの地から如何に素早く撤退するかの考えをまとめ始めていた。夕呼はかつて自らの居る横浜基地をロバートの部下達が襲撃され、結果としてA-01の一部隊を含む三個中隊を壊滅させられた事がある。その時はヴァルキリーズと呼ばれる第9中隊と白銀の手によって撤退させる事に成功したが、それ以外にも思い出すのもおぞましい妨害工作を幾度と無く受けては退けてきた。だがその度に多大な被害を受け、夕呼の日々の頭痛の種となっていたのだ。
「奴の息が掛かった連中がいるのなら、私がこれ以上ここに居る理由は無くなるわよ。頼れる護衛としてキースも連れてきたけど、話が進みそうにないのなら長居することはないもの」
「分かっています。ですが、もう少しだけ俺に時間を下さい。何としても彼に真実を伝え、共に来てもらわなければならないんです」
「それは分かってあげているつもりよ。けどね白銀、私としてはアンタが奴の有能性を力説したから乗っているだけであって、一個人としては特に欲しいという訳じゃないの。……アンタの自説が正しければもう十分な程数は揃っているんだから」
「それでもです、それでもあと三日間だけ俺に時間を下さい。夕呼さん」
懇願する白銀の真っ直ぐな眼を前に夕呼は首を左右に振ろうとしたが、それでも結局は仕方ないというため息と共に首を縦に振るしかなかった。自分でも甘くなったという自嘲の意味を込めたため息を白銀は好意的な意味で捉えたのか、深々と頭を下げて部屋を出て行ってしまう。一人残された夕呼は手に持っていた書類を手の中で握り締めると、小さく消え入りそうな声を零すのだった。
「何度も私と会ってるなら……いい加減に気づきなさいよ、白銀」
白銀武が浦城京介と最初に接触した翌日、京介は入院中のイワンを訪れていた。隠蔽工作の為に起した爆発事故の所為で総合評価試験が停止している今、不必要な怪我を負ったイワンやサンダークはひっそりと怪我の治療に勤しんでいる。今のところ、サンダークが表舞台に姿を現すような素振りは無い。
「タケル・シロガネか……まさかこんな所に来ているとは」
京介が語った前日の内容を全て聞き終えてから、イワンはそう言葉を零した。腕や足を包帯で固定されているその巨体はベッドの殆どを占領しており、傍から見る分には笑いの一つでも零れそうなものだったが、傍らに銃を持った
「やっぱり知ってたか、お前も。奴もロバートを知っていて、しかも敵対しているようだった。何者だ?」
「……奴はお前よりも遥かにロバートの関心を引いている男だ。憎まれているといっても良い。だが只者ではないのは確かだ。年齢不詳、本人は日本人だと自称しているが生まれも不詳、生年月日も不明、おまけにこっちのデータに乗っかってきた時には最初から少佐の地位についていた。そこに至るまでの経歴もあるにはあったが、恐らく偽物だろう」
「偽造されてるって事か?」
ベッド脇のパイプ椅子に腰を下ろしていた京介がそう問い返すと、イワンは静かに頷いてから左手に持っていた血によって赤黒く汚れた手帳のようなものを覗き込んだ。それは前日京介が手に入れたDIA捜査官ジョセフ・コートマンの物で、ユーリからの情報によれば前日のあの銃撃戦を証明する証拠は一切見つからなかったという。話し合いや銃撃戦の舞台となった店も、跡形も無くなっていたという話だ。だが少なくとも、京介の話が正しければ現状大きな力が働いているという証拠は残っていた。
「理由は分からんがな。だがロバートは奴の事を随分昔から知っていたようだ、俺も何度か話を聞いた事がある。オペレーション・ルシファーの際に戦死した、とも聞いた事はあるが実際のところは俺にも分からん」
「なら米ソどちらの味方でもないって事くらいか、判断出来るのは。それで、そのDIAについては何か話を聞いてないのか?」
「こいつに関しては完全にお手上げだ。XFJ計画を嗅ぎまわっている理由がお前が昨日聞いたものであるならばそれだけだが、平然と武器を持ち出して襲ったとなるとかなり大規模な話になるな。……ここだけの話、俺の上の連中も直接サンダークの件に関して介入することを決定した。もしこれがDIAの介入を察知していての行動なら、とんでもない事になる」
そう言ってわざとらしく腕を痛そうにするイワンを前に京介は首を傾げると、彼の言ったその上の連中に関して問い質した。京介は既にイワンがソ連のある組織とサンダーク側、更にロバート側の
「
「何をするつもりなんだ?」
「
「……俺は一体どうすれば良い? サンダークは俺が言う事を聞かないとは思ってないだろうが、多分素直に聞くとも思っていない。かといってこのままお前らの上の連中に動かれれば俺がやってきた事が全部ダメになっちまう。XFJ計画は米国から睨まれてるし、俺も何の問題も無しに日本に帰れるなんて思っちゃいない。何か策は無いか、イワン。もう今の俺にはお前らしか頼れる奴がいないんだ」
珍しく弱音を吐いた京介の姿に、思わずイワンはユーリと顔を見合わせた。それから暫くの間考え込む素振りを見せた後で、イワンは気乗りしないと言った体で言葉を零す。
「今から俺が話すのは完全に手が無くなった時の手だ。誰も幸せにはなれないし、余計な血も流れる」
「それは?」
「サンダークを抹殺し、アラスカに集ってくるGRUやDIA、更には警備部隊の連中全てを巻き込んでこのユーコン基地を混乱の渦に巻き込むんだ。その間にお前はビャーチェノワとシェスチナを連れて、ここから逃げ出す。アメリカ国内で逃亡生活を送るようになるな」
「……おい、ちょっと待ってくれよイワン」
「分かっている、これじゃあ結果として生き残るのはお前とシェスチナくらいだろう。誰にも見つからずに何処かへ逃げ果せたとして、数ヶ月経てばお前の持っている特殊蛋白は底を尽いてビャーチェノワは死ぬ。見つかればそのまま殺されるかもっと酷い事になる。勿論現実的な話じゃない、達成できるはずもないって事は俺も分かっている。だが最終的には、お前が彼女達を解放してやらなければならなくなるかもしれないという事は頭に入れておくんだ」
「そんな事、俺に出来ると思ってるのか……?」
「思っていないさ。ただアイツらも、仮に死ぬとしてもお前に殺されるのなら本望だろう」
「馬鹿な……!」
「だが、まだ一つだけ道が残っている」
道、イワンが紡いだその言葉に京介がハッとして顔を上げると、イアンはジョセフ・コートマンの身分証を京介に投げ返した。
「シロガネを利用するんだ。奴がお前に接触し、ブリッジスの後に何か話をしようとしていたのなら必ず重要な何かがある。荒い交渉はお前の得意分野だろう? そこで何かしらの解決策を練るんだ。このまま事態が黙って進んで行くのを見ているより、自分から最後まで足掻いてみろ」
「アイツなら俺の求めている答えを出せるって事か?」
「ロバートに憎まれている時点でまともじゃないのは確かだ。仮に……そいつも敵になるようだったら、お前なら言わなくても分かるな」
静かに頷いて見せた京介を見ると、イワンはそのまま目を閉じて深く枕に頭を沈ませた。今はこれ以上話す事は無いという意思表示を前に、京介はユーリに一言礼を言ってから病室を出て行こうとする。だがドアに手を掛けた時、目を瞑ったままのイワンが京介の背に言葉を投げ掛けた。返事を必要としていない、自問自答させる為の言葉を。京介の母国語である、日本語で。
「浦城、何故お前があの二人の為に命を懸けてやれるのか……その理由を良く考えるんだ。お前自身が決めて始めた行動は、誰にも止められない。お前が正しいと思った事をやるんだぞ」
「…………ああ」
誰に聞こえたかも分からぬ小さな返事を零して、京介は病室を出て行った。そうして平穏な静寂が訪れかけた時、イワンは長年の友人としての
イワンから投げつけられた自問自答の渦、それを京介は自室のベッドの上でジッと考え込んでいた。枕元には冷蔵ケースが置かれ、デイバックの中に残っていた全ての装備が床一面に並べられている。拳銃、パーツごとに分解されている散弾銃や突撃銃、それらの弾薬箱やマガジン、手榴弾、ボディアーマー、ダクトテープ……等々。監視カメラのレンズには全てテープが貼られ、マイク類は全て破壊されている。京介自身の行動も考えも何一つ漏れ出さない部屋の中で、彼はジッと自らの行動原理を理解しようとしていた。
何故命を懸けてやれるのか、イワンのその言葉は深く京介の心の奥底へと刺さって揺れ動いていた。チクチクとした取れない痛みが胸の奥に奔っているが、その痛みが逆に彼の思考をクリアにしているようだった。自分が戦う事を決めたのは何時だっただろうか、ふと京介は自分の半生を振り返ろうとし、かつての光景を脳裏に描き始める。父が戦術機の訓練飛行中に事故死した日、やって来た帝国軍人の脛を思い切り蹴り上げた幼い自分の姿、精神を病んだ母が家の窓から飛び降りた日、家柄も何もかも全て捨て去り、自分を置いて衛士となるべく家を去った姉、それを追いかけて同じく衛士となった自分。そこにBETAへの怒りはあったか、守りたいものはあったのか、何の為に自分は命を懸けてまで戦おうとしていたのか。帝都が燃えたあの日、同じ釜の飯を食った連中が吐き出す阿鼻叫喚の地獄絵図、一夜明ける度に壮絶な疲労と猛烈な倦怠感に襲われ、目を閉じれば繰り返し聞かされ続けた地獄が暗闇に広がって行く。気がつけば蝋燭の火が消えてしまうことさえも恐れ、部屋の電気を消したままじゃ眠れない情けない男にまで成り下がっていた。
だがそれを誤魔化す為に粗野な人間を装い、適当な女と関係を持ったりもした。だがどれも長続きするはずもなく虚しさだけが募り、ただただそれを発散する為に不必要に暴れてまた別の女の臭い股座を嗅ぐ。XFJ計画に呼ばれるまでは、言い換えれば篁唯依と再会するまでの自分は正真正銘のクズだったと京介は自嘲する。だがそこから現在までを思い返してみても、精神安定剤を手放せなかったことや何度も酒に逃げていたことを振り返れば本質的な意味では何も変わっていないとも思える。しかし何時からだろうか、薬も飲まず酒を飲むことも無くなったのは。自分の知らないところで自分を狙っている存在を知り、干渉を受け、拉致され、自分が得体の知れない化け物であるという事実を半分認めなければならなくなってまだそう日は経っていない。だがその間には唯依の死やイーダル試験小隊への異動、巌谷中佐を始めとする日本帝国への裏切り行為がある。その中で変わっていったモノはなんだったかと、京介は指先に残る銀色の感触を思い出した。
(クリスカ……)
アラスカに舞い戻り、唯依が死んだと聞かされた日に彼女と交わった事を京介はハッキリと覚えている。朝目が覚めた時、シーツにその柔肌を包み込んだ姿が腕の中にあったあの感覚。今までに無い幸福感と充足感に満ち溢れたセックスの余韻が心地良く、そのままずるずるとクリスカとの関係に溺れていた。それと同時に徐々に懐いてきていたイーニァに対しても加護欲がそそられ、妹か娘か、そんな思いを抱くようになっていた。ただその思いの先に唯依と重なる部分があったことを、京介は自覚していない。
と、ベッドの上でジッと京介が考え込んでいると、覚束ないノックと共に部屋のドアが開かれる音が彼の耳朶を打つ。バッと上体を起こした京介の視界に入って来たのは、ミーシャを両腕に抱えたイーニァだった。イーニァはベッドの上にいる京介の姿に安堵した様子だったものの、床に広げられた銃器を目にするとすぐに悲しそうな顔をして京介の顔を見る。
「キョウスケ……また、たたかうの? ひとをころしちゃうの?」
「……分からない。ただ、そうしなきゃならなくなるかも知れない」
ベッドから足を下ろして座りなおした京介に近づくと、イーニァはそっとその隣に座り込んだ。辛そうな顔をしている京介の顔を下からイーニァが覗き込むと、彼は少しだけ口の端を緩めてその頭を撫でてやる。
「イーニァは心配しなくて良い、これは俺の問題だから」
「けど、イーニァたちのせいでキョウスケはたいへんなことになってるんでしょ? だったら、わたしもなにかしてあげたいの。クリスカもそう。だから……」
泣きそうなイーニァの声、顔、その二つを前にした時、京介の心の中である思いがしっかりとした支柱となったような感覚がした。まるで暗闇を漂っている中で眩い出口を見つけた時のように、進むべき道標を自ら定めたかのように。
「------だからこそだよ、イーニァ。俺がそうしたいと思っているからやってる訳であって、その……お前達の為なら俺は何だって出来るんだ」
「どうして?」
「どうしてって、そうだなぁ。……好きだからさ、二人を」
イーニァの頭を撫でていた手をその腕の中にいるミーシャの頭にまで持っていって優しく撫でてやってから、京介はイーニァのその小さな身体をギュッと抱き締めた。その小さくも暖かい背中に腕を回すと、イーニァもその細い腕を京介の背中へと回す。その大きな背中がイーニァにでも分かる程震えていても、少女はその事を口に出すことはしなかった。流れ込んでくる相手の
「必ず、必ず助けてやるからな。お前も、クリスカも、必ず。もう誰にも道具扱いにはさせねえ、だから……待ってろ」
「うん、まってる……。けど、キョウスケがほんとうにはなさないといけないのは、イーニァじゃないよ」
そう言ってイーニァは京介から離れると、その長い髪を揺らして部屋を出て行ってしまった。その代わりに新しく部屋に入って来たのはクリスカで、彼女はただ広げられた武器の前で立ち尽くしているだけ。そんな彼女に京介は自分から近づくと、何かを言おうとしたクリスカの唇を自分のそれで塞いでしまった。腰に右手を回し、左手を彼女の後頭部に回す。壁に押し付けて貪るように舌を絡み合わせると、クリスカもまた京介の頬に手を添えた。久しぶりに交される恋人同士のやり取りを終えると、京介は頬を上気させたクリスカの瞳を真っ直ぐに見つめる。
「答えが出た」
「答え?」
首を傾げるクリスカに頷き返し、京介は床に広げた武器を一瞥する。そしてもう一度、目の前に立つ彼女の蒼い瞳を覗き込んだ。
「どうして俺が自分の命を懸けてまでお前達の為に動こうとしていたのか、今一自分の中で理由を見つけられなかった。けど簡単な事だったんだよ、クリスカ。
そう言って京介はクリスカの手を取ると、少しの間目を閉じてゆっくりと深呼吸を繰返した。繋がれた手から流れ込んでくる暖かい感情はクリスカの心にも作用し、既に彼女は彼が何を言おうとしているのか漠然とだが理解している。だが彼女にとっても初めての経験に、自然とその目は涙と溜め始めていた。
「俺は……浦城京介は、クリスカ・ビャーチェノワの事をこの世界の誰よりも愛しています。もう誰にもお前を戦争の道具として扱わせない、お前にはずっと俺の傍に居て欲しい。例え俺達の始まりが仕組まれていたとしても、そんな事はもうどうでも良いんだ。俺はお前の事を愛している、愛しているからこそ何だって出来る。世界中を敵に回す事になったとしても、お前さえ居てくれれば俺は戦える。……だから答えてくれ、クリスカ。お前は俺を心の底から愛してくれているか?」
「…………っ! っ!!」
顔を真っ赤にした男の告白、それを前にしたクリスカはその両目から大粒の涙を流しながら静かに頷いた。そして何時も抱かれていたその太い腕の中に再び身体を抱き締められると、彼女はその胸板を濡らしながら言葉を零して行く。それは彼女の生を握っている運命そのもので、どうしても避けては通れない茨の道を示している。
「……私が生きて行く為には、必要なものが多過ぎる。例え今は手に入れることが出来ても、何時かは手に入らなくなるかもしれない。そうすれば私は……っ、貴方やイーニァと離れたくない……! どうすれば良い? どうすれば私達は三人でいられるの!?」
「……一つだけ、手が残されている」
クリスカがその心情を吐露しようとした時、京介はその耳元で言葉を紡いだ。それは賭ける
「プロミネンス計画を、ユーコン基地を、この手で叩き潰す。アメリカも、ソ連も、日本だって俺の邪魔をするなら容赦はしない。だけど、この手を使ったら俺達が一緒に居られるのはほんの数ヶ月で、それから先はこの世じゃない。安住の地も無ければ、誰も知らないところで……」
言葉の端を切り上げた京介は、ただ黙ってクリスカの体温を腕の中で感じていた。本来残されているもう一つの手、それを口にする事が出来なかった京介はただ、心の内で最後の賭けを口にする。
(白銀武、お前が俺の事を必要だと言うのなら……俺と共に二人を救ってみせろ……!)
最早祈りにも近い言葉を吐いた後、京介はクリスカと久しぶりに互いの心が通い合った交わりを致したのであった。