Dirty Works~Piece of Story~ 作:空薬莢
が、そう思えないのも人間であり、無理矢理世界を従わせようとするものだ。
例え、その結果が破滅だとしても。
あれから一週間と数日後――
便利屋は《エリアRos正規軍 第3独立遊撃隊》へと改名された。
もっとも、それはセルゲイさん達の元雇い主らしい、エリアRos正規軍の上層部が便宜上付けただけらしい。一応は隊員になっている私にも関係ある話だが――いまいち、現実味が無い。
(ほんの少し前まで、ただの一般人だった私が急に徴兵とは、だよ……)
高等教育修了済みの浪人を徴兵する制度が成立して久しいけれど、こんな事になるとは……。
なんて、思いながら、今日も私は店のシフトに出る。
制服に着替えて、
未だに歪なままの笑顔を作り――フロアへ。
「おはようございます」
朝の挨拶。
答えるのは――
「よぉ、お勤めご苦労」
店長と――
「や、新入りさん♪」
淡い金髪を持った少女。
「おはようございます……店長……。と…………」
「フランキ。ライヒ・フランキだよ、天樹ちゃん」
「っ!……なんで……私の名前を……」
咄嗟に距離を取る。
戦闘体勢に入ろうとする身体。
だが、今の私に武装は無いし、徒手格闘の技能は学生時代から苦手だった。
「ありゃ……嫌われちゃっ――へぶっ!?」
おどけた調子で言う少女が、唐突に頭を掴まれた。
「コイツは敵じゃなくて、お前の先輩だ。……色々とブッ壊れてはいるが」
無論、少女の頭を掴んだのは店長。
「失礼なっ!?私は普通ですよ!」
「ギャングの肋骨を笑顔でヘシ折るような女の何処が普通だ。……そう思うだろ、天樹?」
話の矛先が再び私へ。
「確かに、普通では無いですけど…………
元軍人――つい最近、服役させられたとも言えなくはない――が、周りにたくさんいるのだから、聞き慣れた事。
「ソイツを言われりゃ、確かにコイツも普通か……って、世間話は後だ。開けるぞ」
時計を一瞥した店長が話を打ち切る。
「解りました」
「りょうかーい♪」
続けて私は台布巾を、
ライヒと名乗った少女は箒を片手に、各々が開店の為の準備に移る。
手早くカウンター席、テーブル席を拭き、雑巾へと持ち替えて窓も拭く。
その最中、ライヒが表を箒がけする光景を目にするが、やはり先輩というだけあってか、手慣れていた。
「……掃除は済んだか、天樹?」
背後から投げ掛けられる、店長の言葉。
サボりと思われたらしい。
「はい」
外の様子を眺めながらも、手は動いていた為、窓拭きも終わっていた。
「なら、仕込みを手伝え」
「……分かりました」
雑巾の後始末をし、私は厨房に入る――
数時間後、店は問題無く開店。
が、客足は芳しくない。
当然だ。
スラム近辺に店を構えている為、お客様の殆どが成金やギャングであり、そういった方々は往々にして紅茶や珈琲よりもアルコールを求める。
しかし、この店でアルコールが提供されるのは夕刻から早朝まで――つまり、カフェではなくバーとして営業している間だけだ。
昼間に来店するのは、金と娼婦目当てのならず者、純粋にお茶を楽しみに来る方、そして便利屋――現エリアRos 正規軍 第3独立遊撃隊のメンバー。
「……そろそろだな」
私の思案を他所に、店長は呟く。
……そろそろ?
時計を見る。
いつの間にやら、時刻は昼時20分前。
ごく普通の飲食店の稼ぎ時一歩手前だね。
つまり……セルゲイさん達が来るという事か。
(張り切らないとっ)
先輩達に醜態を見られたくないから、というわけでは無いが、店長からの評価には関わるだろうから。
「もうそんな時間かぁ~」
一方で、慣れているのだろう、ライヒはのんびりとした口調。
「……暴走するなよ、ライヒ」
「失敬な。あんなの暴走のうちに入りませんよ、店長」
……何の話だろう?暴走って?
なんて、思った矢先――
「一番乗り~♪」
勢い良くドアが開かれ、長い茶髪の少女――もとい、グラナデさんが来店。
「いらっしゃいませ、グラナデさん」
「様になって来たね♪」
決まりに文句は、笑顔で返された。
「……隊長。彼女の頭は大丈夫なのか?」
「あぁ。……普段はアレだが、戦闘においては信頼できる」
「…………本当に大丈夫なのか、この部隊は……」
続いて入ってきたのはセルゲイさんとミハイルさん。……に、ノルシェさん。
相変わらず、ノルシェさんの気配は希薄。外見は目立つはずなのに、何故だろう?
…………考えるだけ、無駄だろう。セルゲイさん曰く、ノルシェさんはそういう人らしいから。
「今日は何にしようかなぁ」
「……ある程度、決まってきたのでは?」
「軽食ぐらいで、いいかな……」
続けて入ってくるのはフィアさん、エイノさん、ノエルさんだった。
あれ、タボールさんとアランさんは?
と、思った矢先――
「タボールは来ないらしい。……ウチの馬鹿も、だが」
「そうか。……また、やらかしたか」
ミハイルさんと店長の話が洩れ聴こえた。
しかし、また?
アランさんは何をしたのだろう。
思案に耽りかけるが、
「……天樹、接客に移ってくれ。……ライヒが使い物にならん状態だ」
店長に促され、仕事に戻る。
手早く人数分のお冷とお絞りを用意し、配っていく。
その間、件のライヒさんはというと――
「苦しい……ライヒちゃん……ぐび、絞まってる……」
「はぁ……やっぱり抱き心地が最高……。これで歳上なんて信じられない……」
グラナデさんを背後から抱き締め、恍惚とした表情で頬擦りしていた。
(……なるほど。使い物にならない状態だ……)
ライヒさんの表情から察するに、彼女は同性愛者か……いや、単なるペドフィリア?どちらもあまり良い意味では無いし、一般にペドフィリアは13歳以下の小児への病的な愛情の事だった筈だから、外見はともかくとして、20歳であるグラナデさん相手ならば、定義外だ。
……どうでもいい事か。仕事の方が優先だよね。
「ご注文はお決まりですか?」
と、聞くと、
「「いつもの」」
「う~ん……ヤンソンの誘惑?……かな」
「ピーラッカ、で……」
すんなりと注文が済む人が4人。
しかし、
「……少し待って下さい。……グラナデさん、何を頼んでおきますか?」
まだ決まっていない二人がいた。
ミハイルさんにしては珍しい。グラナデさんは……この状況では仕方無……
「人肉……ミートパイ……」
……く、無かった。苦し紛れにではあるが、注文した。もっとも、人肉ミートパイなんてメニューはない。
「申し訳ありません。当店にそのようなメニューはございません♪」
笑顔で答える、ライヒさん。何故、笑顔?
「いや、残念ながら予約制で人肉ミートパイも取り扱っているぞ、ライヒ。……まぁ、グラナデちゃんはお得意さんだから、予約無しでも良いが……材料が無いんだ」
苦笑しながらも、店長はライヒさんを諭す。……いや、諭していない。
一方で、店長の言葉を聞いたグラナデさんが、背後から抱き付くライヒさんの腕を掴み、
「……な……ら……」
投げっぱなし背負投げで、床に叩き伏せる。
「この場で材料を作るっ!」
そして、ブーツからナイフを引き抜いて、逆手で握り、倒れたライヒさんの頸動脈へと振り下ろす。
「甘いよ、グラナデちゃん!」
白刃が頸動脈を斬り裂く事は無く、白刃取り。
「きゃうっ!?」
続けて腹部に蹴りを入れられて、グラナデさんが吹き飛ぶが、空中で体勢を立て直して着地。
二人とも体勢を立て直した時間は同じ。
臨戦態勢のまま、暫し膠着。
早くメニューを決めてほしいものだが、二人の殺気は、それを許さない。
(勘弁してください……)
強盗が入るのも嫌だが、給仕係とお客様の格闘戦も勘弁願いたい。
二人の膠着する時間が一分に達しようかとした時、
ドアが乱雑に蹴り開けられ、ポンプアクション式の散弾銃を携えたチンピラが雪崩れ込んで来る。
が、タイミングが悪かったと言える。
「ミートパイの原料……」
「戯れの邪魔をする下衆共……」
完全に据わった目で二人は言う。
いつの間にか、グラナデさんの手に9㎜短機関銃《JA BP-25》、ライヒさんの手には11.2㎜自動拳銃《JA DN-35》が握られていた。
合掌。
チンピラ達が夕陽は拝む事は無い。
「「表に出ろ、下衆共!」」
動き出した二人は最前列のチンピラの顔面に膝を叩き込み、ボウリングかビリヤードの如く、集団を纏めて店外へとフッ飛ばす。
続け様に、蹴り倒したチンピラの前頭葉に一射。
結果を確認せずに、残りのチンピラ共も正確に射殺していく中、
「……なぁ、セルゲイ」
「悪いが、フィアとノエルには出さないでくれ」
店長とセルゲイさんは察したように言う。
嫌な察しだ、とは思ったものの、その察しは外れる。
作られた人肉ミートパイは全て、グラナデさんが喰い尽くしたからだ――
――以上、Innocent Shooter 第二話でした。
もはや、何処が
しかも、わりかしノリノリで。……ヤバイなぁ。
あ、新キャラことライヒさんがレズなのは、当初から決まっていた事です。彼女の名前の元ネタはやはり、兵装関係。
ただし、二ヵ国混合の名前ですよ。……これもミリヲタはピンと来るでしょうが。
では、今回はこの辺で。
拝読ありがとうございました――