Muv-Luv The frayed memory/Carved memory 作:REDALERT
A newcomer.
左脚が無い、最初その青年はその事実をぼんやりと受け止めていた。包帯が巻かれ、太腿の真ん中から先が丸みを帯びている。だがそれ以上に理解出来ないのは、横になっている自分を見下ろす白衣を着た集団だった。何故彼らはこんなにも必死になって自分に向かって叫んでいるのだろうと。そしてどうしてその声が、自分には全く聞こえないのだろうと。
「××! ××××!」
白衣の男が何事か叫びながら、片手に小さなライトを持って青年の目を照らす。瞳孔の反応は無く、男は舌打ちしながら青年の腕に何かを注射した。青年の胴体は今はビリビリに裂かれているものの、元々皮膜のようなものに覆われている。露になった肌の所々には金属片の刺さった裂傷が出来ており、ガーゼや包帯の赤く染まった部分の方が肌面積よりも多かった。
そして白衣の連中を前に青年は一度苦しそうに顔を歪めると、その口から思い切り血を吐き出した。鮮血が宙を舞い、白衣を汚していく。何度も咳き込む度に口から血が溢れ、青年の身体が大きく跳ねる。白衣を血に染めていく男達は必死にその身体を押さえつけるが、やがて青年の咳き込む回数が減ってくると諦めたように一部の男達が青年から離れて行った。現状、彼らは沢山の人々に必要とされている。死ぬのが分かっている人間を最期まで見ていられる程、彼らも暇では無いのだ。
離れて行った人々と入れ替わるように、別の青年が血だらけの青年の傍へと歩み寄った。彼は相手の傍に膝を付くと、その手をギュッと握った。血だらけの青年は自分の手を握る青年の顔を見れば、口の端を歪める。笑みを見せて安心させようと思ったのだろうか、だがその顔は、苦痛に歪み切ってしまっていた。
「×……お前は……!」
それでも血だらけの青年は最期の力を振り絞るかのように、自らの最期を看取ってくれる相手の名を呼んだ。そして何事かを言い掛け、そのまま事切れる。
京介の見ていた夢は、そこで途切れた。
「------ッ!」
飛び起きた京介は、酷く汗を掻いていた。寝る前に軍服から適当なシャツに着替えていて良かったと、張り付いた胸元のシャツを引っ張りながらそう思う。場所はアラスカ・ユーコン基地へと向かう輸送機の中。2001年、XFJ計画開発主任補佐として任命された京介は、かつて知り合った斯衛軍中尉・篁唯依と共に遥か遠くの地へと向かっていたのだ。そんな事をぼんやりと思い出しながら、息を荒くした京介は座っていたシートが汗で湿っていることにうんざりしつつ再び目を閉じた。
(久しぶりだな、変な夢を見るのは。最近殆ど見なくなったと思えば、こんな------)
濡れたシャツもそのままに寝ようとしていた京介だったが、結局その濡れた感触が気持ち悪くて寝れたものではなかった。だから立ち上がってシャツを脱げば、隣のシートに置いていたバックパックから替えのシャツを取り出す。そしてそれを着てから、彼は少し離れたシートに座って眠る唯依の姿を見る。小さな寝息を立てながら眠るその少女の姿に安心したのか、京介もまたバックパックを移して新しいシートにその身を埋めたのだった。見ていた夢の事など考えたってどうにもならないと、その頭は判断していた。
アラスカ・ユーコン基地、この基地が建設された背景は少しばかり複雑なものだった。アラスカの防衛力強化を急いでいた米国国防省は、アラスカに於ける新基地建設予定地の一つに、広大な土地面積を持つアラスカ州ユーコン平原を検討していた。ところが、その計画中にアラスカ北西部をBETAに国土を追われたソビエト連邦に租借する条約が締結されたため、ユーコン平原は突如として国境地区となり、基地建設予定地は両国の国境線で分断されることになる。その後、ユーコン平原に米軍基地ではなく国連軍基地を建設するという新たな案が浮上。同時に国連軍事参謀委員会は北米大陸の防衛力強化と同時に、対BETA兵器開発に於いて各国の相互協力・情報公開のための機関を設立することを提言。アメリカ・ソ連の新たな国境となったユーコン平原は、その拠点となる中立地帯として都合が良かったのだ。この提案は米ソ共に十分な
「それで、俺の機体は遅れて搬入されるんだったかな」
広大な土地に広がる基地施設を物珍しげに眺めながら、京介は前を歩く唯依に問うた。彼女は手に持った資料をジッと見つめながら、彼の問いに答える。
「そうだ。場合によっては先に持ち込んだ壱型丙で向こうの開発衛士に簡単な機体性能を見せてもらうようになる」
「機体性能を見せる、か。て言っても壱型丙が組み上がるのはまだ先だし、開発衛士が最初に乗るのは吹雪だろ? 不知火とか陽炎なら兎も角、吹雪かぁ……」
「何だ、自信が無いのか?」
「まさか。向こうがすんなり乗りこなせてくれれば俺としては楽で良いとは思ってるけど」
時折上空を飛んで行く他国の戦術機を見上げながら進んで行くと、京介は突然何かにぶつかった。見れば資料を見ながら歩いていたはずの唯依が立ち止まっていて、その背中に京介がぶつかったのだ。そして京介もまた唯依と同じモノを見る。国連軍のジャケットを着た衛士らしい一人の女性が、二人をジッと見つめていた。
「……知り合いか?」
頭に青い髪留めのような何かを付けているその女性は、ナイフを思わせるような鋭い目付きで京介達を見つめている。思わず京介は唯依に問うてみるも、帰って来たのは頭を左右に振る否定の意。やがて相手の女性は興味を無くしでもしたのか、京介達の前から姿を消した。一体何だったのだろうと二人して顔を見合わせていると、今度は一台のジープが基地の方からやって来た。二人の隣に止まったそのジープの運転席には、一人の浅黒い肌をした男性が乗っている。その男性はジープを降りれば二人に対し敬礼し、また二人も敬礼を返す。
「アルゴス試験小隊の指揮官を務める、トルコ共和国陸軍中尉、イブラヒム・ドーゥルだ」
「日本帝国斯衛軍中尉、ユイ・タカムラです。こちらは帝国陸軍少尉のキョウスケ・ウラキ」
「迎えが遅れてしまい、申し訳ない。既にアルゴス小隊は全員集合し、これよりCASE47を開始する予定だ。その様子をタカムラ中尉に見てもらう。これが所属衛士四人のリストだ」
ドーゥル中尉から差し出された資料を唯依が受け取ると、二人は促されるままにジープの後部座席へと乗り込んだ。衛士一人ひとりのプロフィールが記載された書類を最初に唯依が目を通し、それから京介へと渡される。イタリア出身、ヴァレリオ・ジアコーザ少尉、スウェーデン出身、ステラ・ブレーメル少尉、ネパール出身、大東亜連合軍所属のタリサ・マナンダル少尉、そしてXFJ計画主席開発衛士、アメリカ陸軍所属、ユウヤ・ブリッジス少尉。ユウヤ・ブリッジスを除くメンバー関しては、アルゴス試験小隊が元々行っていた米軍のフェニックス構想、既存の第二世代機を改修して第三世代機の域にまで押し上げる事を目的とした計画に関わっていたらしい。西側関係者には最強の第2世代機と呼ばれる傑作機F-15イーグル、それをアビオニクスの換装とモジュールの追加のみによってF-15・ACTVアクティヴ・イーグルへと改修。そしてその機体を、そのままXFJ計画の比較機体として運用するのである。
「随分と速いな、このACTVって機体」
渡された資料の中にあったACTVの書類を読み進めながら、京介はぼそっと呟いた。勿論隣に座っていた唯依がその声を聞き漏らすはずも無く、彼女は京介の顔を横から覗き込みながら悪戯っぽく言葉を掛ける。
「戦ってみたいか?」
「え、良いのか?」
「ダメに決まっているだろう、どうせ少尉がやり過ぎて相手の機体を壊してしまうに決まっている」
「仰る通りで、中尉殿。……そんなに信用無いのか、俺って。うーむ……」
「デストロイヤーなどと大層な渾名を付けられていなければ、私だって考えていたさ。全くどうして貴方はそうなってしまったのだ?」
「何でだろうね。……ん? 相手の機体を壊すってことは、一応俺が勝てるとは思ってくれてる訳だな」
「んなっ!? ち、違うぞ! 私はただ、少尉が無茶な操縦でぶつからないかと------」
後部座席で母国語を使って談笑している二人の姿を見て、イブラヒム・ドーゥルは思った。日本語はさっぱりだが、二人はまるで兄妹のようだと。ただ話の中で出て来たデストロイヤーという不穏な単語に、何か引っ掛かるものを感じていた。日本は明星作戦の後、士気高揚の為に優秀な衛士達をエースとして国内外に発表したことがある。その中にデストロイヤーという渾名の付けられた衛士がいたのを、ドーゥルは覚えていた。もしかしたら彼が、だとすれば面白いことになる。そう思い、笑いそうになったドーゥルは我慢し、早く二人に演習を見せる為に更にアクセルを踏み込むのだった。
実際のところ、浦城京介という男の本質を篁唯依は理解していたつもりだった。直情的で、好戦的で、喧嘩っ早くて、戦い方は粗暴で、雑で、相手を口汚く罵ることはしないまでも挑発行為は当たり前、おまけに美的センスも無かった。初めて彼が操る不知火------彼は雪風と呼ぶ------を見た時、唯依は酷い頭痛を覚えた。胴体は白く、それ以外は関節や手足首を除きインディゴブルーの濃い蒼色に染められているその蒼・白・黒の三色からなる機体。おまけに肩には黒いペンキで汚らしい字で雪風と漢字ででかでかと書かれている、しかも衛士直筆だというではないか。初めて出会った時の事は綺麗な思い出として脳内で補正されているのかと、巌谷から京介の現状について知らされた唯依は酷くショックを受けていた。だが実際再び顔を合わせた時、彼は唯依の中の思い出とそれほど大きく変わっていた訳ではなかった。三年前と同じ瞳で、彼は昔と同じ悩みを抱え続けている。表面上は粗暴に見せていても、その内心は脆くガラスのようになっているのだ。だから唯依は出発前に巌谷から言われた言葉の意味を、良く理解出来ていなかった。
「良いか唯依、浦城少尉を決して一人で戦わせるようなことはするな。必ず君か、別に信用に足る冷静な衛士を共に出撃させるんだ。そうしなければ恐らく……上手くは言えないが、必ず酷い事態になる」
その言葉の意味を唯依が真に理解出来た時には、既に京介はドーゥルの言葉に乗せられてF-15Eストライク・イーグルを駆って出撃してしまっていた。現在アルゴス小隊は2on2による模擬戦の最中で、ペイント弾と模造刀を使用した
唯依からすれば主席開発衛士であるユウヤ・ブリッジスの実力を見れれば良かった事であり、既にその一部は確認済み。だがそれ以上の事も確認出来るというのであれば、断る必要性も無かった。京介もまたACTVに興味を持っていた事もあって、襲撃役を快く引き受けた。勿論唯依は京介にやり過ぎないように釘を刺しておいたが、それが意味の無いことであったというのは、現在司令室に響き渡るアルゴス小隊の混乱によって証明されていた。
《クソッ、一体何なんだこいつは!》
《アルゴス2、タリサ! またケツにつかれてるぞ!》
《何なんだよこいつ!? こっちはACTVだっつーのに!》
《CP! こちらアルゴス4! 一体どうなっているの!?》
次々と響き渡るアルゴス小隊の声に、ドーゥルは答えない。彼のその力強い眼はただジッと戦況を示すモニターを凝視していて、そのモニターには一機の戦術機に振り回されるアルゴス小隊の反応が示されていた。
もう何度
「こんの------誰なんだよ手前は! クッソー!」
《落ち着けアルゴス2! 俺がやる!》
ヘッドセット越しにタリサを宥めたのはアルゴス1、ユウヤ・ブリッジス。今日自分達と初めて顔を合わせたばかりの米軍のエリートだ。目の前の敵も気に入らなければ、このユウヤもタリサは気に入らなかった。後から参加したくせに行き成り主席開発衛士の座に着き、襲撃を受ける直前の演習でも自分とACTVを手玉にとり挙句引き分けに持ち込まれたのだ。直情的な性格の彼女にとって、ムキになる理由は十二分に揃っている。
「うっせー! こいつはアタシの獲物だ! 邪魔すんな!」
《よせタリサ! こっちは演習終わりで消耗してるんだ、あんな無茶な機動に合わせたら------》
「VGは黙ってろ! こんな奴アタシが------ガッ!?」
刹那、ACTVのカメラ・アイを通してタリサの視界に映し出されたのは、迫り来るF-15Eの膝だった。直後襲い来る激しい衝撃に身体を揺さぶられ、タリサとACTVはバランスを崩して地面に広がる仮想都市目掛けて落下していく。だがタリサもまた修羅場を何度も潜り抜けた歴戦の衛士、すぐに卓越した操縦技術で機体を立て直す。跳躍ユニットを噴かして体勢を立て直し、必要最低限の機動で機体を地面と摺り合わせて着地する。余裕有りといった様子でタリサは鼻を鳴らして視界を上げると、ベチャッという音と共にその視界が赤く染まった。上空にはAMWS-21戦闘システム、米軍戦術機が使用する突撃砲を構えたF-15Eがいる。僅かに残った視界でその36mmを放つ銃口から大量のペイント弾が自分に向けて吐き出されるのを見て、タリサは大声で叫び上げた。その視界には損傷を受けた事を示す表示が浮かび上がり、タリサに跳躍ユニットの燃料切れと胴体及び頭部破損による大破を知らせるのだった。
タリサとACTVを仕留めたF-15Eは自身をロックオンする三機に気付くと、噴射降下を行いACTVへと接近した。それを追いかける三機のF-15Eは射撃を続けようとするも、タリサ機を盾にするようにして動く敵を狙うのに苦戦していた。その動きを目で追いかけていたユウヤ・ブリッジスは、残っているヴァレリオ・ジアコーザとステラ・ブレーメルに指示を飛ばす。
「アルゴス3! アルゴス4! 俺が奴を追いかける、二人は回り込んで挟み撃ちだ!」
《了解! ったく、タリサの奴一人で突っ走りやがって!》
《今はそんな事言ってる場合じゃないわよ、アルゴス3! 行くわよ!》
三機が同時に跳躍ユニットを噴かして加速すれば、謎のF-15Eが盾にしていた建物目掛けて一斉にペイント弾を放つ。赤い染料が建物を赤く染めていく中、両手に突撃砲を構えたF-15Eがユウヤ達に向けてペイント弾をばら撒きながら飛び出した。噴射跳躍を行い宙に舞った敵をユウヤは追いかけ、ジアコーザとステラもまた反対側から挟み撃ちにするべく跳躍ユニットを噴かす。
「これも歓迎会の一部だって言うのかよ! ふざけやがって!」
悪態をつきながらもユウヤの目は自機の前方を飛ぶ敵機を捉えており、時折威嚇射撃を通じて急激な方向転換をさせないようにしていた。三方向からの攻撃を加え退路を制限すれば、後は追い込めば仕留めるのは容易い。アラスカなどという辺境の地へと飛ばされた時点で、ユウヤは面白くなかった。更に言えば自身の境遇から憎悪の対象となっている日本と関わることも嫌だというのに、いきなりの演習で謎の機体の襲撃を受けたということもあって彼の怒りはピークに達している。ペイント弾を等間隔で放ち敵機を警戒していると、ユウヤの
「っ!」
直後、前方を飛行していたF-15Eが突然急制動を掛ける。急停止した敵との衝突を避ける為にユウヤが操縦桿を捻って自身のF-15Eを動かすと、背後に目を向けたユウヤの視界の中で、急制動を掛けたF-15Eはそのまま落下中にも関わらず両手に持った突撃砲を彼に向けていた。放たれるペイント弾の雨をユウヤは急旋回を行い避けてみせるが、その中の一発が左手に当たった事で彼の視界に左腕兵装使用不可の表示が浮かび上がる。
「クソッ!」
使用出来なくなった左腕を諦めて右手の突撃砲を構えなおしたユウヤは、回り込んでいたヴァレリオとステラのF-15Eが一気に敵へ肉薄していくのを見て唇を噛み締めた。自分は一発喰らった挙句、止めは味方に持っていかれる。面白くはなかった。だがそのユウヤの前で、二機の攻撃に晒されたF-15Eは跳躍ユニットを噴かすと一気に降下し始めた。だが敵の高度は既に数百メートルという段階で、その状態で急降下などすればタイミングを誤れば即激突、中にいる衛士もタダではすまない。ペイント弾の雨に追い掛けられているそのF-15Eは地面スレスレまで降下すると------そのまま反転全力噴射を行い、無理矢理機体を立て直した。地面に激突せずとも下手をすれば機体が持たずにバラバラになるかもしれない、危険な操縦だ。
「何なんだアイツは!」
謎のF-15Eはヴァレリオとステラの追撃を受けながらも、その両手の突撃砲で反撃を続けている。双方共に機体の幾つかに被弾し、謎のF-15EはタリサのACTVに喰らわせて拉げていた左膝のウェポンコンテナをパージしていた。ユウヤはすぐに上空から敵を追い掛けるも、既にステラのF-15Eが胴体にペイント弾を受け離脱。ヴァレリオのF-15Eも、跳躍ユニットの火が時折消えかけていた。
「アルゴス3! もう少しだけ敵の注意を引いてくれ! 俺が仕留める!」
《今度こそ頼むぜトップガン! っと------やられた!》
ヴァレリオのF-15Eが跳躍ユニットにペイント弾を受けて緊急着陸を行うと、ユウヤは既に真下に敵機を捉えていた。右手の突撃砲のトリガーを引き絞り、獲物を赤く染めようとペイント弾が吐き出されていく。刹那、敵のF-15Eの跳躍ユニットが噴き飛んだ。既にペイント弾を受けた左側だったが、それによってバランスを崩した機体はそのままビルに激突。尚も勢い止まらぬF-15Eは腕や脚をぶつけながらも地面を転がり、コンクリートを滅茶苦茶にぶちまけながら胸部装甲を吹き飛ばしてその管制ユニットを吐き出した。エアクッションに包まれた管制ユニットはビルに激突した後地面へと落下し、そして上下逆のまま停止する。衛士を失ったF-15Eは仰向けにその手足を投げ出し、虚空を見つめていた。
呆気ない幕引きに呆然としていたユウヤの視界がF-15Eから脱出した管制ユニットに向けられると、そのハッチは何時の間にか開かれていた。F-15Eのカメラ・アイがそこから出て来る一人の衛士を発見すると、ユウヤは謎の襲撃者の顔を見てやろうと映像を拡大した。無茶な操縦をする命知らずの馬鹿は一体どんな奴なのか、這い出してきた衛士を見た時、ユウヤは目を疑った。
「日本人……?」
自分達と同じデザインの強化装備に身を包んでいるのは、ユウヤとそう歳の変わらない青年だった。だがその黒髪や顔つきは、欧米人のものではない。自分の身体に流れる血の半分が同じその日本人を前に、ユウヤはただ呆然とするしかなかった。
《あー……痛》
その耳に聞きなれない言葉が響くと、ユウヤはすぐにその声があの衛士のものだと判断する。その衛士はユウヤのF-15Eを見上げると、わざとらしく肩を竦めて見せた。それが馬鹿にされているかのようで、ユウヤには我慢ならなかった。だがそれを止めたのは、ヴァレリオのF-15Eだった。肩を掴み、あの衛士は何処のどいつだと声を掛けてくるヴァレリオを適当にいなしつつも、ユウヤの目はその衛士を捉え続けている。何時の間にか機体を降りていたらしいタリサが、その衛士に対し何事か文句を付けている。通信を切っている所為かタリサの声は聞こえなかったが、それに答える衛士の声はハッキリとユウヤ達にも聞こえていた。
《戦闘中に余所見してっからあんな攻撃喰らうんだよ。こちとらACTVの機動性が楽しみで乱入したって言うのにさ。……あ? まあ確かに大したもんだったよ、何回もケツ取ったのにその度に無理矢理引き剥がされたんだからな。……俺が誰かって? 今更聞くのかよ、まあいいや。俺は------》
その衛士が自身の名前を答える前に、その場にいた全員の通信回線に一人の男が割り込んだ。司令室にいた、イブラヒム・ドーゥルだ。謎の衛士に襲撃された時から音信不通だった男に説明を求めたのは、タリサとユウヤだけでは無かった。ヴァレリオとステラもまた、この戦闘の意味を彼に問うている。だがその質問に関してドーゥルが答える事は無く、彼がアルゴス小隊に伝えたのは基地に戻り次第XFJ計画について説明するという一言だけであった。
アルゴス小隊とは別に基地に戻り、強化装備から軍服に着替えた京介を迎えたのは、何処か険しい表情を浮かべた唯依だった。腰に手を当て、何か言いたそうに京介の顔を見上げている。そんな唯依に対して、京介は頬を掻いて誤魔化した。
「いやあ、やっぱり開発衛士の集団ともなると違うな。ACTVの性能も体験出来たし、件のユウヤ・ブリッジスも中々------」
「少尉」
京介の言葉を遮って放たれた唯依の言葉は重く、まるでナイフのように京介の身体を貫く。その整った顔は笑みを浮かべているが、何処か強張っている。完全に怒らせてしまったと頬を掻き続けていた。だがその顔は、京介に早く返事をしろと迫っている。
「……はい」
「報告を、して、もらえるかな? 浦城少尉」
「あー……、借り物のF-15Eで演習直後のアルゴス小隊と戦闘を行い、三機を撃破。その後跳躍ユニットの損傷により
「……巌谷のおじ様が言っていた事が漸く分かった。腕は確かだが、それ以上に機体運用に関して重大な問題があるようだな。あんな機体がバラバラになりそうな機動を連続して行うなど、あれがF-15Eのような優れた機体で無ければどうなっていたことか……脱出出来たから良かったものの……全く。他所の機体を行き成り破壊してどうするのだ、少尉」
頭が痛そうにする唯依の前でバツが悪そうに視線を泳がせていた京介だったが、話題を何と変えようと口を開く。最もその内容がアルゴス小隊に関する事の時点で、あまり変わりはなかったが。
「ま、まあ何はともあれ、アルゴス小隊の面々に関しては色々分かったし、俺の御蔭で連中と接近し易くなったろうし、な? 早いとこ顔合わせして、ちゃちゃっと始めようぜ」
「きっと少尉が余計な問題をこれ以上起さなければ、XFJ計画もすんなりと上手く行くのだろうな。……はぁ」
大きなため息を一つついてから、唯依はもう良いと言わんばかりに歩き出した。これからアルゴス試験小隊の面々との顔合わせがあり、明日から本格的にXFJ計画についての活動が始まるのだ。最初の顔合わせこそある意味で成功し、ある意味で最悪だったかもしれないが、後は自分の手腕に掛かっている。そう意気込む唯依の背後で、京介は痛そうに脱出時にぶつけた脇腹を擦るのだった。自分の怪我のことで、一々余計な心配なぞ掛けていられない。そんな今更な事でも、京介にとっては重要なことだった。既に大きな
「……ところで、あれだけ派手にぶつかっておいて……その、怪我はしていないのか?」
「ああ、ギリギリ強化装備とエアクッションで賄いきれる衝撃だったから大丈夫だ」
「そうか、それなら良いが……。もう今日のような事は御免だぞ、心臓に悪い」
「了解しました、中尉殿。次からはなるべく気をつける所存であります」
「そうやってふざけるのも程々に頼むぞ。全く……馬鹿者」