Dirty Works~Piece of Story~ 作:空薬莢
休める時に休め。
やれる時にやれ。
生など刹那でしか無いのだから――
The Guy's Holiday
昨日、エリアRos EI近郊で戦闘があったらしい。
確か、同地区には隊長と副隊長が出張った筈だから、ほぼ確実に彼らの戦果だろう。
日頃の戦闘を見る限り、負ける筈は無いし。
で、俺――エイノ――が何をしているかと言えば――
(『さぁ、飛び立て。地上の穢い絆など捨て置いて。本当の自由の為に。本当の絆の為に。生きていると実感する為に。……その為に僕らは飛ぶ。例え、僕達に翼が無かろうと、飛ぶ為に、歪な金属の棺桶に入ろうとも。……空の上では等しく無意味で、有意義。分からない者には、地を這う醜いアヒルの子も同じ。そう思うだろう?なぁ、相棒……』)
事務所の談話室で読書中だった。
因みに、本の題は『
多くの人は、読まない作品だ。……内容が小難しいからか?
(面白いのに……勿体無いな)
ページを捲る。
こういう本を読みそうなのは、セルゲイさんやノルシェさんぐらいだろうか?
アランやリベリは読みそうに無い。特に、
兎にも角にも、今日は読書に興じられるほど暇なのだ。
依頼自体は来たのだが、破壊大好きなお姫様と、単純バカ。それにお向かいさんの問題児が出撃した為、その他のメンバーは非番。
各々が自分の時間を過ごしている次第。
……だが、至福の時や予定、自由時間というのは潰される事が多い。
「邪魔するぞー」
雑な台詞と共に、談話室に入ってきたのはタボール。
横目で確認した後、読書再開。
「誰もいねぇのか――って、エイノだけか。……おい、エイノ」
声を掛けられる。
「何ですか、タボールさん。出来れば読書の邪魔をしないで頂きたいのですが?」
「それについてはわりぃと思ってる。……だけどよ、街まで行かねぇか?」
街……つまりは買い物だろうか?それならば、別に一人でも――
「一人でも良いんじゃないですか?」
俺を誘う必要性が無い。
「まぁな。……野郎じゃなくて、麗しの女性でも侍らせて行く方がよっぽど良いだろうが……俺達の身近に、デートに誘えるような女性がいるか?」
「……確かに」
脳裏に便利屋の女性陣を思い浮かべ、納得。
――思考回路の読めない副隊長。
――そもそもイカれきったヴェルファー。
――真面目過ぎて、気疲れしそうなリベリ。
――児童虐待で通報されかねない天樹ちゃん。
――ガレージに引き篭もりがちなノエルさん。
…………うん、
「かといって、居残り組の野郎の中でも――」
「……で、消去法で俺が残った、と」
「……あぁ」
……なるほど。
要約すれば、男二人旅に行かないか、という事か。
「何処に行く予定ですか?」
目的地次第では、一考の価値がありそうだ。
「何処って言われると…………酒場か銃砲店か?」
酒場は……女漁り目的かな?
で、銃砲店は…………俺にも行く価値はある。
新製品の確認だ。特に、JA社の。
「女漁りでしたら付き合いませんが、銃砲店に行くのでしたら、良いですよ」
「お、行く気になったか」
「えぇ」
栞を挟み、本を閉じる。
「準備してきますよ」
「武装を忘れんなよ―」
そして、お互いに準備する為、談話室を出た。
数分後――
俺は共用ガレージに向かい、シトゥイークと合流したのだが――
「……バイクで?」
「あぁ」
当のシトゥイークは、大型の側車付きバイクの近くにいた。
全体的に無骨な形状。
駆動する事、酷使される事を最優先した機構。
明らかに、軍用か、悪路用の種別。
「《WA'S ORS-35H》ってバイクだ。コイツはいいぜ」
「……目的地はLim-E市街地じゃないんですか?」
「通い慣れた場所も悪かねぇが、たまには別の店も回りてぇだろ?……ってなわけで!目的地はエリアRos Lim-SSEだ」
……Lim SSE。
隣街か。
「そうですね。……で、俺は側車に乗れば良いんですね?」
「あぁ。お前は大型自動二輪免許、取ってねぇしな」
……耳が痛い事実だ。今度、大型自動二輪車免許を取ろう。
人によってはどうでもいいような事を思いつつ、側車に座る。
「高速に入ったら、いつでも撃てるようにしておけよ?」
「分かってます」
最後通達のような確認の後、かかるエンジン。
「
急加速。
ガレージを出る同時に、ドリフト。
普通の人なら、苦情必至。
しかし、出だしだけで、市内は法定速度で通行。
心地良い風で、心を休める。
これから、一仕事するかも知れないから。
「なぁ、エイノ」
「何ですか?」
それは、互いに予想済みであり、大した問題ではない。
「音楽かけて良いか?……どうせ、
……確かに、ね。
アイツらは五月蠅い。余程の爆音で垂れ流さない限りは、問題無いだろう。……ましてや俺もシトゥイークも強化個体なのだから。
「……お好きにどうぞ」
「ありがとよ……って、IC過ぎてからだな」
苦い顔をするシトゥイーク。
約100m先に、料金所。
もう、か。
準備を始めよう。
側車内のホルダーに差していた、得物を確認。
――JA社製5.56㎜突撃銃《AB-42》と、同社製12ゲージ散弾銃《DR25》。
この二挺があれば大丈夫。
「お、今日はお前らか。また依頼なのか?」
「いや、男二人旅って所だ」
料金を支払いながらの世間話。
「そうか。なら、依頼をしておくか。……派手に
「事故は起こるさ、か?」
「まぁ、そんな所だな。……風になってきな!」
ゲート解放。
「
シトゥイークが俺の方を向き、言う。
「問題ありませんよ」
《BA42》を手に取り、ボルトリリース。
「……そのようだな」
オーディオが起動。
「
同時に、急発進。
エンジンが唸りを上げて、景色を置き去りにし、疾走。
体感だが、100は超えている筈だ。
次のスタンドまで燃料が足りるか?
「エイノ!早速来やがったぜ!!」
――心配している暇は無さそうだ。
振り返る。
「ヒャッハー!」
「バイクが一台!」
「乗員が野郎ってのは気に食わねぇがなぁ!!」
「まぁ、ブッ殺すだけだがな!」
「ハッ!違いねぇ!!」
無数のバイク。
いずれもが、無茶な改造を施された粗悪品。
アレが銃器ならば、俺は正気を失っているだろう。……それぐらい無茶で、阿呆で、矮小で、物を大事にしない手の入れよう。
シャール辺りは本気でブチ切れるな。
「出てこなければ良いのに」
手にした《AB-42》を構える。
ダッドサイトを装着しなかった事が悔やまれる。
アレなら、照準も楽なのに。
(……悔やんでもしょうがない)
トリガーに指を掛け、短く指切り。
数発の5.56㎜弾が撃ち出され、
着弾。
運転手の脇腹と左腕を抉り、バイクは横転。
後続車が何台か巻き込まれ、アスファルトに頭部を打ち付ける。
ヘルメットをしていないようだから、最悪死ぬな。
……自業自得だ。
(数年とはいえ、軍に身を置いたせいかな……。生と死に対して冷淡になりかけてる)
入りたくもなかった世界に無理矢理押し込まれ、適応した結果。
殺し殺されるのが自然の摂理。
歪まねば、生きていけないって事か。
「考え事は後にしろ、エイノ!野郎共が撃ち始めたぞ」
「了解」
返答し、奴等を一瞥。
(……歪まないと生きれないなら、俺がやれる事は――)
再照準。
トリガー。
着弾。
今度は右顎と首筋。
出血量からして、頸動脈をやったらしい。……数秒で絶命。
「腕を上げたな!だが、まだまだ奴等は――掴まってろ!」
「嬉しくない言葉で――うおぁっ!?」
唐突な急制動。
過去にいた位置を通過する7 62㎜ライフル弾。
振り落とされそうになりながらも、射撃し続けた《AB-42》のボルトが後退して止まる。
残弾無し。
「……やりやがったな」
空弾倉を抜き、投擲。
行く末は確認せずに、予備を装着。
ボルトコック。
初弾装填。
「うおぁっ!?」
っと、一台横転。
「邪魔するなっ!!」
で、仲間に銃殺と。
所詮は目的が同じだけの集まり。
結束力なんて無い。
「とはいえ、数が減らねぇな……」
「全くですね……」
ようやく飛来し始めた銃弾が描く射線を避けつつ、二人して呟く。
「纏めて片付けてぇな……。後ろのホルダーのヤツを使えよ」
「はい?……って、なんて物を積んでるんですかっ!?」
指示されたホルダーに収まっていたのは、JA社製の250㎜特殊擲弾射出器《PG-38》。
面制圧用のジャジャ馬だ。
「装弾は
「本気で殺る気じゃないですか!?」
中途半端な対人対装甲用弾薬とはいえ、非装甲車両相手には過剰だ。
「殺らなきゃ、殺られんのが、世界の法則だ!見ろよ!奴ら、TRGまで持ち出しやがって!」
「ちょっ!?それは洒落にならないっ!!」
こちらも非装甲車両。いかな低弾速の対装甲ロケット推進擲弾とはいえ、当たれば致命傷。
急いで《PG-38》を構え、安全装置解除。
トリガーに指を掛け。
「出て来なければっ!!」
発射。
弾き出された250㎜擲弾はバイクの群れへと向かい、
炸裂。
複数発の擲弾に分裂。
荒れ狂う擲弾の雨はバイクを呑み込み、黒煙の花を咲かせる。
黒き花の栄養は……命だった。
肥料が生物の肉で。
水は鮮血。
でも、花が咲くのは僅かな時間。
すぐに花は枯れ、天へと伸びる、黒き蔦へと変わる。
そして、蔓が種をつける事は無い。
「綺麗に咲いたもんだぜ。……だが、命の花ってのは…………醜いな」
「喩えが間違ってますよ、タボールさん。……アレは怨恨と無念の花。醜くて当然ですよ」
自分で言った台詞が痛い。
「……そうだな。じゃ、これ以上気分を害する前に、目的地へ向かうぜ」
力強くかかるアクセル。
「Давайте пойдем!!」
急加速し、俺達を乗せたバイクは疾走した。
数時間後――
「着いたぜ」
俺達はエリアRos Lim-SSE市内の銃砲店に着く。
(さて……。楽しませてくださいよ)
ヘルメットを置き、入店。
出迎える、数多の銃火器。
(CA、RG、FF……)
メーカーを流し見て、苛立つ。
エリアU.S.のヤツばかりだ。
昔から銃火器を振り回す事が自由の証であり、自分達が世界の正義だと吹聴してきた奴等の銃火器は好かない。
第一、あの国の銃火器は脆い。飽くまで、そこらの密造品よりマシ程度の信頼性。そんな物に命を預ける奴の気が知れない。
(……今度、リベリにもJA社製散弾銃を薦めておこう)
なんて思いつつ、カウンターへ。
店主にクレームを入れなければ。
「店主。JA社の製品は置いてないのか?」
「あぁ。……彼処の製品を買うのはならず者ばかりなんでな。……テメェもならず者か?」
が、クレームに対する答えは質問と、隠す気もない殺意。
「……違いますよ」
怒りを抑えて、答える。
「…………」
暫く、店主と睨み合いが続く。
「…………そのようだな。半端者の眼じゃねぇ。悪かったな。治安の為に出来る事はしてぇんだ」
「そうですか」
一先ず、殺気が消えた事に安堵し、店主の前を去る。
理由が理由だ。密造品とはいえ、JA社製銃火器はならず者の玩具という認識が広まっているようだ。
腹立たしい。
「ひでぇ面だな、エイノ」
「…………目的は済みましたので、出ましょう」
「…………なるほど」
納得したシトゥイークと共に、退出。
バイクに乗り、街中をツーリング。
しかし、
「……クソッ、いい酒場がねぇ」
シトゥイークは不機嫌だ。
「…………どっちの意味でですか……」
良い酒場と断定する要素は一般的に、ストリッパーの質か、酒の質のどちらかだと思う。
シトゥイークが重要視するのは、おそらくストリッパーの質ではないだろうか。……というか、大抵の男はストリッパーの方が酒より好きだろう。
「アルコール的な意味だ」
そっちか。
「帰ろうぜ。やっぱり店長の酒が飲みてぇ」
「……そうですね」
お互いに、収穫を見込めないと悟り、ICへと向かう。
料金を払い、進入。
念の為、《AB-42》を構え、ボルトリリース。
「…………そう何度も戦いたくはねぇけどな」
起動したオーディオ。
急加速。
「ヒャッホーッ!!」
幾度も車線変更を繰り返し、トラックやら乗用車やらを追い抜く。
すると、後方から聴こえたクラクション。
横に並ぶ、大柄な車輌。
「余所者共。俺の庭で遊んでんじゃねぇよ」
「遊んでいるつもりは無いんだが?」
「黙れよ」
返答に答えず、向けられた騎兵銃。
(……零八式短歩兵鎗)
AB-40カービンモデルの密造品じゃねぇか。
反吐の出る物を出すんじゃねぇ。
「そして死ね」
引き絞られたトリガー。
吐き出される7.62㎜ライフル弾。
「危ねぇな……民間人に流れ弾が当たるだろう?」
だが、俺達には1発も当たっていない。
シトゥイークが速度を落として射線から離脱したのもあるが、相手側が突撃銃を片手撃ちしたからだ。
見た感じでは、ほぼ常人であったから、ライフルの片手保持自体が厳しく、射撃も安定する筈が無い。……ライフルを持った事がある奴ならば、理解していて当然の常識。
「……にしても、行きも帰りもお出迎えありかよ……」
「こっちとしては、いい迷惑ですね。……お代わりもあるみたいです」
俺は後方を一瞥し、言う。
懲りずに、ならず者共がリンチに来たのだ。……今度は車輌で。
「ハハハ…………厄日だぜ」
言葉とは裏腹に、シトゥイークの口元は緩んでいた。
「行きはエイノの任せちまったしなぁ……」
続く言葉と共に、シトゥイークが左手をハンドルから離す。
そして、サイドバックから、大柄な9㎜短機関銃《JA BP25》を抜いた。
「今度は俺も手伝うぜ……」
「……主導権を譲りますよ」
進んで引き金を引きたいわけじゃない。
「なら、運転できるか?」
「免許不携帯で塀の向こうに行くしかないじゃないですか……。俺が持ってるのは普通と大型特殊の履帯限定ですよ」
「だろ?……じゃ、行くぜ!!」
急加速。
件の車輌を追い抜く。
(……後続車輌は奴らのだけか)
トリガーに指を掛け、数射。
タイヤを撃ち抜く。
「オマケだ!取っときなっ!!」
続けて、シトゥイークが何かを後方に投擲。
一瞬だけ見えた、それは手榴弾――いや、書かれた文字が“
「一応、耳塞いでなっ!!」
再び急加速。
数秒後に、遥か後方で響く高音と高周波。
続く、複数の衝突音。
どうやら、盛大に
「……“事故は起こるさ”」
何処か遠くを見るようにシトゥイークは言い、
「…………えぇ……事故は……“事故は起こるさ”」
俺も同情するように呟いた。
割り切るしか無いんだ。
これは、依頼。
報酬の無い、依頼。
依頼という形に納得できないならば、こう言い換えよう。
これは……ボランティアだ……。
どうでもいいような思案を置き去りにバイクは進む。
その日、俺達が思った事は共通していた。
――休日だからといって、いつもと違う事をし過ぎると、ロクな事が起きない、という事。
言い換えれば、隊長がよく言う言葉通りというわけだ。
――世界は辛辣で無慈悲で、そして何より、人間の不幸が酒の肴だということだ……。
……以上、The Guy's Holidayでした。
何処が休日だ、というのが大半の人の思うことでしょう。
何故だろうか、日常が書けなくなっていました。……世界観が書かせないのか。
さて、軽い解説。
JA PB-38が随分とぶっ飛んだ火器じゃないのか、と思った方もいると思いますが、あれは歩兵携行型超短距離MIRVランチャーみたいなもので、威力はともかく、現実的には可能なものです。
それに、エリアRosは旧ソ連やロシアの事で、同国の兵器は特殊な弾薬を使うものが多いので、ある種、特徴としては間違ってもいません。
……では、推奨BGMについて。
今回は複数種類。それぞれタイミングが微妙に違います。
・Omnia Vanitas(IC通過後)
・Holocaust(同上)
・N.O.S(ガレージシーンから)
・FaV(同上)
・ClairsentiencER(IC通過後、タボール第3声後)
・ライダーズ・スピード(ガレージシーン、掛声と同時)
お好きな曲をどうぞ。尚、曲自体が分からない方は、活動報告に簡単に纏めておくので、参照してください。
では、今回はこの辺で。
拝読ありがとうございました。