Dirty Works~Piece of Story~ 作:空薬莢
道具はいつだって、使い手を裏切る気でいるかも知れないのだから――
二時間と少し経過した後。
俺が乗る装輪輸送車は灰色と、雪に彩られた場所に着く。
灰色――。
それは建築物の色であり、地面の色であり――雪が降っているのだから当然だが、空の色。
全てが堅実さと機能性のみを追求して造られ、外観的
つまりは、軍施設。その中でも、駐屯地と呼ばれる物だろう。
「……行くぞ」
サイドブレーキを上げ、完全に輸送車を停車させたグローム――いや、もう隊長と呼ぶべきか――は一言、そう言う。
「了解」
ドアを開く。
生地の厚い野戦服だというのに、寒い。
しかし、刺すような寒さが却って、気を引き締めさせるので良しとする。
ドアを閉め、灰と白の道を歩いて、先行する隊長に付いていく。
なし崩し的とはいえ、
まず、基本事項を早急に覚え、最低限の行動ができなければ。
歩きながら、周囲を確認。
ランニング中の兵士達。
突撃銃の射撃訓練に興じる者達。
それぞれが別部隊か、同部隊かは俺には分からない。
だが、おそらくあれら以上の事を自分に求められるのだろう、とは理解できる。
(……やるしか無いがな)
やれるだけの素地はあるらしいから。
「……やる気は充分のようだが、根を詰める必要は無い。……今は、だがな」
隊長の声。
周囲を観察していた事を不審に思ったのだろう。
「…………つまり戦闘中だけ、集中していれば良いという事ですか」
「……現状はそうだ。新入りなんてものは御荷物以外の何物でもない、というのはどこも同じ。……力量も解らん餓鬼を信用しろ、というのは無理があるだろう?」
……確かに。
信用は地道に築き上げるしかない。崩すのは楽だが。
と、思いつつ歩く事十数分後、
「……さて、着いたな」
隊長が大きな建物の前で立ち止まる。
見た感じ、航空機の
「ここが第17特殊強襲中隊用に充てられた格納庫兼兵舎。……その他の案件は中で話そう」
「了解」
建物に入る。
中も外観通りの、遊びの無い無骨な造り。
通常の家屋に求められる、一種の温かみは不用。機能性と実用性さえあれば良い。
と、いう事だな。
「……このまままっすぐ行けば、談話室だ」
隊長に続き、談話室ヘ。
もっとも、使い古されたコンテナや、使い物にならなくなったであろう、車両部品で造られた家具モドキで整えられた、簡素な場所だったが。
「お前ら、もう一人の新人を連れて来たぞ」
隊長は談話室内を見渡し、言う。
「……また、餓鬼かよ。……上は腐ってやがる」
即座に答えたのは、中央辺りのコンテナを椅子としていた、短く刈り込んだ銀髪の青年。
「それについては同意するが、口の聞き方を正せ、トゥラー」
「……チッ。了解、隊長」
トゥラーと呼ばれた青年は舌打ちし、再び俺を見る。
「……サイガ・トゥラー。一応、この部隊の副隊長をやってる。……足手纏いにだけはなるなよ」
嫌悪剥き出しの言葉。
よほど、餓鬼が嫌いらしい。……珍しくもないが。
「あらら……。ごめんねぇ、新人さん。副隊長、捻くれ者だからさ」
続いて、白みがかった金髪をボブカットにした、少女が苦笑しながら声を掛けてきた。
(……捻くれ者、か)
誰だって、捻くれてないか?
なんて考えを余所に、少女は言葉を紡ぐ。
「あ、私はナターシャ。ナターシャ・アルマ。階級は軍曹って事になってるけど、固くならなくて良いよ」
少女――ナターシャが手を差し出してくる。
握手しよう、という事か。
「……俺には、握手する価値は無い」
すげなく断る。
「……そっか。色々あったんだね」
若干、哀しそうな声で、ナターシャは言い、手を引っ込めた。
(……知ったように言うな)
だが、俺には最後の言葉が不快だった。
偽善者の決まり文句としか思えない。
ロクに他人の悩みを知らないくせに、知ったように頼んでもいない助言を押し付け、自己満足に浸るような奴らの戯言。
下手に同情されるぐらいなら、突き放される方がどんなに救済足り得るか。
「……へぇ~面白そうな人が来たなぁー」
奥の方から、のんびりとした少女の声。
よく見ると、手入れのなされていないが為に、酷い癖のついたであろう長い金髪を持つ小柄な少女がいる。
声の主はこの少女らしい。
「アーリヤ・ドミトーリだよ。よろしくね~新人君」
自己紹介をするなり、少女――アーリヤがコンテナに突っ伏し、寝息を立て始める。
「……はぁ。お前ら……今来た、この新入りがセルゲイ・モヴィークだ。上層部のお墨付きらしいが、それは置いておこう」
溜息を吐いて、俺の紹介を雑に行った隊長は、俺に向き直る。
「……お前の所属は第一小隊で、部隊長は俺。……メンバーは現在談話スペースにいる奴らと、お前を含む新入り二名他幾らかだが……もう一人の新入りがいないな」
「もう一人、ですか」
そう言えば、移動中も似たような事を言っていたな。
「そうだ。ソイツも上層部のお墨付きらしいが、何分手綱を握りづらい奴だったな。……トゥラー、奴がどこに行ったか解るか?」
「……知らねぇよ。静かな場所にでもいるんじゃねえか?」
「…………なるほどな。セルゲイ、格納庫に行ってこい。おそらく、そこにもう一人の新入りがいるだろうから、ここに引き摺って来てくれ」
「……了解」
今ので分かるのか、と思いながら俺は談話室を後にする。
数分後――
(……格納庫は…………ここか)
兵舎内の表示板を頼りに、格納庫に着く。
数台の装輪輸送車が停車する、ガレージに近い。
入口からは、人の姿は見えない。……輸送車の影にでもいるのだろうか。
(……違ったか)
五感が僅かな呼吸音を捉える。
その方向を見れば、一人の少女がいた。
やや長めの白髪、病的に白い肌。華奢な体躯。
表情は全く変わらず、たまに瞬きをする時に、瞳を閉じるだけ。
――人形じみている。
が、この少女が隊長の言う、もう一人の新入りなのだろう。
「…………仕事の時間?」
と、思った矢先に、少女が口を開く。
無味乾燥した、抑揚の無い声だった。
蒼い瞳が俺を見る。
「……違う?」
「あぁ、違う。談話スペースに来い、との事だ」
「…………そう」
少女が近付いてくる。
足音も小さい。
外見の目立つのに、気配自体は希薄。
(……何なんだ、コイツは)
余りにも少ない口数、変わらない無表情から得られる情報は極僅か。
……部隊が同じである以上、じきに分かるか。
今はそう結論付け、少女と共に談話室へと戻る。
その途中、俺も少女も終始無言。話す事が無いので当然だが。
談話室に入る。
「……来たか」
入室するなり、始めに掛けられたのは、隊長の声。
「第一小隊の主要メンバーはこのぐらいだ。……で、お前が今連れてきたのがノルシェ・リオート。……尚、新入り両名の階級は一等兵だ。……ここまで何か質問はあるか?」
「ありません」
「無い」
質問するに値する説明は無かったと思うが。
「……では、第17特殊強襲中隊を含む、諸々の説明に移る。…………まず、第17特殊強襲中隊についてだが、所属としては政府直轄であり、直接的な指揮権はエリアRos中央政府議会、ないしエリアRos正規軍総司令部が持っている。……まぁ、新入りのお前らには今は、これといって関係は無いが。……で、この部隊は政府直轄という都合上、独立的に作戦行動を行う事が多い。簡単に言えば、他部隊からの支援は期待するな、という事。それ故の優遇というべきか、兵装選択の自由度が高い。エリアGer製の兵装も支給されたりするしな。……確か、お前らに支給された兵装もエリアGer製だったか。……基本的には、兵装の優遇と任務の過酷さ以外は正規軍一般部隊とそうは変わらん。特殊な部隊規律も特には設けていない。……後は、コイツを渡すから自分で確認しておけ」
言葉を区切り、隊長は俺と少女――ノルシェに厚板状の携帯端末を手渡す。
カラーリングはオリーブドラフ。……形状的にも、耐久性と機能性のみを追求しているように見えた。
「……首に認識票は提げてるだろうが、この端末も認識票がわりにはなる。覚えておいて損は無いだろうな。……で、最後にもう一つ。……これは命令だ」
命令。
その言葉に、自然と背筋が伸びる。
「セルゲイ・モヴィーク一等兵、及びノルシェ・リオート一等兵の両名は暫くの間、二人一組で作戦行動を行う事、だそうだ。……上からの命令だな」
命令文であろう物を読み上げた隊長は苦笑し、
(……コイツと、か)
俺はノルシェを一瞥する。
この少女と俺を一緒に行動させる事に、どれほどの意味がある?
……末端は黙って役割に殉じていろ、という暗喩か。それとも、タチの悪い冗談か――
それはまだ、俺には分からない――
――はい、The Unhuman's Party第一話でした。
今編の最終的な結末は、本編でも僅かながら語られている為、なんとも言えない点はありますね。
……というか、相変わらずロクな兵士がいない。
まぁ、それがこの世界ですし。
今回はこの辺で。
拝読ありがとうございました――