Dirty Works~Piece of Story~ 作:空薬莢
戦う事は愚かな事か?
愚かだという者は、命を愚かな物だと嗤っている。
即ち、生物の本質は争う事だ。
――家に帰るまでがなんとやら、とよく言われるらしい。
それが紛れも無い事実である事は、想像に難くない言葉。
(……家なんて無いけれど……っと)
バックステップ。
元いた位置に刺さる、矢。
見た感じ、麻酔弾だろうか?
誰が――と、思案する必要は無かった。
「おいおい……外してんじゃねぇよ、メドヴェーチ2-4」
「まさか避けるとは思わないですって」
約400m前方。ボルトアクション式狙撃銃を構える女性と、双眼鏡を持つ男性の姿。
声の主はこの二人で間違いないだろう。
二人の服装は灰色を基調とした物。所謂、《都市迷彩》と呼ばれるパターンの野戦服。
(……二人、か。で、射距離と精度を考えると向こうが圧倒的に有利。…………ま、正面切って殺り合うのは馬鹿だね。……回り込もっと)
物陰に隠れ、リュックを降ろす。
各部チェック。
問題無し。
背負い直し、腰に吊るナイフと拳銃も確認。
こちらも問題無し。
疾走。
瓦礫の間を縫い、跳び、跳ねるよう突き進む。
(向こうは本職。……バレている可能性は高い――けどっ!)
敵対するなら、脳味噌を抉り散らすだけ。
「ようこそ、嬢ちゃん。ねんねしなっ!!」
案の定と言うか、前方に件の男性。
手に散弾銃。
発砲。
瞬間、私は地を蹴り、三角跳びの要領で回避。
続けて、空中で身体を捻り――胴回し蹴り。
「くぉ……っ!」
防がれるが、ノックバックを誘発。
地面に手を着き、足払い。
男性は転倒。
体勢を整えつつ、ナイフを抜く。
後は首を掻き斬れば終わり。
勝利を確信し、刃を突き立てようと――腹部に衝撃。
「筋は悪くなそうだ……なっ!」
衝撃の原因は、突き立てられた散弾銃の銃口。
「ぐっ……あっ!?」
被弾。
内臓がかき混ぜられ、逆流した胃液と吐瀉物を撒き散らしながら、転倒。
「だが、油断が過ぎるぜ?」
再び腹部に銃口が突き付けられ、
「がっ!?」
一発。
「ぐっ!」
二発。
「ごっ!?」
三発。
速射。
内臓が躍り、私は嘔吐する。
「手こずらせやがってっ!生塵の分際でっ!!汚ぇゲロ吐く暇があったら――」
怒号混じりに振り上げられた散弾銃。
「さっさとねんねしなぁっ!!」
「ごひゅっ!?」
衝撃。
銃床で頭部を殴られたのだろう。
視界が歪む。
でも、意識はある。
「チッ……まだ意識があんのかよ。めんどくせぇ」
再び振り上げられた散弾銃。
「寝ろよ、生塵っ!!」
右腕に衝撃。
嫌な音がなり、激痛が神経を迸る。
「ぐっ……あぁぁあぁぁっ!?」
右腕骨折。
「喚くんじゃねぇっ!!」
続けて左腕、両脚の骨も砕かれてしまう。
「どうだ生塵ぃ……痛てぇだろ?さっさとねんねしねぇからだ……」
嫌味ったらしい男性の声。
額に突き付けられた銃口。
「今度こそ堕ちろよ、生塵?」
引鉄が引かれ、額に強烈な衝撃が突き刺さる。
血は出ない。
非殺傷弾薬。
認知しようにも、飛びかけた意識では厳しい。
「しぶてぇな!」
「がっ!?」
二発目。
何とか耐えると、
「クソッ!弾切れか」
憎々しげに吐き捨てた男性が散弾銃に弾薬を込めている。
今なら――
四肢骨折故に這う事しか出来ない。
でも、逃げる事ぐらいは出来る筈。
そう思った私の意識は、数瞬後に
――次に覚醒した時、私を出迎えたのは白い天井。
(……寝ていたのかな)
身体に感じるのは、やや硬い質感。
いつもの寝床ではない。
薬品臭い、清潔さが保たれた部屋。
寒くもなく、暑くもない適温。
ここは何処だろうか?
少なくても、廃墟街ではないだろう。
では、何処か?
…………思い当たる場所が無い。
誰かに聞いた方が早いか?
……いや、止めておこう。
他人は信用できない。
まずは起き上がる事からだ。
上体を起こそうとして、
「起きたか、嬢ちゃん」
唐突に響く声。
完全に上体を起こし、声の主を探す。
天井同様に白い壁。
白い床。
私の下には白いベッド。
白一色の中に、異質な存在はいた。
灰色を基調とした服装の巨漢。
これが、声の主だろう。
「ようこそ、病院へ。身体は大丈夫――」
「五月蠅い」
ベッドから出て、立ち上がる。
身体が軽い。
「五月蠅い、とはひでぇな」
軽い調子で戯れ言をほざく、目の前のゴミを殺す事くらいは、楽にできそうだ。
拳を握り込み、歩幅は一定。
岩を削り出した力士像の如き顔面を一瞥。
何かほざき続けているが、知った事か。目障りだ。
握り込んだ拳を、腕を引き絞る。
「待て、俺はお前の――」
解放。
上半身の捻りを加えた、コークスクリューを鳩尾へと叩き込む。
が、手応えは無かった。
「――敵じゃねぇ。……少しは落ち着こうか、嬢ちゃん?」
受け止められたから。
「っう!?」
そして、曲がらない方向へと手首を曲げられる。
激痛。
緩む握力。
「……取り敢えず、俺を殺したいのは分かるが、まずは話を聞け。分かったな?」
「……ぁっ!!あ゛だだだだっ!?分かった、分かったからっ!」
開放される。
痛みを訴える腕を擦りながら、少し距離を取る。
「お前はこれから軍属。正規軍 第100歩兵大隊――死ぬまで、クソ共をブチ殺せる場所だ。上からの命令はあるが、戦場に出ちまえば些細な事になる。ようは、指定されたクソから膓を引き摺り出して、ソーセージでも作っていれば、金が貰えるってわけだ。……良い仕事だろ?」
確かに。
命懸けではあるのだろうが、殺す事に対する罪や責任は無い。
咎められる事の無い殺戮。
魅力的と言えば、魅力的だ。金の為――でなくとも、殺す事に罪悪感は無いし。
だが――誰かの指図を受けるのは御免被る。
指示するだけで何もしないクソ共に尽くす気などあるものか。
「その顔、指図するだけのクソ共に従う気はねぇ……って所か。分かるぜ、その気持ち」
「知った風に言わないで」
「……だから、必要以上に口うるせぇクソは俺が黙らせてやる。……お前が所属する部隊の隊長は俺だからな」
……へぇ。
つまり、私の上は……この力士像か。
言動が癪に触るが、それほど嫌味は無さそう。
危害を加えないならば、考えてもいいか?
と、考えようとして止める。
何となく察したから。
私に拒否権は無いのだと。
死ぬつもりは無いが、折れた方が事は楽に進む。
ならば、折れた上で様子を窺おう。
「……で、ブチ殺すのは、目の前の糞?」
「やる気になるのは結構だが、ブチ殺す相手はお前の元同族や、化物共だ」
「……なるほど。塵掃除ってわけね」
「理解が早くて結構。軍服に着替えろ。俺は部屋の外で待っている」
言うや否や、灰色基調の衣装一式を投げ渡し、男は出ていく。
その背中を見届け、
「…………さて、始めよう!」
気合いを入れ、着替え始める。
私が私である事を忘れない為に。
着ていた衣を破り捨て、ズボンを穿く。
ジャケットの袖を半分程引き裂き、袖を通し――
ベッド脇に置かれた半長靴を履いて、準備完了。
じゃ、出よう。
向かうのは、部屋の出口ではなく、窓。
勢い良く解放。
鈍色の空。
皮膚を刺す寒気。
慣れ親しんだ、世界の感覚。
(う~ん……ざっと、三階分ちょっとの高さかぁ)
足場は…………うん。幾つかそれなりの縁がある。
充分、行ける!
窓枠に飛び乗り、身体の
解放しよう、とした所で――
「いい加減終わーー」
件の男性が入ってくる。
即座に交錯した視線。
振り払い、
「下で待ってる!」
「早まるなよっ!?」
バネを解放。
「ヒィッッヤッハァッッーー!!」
空へと身を投げ出す。
強まる寒気。
重力に引かれて落下する身体。
遠からず、私の身体は無意味な肉塊になるだろう。
……でも、恐怖は無い。出来る、と確信してやったのだから
「そぉーーらっ!」
二階の窓縁に着地。
再度、跳躍。
「ハハッ!」
身体が軽い。
楽しい。
何をされたのだろう?
一階の窓縁。
跳躍。
ま、いいか。今が楽しいんだ。
それで良いじゃん?
(……っと、後は地上に降りるだけ……)
最後だし、少し遊んでみようか?
取り敢えずは、何回か回ってみよう。縦回転で。
身体を捻りつつ、落下地点を確認。
「……調子に乗るなよ、小娘」
男がいた。
静かな怒りを顔に浮かべ、振り絞るは握り拳。
(……速いなぁ)
ぼんやりと思いつつも、行動は決まる。
男を蹴り飛ばす。
単純な事だ。捻りによる遠心力を加えた、縦回し蹴りを――
「コイツで、ちったぁ反省しやがれっ!!」
迫る拳。軌道はアッパーカット。
体勢調整。
狙いは首筋。
「ヤだね♪」
叩き込む。
が、
「甘ぇよ!」
防がれ、顔面を掴まれる。
「単調な動きじゃ、この先生き残れないぜ」
子供に教えるように言われ、降ろされた。実際に、私は子供なんだろうけど。
「……分かったか?分からなくても、行くぞ。ついてきな」
私の返答を聞かず、男は歩き出す。
(……拒否権は無いらしいね)
男の後を追う事にする。
行き先は――ヘリポートだった。
数分後――
男と共に輸送ヘリに乗り、目的地へと飛行していた。
「――さて、そろそろ第100歩兵大隊について話しておこう」
「別にいいよ」
「いいから聞け。…………病室でも話したと思うが、お前が所属する事になる第100歩兵大隊は、魔物という化物を狩る、同類で道を踏み外した阿呆を退場させる事だ。ま、分かりやすく言えば、“殺せ”と指示された奴を何がなんでもブチ殺すだけ。簡単だろ?」
「確かに」
殺す事が仕事っていう所は、私にとって都合が良い。慣れているから。
「とはいえ、この第100歩兵大隊って部隊は…………馬鹿ばっかりなんだ。元々、野良犬や野良猫、或いは野性動物みてぇな奴らに最低限の礼節と仲間意識を叩き込んだだけの存在。……俺も出来る限りの事はするが、自分の身は自分で守ってくれ」
……馬鹿ばっかり、ね。
これも慣れた事か。
“肉”が目当ての糞ばかりって思えばいいわけだし。
「他にも色々と説明しなきゃいけねぇ事はあるが、ソイツぁ着いてからでいいな?」
「いいよ」
今言われても、きっと忘れる。
「なら、そろそろ俺の名前を言っとくよ。……フリーグ・ハンツァ。階級は中佐。……次に、お前の名前を教えてくれ。……概要すら聴かされてねぇんだ」
「無いよ」
即答。
「……は?」
男――フリーグは、あんぐり口を開けたようだ。
「私みたいな境遇の餓鬼って、大概無名の筈だよ?」
「……あぁ、そうだな。……じゃ、自分で適当に付けてくれよ」
適当……って。
オジさんが適当に付けてくれればいいじゃん?
とは思うけど、そうもいかないのか。
仕方無く、思案。
浮かんだのは、原初の風景。
――朽ちたコンクリート壁、ひび割れたアスファルト、皮膚を貫く寒気。
そして何より、握り締めていた円筒形の物体。
表面に書かれていた文字は――
「………グラナデ・ヴェルファー」
自然と、口に出していた。
あの時は分からなかった言葉。
当然だ。異国の言葉だったのだから。
「グラナデ・ヴェルファー、ね。了解だ。今日からお前も兵士だ。早々くたばるなよ、ヴェルファー」
「…………どうなるかなんて知らないよ」
明日より今日。
今を生き延びる事しか考えられなかった私にとって、そのぐらいしか言える事は無かった――
――以上、取捨選択の理不尽~前編~でした。
中盤から一旦、執筆が停滞したのですが、某エロゲ(蒼〇な)を完クリしたテンションでキーボードを展開した結果が、本文後半の暴走です。
……やっぱり、グラナデちゃんはあぁじゃないと駄目ですね。斜め上にカッ飛ばないと。
皆が求めているグラナデちゃんは、そういう感じの筈。
今回はこの辺で。
拝読ありがとうございました――