※この作品はR-18です。

Dirty Works~Piece of Story~   作:空薬莢

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無知は罪、とはよく言うが、その罪を償うべく、知識を得る事は罪でないと言えるのか?

――答えは否だ。
探究とて、罪である。




無自覚な害、意味持つ教練

 

 

半年後――

一般的な会社で言えば、半年というのは一種の区切りだ。

研修が終わり、正社員として使われ始める頃合い……なのだが、俺がいる職場は違う。

正社員だろうが何だろうが、新兵は新兵でしかないし、実力を示す他に成り上がる手段は無い――というのは、何処も同じか。ただ、程度の違いはあるだろうが――――。

……そんな、下らない思案をしつつも、俺は外を睨む。

手に重機関銃の銃把。

今は帰投中であり、眼下警戒中。

……とはいえ、地上は平和なもの。

白と緑が彩る大地で、魔物共が互いを喰らい合う日常茶番時。

頭上を飛ぶ、輸送ヘリは眼中に無いらしい。

(まぁ、当然か)

旨味が少ないからな。

落とす苦労と、得られる肉の割合的に。

ともかく、弾薬を浪費せずに済むのは有り難い。

が、警戒の為に鋭敏化した五感が、余計な雑音を拾う。

「今日も大した事無かったな!」

「何が魔獣だ。あんなの犬っころじゃねぇか」

背後で騒ぐ、分隊隊員の声だ。

喧しい声に紛れて、咀嚼音が聞こえる辺り、どうやら、携行糧食を食っているらしい。

「って、どさくさに紛れて俺のパテ奪うな!」

「盗られる方が悪いんだ――ごふぉっ!?」

打撃音。

「盗られりゃ、奪い返す。……そうだろ、メドヴェーチ1-10?」

「…………」

話を振られたメドヴェーチ1-10――即ち、ノルシェの声は聴こえない。

答えるつもりは無いようだ。

「相変わらず、無視かよ」

「こういう場合はどうすんだ、メドヴェーチ1-9?」

必然的に話の矛先は俺へ。

狙撃手の事は観測手が一番分かっている、という事か?……短絡的だ。

「どうもできない」

アイツの事はよく分からない。まぁ、害は無いから良いけれど。

「けっ、使えねぇ観測手だ」

……ほざいてろ、前線至上主義の阿呆共が。

後方支援の重要性を軽んじる奴は後悔するぞ。

――という、怨嗟込みの思案を察知したのか、

「……止めといた方がいーよー、セルゲイ」

ドミトーリさんの声が響く。座席で不貞寝して筈だよな?

……この人もよく分からない。戦場での動きはおおよそ掴めてはいるので、まぁ…………いいか。

歳も階級も上だ。歯向かった所で不利益しかない。

「何もしませんよ」

視線を向けず、言葉だけを返す。

「本当にぃ~?」

「……五月蝿いぞ、お前ら。帰投中が一番危ない、気を抜くな」

……隊長の制止が入ったか。

気が弛みがち、という点では確かな事。

気を張っているのは操縦手と側面機銃手だけでいい、訳じゃない。

「メドヴェーチ1-5、1-9。異常は?」

「「ありません」」

だから報告は簡潔、警戒は密に。

「了解だ。操縦手、基地までどの程度かかる?」

「今の速度だと、30分ぐらい」

……30分か。長いな。

長いが、やりきれない程じゃない。むしろ、出来て当たり前。

「……メドヴェーチ1-9」

だが、当たり前の事ほど出来ないのも、世の常か?

「なんだ?1-10」

視線を向けず、聞き返す。

声で分かる。ノルシェだ。

「帰投後、射撃訓練に付き合って」

「断る」

即答。

「益はある。……観測手として……或いは、臨時の狙撃手として」

「…………そうか」

射撃技能は、当然ながらノルシェの方が上であり、盗める物は盗んでおくべきだ。

「話は後だ。眼下警戒に影響が出る」

今は会話すら邪魔になる。

そのぐらい、分かるだろ?

「…………10㎞以内に攻撃的意思を持つ生命体は存在しない。……だから、少しは肩の力を抜いていい」

「信憑性が無い。奥に戻っていろ」

「メドヴェーチ1-9の言う通りだ。戻れ、1-10」

「…………了解」

沈黙が長い事をみるに、不服だったらしい。

遠ざかる気配。

眼下の様子は特に変わらず。

事実、敵対勢力と遭遇する事無く、基地へと辿り着くのだった――

 

 

翌日――基地内 射撃訓練場

視界に映るは、標的の頭蓋。

照準線には重ねない。

飽くまで指標であり、弾道は必ずブレる。

(このぐらいか?)

調整。

発砲。

「及第点」

「……だろうと思ったよ」

照準器から目を離し、起き上がる。

伏射は意外と疲れるものだ。

安定こそするが、射角は狭い上に、移動への必要行程も多い事から、一度の失敗が命取りになりかねない。

故に感覚を研ぎ澄ましつつも、気配を消す必要がある。

……とはいえ、バレる時はバレる。対人戦でないならば、尚更。

「射撃場の距離2000程度ならば、半秒あれば充分」

…………基準値が普通に化物じゃないか?

「かつて、この国を苦しめた一人の狙撃手は『上達には鍛練あるのみ』と言った」

鍛練……か。

言った当人――即ち、あ(・)の(・)兵(・)士(・)――は論外だろう。尤も、あの時代は原始的(アナログ)な技術に於ける化物は掃いて捨てられる程いたのだが。

「……だけど、徐々にならせばいい。貴方の役割は観測と護衛だから」

「…………そうかい」

小銃を拾い、自嘲気味に返す。

少なくとも、失望しきってはいないようだ。

……ならば、役目を果たすか。

「馬鹿が5人。こっちに来るぞ」

「……そう」

いつもと変わらない返答。

お前が何とかすればいい、という事か?

(手間のかかる相棒だ)

視線を射撃場の入口へ。

歩いてくる一般兵士達。何れもが男性だ。

(……着崩した野戦服に、煙草の匂い。恐らくだが、女は全てが肉便器だと勘違いしている馬鹿共だな)

向き直り、見据える。

「見ろよ女だ…………が、邪魔な野郎がいやがる」

「野郎?ブチのめしゃ良いだけだろ。ありゃ、新入りのモヤシだ」

「お楽しみ前の準備運動だとしたら、物足りないがな」

……予想通り、目的はノルシェ。

俺はその為の障害物扱いか。

反吐が出る。

血煙に変えてやりたい所だが、そうすれば部隊全体に被害が出るな。

さて、どう切り抜けようか?

(……より正確に言えば、どうすれば穏便に奴らの糞みたいな自我を潰せるか、だが……)

あぁいう手前は変に自尊心が高い。精神的に潰すと、実力行使に出るだろうが……かといって、始めから実力行使は前途の通り、実害が確定する。

……ならば、正当防衛に持ち込めばいい分、精神的に潰す方が利口か。

結論が出たところで……衝撃。

思った以上に軽い。

訓練もマトモにしていないかのか?

「邪魔なんだよ、餓鬼がっ!」

警告も何も無く、実力行使。

「……先にやったな?」

殺られる覚悟があるようだ。

「あ?」

それは威嚇のつもりか?

頭も回らないか?

なら――その程度の人間は潰れても、問題ないな。

男の顔を掴み、

「ぐあっ!?」

地面へと叩き付ける。

鮮血と砕けた歯が飛び散り、青く腫れ上がる顔面。

追撃として、右腕を踏み砕いておく。

腕の一本ぐらいならば、死にはしない。問題はないだろう。

まずは一人。

「生憎とソイツには先約があるらしい。お引き取り願いますかね?」

二度目の警告を促す。

「糞が……どの面下げて……言いやがる」

が、連中は無視する。

頭に血が昇ったか?

単純な奴らだ。

「正当防衛だ。非はそっちにある」

「物分かりの悪い餓鬼に灸を据えよう」

「……やっぱり、こうなるか」

……少しは学習してくれよ。

アンタらのプライド的にも、入隊半年程度の若造に潰されるって時点で重傷だぞ?

(……でも)

そういう阿呆ならば、気兼ね無く潰せるというのも事実か。

軍上層部が阿呆を把握していないとは思えんし。

「後悔しても知りませんよ」

「ほざけ糞餓――ぐふっおっ!?」

馬鹿正直な打撃に対し、顎への膝蹴りを叩き込む。

顎の骨が砕ける音と、内出血で青く腫れる皮膚。

続けて腹を蹴り飛ばし、吹き飛ばす。

肋骨辺りが数本折れたであろう音が響くが、気にしない。死んでいないなら、充分。

二人目。

更に、蹴り飛ばした反動を利用して、横っ跳び。

別の男の髪を掴み、地面へと叩き付けつつ、顔面を摩り下ろす。

血と骨片がコンクリート上に撒き散らされ、三人目が沈黙。

残り二人。

(弱過ぎる……)

千切れた頭髪を投げ捨てる。

何故、除隊処分や再教育を受けないのか不思議な位だが……どうせ、コネや賄賂で見逃して貰っているような類だろう。

「テメェ……こんな事をして……どうなるか分かってるのか?」

「大体は」

答えつつ、突貫。

「ぐふっ!?」

勢いを全て載せた掌底を腹部に叩き込む。

「……まぁ、その通りはならないでしょうけどね」

嘆息気味に言い、追撃にアッパーカット。

先程の掌底と合わせて、肋骨と顎の骨が折れた男が吹き飛ばされ、自由落下した後に沈黙。

残り一人。

「このっ……!」

金属音。

得物を抜いたか。

長物は見えなかったから、拳銃の類。

「遅い」

男の懐に飛び込みつつ、確認すれば案の定――抜かれたのは拳銃。

勢いを載せた蹴りで拳銃を握る腕をヘシ折り、無防備な左頬に右フック。

呆気無く転倒する。

すかさず、左脚を踏み砕き、取り落とした拳銃を拾う。

(DN-38か)

旧制式採用のマグナムオートじゃないか。

……悪くはない銃だが、こういう手合には過ぎた玩具だろう。

「まだやりますか?……死人が出るかも知れませんが」

「何なんだ、テメェ…………」

「……質問に答えてください」

撃鉄を起こす。

「……餓鬼の……分――ぐぁっ!?」

「答えろよ」

右脚を踏む。ただし、骨を砕かない程度に加減して。

「やるのか、やらないのか。……どちらですか?」

「わ、分かったよ。俺達の負けだ!だからこれ以上は止めてくれっ!!」

「……始めからそう言えば良いのに」

男の上から退き、《DN-38》を投げ捨てる。

勿論、弾倉と薬室内の弾薬を抜いて。

「……戻ろうか」

「……」

そして、首肯するノルシェを連れて射撃場を後にする。

 

 

数分後――

「ヤッホー、セルゲイ。派手にやったねぇ~」

兵舎談話室に入るなり、木箱に寝転んだアーリアさんが言う。

「派手に?何をしたんですか?」

すぐに反応するのはナターシャさん。

どうも純粋というか、正義感に駆られている気があるこの人に話すのは避けたい。

おそらくだが、規律やらについての小言が始まるから。

復習、という意味では有意義だが、過ぎたる復習はただの苦痛であり、時間の浪費に過ぎないと思う。

「ゴミ掃除だよー」

が、俺の思案なぞ知る筈も無いアーリアさんは至極簡潔に代弁。

何処かで見ていたのだろうか?

索敵がまだまだ甘いな……。

「ゴミ掃除?」

「…………深く考えないでください」

一応は、無駄な足掻きをしよう。

…………バレたら、その時は……その時だ。

とはいえ、悪い事は続くもの。

談話室の扉が開き、

「糞餓鬼共はいるか?」

副隊長が入ってくる。

糞餓鬼共……俺とノルシェの事か。

「……いやがったな。ちょっと面貸せ」

視線が俺達で止まり、言葉が続いたあたり、当たりらしい。

指示に従い、退室。

そのまま兵舎の外に行き着くと、副隊長は口を開く。

「……馬鹿共をヤったようだな」

「……除隊処分ですか?」

すぐさま質問。

教育的指導で済めば御の字とは思っていたが、そうはいかなったのだろう。

「いや、よくやったな。……あぁいう塵は掃除するもんだ。国の面子だかなんだか知らねぇが、塵掃除も禄に出来ねぇ上層部は糞食らえだ。……そうは思わねぇか?」

……お咎め無し……なのか?

いや、まだ油断は出来ない。

上げて落とされる可能性は十二分にある。

(……とはいえ、今の物言いは同意を求めているはずだ)

ならば、ここは話に乗るべきだ。

副隊長の言い分にも納得できるし。

よく考えなくても、部下の躾すら放棄するような上官には、従えない。……まぁ、お前が言うな、でもあるが。

「……一理ありますね」

「……」

ノルシェは無言の首肯。

「だろう?……これからは、そういう塵の掃除に躊躇しなくていい。ナターシャあたりが騒ぐだろうが、気にすんな。……俺が黙らせてやる」

「止めておけ、サイガ。ナターシャも軍上層部の無能さには辟易している。余計な事だ」

唐突に混じる隊長。

「隊長……」

「俺も同意見だ。馬鹿共にくれてやる薬など無い。躊躇無く、殺れ。……上も黙認するそうだ」

「……だ、そうだぜ。良かったな」

……そうですね、と手放しに喜ぶ事は出来ない。

なにしろ、人殺しが黙認される職場だと言われているのだから。

言い換えれば、出世の為に他者を踏み台どころか、礎にしても良いととるヤツが出て来かねない。

……屁理屈と規律の裏をとるようなヤツが。

そういうヤツは大抵、碌でなしでもある場合が多い。

「戻っていいですかね?」

「あぁ、構わない。……相方は既に行ったようだしな」

振り返る。

……本当にいない。

「……失礼します」

部屋を出て、廊下を歩く。

何なんだ、アイツは。

自分を語らず、相手の内面を探り――

警戒心が強いのか?

(まぁ、自分を語らないのはお互い様か)

知られたくない事は誰しもあるだろうし。

俺の場合は、秘密の重要さが違うだけで。

……もしかしたら、ノルシェ(アイツ)も……かもな。

余計な詮索は止めておこう。

危ない橋は渡るべきじゃない。……危なくないかもしれないが。

(俺にできる事は少ない。……その中で早急にやるべき事は…………アレか)

結論が出て、行き先を決める。

再び、射撃場へと。

俺にはまだ、修練が必要だ――

 

 

 




――以上、『無自覚な害、意味持つ教練』でした。
久し振りに、構想に悩んだ回です。
やっぱり、暴力沙汰は避けられないのが悲しい所。
……というか、こんな軍隊で大丈夫か?状態だと思った人は大多数でしょう。
しかし、Dirty Worksの世界観上、何処の軍隊もこんな感じです。エリアJpeとエリアU.S.辺りを除いてですが。

では、今回はこの辺で。
拝読ありがとうございました――
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